ブリッジレポート
(7089) フォースタートアップス株式会社

グロース

ブリッジレポート:(7089)フォースタートアップス 2023年3月期決算

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志水 雄一郎 代表取締役社長

フォースタートアップス株式会社(7089)

 

 

企業情報

市場

東証グロース市場

業種

サービス業

代表取締役社長

志水 雄一郎

所在地

東京都港区六本木1丁目6-1 泉ガーデンタワー 36F

決算月

3月

HP

https://forstartups.com/

 

株式情報

株価

発行済株式数

時価総額

ROE(実)

売買単位

1,480円

3,546,644株

5,249百万円

28.7%

100株

DPS(予)

配当利回り(予)

EPS(予)

PER(予)

BPS(実)

PBR(実)

0.00円

-

67.67円

21.9倍

498.40円

3.0倍

*株価5/12終値。発行済株式数は23/3期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROEとBPSは前期実績。
*EPSは今期の会社予想。

 

業績推移

決算期

売上高

営業利益

経常利益

当期純利益

EPS

DPS

2020年3月(実)

1,262

240

219

155

52.91

0.00

2021年3月(実)

1,273

76

79

38

11.59

0.00

2022年3月(実)

2,348

488

492

382

110.68

0.00

2023年3月(実)

2,998

585

586

442

124.76

0.00

2024年3月(予)

3,300

330

330

240

67.67

0.00

*単位:百万円、円。予想は会社側予想。2022年3月期より連結決算。
*過年度決算訂正後の数値。

 

 

フォースタートアップス株式会社の2023年3月期決算の概要等をブリッジレポートにてご報告致します。

 

目次

今回のポイント
1.会社概要
2.2023年3月期決算概要
3.2024年3月期業績予想
4.中期業績目標
5.今後の注目点
<参考:コーポレート・ガバナンスについて>

 

今回のポイント

  • 23/3期は前期比27.7%の増収、同19.8%の営業増益。経営幹部層・エンジニアなどの需要・難易度の高いポジションのピンポイント支援に注力した戦略への転換が奏功し人材紹介サービスの売上高が順調に拡大したことなどにより、タレントエージェンシーの売上高が好調に推移した。また、22/3期から開始した「STARTUP DB」の有料ユーザー数の増加に加え、Public Affairsも主に地方自治体からのスタートアップ関連事業を受託することで順調に規模を拡大し、オープンイノベーションの売上高も順調に拡大した。

     

  • 24/3期の会社計画は前期比10.0%の増収、同43.6%の営業減益の予想。24/3期は、中長期の成長にフォーカスをした「未来を育む種まきの1年」とする方針である。国内外における資金調達環境が悪化しており、厳しい事業環境が予想される中、タレントエージェンシー、オープンイノベーションともに売上高と売上総利益が緩やかな増加にとどまる見込みである。このような中、23/3期下期の社員増加や既存社員の昇給による人件費の増加が影響するものの、中長期を見据えた採用活動を継続するとともに既存社員の育成を強化する。
  • 過去2年の人員増強により、タレントエージェンシーでは入社後2年未満の社員が全体の約64%を占め、在籍年数が短い社員の割合が増加している。同社では今後、チームの総合力向上を目指し、人材育成のための各種の施策を積極的に推進する。入社後2年未満の社員がいつ頃から戦力化し、同社の成長を牽引するのか注目される。

     

1.会社概要

日本の競争力を回復させ明るい未来をもたらすためにはスタートアップの成長が不可欠との想いから「for Startups」という経営ビジョンを掲げ、必要な支援を行う成長産業支援インフラとなることを目指している。
「成長産業支援事業」として「タレントエージェンシー」「オープンイノベーション」の2つのサービスを展開。前期から人材支援に加え資金支援も実施することでハイブリッドキャピタル化を図り、スタートアップ企業の早期成長を促している。「イノベーションに関わるプレイヤーとのネットワーク」「国内最大級の成長産業データベース『STARTUP DB』」などが競争優位性。

 

(1)上場までの沿革

1996年に大手人材紹介会社に入社後キャリアを重ね、新規事業の立ち上げなどトップクラスの実績を上げてきた志水雄一郎氏(現 フォースタートアップス株式会社 代表取締役社長)に、自らの存在意義を改めて問い直す機会が訪れる。そこでこれまでの自身の人生と日本社会の変化を振り返ると同時に、これからの日本の将来を見通して見ると、日本経済およびこれまでの日本経済を支えてきた大企業が「失われた20年」と呼ばれる長期低迷に喘ぎ、今後も明るい未来を予想し難いと考える。
一方で、世界に目を向けるとベンチャー企業の躍進が国富の大きな部分を創出していることを知り、人材関連事業に携わっていた自分および業界は、「本来取り組むべき課題解決=人の力を活用することによる企業の成長」に向き合わず、自分や自社の成長、営業成績のみを目標としていたことを痛感。そこで、人材関連事業に携わるものとして、「人の可能性を信じ、人を最適に組み合わせることで日本企業および日本の競争力を復活させ、明るく最高の未来を次世代に繋いでいく」ことへの挑戦を決意する。

 

2013年4月、志水氏の想いに共感し協力を申し出た(株)ウィルグループ(東証1部、6089)は、子会社の(株)セントメディア(現(株)ウィルオブ・ワーク)の一事業部門としてネットジンザイバンク事業部を発足させ、志水氏はそこでスタートアップ企業に対する人材支援サービス提供を開始した。国内有数のベンチャーキャピタルであるグロービス・キャピタル・パートナーズの投資先であったスマートニュースのCXO(経営チーム)組閣を手掛けたことを始めとした数々の実績から、VCや起業家における認知度や評価は急上昇し、案件数も拡大していく。経営判断のスピードアップのため2016年9月に会社分割により株式会社ネットジンザイバンクを新設。2018年3月、フォースタートアップス株式会社に商号を変更した。企業規模を拡大し、スタートアップに対する支援スピードをさらに加速させるため、2020年3月、東京証券取引所マザーズ市場に上場。2022年4月、市場再編に伴い、東証グロース市場に移行した。

 

(2)理念

同社では、『「進化の中心」にいることを選択する挑戦者達』をスタートアップスと呼んでいる。
沿革にあるように、志水社長の「日本に明るい未来をもたらすためには多くのスタートアップスの成長が不可欠」との強い想いをベースに創業以来スタートアップスを支援してきたが、2021年7月、新ミッション「(共に)進化の中心へ」を掲げた。
新ミッションは、「進化の中心とは何か」を、時代に合わせて常に問い、その目標をアップデートし続けていく姿勢を表現している。また、「(共に)」とすることで、「支援者」という立ち位置にとどまらず、時には自らも時代を創る「主体者・創造主」となる覚悟を示しており、スタートアップスと(共に)進化の中心であり続けることが、日本の成長、次世代にとっての未来のアップデートにつながると考えている。

 

Mission

(共に)進化の中心へ

Vision

for Startups

Value

Startups First

全ては日本の成長のために。スタートアップスのために。

 

Be a Talent

スタートアップスの最たる友人であり、パートナーであり、自らも最たる挑戦者たれ。

そして、自らの生き様を社会に発信せよ。

 

The Team

成長産業支援という業は、TEAMでしか成し得られない。仲間のプロデュースが、日本を、スタートアップスを熱くする。

 

(3)同社を取り巻く環境

①日本経済・日本企業の凋落「失われた30年」 
下の表はフォースタートアップス株式会社が運営する「STARTUP DB」より引用した、平成元年(1989年)および令和5年(2023年)の世界時価総額ランキング(一部抜粋)を比較したものである。
1989年の世界時価総額No.1はNTTで、上位20社中日本企業は14社。上位50社でも32社が日本企業で、まさに「Japan as No.1」という、日本にとって輝かしい時代であった。しかし、1989年12月に記録した日経平均38,915円をピークに、バブル経済は崩壊。失われた30年という長期低迷に入り、日本企業の競争力は低下。2022年の世界時価総額ランキングでは上位20位はおろか、50位以内にランクインしたのがトヨタ1社という凋落ぶりである。
また、2022年の顔ぶれ(上位20社)を見ると、GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon,Microsoft)を始めとした米国企業15社のほか、中国IT企業のBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)の一角であるTencentがランクイン。30年間における産業構造の変化および国家の浮沈を明確に表している。

 

 

(フォースタートアップス株式会社 STARTUP DB :2023年世界時価総額ランキング。世界経済における日本のプレゼンスは?より)

 

また、IMD(国際経営開発研究所:International Institute for Management Development)が作成する「世界競争力年鑑」によれば、バブル期に1位だった日本の総合順位は最新2022年では34位まで落ち込んだ。8,000円台を下回った日本株は現在3万円台を回復したが、それでもピークの約8割の水準に過ぎず、史上最高値更新を続ける米国株とは対照的である。これも現在の両国の国力のみならず将来に対する見通しや期待を映し出しているといえよう。

 

②スタートアップ支援に力を入れ始めた日本政府
ただ、こうした状況について日本政府も手をこまねいているわけではない。2018年6月には「未来投資戦略2018」を発表。「我が国の強みを活かし、官民が一丸となってあらゆる政策を総動員すること等を通じて、我が国のベンチャー・エコシステムの構築を加速し、グローバルなベンチャー企業を生み出していく」との方針を打ち出している。2020年7月に閣議決定した「成長戦略フォローアップ」では、「4.オープンイノベーションの推進」の項で「企業価値または時価総額が10億ドル以上となる未上場ベンチャー企業(ユニコーン)または上場ベンチャー企業を2025年までに50社創出」という目標を掲げた(2019年末時点では16社)。
また、2022年11月28日、首相官邸において、「第13回 新しい資本主義実現会議」が開催され、スタートアップ育成5か年計画が決定された。この日議長である岸田総理は、スタートアップ育成5か年計画について、今回決定した「スタートアップ育成5か年計画」は、官民によるスタートアップ育成策の全体像と5年間の具体的なロードマップを示したものであり、人材、資金供給、オープンイノベーションの3本柱を一体として推進し、スタートアップへの投資額を5年後の2027年度には10兆円規模と10倍増にすることを目標にすると述べている。

 

スタートアップ支援の中核省庁である経済産業省では、新規産業の創出、ベンチャーの創業・成長促進のために、支援人材のネットワーク構築、起業応援の税制・融資制度の整備、起業家教育の推進などの取り組みを実施。新しい事業やベンチャーが次々と生まれ成長するエコシステム(※)の形成を目指している。
※エコシステム
スタートアップや大企業、投資家、研究機関など、産学官のさまざまなプレイヤーが集積または連携することで共存・共栄し、先端産業の育成や経済成長の好循環を生み出すビジネス環境を、自然環境の生態系になぞらえたもの。

 

(経済産業省の主な施策)

オープンイノベーション促進税制

国内の対象法人等が、オープンイノベーションを目的としてスタートアップ企業の株式を取得する場合、取得価額の25%を課税所得から控除できる制度

エンジェル税制

ベンチャー企業への投資を促進するためにベンチャー企業へ投資を行った個人投資家に対して税制上の優遇措置を行う制度

女性、若者/シニア起業家支援資金

新規開業後概ね7年以内の女性や若者(35歳未満)、シニア(55歳以上)という、民間金融機関のみでは長期的・安定的な資金供給が難しい起業家に対し、日本政策金融公庫が低利融資を行う制度

J-Startup

世界で戦い、勝てるスタートアップ企業を生み出し、革新的な技術やビジネスモデルで世界に新しい価値を提供することを目指す経済産業省が、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とともに推進するスタートアップ企業の育成支援プログラム

(同省ウェブサイトより)

 

このうち、「未来投資戦略2018」を受けて経済産業省が立ち上げたベンチャー支援プログラムが「J-Startup」である。
「J-Startup」では、トップベンチャーキャピタリスト、アクセラレーター、大企業のイノベーション担当などが、日本のスタートアップ企業約10,000社の中から一押し企業を推薦し、外部審査委員会がその推薦内容を尊重しつつ企業をチェック。厳正な審査で選ばれた企業をJ-Startup企業として選定する。
選定されたスタートアップ企業に対しては、民間支援機関・NEDO・JETRO・METIによる事務局が中心となり支援するコミュニティを構築し、「J-Startup企業」とサポーター、政府機関を結びつけ、タイムリーかつスピーディな支援を実現する。
フォースタートアップス株式会社もサポーター企業の1社である。

 

 

 

(J-Startup資料より)

 

また、2020年7月には、内閣府・文部科学省・経済産業省が「スタートアップ・エコシステム形成に向けた支援パッケージ ~コロナを乗り越えて新たな成長軌道へ~」を発表した。新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、スタートアップ向けのリスクマネー供給の減少、事業展開や研究開発の停滞等、自律的なエコシステム形成に向けたリスクが顕在化し、大きな分岐点にあるとの危機意識の下で、スタートアップは、その機動性で、今後の社会変革に対応するイノベーションを牽引するキープレイヤーであると改めて位置付け、今後3年間を集中支援期間としてスタートアップ・エコシステム支援パッケージ(事業規模約1,200億円)を実行している。具体的には、アントレプレナーシップ教育の推進(大学における講座の開設など)、SBIR(Small Business Innovation Research)制度改革(研究開発型スタートアップ等への補助金等の支出機会の拡大や、初期段階の技術シーズから事業化までの一貫した支援)、J-Startup地域版の立ち上げ、JETRO等による海外発信等である。
経済産業省、内閣府、文部科学省以外に、総務省、厚生労働省、国土交通省、農林水産省、環境省、防衛省、財務省の各省もスタートアップ支援プログラムを打ち出しており、「ALL Japan」でのスタートアップ支援体制構築が加速している。

 

 

③経団連の提言
企業側もスタートアップの育成について積極的な姿勢を示している。
2022年3月、日本経済団体連合会(経団連)は「スタートアップ躍進ビジョン ~10X10Xを目指して~」との提言を公表した。
同提言では、「わが国の持続的成長の新たな牽引役として、グローバル級のスタートアップを継続的に創出することを目標とする。GAFAMのように既存産業にとって代わりグローバル市場を席巻するスタートアップは、全体の中のほんの一部であることから、母数すなわち起業の数自体を格段に増やすとともに、成長のレベルも引き上げる必要がある」との認識の下、以下のような目標を掲げている。
5年後(2027年)までにスタートアップの裾野、起業の数を10倍にするとともに、最も成功するスタートアップのレベルも10倍に高める。目標を確実に達成するために、それぞれについて以下のKPIを設定し、実現状況をモニタリングする。

 

◆裾野=起業の数を10倍にする
スタートアップの数を10倍=約10万社に
スタートアップへの年間投資額を10倍=約10兆円に
◆高さ=レベルを10倍にする
ユニコーン企業数を10倍=約100社に
ユニコーンから更に飛躍したデカコーン企業((時価評価額が100億ドル超の上場後1年以内の企業)数を2社以上に

 

④起業に向けた環境の変化
「2017年版 中小企業白書」によれば、我が国の開業率は2000年以降5%前後で推移し、欧米諸国に比べて一貫して低水準で推移している。

 

(2017年版 中小企業白書より)

 

ただ一方、フォースタートアップス株式会社が運営する「STARTUP DB」によれば、米ペンシルべニア大学ウォートンスクールと市場調査会社Y&Rが起業環境についての国際比較を行ったところ、日本は調査対象80か国中、イギリス、アメリカを抑え、ドイツに次いで第2位という調査結果を報告している(2021年版でもカナダに次いで第2位)。開業率が低水準なのは事実であるものの、上記のような政府の創業支援政策の積極化に加え、ICTの進化、クラウドサービスの普及・浸透など、起業に向けたハードルは確実に低下し、一段とスタートアップが産まれやすい環境が整いつつある。
こうしたことから、同社を取り巻く事業環境は中長期的なトレンドとしても良好である。

 

(同社資料より)

 

(4)事業内容

22年3月期より、「タレントエージェンシー&オープンイノベーション事業」と「ベンチャーキャピタル事業」の2つを報告セグメントとしている。

 

【タレントエージェンシー&オープンイノベーション事業】
「2023年3月期 売上高 2,998百万円、セグメント利益 592百万円」
「タレントエージェンシーサービス」と「オープンイノベーションサービス」の2つのサービスで構成されている。

 

 

<成長産業支援における各事業系統図>

 

(同社資料より)

 

◎タレントエージェンシーサービス
スタートアップ企業に対して人材支援サービスを提供し、支援内容は、成功報酬型の転職支援サービスと固定報酬型の採用支援コンサルティングを行う①人材紹介と、起業潜在層の発掘・起業サポートを行う②起業支援に区分される。

 

<サービス概要>
①人材紹介
(プロセス)
スタートアップ企業に対して、主として雇用期間の定めのない候補者を紹介する。
同社のコンサルタントであるヒューマンキャピタリストがスタートアップ企業から求人情報を獲得し、求人内容に合致する候補者を発掘し、ヘッドハンティングする。スタートアップ企業に人的資源を最適配置することを重視しているため、国内の人材紹介会社の多くが採用する登録型(求職者の登録媒体を設け求職者を集めるスタイル)ではなく、求人ニーズに合致した人材を効率的に発掘できるハンティング型を採用している。発掘にあたっては、主として株式会社ビズリーチ等が運営する外部の人材データベースを利用している。
同社が支援するスタートアップは独立系大手のベンチャーキャピタルである株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズを中心としたVCからの紹介案件が中心。VCは投資ポートフォリオの中でも、同社がCXO(経営チーム)の組閣を始めとした人材確保を支援することで、今後更に急成長すると期待するスタートアップを紹介するため、同社にとっても成功確率の高い案件を手掛けることとなる。また、紹介されるスタートアップは既にVCから出資を受けているため、支援にあたっての資金面での問題は無い。

 

(マッチングに際してのノウハウ)
スタートアップの要望に合う適切な人材を発掘、マッチングするにはノウハウが必要である。
同社では社内における情報の共有を重視している。ヒューマンキャピタリストは現在手掛けている案件について、「スタートアップの要望」「候補者の発掘およびマッチングの進捗」などを社内システムに随時登録し、他のヒューマンキャピタリストもそうした情報を共有できるようにしている。このため、仮に自分の手掛けている案件ではマッチングの可能性が低そうな場合でも、候補者を他のヒューマンキャピタリストの案件に紹介することで、マッチングの確率が向上し、結果的にスタートアップ、候補者双方が満足することとなる。
また、スタートアップの要求は時として、やや現実的ではないケースもあるが、そうした際、ヒューマンキャピタリストはスタートアップと会社の現状・今後の方針や見通しなどを深くディスカッションし理解したうえで、「このフェーズであればこの人で」「少しハードルを下げてこういう能力の人を2名採用してはどうか」等、現実的な提案を行うことも重要な役割である。

 

(収益)
候補者がスタートアップ企業に入社した事実を企業等に確認した上で、入社日を基準に成功報酬としてのコンサルティングフィーを収受している。成功報酬型以外にも、毎月一定数の候補者の提案や、ターゲット人材の設定等のコンサルティングサービスも提供している。売上は入社日が基準となるため、例えば2-3月に内定が出れば4月に入社することが多いなど、期間収益に影響を与えるため、同社内では内定を承諾した時点で計上する「受注」を重視している。主な原価は、候補者発掘にあたって使用する外部データベースの利用料など。
なお、(株)ビズリーチが運営する「ビズリーチ」経由での取引が人材紹介売上高のうち22年3月期で46.9%を占めている。同社では、今後もビズリーチ社との良好な関係を保ちながら取引を行うことに加え、複数媒体の利用推進によるリスク低減を図っている。

 

②起業支援
日本のスタートアップ・エコシステムの形成には、起業家数の増加が必要不可欠であると考えており、以下のような起業支援サービスを行っている。

ベンチャーキャピタルと連携した起業家創出プログラム

ベンチャーキャピタルと提携し、起業家の創出を行っている。

具体的には、同社が発掘した起業希望者を提携するベンチャーキャピタルに紹介し、そのベンチャーキャピタルが相談や起業サポートを行う。

研究機関と連携した起業家創出プログラム

国内の研究機関(大学等)には、高い技術力をベースにした優れたアイディア・人材が多く存在しているが、そのアイディアをビジネスとして実行できるケースは決して多くない。

そこで、日本が誇る優れた技術を成長産業へ成長させるため、大学系ベンチャーキャピタルと連携して経営陣等の人材支援を行う等、起業サポートを行っている。

 

いずれも、紹介した起業希望者や支援した経営陣等が実際に起業に至った場合には、同社はベンチャーキャピタルや研究機関から成功報酬を収受するほか、そのスタートアップ企業に対して継続的な人材支援を行う。

 

◎オープンイノベーションサービス
データベース「STARTUP DB」を活用し、大手企業や官公庁・自治体とスタートアップ企業の連携を促進している。
具体的なサービス内容は以下の通り。

資金調達支援

資金調達ニーズのあるスタートアップ企業に、主に大手企業などの資金提供元を紹介。

資金調達が行われれば、その規模に応じた手数料を収受する。

データベース課金

データベース「STARTUP DB」のデータを法人向けに提供。API連携も行っている。

定額利用料金を収受するほか、顧客ニーズに応じたデータ販売やサービス提供により収入を得る。

Public Affairs

官公庁・自治体によるスタートアップ業界関連の調査事業等を競争入札により受託する。

 

2021年4月に開始した資金調達支援は、スタートアップの成長を加速させるために事業会社やコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)からの資金調達を支援するもの。事業会社やCVCからのスタートアップ企業への出資は増加傾向にあるが、スタートアップの成長戦略を実現する適切な資本業務提携先に出会う機会は限定的である。また、CVCに限らず事業部本体からの調達可能性もあり、一つの企業の中でも複数の候補部署が存在し、スタートアップの戦略次第では同じ企業であっても適切な提携先の部署が異なることもある。
そこで、同社のオープンイノベーショングループでは、スタートアップの成長戦略を実現するために適切な資本業務提携先を紹介するサービスを開始した。同グループでは、多数の事業会社やCVCの出資注力領域や出資可能金額、出資検討期間などの出資ニーズを集約している。スタートアップの調達スケジュールや目的などを資本業務提携先に予め伝達することで、調達可能性がある企業との商談を実現。初回面談設定から調達実施までをフォローする。紹介可能な資本業務提携候補は毎月増加しているため、スタートアップの資金調達可能性は拡大している。
フィー体系はイニシャルコストが不要の完全成果報酬型である。

 

【ベンチャーキャピタル事業】
「2023年3月期 営業損失 7百万円」
起業支援または人材支援中の企業に対しスタートアップ投資を行うとともに、タレントエージェンシーとのシナジー効果を創出している。
22年3月期からスタートした新事業。2021年5月、投資事業を行う連結子会社「フォースタートアップスキャピタル合同会社」を設立した。創業以来、成長産業を「人材」から支援してきた同社だが、中長期の目標である「成長産業の支援インフラの構築」を実現するために、これまでの「人材」の支援に加え、「資金」の支援を行うことを目的としている。主力サービスであるタレントエージェンシーサービスとのシナジーを創出し、成長産業支援をより強固なものとする。
起業時や成長期における資金調達の支援にとどまらず、自ら資金提供者となることで責任と覚悟を持って起業家を支え、加えて人材支援で培ってきた同社の組織的能力を注力することによって投資先企業の成長速度と成功確度を高め、日本を代表するグローバルスタートアップ企業を創出する。
21年8月には最初のファンドとなる「フォースタートアップス1号投資事業有限責任組合」を設立。23/3期は3社へ投資を行い、投資先企業は5社となった。

 

(5)特長と強み

中長期的に良好な事業環境にある同社の特長・強み、競争優位性は以下の通りである。

 

◎ベンチャーキャピタル・起業家等イノベーションに関わるプレイヤーとのネットワーク
イノベーションの創出源泉となる新たなテクノロジーは、移り変わりが激しく、その結果としてスタートアップ企業の人材ニーズも大きく変動する。スタートアップ企業に人的資源を最適配置するには、スタートアップ企業自体だけでなく、成長産業に対する広範かつ深い理解が重要である一方、情報のキャッチアップコストや候補者とのマッチングコストが高いという課題がある。
そのため、この領域で収益性の向上を図るためには、スタートアップ企業に関連した幅広い情報収集力や企業側・候補者側双方をマッチングさせる仕組みが必要である。
同社は、この課題を解決するために、ベンチャーキャピタルや起業家、大手企業、政府、エコシステムビルダー等と密な連携を行う情報収集ネットワークを構築している。未公開企業への投資活動を専門に行っているベンチャーキャピタルは、投資背景等のスタートアップ企業に関する客観的な情報を保有している。一方、起業家は企業の将来的な展望や起業背景等の内面的な情報を保有していることから、ベンチャーキャピタル及び起業家と緊密な連携を行うことで、スタートアップ企業に関する様々な情報をタイムリーにキャッチアップすることができる。
具体的には、株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズやインキュベイトファンド株式会社等の複数のベンチャーキャピタルと定期的に情報交換を実施するとともに、起業家との勉強会も定期的に開催し、起業家とヒューマンキャピタリストが直接連携できる仕組みを構築している。
同社では、同一のヒューマンキャピタリストがクライアント企業及び候補者を担当する両面型の運営方式を採用している。
そのため、キャッチアップされたスタートアップ企業情報をヒューマンキャピタリストはタイムリーかつ正確に候補者に説明することができ、それにより候補者のヒューマンキャピタリストへの信頼感は一段と強まることとなる。
これが結果として難易度が高いCEO、CFO、事業責任者等の経営幹部層の採用に結びついている。

 

◎国内最大級の成長産業データベース「STARTUP DB」の活用
①概要
同社は、日本のスタートアップマーケットは、スタートアップ企業に関する客観的な情報が不足していると考えている。
そこで、その課題の解決のために、5年以上前からスタートアップに関する客観的な情報を収集し、統一データベース「STARTUP DB」を構築。2018年5月から原則無料で一部を公開している。掲載企業数は17,000社を超えている。

 

(同社資料より)

 

データベースの掲載内容は、スタートアップ企業の事業内容のほか、役員情報、資金調達情報、登記簿情報から算出した評価額等。マスコミや世界最大級のベンチャーデータベース「Crunchbase」とも連携してスタートアップ企業に関する情報を積極的に発信している。これらの公開情報に加え、ベンチャーキャピタルや起業家との情報収集ネットワークを通じて収集した情報を基に、独自のアルゴリズムを用いて各スタートアップ企業を数値化し、その情報を整理・序列化し、データベースとして蓄積。成長産業を可視化している(こちらは非公開)。
その上で、特に成長性が高いと同社が考える有力スタートアップ企業に対し優先的に人材紹介サービスを提供している。
これは、有力スタートアップ企業は調達資金額も多く、人材ニーズが旺盛なため収益機会が大きいことに加え、有力スタートアップ企業に人的資源を最適配置することが、結果的に次のユニコーン企業を生み出し、新サービスや成長産業の創出、日本の競争力回復にもつながると考えているためである。
ヒューマンキャピタリストは、「STARTUP DB」にいつでもアクセス可能であり、有力スタートアップ企業に優先的に候補者をマッチングできる環境が出来上がっている。
また2021年7月には、スタートアップとの事業創造をサポートするための新サービス「ENTERPRISE」の有償提供を開始した。
スタートアップとの接点を創出するだけではなく、事業会社とスタートアップ双方の健全な関係性の中で、速やかに事業創造を進め、さまざまな形で利益を生み出すためのプラットフォームを目指す。

 

(ENTERPRISE 4つの特徴)
◆全ての検索機能が利用可能
現在、「STARTUP DB」の無料ユーザーは検索結果の閲覧や一部機能に制限がかかっているが、ENTERPRISEユーザーは全ての検索機能が利用可能。ソート機能は累計調達金額の金額順や最終資金調達金額順などさまざまな条件で並び替えができる。今後のアップデートでは、ソート機能や条件付き検索の強化、データ取得などを予定している。
◆類似サービスの閲覧検索
協業・共創パートナーをリサーチする際に重要となる近しい領域の類似サービス閲覧も可能となる。リリース時は約1,500サービスを対象としているが、今後、類似サービスは順次アップデート予定。この機能により、1社のスタートアップ情報をもとに、類似サービスをリサーチすることが可能で検索効率を高めることができる。
◆リストアップ
ENTERPRISEユーザーの希望テーマにマッチしたコンタクトしたいスタートアップを同社専門チームがリストアップする。
専門チームはタレントエージェンシー、外部コミュニティマネージャーやアクセラレーションプログラムに携わってきたメンバーで構成されている。明確な定義が決まっていない調達シリーズの絞り込み、累計資金調達額のレンジや所在地など、データベース上での絞り込みが難しい条件にも柔軟に対応する。
◆商談オファー
協業・共創に向けた商談をスタートアップと行うにあたり、700社以上のスタートアップとの取引実績や、これまで培ってきたネットワークを通じて、接触希望のスタートアップへ専門チーム経由で商談を打診する。

 

②エンジニア組織「TechLab.」のテクノロジー
「STARTUP DB」を構築しているのが、社内のエンジニア組織「TechLab.」である。
「TechLab.」は、スタートアップ企業を支援する「STARTUP DB CLUB」、大企業向けデータ提供サービスの「STARTUP DB ENTERPRISE」のシステム運営・サービス提供を行っている。また、社内のヒューマンキャピタリスト向けの「業務支援ツール」や、転職者向けの「TALENTSHIP」の開発にも従事している。
同社の事業は、「Startups Data Platform」を基盤としたサービス開発を実現するテクノロジーの力で支えられている。

 

(6)実績

(同社資料より)


(同社資料より)

 

(同社資料より)

 

同社はメルカリを含め数多くの支援実績を積み上げており、VC、スタートアップ企業、政府、大企業、エコシステムビルダーから高い評価を得ている。累計人材支援数のうち約3割が経営幹部クラスであり、スタートアップの成長には同社の人材支援が不可欠となっている。

 

また、ベンチャーキャピタル事業として、23/3期はREADYFOR社、ポケトーク社、カケハシ社の3社へ出資し、現在5社に投資している。

 

(同社資料より)

 

2.2023年3月期決算概要

(1)業績概要

 

22/3期

構成比

23/3期

構成比

前期比

売上高

2,348

100.0%

2,998

100.0%

+27.7%

売上総利益

1,874

79.8%

2,457

82.0%

+31.1%

販管費

1,386

59.0%

1,872

62.4%

+35.1%

営業利益

488

20.8%

585

19.5%

+19.8%

経常利益

492

21.0%

586

19.6%

+19.2%

親会社株主に帰属

する当期純利益

382

16.3%

442

14.8%

+15.6%

*単位:百万円

 

前期比27.7%増収、同19.8%営業増益
売上高は前期比27.7%増の29億98百万円、営業利益は同19.8%増の5億85百万円。
スタートアップ業界を取り巻く環境は、金融資本市場の変動に端を発する世界的な株価低迷により、グローバル市場におけるIPO件数及び資金調達金額が前年比で大きく減少した中で、国内における2022年の資金調達額は、大企業から子会社への出資を除くと前年比で微増(参照:STARTUP DB)となった。しかし、米国をはじめとする主要国において金融市場が引き締めに転じ、米国では大手企業による人員削減や銀行の経営破綻等の景気後退懸念が強まる動きがみられた。国内においても、急激な物価上昇による消費者マインドの悪化が懸念されており、スタートアップ企業においてはIPOの延期やランウェイ(企業がキャッシュ不足に陥るまでの残存期間)を引き延ばすためのコスト抑制等の景気後退を見据えた動きがみられた。このような環境下、同社はグループが持つ情報やノウハウをベースに、成長見込が高いと判断したスタートアップ企業に対しての人材紹介、ならびに産学官を巻き込んだスタートアップ関連のサービス・事業を積極的に展開した。このような取り組みの成果により、厳しい事業環境の中、過去最高の業績を達成した。同社の想定以上に3月入社者が多くなり、第4四半期の売上高が、想定より上振れ当初の予想及び1月20日に開示した修正予想を上回った。更に、社員数は2023年3月末時点で166名と、前期末比で51名増し、50名純増という期初の目標を達成した。

 

 

厳しい外部環境の中、増収を継続した。

 

 

タレントエージェンシーは外部環境の影響を受け、コンサルティングサービスの受注が落ち込んだものの、人材紹介の受注は第2四半期並みに回復した。また、オープンイノベーションは翌期の準備が進んだ。

 

 

人員数は、2023年3月末日時点で166名となり、前期末比で51名純増。50名純増という期初目標を達成した。

 

営業利益の増減要因

 

(2)セグメント別動向

 

22/3期

構成比

23/3期

構成比

前期比

タレントエージェンシー&

オープンイノベーション事業

2,348

100.0%

2,998

100.0%

+27.7%

ベンチャーキャピタル事業

-

-

-

-

-

連結売上高

2,348

100.0%

2,998

100.0%

+27.7%

タレントエージェンシー&

オープンイノベーション事業

492

21.0%

592

19.8%

+20.3%

ベンチャーキャピタル事業

-4

-

-7

-

-

連結営業利益

488

20.8%

585

19.5%

+19.8%

*単位:百万円。営業利益の構成比は営業利益率。

 

【タレントエージェンシー&オープンイノベーション事業】

 

22/3期

構成比

23/3期

構成比

前期比

タレントエージェンシーサービス

2,156

91.8%

2,664

88.8%

+23.5%

オープンイノベーションサービス

191

8.2%

334

11.2%

+74.2%

売上高合計

2,348

100.0%

2,998

100.0%

+27.7%

*単位:百万円

 

◎タレントエージェンシーサービス
前期比23.5%の大幅増収の26億64百万円。
タレントエージェンシーサービスは、マクロ環境の不透明さを背景としたコスト抑制の動きから、一部のスタートアップ企業において採用ニーズの減少が見られた。人材紹介サービスは、前期の好業績を支えたSaaS企業のインサイドセールス、カスタマーサクセスといったセールス部門の大量採用ニーズがなくなるなど、厳しい事業環境となる中、経営幹部層・エンジニアなどの需要・難易度の高いポジションのピンポイント支援に注力した戦略へ転換した。その結果、紹介件数は減少したものの、単価が大幅に上昇し、人材紹介サービスの売上高は会社計画通りの推移となった。また、難易度の高いポジションのニーズをより強力に支援するコンサルティングサービスの営業強化により、コンサルティングサービスの売上高は会社計画を大幅に上回った。第4四半期(1‐3月)の人材紹介の単価は3,395千円、同じく人材紹介取引件数は178件と第1四半期並みの水準に戻った。一方で、足元のスタートアップの採用ニーズの状況に大きな変化はない。スタートアップの平均年収は上昇傾向にあり、優秀な人材への提示年収額も上昇している。第4四半期(1‐3月)はミドル層の支援が増加したものの、1年を通じてハイレイヤー人材の支援比率が向上した。23/3期第1四半期(4‐6月)頃から、マクロ環境の影響により、年収600万円未満の大量採用ニーズが一段落し、ミドル・ハイレイヤー層のピンポイント採用へトレンドが変化している。

 

 

 

◎オープンイノベーションサービス
前期比74.2%の大幅増収の3億34百万円。
オープンイノベーションサービスは、同社グループが運営するデータベース「STARTUP DB」の大手企業向け有料会員サービス、官公庁・自治体におけるスタートアップ関連事業を受託して産学官の連携を支援する「Public Affairs」、大手企業とスタートアップ企業の提携を推進する「資金調達支援」といった、スタートアップエコシステムの構築を推進する各種サービスを提供している。前期から開始した「STARTUP DB」の有料ユーザー数の増加や、Public Affairsが主に地方自治体からのスタートアップ関連事業を受託するなど順調に規模が拡大した。
「Public Affairs」や「STARTUP DB」の大企業向けデータベース課金サービスが堅調に推移した。

 

 

<Public Affairsの実績>
全国のスタートアップ関連事業の受託やプログラム参画を進めるスタートアップ・エコシステム8拠点のうち4拠点において連携を行った。

拠点都市

実施主体

事業名

東京コンソーシアム

港区

スタートアップ事業成長プログラム

Central Japan Startup Ecosystem Consortium

愛知県

シンガポール国立大学連携事業

浜松市

Next Innovator 育成事業

スタートアップ成長支援事業

大阪・京都・ひょうご神戸

コンソーシアム

関西広域連合

関西スタートアップ・エコシステム情報発信事業

大阪産業局

スタートアップ・コンソーシアム Executive Advisor

一般社団法人京都

知恵産業創造の森

Kyoto Launch Site インキュベーションプログラム事業

京都市

戦略的首都圏企業連携推進業務

広島地域イノベーション

戦略推進会議

広島県

ひろしまユニコーン10アクセラレーション業務

 

【ベンチャーキャピタル事業】
23/3期は、前期に続き管理費用のみが発生していることから、ベンチャーキャピタル事業のセグメント損失は7,511千円(前期4,318千円の損失)となった。また、23/3期において、新たにREADYFOR株式会社、ポケトーク株式会社、株式会社カケハシの3社へ投資を行い、投資先企業は5社となった。なお、当セグメントには、子会社であるフォースタートアップスキャピタル合同会社、及び同社を通じて組成したフォースタートアップス1号投資事業有限責任組合が含まれている。

 

(同社資料より)

(3)財政状態及びキャッシュ・フロー

財務状態

 

22年3月

23年3月

 

22年3月

23年3月

現預金

1,717

1,745

未払金

614

426

売上債権

272

331

短期有利子負債

116

66

営業投資有価証券

154

463

流動負債

1,016

779

流動資産

2,167

2,567

長期有利子負債

66

-

有形固定資産

135

123

固定負債

66

-

無形固定資産

2

0

純資産

1,485

2,190

投資その他

262

278

負債・純資産合計

2,569

2,969

固定資産

401

402

有利子負債合計

183

66

*単位:百万円。

*単位:百万円。

 

23年3月末の総資産は前期末比4億円増の29億69百万円。資産サイドではベンチャーキャピタル事業による株式の取得による営業投資有価証券や受注の回復に伴う現預金、売上債権などが主な増加要因となった。負債・純資産サイドでは、当期純利益の計上に伴う利益剰余金などが主な増加要因となった。総資産の約86%を流動資産が占める等、資産の流動性が高い。23年3月末の自己資本比率は、59.5%と前期末から8.2ポイント上昇した。
なお、ベンチャーキャピタル事業からの投資額が、営業投資有価証券として表示される。基本的に投資先が未上場会社の場合は取得原価、上場会社の場合は時価により評価される。また、ベンチャーキャピタルの出資持分のうち、外部出資者に帰属する部分が非支配株主持分として計上される。

 

キャッシュ・フロー

 

22/3期

23/3期

前期比

営業キャッシュ・フロー

605

-35

-640

-

投資キャッシュ・フロー

-168

-90

77

-

フリー・キャッシュ・フロー

437

-125

-563

-

財務キャッシュ・フロー

237

153

-84

-

現金及び現金同等物の当期末残高

1,717

1,745

27

+1.6%

*単位:百万円

 

 

*単位:百万円

 

営業CFはマイナスに転じた。これは、子会社を通じて組成したファンドからのスタートアップ企業への投資活動にあたる「営業投資有価証券の増減額308 百万円」によるもの。
ファンドから投資する際は、同社の出資に加えて、他の出資者からの出資額を含めて投資しており、この際、実質のキャッシュアウトは約 40百万円だが、連結会計上 2023年3月期のファンドからの投資額 3億8百万円全額が営業 CF のマイナス「営業投資有価証券の増減額」として計上され、他の出資者からの資金 2億66百万円は財務CFのプラス「非支配株主からの払込みによる収入」として計上されるため、営業CFにおいては、実質よりマイナスに作用している。
単体のCF計算書は開示していないが、連結のCF計算書から「営業投資有価証券の増減額」を除いた営業CFはプラスである。
今期においても、ファンドの投資額次第で連結会計上の営業CFは表面上、縮小若しくはマイナスとなる可能性はあるが、キャッシュ・フロー経営を前提としながら、成長に向けた投資を進めていく考えである。

 

3.2024年3月期業績予想

(1)連結業績

 

23/3期

構成比

24/3期

構成比

前期比

売上高

2,998

100.0%

3,300

100.0%

+10.0%

営業利益

585

19.5%

330

10.0%

-43.6%

経常利益

586

19.6%

330

10.0%

-43.8%

親会社株主に帰属

する当期純利益

442

14.8%

240

7.3%

-45.8%

*単位:百万円

 

前期比10.0%の増収、同43.6%の営業減益
足元では、国内外における資金調達環境が悪化している。スタートアップ企業において、人材採用は調達した資金の重要な充当先の一つであり、同社のタレントエージェンシーサービスにおける注力顧客の中にも、コストの抑制により採用を絞る企業や、採用を一時的に停止している企業も存在する。厳しい事業環境であるものの、中長期の成長にフォーカスし24/3期は「未来を育む種まきの1年」とする方針である。
24/3期の会社計画は、売上高が前期比10.0%増の33億円、営業利益が同43.6%減の3億30百万円の予想。タレントエージェンシーでは、スタートアップの採用ニーズ低下によるコンサルティングサービスの減収を見込むものの、顧客層を広げ、人材紹介サービスは増収を目指す。オープンイノベーションでは、オープンイノベーション全体のシナジーの創出を実現するために投資を進める。STARTUP DBはユーザー数拡大のためにさらなる投資を進め、Public Affairsはリソースを拡大し、規模を徐々に拡大する。更に、11月にカンファレンスの開催を予定しており、海外も交えVCとスタートアップとの接点を創出する。厳しい事業環境の継続により、タレントエージェンシー、オープンイノベーションともに売上高と売上総利益が緩やかな増加にとどまる中、23/3期下期の社員増加や既存社員の昇給による人件費の増加が影響し、各段階利益は前期比で減少する見込みである。売上高営業利益率は、前期比9.5ポイント低下の10.0%を予定。

 

営業利益の増減要因

厳しい事業環境を受け、タレントエージェンシーとオープンイノベーションの売上総利益は緩やかな増加にとどまる中、23/3期下期の社員増加や既存社員の昇給による人件費の増加が影響する。

 

(2)24/3期の重点施策

①ヒトの支援領域にリソースを集中投下
政府のスタートアップ支援に関する各種施策に基づき、ヒトの支援領域にリソースを集中投下する。特に、Pre-IPOマーケットの人材紹介シェアで『圧倒的No.1』を目指す。最重要領域は「ヒト」で、『人の無限大の可能性を最も信じた事業創造・社会創造・未来創造』がテーマとなる。付加価値と利益率の高い領域に経営資源を集中する。既存のPre-IPOスタートアップ領域については、顧客層を広げて支援を行いシェアを確立し、『圧倒的No.1』だからこそできるVCやオープンイノベーションへの波及をも視野にいれる。加えて、新ブランドの立ち上げも検討する。

 

(同社資料より)

 

②Pre-IPOスタートアップの顧客拡大(タレントエージェンシー)
タレントエージェンシーでは、社内リソースの観点から、直近ではレイターステージの厳選顧客への支援を中心に行っていたものの、人員増加を背景に、次のユニコーン企業になりうるチームを支援するための『種まき』を進める。
アーリー期でハイレイヤーやボードメンバーを支援すると数年後、採用ニーズの拡大やVC事業からの資金支援へ結びつく。更に数年後には、IPO後の継続的な支援にもつながる。これらの好循環を通じて、グロース企業の経営層の人材紹介でシェアNo.1を獲得する。

 

(同社資料より)

 

③人材育成の強化(タレントエージェンシー)

優秀かつ伸びしろのある人材採用は継続的にできているものの、タレントエージェンシーでは入社後2年未満の社員が全体の約64%を占め、在籍年数が短い社員の割合が増加している。一時的に生産性が下がるものの、チームの総合力向上のために人材育成の強化を図る。

 

【具体的な施策】
◎スタートアップ企業の情報に加え、経営に関する知識や最新ビジネストレンドのインプット
◆起業家・有識者等から学ぶ「進化塾」の開催
◆各スタートアップの経営戦略を学ぶ「勉強会」◎転職希望者との面談時、ベテラン・エース社員の同席
◎両面型として担当企業を積極的に任せ、ヒューマンキャピタリストとして担当企業支援の責任を負うとともに、将来のマネジメ
  ント候補を育成
◎人材紹介業における重要な法令、契約内容等も踏まえた総合的な育成研修の充実化

 

 

(同社資料より)

 

④STARTUP DBへの投資(オープンイノベーション)
STARTUP DBをハブとした事業展開を見据えた投資を実行する。

 

(同社資料より)

 

⑤成長産業支援のシナジーを創出するビジネスモデルを構築
さまざまな情報を集約し、成長産業支援の各ビジネスへ展開する。

 

(同社資料より)

4.中期業績目標

同社は、中期業績目標の修正を行った。当初想定していた事業環境から大きく変化している状況をふまえ、公表していた25/3期連結売上高50億円の目標値を繰り延べ、25/3期に連結売上高40~45億円、26/3期に50億円~55億円を目指す。また、営業利益率については、短期的には厳しい環境にあるものの、中長期的には大きな拡大余地が見込めることから、中長期視点での投資を重視し、24/3期は10%、25/3期以降は15%を基準とし、上振れ分については翌年度以降の売上高拡大に向けた再投資に充当する。

 


 

5.今後の注目点

24/3期の会社計画は、前期比10.0%の増収ながら、同43.6%の営業減益予想となった。これは、国内外における資金調達環境の悪化を受け、顧客であるスタートアップ企業において、コスト抑制のための採用の絞り込みや採用の一時停止が行われるリスクを織り込んだものである。このような外部環境の悪化により、タレントエージェンシーとオープンイノベーションにおいて売上高と売上総利益が緩やかな増加にとどまると、23/3期下期の社員増加や既存社員の昇給による人件費の増加が重くのしかかるのは致し方ないことである。一方で、中長期的に見れば同社を取り巻く事業環境はとても明るい。政府の成長戦略において、産業競争力強化の観点からスタートアップ企業の支援及びスタートアップエコシステム強化の重要性が提唱されている。政府は2022年を「スタートアップ創出元年」と定め、2022年11月に公表された令和4年度補正予算案において、スタートアップ関連事業に約1兆円の補正予算が閣議決定され、2022年11月末には『スタートアップ育成5か年計画』が公表された。更に、この『スタートアップ育成5か年計画』では、5年後の2027年度に、スタートアップへの投資額を10倍超(10兆円規模)とすることを目標に掲げ、日本がアジア最大のスタートアップハブとして世界有数のスタートアップの集積地になることを目指す方針が打ち出された。
事業環境の悪化を受け、足元では人員増強が利益成長の制約となっているものの、この人員増強は将来の成長ドライバーとなりえる。タレントエージェンシーでは入社後2年未満の社員が全体の約64%を占め、在籍年数が短い社員の割合が増加している。同社では一時的に生産性が低下するものの、チームの総合力向上を目指し、今後人材育成のために各種の施策を積極的に推進する。入社後2年未満の社員がいつ頃から戦力化し、同社の成長加速を牽引するのか注目される。
また、同社は今後Pre-IPOスタートアップの顧客拡大を目指す。直近では社内リソースの観点から、レイターステージの企業を中心に支援を行ってきた。過去2年の人員増強により、次のユニコーン企業になりうるチームを支援するための『種まき』を進めることも可能となった。次のユニコーン予備軍の新規開拓は、いずれ同社が得意とするレイターステージの顧客数の拡大に結びつく可能性が高い。長期的な話とはなるものの、Pre-IPOスタートアップの開拓状況にも期待を込めて注目したい。

<参考:コーポレート・ガバナンスについて>

◎組織形態、取締役、監査役の構成

組織形態

監査役設置会社

取締役

8名、うち社外3名

監査役

3名、うち社外2名

※23年6月開催予定の定時株主総会で監査等委員会設置会社への移行を予定している。

 

◎コーポレート・ガバナンス報告書
最終更新日:2022年6月17日

 

<基本的な考え方>
当社は、「for Startups」という経営ビジョンのもと、ユーザー、クライアント、株主、従業員、取引先、社会等のステークホルダーに対する責任を果たし、全てのステークホルダーからの信頼を獲得することを基本的な考え方としております。当該基本的な考え方のもと、経営のさらなる効率化と透明性の向上、業務執行の監督機能の強化等のコーポレート・ガバナンスの充実を図り、企業価値を安定的かつ継続的に向上に努めていく方針であります。

 

<コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しない理由>
当社は、コーポレートガバナンス・コードの基本原則を全て実施していく方針です。

 

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