ブリッジレポート
(6890) 株式会社フェローテックホールディングス

スタンダード

ブリッジレポート:(6890)フェローテックホールディングス 2024年3月期決算

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賀 賢漢 社長

株式会社フェローテックホールディングス(6890)

 

 

企業情報

市場

東証スタンダード市場

業種

電気機器(製造業)

代表者

賀 賢漢

所在地

東京都中央区日本橋 2-3-4 日本橋プラザビル

決算月

3月

HP

https://www.ferrotec.co.jp/

株式情報

株価

発行済株式数(期末)

時価総額

ROE(実)

売買単位

2,730円

47,012,202株

128,343百万円

7.8%

100株

DPS(予)

配当利回り(予)

EPS(予)

PER(予)

BPS(実)

PBR(実)

100.00円

3.7%

340.34円

8.0倍

4,348.01円

0.63倍

*株価は7/5終値。発行済株式数(自己株式控除後)、DPS、EPS、BPS、ROEは2024年3月期決算短信より。

連結業績推移

決算期

売上高

営業利益

経常利益

当期純利益

EPS

DPS

2019年3月(実)

89,478

8,782

8,060

2,845

76.90

24.00

2020年3月(実)

81,613

6,012

4,263

1,784

48.12

24.00

2021年3月(実)

91,312

9,640

8,227

8,280

222.93

30.00

2022年3月(実)

133,821

22,600

25,994

26,659

668.06

50.00

2023年3月(実)

210,810

35,042

42,448

29,702

644.81

105.00

2024年3月(実)

222,430

24,872

26,537

15,154

322.65

100.00

2025年3月(予)

235,000

26,000

26,000

16,000

340.34

100.00

*予想は会社予想。単位:百万円、円。21年3月期の配当には記念配当4.00円/株を含む。22年3月期の配当には特別配当9.00円/株を含む。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。以下、同様。

 

 

(株)フェローテックホールディングスの2024年3月期通期決算概要、2025年3月期業績予想などについて、ブリッジレポートにてご報告致します。

目次

今回のポイント
1.会社概要
2.2024年3月期決算概要
3.2025年3月期業績予想
4.新中期経営計画
5.今後の注目点
<参考:コーポレート・ガバナンスについて>

 

今回のポイント

  • 24/3期累計は、前期比5.5%増収、同29.0%営業減益で着地した。半導体等製造関連事業が減収となったものの、電子デバイス事業の増収により、連結売上高は前期比増を確保した。ただし、積極的な先行投資を継続したこともあり、売上高営業利益率は前期実績16.6%から11.2%に低下し、前期比営業減益となった。

     

  • 25/3期通期会社計画は、前期比5.7%増収、同4.5%営業増益。外部環境については、全般的に回復基調となる前提。半導体業界では23年まで継続したデバイスの在庫調整局面から徐々に需要回復が見込まれ、特にロジック半導体分野では生成AIに欠かせないGPUの需要増、サーバー投資の増加が見込まれるほか、メモリ関連も直近で価格の改善傾向がみられることから、年後半からは工場稼働率改善、設備投資水準回復へと繋がっていくことを想定している。移動通信システム業界については、5Gネットワーク投資が継続するほか、サーバー向けの大容量光トランシーバー需要も大きく伸びると見ており、総じて堅調な需要状況となる見通し。自動車関連では、引き続きEV、自動運転システムなどの需要が伸びる想定。地政学的見地では、半導体先端技術に関する米中規制の強化が半導体各社の中国外への製造拠点移転を促しているが、その受け皿となるべく東南アジア地区での製造能力整備が進んでいることから、同地区での需要増が期待される。

     

  • 24/3期を基点とした3期間CAGRは、売上高19.5%増、営業利益34.1%増を計画。半導体市場は23年にマイナス成長となったものの、24年には回復し、30年には市場規模が2024年比1.7倍に成長すると考えている。製造装置等の需要も2024年から上昇基調に転じる想定。中国についても米中半導体摩擦の影響は残るものの、一定の成長は可能と考えている。3期間の設備投資累計額は1,400億円を計画。将来を見据えた積極投資姿勢は不変。営業キャッシュ・フローをしっかりと増加させることで、フリーキャッシュ・フローは改善していくことを想定している。

     

  • 新たな中期経営計画が発表されたが、在庫調整を経て25年から半導体市場が再拡大することを前提に積極的な設備投資を行っていくスタンスに変わりない。31年3月期の売上目標5,000億円も不変である。半導体市況の調整局面と積極的な設備投資タイミングが重なった24年3月期は収益性が悪化してしまったが、今後は需給バランスが整っていくことで、向上していくことが期待される。需要低迷の長期化は気にかかるところだが、同社は闇雲に投資するのではなく、投資機会と財務状況の適切なバランスを確保した上でキャピタルアロケーション戦略を立てていることから、最悪シナリオも一定立てやすいことを覚えておきたい。本来、同社の株式価値は、長期目線でバリュエーション向上に繋がる施策に積極的に取り組んでいることを織り込むべきだろう。ただし、短期的にはマクロ環境の影響を受けやすいことを考えると、今後マクロ環境の改善が鮮明になることが株式価値改善への道石となるだろう。

1.会社概要

同社は、半導体やFPD(フラットパネルディスプレイ)の製造装置等に使用される真空シール、石英製品、セラミック製品、CVD-Sic製品、シリコンパーツ、坩堝、温調機器等に使用されるサーモモジュールのほか、シリコン製品、磁性流体、センサおよびその応用製品などの開発、製造、販売を手掛けている。
取り扱う製商品によって、セグメントは「半導体等装置関連事業」および「電子デバイス事業」に大別されている。各セグメントの主要製商品および主要な会社は以下の通り。

(同社資料より)

 

1980年、NASAのスペースプログラムから生まれた磁性流体を応用した真空技術製品や、冷熱素子として用途が広がっているサーモモジュール等、独自技術を核にした企業として誕生したのが始まりである。創業から40年以上にわたって培われてきた多様な技術は、エレクトロニクス、自動車、次世代エネルギー等、様々な産業分野で応用されている。また、トランスナショナルカンパニーとして、日本、欧米、中国、アジアに事業を展開し、マーケティング、開発、製造、販売、そしてマネジメントと、それぞれの国・地域の強みを活かした経営を行っていることが同社の特徴になっている。17年4月、持株会社体制へ移行。22年4月、市場再編に伴い、東証スタンダード市場に移行。

 

【事業セグメント】

事業は、半導体・FPD・LED等の製造装置に使われる真空シール、石英製品、セラミックス製品等の「半導体等装置関連事業」、サーモモジュールが中心の「電子デバイス事業」、及び報告セグメントに含まれない事業セグメントであり、シリコン結晶や太陽電池ウエーハ、ソーブレード、工作機械、表面処理、業務用洗濯機等の「その他」に分かれる。

 

半導体等装置関連事業
半導体、FPD、LED、太陽電池等の製造装置部品である真空シール、デバイスの製造工程に使われる消耗品である石英製品、セラミックス製品、CVD-SiC製品、石英坩堝を製造・販売している。その他、シリコンウエーハ加工や製造装置洗浄等も手掛けるなど、エンジニアリング・サービスを総合的に提供している。

 

主力製品の真空シールは、製造装置内部へのガスや塵等の侵入を防ぎつつ、回転運動を装置内部に伝える機能部品で、世界トップシェアを誇る。真空シールの内部には創業からのコア技術である磁性流体(磁石に反応する液体)シールが使われている。ただし、いずれの分野も設備投資の影響を受けやすいことから、比較的需要が安定した搬送用機器や精密ロボット等、一般産業分野への展開にも注力している。加えて、真空シールを組み込んだ真空チャンバーやゲートバルブ等(共に真空関連の装置で使われる)の受託製造にも力を入れている。
一方、石英製品、セラミックス製品、CVD-SiC製品、及び石英坩堝は共に半導体の製造工程に欠かせない消耗品である。石英製品は半導体製造の際の高温作業に耐え、半導体を活性ガスとの化学変化から守る高純度のシリカガラス製品である。材料や加工技術を核とするセラミックス製品は国内外の半導体製造装置メーカーを主な顧客とし、半導体検査治具用マシナブルセラミックスと半導体製造装置等の部品として使われるファインセラミックスが二本柱となっている。CVD-SiC製品は「CVD法(Chemical Vapor Deposition法:化学気相蒸着法)」(シリコンと炭素を含むガスから作る)で製造されたSiC製品である。現在、半導体製造装置の構造部品として供給しているが、航空・宇宙(タービン、ミラー)、自動車(パワー半導体)、エネルギー(原子力関連)、IT(半導体製造装置用部品)等への展開に向け研究開発を進めている。シリコンウエーハ加工では、6インチ(口径)、8インチ、12インチを製造している。製造装置洗浄では中国で過半を超えるトップシェアを有する。

 

(同社資料より)

 

電子デバイス事業
事業の核となっているのは対象物を瞬時に高い精度で温めたり、冷やしたりできる冷熱素子「サーモモジュール」である。
サーモモジュールは自動車用温調シートを中心に、半導体製造装置でのウエーハ温調、遺伝子検査装置、光通信、家電製品、およびその応用製品のパワー半導体用基板等、利用範囲は広く、世界シェアNo.1。高性能材料を使用した新製品開発や自動化ライン導入によるコスト削減と品質向上により、新規の需要開拓や更なる用途拡大に取り組んでいる。
スマホのリニアバイブレーションモーターや4Kテレビや自動車のスピーカー、高音質ヘッドフォン等で新たな用途開発が進んでいる磁性流体も世界トップシェアを誇る。そのほか、連結子会社の(株)大泉製作所は温度センサを手掛けている。

 

(同社資料より)

 

 

2.2024年3月期決算概要

【2-1 連結業績】

 

23/3期

(累計) 

構成比

24/3期

(累計) 

構成比

前期比

24/3期

(会社計画)

達成率

売上高

210,810

100.0%

222,430

100.0%

+5.5%

220,000

101.1%

売上総利益

72,081

34.2%

69,856

31.4%

-3.1%

-

-

販管費

37,038

17.6%

44,984

20.2%

+21.5%

-

-

営業利益

35,042

16.6%

24,872

11.2%

-29.0%

25,000

99.5%

経常利益

42,448

20.1%

26,537

11.9%

-37.5%

26,000

102.1%

当期純利益

29,702

14.1%

15,154

6.8%

-49.0%

15,000

101.0%

* 単位:百万円。会社計画は24年2月公表分。

 

半導体産業の需要調整基調続く中、先を見据えた先行投資は継続
24/3期累計は、売上高が前期比5.5%増の222,430百万円、営業利益が同29.0%減の24,872百万円となった。半導体等製造関連事業が減収となったものの、電子デバイス事業の増収により、連結売上高は前期比増を確保した。ただし、積極的な先行投資を継続したため、工場新設・設備投資による減価償却費増加等が原価率を上昇させた(前期比2.8ポイント上昇)。販管費についても、新会社や新事業の増加に加え、労務費、試験研究費増加等を背景に、販管費率が同2.6ポイント上昇した。その結果、売上高営業利益率が前期実績16.6%から11.2%に低下し、前期比営業減益となった。なお、主要為替の期中平均レートは、米ドル141.20円(前期132.08円)、中国人民元19.87円(同19.50円)。

 

【2-2 セグメント別動向】

セグメント別売上高・利益

 

23/3期

(累計) 

構成比・利益率

24/3期

(累計)

構成比・利益率

前期比

半導体等装置関連

132,194

62.7%

130,072

58.5%

-1.6%

電子デバイス

53,024

25.2%

67,600

30.4%

+27.5%

その他

25,590

12.1%

24,757

11.1%

-3.3%

連結売上高

210,810

100.0%

222,430

100.0%

+5.5%

半導体等装置関連

24,090

18.2%

16,260

12.5%

-32.5%

電子デバイス

11,178

21.1%

10,890

16.1%

-2.6%

その他

597

2.3%

-1,197

-

-

調整額

-824

 

-1,080

-

-

連結営業利益

35,042

16.6%

24,872

11.2%

-29.0%

* 単位:百万円

 

(1)半導体等装置関連事業
半導体等装置関連事業の売上高は前期比1.6%減の130,072百万円、営業利益は同32.5%減の16,260百万円となった。セグメント利益率は同5.7ポイント低下の16.1%。3Q(10~12月)に一旦前年同期比プラスに転じたものの、4Qは再びマイナス成長となった。真空シール・金属加工が半導体装置生産低迷の影響を受け減収となったほか、半導体マテリアルのうち石英、シリコンパーツ、セラミックスも半導体生産・装置生産低迷の影響から減収となった。CVC-SiCについては、底堅い需要および岡山工場の生産能力増強により増収となった。大型坩堝がPV向けに増加したことから、石英坩堝も増収となった。ただし、同事業は需要変動が大きく、4Qは低迷したとのこと。

 

(2)電子デバイス事業
電子デバイス事業の売上高は前期比27.5%増の67,600百万円、営業利益は同2.6%減の10,890百万円となった。セグメント利益率は同5.0ポイント低下の16.1%。前2Q(7‐9月)より連結化した大泉製作所の増収効果は24億円。
パワー半導体基板が引き続き成長ドライバーとなっている。サーモモジュールはPCR検査装置を中心に医療検査機器向けの出荷が減少したことに加え、通信機器向けも一服してきた。パワー半導体基板においては、産業機械向けDCB基板および中国EV車向けAMB基板の需要が堅調に推移したうえ、生産能力増強の効果が売上高を押し上げた。

 

(3)その他事業
その他事業(ソーブレード、工作機械、太陽電池用シリコン製品等の事業)の売上高は前期比3.3%減の24,757百万円、営業利益は1,197百万円の赤字。前2Q(7‐9月)より連結化した東洋刃物の売上寄与があったものの、工作機械の出荷減等を補うには至らなかった。

 

【2-3 財政状態】

◎財政状態

 

23年3月

24年3月

増減

 

23年3月

24年3月

増減

流動資産

215,341

248,408

+33,067

流動負債

111,294

122,148

+10,854

現預金

103,115

117,254

+14,139

仕入債務

43,896

42,301

-1,595

売上債権

53,276

61,940

+8,664

短期有利子負債

36,203

47,476

+11,273

たな卸資産

49,177

56,909

+7,732

固定負債

49,697

109,712

+60,015

固定資産

195,306

261,618

+66,312

長期有利子負債

30,515

87,684

+57,169

有形固定資産

139,610

201,339

+61,729

負債合計

160,991

231,860

+70,869

無形固定資産

6,949

6,611

-338

純資産

249,656

278,166

+28,510

投資その他の資産

48,745

53,666

+4,921

利益剰余金

69,656

79,881

+10,225

資産合計

410,648

510,026

+99,378

負債純資産合計

410,648

510,026

+99,378

*単位:百万円。仕入債務は電子記録債務を含む。

 

資産合計は前期末比99,378百万円増の510,026百万円に増加。現預金増加(同14,139百万円増)および有形固定資産増加(同61,729百万円増)が主要因。売上増加に伴い、売上債権・棚卸資産が増加したほか、資金調達を実施したことが流動資産を増加させた。有形固定資産は各事業での積極投資によって増加している。
負債合計は同70,869百万円増の231,860百万円となった。23年6月に28年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債(社債額面金額合計250億円)を発行したことに加え、長期借入金(含、1年内返済予定)も同42,088百万円増加した。
純資産は、利益剰余金が同10,225百万円増となったことに加え、為替換算調整勘定が同8,838百万円増、非支配株主持分が同7,869百万円増となったことを背景に、同28,510百万円増の278,166百万円となった。

 

◎キャッシュ・フロー

 

23/3期

24/3期

増減

営業キャッシュ・フロー

43,024

28,720

-14,304

投資キャッシュ・フロー

-68,760

-92,400

-23,640

フリー・キャッシュ・フロー

-25,736

-63,680

-37,944

財務キャッシュ・フロー

68,718

60,419

-8,299

現金及び現金同等物期末残高

95,905

96,806

901

*単位:百万円

 

期末の現金及び現金同等物の残高は、前期比901百万円増の96,806百万円となった。引き続き設備投資等を積極的に行った。財務キャッシュ・フローについては、前期に非支配株主からの払込みによる収入が47,607百万円あったのに対し、今期は長期借入れによる収入57,734百万円、転換社債型新株予約権付社債の発行による収入24,898百万円があった。

 

3.2025年3月期業績予想

【3-1 連結業績】

 

24/3期 

構成比

25/3期(予) 

構成比

前期比

売上高

222,430

100.0%

235,000

100.0%

+5.7%

営業利益

24,872

11.2%

26,000

11.1%

+4.5%

経常利益

26,537

11.9%

26,000

11.1%

-2.0%

当期純利益

15,154

6.8%

16,000

6.8%

+5.6%

* 単位:百万円

 

全般的に回復基調となる前提
25/3期通期会社計画は、売上高2,350億円(前期比5.7%増)、営業利益260億円(同4.5%増)。外部環境については、全般的に回復基調となる前提。半導体業界では23年まで継続したデバイスの在庫調整局面から徐々に需要回復が見込まれる。特にロジック半導体分野では生成AIに欠かせないGPUの需要増、サーバー投資の増加が見込まれるほか、メモリ関連も直近で価格の改善傾向がみられることから、年後半からは工場稼働率改善、設備投資水準回復へと繋がっていくことを想定している。移動通信システム業界については、5Gネットワーク投資が継続するほか、サーバー向けの大容量光トランシーバー需要も大きく伸びると見ており、総じて堅調な需要状況となる見通し。自動車関連では、引き続きEV、自動運転システムなどの需要が伸びる想定。地政学的見地では、半導体先端技術に関する米中規制の強化が半導体各社の中国外への製造拠点移転を促していることを背景に、その受け皿となる東南アジア地区での各社製造能力整備が進んでいる。今後同地区での需要増が期待される。一方、原材料調達の面では、ロシアのウクライナ侵攻および中東での紛争継続もあり、材料価格高騰、物流混乱による調達ひっ迫などの悪影響を一定織り込んでいるとのこと。想定為替レートは、米ドル150円、中国人民元21円としている。
経常利益が前期比マイナス成長となるのは、前期計上された為替差益1,383百万円の剥落によるもの。

 

4.新中期経営計画

21/3期に策定された2024年3月期を最終年度とする中期経営計画は、売上高1,500億円に対し2,224億円、営業利益が250億円に対し248億円、当期純利益が150億円に対し151億円と、段階利益では概ね想定線での着地となった。期中増額修正した目標(売上高2,200億円、営業利益325億円)には到達しなかったが、最終年度に半導体市況悪化の影響を受けた中で、主要製品の業界地位をしっかりと向上させたことを、同社は評価している。
将来に向けた投資(有形固定資産、無形固定資産、有価証券取得等)についても、従前260億円計画に対し、最終的には785億円を投資した。具体的には、中国拠点の増強(常山、四川等)に加え、マレーシア、日本国内(石川県、熊本県)といった中国以外での拠点も拡充するなど、グローバルでの生産体制を強化することで、米中貿易摩擦等を背景にした顧客ニーズへの対応を強化した。そのほか、経営基盤の強化、財務・株主還元にも努めた。

 

【4-1 新中期経営計画の基本方針】

以上の点を鑑みた、新中期経営計画の基本方針は次の通り。

事業成長

➣半導体、自動車関連の事業成長を追求し、業界上位の事業を拡大させる

➣マレーシア、日本工場が中国外製造品の需要を取込み、中国工場が中国製造品の需要を取込む体制を強化する

生産効率・競争力の強化

➣同社の量産能力を更に高めるため、デジタル化・自動化等を進め、工場の生産効率向上・競争力強化を追求する

➣「品質は命」と考え品質管理の徹底を継続、研究開発体制を強化、新製品・新技術の開発を推進する

人材強化・企業文化

➣人材重視を重要な経営戦略と位置付け、高度人材の採用、研修制度の拡充、株式報酬制度(RSU・PSU)導入を進める

➣企業文化は企業の礎であり、「顧客を尊敬、従業員を尊敬し、勤勉と信用を尊重し、着実に行動し、革新を追求する」を活動指針に掲げ、浸透を進める

財務・株主還元

➣新増設工場の早期立上げ・業績貢献により、収益増強を図る

➣株主還元増加を重視、配当性向は20%~30%を意識、株主還元の拡充に努める

(同社資料より、インベストメントブリッジ作成)

 

【4-2 中期経営計画数値目標】

(同社資料より、インベストメントブリッジ作成)

 

24/3期を基点とした3期間CAGRは、売上高19.5%増、営業利益34.1%増を計画している。半導体市場は23年にマイナス成長となったものの、24年には回復し、30年には市場規模が24年比1.7倍に成長すると考えている。製造装置等の需要も24年から上昇基調に転じる想定。中国についても米中半導体摩擦の影響は残るものの、一定の成長は可能と考えている。
3期間の設備投資累計額は1,400億円を計画。加えて、投資機会によって変動はするものの、M&Aも100億円を想定。半導体関連のクライアントから25年以降のキャパシティ増強要請が来ていること、中国以外での生産体制強化、パワー半導体基盤等の自動車セグメントへの投資継続、を前提とした額になっている。営業キャッシュ・フローをしっかりと増加させることで、フリーキャッシュ・フローは改善していくことを想定している。

 

【4-3 カテゴリー別】

(同社資料より、インベストメントブリッジ作成)

 

<石英>
24/3期の石英は、半導体マーケット減速の影響を中国市場の成長を取り込むことで挽回を図り、前期比2.0%減収に留まった。25/3期売上高もユーザー在庫消化の影響から横ばいとなる想定だが、26/3期以降は本格的に回復すると考えている。それに合わせ、マレーシア、熊本でキャパシティ増強を行う計画(投資額200億円超)。欧米顧客の中国外製品ニーズはマレーシア工場で対応することになる。

 

<セラミックス>
中国市場は拡大したものの、半導体マーケット減速の影響を受け、24/3期は前期比10.6%減収となった。常山、石川、マレーシアで新工場を設立するなど、キャパシティ拡大への投資は引き続き積極的に行った。今後の見通しについては、石英同様にユーザー在庫消化の影響を織り込みつつ、26/3期から本格的な回復基調に転じる想定。

 

<CVD-SiC>
堅調な需要に支えられ、24/3期は前期比42.1%増収となった。半導体顧客の需要は今後も拡大継続する見通しの下、常山、岡山での生産能力を増強し、キャパシティ拡大に努める。

 

<シリコンパーツ>
中期的には需要拡大が見込まれることから、常山工場を新設するなどキャパシティを増強している。しかし、25/3期は在庫影響により増収に転じることは難しいと判断している。

 

<サーモモジュール>
24/3期は前期比1.6%減に留まった。PCRなどバイオ装置向けがピークアウトしたほか、5G通信機器向けも調整局面入りしたことが背景。生成AI関連光トランシーバー向けは増加した。今後については、生成AI関連の増加が見込まれるうえ、5G通信機器向けも増加トレンドに転換してくる想定。そのほか、中国5G-A投資・需要の拡大に期待を寄せている。

 

<パワー半導体>
24/3期後半は調整色が強まったものの、需要は拡大トレンドを継続している。引き続きキャパシティ増加へ積極的に投資していく考え。中期的にも、パワー半導体基板への需要拡大は継続するものと考え、DCB、AMB、DPCの製品レンジを拡充していく計画である。

 

 

【4-4 主な工場新設・生産能力増強の状況】

(同社資料より)

 

◎株主還元
株主還元の増加を重視し、当面は配当性向20%~30%を意識していく方針。その考えに則り、25/3期の一株配当は100円(配当性向29.4%)とする計画。

 

◎長期業績目標
これまで長期ビジョンとして掲げてきた31/3期売上高5,000億円、当期純利益500億円という数値目標に変更はない。

 

5.今後の注目点

新たな中期経営計画が発表されたが、在庫調整を経て25年から半導体市場が再拡大することを前提に積極的な設備投資を行っていくスタンスに変わりない。31/3期の売上目標5,000億円も不変である。半導体市況の調整局面と積極的な設備投資タイミングが重なった24/3期は、収益性が低下してしまったが、今後は需給バランスが整っていくことで、向上していくことが期待される。一方、闇雲に投資するだけでなく、投資機会と財務状況の適切なバランスを確保した上でキャピタルアロケーション戦略を立てるなど、資本市場へ向き合う姿勢も継続されている。本来、同社の株式価値は、長期目線でバリュエーション向上に繋がる施策に積極的に取り組んでいることを織り込むべきだろう。ただし、短期的にはマクロ環境の影響を受けやすいことを考えると、今後マクロ環境の改善が鮮明になることが、株式価値改善への道石となるだろう。

 

 

 

<参考:コーポレート・ガバナンスについて>

◎組織形態及び取締役、監査役の構成

組織形態

監査役設置会社

取締役

9名、うち社外3名

監査役

3名、うち社外2名

 

◎コーポレート・ガバナンス報告書(更新日:2024年2月28日)
<基本的な考え方>
当社グループは、「顧客に満足を」、「地球にやさしさを」、「社会に夢と活力を」を企業理念とし、行動規範として、「グローバルな視点のもと、常に国際社会と調和を図り、地域社会その他私たちに関係する世界の人々の生活に貢献できる製品とサービスを提供する企業として、各国の法令を遵守することはもちろん、確固とした企業倫理と社会的良識を持って、誠実に行動すること。」、「新エネルギー産業およびエレクトロニクス産業を中心に高品質な製品やサービスを提案し、コスト競争力のある製品やサービスを提供することにより、お客様から信頼されて、満足を頂くこと。」、「地球環境に配慮した活動を積極的に推進することを経営上の重要課題の一つとして、最新の環境規制要求への適応を順次進め、新エネルギー産業で活用できる素材・製品などを開発し、地球環境問題の解決に貢献すること。」、「コア技術を活用したものづくりを通して社会に貢献し、顧客、株主、社員、取引先、地域社会などステークホルダーの方々が成長する楽しみを持てる企業であり続け、企業活動にあたり法令遵守、社会秩序、国際ルールなど社会的良識をもって行動すること。」を掲げています。

 

当社はこれらの企業理念と行動規範に従い、環境保全活動とグループガバナンスを積極的に推進するとともに、ステークホルダーの皆様にとって「成長する楽しみが持てる企業」であり続けることに努めております。また、半導体用マテリアル製品をはじめとする新素材及び生産技術の開発に注力し、品質を第一に考えて顧客満足の向上を追求する旨の「品質理念」を掲げ、生産の自動化、デジタル化、標準化を進めております。世界での市場シェアを高め、安定的な収益体質の企業集団を形成することを経営の基本方針としております。

 

以上の企業理念、行動規範、経営の基本方針を踏まえて、企業価値を高め、株主、顧客、取引先、従業員、地域社会などステークホルダーに信頼され支持される企業となるべく、経営の健全性を重視し、併せて、経営環境の急激な変化にも迅速かつ的確に対応できる経営体制を確立することが重要であると考えております。

 

<コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しない主な理由>

 

 <補充原則2-4①: 中核人材の登用等における多様性の確保>
当社グループは、人的資本の基本方針として、組織・人材について2つの大きな方針のもとグループを運営しております。 1つは、従業員のあらゆる属性に関係なく、一人ひとりが志をもって自律的に行動し、働きがいを持つことができる会社・組織とすること。もう1つは、マネジメントを現地化し、迅速な意思決定と、地域の特性にあわせたビジネス及び組織運営を行うことです。グローバルに企業規模が拡大する中、人材と組織の抜本的な強化を図り、中長期的な企業価値の向上に向け、幅広いスキルと経験を持つ女性・外国人・中途採用者を積極的に採用しております。また、女性・外国人・中途採用者の高いスキル、当社グループ以外で培われた貴重な経験等を総合的に勘案・評価し、管理職への登用も積極的に行っております。 しかしながら、中長期的視点に立った女性・外国人・中途採用者の管理職への登用含めた人材育成方針及び社内環境整備方針、並びにそれらの進捗や達成状況について、併せて開示できるまでに至っておりません。今後、グローバルな企業規模の拡大に応じた中長期的な企業価値の向上に資するべく、人的資本に関する基本方針のもと、人材育成及び社内環境方針を設定し実施状況を開示できるよう鋭意検討を進めてまいります。

 

<補充原則3-1③: サステナビリティについての取組み、人的資本や知的財産への投資等経営戦略の開示>当社では、「顧客に満足を、地球にやさしさを、社会に夢と活力を」の企業理念の下、中長期的な企業価値向上に向け、ESG(Environment/環境、Social/社会、Governance/企業統治)が非常に重要であるとの認識から、2021年にマテリアリティ及びサステナビリティ基本方針を策定しました。今後は、ESGを推進するための組織体制の整備、社内啓蒙、定量目標の設定を進めてまいります。また、人的資本や知的財産への投資等については、日本の子会社では若手の幹部への積極登用や組織のフラット化を推進しております。また、中国の子会社では半導体関係の研究院の設置や博士クラス人材の採用強化、優秀な特許出願者があった場合には、表彰や報奨金の付与等を適宜実施するなどにより知的財産への投資に積極的に取り組んでおります。今後は、設定した定量目標のモニタリングを行い、取組み状況をホームページやIR資料等で公開してまいります。

 

<補充原則4-2①: 客観性・透明性のある経営陣の報酬の報酬制度> 当社は、取締役会の諮問委員会として社外取締役が過半数を占める報酬委員会を設置し、取締役の月額報酬、業績連動報酬など、取締役の個人別の報酬等の内容に係る決定方針に沿って審議、決定し、取締役会へ報告しております。社外役員が委員の過半数となる報酬委員会を設置することにより、持続的な成長に向け、譲渡制限付株式報酬の導入など中長期的な報酬割合の設定や、固定報酬と変動報酬の目標割合を設定しております。取締役会から取締役の個人別の報酬等の額の決定を一任された代表取締役社長は、報酬委員会を招集の上、諮問し、当該答申内容を尊重して決定することとしております。 しかしながら、連結報酬における現金報酬と自社株報酬との割合の適切な設定までには至っておらず、報酬委員会に適宜陪席する外部専門家の意見を参考にしながら、報酬委員会を中心として適切な役員報酬制度を鋭意検討してまいります。

 

 

<コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく主な開示>

 

<原則2-3:社会・環境問題をはじめとするサステナビリティを巡る課題> 半導体の製造プロセスは環境負荷が大きく、これを解決することが業界全体の課題となっております。当社では、ノン・フロンの温調デバイスであるサーモモジュールや消費電力削減に有効な「パワー半導体基板」、「磁性流体」等の製品販売並びに日本及び中国の工場における太陽光パネルを用いたクリーンエネルギーでの発電等、事業を通じて環境汚染に配慮した温室効果ガス低減に貢献しております。2023年3月「サステナビリティ委員会」を当社執行役員会傘下の委員会として設置し、サステナビリティへの取り組みの状況確認、検討、審議を行い、取締役会等で適宜に報告することでサステナビリティの全社的な検討・推進を行います。その他、コロナ禍の中で経済的に困窮する大学生が増加している中、当社は将来社会に貢献し得る有為な人材の育成に寄与すべく工学系の学生に奨学金を給付している公益財団法人山村章奨学財団を支援しております。
<原則2-4:女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保>社内に異なる経験や価値観が存在することは、特に当社のようなグローバルに展開している経営環境下においては、会社の持続的な成長を確保する強みであると考え、現地子会社のマネジメントは現地に任せる方針の下、女性を含めた多様性の確保に努めております。

 

<補充原則4-11①:取締役会全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方>当社の取締役会は、業務執行の監督と重要な意思決定には、多様な視点と経験、及び多様で高度なスキルを持った取締役の構成が必要であると考えております。また監査役についても、取締役会に出席し、必要に応じて意見を述べる義務があり、取締役と同様に多様性と高いスキルが必要であると考えております。社外役員については、取締役会による監督と監査役による監査という二重のチェック機能を果たすため、法定の社外監査役に加え、取締役会での議決権を持つ社外取締役が必要であり、ともに高い独立性を有することが重要であると考えております。さらに、独立社外取締役は他社での経営経験を有する人物の選任を意識し、取締役会全体として必要とする知識・経験・能力等のバランスを考慮して選任し、スキルの網羅性を確保しております。各取締役・監査役の知識・経験・能力等を一覧化したスキル・マトリックスは、当社ホームページ
https://www.ferrotec.co.jp/esg/sdgs.phpに掲載しております。

 

 

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