ブリッジレポート
(7776) 株式会社セルシード

グロース

ブリッジレポート:(7776)セルシード 2022年12月期第2四半期決算

ブリッジレポートPDF

 

橋本 せつ子 社長

株式会社セルシード(7776)

 

 

企業情報

市場

東証グロース市場

業種

精密機器(製造業)

代表者

橋本 せつ子

所在地

東京都江東区青海二丁目5番10号 テレコムセンタービル

決算月

12月

HP

https://www.cellseed.com/

 

株式情報

株価

発行済株式数(期末)

時価総額

ROE(実)

売買単位

158円

22,159,419 株

3,501百万円

-

100株

DPS(予)

配当利回り(予)

EPS(予)

PER(予)

BPS(実)

PBR(実)

0.00

-

-43.49

-

56.44円

2.8倍

*株価は9/1終値。発行済株式数、DPS、EPSは22年12月期第2四半期決算短信より。ROE、BPSは前期実績。

 

業績推移

決算期

売上高

営業利益

経常利益

当期純利益

EPS

DPS

2018年12月

1,026

140

140

129

11.35

0.00

2019年12月

275

-780

-786

-782

-66.60

0.00

2020年12月

199

-719

-744

-783

-55.31

0.00

2021年12月

161

-864

-887

-914

-53.18

0.00

2022年12月(予)

209

-834

-834

-838

-43.49

0.00

*予想は会社予想。単位:百万円、円。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。21年12月期までは連結。22年12月期は非連結。

 

 

(株)セルシードの2022年12月期第2四半期決算概要等についてご報告致します。

目次

今回のポイント
1.会社概要
2.2022年12月期第2四半期決算概要
3.2022年12月期業績予想
4.今後の注目点
<参考1:中期経営計画>
<参考2:コーポレート・ガバナンスについて>

 

今回のポイント

  • 22年12月期第2四半期は減収、損失縮小。売上高は前年同期比8.6%減の74百万円。営業利益は3億48百万円の損失。前年同期は4億66百万円の損失。売上・利益ともほぼ予想通りであった。(前年同期は連結、当四半期は非連結。増減はインベストメントブリッジが計算した参考値、以下同様)。

     

  • 再生医療支援事業は売上高70百万円、営業損失40百万円(前年同期は19百万円の損失)。細胞培養器材の開発・製造施設を新設し2021年9月より本格稼働を開始した。同施設の本格稼働により、再生医療市場における細胞培養器材の販売のみでなく、研究用細胞の大量培養を目的とした新たな用途での細胞培養器材製品の販売、特に海外の旺盛な需要に対応する。また、2022年4月より細胞培養器材のユーザー向けサポートサービスを開始した。また細胞培養センターを活かした再生医療を支援する再生医療受託事業については、共同研究先である東海大学より先進医療にかかる自己軟骨細胞シートの製造を受託し、1症例の売上を計上した。

     

  • 細胞シート再生医療事業の売上高は4百万円、営業損失2億7百万円(前年同期は3億19百万円の損失)。食道再生上皮シートパイプラインでは、追加治験を引き続き実施中で、製造販売承認申請の時期については、2025年を予定している。海外展開においては、新型コロナウィルスの感染拡大の影響により遅れが生じているものの、今後も引き続きMetaTech社に対しての食道再生上皮シート及び軟骨細胞シート事業にかかる支援を行う。また台湾以外の新規事業先候補とも積極的に交渉を重ねていく。

     

  • 業績予想に変更はない。22年12月期の売上高は前期比47百万円増の2億9百万円、経常損失は同53百万円縮小の8億34百万円の予想。再生医療支援事業では、引き続き器材製品を中心に特に海外の販売の拡大を図る。10月に新製品UpCell®フラスコ及びインサートの販売開始を予定している。また、再生医療に関わる総合的なサポートを通じて、再生医療の研究開発・事業化を支援する再生医療受託製造等を推進する。自己軟骨細胞シートの製造受託は第3四半期以降に複数症例の売上計上を予定している。これらを通してセグメント売上高2億9百万円を見込んでいる。

     

  • 細胞シート再生医療事業では、引き続き主に食道再生上皮シート及び同種軟骨細胞シートの開発を推進する。またパイプラインの技術導出に向けアジア以外の欧米の新規事業先候補とも積極的に交渉を重ねていく。なお、2022年4月には、日本において「組織再生培養細胞シート、製造方法及びその利用方法」に関する特許が特許査定となり登録された。

     

  • 「産業利用に対応した多指(趾)症手術時の切除組織の提供契約の基本的事項で国立成育医療研究センターと合意」「中枢神経損傷関連疾患に対する新規治療についての共同研究を開始」など、細胞工学シートの開発推進に向けた進捗も見られた22年12月期上期であった。10月に予定されている新製品UpCell®フラスコ及びインサートの収益寄与の状況に加え、引き続き、今年末までに予定している同種軟骨細胞シートの治験届提出が計画通り進捗するかを注視していきたい。

1.会社概要

【1-1 セルシードの再生医療】

失われた臓器や損傷あるいは機能が低下した臓器を再生して治療する新たな医療である再生医療。
東京女子医科大学の岡野光夫名誉教授・特任教授が開発した日本発・世界初の「細胞シート工学」を基盤技術とし、2つの事業を展開している。
一つは、同技術に基づいて作製した「細胞シート(シート状の培養細胞)」を用いた再生医療等製品の開発を行う「細胞シート再生医療事業」。
もう一つが、細胞シートの基盤ツール(培養器材)である温度応答性細胞培養器材等の開発・製造・販売及び再生医療の研究開発・事業化を支援する再生医療受託サービスを提供する「再生医療支援事業」である。

 

「細胞シート工学」 - 再生医療の基盤技術 -

(同社資料より)

 

「細胞シート工学」は東京女子医科大学岡野光夫名誉教授が発明した日本発・世界初のプラットフォーム技術である。温度によって分子構造を変える性質を持つ温度応答性ポリマーで表面を加工した細胞培養皿「UpCell®」で細胞を培養する。細胞培養皿の表目は37℃で細胞が付着できる適度な疎水性(水分を弾く性質)になり、20℃では細胞が付着できない親水性(水分を含む性質)になる。このため、温度を変えるだけで、細胞外マトリックス(接着蛋白質)を保持したまま有機的に結合した「細胞シート」を培養皿から回収することができる。
一般に細胞は細胞外マトリックスを分泌し、自らを固定する事により増殖する性質を持つ。言い換えると、接着蛋白質を分泌しながら自らをどこかに固定しないと増殖できないのだが、従来の培養方法では、培養した細胞をトリプシン等の蛋白質分解酵素を用いて接着蛋白質を分解して回収していた(接着蛋白質を分解する以外に培養細胞の回収方法が無かった)。

 

巨大な再生医療マーケット
再生医療の市場規模は、2050年には国内市場2.5兆円、世界市場38兆円と予想され、今後極めて大きな経済効果が期待される。

 

(同社資料より、単位:億円)

 

拡大する細胞培養器材市場
再生医療研究の進展と合わせ、近年は大量に培養した細胞を利用したバイオ医薬品の製造、細胞そのものを用いた免疫療法の開発、食料問題や環境問題の解決に向けた取り組みが盛んに行われている。
現在、一般的に使用される細胞回収技術であるタンパク質分解酵素の利用においては、細胞はダメージを受けた状態で回収され、細胞が有する本来の機能、成分を完全に維持する事が困難だが、同社の温度応答性細胞培養器材製品を導入する事により細胞を無傷で回収する事が可能となる。
これにより細胞本来が有する全ての機能、成分を維持したまま利用できるため、新規市場における産業面での効率や有効
性が大きく改善される可能性が注目されている。

 

(同社資料より)

 

日本が世界をリードする細胞シート工学
「細胞シート工学」は約30年前に論文が発表され、以来、多くの論文発表や特許出願がなされているが、ライフサイエンス分野で日本が特許出願、論文で先行している数少ない技術である。「UpCell®」のグローバル販売開始後、出願・論文とも増加傾向にある。

 

(同社資料より)

【1-2 セルシードのビジネスモデル】

Mission : 価値ある、革新的な再生医療をリードし、世界の医療に貢献します

 

細胞シートを使った大学の研究成果をシーズとして、同社が治験を行い再生医療製品として製品化し、患者に届けている。

 

(同社資料より)

 

【1-3 事業内容】

(1)細胞シート再生医療事業
「細胞シート工学」を基盤技術とする治療の開発は様々な部位に用いられているが、同社では、「食道再生上皮シート」と膝軟骨の「軟骨細胞シート」の2本に注力しつつ、中枢神経損傷関連疾患に対する新規治療について北海道大学との共同研究も開始した。

 

「食道再生上皮シート」は、2016年4月に国内で治験を開始したが、有効性についての十分なデータを得ることができなかった。このため、2020年10月に追加治験届を提出、2021年2月に第1例目症例登録を行った。海外では、17/12期4月に台湾の三顧股有限公司(以下、MetaTech社)と事業提携契約を締結し、MetaTech社が2018年12月末に治験届を提出している。

 

「軟骨細胞シート」は、東海大学医学部付属病院が申請していた先進医療が2019年1月に承認され、2020年より再生医療Bの治療が開始された。また、MetaTech社への導出も実行され、台湾の法律(日本の先進医療Bに準じた法律)をもとに自己軟骨シートの事業化が進められている。

 

「細胞シート工学」を用いた治療の開発

(同社資料より)

 

「食道再生上皮シート」
日本では、年間約26,300人が食道がんと診断され、年間約11,100人が食道がんで死亡している。男性の発症率、死亡率は女性の5倍と高い。また、日本では食道がんの90%が扁平上皮がんであり、5年相対生存率は男性41%、女性46%と共に50%以下。
治療法として、2008年に保険収載された内視鏡切除手術(ESD)が増加しているが、ESDは手術後の食道狭窄の副作用がある。
しかし、食道再生上皮シートの導入により、食道狭窄の生じる頻度を抑制することができ、QOL(Quality of Life)の向上が期待できる。

 

食道再生上皮シートは、東京女子医科大学が開発した治療法であり、患者の口腔粘膜から採取した細胞を温度応答性培養器材で約2週間かけて培養し、細胞シートを作成する。細胞シートの培養に合わせて、食道がん切除内視鏡手術を行い、食道潰瘍面に移植する。2008年から2014年にかけて大学で臨床研究が行われ、東京女子医科大学10症例、東京女子医科大学・長崎大学10症例(長距離輸送検証:長崎大学で採取した細胞を東京女子医科大学で培養し、長崎大学で移植手術)、カロリンスカ大学病院(スウェーデン)10症例、の計30症例が既にあり、同社は、東京女子医科大学と開発基本合意契約を締結して同大学の研究成果を事業化に向けて引き継いだ。
2016年4月に治験届を提出し、2019年3月に治験を終了したが、統計的な優位性が証明されず追加治験が必要となった。その後PMDAとの追加治験に関する協議が完了したため、2020年10月に追加治験届を提出し、2021年2月には第1例目症例が登録された。2017年2月には厚生労働省より再生医療等製品の「先駆け審査指定制度」の対象品目指定を受けた。同社では、2025年の製造販売承認申請を予定している。

 

海外では2017年4月に提携した台湾MetaTech社へ導出。2018年にはMetaTech社が治験届を提出した。
一方、スウェーデン子会社を拠点に欧州における開発も進めていたが、欧州における内視鏡治療の普及が当初想定したよりも進んでいないことや日本における製造販売承認の取得に注力するため、2020年に開発中止を決定した。

 

(同社資料より)

 

「軟骨細胞シート」
「軟骨細胞シート」は、東海大学整形外科 佐藤正人教授との共同研究であり、スポーツによる損傷や加齢を原因とする軟骨欠損や変形性関節症を適応症とする。

 

変形性膝関節症とは、緩徐に進行する難治性の関節軟骨変性で、根本治療がない。国内における患者数は潜在的に約3,000万人、そのうち自覚症状を有する患者数は約1,000万人と推定されている。また、高齢化により患者数の増加が予測され、国民健康寿命・介護費・医療費の観点から喫緊に対処すべき疾患であると言う。佐藤正人教授との共同研究は軟骨表面の根本的な再生を目的としている。膝の軟骨は、硝子(しょうし)軟骨と言い、耳や鼻等の軟骨とは異なり、クッション性と対摩耗性に優れた硬い軟骨で再生が難しい。しかし、共同研究を進めている「軟骨再生シート」は、硝子軟骨として膝の軟骨を再生できる事が臨床研究で確認されている。

 

佐藤正人教授は、2010年に自己軟骨シートの臨床研究を開始し8症例を完了した。また、2019年1月には厚生労働省「第71回先進医療会議」において、東海大学医学部付属病院が申請していた「自己細胞シートによる軟骨再生治療」が先進医療Bとして承認された。先進医療として自己細胞シートによる軟骨再生治療の実施に際して、同社が軟骨細胞シートの製造を請け負うが、2020年8月に先進医療Bの第1号患者の手術が完了した。
導出先である台湾MetaTech社は台湾の法律(日本の先進医療Bに準じた法律)を基に自己軟骨シートの事業化を開始し、10名の患者への移植手術を実施。これによりセルシードはマイルストーン収入50百万円を受領した。
また、2019年11月には、佐藤正人教授との共同研究の成果の一つである「細胞培養シート、製造方法及びその利用方法」を米国で東海大学と共同特許出願し成立した。これにより、日米欧で知的財産権が保護された。

 

(同社資料より)

 

患者以外の細胞を基にした細胞シートである同種軟骨シートによる治療の研究開発も進められている。
佐藤正人教授が2017年2月に臨床研究(同種軟骨細胞シートの移植手術)を開始し、3年間で10名の患者に移植。2019年12月に10症例目となる移植が終了した。
同種軟骨シートによる治療は、AMED「再生医療の産業化に向けた評価化基盤技術開発事業(再生医療シーズ開発加速支援)」に採択されている(事業期間:2018年10月~2021年3月)。

 

同種細胞による軟骨細胞シートの開発には、指が6本ある多指(趾)症患者の廃棄組織を使用するため、倫理上の課題を解決する必要があるが、2020年12月には国立成育医療センターより多指症患者から採取した軟骨組織提供の承認を取得した。また、2022年8月には産業利用に対応した多指(趾)症手術時の切除組織の継続的な供給と事業化に向けた体制の構築を目的に、同医療センターと検体提供に関する契約の基本的事項について合意し、今後は同種軟骨細胞シートの治験および製造販売に向けて、原料となるヒト組織の供給を継続的に受けることが可能となった。
加えて、2021年7月には、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が公募した補助事業である令和3年度「再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業(再生・細胞医療・遺伝子治療産業化促進事業)」に、セルシードが提案した研究開発課題が採択を受けた。
2022年4月には、日本において「組織再生培養細胞シート、製造方法及びその利用方法」に関する特許が特許査定となり登録された。

 

一方治験開始までには、安全性および有効性の確認や、品質の担保のための体制作りも不可欠であり、組織から作成した細胞バンクの安全性および有効性の確認、細胞シートの品質管理及び輸送方法の確立などにも取り組んでいる。

 

こうした一連の流れにより、治験および製造販売承認に向けた研究開発は加速しており、同社では、2022年末の治験届提出を予定している。

 

<同種細胞>軟骨細胞シートの開発

 

(同社資料より)

 

2020年11月には、鳥取大学発ベンチャー企業であるカノンキュア株式会社との間で、カノンキュアが再生医療等製品として開発を進める間葉系幹細胞を利用した肝疾患治療用細胞シートの治験製品製造に向けた技術移転契約を締結したが、カノンキュア社の開発方針の変更により、セルシードに対する技術移転中止の意向の連絡を受け、両社で慎重に協議した結果、2021年12月、同契約を解除することに合意した。

 

(2)再生医療支援事業
「UpCell®」「RepCell®」「HydroCell®」などの細胞培養器材等の開発・製造・販売、及び細胞シート製品の製法開発・受託製造、施設管理・申請支援、細胞培養技術者教育等の再生医療受託サービスを手掛けている。

 

①各事業内容
*細胞培養器材等の開発・製造・販売
1989年に東京女子医科大学の岡野教授が発明した温度応答性細胞培養器材は、温度を下げるだけで細胞を剥離することができるため、世界で初めて無傷な細胞シートを回収することを可能とした。
温度応答性細胞培養器材は世界中に販売され、多くの研究者により細胞シートを用いた治療法の研究・開発が盛んに進められている。

 

これまでもユーザーのニーズに合わせ、様々な器材製品を開発・供給してきたが、2022年10月には新製品UpCell®フラスコ、UpCell®6ウェル用セルカルチャーインサートの販売を予定している。
UpCell®は、温度応答性ポリマーを器材表面に固定し、細胞に損傷を与える酵素を用いることなく、無傷な細胞がシート状に回収可能な器材。
UpCell®フラスコは、従来のUpCell®ディッシュよりも培養面積を拡大した製品も販売予定で、ダメージを受けていない状態の細胞をより大量に回収が可能となり、免疫研究や細胞治療に関連する研究に最適である。UpCell®6ウェル用セルカルチャーインサートを用いた共培養など生体環境に近い培養により、生体機能をより高いレベルで維持した細胞シートの回収が可能となる。

 

*細胞シート製品の製法開発・受託製造
製薬会社・研究機関からの委託を受けて、主に細胞シートの受託開発・製造を行う。日本再生医療学会認定の臨床培養士が所属しており、培養の経験豊富なスタッフによる再生医療等製品の製法開発・製造を特定細胞加工物の製造許可を受けた細胞培養加工施設で行う。
加えて、製品の開発から製造販売に至るまでの各段階に応じた当局対応承認申請書作成、製造業・製造販売業許可取得支援、技術者の教育などを支援している。

 

再生医療受託サービスの主な受託案件は、自己軟骨細胞シート、肝疾患治療用細胞シート、歯根膜細胞シート、小児自己上皮細胞シートなど。
自己軟骨細胞シートは、再生医療等安全性確保法の法律の下で行われる先進医療Bとして2019年1月に承認され、2020年には東海大学が先進医療Bを開始。セルシードによる自己軟骨細胞シートの製造受託が始まった。2022年も引き続き受託している。
肝疾患治療用細胞シートは、前述の通り、2020年11月に、鳥取大学発ベンチャー企業であるカノンキュア株式会社との間で、肝疾患治療用細胞シートの治験製品製造に向けた技術移転契約を締結したが、カノンキュア社の開発方針の変更により、セルシードに対する技術移転中止の意向の連絡を受け、両社で慎重に協議した結果、21年12月、同契約を解除することに合意した。
歯根膜細胞シートは、医師主導治験で用いる細胞シート受託製造の第1号案件である。
小児自己上皮細胞シートは、先天性食道閉鎖症術後の小児を対象としている。

 

近年は大量に培養した細胞を利用してバイオ医薬品の製造や、細胞そのものを用いた免疫療法、更には食料問題や環境問題の解決に向けた取り組みが盛んに行われている。
一般的に使用される細胞回収技術であるタンパク質分解酵素の利用では細胞はダメージを受けた状態で回収され、細胞が有する本来の機能、成分を完全に維持する事が困難だ。これに対し、同社製品を導入すれば細胞を無傷で回収する事が可能で、細胞本来が有する全ての機能、成分を維持したまま利用できるため、新たな市場における産業面での効率性や有効性を大きく改善すると期待されている。

 

また、一貫した品質及びサービスを提供するために、「ISO09001」「ISO13485」の認証を維持しているほか、特定細胞加工物製造許可、再生医療等製品製造業許可を取得している。

 

②主要施設・設備
細胞培養センター
先進医療に使用される細胞シートは同社の細胞培養センターで培養(受託加工)している。
延床面積約763㎡で、自動モニタリングシステムによって、清浄度、室圧、温湿度、機器(培養器や保冷庫等)が自動管理され、監視カメラシステムも完備。また、羽田空港まで車で約20分と至近で空輸にも対応しやすい。
2017年3月に取得した「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」第35条第1項の規定に基づく「特定細胞加工物製造許可」(許認可権者:厚生労働省)は、2022年3月に許可の更新が認められた。同許可により特定細胞加工物の受託製造も可能である。
2018年10月には再生医療等製品製造業許可を取得しており、品質を第一とした細胞シートの受託製造体制を構築している。

 

(同社資料より)

 

青海セルカルチャーイノベーションセンター
2021年9月より本格稼働を開始した。フラスコ製品の開発・製造など、細胞培養器材の開発・製造を行っている。

 

【1-4 成長戦略】

「細胞培養器材のビジネス拡大」と「世界展開に向けた事業提携推進」の2つを中心的な成長戦略としている。

 

(1)細胞培養器材のビジネス拡大
1989年東京女子医科大学の岡野教授が発明した温度応答性細胞培養器材は、前述のように、温度を下げるだけで細胞を剥離できるため、無傷な細胞シートを回収することが世界で初めて可能となり、多くの研究者により細胞シートを用いた治療法の研究・開発が進められている。
2020年に同社では、器材ビジネスとして初めて売上高が1億円を突破した。2021年9月には細胞培養器材製品専用の開発・製造施設を新設したほか、海外における器材製品拡販のアライアンス先である米国サーモフィッシャーサイエンティフィック社と販売契約を2025年まで延長することで両社合意した。
近年は大量に培養した細胞を利用してバイオ医薬品の製造や、細胞そのものを用いた免疫療法、更には食料問題や環境問題の解決に向けた取り組みが盛んに行われている。
ただ、現在一般的に使用される細胞回収技術であるタンパク質分解酵素では、細胞はダメージを受けた状態で回収され、細胞が有する本来の機能、成分を完全に維持する事が困難である。一方で、同社製品を導入すれば細胞を無傷で回収する事が可能となり、細胞本来が有する全ての機能、成分を維持したまま利用できるため、新市場における産業面での効率や有効性改善に大きく寄与するものと期待されている。

 

再生医療への応用を目的とした研究開発フェーズ向けへの製品販売が順調に拡大しているのと並行し、研究用細胞の大量培養を目的とした新たな用途での製品販売が海外を中心に急拡大している。
このため同社では、従来の再生医療市場における製品展開に留まらず、細胞培養器材新製品開発・製造施設の新設など、新市場のニーズを満たすソリューションを提供するための製品開発に注力中である。
海外での販路をさらに拡大するべく、販売体制を強化している。前述のとおり、海外における器材製品拡販のアライアンス先であるサーモフィッシャーサイエンティフィック社と販売契約を延長し、連携を更に強化するほか、一貫した品質・サービスの提供と、より一層の顧客満足を充実させるため品質マネジメントシステムを構築し、2020年1月に国際規格であるISO9001:2015の認証を取得した。

 

(2)世界展開に向けた事業提携推進
世界展開に向け、台湾MetaTech社,とのアライアンス(2017年4月)、Up Cell Biomedical Inc.設立(20年1月)、ベルリンで開催された「Translate! 2021 – Metrics and Milestones of Success」での講演(2021年1月)等、日本だけでなくアジアや欧州で開催されている展示会へ参加し事業提携を推進してきた。今後も各地で開催される展示会へ参加し事業提携先の獲得を目指す。

 

2.2022年12月期第2四半期決算概要

【2-1 非連結業績】

 

21/12期2Q

22/12期2Q

前年同期比

予想比

売上高

81

74

-6

-8.6%

-0

-0.5%

売上総利益

43

36

-7

-16.4%

-

-

販管費

509

384

-124

-24.4%

-

-

 うち、研究開発費

319

200

-119

-37.3%

-

-

営業利益

-466

-348

+117

-

+60

-

経常利益

-477

-352

+124

-

+56

-

四半期純利益

-486

-357

+129

-

+53

-

*単位:百万円。四半期純利益は、親会社株主に帰属する四半期純利益。21/12期2Qは連結。前年同期比はインベストメントブリッジが計算した参考値。

 

減収、損失縮小
売上高は前年同期比8.6%減の74百万円。
営業利益は3億48百万円の損失。前年同期は4億66百万円の損失。
売上・利益ともほぼ予想通りであった。

 

【2-2 セグメント別動向】

 

21/12期2Q

22/12期2Q

前年同期比

再生医療支援事業

76

70

-6

細胞シート再生医療事業

5

4

-0

売上高

81

74

-6

再生医療支援事業

-19

-40

-21

細胞シート再生医療事業

-319

-207

+111

調整額

-127

-100

+27

営業利益

-466

-348

+117

*単位:百万円。21/12期2Qは連結。前年同期比はインベストメントブリッジが計算した参考値。

 

再生医療支援事業
売上高70百万円、営業損失40百万円(前年同期は19百万円の損失)。
細胞培養器材の開発・製造施設を新設し2021年9月より本格稼働を開始した。同施設の本格稼働により、再生医療市場における細胞培養器材の販売のみでなく、研究用細胞の大量培養を目的とした新たな用途での細胞培養器材製品の販売、特に海外の旺盛な需要に対応する。
また、細胞培養センターを活かした再生医療を支援する再生医療受託事業については、共同研究先である東海大学より先進医療にかかる自己軟骨細胞シートの製造を受託し、1症例の売上を計上した。

 

細胞シート再生医療事業
売上高は4百万円、営業損失2億7百万円(前年同期は3億19百万円の損失)。
食道再生上皮シートパイプラインでは、治験届を提出した2020年10月20日以降、追加治験を引き続き実施中で、製造販売承認申請の時期については、2025年を予定している。
海外展開においては、新型コロナウィルスの感染拡大の影響により遅れが生じているものの、今後も引き続きMetaTech社に対しての食道再生上皮シート及び軟骨細胞シート事業にかかる支援を行う。また台湾以外の新規事業先候補とも積極的に交渉を重ねていく。

 

【2-3 財政状態】

◎要約BS

 

21年12月

22年6月

増減

 

21年12月

22年6月

増減

流動資産

1,007

1298

+290

流動負債

171

207

+36

 現預金

846

1168

+321

 仕入債務

5

10

+5

 売上債権

28

26

-2

固定負債

192

187

-4

 たな卸資産

41

62

+20

 長期借入金

158

154

-4

固定資産

400

397

-3

負債合計

363

395

+32

資産合計

1,408

1,695

+287

純資産

1,044

1299

+254

*単位:百万円。

 

 

 

負債・純資産合計

1,408

1,695

+287

 

現預金の減少などで資産合計は前期末比2億87百万円増の16億95百万円。純資産は同2億54百万円増の12億99百万円。
自己資本比率は前期末から2.7ポイント上昇し75.1%となった。
第22回新株予約権(2022年1月発行)の2022年4月1日から2022年6月22日までの間の行使により、資本金が3億5百万円増加した。

 

【2-4 トピックス】

◎第22回新株予約権の行使が完了
2022年1月5日に発行した、バークレイズ・バンク・ピーエルシーを割当先とする第22回新株予約権について、2022年6月22日にすべての行使が完了した。行使価額総額は約6.1億円。

 

◎産業利用に対応した検体提供契約の基本的事項で合意
22年8月、産業利用に対応した多指(趾)症手術時の切除組織の継続的な供給と事業化に向けた体制の構築を目的に、国立研究開発法人国立成育医療研究センターと検体提供に関する契約の基本的事項について合意したと発表した。

 

【事業内容「軟骨細胞シート」】の項で触れたように、同社は2020年12月に国立成育医療センターの倫理員会より多指症患者から採取した軟骨組織提供の承認を取得し、産業利用可能な軟骨組織を入手することが可能となっていたが、今回の合意により、今後は同種軟骨細胞シートの治験および製造販売に向けて、原料となるヒト組織の供給を継続的に受けることが可能となった。
なお、国立成育医療センターから提供された多指(趾)症組織から単離された細胞は、将来、海外を含む各国の再生医療等製品に係わる規制の下で軟骨再生シート等の製品開発、製造販売承認取得、製造或いは販売を行う企業に提供される可能性がある。
高齢化社会を迎え、同社では、同種軟骨細胞シートによる変形性膝関節症の治療への貢献を目指して、2022 年末の治験届提出に向け準備を進めていく考えだ。

 

◎中枢神経損傷関連疾患に対する新規治療についての共同研究を開始
22年6月、国立大学法人北海道大学大学院医学研究院との間で、同社の細胞シート工学を用いた中枢神経損傷関連疾患の新規治療方法に関する共同研究を開始した。

 

この共同研究において、北海道大学は、保有する自家骨髄由来細胞などを提供するとともに、同社の技術協力のもと、中枢神経損傷関連疾患に関する治療の品質、安全性および有効性に係る非臨床試験を実施する。
北海道大学は、間葉系幹細胞をヒト骨髄液から高純度に精製分離・培養する方法を有しており、今回の共同研究では、同社が提供する再生医療基盤技術「細胞シート工学」を用いて、同方法により精製した骨髄由来間葉系幹細胞から細胞シートを作製する再生医療の実用化を目指す。
この再生医療は、ヒトの骨髄液から分離・培養して作製した細胞シートを患者の外傷部分に移植することにより、当損傷を修復することを目的としている。これまでは、骨髄損傷をはじめとする中枢神経の損傷には、根本的な治療方法がなかったため、神経機能の回復が困難とされていた。

 

3.2022年12月期業績予想

【3-1 業績予想】

 

21/12期 実績

22/12期 予想

前期比

進捗率

(対通期)

売上高

161

209

+47

35.7%

営業利益

-864

-834

+30

-

経常利益

-887

-834

+53

-

当期純利益

-914

-838

+76

-

*単位:百万円。

 

業績予想に変更なし、増収、損失幅縮小
業績予想に変更はない。売上高は前期比47百万円増の2億9百万円、経常損失は同53百万円縮小の8億34百万円。

 

再生医療支援事業では、引き続き器材製品を中心に特に海外の販売の拡大を図る。10月に新製品UpCell®フラスコ及びインサートの販売開始を予定している。また、再生医療に関わる総合的なサポートを通じて、再生医療の研究開発・事業化を支援する再生医療受託製造等を推進する。自己軟骨細胞シートの製造受託は第3四半期以降に複数症例の売上計上を予定している。
これらを通してセグメント売上高2億9百万円を見込んでいる。

 

細胞シート再生医療事業では、引き続き主に食道再生上皮シート及び同種軟骨細胞シートの開発を推進する。またパイプラインの技術導出に向けアジア以外の欧米の新規事業先候補とも積極的に交渉を重ねていく。

 

【3-2 継続企業の前提に関する重要事象等】

前連結会計年度末の手元資金(現金及び預金)残高は9億30百万円で、財務基盤については安定的に推移している。
一方で事業面においては細胞シート再生医療事業の重要課題である細胞シート再生医療第1号製品の早期事業化の道程を示すまでには至っておらず、同社では、2022年6月末において引き続き継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在していると判断している。
こうした状況の解消を図るべく、食道再生上皮シート並びに軟骨細胞シートの開発を推進し、細胞シート再生医療第1号製品の早期事業化の実現、また事業提携先の開拓を通じた更なる収益機会の獲得を目指す考えだ。

 

4.今後の注目点

「産業利用に対応した多指(趾)症手術時の切除組織の提供契約の基本的事項で国立成育医療研究センターと合意」「中枢神経損傷関連疾患に対する新規治療についての共同研究を開始」など、細胞工学シートの開発推進に向けた進捗も見られた22年12月期上期であった。10月に予定されている新製品UpCell®フラスコ及びインサートの収益寄与の状況に加え、引き続き、今年末までに予定している同種軟骨細胞シートの治験届提出が計画通り進捗するかを注視していきたい。

 

 

 

 

<参考1:中期経営計画>

2021年12月期から2023年12月期の3か年の中期経営計画を発表した。

 

(1)各事業の取り組み

事業

概要

細胞シート再生医療事業

*食道再生上皮シートの追加治験を開始し、2025年の製造販売承認申請を目指す

*同種軟骨細胞シートの2022年末の治験届提出に向け非臨床データの取得を加速する

*MetaTech社、台湾合弁会社との協業を再構築し、更なる収益機会獲得を目指す

*日本発の細胞シート工学の世界展開のために事業提携を積極的に推進し収益の拡大を目指す

再生医療支援事業

*サーモフィッシャーサイエンティフィック社との連携強化により器材製品の海外売上のさらなる拡大を目指す

*研究用細胞の大量培養を目的とした新たな市場への器材製品の開発・供給により事業を拡大する

*海外売上の拡大及び新たな市場への器材製品供給に対応するために、生産体制・能力の充実、拡大を図り、更なる収益機会の拡大を目指す

*開発、製造受託・コンサルティング事業を推進し、更なる収益機会獲得を目指す

 

(主なポイント)
*食道再生上皮シート
製造販売承認申請は2025年を予定している。治験施設の追加等、治験期間の短縮に向けて、検討を重ねていく。

 

*軟骨細胞シート
2020年12月には成育研の倫理審査委員会から、多指(趾)症患者から採取した軟骨組織の提供等について承認を取得し、商業利用可能な軟骨組織を安定的に入手することができるようになった。同種軟骨細胞シートの治験及び製造販売承認に向けての研究開発を加速させ、2022年末までに治験届を提出する見通し。

 

*事業提携活動
前期のマイルストーン収入とは別に自己軟骨再生シートの売上高に応じた数%程度のロイヤリティをMetaTech社から受領する予定。また、アジア諸国、特に中国への新規の事業提携・ライセンシングに向けた活動を進めているが、規制環境の違い等もあり2021年中に最終的な契約締結に至った案件はない。開発中パイプラインの開発推進による事業価値向上を見据えながら国内外への細胞シート再生医療事業の普及を目指して、事業提携・ライセンシング等を進めていく。

 

*再生医療支援事業
顧客の要望、新規需要を踏まえた新規器材開発の強化に取り組む。また販売面においては、温度応答性細胞培養器材を中心とした器材製品の拡販に向け、主要国内販売代理店からの売上情報等の収集分析、共同での営業活動を実施し、国内売上だけでなくサーモフィッシャーを中心とした海外売上を更に拡大すべく連携強化をする。
製品の安定供給を維持しつつ、研究用細胞の大量培養を目的とした新たな市場への製品供給及び海外売上の拡大に対応するため、さらなる生産体制の充実、拡大を図る。

 

*再生医療受託事業
既存の大学、企業等からの細胞シートの製造受託だけでなく、開発受託及び細胞シート再生医療事業で獲得した様々なノウハウを活かしたコンサルティング事業を推進し、更なる収益機会の獲得を目指す。

 

*台湾合弁会社設立
設立した合弁会社では、日本又は台湾の大学、研究機関から提供を受けたシーズ技術を基に細胞シート工学を応用した再生医療等製品・治療法の研究開発を行い、その事業化に向けて対象とする適応症の検討、製造方法の最適化等も行う。台湾義大医療財団法人義大病院の杜元坤教授が開発したシーズが候補の一例。再生医療支援事業としては、研究開発のコンサルティング、製造販売承認申請に向けた支援も行っていく予定で、技術指導料等のコンサルティングフィーの受領等による売上を予定している。

 

(2)数値目標

前述のように、2022年12月期の目標数値を「売上高14億円、営業利益20百万円、経常利益19百万円、当期純利益10百万円」と開示していたが、新型コロナウィルスの影響、海外の事業提携候補との同社パイプラインの技術導出に関する双方での経営戦略の変更より、当期純利益10百万円の達成は困難となり2022年12月期は当期純損失の見込みである。
2023年12月期については、事業環境の変化などから今後も引き続き一定の影響を受けるものと想定しており、開示した業績目標値を取り下げた。今後、業績の見通しの算定が可能となった時点ですみやかに公表を行う予定。

 

<参考2:コーポレート・ガバナンスについて>

◎組織形態及び取締役、監査役の構成

組織形態

監査等委員会設置会社

取締役((監査等委員を除く)

6名、うち社外4名

監査等委員

3名、うち社外3名

 

◎コーポレート・ガバナンス報告書(更新日:2022年3月29日)

 

基本的な考え方
当社は、技術革新と創造性を発揮し、質の高い優れた製品とサービスの提供を通じ、人々の健康と福祉に貢献していくことを使命とし、全ての企業活動において品質を高めるべく企業統治の整備を進めています。
今後につきましては、ディスクロージャーの透明性を高めるため一層説明責任を充実するとともに、さらなる経営のチェック機能強化を図ってまいります。

 

<コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しない理由>
当社は、東証グロース上場企業としてコーポレートガバナンス・コードの基本原則をすべて実施しております。

 

 

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