ブリッジレポート:(4425)Kudan 2021年3月期決算
Kudan株式会社(4425) |
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企業情報
市場 | 東証マザーズ |
業種 | 情報・通信 |
代表取締役CEO | 項 大雨 |
所在地 | 東京都渋谷区渋谷二丁目10番15号 |
決算月 | 3月 |
HP |
株式情報
株価 | 発行済株式数 | 時価総額 | ROE(実) | 売買単位 | |
3,865円 | 7,680,800株 | 29,686百万円 | -135.3% | 100株 | |
DPS(予) | 配当利回り(予) | EPS(予) | PER(予) | BPS(実) | PBR(実) |
0.00 | - | - | - | 189.32円 | 20.4倍 |
*株価6/11終値。各数値は21年3月期決算短信より。
業績推移
決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期純利益 | EPS | DPS |
2018年3月(実) | 204 | -3 | 4 | 3 | 0.57 | 0.00 |
2019年3月(実) | 376 | 123 | 103 | 103 | 15.35 | 0.00 |
2020年3月(実) | 456 | 9 | -12 | -29 | -4.17 | 0.00 |
2021年3月(実) | 127 | -451 | -1,575 | -1,608 | -214.97 | 0.00 |
2022年3月(予) | 300~350 | - | - | - | - | 0.00 |
*単位:円、百万円。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。以下同様。予想は会社側予想。事業環境の不透明さ、既存及び新規案件の進捗についての不確実性を考慮し、売上高のみをレンジ形式で開示。
Kudan株式会社の会社概要、2021年3月期決算概要、成長戦略、項CEOへのインタビュー等をご紹介致します。
目次
今回のポイント
1.会社概要
2.2021年3月期決算概要
3.2022年3月期業績予想
4.成長戦略
5.項CEOに聞く
6.今後の注目点
<参考:コーポレート・ガバナンスについて>
今回のポイント
- 機械(コンピュータやロボット)の「眼」に相当する人工知覚(AP、Artificial Perception)のアルゴリズムを専門とするDeep Tech(ディープテック)の研究開発企業。今後予想される多様な需要の拡大にフレキシブルに対応可能な点や、AP(人工知覚)のプロフェッショナル集団である点などが強み・特長。自動運転技術の第一人者として世界最高峰の研究実績を有するダニエル・クレーマーズ教授が率いるアーティセンス社とのアライアンスにより強固なポジショニングを構築している。
- 既に応用開発が進んでいるアプリケーションに加え、多様な先進テクノロジーを下支えすることにより、今後AP(人工知覚)技術が応用・統合される分野は多数あり、これまでの想定を超えたスピードでAP(人工知覚)技術は社会実装されていくと見込まれている。こうした市場環境の中、同社はAP技術を起点とし、AIやIoTとの技術統合により応用領域を多段的に開拓していく。蓄積した顧客案件の継続的な製品化に加えて、顧客製品の普及による技術の市場浸透により、商用ライセンス収入を大きく積み上げて飛躍的な利益拡大を目指す。
- 21年3月期の売上高は前期比72.0%減の1億27百万円。新型コロナウイルス感染症拡大の影響やアーティセンス社を中心とする一部研究開発スケジュールの遅延による案件の予算縮小・凍結や遅延があったほか、SLAM技術評価・製品化検討案件から製品化を見据えた事業領域・大型案件への注力により、継続案件の減少が生じた。経常利益は15億75百万円の損失。アーティセンス社に対する投融資の評価減及び期中損益の取り込みによる持分法による投資損失を営業外費用に計上した。減収とはなったが、次期以降の案件拡大・顧客製品化に向けた案件ポートフォリオの入れ替えと、アーティセンス社含めた技術ラインアップの拡充を図った。
- 22年3月期の売上高は3億円~3億50百万円の予想。顧客製品化に向けた案件拡大を中心に足元の回復基調が継続し増収を見込む。既に獲得している継続案件の今後の進捗及びグローバルの各拠点における新規案件の獲得水準に一定の不確実性がある状況を考慮し、レンジ形式の開示としている。利益については、今後の新型コロナウイルスに関する影響や事業開発の拡大状況等を考慮し、アーティセンス社との一層の事業統合・新規採用を含む新規投資を機動的かつ柔軟に実現するため、現時点では非開示。
- 項 大雨 代表取締役CEOに、自社の競争優位性、今後の成長戦略、課題、株主・投資家へのメッセージ等を伺った。「我々は人工知覚技術で、世界のトップに立っていると認識しています。アーティセンス社とのアライアンスによりそのポジショニングを今後さらに強固なものとする基盤も出来上がっています。足元は新型コロナウイルスの影響もあり、足踏みもありましたが、中長期的に爆発的な売上・利益の成長を目指し、最短距離でそのステージへ向かうべく強いビジョンをもって事業に邁進して参りますので、是非ご期待ください」とのことだ。
- 人工知覚(AP)技術の応用範囲は今後益々拡大していくこととなるだろう。世界最先端のポジショニングを構築済の同社の成長性、将来性に大いに期待したい。一方で投資家が知りたいのは、会社側が目指す5倍、10倍という成長スピードがいつごろから現実のものとなるかである。実際のデバイスなり製品完成のためには同社の人工知覚(AP)技術のみでなく、顧客側の技術の完成も必要であるという点が「製品化」に向けての課題の一つということで、同社のコントロール外である点は如何ともしがたいが、顧客ポートフォリオの質引き上げで対応していくということだ。中期的な期待を持ちつつ、今・来期にも見込んでいる製品上市のリリースを待ちたい。
1.会社概要
機械(コンピュータやロボット)の「眼」に相当する人工知覚(AP、Artificial Perception)のアルゴリズムを専門とするDeep Tech(ディープテック)の研究開発企業。
人工知覚(AP)は、機械の「脳」に相当する人工知能(AI、Artificial Intelligence)と対をなして相互補完するDeep Techとして、機械を自律的に機能する方向に進化させるもの。高度な技術イノベーションによって幅広い産業にインパクトを与えるDeep Techに特化した独自のマイルストーンモデルに基づいて事業を展開している。
【1-1 沿革】
アンダーセン・コンサルティング在籍時にArtificial Perception(AP、人工知覚)技術の将来性、成長性を確信した大野智弘氏(現 代表取締役)は、2011年1月に、Kudan Limitedを英国に設立し、AP技術の基礎となるSLAM技術の独自の研究開発を行っていた。
2014年11月に、更なる研究開発を進める一方で、業容拡大による管理部門の拡張を目的としてKudan株式会社を設立。2016年12月に「KudanSLAM技術」の評価用デモソフトウェアを、2018年3月期から正式に「KudanSLAM」の提供を開始した。
2018年12月に東京証券取引所マザーズ市場に上場した。
トヨタ自動車、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て入社した代表取締役CEO 項大雨氏、代表取締役 大野智弘氏、新日本監査法人を経て取締役CFOに就任した飯塚健氏の3名の社内取締役によりスピードを重視した経営チームを構成している。
【1-2 企業理念など】
同社の経営理念は、「独樹一幟、標新立異」(樹独り幟一つ、新しきを標し異なりを立てる)。
「他社と同じことをしない」「一般に正しいと信じられていることを敢えて否定する」ことを意味し、研究開発や事業展開において、常に他社と比較できない突出した存在ならしめるような方針を定め、市場において唯一の存在となり、事業と研究開発の発展と、株主利益の拡大を目指している。
また、ビジョンとして「すべての機械の眼となっていく」を掲げ、あらゆる機械やデバイスが目指すことになる自律化や無人化に対して欠くことのできない技術を提供するプレーヤーとなることを目指している。
【1-3 市場環境】
近年、あらゆる産業においてオペレーション自動化のニーズの高まり、アルゴリズムを補完するセンサ・半導体等のハードウェア技術の進化により、AP(人工知覚)アルゴリズムの実用化と普及が急速に進んでいる。
加えて、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、人と人の交流や共同作業を要しないオペレーションの省人化やリモート化需要が全ての産業で急増しており、特に、物流・製造・建設・小売等の領域におけるロボティクス・自動運転・ドローン等の自動化技術のニーズ増大が顕著である。
経済産業省が主催する「Society5.0における新たなガバナンスモデル検討会」の第10回開催資料「参考資料2:先端技術がもたらす経済効果等に関する試算事例」(2020年10月6日開催)によれば、IoT、AI、自動運転、ドローンの経済効果について以下のような試算事例を紹介している。
対象テクノロジー・デバイス | 経済効果 |
IoT | IoT・AIの活用が進展することによる実質GDPの押し上げ効果は2030年で132兆円と推定。
IoT・AIの活用が進展した場合の2030年の就業者数は6,300万人と試算され、IoT・AIの活用が進展しなかった場合の就業者数に比べ739万人の就業者数の増加と推定。 |
AI | AIの影響によって2030年のGDPはその影響がなかった場合に比べて最大14%(15兆7,000億ドル)高くなる可能性があり、最小でも9.8%(11兆2,000億ドル)高くなると予想される。
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自動運転 | 自動運転が実用化された場合、世界的に、2035年には8,000億ドル、2050年には7兆ドルの乗客経済(※)が生まれると推計。
内訳は、コンシューマ向けのMaaS(3.7兆ドル)、ビジネス向けのMaaS(3.0兆ドル)、新しく生まれる無人自動車サービス(0.2兆ドル)。
※乗客経済:レベル5の完全自動運転によって生み出される経済的、社会的価値 |
ドローン | 日本国内のドローンビジネスの市場規模は、2020年度には前年比の37%増の1,932億円に拡大し、2025年度には6,427億円(2020年度の約3.3倍)に達する見込みである。
2019 年度はサービス市場が前年比68%増の609億円となり、最も高い市場となっている。機体市場は前年度比37%増の475億円、周辺サービス市場が前年度比46%増の326億円で続いている。
各市場とも今後も拡大が見込まれており、2025年度においては、サービス市場が4,426億円(2019年度の約7.3倍)と最も高く、機体市場が1,229億(2019年度の約2.6倍)、周辺サービス市場が771億円(2019年度の約2.4倍)に達する見込みである。 |
*経済産業省ウェブサイト「第10回 Society5.0における新たなガバナンスモデル検討会」の「参考資料2:先端技術がもたらす経済効果等に関する試算事例」より引用。赤・太文字はインベストメントブリッジによる。
これら既に応用開発が進んでいるアプリケーションに加え、多様な先進テクノロジーを下支えすることにより、今後AP(人工知覚)技術が応用・統合される分野は多数あり、これまでの想定を超えたスピードでAP(人工知覚)技術は社会実装されていくと見込まれている。
(同社資料より)
同社では、アプリケーション市場やテクノロジー市場においてAPの応用やAPとAI/IoTとの相互融合により、どちらの市場においても、巨大な市場を見込んでいる。
(同社資料より)
【1-4 事業内容】
AP(人工知覚)の基幹技術であるSLAMを始めとするアルゴリズムをハードウェアに組込むためのソフトウェア「KudanSLAM」をライセンス化し、顧客に提供している。
同社の事業内容、技術の優位性などを理解するためには、「AP(人工知能)」「SLAM」について知ることが欠かせない。
以下、「AP(人工知覚)」および「SLAM」について解説する。
<AP(人工知覚)とは?>
AP(人工知覚)は、同社グループが提唱、研究開発している技術。
人間の「脳」を代替する技術であるAI(人工知能)が近年発展してきたことを受けて、長らく人間の操作や命令に従って機能するだけの存在に留まっていた機械(コンピュータやロボット)は、人間のコントロールから離れて自律的に機能する方向に向かって進化すると考えられている。
この進化に必須な技術が、一つは機械が判断するための「脳」であるAI(人工知能)であり、もう一つが、周囲の状況を理解するための「眼」にあたる先端技術のAP(人工知覚)。
「人工知覚=眼」は、「人工知能=脳」と相互に連動・補完し、機械(ロボット・コンピュータ)の自律的な行動や機能を実現する。
(同社資料より)
このように、AP(人工知覚)は、人間の「眼」と同様に機械に高度な視覚的能力を与える技術である。
AP(人工知覚)が必要とされる能力を十分に発揮するのに重要な役割を果たすのが、「SLAM:Simultaneous Localization and Mapping」である。
<SLAMとは?>
SLAMは、コンピュータが現実環境における移動体の自己位置推定と3次元立体地図作成を同時に行う技術。
例えば、自動車にSLAM技術を活用すると、走行距離、カメラによる画像やレーザー光を使ったセンサであるLiDAR(ライダー)によるセンサ情報をコンピュータプログラムによって数理的に処理し、立体感(方向・距離・大きさなど)や運動感覚(位置・移動など)をリアルタイムかつ緻密に出力して自己位置を特定すると同時に、センサが収集した周辺のデータを基に3次元の立体地図を作成する。
SLAMを使用することで、自動車の場合であれば事前に道路の状況(前後左右の走行車両位置・スピード、道路幅、車線数など)を知らなくても、走行しながら随時同時に立体地図を作成し、安全に走行するための基本情報を入手することができる。
SLAMはAP(人工知覚)における最も重要な技術であるが、例えば自動運転における安全性を確保するには精度や処理スピードが極めて重要である。SLAMをより汎用的に活用するには、それら技術的な課題が指摘されている。
これに対しKudanグループの提供する「GrandKudanSLAM」は、3つの異なるSLAMアルゴリズムで構成されており、それぞれに異なった強みを有する。
例えば Kudan Indirect Visual SLAMはカメラを用いたSLAMにおける最も著名なオープンソースに比べて10倍以上の速度での処理をより少ない処理能力で可能としている。5cm等cm単位の精度が一般的である他のソリューションに比べて、Kudan最大mm単位の精度を実現可能。
また、これらのアルゴリズムを組み合わせるなどして、センサ間の時間同期によるシステム統合(タイトカップリング)によるカメラ、LiDAR等複数センサの併用により高速かつ屋内・屋外問わない高い精度などより一層の性能向上を目指している。
この技術的な優位性は後述するアーティセンス社グループ化で一段と強固なものとなった。
同社は、2018年3月期よりKudan Indirect Vissual SLAMを「KudanSLAM」として提供を開始。また、2020年3月よりKudan 3D-Lidar SLAMも提供を開始。以下の3つの領域で顧客開拓を進めてきた。
領域 | 顧客 |
AR(拡張現実)、VR(仮想現実)の応用領域 | 光学センサメーカ、光学機器メーカ、MR(複合現実)グラスメーカ、通信機器メーカ、電気機器メーカ、ECプラットフォーム、コンピュータゲーム制作、など |
ロボティクス、IoT(Internet of Things)の領域 | 光学機器メーカ、重工・産業ロボットメーカ、電気機器メーカ、輸送機器メーカ、信号処理IP、など |
自動車や地図向けの応用領域 | 自動車部品メーカ、デジタル地図会社、空間情報コンサルティング企業、など |
<拡大するAP(人工知覚)活躍のフィールド>
同社は、コンピュータビジョンと呼ばれる既存技術(2次元的処理を中心としたセンサ・画像処理の基礎技術の集合)を再構築して土台とし、そこから独自にAP(人工知覚)の技術を開発してきた。
AP(人工知覚)は、カメラや3次元センサを用いるあらゆる機器にとって必要となる基礎技術であり、多様な次世代ソリューションに横断的に採用される基盤技術となると想定している。
広義のロボティクスとしてのあらゆる自律的な機械、すなわち産業用ロボット、家庭用ロボット、次世代モビリティ(自動車など)、飛行機器(ドローンなど)の自動制御に必須の技術となっている。
また、次世代コンピュータのユーザインターフェースとなるAR(拡張現実)、VR(仮想現実)等の空間認識においても必要となる。
加えて、次世代デジタル地図やビッグデータとなるダイナミックマップ(現実環境の状況が速やかに反映される動的な地図システム)やデジタルツイン(現実環境とリアルタイムに同期した仮想空間情報)の技術基盤となるなど、極めて広範な技術応用が見込まれる。
同社ではAP(人工知覚)の基幹技術であるSLAMに加え、関連技術であるAI(人工知能)やIoT(Internet of Things)との技術統合に向けてMachine Perception(機械知覚)、Deep Perception(深層知覚)やNeural Perception Network(知覚ニューラルネットワーク)に関する研究開発を目下進めており、さらなる技術応用の広がりを見込んでいる。
(同社資料より)
【1-5 経営戦略】
各産業におけるソリューション・完成品・応用技術のさらに下の最も深い技術レイヤーに位置する基盤技術に相当するDeep Tech(深層技術)のSLAM等のAP(人工知覚)アルゴリズムの研究開発及び提供に注力している。
特定の会社に事業開発・財務面で依拠することなく独立した立場を維持しながらも、グローバルベースでソリューション・完成品・応用技術の全階層のあらゆるプレーヤーと提携を進め、彼らを顧客とすることにより、AP(人工知覚)市場における専業独立企業としての独占的なシェアの維持・更なる拡大を目指すことを経営戦略としている。
(同社資料より)
<アーティセンス社の子会社化および業務提携>
同社グループの経営戦略において最も注視すべきポイントの一つが、Artisense Corporation(アーティセンス社、本社:米国)の子会社化および業務提携である。
(アーティセンス社概要)
自動運転・ロボティクス・AR/VR・ドローンなどを応用分野として、空間・位置認識を行う人工知覚アルゴリズムを提供しており、カメラを用いたVisual SLAMを商用レベルで実用化することを強みとしている。
世界有数の人工知能・コンピュータビジョンの研究グループを持つミュンヘン工科大学における同分野のリーダーであり、自動運転技術の第一人者として世界最高峰の研究実績を有するダニエル・クレーマーズ教授と、連続起業家であるアンドレイ・クリコフ氏が、2016 年に共同創業した。
グループはカリフォルニア州シリコンバレー地域に拠点をおく親会社である米国法人、ミュンヘン工科大学や欧州自動車産業界と連携した研究開発を行うドイツ法人、アジアでの事業開発を担う日本法人のグローバル3社から構成されている。
アーティセンス社は、Kudanも事業展開する空間・位置認識の技術分野で、人工知能・コンピュータビジョンの研究開発と技術提供を行っており、中でも Direct Visual SLAMはKudanとは異なるアプローチによるアルゴリズムを強みとしている。
(アーティセンス社子会社化の狙い)
アーティセンス社はKudanの直接競合ではあるが、2020年1月、Kudanはアーティセンス社との間で、アーティセンス社子会社化に向けた段階的な株式取得契約を締結した。
寡占化が進む人工知覚(AP)技術分野における有力企業同士のグループ化によって、Kudanは圧倒的な市場シェアの確保を目指している。
加えて、両社の技術連携により、それぞれが得意とする技術が補完されることで性能が相乗的に向上し、より複雑な環境下での高度な空間・位置認識を実現することが見込まれ、Kudanがさらに技術主導で自動運転・ロボティクス・AR/VR・ドローンなどの市場成長を推進できると考えている。
2020年5月には業務提携契約を締結した。
具体的には、研究開発においては、Kudanが持つ間接法SLAMとアーティセンス社が次世代技術として独自に持つ直接法SLAMとの統合、KudanのLiDAR SLAM技術との統合及びアーティセンス社のDeep Featureと呼ばれる深層学習に基づくAI技術でブレークスルーを達成し、理論的に考えられる最も高性能なアルゴリズムとなる独自のGrandSLAMの開発・実用化を目指す。
事業開発においては日本・中国を含むアジア、欧州、北米におけるグローバルでの販売体制のさらなる強化を推進する。
また、前述の通り今後益々希少となり獲得が困難となるSLAMを専門とする研究者・エンジニアの維持・拡充、グローバル販売拠点における事業開発人員の拡充、プロダクト・ソリューション開発の拡大のためのパートナー企業への出資、GrandSLAMの開発・実用化に加えてさらなるDeep Tech(深層技術)の開発及び出資の推進等を進めて、中長期における飛躍的な成長を目指す。
現在までのM&Aの狙い及び成果は以下の通りである。
狙い | 概要 |
| 成果 |
希少人材の確保 | *アーティセンス社のダニエル・クレーマーズ教授は、AI・自動運転研究の世界的権威。
*同氏の下で約20名のトップ技術者が研究開発に携わっている。 | ⇒ | 既存人材の保留に成功
ミュンヘン工科大学のトップ人材プールからの継続的な技術者を確保 |
次世代技術の確保 | *人間の認識により近い 直接法SLAM
*最終製品の実用化において必要となる深層学 習とSLAMの統合 | ⇒ | 次世代技術の製品化および市場投入に成功
複数のPoC(※)プロジェクトの結果、市場における有効性を実証 |
※PoC
「Proof of Concept、概念実証」。新しい概念や理論、原理、アイディアの実証を目的とした、試作開発の前段階における検証やデモンストレーション。
(子会社化のプロセス)
2020年1月に締結した株式譲渡契約では、当初に一括して売主の所有するアーティセンス社株式の全てをKudanが取得するのではなく、3段階のクロージングによって行うこととした。
段階的に取得できるように設計することで、Kudanのリスクをコントロールするとともに、売主に含まれるアーティセンス社の役員及び従業員による同社経営への継続的な関与と業績向上へのインセンティブの強化を実現することが可能であること、また、3段階目のクロージング及びそれに伴う買収の対価の支払いを一定期間における業績に応じて変動させることで、アーティセンス社の業績を継続的に伸長させることも売主に意識づける仕組みとすることができることなどがその理由である。
これまで第1回クロージング(2020年1月、約149万株、発行済株式総数の12.0%を取得)、第2回クロージング(2020年7月、約323万株、発行済株式総数の26.0%を取得)によりアーティセンス社はKudanの持分適用会社となっている。
第3回クロージングにより連結子会社となる予定だが、現時点では時期は未定である。
【1-5 競争優位性】
(1)技術の特長
同社のAP(人工知覚)技術は、今後中長期的にAP(人工知覚)の技術発展と応用拡大が継続することによる技術需要を戦略的に取り入れるため、既存の製品開発用の需要だけではなく、新規性と複雑性が高い将来技術の研究開発需要の取り込みにおいて大きなアドバンテージを有していると、同社では考えている。
同社が考える技術の特長は以下の5つ。
AP(人工知覚)領域に特化することで培ってきた高度で柔軟な研究開発能力と組み合わせることで、今後予想される多様な需要の拡大にフレキシブルに対応が可能である。
特長 | 概要 |
①アルゴリズムの独自性 | 同社グループの技術群は多岐にわたり、独自開発したアルゴリズムにより構成されている。
例えば、立体的な幾何構造を高度に認識するための根幹となる画像特徴点(画像内で顕著性が高い局所領域)の認識手法については、処理が高速な認識手法と精度および安定性の高い認識手法を統合してハイブリッド化することで、双方の性能の長所を生かした高速かつ高精度の独自手法を開発している。 また、認識する立体構造(3次元特徴点群)の緻密さと処理の速度を様々なアプリケーション応用に最適化するために、画像内で認識する特徴点の密度を柔軟に調整することが可能。 その他、立体認識した3次元特徴点群を逐次的に高精度化する最適計算や、既知の保存データとの高速な照合手法など、技術の実用性を担保する種々の独自数理モデルが組み込まれている。 |
②柔軟かつ高性能
| アルゴリズムの独自性により、高い認識精度(真値からの誤差が小さいこと)とロバスト性(使用環境や条件によらずに性能が安定していること)を実現するとともに、高速な処理(計算負荷が低い処理)が可能である。
加えて、技術の使用条件や要求仕様に合わせて、認識精度、ロバスト性、処理速度、データサイズ、その他の個別機能まで詳細なチューニング可能な構造で設計されているため、様々な応用対象に対して最適化された高いパフォーマンスを実現することができる。 |
③センサ利用の柔軟性 | センサ利用の制限はAP(人工知覚)技術の応用範囲を狭める要因となるため、同社グループの技術は多様なセンサに対応可能となるように設計されている。
具体的には多様なカメラでの動作が可能であり、カメラ個数(単眼カメラ、両眼カメラ、多眼カメラ)、光学センサのデータ読み出し形式(順次読み出し、同時読み出し)に対して柔軟に対応できる。 また、カメラ以外にも、3次元センサ(LiDAR、ToFなど)、内部センサ(IMU、機械オドメトリなど)、位置センサ(GPS、Beaconなど)など、様々なセンサと組み合わせることで各センサの長所を活かした高度な応用も可能である。 |
④演算処理環境の柔軟性 | 演算処理のプラットフォームに対する柔軟性もAP(人工知覚)技術の応用拡大にとって重要な要因である。
同社グループの技術は多様な演算処理の環境に対応しているため、あらゆるプロセッサ設計(CPU、DSP、GPUなど)に対して、ソフトウェアを最適化して計算処理を高速化することが可能である。 また、主要なオペレーティングシステム(Linux、Windows、MacOS、iOS、Androidなど)にソフトウェアを移植することで幅広いシステム環境での動作も可能である。 |
⑤部分機能利用の柔軟性 | AP(人工知覚)技術の高度な応用のためには、他技術との複雑な融合が必要である。同社グループの技術は部分的機能(ソフトウェアモジュール)を切り出して、顧客が個別に保有する既存のソフトウェアと柔軟に技術統合することが可能。
また、部分的機能(ソフトウェアモジュール)はプロセッサ設計への依存度(ソフトウェア抽象度)が様々な水準で構成されており、半導体レベル(抽象度が低い)でもソフトウェアアプリケーションレベル(抽象度が高い)でも柔軟に最適化が可能である。 |
(2)AP(人工知覚)のプロフェッショナル集団
AP(人工知覚)のプロフェッショナル集団として、技術・ビジネス双方において強固な基盤を構築している。
特に、既存顧客の多くが世界の優良企業で構成される「Fortune2000」となっており、世界の先端企業から高く評価されていることがわかる。
(3)圧倒的な実績・認知度
SLAM専業やSLAMをコア技術とする企業はBig Tech企業によるM&Aが続き、その数は限定的となっている。
そうした中、提供技術の幅広さ、案件実績、認知度においてKudanとアーティセンス社は圧倒的にリードしている。
【1-6 ビジネスモデル】
開発フェーズでは、「KudanSLAM」のアルゴリズムライセンス提供と共に、共同研究開発によるアルゴリズムのカスタマイズ・新機能追加、技術コンサル等により収益を獲得する。
アルゴリズムライセンスは開発ライセンスと商用ライセンスに区分され、顧客の開発案件の製品化に向けた進捗と共に開発ライセンスから商用ライセンスへとライセンス区分が進捗する。
商用ライセンスでは「製品単価×製品数」等の算定により、製品普及に伴い収益は飛躍的に拡大することを見込んでいる。
また、既存の人工知覚事業の拡大に加え、更なるM&Aによる深層技術の強化及び領域の拡大も目指している。
(同社資料より)
2.2021年3月期決算概要
【2-1 連結業績概要】
| 20/3期 | 対売上比 | 21/3期 | 対売上比 | 前期比 | 予想 |
売上高 | 456 | 100.0% | 127 | 100.0% | -72.0% | 100~160 |
売上総利益 | 416 | 91.2% | 37 | 29.3% | -91.0% | - |
販管費 | 406 | 89.1% | 488 | 382.1% | +20.1% | - |
営業利益 | 9 | 2.1% | -451 | - | - | - |
経常利益 | -12 | - | -1,575 | - | - | - |
当期純利益 | -29 | - | -1,608 | - | - | - |
*単位:百万円
減収、持分法による投資損失計上
売上高は前期比72.0%減の1億27百万円。新型コロナウイルス感染症拡大の影響やアーティセンス社を中心とする一部研究開発スケジュールの遅延による案件の予算縮小・凍結や遅延があったほか、SLAM技術評価・製品化検討案件から製品化を見据えた事業領域・大型案件への注力により、継続案件の減少が生じた。予想範囲内の着地であった。
営業利益は4億51百万円の損失。グローバル規模での体制拡大に伴い販管費は同20.1%増の4億88百万円。
経常利益は15億75百万円の損失。アーティセンス社に対する投融資の評価減及び期中損益の取り込みによる持分法による投資損失12億32百万円を営業外費用に計上した(詳細は2-3を参照)。
減収とはなったが、次期以降の案件拡大・顧客製品化に向けた案件ポートフォリオの入れ替えと、アーティセンス社含めた技術ラインアップの拡充を図った。
販管費の内訳
| 20/3期 | 21/3期 | 構成比 | 前期比 |
人件費 | 155 | 206 | 42.2% | 32.2% |
経費及び償却費 | 165 | 184 | 37.7% | 11.2% |
研究開発費 | 85 | 98 | 20.1% | 15.4% |
販管費 | 406 | 488 | 100.0% | 20.1% |
*単位:百万円
【2-2 財政状態とキャッシュ・フロー】
◎主要BS
| 20/3月末 | 21/3月末 | 増減 |
| 20/3月末 | 21/3月末 | 増減 |
流動資産 | 691 | 1,359 | +667 | 流動負債 | 313 | 81 | -231 |
現預金 | 496 | 1,230 | +734 | 短期借入金 | 43 | - | -43 |
固定資産 | 710 | 180 | -529 | 固定負債 | 164 | - | -164 |
有形固定資産 | 6 | 0 | -6 | 長期借入金 | 164 | - | -164 |
投資その他の資産 | 704 | 180 | -523 | 負債計 | 478 | 81 | -396 |
投資有価証券 | 305 | 1 | -303 | 純資産 | 923 | 1,458 | +534 |
資産計 | 1,402 | 1,540 | +138 | 資本金 | 510 | 1,620 | +1,110 |
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| 利益剰余金 | -119 | -1,755 | -1,636 |
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| 負債純資産計 | 1,402 | 1,540 | +138 |
*単位:百万円
現預金の増加、投資有価証券の減少などで資産合計は前期末比1億38百万円増加の15億40百万円。
預り金の減少、長短借入金の返済などで負債合計は同3億96百万円減少の81百万円。
新株発行による資金調達により、資本金、資本剰余金の増加、利益剰余金の減少により純資産は同5億34百万円の増加の14億58百万円。
この結果自己資本比率は前期末より28.5ポイント上昇し、94.4%となった。
◎キャッシュ・フロー
| 20/3期 | 21/3期 | 増減 |
営業CF | -130 | -349 | -219 |
投資CF | -739 | -705 | +33 |
フリーCF | -869 | -1,055 | -185 |
財務CF | 503 | 1,777 | +1,274 |
現金同等物残高 | 496 | 1,230 | +734 |
*単位:百万円
株式の発行による収入22億10百万円により財務CFのプラス幅が拡大。キャッシュポジションは上昇した。
【2-3 2021年3月期のハイライト・トピックス】
◎アーティセンス社:持分法による投資損失計上
アーティセンス社の買収によりグローバルにおける技術優位性・成長可能性等を確立しているが、一方で新型コロナウイルス感染症の影響やアーティセンス社の新技術「VINS」の提供開始の遅れにより、アーティセンス社の直近2020 年 12月期の売上高拡大の遅延が生じ、当初事業計画値との乖離が生じたことに加え、新型コロナウイルス感染症の影響の継続による市況回復の不確実性を踏まえ、持分法適用会社であるアーティセンス社に係る投資有価証券及び同社への貸付金に対し評価減が発生。その結果、アーティセンス社の期中損益の取り込みと合わせて、持分法による投資損失12億32百万円を営業外費用に計上した。
現在の事業計画ではアーティセンス社売上高は来期(2023年度)以降も成長拡大する見込みだが、今回の会計評価では保守的に来期以降の成長を想定しない場合での評価を行うこととした。
アーティセンス社の売上拡大・利益化は約1年の遅延となるが、のれん償却前倒しにより、2022年度以降はのれん償却がなくなったことでコスト構造の改善が進み、売上拡大シナジーの利益貢献がより現れやすくなると会社側は考えている。
投資損失を計上したが、「世界的権威を含む希少人材の確保」と「補完的な次世代技術の確保」というアーティセンス社買収の目的は想定通りに達成されている。
中長期的な成長性と本質的な企業価値は依然変わらず、新製品「VINS」投入後は、売上・利益の拡大に大きく寄与するものと考えている。
◎事業活動の進捗
新型コロナ影響による市場の急減速と新製品「VINS」投入遅延の影響により、2020年内は既存案件の進捗が停滞したが、この状況を好機ととらえ、成長性を高める案件ポートフォリオ入れ替えと、根本的な技術開発活動に注力した。
新製品投入後、第4四半期(1-3月)に入り売上は回復に向かっている。
潜在的な成長力の高い案件ポートフォリオと技術ラインナップの拡充を完了している。
(同社資料より)
◎累積案件数の推移
2021年3月期の累積案件数は前期比55件増加の108件。増加数は前期の29件を大きく上回った。
アーティセンス案件が同24件増加、LiDAR案件が同11件増加と技術ラインナップが一段と拡充した。顧客ポートフォリオの入れ替えとともなって、今後の開発案件・顧客製品化の増加に繋がるものと期待している。
2020年から2030年までに「累積案件数の安定成長(年間15件増、累計150件増加)」と「大規模案件の顧客製品化(累計50件)」を目指す中長期戦略を維持している。
(同社資料より)
◎顧客製品化の見通し
各注力市場で、市場タイムラインに沿う形での商用化を見据えた評価・開発が進行中である。
現時点では、22年3月期から製品上市が本格的にスタートする見通しである。
(同社資料より)
◎NVIDIAパートナーネットワークへの参画
2021年3月、組み込みエッジ・コンピューティングにおけるNVIDIA CorporationのPreferredパートナーとして、NVIDIAパートナーネットワークに参画した。
この参画により、KudanはNVIDIAとの積極的な技術連携の構築を図るほか、NVIDIAパートナーネットワークにおいて高精度なSLAMを提供しながら、組み込み技術として欠かせないSLAMソフトウェアとしてビジネス機会の更なる拡大を目指す。
(NVIDIA Corporation概要)
1993年創立。1999年に3Dグラフィックスなどの画像描写を行う際に必要となる計算処理を行う半導体チップ「GPU(Graphics Processing Unit )」を発明。以来、ビジュアルコンピューティングのトップランナーとしてバーチャルリアリティ、人工知能、自動運転など最先端重要技術分野において最重要プレーヤーの1社として技術開発をリードしている。
2021年1月期 売上高166.8億USD(約1.8兆円)、純利益43.3億USD(約4,676億円)(同社Annual Reportより)
(NVIDIAパートナーネットワーク)
NVIDIAパートナーネットワークのプログラムでは、パートナー企業はNVIDIAのソリューション、プラットフォーム及び幅広い高度な技術が活用可能。世界トップレベルのソリューションやサポートをエンドユーザーに提供できるよう支援することを目的としている。
(Kudanの目指すもの)
今回NVIDIAパートナーネットワークに参画したことで、同プログラムを通じて、KudanのSLAMソフトウェアの認知度向上並びにターゲット拡大を図るほか、NVIDIAの顧客のみならず、パートナー企業全体でビジネス機会の拡大を進めていく。
項代表取締役CEOは、「NVIDIAとのパートナーシップにより、高精度で信頼性の高い点群地図と位置情報が必要不可欠なロボティクスおよび自動車製品向けに、GPUを活用した最先端のSLAMソフトウェアの提供拡大を進めることを楽しみにしています」とのコメントを発表。
NVIDIAも、「Kudanとアーティセンス社がNVIDIAパートナーネットワークのメンバーになることで、NVIDIA JetsonのエッジAIプラットフォームが提供する、強力な組み込みコンピューティング機能を活用した最先端のSLAMアルゴリズムを、顧客がソリューションに活用できるようになることを期待している」とのコメントを発表している。
3.2022年3月期業績予想
【3-1 業績予想】
| 21/3期 | 22/3期(予) | 前期比 |
売上高 | 127 | 300~350 | +173~+223 |
営業利益 | -451 | - | - |
経常利益 | -1,575 | - | - |
当期純利益 | -1,608 | - | - |
*単位:百万円。予想は会社側発表。
顧客製品化に向けた案件拡大を中心に足元の回復基調が継続し増収を見込む
売上高は3億円~3億50百万円の予想。
継続して海外中心に新型コロナウイルスによる感染症の拡大が継続し、既に獲得している継続案件の今後の進捗及びグローバルの各拠点における新規案件の獲得水準に一定の不確実性がある状況を考慮し、レンジ形式の開示としている。
利益については、今後の新型コロナウイルスに関する影響や事業開発の拡大状況等を考慮し、アーティセンス社との一層の事業統合・新規採用を含む新規投資を機動的かつ柔軟に実現するため、現時点では非開示。
【3-2 見通し・取り組み】
顧客製品化に向けた案件拡大を中心に、足元の回復基調が継続すると見ている。
2023年3月期以降、アーティセンス社との事業開発加速、顧客開発の支援強化による売上拡大・顧客製品化の前倒し、投資事業等を上振れ要因として期待している。
(同社資料より)
4.成長戦略
先端技術領域で、ユーザープロセスに対応して有効な複数のビジネスモデルを組み合わせた独自のハイブリッドモデルで「収益性」「安定性」「競争力」を高次元で並立し、市場成長をリードすることを目指している。
(同社資料より)
【1-3 市場環境】の項で触れたように、既に応用開発が進んでいるアプリケーションに加え、多様な先進テクノロジーを下支えすることにより、今後AP(人工知覚)技術が応用・統合される分野は多数あり、これまでの想定を超えたスピードでAP(人工知覚)技術は社会実装されていくと見込まれている。
こうした市場環境の中、同社はAP技術を起点とし、AIやIoTとの技術統合により応用領域を多段的に開拓していく。
(同社資料より)
また、蓄積した顧客案件の継続的な製品化に加えて、顧客製品の普及による技術の市場浸透により、商用ライセンス収入を大きく積み上げて飛躍的な利益拡大を目指す。
(同社資料より)
5.項CEOに聞く
自社の競争優位性、今後の成長戦略、課題、株主・投資家へのメッセージ等を伺った。
Q:「御社の競争優位性について聞かせください」
人工知覚技術の圧倒的な優位性とそれを実現できる世界でも有数の開発チームに尽きると思います。
我々は創業以来、常に競合が手掛けることのできない領域へと技術を深堀りしてきました。
ARを手掛けている中で競合が参入してくる、するとARそのものを扱うのではなく、ARを動かすためのアプリケーションを開発する。今度はアプリケーション開発の競合が参入してくると、SDK(ソフトウェア・デベロップメント・キット)というアプリを作りやすくするためのソフトウェアエンジンの開発を行う。SDKへの参入が始まると、今度はもう一歩深いアルゴリズムを開発する。といった具合で、競合を顧客に、競合を顧客にという方向で開発を進め、技術をどんどんと深化させていきました。
これがまさに我々が自らを「Deep Tech(ディープテック)の研究開発企業」と定義している所以です。
そして技術の深堀りを進めていけばいくほど、技術の汎用性が広がります。
逆に表面に近づけば近づくほど、CGをどういう風に表現するか、このバージョンのOSのスマホでどう動かすかといった、それぞれの状況に対応したソフトウェアの開発に取り組まざるをえず、汎用性は低くなります。
我々の技術の特長は、アルゴリズムの独自性、柔軟かつ高性能、センサ利用の柔軟性、演算処理環境の柔軟性、部分機能利用の柔軟性といった点ですが、「Deep Tech(ディープテック)」を追求してきた結果極めて高い汎用性・柔軟性を獲得することができたため、今後人工知覚の活躍が期待される多様で膨大な需要を取り組んでいくことが可能なのです。
これからも、経営理念「独樹一幟、標新立異(樹独り幟一つ、新しきを標し異なりを立てる)」にあるように、常に他社と比較できない突出した存在となるべく、この技術を今後もますます磨き上げていく訳ですが、その源泉となるのが世界でも有数のレベルの開発チームです。
現在当社と買収先のアーティセンス社に合計約40名のSLAMエンジニアがいますが、修士号や博士号保有者を含めたSLAMエンジニアをこの規模で擁している企業は、当社と米国のBig Tech企業(GAFA)くらいだと思います。
これには、やはりアーティセンス社と資本業務提携を締結することができたことが極めて大きい。
アーティセンス社のダニエル・クレーマーズ教授は、AI・自動運転研究の世界的権威で、彼が率いる世界で最も有名な研究室との関係構築により、今後も継続的に優秀かつ希少なエンジニアを確保することが可能になりました。
実はアーティセンス社には米国のBig Tech企業(GAFA)の1社からもオファーがあったということです。我々が競り勝ったということには正直自分でも驚いていますが、先程申し上げた我々の理念とクレーマーズ教授の、「自らの力でSLAM技術によって世の中を変えたい」という夢や情熱が共鳴したということだろうと思っています。
今申し上げた、人工知覚技術の圧倒的な優位性とそれを実現できる世界でも有数の開発チーム、このポジショニングを確立することができている点が、我々の強力な競争優位性であると考えています。
Q:「今後の成長戦略とそのための課題をお話しください」
我々の人工知覚(AP)技術は、その汎用性から、多様かつ膨大な需要を取り込むことが可能ですので、AP技術を中核に、AIやIoTとの技術統合により応用領域を多段的に開拓していきます。
現在、自動運転、自動走行ロボット、ドローン、AR/VR、マッピングサーベイを注力市場に顧客とともに製品開発を進めており、現時点では、今22年3月期から製品上市が本格的にスタートする見通しです。
新型コロナウイルスの影響などにより、2020年内は既存案件の進捗が停滞しましたが、この状況を好機ととらえ、成長性を高めるべく案件ポートフォリオの入れ替えにも着手しました。
我々の収益モデルは、開発フェーズでは、「KudanSLAM」のアルゴリズムライセンス提供と共に、共同研究開発によるアルゴリズムのカスタマイズ・新機能追加、技術コンサル等に対する対価を受領し、商用化フェーズでは、「製品単価×製品数」による商用ライセンスを受領します。
我々がターゲットとしているのは、売上・利益が5倍、10倍となる世界、商用化フェーズです。
ここで重要になるのが、いかにしてより高成長が期待できる案件に集中していくかです。
コロナ前は多くの企業が本業ではなく、新規事業という形で開発に乗り出してきたのですが、コロナによって一旦フリーズした案件も多数ありました。ただ、例えば自動車メーカーは自動運転の流れを止めることはありませんし、産業機械メーカーも省人化や無人化に向けたロボティクスを中止することはありません。
このように、案件ごと将来性を評価し、少数精鋭、本気で取り組む顧客を中心としたポートフォリオへと組み換えを行いました。
このため、前期決算は下方修正も行いましたが、今期以降の案件拡大・顧客製品化に向けたより筋肉質なポートフォリオを構築することができたと考えています。
我々の成長速度を加速させるための「製品化」に向けての課題の一つは、実際のデバイスなり製品の完成のためには当社の人工知覚(AP)技術のみでなく、顧客側の技術の完成も必要であるという点です。
例えば、自動運転において人工知覚で状況を把握できても、脳に当たるAIが信号や障害物を見誤ったりすることもあります。
また、普及のためのインフラ整備や規制対応への投資も顧客側で必要になるケースがあり、こうした点が製品化に向けたボトルネックとなることもありえます。
こうした課題に対しては、AIやIoTとの技術統合により応用領域を多段的に開拓していく取り組みをより一層強化するとともに、先程申し上げたように、顧客ポートフォリオの質を引き上げていくことで対応する考えです。
Q:「ありがとうございます。それでは最後に株主・投資家へのメッセージをお願いします」
我々は人工知覚技術で、世界のトップに立っていると認識しています。
アーティセンス社とのアライアンスによりそのポジショニングを今後さらに強固なものとする基盤も出来上がっています。
足元は新型コロナウイルスの影響もあり、足踏みもありましたが、中長期的に爆発的な売上・利益の成長を目指し、最短距離でそのステージへ向かうべく強いビジョンをもって事業に邁進して参りますので、是非ご期待ください。
6.今後の注目点
人工知覚(AP)技術の応用範囲は今後益々拡大していくこととなるだろう。世界最先端のポジショニングを構築済の同社の成長性、将来性に大いに期待したい。
一方で投資家が知りたいのは、会社側が目指す5倍、10倍という成長スピードがいつごろから現実のものとなるかである。実際のデバイスなり製品完成のためには同社の人工知覚(AP)技術のみでなく、顧客側の技術の完成も必要であるという点が「製品化」に向けての課題の一つということで、同社のコントロール外である点は如何ともしがたいが、顧客ポートフォリオの質引き上げで対応していくということだ。中期的な期待を持ちつつ、今・来期にも見込んでいる製品上市のリリースを待ちたい。
<参考:コーポレート・ガバナンスについて>
◎組織形態、取締役、監査役の構成
組織形態 | 監査等委員会設置会社 |
取締役 | 7名、うち社外4名 |
監査役 | - |
◎コーポレート・ガバナンス報告書
最終更新日:2020年6月23日
<基本的な考え方>
当社は、企業価値を向上させ、株主利益を最大化するとともに、ステークホルダーとの良好な関係を構築していくために、コーポレート・ガバナンスの確立が不可欠なものと認識しております。
当該認識のもと、代表取締役以下、当社の取締役、従業員は、それぞれの役割を理解し、内部統制システムを整備・運用していくことで、コーポレート・ガバナンスの充実に努めてまいりたいと考えております。
<コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しない理由>
コーポレートガバナンス・コードの基本原則について、全てを実施しております。
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