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(4549) 栄研化学株式会社

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ブリッジレポート:(4549)栄研化学 2025年3月期第2四半期決算

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納富 継宣 社長

栄研化学株式会社(4549)

 

 

会社情報

市場

東証プライム市場

業種

医薬品(製造販売業)

代表取締役社長

納富 継宣

所在地

東京都台東区台東4-19-9 山口ビル7 

決算月

3月末日

HP

https://www.eiken.co.jp/

 

株式情報

株価

発行済株式数(期末)

時価総額

ROE(実)

売買単位

2,104円

38,541,438株

81,091百万円

5.6%

100株

DPS(予)

配当利回り(予)

EPS(予)

PER(予)

BPS(実)

PBR(実)

53.00円

2.5%

76.36円

27.6倍

1,328.79円

1.6倍

*株価は11/19終値。発行済株式数、DPS、EPS、BPSは25年3月期第2四半期決算短信より。ROEは前期実績。

 

業績推移

決算期

売上高

営業利益

経常利益

当期純利益

EPS

DPS

2021年3月(実)

38,667

6,612

6,808

5,044

136.65

41.00

2022年3月(実)

42,996

8,387

8,508

6,218

168.28

51.00

2023年3月(実)

43,271

7,457

7,568

5,736

155.17

51.00

2024年3月(実)

40,052

3,377

3,568

2,634

71.69

51.00

2025年3月(予)

40,200

3,210

3,270

2,620

76.36

53.00

*単位:円、百万円。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。

 

 

栄研化学株式会社の2025年3月期第2四半期決算概要、2025年3月期業績予想などをご紹介致します。

目次

今回のポイント
1.会社概要
2.2025年3月期第2四半期決算概要
3.2025年3月期業績予想
4.納富社長に聞く
5.今後の注目点
<参考1:「EIKEN ROAD MAP 2030」と新中期経営計画>
<参考2:コーポレートガバナンスについて>

 

今回のポイント

  • 25年3月期上期の売上高は前年同期比2.6%減の197億円。国内は新型コロナ遺伝子検査薬の需要減、海外は便潜血検査試薬の入札前の買い控えや在庫調整などの影響を受けた。営業利益は同27.1%減の15億円。高利益品目である新型コロナ検査試薬の売上減やLAMP法の特許料収入の減少などセールスミックスの変化に伴う粗利益率の低下と売上総利益減に加え、営業活動活発化に伴う経費、新研究棟稼働による償却費や委託研究費など販管費が同2.3%増加した。売上・利益ともに期初予想を下回った。

     

  • 上期実績を勘案し通期業績予想を下方修正した。25年3月期の売上高は前期並みの402億円、営業利益は前期比4.9%減少の32億円の予想。主力の便潜血検査用試薬に関して海外の買い控えは下期には解消すると見ている。国内では、郵送検診など新たな検査方法の浸透に時間を要している。遺伝子関連においては、ナイジェリアにおける結核検査薬(TB-LAMP)の大規模採用が継続するが、新型コロナ遺伝子検査薬の需要の減少分をカバーできない。安定的継続的な配当を行う基本方針の下、配当予想に変更は無い。配当は53.00円/株を予定。予想配当性向は69.4%。

     

  • 納富社長に25年3月期上期決算概要、ナノティス株式会社への戦略的出資、中期経営計画についての進捗や課題についてコメントを伺った。中期経営計画については、「引き続きトップラインの拡大、資本収益性の改善、研究開発の効率性向上などが課題と認識しており、事業ポートフォリオの再構築、海外事業の開拓、株価や中期業績目標と連動した役員報酬の検討などに取り組んでまいります。重点事業としては、特に当社の強みである「がん事業」について、FITを軸に幅を広げていきます。MINtS(Mutation Investigator using the Next-era Sequencer 次世代シーケンサーを用いた多遺伝子変異検索システム)を利用した製品の製造販売承認も取得できましたので、登録衛生検査所「栄研化学クリニカルラボラトリー」における受託検査事業も今期中にはスタートさせる計画です」とのことだ。

     

  • 上期実績の進捗率は売上高49.1%、営業利益48.8%と、例年に比べると若干ではあるが低水準となっている。便潜血検査用試薬の海外における入札前の買い控えは下期には解消すると会社側は見ている。第3四半期以降の動向に注目したい。

     

1.会社概要

臨床検査の内、免疫血清検査、微生物検査、生化学検査、尿検査、遺伝子検査など、人体から採取した試料(検体)を調べる臨床検査薬の総合メーカー。検査機器の開発・販売も行っている。
国内シェア60%以上の便潜血検査を始め、尿検査や微生物検査など他社にはない独自技術・ノウハウを利用した高シェア製品多数。また独自開発の遺伝子増幅技術「LAMP法」は世界的に高い評価を得ている。便潜血検査、尿検査とLAMP法などの独自技術を武器にグローバル企業への成長を目指している。

 

【1-1 沿革】

1939年、興亜化学工業(株)として創立し、家畜臓器を原料とした栄養食品および医薬品の製造販売を開始し、1949年には日本で初めて細菌検査用粉末培地(SS寒天培地)の製品化に成功。1961年に臨床検査部門を開設し、臨床検査薬の研究開発を開始した。
1989年には便潜血検査において世界初の全自動分析装置「OC-センサー」を発売。同分野における現在の圧倒的なポジショニング構築につながっていく。
その後も、尿検査用試薬や微生物検査用試薬など事業ドメインを拡大するとともに、1998年に新規遺伝子増幅技術LAMP法を開発。従来の検査法に比べ簡易・迅速・精確なLAMP法を用いた各種製品を上市している。
2005年には「FIND(Foundation for Innovative New Diagnostics)」とLAMP法を利用した結核の遺伝子迅速検査法の共同開発契約を締結したことを皮切りに、マラリア、HIV等の検査に関する共同開発を進める。
全世界で感染拡大が進む新型コロナウイルスに対しても、2020年3月にLAMP法を利用した新型コロナウイルス検出用試薬を発売した。
*LAMP法、FINDについては「1-6 特徴と強み④LAMP法の優位性」を参照

 

【1-2 経営理念】

*経営理念:「ヘルスケアを通じて人々の健康を守ります。」
*経営ビジョン:「EIKENグループは、人々の健康を守るために、検査のパイオニアとしてお客様に信頼される製品サービスを提供し、企業価値の向上を図ります。」
*モットー:「品質で信頼され、技術で発展する“EIKEN”」

 

これらを中心に各ステークホルダーへの考え方として、EIKEN WAYを策定している。


(同社資料より)

【1-3 市場環境】

<国内市場>
臨床検査薬市場は、新型コロナウイルス検査薬関連の売上増の影響が残り、2023年度で約5,764億円、研究用試薬と検査用機器を含めると約9,333億円(一般社団法人日本臨床検査薬協会調査。栄研化学提供データ)となっている。行政は増大している医療費を抑制するために特定健診(メタボ健診)やがん検診の受診率向上やOTC検査薬(薬局で購入できる検査薬)の規制緩和といった予防医療に力を入れており、今後、高齢化の進展と共に臨床検査数(検体数)の増加が見込まれる。

 

一方でマイナス面としては、価格競争による単価の低下、診療報酬改定(引き下げ)及び長期的には少子化による人口減少がある。ただ、診療報酬改定の対象である保険(検体検査実施料)の推移を見ると、1997年から2006年までの期間に約4割引き下げられたものの、その後はほぼ横ばいないし微減となっている(2022年度検体検査実施料 -1.14%)。これは同社を含めた業界全体として予防、検査の重要性を働きかけた結果という事で、新型コロナの影響を除けば中期的には国内市場は年率2%程度の微増傾向が続くと思われる。
前述の協会会員145(2023年4月時点)の内メーカーは約80社で、売上100億円以上の企業は15社程度となっており、大多数は中堅・中小企業という構造。臨床検査は検査項目が多岐にわたっているため企業ごとに得意とする分野が異なり、企業間での棲み分けが出来ている。そのため、他社から原料・製品を仕入れて製造・販売するといった業務提携が多く見られる。また、そうした棲み分けが出来ている中、市場は小幅ながらも拡大しているため、明確な淘汰は現在のところ起きていないということだ。

 

<海外市場>
世界の体外診断用医薬品市場規模は2023年に779億USDといわれており、地域別市場シェアは米国42.3%、欧州26.6%、アジア23.1%などとなっている。(Horizon Databookによる栄研化学調査結果)
市場規模自体が国内市場の8倍超と巨大であると同時に、先進国では高齢化の進展に伴う検査数の増加、また新興国においては経済成長、所得増加に伴う医療ニーズの拡大などにより、年率3.9%以上と国内市場を大きく上回る成長が見込まれるため、国内企業は積極的にグローバル化を進めている。
ただ、グローバル市場においては、ロシュ、アボット、シーメンス、ダナハーなど世界的大企業がメインプレーヤーとなっており、日本企業が競争に勝ち抜くためには独自性のある製品・システムの開発など競争力強化が不可欠である。

 

<便潜血検査市場>
世界的な老年人口の増加や、がん有病率の上昇を背景に、がん診断関連の世界市場規模は拡大しており、がん診断市場は約1,243億ドル、うち大腸がん診断市場は約163億ドルで、便潜血検査市場は約1.7億ドル。
「コロナによる非接触検査のFIT普及加速」「内視鏡医師不足に伴う検査キャパシティ不足」「FITの医療経済性の高さへの評価」「新興国における健診(検診)の重要性認識向上」などに加え、先進国でもがん検診の対象年齢拡大の動きが更に活発化するものと見込まれており、便潜血検査市場は今後ますます拡大するものと見られる。

 

大腸スクリーニング検査を全世界47か国で展開し、既に世界で約7割のシェアを有する同社は、「豊富なエビデンス」「優れた採便容器の開発」「ヘモグロビンの安定性」「便潜血検査における高い精度管理」「豊富な経験で充実したサポートサービスの提供」といった優位性を有している。

 

今後も、「検診受診率の向上」「検査精度の向上」「新規スクリーニングの獲得」などの拡大戦略を推進するとともに、「大腸がんによる死亡リスク減少」「早期治療による医療費の抑制」「QOLの向上・健康寿命の延伸」といった価値創造により企業の社会的な存在意義を高めていく考えだ。

 

製品展開国数は、現在の47か国から2030年には57か国まで拡大させることを目指している。

 

【1-4 事業内容】

1.臨床検査とは
臨床検査には、レントゲン、CT、MRI、心電図、超音波など、医療機器を使用して体を直接調べる「生体検査」と、患者から採取した血液、尿・便、細胞などの生体試料(検体)を調べる「検体検査」がある。
同社が取り扱う臨床検査薬とは、検体検査に使用する試薬の事で、例えば感染症の検査や便に含まれる微量の血液の測定など、病気の診断をサポートするもの。これら試薬の大部分は体外診断用医薬品と呼ばれ、医薬品医療機器等法の規制を受け、試薬メーカーなどがPMDA(医薬品医療機器総合機構)に対し申請し、認可を受けたものである。ユーザーは、病院、医院、診療所、受託を受けて検査を行う検査センター、健診センター、保健所、衛生検査所など。

 

2.主力製品
主として以下の各検査用試薬や測定装置を製造・販売している。
同社は幅広い検査薬を取り扱うために、自社製品に加え他社製品の仕入販売も行っている。
主要な自社製品は、便潜血検査用試薬、微生物検査用試薬、免疫血清検査用試薬、尿検査用試薬、遺伝子検査用試薬など。自社製品と他社製品の売上比率は約60:40。粗利率は自社製品が約55%、他社製品が約35%。

 

製品名

売上高

売上構成比

便潜血検査用試薬

12,315

30.8%

免疫血清検査用試薬(便潜血検査を除く)

9,394

23.5%

尿検査用試薬

4,401

11.0%

微生物検査用試薬

4,312

10.8%

生化学検査用試薬

575

1.4%

器具・食品環境関連培地

1,961

4.9%

遺伝子(LAMP法)関連(機器含む)

2,625

6.6%

医療機器関連(遺伝子関連機器を除く)

4,464

11.2%

売上高合計

40,052

100.0%

*2024年3月期実績。単位:百万円

 

便潜血検査用試薬
大腸がんのスクリーニング検査として糞便中ヒトヘモグロビンを特異的に検出・測定する便潜血検査用試薬・採便容器を主力製品とし、グローバルに販売している。

 

免疫血清検査用試薬(便潜血検査を除く)
リウマチや炎症性疾患の診断及び胃がんリスク層別化検査(ABC分類)に使用する汎用自動分析装置用試薬「LZテスト‘栄研’」を始め、各種検査用試薬の開発、製造、販売を行っている。また東ソー(株)から、全自動エンザイムイムノアッセイ装置用試薬及び自動グリコヘモグロビン分析装置用試薬を導入・販売している。

 

尿検査用試薬
尿中の潜血、たんぱく質、ブドウ糖など多項目の検査が行える尿検査用試験紙「ウロペーパーⅢ‘栄研’」、全自動尿分析装置用には専用試験紙の「ウロペーパーαⅢ‘栄研’」などを開発・製造・販売している。
また、海外については、2017年よりシスメックスと業務提携し、販売を行っている。

 

微生物検査用試薬
同社は創立以来、感染症及び食中毒の予防を目的とし、生体試料や食品・環境の微生物検査用試薬を開発してきた。現在では、各種細菌検査用培地(増菌用培地、分離用培地、生物学的性状検査用培地、同定検査用培地)、薬剤感受性検査用試薬、迅速検査試薬など、微生物感染症の診断・治療に有用な各種検査用試薬を開発・製造・販売している。

 

生化学検査用試薬
生活習慣病との関連性が注目されている検査項目を中心に、血清や尿を検体とし生体成分を測定・分析する「エクディアXL ‘栄研’」シリーズなど、生化学検査用自動分析装置に対応する各種検査用試薬を開発・製造・販売している。

 

器具・食品環境関連培地
食中毒原因微生物の検査などの食品微生物検査用試薬や作業環境の汚染実態などを把握できる環境微生物検査用試薬及び検査用器具・器材の販売を行っている。

 

遺伝子(LAMP法)関連
同社は1998年、新規遺伝子増幅技術LAMP法を独自開発し、このLAMP法を利用した遺伝子検査用試薬を開発・製造・販売している。このLAMP法は、「簡易、迅速、精確」という特徴を有しており、今後の国内及びグローバル展開のための大きな武器となっている。(詳細は後述)

 

医療機器
各種自動分析装置を販売している。自社試薬を使用する専用装置は製造委託を行っている。便潜血測定装置「OCセンサー」は1989年の発売以来、技術革新と品質向上を重ねている。また、独自技術である画像処理システムを使用した尿自動分析装置「US」、臨床検査分野で世界初となる全自動生物化学発光免疫測定装置「BLEIA-1200」、LAMP法リアルタイム濁度測定装置「LoopampEXIA」などを取り揃えている。

 

3.販売体制
国内の販売体制は9営業部。学術部門が販売促進の支援を行っている。
2024年3月期の全従業員757名(連結)中、約320名が営業部門。
ユーザーである病院など医療機関向けチャネルに関する直接の販売先は医療系卸会社で、殆ど全ての卸会社と取引を行っている。

 

海外販売においては、基本的に1か国・1代理店体制をとっており、販売とメンテナンスを委託しており、本社の海外企画営業室が管理している。輸出先は約40ヵ国。米国、ドイツ、イタリア、スペイン、イングランド、フランス、オーストラリア、韓国、台湾が海外売上の大半を占めている。アムステルダム(オランダ)に欧州支店を有し、中国に関しては連結子会社「栄研生物科技(中国)有限公司」での生産・販売体制の強化を行っている。2023年11月には米国現地法人を設立し、直販体制の構築にも取り組んでいく考えだ。
2024年3月期の海外売上高は101億15百万円と初めて100億円台に達した。うち便潜血検査用試薬は59億72百万円。

 

【1-5 ROE分析】

 

14/3期

15/3期

16/3期

17/3期

18/3期

19/3期

20/3期

21/3期

22/3期

23/3期

24/3期

ROE(%)

8.3

8.3

8.9

10.0

8.3

10.3

9.9

12.9

14.3

12.1

5.6

売上高

当期純利益率

6.61

6.77

7.55

8.77

7.45

9.64

9.67

13.04

14.46

13.26

6.58

総資産

回転率

0.84

0.83

0.83

0.80

0.78

0.77

0.75

0.73

0.73

0.67

0.63

レバレッジ

1.50

1.47

1.42

1.43

1.43

1.38

1.36

1.35

1.36

1.36

1.35

*単位:%、回、倍

 

24/3期のROEは売上高当期純利益率の低下を主要因に、一般的に日本企業が目標とすべきとされる8%を下回った。継続的なROEの上昇・水準維持のためには、高付加価値製品の開発、新規事業・新規市場の創出及び原価率及び販管費率の低減による利益率及び生産性向上に加え、10年間で0.2ポイント低下している総資産回転率の改善も欠かせない。

 

【1-6 特徴と強み】

①高シェアの製品群
便潜血検査用試薬の国内シェアは68%でトップであるほか、尿検査用試薬で約29%(1位)、微生物検査用試薬で約14%(4位)等と他社にはない独自技術・ノウハウを利用した多くの自社製品において高いシェアを有している。同社が便潜血検査用試薬で高いシェアを獲得することができた背景としては、1987年に発売した目視判定法用の便潜血検査用試薬「OC-ヘモディア」が、競合品に比べユーザーニーズに合致した製品であったこと、1989年には測定原理に免疫法(ラテックス凝集法)を採用し世界初の全自動分析装置「OC-センサー」を発売したことがある。
また、便潜血検査は1992年に老人保健法の改正が行われ、大腸がん検診のスクリーニング検査法として公費で受診が可能(受診者負担が無料)になったのをきっかけに、普及が加速し競争が激しくなったが、同社は、機能を一新した「OC-センサーneo」を2001年に発売し、シェアを拡大してきた。

 

(同社資料より)

 

便潜血検査に関してはこの特徴を活かして海外展開を進めている。
日本で実施されている免疫法は、ヒトの血液のみに反応する試薬となっており、また、自動化装置による大量処理が可能である。

 

一方海外では化学法による古いタイプの試薬が使用されており、精度面に課題がある。2010年になりようやく欧州の検診ガイドラインで免疫法による自動装置測定が推奨され、大きな市場の変化が現れ始めた。
また、市場が最も大きいアメリカでも化学法が主流であるが、徐々に免疫法へのシフトが始まっており、USPSTF(米国予防医療特別委員会)の大腸がんスクリーニングに関する新ガイドラインが2016年6月に発行されたが、その中で従来の化学法ではなく免疫法が優れていると指摘されたことに加え、同社の便潜血検査製品『the OC FIT-CHEK family of FITs』が、高い感受性と特異性で最高の検査パフォーマンスを有していると評価された。さらにアジア、南米の先進国・新興国には未開拓な大きな市場が控えている。
便潜血検査市場は、ニッチな市場であるため、いち早く免疫法を開始した日本企業の技術が最も進んでおり、同社の試薬・装置がグローバルスタンダードとなっている。

 

②研究開発に注力
研究開発型企業として独自性のある技術の研究開発と、それをベースとした顧客ニーズに対応したオリジナル製品の開発に注力している。研究開発要員は約190名。
顧客の要望は医療のクオリティ向上。具体的には、高感度・高品質による疾患の鑑別精度の向上、検出率の改善といった点が挙げられる。加えて、使用法が簡便であれば医療従事者の負荷軽減につながるため、そうしたニーズへの対応も重要なポイントとなっている。
同社には、1939年の創業以来培ってきた試薬製造の独自技術が蓄積されており、またその試薬の性能を有効に活用するための装置に関しても、便潜血検査用装置や尿自動分析装置、生物化学発光免疫測定装置(BLEIA法)、遺伝子検査などで他社にはない独自技術が用いられている。

 

③アライアンス戦略による多品種・多分野展開
臨床検査薬はその対象、項目が多岐にわたり、開発・製造・販売のすべてを自社で手掛けることは困難である。同業他社の多くは自社の得意な技術・製品に絞っているが、同社は臨床検査薬の総合メーカーとして、収益構造の安定化をめざし、アライアンス戦略を通じて自社の有する強みの拡大、機能の補完、新技術の取得といったシナジー効果を追求しつつ、広範に取扱製品を揃え、医療機関を始めとした顧客、ユーザーのニーズに対応している。
多品種・多分野に展開しているもう一つの理由としては、経営理念「ヘルスケアを通じて人々の健康を守ります。」にあるように、国民の健康を守るという責務を達成するためには、幅広い臨床検査に対応することが企業としての社会的責任であるとの想いも根底にある。

 

④「LAMP法」の優位性
遺伝子検査の中の過程の一つである遺伝子増幅プロセスにおける現在の主流技術は「PCR法」と呼ばれるもの。これに対し同社は1998年「LAMP法」という独自技術を開発した。
「LAMP法」はPCR法と比較して、以下の様な優れた特徴を持ち、簡易で迅速に特異性の極めて高い遺伝子検査を行うことが出来るものである。

 

簡易

一定温度で増幅反応が進む。(PCR法は増幅に温度変化が必要)

迅速

増幅効率が高く30~60分で検出可能。(一般的なPCR法は2~3時間)。

精確

特異性が極めて高い。

 

現在、医療分野では、感染症検査である新型コロナウイルスや結核、マイコプラズマ(真正細菌の一属で、肺炎の原因となることもある。)、レジオネラ、百日咳等の検査に使われている。
同社はLAMP法の地位確立のため感染症検査に注力すると同時に、LAMP法の普及・認知度向上のために、畜産・水産、食品・環境など医療以外の分野での利用を推進しており、実際にLAMP法に基づく製品は2002年以降次々と実現している。
また同様の目的から、LAMP法陣営構築のために外部に対し積極的なライセンス許諾を行っている。

 

LAMP法を世界的に普及させるための中心的な取り組みの一つが、「FIND」とのアライアンスである。
「FIND」は「Foundation for Innovative New Diagnostics」のことで、2003年5月に開催された国連の世界保健会議の場で設立されたスイス政府認可の非営利財団。当初5年間、Bill & Melinda Gates Foundationからの助成金を受けて活動を本格化している。途上国における感染症撲滅のために、手頃な価格で、取り扱い易く、先進的な検査・診断方法を開発・導入する事を活動の目的としている。

 

FINDでは対象とする感染症として、結核、マラリア、アフリカ睡眠病などを挙げているが、このうち結核については途上国で実施されている顕微鏡検査(塗沫検査)よりも精度を向上させることを目的として、LAMP法による結核検査の共同研究が同社とFINDによって2005年7月より開始された。
途上国の現場でも利用できるように、前処理工程の簡略化(PURE法)、試薬保存方法の改良(室温保存)、装置の簡略化など、PCR法では実現できない改良が加えられた(TB-LAMP)。LAMP法を利用したこの製品は2011年に日本で既に販売となっている。その後、WHO(World Health Organization、世界保健機関)の推奨獲得のために、途上国14ヵ国での評価試験を終了し、WHOに資料を提出していたが、2016年8月、顕微鏡検査に代わる、あるいは顕微鏡検査を補強する検査としてWHOの推奨を取得することができた。
WHOが2017年11月に発表した世界の結核に関する報告書によれば、2016年の世界202カ国における結核の罹患患者数は1,040万人で、2014年の960万人から80万人増加し、死亡者数は170万人で、2014年の150万人から20万人増加したという。そのほとんどが未診断例や未治療例と見られ、「診断や治療へのアクセスが整備されていない国での対策強化が必要」としており、TB-LAMPの普及、浸透はこうした問題解決に大きく貢献するものと同社では考えている。
加えて、結核以外にも前述の疾病のほか、リーシュマニア症及びシャーガス病といったNTDs(顧みられない熱帯病)の検査薬に関して、FINDと共同開発を進めている。

 

同社ではLAMP法を利用した次世代の小型全自動遺伝子検査装置および多項目検査チップによる検査システム「Simprova(シンプローバ)」を開発した。ただ、装置の海外製造委託先における供給面の課題等から、製造を国内に変更し、発売に向けた準備を行っている。
本装置は、検体前処理(核酸抽出・精製)から増幅・検出までを全自動で行え、従来の高純度な核酸抽出・精製を行う装置と増幅・検出装置で合わせて2時間以上を要していた操作時間を、LAMP法の特徴を活かした独自プロトコルの開発により、1時間以内に短縮することが可能。まず、呼吸器感染症パネルの発売を開始、次いで抗酸菌症パネル、呼吸器ウイルスパネルの発売を予定し、順次検査項目を拡大する。
同社では、「Simprova(シンプローバ)」はLAMP法の普及を加速させるとともに、新たな市場を構築していく中でグローバルスタンダードとしての地位を確立させるものと期待している。

 

*遺伝子増幅法
遺伝子検査では、検体に含まれる目的の遺伝子量が極めてわずかなため、遺伝子を検出するためにはまず目的とする遺伝子を増幅させなければならず、遺伝子検査において最も重要なポイントが遺伝子増幅となる。

 

*アフリカ睡眠病
熱帯アフリカの風土病で、トリパノソーマという原虫がヒトに感染して引き起こす重大な熱帯病。ツェツェバエが媒介する。ヒトの血液中のトリパノソーマがツェツェバエに吸血され、その体内で発育、増殖し2~5週で終末トリパノソーマ型となって次の感染源となる。高熱、頭痛、嘔吐などをきたし、ひたすら眠るようになる。食事が摂れなくなるので痩せ、全身衰弱となり、多くは合併症を引き起こして死亡する。

 

*リーシュマニア症
リーシュマニアという原虫の感染によって引き起こされ、黒熱病といわれる内臓リーシュマニア症、皮膚と粘膜をおかすブラジルリーシュマニア症、皮膚をおかす熱帯リーシュマニア症があり、いずれも吸血昆虫、とくにサシチョウバエが媒介する。内臓リーシュマニア症は約3か月の潜伏期の後、高熱、発汗や下痢が生じ、1か月ぐらいすると肝臓と脾臓が腫れ、貧血が進み、放置すると衰弱し、半年から2年で死亡することもある。

 

*シャーガス病
米国南部や中南米において哺乳類吸血性であるオオサシガメ亜科のサシガメを媒介とする感染症。すぐには発病せず、一般的に30年ほどの潜伏期間がある。リンパ節、肝臓、脾臓などの腫脹、筋肉痛、心筋炎、心肥大、脳脊髄炎、心臓障害といった症状をもたらす。

 

【1-7 資本コストや株価を意識した経営への対応】

(1)現状分析
【1-5 ROE分析】で見られるように、同社のROEは前期まで8%以上を維持していたが、24年3月期はセールスミックスの変化により利益が減少して売上高当期純利益率が低下、ROEは5.6%と大きく下落した。
こうした状況を受け、PBRが1倍台前半まで低下した現状を踏まえ、現状評価を行い改善に向けた方針、具体的な取り組み等について取締役会にて協議を実施している。

 

(2)取り組み
①資本収益性の向上
財務健全性や事業成長性を総合的に判断した上で、「更なる企業価値の創造」を実現するため、資本収益性並びに現状のバランスシートの改善に向けた資本政策を実行する。

 

(同社資料より)

 

 

 

②株主還元
株主に対する利益還元を経営の最重要課題のひとつと位置づけたうえで、財務体質の強化と積極的な事業展開に必要な内部留保の充実を勘案し、安定した配当政策を実施することを基本方針としている。連結配当性向30%以上を目標としている。
24年3月期は大幅減益ながらも配当は51円/株と前年水準を維持したため、配当性向は71.1%であった。25年3月期は2円増配し53円/株、配当性向69.4%を予想している。
自己株式取得については、24年3月期は46億円を実施。中期経営計画最終年度の25年3月期においては、すでに2024年11月1日からの自己株式取得を公表し、今後も株価や資本効率性指標の推移を踏まえ、機動的な自己株式取得を検討する。

 

③キャッシュ・アロケーション
25年3月期は、営業CFと余剰資金を原資に、前述の株主還元のほか、成長投資として研究開発投資を実施。
設備投資としては、野木事業所における新製造棟の建設(総額65億円、25年3月期の支払予定額43億円)、環境対策関連、海外拠点設立準備などを予定している。

 

【1-8 サステナビリティ】

(1)マテリアリティの特定と目標・活動
分野別マテリアリティを特定し、「ありたい姿」「KPI」「方策と活動」を掲げている。

 

①医療
ありたい姿:世界中の人々の健康で豊かな生活への貢献
◎マテリアリティ:医療アクセス向上
2030年度KPI:製品展開国数 15か国
「方策と活動」
開発途上国への製品供給
・結核高負担国におけるTB-LAMPの普及定着を図る。
・アフリカ開発会議TCAD、日経・FT感染症会議など国際会議において発表を行う。
・産学官民とのパートナーシップを推進する。

 

◎マテリアリティ:医療課題の解決
2030年度KPI:大腸がんスクリーニング展開国数 57か国
「方策と活動」
グローバルでの医療課題の解決、先端技術開発とイノベーションの推進
・大腸がんスクリーニングへの同社製品の採用拡大
・採便容器緩衝液の安定性改良
・受診率向上に向けた啓発活動

 

<取り組み事例>
誰一人取り残さない結核検査体制の実現に向け、ナイジェリアにおいてTB-LAMPの大規模採用が行われた。
従来のプログラムでは、症状ベースで病院に来る患者のみを検査対象としていたが、今回のプログラムでは巡回健診により見逃されている結核患者の発見を行った。
ナイジェリアにおける継続採用が決まったほか、各国のグローバルファンド予算獲得への水平展開も進めていく。
世界的なNGOなどとの連携による更なるTB-LAMPの認知度向上・普及促進を図る。

 

 

②環境
ありたい姿:地球環境と調和した事業活動

 

◎マテリアリティ:気候変動への対応
「2030年度KPI」
Scope1+2:CO2排出量 56%削減 (2021年比)
Scope3 :CO2排出量 25%削減 (2022年比)
Scope1+2については、CO2排出量 30%削減 (2018年比) から削減量目標を上方修正している。

 

「方策と活動」
CO2排出量削減
・再生可能エネルギーの利用(工場・研究所に水力発電を採用。太陽光の自家発電、EV車の導入)
・SBT認定を取得

 

◎マテリアリティ:循環型社会への貢献
「2030年度KPI」
廃棄物 15%削減 (2018年比)
環境配慮型包装資材の採用率 30%
バイオマスプラスチック等資材の採用率 8%

 

「方策と活動」
廃棄物削減(包装資材の削減・再生可能資材の利用)
・廃プラスチックリサイクル(単一素材プラスチックの再生利用やその他廃プラの固形燃料、サーマルリサイクルへの活用を促進)
・製品包装の改良(製品ケースのサイズダウン、梱包仕様の見直しによる輸送効率の向上)

 

③社会
「人財戦略」
同社グループの未来は従業員が創り、従業員の可能性を拡げることが会社の成長と社会への貢献に繋がるものと考えている。
その方針のもと、「人を活かした活力ある企業」を目指している。多様性を尊重し受け入れ合える組織風土を育むとともに、 従業員の安全と健康に十分配慮し、従業員が付加価値の高い業務に集中できる環境を整えている。
また、すべての従業員が活躍を実感し、新たなイノベーションを創出する人財を育成している。

 

(2)統合報告書の発行
サステナビリティに対する考え方や取り組みについての情報発信力強化を目指し、2023年8月より統合報告書の発行を開始した。2024年8月に発行した最新号は、検査の未来を創り、世界の人々の健康と持続可能な社会の実現を目指し、ステークホルダーメッセージ、社会インパクト、事業戦略・経営資源等から構成されている。
https://www.eiken.co.jp/ir/integrated

 

(3)ESGインデックスへの組み入れ
GPIFが日本株投資にて採用する各種インデックスに選定された。
・ FTSE Blossom Japan Sector Relative Index
・ S&P/JPX カーボン・エフィシェント指数
・ Morningstar Japan ex-REIT Gender Diversity Tilt Index

 

(4)イニシアティブへの賛同・署名や第三者評価・認証
*医療分野
顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases)の制圧を目指す「キガリ宣言」に署名したほか、感染症制圧に向けて闘う国際的な官民ファンド「GHIT Fund」に賛同した。

 

*環境分野
TCFDに賛同した。
英国の慈善団体が管理する非政府組織で、投資家、企業、国家、地域、都市が自らの環境影響を管理するためのグローバルな情報開示システムを運営するCDPの気候変動に関する評価において「Bスコア」を取得した。
24年2月には、温室効果ガス排出量削減に対する国際認証であるSBT(Science Based Targets)認証を
取得した。

 

*社会分野
2024年、健康経営優良法人に5年連続で認定された。
子育てや家庭生活との両立をサポートする企業として「プラチナくるみん」に認定されたほか、女性活躍推進企業として「えるぼし」の3つ星認定を取得している。

 

*ガバナンス分野
内閣官房国土強靱化室より国土強靱化貢献団体としてレジリエンス認証された。

 

2.2025年3月期第2四半期決算概要

(1)連結業績概要

 

24/3期2Q

構成比

25/3期2Q

構成比

前年同期比

予想比

売上高

20,264

100.0%

19,729

100.0%

-2.6%

-8.2%

国内

15,030

74.2%

14,831

75.2%

-1.3%

-

海外

5,234

25.8%

4,898

24.8%

-6.4%

-

売上総利益

8,639

42.6%

8,207

41.6%

-5.0%

-

販管費

6,490

32.0%

6,640

33.7%

+2.3%

-

営業利益

2,148

10.6%

1,566

7.9%

-27.1%

-45.4%

経常利益

2,225

11.0%

1,698

8.6%

-23.7%

-40.0%

四半期純利益

1,618

8.0%

1,309

6.6%

-19.1%

-41.3%

*単位:百万円

 

減収減益、予想を下回る
売上高は前年同期比2.6%減の197億円。国内は新型コロナ遺伝子検査薬の需要減、海外は便潜血検査試薬の入札前の買い控えや在庫調整などの影響を受けた。
営業利益は同27.1%減の15億円。高利益品目である新型コロナ検査試薬の売上減やLAMP法の特許料収入の減少などセールスミックスの変化に伴う粗利益率の低下と売上総利益減に加え、営業活動活発化に伴う経費、新研究棟稼働による償却費や委託研究費など販管費が同2.3%増加した。
売上・利益ともに期初予想を下回った。

 

 

(2)製品別売上高

 

製品名

24/3期2Q

25/3期2Q

前年同期比

(a)

便潜血検査用試薬

6,700

6,613

-1.3%

(b)

免疫血清検査用試薬(便潜血検査を除く)

4,799

4,870

+1.5%

(c)

尿検査用試薬

2,064

2,293

+11.1%

(d)

微生物検査用試薬

2,131

2,194

+3.0%

(e)

生化学検査用試薬

295

295

+0.1%

(f)

器具・食品環境関連培地

987

1,001

+1.4%

(g)

遺伝子(LAMP法)関連(機器含む)

1,421

712

-49.9%

(h)

医療機器関連(遺伝子関連機器を除く)

1,863

1,748

-6.2%

 

売上高合計

20,264

19,729

-2.6%

*単位:百万円

 

 

○便潜血検査用試薬
国内は前年同期比2.4%増。海外は同5.2%減。国内は堅調であったが、海外において需要増加の要因はあるものの、次期入札に向けた買い控えや在庫調整などの影響もあり減収となった。

 

 

24/3期2Q

25/3期2Q

前年同期比

国内

3,439

3,522

+2.4%

海外

3,261

3,091

-5.2%

合計

6,700

6,613

-1.3%

*単位:百万円

 

 

○免疫血清検査用試薬(便潜血検査を除く)
HbA1cの採用施設増加により増収。

 

○尿検査用試薬
国内における新規獲得、海外向けの販売増の要因で順調に推移した。

 

〇微生物検査用試薬
新製品の迅速診断キット等が売上を伸ばし増収。

 

〇生化学検査用試薬
市場環境は厳しいが、前年並で推移。

 

○器具・食品環境関連培地
値上げの効果、国内需要の増加に伴う受注増により増収。

 

○遺伝子(LAMP法)関連(機器含む)
新型コロナ検査薬の需要が減少し、LAMP法特許料収入も前年同期の2億5百万円から1百万円へと想定を下回り減収。

 

○医療機器関連(遺伝子関連機器を除く)
医療関連施設の機器更新時期の影響により減収。

 

(3)海外動向

 

24/3期2Q

25/3期2Q

前年同期比

海外売上高

5,233

4,898

-6.4%

北米

1,119

1,243

+11.1%

欧州

2,067

1,616

-21.8%

アジア・オセアニア・その他

2,047

2,037

-0.5%

うち、OC

3,261

3,091

-5.2%

   その他

1,972

1,807

-8.4%

*単位:百万円

 

*欧州
減収。
便潜血検査用試薬はフランスやイングランドで次期入札に向けた買い控えがあった。入札時期の延期が決定し第2四半期(7‐9月)途中から買い控えは解消してきたが、第1四半期(4‐6月)でのマイナス分の回復には至らなかった。開発途上国向けの結核検査薬(TB-LAMP)の出荷時期が下期に偏ったこと等も影響した。

 

*米国
増収。
前期の便潜血検査用試薬における受注の期ずれが解消し、第2四半期(7‐9月)で大幅に回復した。

 

*アジア・他
減収。
アジアにおける便潜血検査用試薬の在庫調整等により減収となったが、シスメックス向け尿検査試薬は引き続き好調に推移した。シスメックスとの提携による海外向け尿検査用試薬売上はすべてアジア地域に含んでいる。

 

(4)財務状態とキャッシュ・フロー

◎主要BS

 

24年3月末

24年9月末

増減

 

24年3月末

24年9月末

増減

流動資産

37,851

33,951

-3,900

流動負債

11,351

11,922

+571

現預金

16,308

13,047

-3,261

買入債務

7,407

8,020

+613

売上債権

12,482

11,285

-1,197

固定負債

4,329

4,519

+190

たな卸資産

8,097

8,537

+440

社債

3,000

3,000

0

固定資産

23,799

28,866

+5,067

負債合計

15,680

16,442

+762

有形固定資産

17,005

20,748

+3,743

純資産

45,971

46,376

+405

無形固定資産

792

705

-87

利益剰余金

35,801

34,682

-1,119

投資その他の資産

6,001

7,412

+1,411

自己株式

-5,686

-4,084

+1,602

資産合計

61,651

62,818

+1,167

負債純資産合計

61,651

62,818

+1,167

*単位:百万円。買入債務には電子記録債務を含む。

 

現預金及び売上債権減少の一方で、新研究棟建設に伴う有形固定資産(建設仮勘定)の増加により資産合計は前期末比11億円増加の628億円。
買入債務の増加等で負債合計は同7億円増加の164億円。
純資産は利益剰余金の減少、自己株式の減少等で同4億円増加の463億円。
この結果、自己資本比率は前期末から0.7ポイント低下し73.3%となった。

 

(5)トピックス

①自己株式の取得
24年10月、資本政策の一環としての資本効率の向上及び株主還元のため自己株式の取得を行うと発表した。
取得上限は200万株、50億円。
取得期間は24年11月1日より25年7月31日。

 

②東京科学大学と包括連携協定を締結
24年9月、国立大学法人東京科学大学と、「がん及び感染症領域における革新的な臨床検査技術の開発」を目的とし、包括連携協定を締結した。

 

東京科学大学は、前身である東京医科歯科大学が培ってきた医療系総合大学として高い研究力や人材教育力を有しているほか、医歯学が融合する附属病院では、日々多くの検体検査を実施するとともに、患者の検体を預かり未来の革新的な治療・検査技術の開発に向けた研究開発に取り組んでいる。そこで、同社では東京科学大学との連携協定を通じて、がん及び感染症領域で未来の医療の実現に向けて連携することとした。治療法の開発には、診断・モニタリングのための検査技術が不可欠であり、新たな治療法を患者に届けるため、革新的な臨床検査技術の開発の実現に向け両社で取り組んでいく。

 

具体的には、東京科学大学のバイオリソースを活用し、がん及び感染症領域の検査技術開発に必要な検討を両社で実施することにより、患者の治療の早期介入や、治療効果のモニタリング法を確立し、革新的な医療提供の実現に寄与する。
また、東京科学大学では、臨床の診療科と連携して数多くの研究を実施しており、実臨床と強く連携した高い研究力を生かし、将来の革新的な検査技術開発を担う同社研究者の育成の場を設けるため、協議を進めていく予定である。

 

③東京大学発ベンチャー、ナノティス株式会社へ出資
24年10月、唾液による次世代の感染症デジタル検査デバイスの研究開発を行う東京大学発ベンチャー、ナノティス株式会社へ、Seed2ラウンド(B種優先株式)として、ナノティス社が2024年10月に発行した B 種優先株式のすべてを第三者割当増資により栄研化学が取得した。
同社初の戦略的投資となる。

 

(ナノティス社概要)
2016 年創業の東京大学発ベンチャーで、「感染症に怯えず暮らせる世界を創る」というミッションのもと、正確・迅速・簡単・安価なデジタル検査機器の研究開発を行っている。
特許取得済みのコア技術である「Nucleic Acid Navigated Optically Traceable Immuno Sensing」は、世界で初めて誘電泳動法による「濃縮」という概念を検出技術に融合した革新的な次世代のプラットフォーム技術。ナノティス社は 2022 年に実施した A 種優先株ラウンド以降、ラボレベルでの Proof-of-Concept (PoC)研究を進め、第一モデルウイルスであるインフルエンザウイルスの迅速検出に成功した。NANOTIS 法は感染症をはじめ生体粒子全般をスコープとする技術適応のポテンシャルを持つ。また、結果は即時集計が可能なため、将来は疾患サーベイランスや遠隔医療といったデジタルヘルスとの融合も期待されるプラットフォーム技術である。

 

(今後の取組み)
ナノティスをNANOTIS 法の研究開発ならびに実装に向けた強力なパートナーとして、すべての人がいつでも・どこでも利用可能な次世代の検査キットの製造販売を目指す。

 

両社の経営者は今回のアライアンスについて以下のようなコメントを発表している。

栄研化学株式会社

代表執行役社長 納富継宣氏

Nanotis 法は、従来の技術から考えると瞬時に判定までできる、POCT検査の常識を大きく覆すポテンシャルを秘めた技術になると評価しました。ナノティス様と共に、この具現化に向けしっかりと取り組んでいきます。

ナノティス株式会社

代表取締役 CEO, Founder 坂下理紗氏

臨床検査薬のリーディングカンパニーである栄研化学様よりご評価を頂き身の引き締まる思いです。期待される両社のシナジーをもってすれば、研究開発ならびに事業の具体化をさらに加速できるものと確信しています。

 

④『遺伝子解析プログラム MINtS Analyzer』及び『MINtS® 肺癌マルチ CDx ライブラリー調製試薬キット』の製造販売承認を取得
24年11月、『遺伝子解析プログラム MINtS Analyzer』および『MINtS® 肺癌マルチ CDx ライブラリー調製試薬キット』
の製造販売承認を 9 月 30 日、11 月 1 日にそれぞれ取得したと発表した。
これにより、同製品とイルミナ株式会社の一般医療機器 MiSeq®Dx システムを組み合わせて使用することで、非小細胞肺癌のコンパニオン診断として、EGFR 遺伝子変異、ALK 融合遺伝子、BRAF 遺伝子変異(V600E)の検出および抗悪性腫瘍薬の適応判定の補助が可能となる。

 

MINtS(Mutation Investigator using the Next-era Sequencer 次世代シーケンサーを用いた多遺伝子変異検索システム)は、2019 年より先進医療(先進医療技術名:細胞診検体を用いた遺伝子検査)として自治医科大学を中心に評価されてきた技術であり、その評価の傍ら、同社で製品化を進めてきた。
同技術は、先進医療 A(※) において「総合Ⅰ(※)」の科学的評価結果を得ている。
今後は、同製品の保険適用手続きと並行して、登録衛生検査所「栄研化学クリニカルラボラトリー」における同製品による受託検査実施の準備を進めていき、加えて、コンパニオン診断対象となる遺伝子変異追加の薬事申請に向けた準備を進め、引き続き、経営計画「EIKEN ROAD MAP 2030」の注力分野の一つである「がん」ビジネスを展開する考えだ。

 

※先進医療 A
厚生労働大臣に承認された高度な医療技術を用いた療法で、公的医療保険の対象とすべきか否かを評価する、厚生労働大臣が定める「評価療養」の 1 つ。このうち先進医療 A は、未承認の医薬品や医療機器の使用または適応外の使用を伴わない医療技術、未承認の体外診断薬や検査薬の使用または適応外の使用を伴う医療技術で、当該検査薬等の使用による人体への影響が極めて小さいものが分類される。
※総合Ⅰ
先進医療の科学的評価で、A〜D の 4 段階の評価のうち、審査者 3 名すべてが A または B の評価である技術に与えられる。総合Ⅰを最も高い評価とし、以下、Ⅱa、 Ⅱb、Ⅱc、Ⅲa、Ⅲb と続く。

 

3.2025年3月期業績予想

(1)連結業績予想

 

24/3期

構成比

25/3期(予)

構成比

前期比

修正率

進捗率

売上高

40,052

100.0%

40,200

100.0%

+0.4%

-6.7%

49.1%

国内

29,936

74.7%

29,420

73.2%

-1.7%

-4.4%

50.4%

海外

10,115

25.3%

10,780

26.8%

+6.6%

-12.5%

45.4%

売上総利益

16,723

41.8%

16,880

42.0%

+0.9%

-14.1%

48.6%

販管費

13,345

33.3%

13,670

34.0%

+2.4%

-2.2%

48.6%

営業利益

3,377

8.4%

3,210

8.0%

-4.9%

-43.3%

48.8%

経常利益

3,568

8.9%

3,270

8.1%

-8.4%

-41.8%

51.9%

当期純利益

2,634

6.6%

2,620

6.5%

-0.5%

-41.5%

50.0%

*単位:百万円

 

業績予想を下方修正、売上高は横ばい、減益を予想
上期実績を勘案し、通期業績予想を下方修正した。
売上高は前期並みの402億円、営業利益は前期比4.9%減少の32億円。
安定的継続的な配当を行う基本方針の下、配当予想に変更は無い。配当は53.00円/株を予定。予想配当性向は69.4%。

 

(2)製品別売上高の見通し

製品名

24/3期

25/3期(予)

前期比

修正率

進捗率

便潜血検査用試薬

12,315

12,690

+3.0%

-14.3%

52.1%

免疫血清検査用試薬(便潜血検査を除く)

9,394

9,500

+1.1%

-7.3%

51.3%

尿検査用試薬

4,401

4,735

+7.6%

+4.9%

48.4%

微生物検査用試薬

4,312

4,765

+10.5%

-0.7%

46.0%

生化学検査用試薬

575

580

+0.9%

-15.9%

50.9%

器具・食品環境関連培地

1,961

1,910

-2.6%

+11.4%

52.4%

遺伝子(LAMP法)関連(機器含む)

2,625

2,210

-15.8%

-22.7%

32.2%

医療機器関連(遺伝子関連機器を除く)

4,464

3,810

-14.7%

+9.6%

45.9%

売上高合計

40,052

40,200

+0.4%

-6.7%

49.1%

*単位:百万円

 

主力の便潜血検査用試薬に関して海外の買い控えは下期には解消すると見ている。国内では、郵送検診など新たな検査方法の浸透に時間を要している。
遺伝子関連においては、ナイジェリアにおける結核検査薬(TB-LAMP)の大規模採用が継続するが、新型コロナ遺伝子検査薬の需要の減少分をカバーできない。微生物検査はイムノクロマトの新製品(※)の売上増を見込んでいる。

 

※新製品:「イムノキャッチ® – Strep A」 「イムノキャッチ® – Adeno」
A群ベータ溶血性連鎖球菌(ストレプトA)抗原 、アデノウイルス を短時間で検出できる簡易キットの発売を24年1月に開始した。
1回の検体採取で『ストレプトAとアデノウイルス』2つの検査を行うことができるほか、痛みの少ないスポンジスワブ®を採用したため、患者への負担が軽減された。
検査現場においても、抽出操作が簡便なワンステップで済む。
2023年度、A群ベータ溶血性連鎖球菌による咽頭炎は過去10年で最多の感染が報告されており、着実な需要取り込みが期待される。

 

(3)次期中期経営計画の考え方/策定の進捗

次期中期経営計画(26年3月期~28年3月期)は「EIKEN Vision 2030」に向けた中間地点と位置づける。
中期的な経営課題としては、「事業戦略」においては海外事業の一段の開拓、直販体制の検討などを、「財務・資本収益性」においては、事業ポートフォリオの再構築、M&Aの検討、資本コストを意識した資本収益性の改善などを、「ガバナンス体制」においては、株価や中期業績目標と連動した役員報酬の検討などを必要な取り組みと認識している。
来年春の公表に向けて準備を進めている。

 

4.納富社長に聞く

納富社長に25年3月期上期決算概要、ナノティス株式会社への戦略的出資、中期経営計画についての進捗や課題についてコメントを伺った。

 

25年3月期上期決算についてコメントをお願いします。
25年3月期上期は前年同期比減収減益で売上・利益とも予想を下回るという結果となりました。
売上においては、国内における新型コロナ遺伝子検査薬の需要減少に加え、海外ではフランスとイギリスで便潜血検査試薬の入札前の買い控えや在庫調整が大きく影響しました。
海外営業は現地の代理店を通じて行っているため、情報収集が間接的となる点に課題があるのは否めません。今後は、代理店との関係構築をより密にしていく必要があると認識しています。
利益面に関しては、利益率の高い新型コロナ検査試薬の売上減やLAMP法の特許料収入の減少などセールスミックスの変化に伴う粗利益率の低下と売上総利益減が影響しました。
LAMP法の特許料収入については、地域ごとの基本特許の有効期限が順次終了を迎えています。直近ではアフリカで人口が最大のナイジェリアでTB-LAMP法を用いた結核検査を受注したように、LAMP法自体の有効性に変化はありませんが、特許料収入自体が再び大きく増加する可能性は低いと考えています。
ちなみに、ナイジェリアでの検査は年間100万テスト程度と見込まれ、日本国内や中国でも10万から20万テストですので、過去例を見ない大規模な検査となります。これを契機に他の諸国への広がりも期待しています。

 

 

今回、東京大学発ベンチャーのナノティス株式会社への戦略的出資を行いました。
ナノティス社の特許取得済みのコア技術を用いた次世代プラットフォーム技術「Nanotis 法」について御社では、「従来の技術から考えると瞬時に判定までできる、POCT検査の常識を大きく覆すポテンシャルを秘めた技術になると評価」したということですが、ナノティス社が株主として御社を選んだ背景、理由はどのような点なのでしょうか。
臨床検査薬の総合メーカーとして開発力と販売力を有していることに加え、実際に検査事業を手掛けている点です。
他に、大手化学メーカーや製薬メーカーからもお話はあったようですが、自社の製品を早くかつ確実に実現できるパートナーとして弊社を選んでいただきました。
基盤はほぼ出来上がっていますが、実用化にはもう少し改良、付加が必要な機能もありますので、早い段階でリリースするべく開発に注力していきます。

 

 

今期が最終年度となる中期経営計画について進捗や課題をお聞かせください。
引き続きトップラインの拡大、資本収益性の改善、研究開発の効率性向上などが課題と認識しており、事業ポートフォリオの再構築、海外事業の開拓、株価や中期業績目標と連動した役員報酬の検討などに取り組んでまいります。

 

重点事業としては、特に当社の強みである「がん事業」について、FITを軸に幅を広げていきます。
MINtS(Mutation Investigator using the Next-era Sequencer 次世代シーケンサーを用いた多遺伝子変異検索システム)を利用した製品の製造販売承認も取得できましたので、登録衛生検査所「栄研化学クリニカルラボラトリー」における受託検査事業も今期中にはスタートさせる計画です。

 

生産に関しては、新工場においては免疫関係の増産に加え、品質面での安定、効率的な生産体制を構築します。
また物流面も含め、グローバルな視点で最適化を進める必要があると考えています。

 

現時点では、「EIKEN ROAD MAP 2030」で掲げた、2031年3月期「売上高750億円、営業利益率20%以上、海外売上高比率40%以上、ROE15%以上」という目標に変更はありません。

 

 

(同社資料より)

 

5.今後の注目点

上期実績の進捗率は売上高49.1%、営業利益48.8%と、例年に比べると若干ではあるが低水準となっている。
便潜血検査用試薬の海外における入札前の買い控えは下期には解消すると会社側は見ている。第3四半期以降の動向に注目したい。

 

 

 

<参考1:「EIKEN ROAD MAP 2030」と中期経営計画>

事業を取り巻く環境変化に対応するとともに、サステナビリティ経営の視点を取り込むため、経営構想「EIKEN ROAD MAP 2019」を見直し、2030 年をゴールとして、新たに「EIKEN ROAD MAP 2030」として再定義した。加えて、ゴールに向けた最初の中期経営計画を策定した。

 

【1】前中期経営計画(2020年3月期-2022年3月期)の振り返り

売上高、営業利益とも最終年度2022年3月期目標を大幅に上回った。売上高は22期連続増収、営業利益は過去最高を更新した。
営業利益率は19.5%(目標13.7%)、ROEも14.3%(目標10%)と目標を上回った。

 

外部要因としては、「新型コロナ拡大による検診受診率低下、外来患者数減」はマイナス要因であったが、「新型コロナ検査関連製品の需要増」「LAMP法ライセンス収入の一時的な増加」「海外における便潜血検査のWeb/郵送検診の拡大」といったプラス要因が大きく寄与した。
内部要因としては、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う販管費予算の未消化が挙げられる。

 

 

基本戦略として、(1)経営効率を高めるための基盤整備、(2)グローバル展開の推進、(3)国内販売の維持とシェアアップ、(4)研究開発力の強化を掲げ、事業の成長と基盤強化を着実に進めたが、(1)においては「DXの推進、人事制度改革」、(2)においては「大腸がんスクリーニングの受診率の向上Web検診・郵送検診・内視鏡トリアージの需要掘り起こし、結核・マラリア検査の普及・定着」、(3)においては「健診・検診受診率向上、認知機能スクリーニング検査の市場定着と育成」、(4)においては「研究開発の効率化・迅速化、基盤技術・生産技術の強化、次世代大腸がんスクリーニング検査の開発」などが今後の課題と認識しており、さらなる成長に向けた変革が必要と考えている。

 

【2】EIKEN ROAD MAP 2030

上記のような認識のもと経営構想を「EIKEN ROAD MAP 2030」として再定義した。
2030 年の当社グループが目指す姿を「EIKEN Vision 2030」として明確化し、スローガンとして、「Beyond the Field ~ Team×Challenge ~」を掲げた。
従業員一人ひとりがそれぞれの能力を高め自らが活躍できる領域を広げて、その高めた個の力を、領域を超えて結集しチームでチャレンジすることで新しい可能性を生み出す。加えて、現在の事業領域から一歩踏み出し、医療のプロセスにイノベーションを起こし、検査の未来を創っていく。

 

 

(同社資料より)

 

(1)事業戦略:注力事業分野
現在の事業領域を中核事業としつつ、注力事業分野として「がんの予防・治療への貢献」「感染症撲滅・感染制御への貢献」「ヘルスケアに役立つ製品・サービスの提供」の 3 分野を設定している。

 

①がんの予防・治療への貢献
これまで検診事業(予防と早期発見)に注力し、特に大腸がんではスクリーニングプログラムをグローバルに構築し、早期発見により死亡率減少と医療費抑制に貢献してきた。
一方で、がんの治療には高額の医療費を必要とすることから適切な治療の選択が重要である。がんの予防・早期発見だけではなく、こうした医療課題に対しても対応すべく、治療薬の選択や治療効果の判定まで網羅した検査システムを開発し提供することによって、がんによる死亡率の更なる減少を目指す。

 

②感染症撲滅・感染制御への貢献
脅威となる感染症への対策として製品ラインアップを拡充し、グローバルでの結核やマラリアなど遺伝子検査システムを展開する。また、より簡易で誰でもどこでも使える迅速で精確な感染症診断システムを開発することで、医療アクセスの向上に寄与する。

 

③ヘルスケアに役立つ製品・サービスの提供
健康寿命の延伸に向けて、遠隔診療や在宅での検査の領域を広げ、モバイルヘルスへ発展させる。最終的には本人が意識しなくても健康状態を知らせてくれる暮らしに寄り添ったモニタリングシステムの開発を目指す。

 

(2)サステナビリティ経営の推進
「地球環境と調和した事業活動」「人を活かした活力ある企業」を経営戦略とし、サステナビリティ経営を推進する。
「人を活かした活力ある企業」となることが成長ドライバーであると考えている。
持続可能な社会の実現に向けて、優先的に取り組むべき 11のマテリアリティ(重要課題)を特定し、具体的な行動計画を開示した。社会課題の解決を通じて、さらなる企業価値の向上と持続可能な社会の実現につなげる。

 

(同社資料より)
マテリアリティとKPI詳細 https://www.eiken.co.jp/sustainability/eiken#03

 

(3)目標
①財務目標
2031年3月期の目標は「売上高750億円、営業利益率20%以上、海外売上高比率40%以上、ROE15%以上」としている。

 

②非財務目標
世界の人々の健康を守る企業として「医療」の課題、および「環境」・「社会」・「ガバナンス」の課題に取り組む。特定したマテリアリティについては、達成度を評価する指標(KPI)を設け、進捗状況をモニタリングする。また、KPI の達成度を評価し、執行役の業績評価と報酬に反映する。

 

マテリアリティとKPI詳細 https://www.eiken.co.jp/sustainability/eiken#03

 

(同社資料より)

 

【3】中期経営計画(2023 年 3 月期~2025 年 3 月期)

「EIKEN ROAD MAP 2030」に向けた最初の中期経営計画であり、3ヵ年の成長戦略。
「EIKEN ROAD MAP 2030」のビジョンに従って重点施策を設定し、加速する医療のパラダイムシフトに応えていく。
経営基盤の強化を進めるとともに、人財にフォーカスした経営を推進し、社員のやりがい・働きがいを高め、イノベーションを創出できる環境を整備し、持続的な成長と着実な収益性の向上を目指す。

 

(1)注力分野と重点施策
注力事業分野である「がんの予防・治療への貢献」「感染症撲滅・感染制御への貢献」「ヘルスケアに役立つ製品・サービスの提供」での重点施策は以下のとおり。

 

(同社資料より)

 

大腸がん検診分野では、検診受診率の向上に向け、郵送検診やオンライン検診を拡充し検査アクセスの向上を図る。また、次世代便潜血検査の開発にも取り組む。また、検査精度の向上のため、より初期状態のがんの検出や正診率の向上など検診の付加価値を向上させるほか、内視鏡検査対象者の絞り込みや患者負担の軽い検査の開発など、高精度な検査技術の開発を目指す。
また、がんにおける複数遺伝子異常を次世代シークエンサー(NGS)で一挙に検出する「包括的遺伝子変異検査システム」の開発にも注力する。結果報告までの時間が短く、高感度で多くの試料が必要ない同システムにより、新たな分子標的薬に対応した標的遺伝子の追加や多がん腫への適応拡大が期待され、血液検査によって多くのがん治療方針(分子標的薬)を決定することが可能となる。

 

(2)持続的成長に向けた経営基盤の確立
以下5つの取り組みにより経営基盤を一段と強化する。

 

①人財戦略
役割・専門性をより重視した賃金制度、従業員のチャレンジ志向を高める評価制度へ移行し、従業員のやり甲斐・働き甲斐を追求する。

 

②機構改革
顧客は「グローバル」の共通認識のもと、業務プロセスの最適化と意思決定スピードを意識した体制を整備する。

 

③IT戦略
AI・ロボットを積極的に導入・活用し、製品・サービス、研究開発、製造をはじめ、あらゆる業務プロセスで DX を推進し、DX人財の育成、DXの組織浸透を図る。

 

④財務・資本戦略
目標キャッシュ・コンバージョン・サイクルを設定し、事業投資のための資金効率の改善と資金調達の多様化を進めることで健全な財務基盤の維持と事業拡大のバランスを図りつつ、機動的・弾力的に投資を実施する。
研究開発、DX、働き方改革、設備増強など、3年間で累計284億円の戦略投資を計画している。
M&Aについては具体的な金額を設定せず、この金額以外に別枠で検討する。
株主還元を重要な経営課題と認識し、安定的・継続的に実施する。配当性向は30%以上を目安とする。

 

⑤ガバナンス
長期的な企業価値向上に資する健全な経営を目指し、ESG 施策を強化する。統合報告書の発行をはじめ、透明性の高い積極的な IR・PR を進める。

 

 

<参考2:コーポレートガバナンスについて>

◎組織形態、取締役、監査役の構成

組織形態

指名委員会等設置会社

取締役

8名、うち社外5名(うち女性1名)

指名委員会

3名、うち社外2名

報酬委員会

3名、うち社外2名

監査委員会

4名、うち社外3名(うち女性1名)

 

◎コーポレートガバナンス報告書
最終更新日:2024年6月27日

 

<基本的な考え方>
当社のコーポレートガバナンスの考え方は、経営理念、経営ビジョン、モットーを基本としております。
*経営理念
ヘルスケアを通じて人々の健康を守ります。
*経営ビジョン
EIKENグループは、人々の健康を守るため、検査のパイオニアとしてお客様に信頼される製品・サービスを提供し、企業価値の向上を図ります。
*モットー
品質で信頼され、技術で発展する“EIKEN”

 

当社は、経営の健全化、迅速化及び透明性を高め、企業価値の向上を図るためにも、株主の視点を重視したコーポレートガバナンスの充実を経営の重要課題の一つと認識し、その取り組みを行っております。
当社は、指名委員会等設置会社の体制を採用しており、経営の業務執行機能と監督機能を分離しております。経営の基本方針に係わる重要事項については、取締役会の審議を経て決定し、業務執行については、社内規則・規程に基づき、適正な指示命令系統のもと迅速かつ円滑に行っております。

 

<コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しない理由>
当社はコーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しております。

 

<コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示(抜粋)>

原則

開示内容

【原則1-3 資本政策の基本的な方針】

当社は、株主価値の維持向上を実現するために、資本効率の向上と持続的かつ安定的な株主還元を資本政策の基本方針としております。株主還元につきましては、財務体質の強化と積極的な事業展開に必要な内部留保の充実を勘案した上で、当社企業価値を向上するに資する政策の一つとして取締役会にて検討しております。

なお、支配権の変動や大規模な希薄化をもたらす資本政策(増資、MBO等を含む)を行う際には、取締役会において、その必要性と合理性について十分検討し、適正な手続きを確保いたします。また、株主・投資家への十分な説明に努めてまいります。

【原則1-4政策保有株式】

1.上場株式の政策保有に関する方針

当社は、営業活動の円滑な推進、取引関係維持、業務及び資本提携のため、合理性があると認める場合に限り、取引先の株式を保有し、これら政策保有株式について、当社事業の発展に資すると判断する限り保有を継続することを基本方針としております。保有意義の検証については、毎年取締役会において当社の資本コストを踏まえ、リターン(配当や取引状況等の定量要素に加え、経営戦略上の重要性や事業上の関係等を総合的に判断)とリスクが見合っているかどうかについて議論しております。保有する意義が乏しいと判断される銘柄については、株価動向等を勘案した上で売却を進めることとしております。上場株式について、2023年度においては、2023年4月28日の取締役会において検討を実施した結果、2銘柄の保有を継続する方針を決定しております。

2.政策保有株式に係る議決権行使基準

当社は、政策保有株式の議決権について、当該企業のコーポレート・ガバナンスの整備状況、株主価値の向上に資する議案であるか、当社に与える影響等を総合的に判断して行使しております。

【補充原則 3-1③ サステナビリティについての取り組み等】

当社は、「ヘルスケアを通じて人々の健康を守ります。」の経営理念のもと、事業活動を通じてさまざまな社会課題の解決に努めてまいりました。より積極的に、グループ全体でサステナビリティの推進を図るため、サステナビリティ方針を策定し、 代表執行役社長を委員長、各機能・事業グループの担当執行役で構成されるサステナビリティ委員会を設置して活動を推進しております。サステナビリティ委員会の内容は取締役会にて報告され、監督される体制となっております。

「EIKEN ROAD MAP 2030」では、持続可能な社会の実現に向けてマテリアリティを特定のうえ、具体的な行動計画に展開し、指標(KPI)を設けて進捗状況をモニタリングしながら取り組みを進めております。

当社のサステナビリティの考え方や方針、推進体制、取り組みについては、当社ウェブサイトにて情報開示を行っております。

(https://www.eiken.co.jp/sustainability/)

また、当社は、気候変動が金融市場にもたらすリスクを認識し、2023年2月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に賛同し、そのフレームワークに基づき、気候変動がもたらすリスクと機会を特定しています。特定したリスクと機会が及ぼす財務影響についてもシナリオ分析を行い、これまでの気候変動に関する取り組みをより一層推進するとともに、 TCFD提言に沿った情報開示をしております。

(https://www.eiken.co.jp/sustainability/environment/weather/)

人的資本への投資については、当社は、人財にフォーカスした経営を推進し、社員のやりがい・働きがいを高め、イノベーションを創出できる環境を整備し、持続的な成長と着実な収益性の向上を目指してまいります。詳細は当社ウェブサイトに掲載しております。

(https://www.eiken.co.jp/sustainability/social/engagement/)

また、知的財産への投資については、既存事業を着実に成長させるとともに、当社のコア技術の周辺事業への拡大及び外部とのオープンイノベーションによる新規事業の開発に経営資源を配分してまいります。詳細は当社ウェブサイトに掲載しております。

(https://www.eiken.co.jp/rd/)

【原則5-1 株主との建設的な対話に関する方針】

当社は、取締役会で承認されたディスクロージャーポリシーを制定し、基本方針、開示情報、情報開示方法、沈黙期間等を開示しており、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するよう、合理的な範囲で株主からの対話に対応しております。

当社は、サステナビリティ推進部をIR担当部署とし、サステナビリティ推進部を管掌する経営管理統括部長をIR担当執行役としたIR体制を整備し、株主・投資家との対話の場を設けており、理解と信頼を得るよう努めております。経営管理統括部長は経営企画部、経理部、人事部等のIRに関連する部署も同時に管掌しており、情報共有を密にすることで部署間の連携を図っております。

株主に対しては、定期的にアナリスト・機関投資家向けに決算説明会を開催し、代表執行役社長による説明及び対話を行うとともに、説明会で使用した資料は当社ウェブサイトで公開しております。また、株主・投資家との個別面談に関しては、サステナビリティ推進部が対応しておりますが、合理的な範囲で必要に応じ経営陣幹部が面談に対応しております。

対話によって把握された株主・投資家の主要な意見等は、定期的にIR担当執行役から取締役会へ報告されます。

なお、当社は、ディスクロージャーポリシーに基づき、株主・投資家との対話を行っており、インサイダー情報が含まれないように十分留意することはもちろん、所定の法令等を踏まえて社内規程を制定し、それに基づき適正に情報を管理しております。

【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】【英文開示有り】

当社は、経営構想「EIKEN ROAD MAP 2030」において売上高・海外売上比率・営業利益率・ROEを重要な経営指標として定めております。資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応についての詳細については、2024年5月9日開示の2024年3月期決算説明会資料をご参照くださ い。

・決算説明会資料 https://www.eiken.co.jp/ir/presentation.htm

 

【株主との対話の実施状況等】

「原則5-1 株主との建設的な対話に関する方針」に基づき、代表執行役社長および担当執行役が出席する決算説明会を半期毎に開催しているほか、IR担当者が、国内外のアナリスト・機関投資家との間で、年間延べ約100件の個別面談を実施しております。

株主との対話においては、決算や業績予想の概要に加え、中長期的な成長戦略や資本効率を意識した経営状況等が主なテーマとなっており、これらの内容は、定期的にIR担当執行役から取締役会へ報告されております。

上記の取り組みにより得られた知見を経営施策に適切かつ効果的に反映し、更なる企業価値向上に努めてまいります。

 

 

本レポートは情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を意図するものではありません。また、本レポートに記載されている情報及び見解は当社が公表されたデータに基づいて作成したものです。本レポートに掲載された情報は、当社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その正確性・完全性を全面的に保証するものではありません。当該情報や見解の正確性、完全性もしくは妥当性についても保証するものではなく、また責任を負うものではありません。本レポートに関する一切の権利は(株)インベストメントブリッジにあり、本レポートの内容等につきましては今後予告無く変更される場合があります。投資にあたっての決定は、ご自身の判断でなされますようお願い申しあげます。

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