ESG Bridge Report:(1716)第一カッター興業 vol.1
高橋 正光 代表取締役社長 | 第一カッター興業株式会社(1716) |
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企業情報
市場 | 東証1部 |
業種 | 建設業 |
代表取締役社長 | 高橋 正光 |
所在地 | 神奈川県茅ケ崎市萩園833番地 |
決算月 | 6月末日 |
HP |
財務情報
売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期純利益 | 総資産 | 純資産 | ROA | ROE |
17,440百万円 | 2,296百万円 | 2,482百万円 | 1,523百万円 | 15,533百万円 | 12,548百万円 | 17.2% | 13.5% |
*2020年6月期実績。当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。ROAは総資産経常利益率。
目次
1.会社概要
2.トップインタビュー
3.課題・マテリアリティと取り組み
4.中期経営計画(19/6期~21/6期)の進捗状況と今後の戦略
5.財務・非財務データ
<参考>
(1)ESG Bridge Reportについて
(2)「柳モデル」について
1.会社概要
ダイヤモンド工法とウォータージェット工法による専門技術を強みとする社会インフラの維持補修工事を展開。ビルメンテナンスやIT機器のリユース・リサイクルも手掛ける。
ダイヤモンド工法は、工業用ダイヤモンドを使って道路や構造物の切断削孔を行うもの。従来のコンクリート破砕工法では、常に騒音や振動、粉塵等の公害を意識する必要があったが、ダイヤモンド工法は、安全に、スピーディーに、正確に、環境に影響を与える事なく工事を行う事ができる。
一方、ウォータージェット工法は、超高圧で水を噴射してコンクリートの結合を破壊する。鉄筋を傷める事なく、ピンポイントでコンクリート構造物の修繕補修が可能。
グループは、ワイヤーソーやコアボーリング工事を手掛ける(株)ウォールカッティング工業、海洋土木(水中での切断穿孔工事)に強い(株)光明工事、沖縄県に拠点を置く(株)新伸興業、建築関連のウォータージェット工法に強い(株)アシレ、及びリユース・リサイクル事業を手掛ける(株)ムーバブルトレードネットワークスの連結子会社5社と、持分法適用関連会社のダイヤモンド機工(株)等。
新規開設やM&Aにより子会社含め全国に23事業所を展開している。
【1-1. 沿革】
日本で最初に道路の切断機を導入した建設会社でアルバイトをしていた創業者が今後の需要拡大を予見し、1967年8月、神奈川県茅ケ崎市に「ダイヤモンド工法」によるアスファルト・コンクリート構造物の切断・穿孔工事を目的とし、同社を設立した。
当初は工事案件も少なかったが、建設省(現:国土交通省)が、道路の切断工事の際には安全性などの観点からカッターを使用することを義務付ける通達を発出したことが契機となり、仕事量が増大していく。
同業他社が自身の地元で事業を行っていたのに対し、同社は1969年6月に札幌営業所を開設したのを皮切りに、千葉、栃木、水戸、高崎などへ展開。同時に道路切断のみでなくコンクリート構造物の穿孔工事や切断工事など工事対象範囲の拡大も進めていく。顧客ニーズに迅速に対応する機動力、工事品質の高さ、工事に使用する材料や機械についての豊富な知識やノウハウなどが顧客に高く評価され業容は着実に拡大し、2004年には株式を日本証券業協会に店頭登録した。
2000年代に入り、M&Aによる工法の多様化や事業所の全国展開を一段と加速させ、2017年12月には東証1部に上場。
インフラ老朽化という日本が直面する社会的な課題解決に取り組んでいる。
【1-2. 企業理念】
「特化した技術と高いサービスを持って社会に貢献し、最良のグループとなる事をめざす」を経営理念に掲げている。
「切る」「はつる」「洗う」「剥がす」「削る」をキーワードに、特化した技術を様々な現場へ提供。各々の事業を、全世界を対象に展開し、最良の企業となることを目指している。
営業方針 | 組織力、展開力を生かし、攻めの営業展開を |
工事方針 | 当社の品質である工事力を高めよう |
安全方針 | 働く人の健康と安全を促進する |
【1-3. 事業内容】
事業は、切断・穿孔工事事業、ビルメンテナス事業、及びリユース・サイクル事業に分かれる。
切断・穿孔工事業は、同社、(株)ウォールカッティング工業、(株)光明工事、(株)新伸興業、(株)アシレ、ダイヤモンド機工(株)が手掛け、ビルメンテナス事業は同社が、リユース・リサイクル事業は(株)ムーバブルトレードネットワークスが、それぞれ手掛けている。
<切断・穿孔工事事業>
切断・穿孔工事とは、道路等の各種舗装、及びコンクリート構造物の解体、撤去等に必要な切断工事、穿孔工事の事。
同社グループの切断・穿孔工事事業では、工業用ダイヤモンドを使用したダイヤモンド工法(第一カッター興業株式会社の登録商標)、及び水圧を利用したウォータージェット工法を中心に事業を展開している。
切断・穿孔工事で発生する排水は回収され、大型中間処理施設で中和され切断水として再利用される。また、切断されたコンクリート等の廃棄物は脱水処理後、コンクリート等の原料へと再生される。
グループで全国をカバーしており、同社が東日本全域に、(株)アシレが神奈川・大阪に、(株)ウォールカッティングエ業が主に東海地方に、(株)光明工事が大阪・中四国地方に、(株)新伸興業が沖縄県に、ダイヤモンド機工(株)が九州地方に、それぞれ営業基盤を有している。
同社グループは専門工事業者として、インフラの建設工事や維持補修工事の一翼を担っており、主な得意先は総合建設業者、道路建設業者、及び設備業者等。得意先が工事を受注し、コンクリート等の切断穿孔工事を同社グループに発注する。得意先は公共事業関連工事を中心に事業展開しているため、同社グループが施工する工事も大半が公共事業関連工事である((株)アシレは民間分野の客層が大半)。
一方、公共事業関連工事以外の工事としては、化学工場・石油プラント・発電所等のメンテナンスやウォータージェット工法による洗浄等が挙げられる。工事を種類別に分類すると、土木工事、建築関連工事、都市土木工事、道路・空港工事、生産設備メンテナンスに分類される。
◎主要取引先
大成建設、大林組、鹿島建設、ショーボンド建設、鉄建建設、東鉄工業、JFEエンジニアリング、IHIインフラシステム、野村不動産パートナーズ、大成ロテック、鹿島道路、山九、三菱地所コミュニティ、三井不動産レジデンシャルサービス、NIPPO、日本道路、清水建設、三井住友建設他(順不同)。
◎主な工事内容
土木工事 橋梁工事、港湾工事、ダム関連工事といった、大型構造物の補修・撤去工事を行っており、水中など特殊な環境下での切断・穿孔作業の場合にも、専属のオペレーターによる施工を行っている。 |
建築関連工事 建物解体工事、免震工事、耐震工事、改修工事、新築工事といった、解体・リニューアル工事に伴う各種作業を行っている。また、周辺施設への環境負荷軽減にマッチした施工方法で、従来工法では困難な施工にも対応している。 |
都市土木工事 鉄道工事、廃棄物処理施設工事、上下水道施設工事といった、都市基盤施設における土木関連工事を行っている他、計画立案から施工までトータルで対応する環境関連工事も手掛けている。 |
道路・空港工事 道路の補修等に伴う各種切断や表面処理、劣化コンクリート除去、空港での滑走路グルービングや灯火設置のためのコアドリリング等作業を行っている。グルービングマシンやコア特装車といった特定条件での切断・穿孔作業が可能な事が同社の強みである。 |
生産設備メンテナンス 生産設備メンテナンスでは、工場メンテナンスに伴う各種設備洗浄、改造工事に伴う無火気切断、床の塗り替え、及び下地処理等を行っている。同社では産業洗浄技能士を常駐させる事で、作業の品質と安全を確保している。 |
◎主要なテクノロジー:独自の工法
*ダイヤモンド工法
工業用ダイヤモンドを使って道路や構造物の切断・削孔を行う。フラットソーイング、コアドリリング、ウォールソーイング、ワイヤーソーイング、グルービングの5つの基本工法をもとに、独自のアイデアで多種多様なダイヤモンド工法を行っている。
「ダイヤモンド工法」は同社の商標登録であり、業界No.1の実績を有している。
ダイヤモンド工法に用いられる工具には、「ダイヤモンドブレード」、「ダイヤモンドビット」、「ダイヤモンドワイヤー」があり、それぞれダイヤモンド砥粒を使用している。
「ダイヤモンドブレード」は、ダイヤモンド砥粒をメタルボンドで焼き固めた(焼結した)チップを基盤の周りに付けたもの。
「ダイヤモンドブレード」を高速で回転させる事で対象物を切断する(建材の種類や切断の深さ等に応じてサイズを使い分ける)。「ダイヤモンドビット」は筒状のチューブの先端にダイヤモンドチップの付いた刃先を付けたもの。高速で回転させ対象物を穿孔する(穴の大きさや穿孔の深さによって様々なビットを使い分ける)。
「ダイヤモンドワイヤー」はダイヤモンド砥粒をメタルボンドで焼結したビーズをワイヤーに一定間隔で装着したもの。対象物に制約がなく、複雑な形状物であっても切断できる。
フラットソーイング
一般に床・床版・舗装のような水平面の切断に最適な工法。ダイヤモンドブレードを機械に取り付け、機械の進行に合わせてオペレーターが後方から歩きながら一人で操作する。目地切り、傷んだ舗装の打ち替え・撤去目的のコンクリート部分の切断、電気・電話・ガス・水道・下水道など舗装下に管を敷設する際の舗装部分の切断等に用いられている。動力はガソリン・ディーゼル・電気・油圧等で、切断によって過熱した切れ刃を冷却するために、刃先に水を送りながら切断する(圧縮されたエアーを冷却に使う乾式フラットソーイングもある)。
(同社Webサイトより)
コアドリリング
ダイヤモンドビットによって被穿孔物に工具を貫入させて孔をあける工法。正確な円形切断を求められる現場で使用される。給排水管・電気配線・空調設備のダクト、耐震補強等、どのような径の孔でも容易に穿孔できる。強度検査用サンプル採取や、アンカーボルト用の穿孔、厚い壁の一部を除去する場合のラインカット等、仕上がりの精度が特に求められる現場で活躍する。
(同社Webサイトより)
ウォールソーイング
壁や斜面・床面等に走行用ガイドレールをアンカーボルトで固定し、ダイヤモンドブレードの高速な回転と駆動機のレール上の移動によって対象物を切断する工法。ドアの開口部や換気口・窓の設置に多用され、直角・斜め共に切断可能。レールに沿って切断するため、正確に開口部を設ける事ができる。また遠隔操作も行えるため、どのような状況下においても安全な作業が可能。本体が小型・軽量なため持ち運び自在で、ビルや高速道路・地下鉄等、作業スペースの狭い現場においても優れた機動力を発揮する。
(同社Webサイトより)
ワイヤーソーイング
ワイヤーソーに一定の張力を加えながら、油圧式またはエンジン式の駆動機により高速回転させて対象物を切断する工法。対象物の形状に左右される事なく、厚大・複雑な構造物も容易に切断可能。また遠隔操作や自動運転もできるため、水中・高所・地下等あらゆる環境下において安全かつ自由に施工できる。
(同社Webサイトより)
グルービング
硬化した路面に車輌の走行方向と平行あるいは直角方向に切削を行い、複数の浅い溝(安全溝)を同時に施工する工法。専用のグルービングマシンを用いて、ドラムと呼ばれる筒状の装置に複数のダイヤモンドブレードを所定のピッチに重ね、セットしたものを回転させ路面を切削する(滑り抵抗や排水性を向上させる事で路面を改善する)。ドライ工法とウェット工法があり、滑走路や舗装道路、急斜面に施工する事で路面使用時のスリップを未然に防止する。1956年にイギリスの空港で初めて施工され、世界に広がった。
(同社Webサイトより)
*ウォータージェット工法
水を高圧水発生装置によって加圧・圧縮し、ノズルから噴射される高速水噴流で、はつり(コンクリート製品を、削る、切る、壊す、穴を開ける等の作業)・洗浄等を行う。対象物に与えるひずみが少なく、マイクロクラックがほとんど発生しない、低振動等の特徴を有し、環境に配慮した優れた工法として注目されている。
同社では、土木・建築や産業メンテナンス、また環境関連など幅広い分野でウォータージェット工法を活用している。
土木・建築では、コンクリート除去処理、成型(コンクリート壁の開口、コンクリート構造物の部分除去)、表面処理、塗膜除去処理、洗浄処理等で使われ、産業用メンテナンスでは、タンクリアクター等のプラント機器の清掃作業(スケール除去等)で使われる。また、金属切断(アブレイシブ切断)もできるため、火気厳禁の場所での改修工事にも対応する。
(ウォータージェット工法の特長)
振動が少ない | ブレーカー、削岩機等の打撃破砕とは異なり、ノズルから噴射された超高圧水のエネルギーによってコンクリートのセメントモルタル結合を破砕するメカニズムが特徴。 |
構造物への影響が最小限 | 対象物に与える変形、ひずみ、残留応力が少なく、マイクロクラックもほとんど発生しないため、構造物への影響を最小限に抑えた作業が可能。 |
ピンポイントで除去 | 適切な圧力と流量の設定により、鉄筋を傷めずコンクリートの劣化部分だけをピンポイントで除去できる。 |
塗膜や付着物だけを除去 | 圧力の調整によって、対象物の塗膜や付着物だけを除去できる。 |
遠隔操作 | 対象物とノズルが接触しないため機械の遠隔操作が容易。曲線・曲面における自由な作業が可能となり、均一な品質が得られる。 |
<ビルメンテナス事業>
同社単独の事業である。集合住宅やオフィスビル等において、排水管清掃、貯水槽清掃、給水設備点検、床清掃、ファイバースコープ調査、機械式ピット清掃等を行っている。
<リユース・リサイクル事業>
(株)ムーバブルトレードネットワークス、持分法適用非連結子会社1社、持分法非適用関連会社2社の事業である。リユース事業では、主に一般企業からタブレット、パソコン、サーバー、液晶ディスプレイ等の中古IT関連機器・OA機器を仕入れ、データ消去及び補修・改修を行った後、主に法人に対してこれらの機器を販売している。また、主に法人向けにIT関連機器のデータ消去を行うサービスや、OA機器のオフィス設置サービスも行っている。リユースが難しい中古品については解体した後、中間処理を行い再資源化を行うマテリアルメーカー・素材業者に販売している。一般的な素材から金・銀・コバルト等の希少金属まで再資源化を行う業者への販売を行う。
【1-4. 価値創造のフロー】
(作成:株式会社インベストメントブリッジ)
同社は、業界トップ企業として、「ヒト」をコアコンピタンスに高い技術力で、老朽化した日本の社会インフラの補修・修繕のための各種工事を手掛け、国民に安全・安心な生活を提供するとともに、持続的企業価値向上を実現している。
2.トップインタビュー
●社会的責任、社会的存在意義について
Q.近年、社会全体が持続可能な成長を目指す中で、その重要なプレーヤーの一員である企業の理念、ミッション、社会的存在意義が重視されています。 先ずは社長がお考えになる御社の社会的な責任や存在意義についてお聞かせください。
道路、橋、上下水道といった日本の社会インフラは高度経済成長に合わせて整備されてきたのですが、それから既に60年近くの年月を経た現在、その老朽化が日本全体の大きな課題となっています。 例えば最近各地で発生する突然の道路陥没事故なども、多くは下水道管の老朽化に起因するものですし、東日本大震災の発生を契機に多くの施設で耐震強度不足が明らかになっています。 また、もともと自然災害の多い日本ではありますが、近年台風や豪雨の被害が激甚化しており、老朽化したインフラが大きな被害を受け、国民の生活に大きな影響を及ぼしています。 |
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そうした中、我々が行っている耐震補強、水道管の更新工事、メンテナンス、高速道路の補修、橋や河川の復興・復旧工事などは、日本国民が安心して生活していくうえで極めて重要な取り組みであり、人々の安全と安心を守ることが我々の社会的な責任であり、存在意義であると考えています。
加えて、老朽化が進む社会資本ストック量が今後も増大していく中で、各種工事を適切かつ確実に施工していくためには優秀な人材を採用・育成して現場に継続的に送り出していかなければなりません。
そうした人的資本の供給も当社の重要な責務であると強く考えています。
●ESGについての認識、考え方
Q.今伺った御社の責任や存在意義とESGの関係性についてお聞かせください。
先程申し上げたように、当社は老朽化が進む日本の社会インフラの補修やメンテナンスに携わることで国民の安全・安心を守ることが社会的な存在意義であり、そのための人材供給が果たすべき大きな責任であると認識しています。
つまり、こうした社会的な責任や存在意義は、ESGのうちまさに「S」そのものであると言っていいでしょう。
また、「E」についても、創業以来、公害対策として各種工事につきものである騒音や振動の軽減に向けた工法の開発などにも取り組んできましたし、近年はカーボンオフセットについても注力しています。
そうした意味では、自社の社会的責任や存在意義を明確に意識しながら、持続的に事業活動を推進していくことが、社会問題や環境問題を解決すると同時に、企業価値の向上に繋がっていくものと考えています。
●ビジネスモデル・特徴・強み・競争優位性
Q.御社のビジネスモデルおよび特徴や強み、競争優位性はどんな点でしょうか。
「下請け専業で受注件数を拡大」
まずビジネスモデルにおける特徴という点で皆様に知っておいていただきたいのは、当社は「元請け」にはならず、「下請け」専門で事業を展開しているという点です。
一般的には多重下請け構造にある建設業においては、収益性が高い「元請け」を志向するほうが有利ではないかとも見られがちです。
しかし、「元請け」は一つの工事案件の川上から川下まで全てに目を配らせなければなりませんが、「下請け専業」である当社は最も強みを持つ工事のみを手掛けることができるため、仕事の手離れが良い。結果的に、どんどん新規工事を受注していくことが可能であり、スケールアップを目指しやすいのです。
「全国展開で業界ナンバーワンの実績」
また、当社は専門工事業でニッチな業態ですので、売上・利益の規模を追求していくには一定の工事件数や顧客数を確保していく必要があるため、早くから全国展開を進めてきました。
現在全国に23の営業所を有し、協力会社とのネットワークも活用して、地元の工務店からスーパーゼネコンまで約7,000のお客様から受注した年間約6万件の工事を手掛けていますが、全国展開を行っているのは当社のみですし、これだけの工事件数を手掛けることができるのも当社ならではです。
多様なお客様から受注することでリスク分散が出来ている点も当社の大きな強みと言えるでしょう。
(同社提供)
「ヒト」のいる価値を追求
次に、当社のコアコンピタンスは「ヒト」であるという点も是非ご理解いただきたいと思います。
労働集約型産業である建設業界においては、少子高齢化の流れの中で現在約340万人の建設従事者は2030年にはその1/3が高齢化によって離職すると言われており、その影響は極めて大きなものとなります。
そうした中、10年後には「ヒト」がいることの価値は今とは比較にならないほど高まることは間違いありません。言い換えればヒトを有している企業の競争優位性は飛躍的に向上するということでもあります。
そのため、当社では先程申し上げた「優秀な人材を供給することが社会的な責務である」との認識の下、「ヒト」を大事にし、いかにして多くの優秀な人材を確保するかに向けて取り組んでいます。
勿論省力化ということも今後のテーマになってくるのですが、消極的に採用を抑制するのではなく、「ヒトがいることの価値」を強く意識し、競争力強化と社会的な責務を追求していきたいと考えています。
幅広い工種を高水準な技術でワンストップで対応
当業界には約1,800社の企業が存在しているのですが、当社のように多くの人材を有して、「切る」「はつる」「洗う」「剥がす」「削る」をキーワードに、特化した技術を幅広く提供している企業は数少なく、その点を多くのお客様に高くご評価いただいています。
例えば一つの現場において、道路を切る、コンクリートに穴をあける、柱を撤去するといった作業が必要な場合、それぞれの作業に適した工事業者を指定するのではなく、幅広い工種を高水準な技術でワンストップ対応できる当社は、大きなアドバンテージを有しているのです。
協力会社とのネットワーク
また協力会社とのネットワークも当社の競争優位性における大切なポイントです。
当社では協力会社を重要なパートナーと認識しており、社内でも「下請け」と呼ぶことを禁じています。
現在、自社施工と協力会社による施工を凡そ半分ずつとしており、これによって少し工事量が減少している状況でも自社施工は常に高稼働を維持できますし、突発的な工事が発生しても協力会社のおかげで対応することができています。全国展開を可能としているのも協力会社のおかげです。
協力会社は業界トップの当社の仕事を手伝うことに意義を感じて頂いているので、当社もそれに甘えることや上から目線で対応することなく、共存共栄で社会的課題解決に取り組んでいます。
(同社提供)
●主要マテリアリティにおける取り組み
Q.今回御社では初めて11のマテリアリティを選定しました。(「3.課題・マテリアリティと取り組み」参照)
このうち、御社の持続的成長にとって特に重要なマテリアリティについて社長のお考えを伺いたいと思います。
まず最初は、「人的資本」についてです。社長は御社における人的資本の位置づけについてどうお考えになっていますか?
先程も申し上げたように、老朽化した日本の社会インフラの補修や維持にあたることを社会的な存在意義とする当社において、人的資本は責任もってその責務を果たすための必要不可欠な重要な資産です。
私は現場で働く当社の社員を「かっこいい」と誇りに感じています。
泥にまみれることもあれば、酷暑の中汗まみれになったり、極寒の中で凍てつきながら作業したりと様々な環境の中でも、使命感を持って笑顔を忘れずに仕事をしている姿は本当にかっこいいのです。
でもそのかっこよさに彼ら自身がまだまだ気付いていない。これは大変もったいないことで、気付いていないばかりに、例えば身なりに気を配らないというようなケースも出てきてしまう。
そうではなく、良い仕事、立派な仕事、社会のためになる仕事をしているのだというように,意識を変えて行きたいと思っています。
そうすればもっと多くの人が当社の仕事を理解し、入社希望者も増えるだろうし、お客様との関係もより強固なものとなってくるはずです。
そうした意味で、人的資本の重要性を強く認識する中で、社員の意識を変えるような環境作りに取り組んでいくのが社長である私のミッションであると考えています。
(同社提供)
そのために必要な取り組みの一つが「ブランディング」、特に社内におけるブランディングが重要と考え、管理者層及び役職者の育成を目的とした「第一カッター・マネジメントスクール」において今回、映像を制作しました。
テーマを「10年後の第一カッター」として、未来の社会情勢や自分たちの私生活、一緒に働く仲間、そして災害時には被災地の復興に協力するなど、会社があるべき姿を想像して、参加者各自が考えたシナリオを持ち寄り、一つにまとめ、配役まで整えた上で自分たちも演者として作品に出演しています。
道路を切り、汚れを洗い、構造物を撤去する、モノを無くす私たちの仕事は、製造業や建設業のように形として残る成果物が無いため、中々達成感を得づらく、各人の甲斐性に頼ってしまっている部分があることも否めません。
そこで、今回の研修では、研修生が共創して一つの映像作品を成果物として制作することとしてみました。
この研修・映像制作を通じて、我々が日々行っている業務においても、過程をデザインし、演出して仲間と共同で作業していくことは、モノつくりと同じであり、しっかりと達成感を得ることができるのだと、参加メンバーは実感できたようです。
また全従業員向けに発表したところ、多くの従業員から非常に良い感想や前向きな意見を貰うことができました。
彼らの意識に働きかけ、「かっこいい」気づきの一つを提供できたのではないかと考えています。
当社ウェブサイトで公開しておりますので、是非みなさまにもご覧いただきたいと思います。
URL https://youtu.be/JywTRAXxLYs
また、これ以外にも私からは、全社員対象にした経営報告会、社内報、朝礼・夕礼用メッセージなど、様々な機会を通じて繰り返し繰り返しメッセージを発信しています。
女性の戦力化にも取り組んでいます。
現在のところ現場では4名の女性社員が働いていますが、現場の雰囲気が明るくなり、お客様も可愛がってくださる等、良い面が現れています。
今後は彼女らの意見を現場の改良・改善に繋げていきたいと思います。
例えば、機械の重さは女性が作業する上で解決すべき課題となりますが、これを解消することは女性のみでなく高齢化対策にも繋がります。また、これまでは作業の1から10まで全てできて初めて一人前と言われていたのですが、力のある男性社員が1から7まで手掛け、彼女たちが仕上げの8から10までを担当するといったことでもいい訳です。
分業にすることで効率性が向上することもありうるので、そうした気づきを多く見出すためにも、女性たちが配属されている営業所には、女性を目いっぱいえこひいきするようにと言っています。
つまり、女性が働きやすい環境を作ることは、現場全体にも多くのメリットをもたらすだろうということです。
彼女らがもう数年現場を経験した後は、施工管理や営業に異動する事もあるでしょうから、彼女らが長く活躍してくれることは、次の女性社員の入社に繋がっていくきっかけとなりますので、環境作りに注力するとともに彼女たちの活躍に大いに期待しています。
一方で当社が持続的に成長していくためには、現場のみでなく、専門性を持った人材の確保も必要です。
例えば、財務、人事、広報、開発といった分野です。
こちらは中途採用を中心に陣容を強化していく必要があると考えています。
Q.では従業員の働き甲斐醸成、教育・育成制度、従業員の健康と安全などについてどんな考えの下、どんな取り組みを行っているのかお聞かせください。
育てるという点で最も意識しているのは仕事のチャンス、チャレンジの機会を与えることです。
例えば、採用のための展示会の企画や実施に入社2年目の社員に参加してもらうと、彼は選ばれたことを意識しますし、当日は学生に自分が入社以来してきたことをわかりやすく話すために、自分を振り返ることができるし、人前で話す訓練にもなる。
当社では年次別・階層別にきめ細かい研修を実施していますが、研修と並行して、様々なチャンスを提供し、チャレンジする事で自ら成長に繋げてもらいたいと考えています。
(同社提供)
やる気のある社員には、社会人大学への入学も推奨しています。
当然業務を行いながら自ら時間を創り出して、2年ないし4年間勉強を続けなければならないのですから当人はきついと思いますが、それもチャレンジであり、結果として本人の自信にもなり、会社にも十分貢献してくれるので非常に重要な制度と位置付けています。
また、当社では家族向けのインフルエンザワクチン接種助成や配偶者の健康診断を婦人科検診のセットで補助するなど、従業員本人だけでなく家族にも適用できる各種助成制度を充実させています。
これは、家族があり、家族が元気でいてくれるからこそ社員が活躍できるのだというメッセージでもあります。
Q.続いて御社の競争力強化に向けた取り組み・イノベーションについてお聞かせください。
開発に関しては、「困りごと」「安全」「省エネ」をキーワードに様々な開発に取り組んでいますが、加えて、最近開発したオイルを使わず水で駆動させる「水圧駆動式・切断切削工法ECOA(エコア)」のような「環境対策」、少子高齢化の下での「省力化」も重要なテーマと認識しています。
省力化に関しては、女性でも働きやすい環境、障がい者が健常者と同様な仕事ができる環境、高齢者が現場に出続けられる環境を創出するための研究開発に注力していきます。
これらが実現すれば、省力化施工の先にある遠隔技術や自動化技術に磨きがかかり、原子力発電所の廃炉を含めたインフラの維持・構築の需要を確実に取り込むことができますので、事業機会の創出に加え、社会的な貢献度も極めて大きいと考えています。
ただ、全てを自社のみで完結させるのは難しいので、様々な大学や企業等とのオープンイノベーションに取り組んでいます。
開発力強化は人的資本の育成強化とともに当社の競争優位性の源泉となるものですので、今後とも一段と経営資源を投入してブラッシュアップを図ってまいります。
Q. 温室効果ガス排出抑制、振動・騒音の抑制、用水・排水の管理など環境課題についてはどうお考えですか。
当社は創業以来、公害対策として各種工事につきものである騒音や振動の軽減に向けた工法の開発などにも取り組んできましたし、近年は「カーボン・オフセット付中間汚泥処理サービス」および「PlaCon floor(プラコンフロアー)®」の2つのサービスにおいてカーボン・オフセットを推進しています。我々の業界においては、カーボン・オフセットを導入している企業は当社のみとなっています。
加えて、2020年に日本政府が打ち出した「2050年 カーボンニュートラル実現」目標により、現在二酸化炭素を排出している全国の各種プラントは排出低減に向けた大規模な改修を迫られることとなります。
これは当社にとっては社会課題解決を通じた事業機会の大幅な拡大に繋がるものです。人的資本の拡充を進め、着実にそうした需要、期待に対応してきたいと考えています。
Q:コーポレートガバナンスについてのお考え、取り組みをお聞かせください。
顧客、株主、地域住民及び従業員等ステークホルダーと共存共栄できるコーポレート・ガバナンス体制を構築し、中長期的な企業価値の向上を図ることを重要な経営課題の一つとして認識しています。
組織形態は監査役会設置会社で、経営の透明性・健全性を確保するため社外監査役及び社外取締役をそれぞれ2名の計4名を選任していますが、近いうちに社外監査役及び社外取締役は4名全員を独立役員にする計画で、さらに経営監視機能を強化いたします。
●中期経営計画について
Q.次に、現在進行中の中期経営計画について、現時点での自己評価をお聞かせください。また次期中期経営計画ではどんな点がポイントとなるのでしょうか?
現在の中期経営計画は今期(2021年6月期)で終了しますが、社員数の拡大・定着、営業範囲の拡大、協力会社体制の強化などはひとまず及第点を付けられるかなと思います。
特に協力会社との関係構築・深化という点では、相互の理解を深めることができ、突発的な工事にもしっかりと対応することができましたので、高得点をあげてもいいと思います。
一方で営業体制の更なる強化についてはシステム構築の途上にあり、まだまだこれからという状況です。
現在策定中の次期中計でも引き続き人材戦略、人的資本に対する取り組みが中心になりますが、中でも残業時間とその管理をいかにすすめるかが明確な課題です。
これをクリアできれば、規模だけでなく中身も強靭な、もう1ステージ、2ステージ上の会社になっていくと思います。
当社が目指す働き方改革は簡単なことではなく、当然苦しいプロセスではありますが、その苦しさを乗り越えた時、初めて建設業界内のみでなく他産業と比べても魅力的な職場になり、人材確保の面で大きな前進を遂げることとなります。
規模のみでなく質も追求していきたいと考えています。
●ROEについて
Q.ROEに関してはどのようにお考えですか。
この数期、ROEは12から13%程度の水準で推移しています。
引き続き投資も実行していきますが、資産効率を高め、同程度のROEを維持して、株主や投資家の期待に応えていきたいと考えています。
●その他のリスク、課題
Q.新型コロナウイルス感染拡大の影響についてお聞かせください。
2020年春の第一波では日本国中に不安が高まり様々な経済活動が停滞した中でも、マンションの維持管理を除いた各現場はほとんど止まることはありませんでした。それにより、私たちは社会にとって必要とされているのだということを改めて強く認識することができました。
一方で、外出自粛が言われる中で現場に赴く社員についてはご家族も不安をお持ちでしたでしょうから、手当を支給して感謝の意を表すこととしました。
今後もお客様の状況によっては設備投資を抑制する動きも予想されますから、楽観的には見ていませんが、社会から必要とされる存在であることには違いないので、大きく影響を受けるということは無いのではないかと見ています。
一方で、コロナとは直接関係ありませんが、国土強靭化計画に基づく防災・減災への公共予算配備は、維持・修繕に携わる私どもの受注にとっては大きな下支え要因となっています。
Q.「職人の確保」に向けて残業代の支給を始めとした職場環境の改善を進めると同時に、企業としては収益性や生産性の向上にも取り組まなければならないと思いますが、その点はどのようにお考えでしょうか?
「職人の確保」は、当社の競争力をさらに強化する取り組みでありますが、反面、想定通りに進まない場合はリスク要因となる点は十分に認識しています。
リスクを低減し、当社の企業価値を持続的に成長させるための最も重要な課題としてその実現に注力してまいります。
先程申し上げたように、当社では自社施工をフル稼働させながら、協力会社と連携することで、安定的に受注を消化できる仕組みを作り上げています。
まず、この協力会社との関係を更に強化することで、収益性・生産性の維持・向上と社員の適切な時間管理の実現を目指していきます。
また、それだけでなく、先に挙げた「省力化」や「作業の可視化」といった技術開発を始めとして、様々な取り組みを通じて収益性や生産性の維持・向上を図っていく考えです。
●ステークホルダーへのメッセージ
Q.様々なポイントについてお話しいただきありがとうございました。最後にステークホルダーへのメッセージをお願いいたします。
当社は極めて地味で、皆様の目に触れる機会が少ない会社ではありますが、最初に述べたように社会インフラの老朽化が深刻化する日本において、課題解決に向けた極めて大きな社会的責任と社会的存在意義を持ったキラリと光る会社です。
今後とも持続的な成長の実現と社会への価値提供により、お客様、協力会社、従業員、地域社会、株主、全てのステークホルダーの皆様にご満足いただけるような、さらにキラリと光る企業を目指してまいります。
一方で、今回このESGレポートの発行によりESG情報開示に着手しましたが、ESGに関する具体的な取り組みやデータの開示に関しては、網羅性の観点からは決して十分とは考えておらず、社内体制の整備を中心に、重要な課題として取り組んでまいります。
ステークホルダーの皆様におかれましては引き続き温かいご支援を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
3.課題・マテリアリティと取り組み
第一カッター興業が現状認識している課題・マテリアリティは以下のとおりである。
マテリアリティの選定に際しては、社外へのヒアリングも行っている。
課題 | マテリアリティ |
環境
| 温室効果ガス排出抑制 |
振動・騒音の抑制 | |
用水・排水の管理 | |
社会資本 | 特化した技術と高水準のサービス |
地域社会への貢献 | |
人的資本
| 従業員の働き甲斐醸成 |
教育・育成制度 | |
従業員の健康と安全 | |
ビジネスモデル&イノベーション | 競争力強化に向けた取り組み・イノベーション |
リスク管理・ガバナンス | コーポレートガバナンス体制の拡充 |
リスク管理(事故、法令) |
*SASB Materiality Mapなどを参考に作成。
【3‐1 「環境」課題におけるマテリアリティ】
環境問題に対する貢献は企業として重要な責務と認識している。各種工法による環境負荷低減に加え、下記にあるように、同社サービスを利用することで顧客企業はカーボン・オフセットを実行することができることから、事業機会の創出にも繋げている。
(1)温室効果ガス排出削減
温室効果ガス排出削減のために同社では本業に付帯する「カーボン・オフセット付中間汚泥処理サービス」および「PlaCon floor(プラコンフロアー)®」の2つのサービスにおいてカーボン・オフセット(※)を推進している。
※カーボンオフセット
日常生活や経済活動において避けることができないCO2等の温室効果ガス(GHG)の排出について削減努力を行い、それでも削減できない量を他の場所で実施された削減・吸収活動から創出されたクレジットで相殺し、環境貢献するという考え方。
①カーボン・オフセット付中間汚泥処理サービス
カッター事業を通じて排出される汚泥を自社で中間処理する際に使用する施設稼働のエネルギーをカーボン・オフセットする業界初の取り組みである「カーボン・オフセット付中間汚泥処理サービス」を2020年7月1日より開始した。
(取組みの概要)
第一カッター興業がカッター事業を通じて排出される汚泥について、自社で中間汚泥処理をする際、処理施設稼動に伴い使用するエネルギーから発生する1年間分のCO2をカーボン・オフセットする。
中間処理を行うことで汚泥は中和水と脱水ケーキになり、中和水は切断水として、脱水ケーキはコンクリートなどの原料として再利用することで環境配慮を行っている。
今回、更に企業責任として、汚泥処理施設の稼動に伴い使用するエネルギーもカーボン・オフセットすることとした。
カーボン・オフセットに使用する排出権は再エネクレジットを採用し、サプライチェーンを含めた再エネ活用の機運に応える取組みとなっている。
同サービスでは第三者認証である「カーボン・オフセット認証」を取得し、取組みに対して一定の信頼性・透明性を確保している。
また、カーボンオフセット向けの別途料金は不要であるため、顧客は同社に中間汚泥処理を依頼するだけで環境貢献が可能となる。
(同サービス導入の背景)
同社は、コンクリート構造物の切断・穿孔施工を中心に建設・土木・設備の幅広い分野で様々な施工を行い、洗練された技術を提供してきた。昨今、地球温暖化が深刻になる中で、都市開発と地球環境の保全という、相反する事柄の両立が求められるようになり、これからの事業活動の継続のためにも環境負荷軽減に向け、今回のサービス提供をすることとした。
②PlaCon floor:カーボン・オフセット対応工事
工場・倉庫の床は、油の付着・落下物による衝撃・重量物の走行による繰返し荷重などの要因で、床やクラック周辺部の破損が生じやすくなる。塗り床に関しても、破損部分から床材の剥離が発生し、剥離面に油などが浸透してしまった場合、コンクリート床自体が脆弱になってしまい床としての機能を損なってしまう。
こうした課題に対し同社ではPlaCon floorと呼ぶ、強度の低い表層を削り、磨きあげることによってコンクリート本来の耐久性を生かした床仕上げを実現する工事を実施している。
PlaCon floorも中間汚泥処理サービス同様、カーボン・オフセット対応工事として展開し、顧客の積極的な環境負荷低減活動を支援している。
(2)振動・騒音の抑制
【1-3. 事業内容】で触れたように、同社が手掛けるダイヤモンド工法やウォータージェット工法は、振動・騒音が少ないことが大きな特長であり、低価格ではあるものの振動・騒音が大きい従来工法の代替として採用が広がっている。
振動や騒音が少ないことは、都市部での工事に際して周辺住民等へ悪影響を及ぼさないほか、老朽化対策工事でも重要な意味を持つ。
構造物の延命化を図る場合、既存の古い構造物の一部を補修・補強によって手をかけて行くが、その手をかける部分で振動が多い工法を使用すると、手を掛けない部分にまでクラック(亀裂、ひび割れ)を発生させてしまう可能性がある。
これに対し、ダイヤモンド工法やウォータージェット工法は目に見えないクラックの発生を抑制できる点が評価されている。
(3)用水・排水の管理
同社の主力工法のダイヤモンド工法やウォータージェット工法では作業にあたり水を使用することから、切断によってスラッジ(切り粉)と水が混ざり合った排水が発生する。
この排水を環境に負荷を与えることなく適切に処理するために以下のような工法を実施している。
工法など | 概要 |
ウォーターリサイクル工法 | 冷却水に使用した排水を回収・再利用できるシステム。道路切断時のカッター排水をそのまま吸い上げて、泥土(ノロ)として回収し、ろ過・pH処理・固化処理を施す事により水分と固形分に分離する。水分は冷却水として再利用し、固形分はセメント材料等の資源として再利用することができる。
(同社資料より) |
乾式ダイヤモンド工法 | 切断において冷却水を使用しない工法。従来は、水無しではダイヤモンド材料が耐え切れず切断が困難であったが、近年ではダイヤモンド材料の品質が向上し、乾式でも可能である。 汚水が発生しないため環境に優しい他、産廃分量が大幅に少なく処理コストが低減可能、後処理が容易といったメリットがある。 「乾式フラットソーイング工法」「乾式コアドリリング工法」「乾式ウォールソーイング工法」「乾式ワイヤソーイング工法」などがある。
(同社資料より)
原発などの難易度の高い条件下での使用を想定した、独自の機械や材料の開発も行っている。 |
中間処分場 | 自治体からの許認可(中間処分業)を受けた排水の中間処分を行う専用プラントを自社で所有している。 1日10立米メートル以上の処理ができるカッター排水専門の大型中間処理施設は、2014年に同社が全国で初めて開設した。 中間処分場を有することで、同社では切断工事から排水の処分までをワンストップで行うことが可能である。 |
同社ではウォーターリサイクル工法の利用と中間処分場の運営による総合的な排出汚泥対策に取り組んでいる。
各現場の実情に合わせて、顧客に対して汚泥処分のバリエーションを提供できる点も大きな特長である。
(4)その他
水圧駆動式・切断切削工法「ECOA(エコア)」
電動工具が使用できない水際や水中工事では油圧機器とエアー工具による作業が一般的で、油圧機器からの油漏れ対策は大きな課題であり、ストレスであった。
同社は油圧駆動(作動油の循環による力)に代わり、水圧駆動(水の循環による力)によるモーターを搭載した穿孔マシンを開発し、この課題を解決した。油漏れリスクがゼロとなったほか、廃オイルの処理も不要であり、環境負荷低減に貢献している。
【3‐2 「社会資本」課題におけるマテリアリティ】
(1)特化した技術と高水準のサービス
社会インフラの老朽化が進んでいる。15年後には国内に存在する道路橋約72万6千橋の63%、港湾施設約4万4千施設の52%が建設後50年以上経過する状態となり、この流れは人口動態と同じでほぼ正確な将来推計である。
また、国内建設市場の長期的なトレンドをみると、建設投資はピーク時からリーマンショックには半減するに至ったものの、近年は回復傾向にある一方で、純社会資本ストックの総量は2000年以降増加傾向が収束し、近年では横ばいから微減トレンドに変化している。これは、建設投資が「新設・新築」から「維持・修繕」にシフトしていることを示しており、上記のように大半のインフラ構造物が新設から50年近い時間が経過するなか、「壊して建て替える」か「治療して長く使う」、つまり「維持・補修」の必要性が社会インフラの老朽化とともに急速に高まっている。
公共事業全体が抑制される中で、総務省が公表している維持補修費が毎年堅調な推移を見せているのも、これを証明しており、社会インフラの高齢化が進展するなか、維持・補修の必要性増大は変わることのない流れである。
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(同社資料より)
こうしたトレンドの中、同社の手掛ける各作業は、既存構造物を今後も使用することを前提とした維持補修で最もよく用いられているものである。
また、【3‐1 「環境」課題におけるマテリアリティ】の②振動・騒音の抑制で触れたように、同社が手掛けるダイヤモンド工法やウォータージェット工法は、振動・騒音が少ないことが大きな特長であり、老朽化対策工事において構造物を傷つける目に見えないクラックの発生を抑制できる点も高く評価されている。
このように同社は、今後時間とともに深刻化する社会インフラの老朽化に対応する技術と、それを支える多くの職人を正社員として有することでこの社会課題の解決に貢献する重要なプレイヤーなのである。
(同社資料より)
(2)地域社会への貢献
①コロナ禍に対応した「テイクアウト助成金」
同社は単体で全国に16拠点を有しているが、各地域とのつながりを重視し、様々な局面で地域貢献活動を展開している。
その一つとして、2020年5月中に「テイクアウト助成金」を導入した。
これは、新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言を受けた自粛要請によって苦しむ地域の飲食店を少しでも支えることを目的とし、自宅待機者やテレワーク勤務者を含む全従業員を対象に、自粛要請によって新規にテイクアウトを始めた店舗からの購入に対して助成金を支給するもの。
就業時間中の昼食においては新たにテイクアウトを試みている飲食店での購入を推奨し、その費用1食あたり500円を上限に助成した。従業員と地域飲食店間でのコミュニケーションも増加し、地域とのつながりの進化に繋がったと同社では考えており、今後も様々な形で持続可能な社会への貢献を果たしていく方針である。
②茅ヶ崎市初のネーミングライツパートナーに選定
2021年1月、茅ヶ崎市初の試みであるネーミングライツ契約のパートナーに、同社が選定された。
茅ヶ崎市民の憩いの場である中央公園に、2021年4月から「第一カッターきいろ公園」という愛称がつけられる。
(ネーミングライツ契約の経緯)
茅ヶ崎市に本社をかまえ、54年目となる同社は、多くの従業員が茅ヶ崎市民であり、この土地に支えられ、発展してきた。
このネーミングライツを通して、地元経済への貢献はもちろん、従業員の社会貢献意識を高めたいという思いから、パートナーに立候補した。
(「第一カッターきいろ公園」名称の由来)
同社のコーポレートカラーである黄色は、空の真ん中で燦々と光が降り注ぐ太陽の色でもある。
茅ヶ崎市の中央に位置し、利用する市民が心を弾ませ、楽しい気分になるコミュニケーションスペースである公園のイメージを色で表現した。
ネーミングライツ契約は、2021年4月1日から2026年3月31日までの5年間。
同社では、「第一カッターきいろ公園が、多くの方に穏やかな時間をもたらす場所になることを期待しています」とコメントしている。
③小学1年生向け安全用の黄色い帽子を寄贈
茅ヶ崎市では、これまで無料で配布していた小学校の黄色い帽子を、財政状況が厳しい中、2021年度から家庭負担での購入に切り替える予定だったが、これを知った同社が新1年生の2,140個分の帽子と、それに付ける布製の校章を購入し、市を通じて寄贈することとした。
高橋社長は「小学校生活を事故なく楽しく送ってほしい」と語っている。
【3‐3 「人的資本」課題におけるマテリアリティ】
建設業界では、少子高齢化社会の影響や業界に対するイメージ等、様々な要因により今後の人材不足、技術者不足が課題となっている。
同社では中期経営計画において、「人材」をキーワードに、将来の担い手の確保・育成、働き方改革や生産性向上を重点施策と掲げ、女性や障がい者も気持ちよく働ける環境づくりや、将来的な海外展開も視野に入れた外国人労働者の雇用など、業界に先駆けた新しい取り組みを数多く掲げている。
自社のコアコンピタンスを支えるものは「ヒト」であると認識しており、今後の戦略においても「ヒトで勝つ」ことを軸として積極的に人材の確保・育成に取り組み、競争優位性を更に強化する考えだ。
(1)従業員の意識・働き甲斐醸成
◎労務管理・働き方
建設業界は労働時間の上限が特例によって緩和されているが、2024年に向けて労働時間抑制が求められている。
専門施工会社にとって作業員の職場が会社から離れた現場作業所であることから必然的に移動時間も労働時間にふくまれるため労働時間抑制の実現には課題も多いが、人材確保の観点からは他産業に比べて魅力的な企業である必要性がある。
そこで、「ヒト」を最重要課題と置く同社では、業界の段階的な規制強化に先んじて、自社基準での労働時間抑制に取り組んでいる。
21年6月期については1ヶ月の残業上限時間を60時間未満に設定している。また、2024年の基準に適合すべく全社的な大型プロジェクトである「ワークライフバランスプロジェクト」を稼働させている。
同社では、自宅からの出社後、会社から現場までの移動と、現場が終わってから会社に戻り会社を出るまでの時間を含めた労働時間を認識するため、例え現場作業が定時内で終了していても前後の移動だけでも一日数時間の残業が発生する構造となっている。
同業界では現場作業時のみを労働時間として把握するのが一般的で、移動時間を含めて労働時間と認識すること自体が珍しい対応ではあるが、人材確保の観点からは他産業に比べて魅力的な企業である必要性があることから、この難題に取り組んでいる。同プロジェクトには全社から業務に精通した多くのメンバーを招集し、部会に分かれた形で制度設計を進めており、残業時間抑制に加え、有給休暇制度の柔軟化、完全週休二日制の採用、定期的なベースアップの実施、退職金制度の拡充など、働き甲斐醸成の前提条件として全方向からの労働条件の改善を進め、魅力ある職場づくりを進めている。
また、タブレットを利用した勤怠管理を導入しているほか、残業(休日)時間を日々管理できる仕組みを構築しているほか、作業伝票の電子化など事務作業への連携を効率化しており、職人の現場作業以外の業務負荷の軽減も進めている。
こうした労務管理体制は、労働基準局からも評価される水準となっている。
加えて、従業員の多様な働き方をバックアップしており、「全国型・地域限定型勤務の選択」や「働き方に応じた勤務時間帯の設定」のほか、女性作業員の受入可能な現場環境の整備にも取り組んでいる。
従業員の意識向上という観点からの施策も随時実施している。
前述のように2020年5月にはコロナ禍で苦しむ地域の飲食店を支援するために「テイクアウト助成金」を実施したが、その結果、地域住民とのコミュニケーションが促進され、従業員のエンゲージ向上に繋がったということだ。
◎ブランド価値向上
加えて、働き甲斐醸成に向け「職人」のブランド価値向上にも取り組んでいる。
同社は創業以来下請専門企業として、表に出ることの少ない目立たない存在として活動してきた。しかし、将来的な老朽化構造物の改修需要増と、人口減による職人不足という需給ギャップが拡大していく業界において、社会インフラを支える重要なプレイヤーである自分たちの魅力を発信し、目立つ存在になる必要がある、という考えのもと、自社のブランディング戦略を推進している。
同社では職人の働く姿は、素直に「カッコいい」と表現できると考えており、そのカッコ良さを社内外に発信する取り組みを進め、多くの人の目に触れる存在となることで自分たちの仕事に誇りを持てるよう取り組んでいる。
採用専用サイトでは、現場で働くカッコよさを前面に打ち出したインタラクティブ動画をリリースした。視聴者が回答を選択することでストーリーが展開していく内容であり、カッコいい動画を見てもらうことを通じて、同社で働くことをイメージしてもらうのが目的である。
(同社提供)
加えて、現在4名の女性が職人として活躍しているが、今後は女性が職人として活躍できる環境もあらゆる面で整備していきたいと考えている。
(同社提供)
(2)教育・育成制度
同社では現場ごと異なった条件下で施工を行うため、職人には様々な施工技術に加え、広い周辺知識や高いコミュニケーション能力など、求められるスキルは多岐にわたる。
これに対応するため、同社では安全・施工技術・資格取得・周辺知識の習得・人間性の高揚といった様々なカテゴリーに分けた研修を、集合形式で行っている。
職人を現場から外して教育機会を与えることは、短期的には生産性の低下に繋がることから、同業他社などでは、いわゆるOJTと称した「見て覚える」教育が一般的だが、高いスキルを備えた職人集団を形成することが結果的には持続的な成果向上に繋がるとの長期的な視野から、同社ではこうした教育制度を採用している。
例えば、入社3年目の工事課社員を対象として実施される「3年目研修」は、30日間以上に及んで特殊工法の体験や自社に対する理解の促進を目的とするもので、長期間の研修が今後の同社を支えていく中堅社員としての成長に欠かせないとの考えである。
「技術力向上→資格取得→技術領域拡張→人間力向上→教育指導人材への成長」という人材育成ロードマップに基づいた教育制度は、業界内での差別化・優位性を確保するとともに技術者集団の層の厚みを形成し、同社の更なる競争優位性の強化と成長へと繋がるものである。
この他、社会人大学(通信制)への入学も推奨しており、社員の資金負担を軽減する仕組みを取り入れている。
(3)従業員の健康と安全
同社は従業員の健康・安全を重視し、業界に先駆けてワークライフ制度を実施。前述の現場の労務管理、事務作業の効率化(システム化)のほか、充実した福利厚生制度など、重要な経営資源である従業員の働きやすい職場環境作りに注力している。
◎健康
従業員本人だけでなく家族にも適用できる各種助成制度を充実させている。
*インフルエンザワクチン接種助成
*GLTD保険制度(生涯休業補償)
*配偶者健康診断助成
*禁煙補助金制度
*不妊治療補助金制度
等
◎安全
研修制度による施工に伴う危険に対するリテラシーの向上や、多くの社内ルールをコストよりも優先させ、安全第一の施工を徹底している。
施工に際しては、大きなコンクリート塊の撤去が付随することも多く、重大災害に繋がりやすいことから、特に撤去技術に関しては多くのルールとともに、図解や写真、映像を用いた安全マニュアル資料を使った教育を実施している。
同マニュアルは50ページ以上におよぶもので、撤去作業に関するあらゆる危険発生の可能性のある局面についての注意事項、作業手順、防止策、被害軽減策、アドバイスなどが記されている。
【3‐4 「ビジネスモデル&イノベーション」課題におけるマテリアリティ】
(1)競争力強化に向けた取り組み・イノベーション
◎新工法・新技術の開発
同社ではこれまでにも「ダイヤモンド工法」を始めとして、独自技術を開発し業界をリードしてきた。こうした工法や技術の開発力こそが同社競争力の源泉となっている。
2020年にはエコアコアドリル工法という新工法の開発に成功したほか、「切る」「はつる」「洗う」「剥がす」「削る」という5つのキーワードに関連するレーザー技術の確立に向けた投資を行っている。
株式会社トヨコー(静岡県)は、これまで工場などでしか使われていなかったレーザーによって「剥がす」「削る」技術を世界で初めて屋外に持ち出し、建設現場で使える技術「クーレーザー」を開発している技術系スタートアップ企業である。
高度成長期に数多く建てられた橋梁は支承部などの重要部で深く進行した錆によって落橋のリスクが高まっている。また石油化学コンビナートの火災事故の多くが錆などの劣化によるものであり、塗料や素材に含まれる有害物質を安全に除去するニーズは世界的に増大している。「クーレーザー」は、光を使用して付着物を除去するもので、構造物の延命化、作業性の向上、環境負荷の低減といったメリットを有している。
第一カッター興業はトヨコーのシリーズAラウンドの投資に参加し、新規事業の創出を意図している。現在ではシリーズBラウンドまでの資金調達を完了し、第一カッター興業のほか、前田建設工業株式会社、デジタル・インフォメーション・テクノロジー株式会社、日本郵船株式会社、鈴与建設株式会社、山本光学株式会社、株式会社静岡銀行が出資者となり事業化支援を行っている。
第一カッター興業はその出資者の中にあって工事施工におけるパートナーとしての役割を担っており、レーザー技術を用いて、老朽化した鋼製インフラ構造物の錆の除去や除染といった市場の開拓を目指している。
今後も既存工法のブラッシュアップに加え、こうした新工法や新技術の開発を進め更なる競争力の強化を図っていく。
◎技術の可視化
2020年6月期より人材育成に資する研究を開始した。
同社の手掛ける技術は、取り扱う機械の数が多いことに加え、全て現場において施工環境が異なり、毎度オーダーメード的な施工を提供する必要がある。新築とは違い、維持・補修作業においては、それぞれ異なる状況の既存構造物に対して柔軟な対応ができるか否かが技術力に大きな影響を与えるという難しさがある。
そのため、自動化などの汎用的な技術を応用しにくい領域であり、属人的な職人の技術力が優位性に繋がっているのだが、そこに甘んじることなく、熟練工の技術を可視化することによって、技術の習得スピードを上げる取り組みを開始した。
機械の操作手順を可視化したり、目線の動きを体系化したり、頭・腕・腰などにモーションセンサーを取り付けたりすることで、どのような動きをしているか、どういう角度で動くか、どんなスピードで動くかを分析する。
加えて、この熟練工の技術を学んだ工事スタッフ一人ひとりのレベルアップ自体の可視化も進めている。達成段階表の作成、ハンドガンマイスター制度などにより、自発的な技術力向上を生み出す環境を整備している。
(同社資料より)
◎開発体制の拡充
これまで、本社敷地の一部を利用して試験施工や研究開発に関する施工を行ってきたが自社開発だけでなく、顧客から持ち込まれる案件も増え、手狭となってきたことから約1,800㎡(539坪)の大型倉庫を試験施工・研究開発専用ヤードに改装し、更なる研究開発の促進に力を入れている。
開発のヒントは、「お客様の困りごと」「自分達の困りごと」「省エネ」の3つを挙げている。
それぞれについての困りごとをクローズアップさせ、プロジェクト方式で社内・大手ゼネコンやプラントメーカーなどの顧客及び取引先・大学・第三者と連携することによって、スピード感を持って開発を進めている。
(同社資料より)
(開発例)
「Hydro-Jet RD工法」
阪神高速道路株式会社が募集するコミュニケーション型共同研究に、飛島建設株式会社と第一カッター興業株式会社が応募し、3社共同で開発した技術。
従来の合成桁橋の床版取替は長期の通行止め期間を必要とし、鋼桁とコンクリート床版の接合部の除去に手間取ることが撤去技術の課題であった。
そこで、その接合部の除去作業を、通行規制を行わずに通行止め開始日までの準備期間に行えるのがHydro-Jet RD 工法。通行止め開始後における接合部の除去作業を不要とし、1回の床版撤去範囲を鋼桁位置に関わらず大きく設定することで、床版撤去期間とこれに伴う交通規制期間を短縮できる。
【3‐5 「リスク管理・ガバナンス」課題におけるマテリアリティ】
(1)コーポレートガバナンス
顧客、株主、地域住民及び従業員等ステークホルダーと共存共栄できるコーポレート・ガバナンス体制を構築し、中長期的な企業価値の向上を図ることを重要な経営課題の一つとして認識している。
組織形態は監査役設置会社で、経営の透明性・健全性を確保するため社外監査役及び社外取締役を選任し、経営監視機能の強化を図っている。
(コーポレートガバナンス報告書からの抜粋:2020年10月2日更新) |
【原則1-4.政策保有株式】 当社は、原則として株式の政策保有を行なわない方針でございます。しかし、取引の内容・規模等を総合的に勘案し、安定的な取引関係の維持・強化を図ることが当社の企業価値の向上に資すると判断された場合には、取引先の株式を保有する場合もございます。 保有する株式については、取締役会において毎年当社の企業価値向上に資するか否かを検証してまいります。検証の結果、保有の意義が認められない、あるいは薄れたと判断された場合は、適宜売却に向け手続きを進めることと致します。 保有する株式の議決権行使については、当該会社の企業価値を毀損させるようなこと等がないかを検討のうえで議決権を行使します。 |
【補充原則4-11①.取締役会の全体としてのバランス、多様性及び規模】 当社における取締役会全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性等に関する考え方及び取締役の選任に関する方針・手続きについては、取締役候補の指名に関する考え方と同様であり、原則3-1(iv)に記載のとおりであります。これらについては、コーポレート・ガバナンスに関する報告書において開示しております。 また当社では、効率性の高い経営システムを推進していくための適正な規模を考慮し、現在は社内取締役3名、社外取締役2名(うち、独立社外取締役2名)、社内監査役1名、社外監査役2名をそれぞれ選任しております。社外取締役の2名はそれぞれ労務問題の専門家及び企業経営に精通した他社の代表取締役を務める者であります。また、監査役は公認会計士・税理士やCSRコンサルタント、豊富な内部監査経験を有する者で構成されており、健全で持続可能な成長が図れるように、取締役会全体としてのバランスに配慮しております。 |
【原則5-1.株主との建設的な対話に関する方針】 当社は経営企画室をIR担当部署としております。株主や投資家に対しては、半期に一度決算説明会を開催するとともに、逐次個別面談等を実施しております。また当社は、株主や投資家との建設的な対話を促進するためには、当該株主・投資家との信頼関係の構築・維持が重要であり、そのために適切な情報開示を行うことが必要不可欠と認識しております。その認識を実践するため、法令に基づく開示以外にも、株主をはじめとするステークホルダーにとって重要と判断される情報(非財務情報も含む)を積極的に開示する等、経営戦略や経営状況について、当社ホームページを通じ、積極的に情報開示を行っております。なお、株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針の策定及び開示については、今後の検討事項と致します。 |
(2)リスク管理(事故、法令)
①安全確保に関する取り組み
「人的資本」の項目で紹介した従業員の安全確保のための研修制度のほか、下記のような取り組みを行っている。
(同社提供)
構造物の撤去に伴う切断作業時に事故が発生しやすいことから、年間6万件以上の工事案件に対して、構造物の撤去が絡む工事を全件抽出して、案件が発生した時点(計画着手や見積等のタイミング)から、安全性の検討を複数部署にまたがってチェックをする体制を構築している。
計画段階で、安全を担保する工法や手順への変更を反映させること、実際に工事に着手する職人が事前に状況を把握し、危険性を認識して工事にあたることを目的としている。
「安全パトロール」は、手掛ける工種ごとにチェックポイントを明確化した専用チェックシートを利用した、施工現場の実地パトロールのこと。
②法令に関する取り組み
同社グループが行っている切断・穿孔工事事業は、建設業法に基づく「とび・土工工事業」、「土木工事業」に属しており、「とび・土工工事業」、「土木工事業」は建設業法による規制を受けている。
企業活動の多くを建設業法に則り運営する必要があることから、許認可の管理から各種資格の管理を管理部門が担い、別途独立組織であるリスク管理委員会が定期的に事業活動に伴うリスクの洗い出しを行い、リスク低減に向けた取り組みを行う体制となっている。
4.中期経営計画(19/6期~21/6期)の進捗状況と今後の戦略
【中期経営計画の骨子】
建設現場における同社のポジションは下請の一部であり、直接職人を送り出し作業を行う立場にある。しかし、「専門施工業」という切断・穿孔に特化した独自のポジションを確立しており、切断・穿孔に不可欠な高い技術力を有した職人集団の形成が成長のカギとなる。このため、中期経営計画では、ヒトに軸足を置いた4つの基本戦略を進めている。
売上・利益・従業員数等の数値目標は20/6期に1年前倒しで達成したが、引き続き切断・穿孔事業における輸送インフラ及び産業インフラの一段の強化(売上構成比の引き上げ)に取り組んでいく他、成長投資(人材、生産性向上、事業領域拡大、及び研究開発)も継続する。また、災害復旧ボランティア制度や公的機関との災害時支援協定を通してCSRやSDGsにおける責任も果たしていく考え。尚、輸送インフラ及び産業インフラについては、5年後の24/6期売上構成比率を50%に引き上げたいと考えている。
(18/6期 生活インフラ : 輸送インフラ・産業インフラ = 56.9% : 43.1%)。
4-1 数値計画
| 19/6期 計画 | 同 実績 | 20/6期 計画 | 同 実績 | 21/6期 計画 |
売上高 | 14,318 | 14,871 | 15,700 | 17,440 | 17,400 |
営業利益 | 1,624 | 1,760 | 1,730 | 2,296 | 1,910 |
営業利益率 | 11.3% | 11.8% | 11.0% | 13.2% | 11.0% |
親会社株主帰属利益 | 1,014 | 1,251 | 1,080 | 1,523 | 1,190 |
EPS | 178.24 | 219.80 | 189.75 | 267.73 | 209.08 |
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従業員数(連結) | 500 | 501 | 525 | 568 | 550 |
* 単位:百万円、円、人
全項目において計画値を、2年目の20/6期に1年前倒しで達成した。
4-2 インフラ別売上構成比
| 16/6期 | 17/6期 | 18/6期 | 19/6期 | 20/6期 |
生活インフラ | 62.0% | 59.1% | 56.9% | 58.9% | 54.8% |
輸送インフラ | 23.5% | 26.6% | 27.0% | 29.0% | 32.2% |
産業インフラ | 14.6% | 14.3% | 16.1% | 12.1% | 12.9% |
高速道路の老朽化対策(床版リニューアル・耐震化)、鉄道再開発、インバウンド増による空港機能強化等の需要の取り込みで、輸送インフラの売上構成比が年々高まっている。老朽化対策については、計画的な売上確保のための営業戦略を進めており、その成果が顕在化しつつある。
4-3 成長投資
| 内容 | 19/6期 実績 | 20/6期 計画 | 同 実績 | 21/6期 計画 | 3年累計 |
人材投資 | 人材採用・研修 | 1.7億円 | 1.0億円 | 2.0億円 | 1.0億円 | 4.7億円 |
生産性向上 | 現場環境改善、働き方改革 | 4.0億円 | 3.0億円 | 4.1億円 | 3.0億円 | 11.1億円 |
事業領域拡大 | 新規営業所展開、M&A | 1.2億円 | 7.0億円 | 8.7億円 | 2.0億円 | 11.9億円 |
研究開発 | R&D、新技術への投資 | 0.3億円 | 0.5億円 | 0.8億円 | 0.5億円 | 1.6億円 |
合計 | 7.2億円 | 11.5億円 | 15.6億円 | 6.5億円 | 29.3億円 |
同社のコアコンピタンスである人(職人)への投資を積極的に行った結果、中計2年目の20/6期は15.6億円の実績。20/6期に2社のM&Aを実施した結果、3年累計投資予想は29.3億円に増額する考え(中計策定時は3年間で20億円を予定していた)。
研究開発では、環境対応水圧駆動式穿孔工法エコアをリリースした(SDGs17の目標のうちの、「6」、「9」、「14」、「15」に関わる取り組み)。従来は機械駆動に油圧(オイル)を使用しており、破裂時のオイル飛散が大きなリスクだったが、エコアは水圧駆動のため破裂時の環境汚染リスクがない。この他、熟練工の技術の「可視化」に取り組んでおり、操作手順の可視化及び目線・体各部位の動きの可視化が完了し社員教育に活用している(SDGs17の目標のうちの、「5」、「8」、「13」に関わる取り組み)。
(同社資料より)
投資効果と今後の課題
人材投資については、中途採用が改善すると共に定着率が上昇した。労働環境の更なる改善に取り組むことで採用活動を支援し、キャリアパスの多様化で定着率の更なる向上につなげる考え。また、生産性向上については、KPIである月間出来高指数(目標1,700千円⇒実績2,040千円)と時間当たり生産性(目標17,000円⇒実績17,019円)が改善した。今後は労働時間抑制に向けた最適化配置で成果をあげる必要がある。研究開発では、開発した環境対応水圧駆動式穿孔工法エコアを実際の現場で採用し売上につなげていく。事業領域拡大では、M&Aにより、民間部門及び産業インフラ部門を強化したが、今後は引き続きM&A情報の収集に努めると共に海外展開(プラント)を進める。
4-4 SDGs活動
同社は「社会インフラを支えるプレイヤーとして、地域社会を含めたステークホルダーへの貢献は恩返しであり、今後も事業を継続していくにあたって必要不可欠である」との考えから、SDGsの達成に貢献するべく活動を行っている。具体的には、社員にテイクアウト助成金を支給している(SDGs17の目標のうちの、「8」、「11」、「17」に関わる取り組み)他、カーボンオフセット付中間処理サービスを提供している(SDGs17の目標のうちの、「6」、「11」、「12」、「13」に関わる取り組み)。
テイクアウト助成金の支給では、コロナ禍により苦しむ地域の小規模飲食店に協力すべく、従業員にテイクアウト助成金を拠出することで、近隣飲食店の利用を促進している。一方、カーボンオフセット付中間処理サービスでは、切断作業時に発生する汚泥の中間処理サービスにカーボンオフセットを付与した。同社は切断作業の付帯サービスとして無料で汚泥の回収・処理を行っており、汚泥の中間処分サービスだけでも環境負荷の低減になるが、更なる地球環境への貢献を目指している。
4-5 今後の戦略
コロナ禍で生じる影響への対応を進めると共に、引き続き、人材戦略、生産性向上、研究開発、及び事業領域拡大に向けた取り組みを進めていく。
コロナ禍の影響と対策
民間・公共ともに時間をかけて発注が弱含む展開を予想している。ただ、老朽化対策工事は、新築を含めたその他の目的工事よりも安定した推移が予想されるため、中経営業方針(輸送・産業インフラへの注力)はコロナ禍対策としても有効と考え継続する。また、感染者発生時の影響を最小化するための事業体制の構築にも取り組む。具体的には、職人以外のリモートワーク、会議等のオンライン化、飛沫感染防止対策、外勤と内勤の接触の最小化、行動記録の整備、地域をまたぐ集合行事の廃止等、事業活動における濃厚接触の最小化に取り組む。この他、感染症対策を講じた上で社員教育を継続する。
人材戦略
建設業界に即した働き方改革とワークライフバランスプロジェクトを進める。働き改革では、人材確保には他産業と比べて魅力的な職場である必要があるという観点から、下記の業界規制に先行した働き方改革を推進する。
(同社資料より)
一方、ワークライフバランスプロジェクトでは、単純に残業規制に適合するだけでなく、他産業と比較しても魅力のある働き方を目指す。
(同社資料より)
上記の他、生産性向上に向け、営業活動から受注・配車管理、伝票作成、請求処理、債権管理までの業務に一気通貫で対応できるシステムの構築を進めている。また、研究開発では、試験施工・研究開発ヤードの大型化を進めると共に、新工法・新技術開発にプロジェクト方式で取り組む。事業領域の拡大では、海外展開とM&Aを推進するが、海外展開では対象を東南アジアのプラントに絞り、リサーチを進める。M&Aでは、切る、はつる、洗う、剥がす、削る、の5つをキーワードとする専門施工会社、サプライチェーンにおける工事の前後(調査、設計、保守)にかかわる会社、及び特化した、技術、仕組み、客層を有する会社を対象としていく。
5.財務:非財務データ
(1)財務データ
◎BS/PL
| 2016/6期 | 2017/6期 | 2018/6期 | 2019/6期 | 2020/6期 |
売上高 | 12,857 | 12,840 | 16,283 | 14,871 | 17,440 |
営業利益 | 1,733 | 1,412 | 2,187 | 1,760 | 2,296 |
経常利益 | 1,780 | 1,473 | 2,263 | 1,843 | 2,482 |
当期純利益 | 1,115 | 990 | 1,487 | 1,251 | 1,523 |
EPS(円) | 196.01 | 174.01 | 261.37 | 219.80 | 267.73 |
ROE(%) | 16.9 | 13.1 | 17.0 | 12.5 | 13.5 |
ROA(%) | 19.4 | 14.5 | 19.4 | 14.2 | 17.2 |
総資産 | 9,737 | 10,597 | 12,707 | 13,304 | 15,533 |
純資産 | 7,396 | 8,333 | 9,822 | 10,956 | 12,548 |
自己資本比率(%) | 73.2 | 75.9 | 74.3 | 79.3 | 77.1 |
*単位:百万円
◎CF
| 2016/6期 | 2017/6期 | 2018/6期 | 2019/6期 | 2020/6期 |
営業CF | 1,354 | 913 | 2,224 | 1,231 | 2,515 |
投資CF | -825 | -594 | -622 | -649 | -1,699 |
フリーCF | 529 | 319 | 1,602 | 581 | 815 |
財務CF | -90 | -113 | -140 | -179 | -198 |
現金・現金同等物 | 3,628 | 3,834 | 5,295 | 5,698 | 6,316 |
*単位:百万円
(2)非財務データ
①社会資本関連
| 2016/6期 | 2017/6期 | 2018/6期 | 2019/6期 | 2020/6期 |
株主数 | 1,774 | 4,086 | 4,015 | 2,644 | 2,298 |
協力会社数 | 1,330 | 1,379 | 1,420 | 1,470 | 1,513 |
顧客先数 | 6,481 | 6,538 | 6,565 | 7,136 | 6,932 |
②人的資本関連(単体ベース)
| 2016/6期 | 2017/6期 | 2018/6期 | 2019/6期 | 2020/6期 |
社員数 | 336 | 347 | 359 | 364 | 390 |
うち、女性社員数 | 28 | 27 | 29 | 30 | 38 |
同比率 | 8.33% | 7.78% | 8.08% | 8.24% | 9.74% |
新入社員数 | 21 | 25 | 26 | 28 | 46 |
退職者数(定年含む) | 32 | 27 | 20 | 41 | 22 |
入社3年以内での退職者数 | 29 | 13 | 7 | 21 | 11 |
同比率※ | 37.7% | 17.1% | 9.7% | 26.6% | 11.0% |
新卒入社社員の就業継続率※ | 88.5% | 93.1% | 100.0% | 84.4% | 89.2% |
※入社3年以内での退職率:退職者数÷過去3年の入社人数
※新卒入社社員の就業継続率:期中在籍していた直近3年間の新卒社員÷直近3年間の新卒入社社員合計
を分子に置く
| 2016/6期 | 2017/6期 | 2018/6期 | 2019/6期 | 2020/6期 |
工事件数 | 59,219 | 59,169 | 60,225 | 64,415 | 62,044 |
作業事故件数(協力業者含む) | 54 | 39 | 46 | 47 | 45 |
作業事故件数(人身、協力業者含む、4日以上休業) | 5 | 3 | 0 | 6 | 1 |
同事故比率 | 0.005% | 0.003% | 0.000% | 0.006% | 0.000% |
※4日以上休業となる期中の労災事故件数 ÷ 期中の工事件数
<参考>
ESG Bridge Reportの発行に際しては、柳 良平氏(京都大学経済学博士、エーザイ株式会社専務執行役CFO、早稲田大学大学院会計研究科客員教授)に多大なご協力を頂いた。
この「参考」のパートでは、ESG Bridge Report発行の趣旨についても述べさせていただくとともに、同氏の提唱する「柳モデル」の概要を同氏の著作「CFOポリシー第2版」から引用する形で紹介する。
(1)ESG Bridge Reportについて
ESG投資がメインストリーム化する中で、投資家からは日本企業に対し積極的なESG情報開示が求められ、これに呼応する形で統合報告書作成企業数は増加傾向にあります。
ただ、統合報告書の作成にあたっては経営トップの理解・関与が不可欠であることに加え、人的リソースおよび予算負担から多くの企業が踏み出すことができていないのが現状です。
また、統合報告書の作成にあたっては各種データの整理、マテリアリティの特定、指標や目標値の設定など多くのステップが必要ですが、現状の準備不足のために二の足を踏んでいるケースも多いようです。
しかし、柳氏が「CFOポリシー第2版」で、「日本企業が潜在的なESGの価値を顕在化すれば、少なくとも英国並みのPBR2倍の国になれるのではないだろうか」「柳モデルの実現により日本企業の企業価値は倍増でき、それは投資や雇用、年金リターンの改善を経由して国富の最大化に資する蓋然性が高い」と述べているように、日本企業のESG情報提供は、日本全体にとっても有意で積極的に推進すべき事項であると株式会社インベストメントブリッジは考えています。
そこで、一気には統合報告書作成には踏み出せないものの、ESG情報開示の必要性を強く認識している企業向けに、現時点で保有するデータやリソースをベースに、投資家が必要とするESG情報開示に少しでも近づけるべく、弊社がご協力して作成しているのが「ESG Bridge Report」です。
日本企業のESG情報開示を積極的に後押ししている日本取引所グループが発行している「ESG情報開示実践ハンドブック」のP6には「ここで紹介している要素が全て完璧にできていないと情報開示ができないということでもない。自社の状況を踏まえてできるところから着手し、ESG情報の開示を始めることで、投資家との対話が始まり、そこから更なる取組みを進めていく際に、本ハンドブックが手がかりになることを期待している」とありますが、「ESG Bridge Report」は、まさに「できるところから着手し、ESG情報の開示を始める」ためのツールであると考えています。
柳氏によれば「柳モデル」の本格的な展開のためには、ESGと企業価値の正の相関を示唆する実証研究の積み上げ、企業の社会的貢献が長期的な経済価値に貢献する具体的事例の開示などが必要とあり、実際のハードルは高いのですが、各企業のESGへの取り組みがいかにして企業価値向上に繋がっているかをわかりやすくお伝えしたいと考えています。
お読みいただいた多くの投資家からのフィードバックを基に、よりクオリティの高いレポートへと改善してまいりますので、是非忌憚のないご意見を賜りたいと存じます。
株式会社インベストメントブリッジ
代表取締役会長 保阪 薫
k-hosaka@cyber-ir.co.jp
(2)「柳モデル」について
(拡大する非財務資本の価値、ESG投資の急増、ESGと企業価値をつなぐ概念フレーム策定)
近年、多数の実証研究において企業価値評価における非財務情報の重要性拡大が証明されており、今や、企業価値の約8割は見えない価値(無形資産)、非財務資本の価値と推察される。
加えて、非財務情報と企業価値の関係を調べた多数の実証研究の結果から、ESGと企業価値は正の相関を持つ蓋然性があると考えられる。
一方、グローバルにESG投資のメインストリーム化が進む中、潜在的なESGの価値にもかかわらず多くのケースでPBRが1倍割れもしくは低位に留まる日本企業は、PBR上昇のために「柳モデル」により、非財務資本を将来の財務資本へと転換すること、つまりESGと企業価値をつなぐ概念フレームを策定して開示する必要がある。
(「柳モデル」の概要)
株主価値のうち、「PBR1倍相当の部分」にあたる株主資本簿価は現在の財務資本・財務価値により構成される。
一方、株主価値のうち「PBR1倍超の部分」にあたる市場付加価値は、(将来の財務資本ともいえる)非財務資本により構成されると同時に、残余利益モデルにおいてはエクイティス・プレッド(ROE-株主資本コスト)の金額流列の現在価値の総和でもある。
このことから柳氏は、非財務戦略の結論として「非財務資本とエクイティ・スプレッドの同期化モデル」=「柳モデル」を、ESGと企業価値を同期化する概念フレームワークとして提案している。
「柳モデル」においては、「市場価値(MVA)」を通じて残余利益の現在価値の総和としてのエクイティ・スプレッドと非財務資本が相互補完的である、つまり、エクイティ・スプレッドによる価値創造はESGを始めとする非財務資本の価値と市場付加価値創造を経由し、遅延して長期的には整合性を持つ。
そのため、ESG経営は資本効率を求める長期投資家とは市場付加価値を経由して同期化でき、協働が可能であろう。
これを傍証するように、柳氏が実施した投資家サーベイにおいては、世界の投資家の大多数が「ESGとROEの価値関連性を説明してほしい」と要望していると同時に、「ESGの価値の100%あるいは相当部分をPBRに織り込む」と回答しており、「柳モデル」は間接的にも長期投資家の大半から支持されていると解釈できよう。
(同氏の「柳モデル」の詳細については、柳良平著「CFOポリシー第2版」中央経済社(2021)
をご参照されたい。
本レポートは情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を意図するものではありません。また、本レポートに記載されている情報及び見解はインベストメントブリッジが公表されたデータに基づいて作成したものです。本レポートに掲載された情報は、インベストメントブリッジが信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その正確性・完全性を全面的に保証するものではありません。当該情報や見解の正確性、完全性もしくは妥当性についても保証するものではなく、また責任を負うものではありません。本レポートに関する一切の権利は(株)インベストメントブリッジにあり、本レポートの内容等につきましては今後予告無く変更される場合があります。投資にあたっての決定は、ご自身の判断でなされますようお願い申しあげます。
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