ブリッジレポート
(1716) 第一カッター興業株式会社

プライム

ブリッジレポート:(1716)第一カッター興業 2019年6月期決算

ブリッジレポートPDF

 

高橋 正光 社長

第一カッター興業株式会社(1716)

 

 

企業情報

市場

東証1部

業種

建設業

代表取締役社長

高橋 正光

所在地

神奈川県茅ケ崎市萩園833番地

決算月

6月

HP

http://www.daiichi-cutter.co.jp/

 

株式情報

株価

発行済株式数(自己株式を控除)

時価総額

ROE(実)

売買単位

1,862円

5,691,668株

10,597百万円

12.5%

100株

DPS(予)

配当利回り(予)

EPS(予)

PER(予)

BPS(実)

PBR(実)

22.00円

1.2%

189.75円

9.8倍

1,853.35円

1.0倍

*株価は11/07終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期末実績。

 

連結業績推移

決算期

売上高

営業利益

経常利益

親会社株主帰属利益

EPS

DPS

2016年6月(実)

12,857

1,733

1,780

1,115

196.01

12.00

2017年6月(実)

12,840

1,412

1,473

990

174.01

15.00

2018年6月(実)

16,283

2,187

2,263

1,487

261.37

25.00

2019年6月(実)

14,871

1,760

1,843

1,251

219.80

20.00

2020年6月(予)

15,700

1,730

1,856

1,080

189.75

22.00

* 予想は会社予想。単位は百万円、円。

 

 

第一カッター興業株式会社の2019年6月期決算の概要と2020年6月期の見通しについて、高橋社長のインタビューと共にご報告致します。

 

目次

今回のポイント
1.会社概要
2.2019年6月期決算概要
3.2020年6月期業績予想
4.中期経営計画(19/6期~21/6期)
5.社長インタビュー - 高橋社長に聞く -
6.今後の注目点
<参考:コーポレート・ガバナンスについて>

 

今回のポイント

  • 同社は1967年の創業以来、「最良の企業をめざす」を基本理念に掲げ、「切る」、「はつる」、「洗う」、「剥がす」、「削る」をキーワードに、ダイヤモンド工法やウォータージェット工法といった特化した技術を様々な現場に提供している。社会インフラの老朽化や自然災害の多発を背景に、国内の建設投資において、同社が強みを発揮する維持補修工事が占める比率は年々高まっている。優れた人材による特化した技術と高いサービスをもって社会に貢献するべく、人材の採用と育成を最重要課題として取り組んでいる。

     

  • 中期経営計画(~21/6期)の初年度となる19/6期は、特殊要因の剥落による切断・穿孔工事事業の減収等で売上高が前期比8.7%減少。売上が減少する中、内部体制強化に伴う販管費の増加が負担になり、営業利益が同19.5%減少した。もっとも、売上・利益共に期初予想を上回り、中期経営計画初年度の計画を達成した。配当は20円。5円の記念配当を落としたものの、普通配当は前期と同額を維持した。

     

  • 20/6期予想は前期比5.6%の増収、同1.7%の営業減益。M&A効果で売上が増加するものの、オリンピック需要が前期で収束した事に加え、オリンピック開催期間中及びその前後は首都圏での工事の減少が予想される。案件の減少による単価低下圧力が予想される中、施工体制の強化や人材育成に伴う人件費や管理費が増加する。来21/6期は一過性の要因がなくなり、20/6期予想比で10.8%の増収、10.4%の営業増益を計画している。

     

1.会社概要

ダイヤモンド工法とウォータージェット工法による専門技術を強みとする社会インフラの維持補修工事を展開しており、ビルメンテナンスやIT機器のリユース・リサイクルも手掛ける。ダイヤモンド工法は、工業用ダイヤモンドを使って道路や構造物の切断削孔を行う。従来のコンクリート破砕工法では、常に騒音や振動、粉塵等の公害を意識する必要があったが、ダイヤモンド工法は、安全に、スピーディーに、正確に、環境に影響を与える事なく工事を行う事ができる。一方、ウォータージェット工法は、超高圧で水を噴射してコンクリートの結合を破壊する。鉄筋を痛める事なく、ピンポイントでコンクリート構造物の修繕補修が可能。
グループは、ワイヤーソーやコアボーリング工事を手掛ける(株)ウォールカッティング工業、海洋土木(水中での切断穿孔工事)に強い(株)光明工事、沖縄県に拠点を置く(株)新伸興業、建築関連のウォータージェット工法に強い(株)アシレ、及びリユース・リサイクル事業を手掛ける(株)ムーバブルトレードネットワークスの連結子会社5社と、持分法適用関連会社のダイヤモンド機工(株)等。

 

【経営理念 : 特化した技術と高いサービスを持って社会に貢献し、最良のグループとなる事をめざす】

「特化した技術と高いサービスを持って社会に貢献し、最良のグループとなる事をめざす」を経営理念に掲げ、「切る」「はつる」「洗う」「剥がす」「削る」をキーワードに、特化した技術を様々な現場へ提供している。

 

営業方針 : 組織力、展開力を生かし、攻めの営業展開を
工事方針 : 当社の品質である工事力を高めよう
安全方針 : 働く人の健康と安全を促進する

 

事業は、切断・穿孔工事事業、ビルメンテナス事業、及びリユース・サイクル事業に分かれる。切断・穿孔工事業は、同社、(株)ウォールカッティング工業、(株)光明工事、(株)新伸興業、(株)アシレ、ダイヤモンド機工(株)が手掛け、ビルメンテナス事業は同社が、リユース・リサイクル事業は(株)ムーバブルトレードネットワークスが、それぞれ手掛ける。
19/6期の売上構成比は、85.1%、2.3%、12.6%。

 

(同社資料より)

 

切断・穿孔工事事業
切断・穿孔工事とは、道路等の各種舗装、及びコンクリート構造物の解体、撤去等に必要な切断工事、穿孔工事の事。同社グループの切断・穿孔工事事業は、工業用ダイヤモンドを使用したダイヤモンド工法(第一カッター興業株式会社の登録商標)、及び水圧を利用したウォータージェット工法を中心に事業を展開している。切断・穿孔工事で発生する排水は回収され、大型中間処理施設で中和され切断水として再利用される。また、切断されたコンクリート等の廃棄物は脱水処理後、コンクリート等の原料へと再生される。

 

グループで全国をカバーしており、同社が東日本全域に、(株)アシレが神奈川・大阪に、(株)ウォールカッティングエ業が主に東海地方に、(株)光明工事が大阪・中四国地方に、(株)新伸興業が沖縄県に、ダイヤモンド機工(株)が九州地方に、それぞれ営業基盤を有している。

 

同社グループは専門工事業者として、インフラの建設工事や維持補修工事の一翼を担っており、主な得意先は総合建設業者、道路建設業者、及び設備業者等。得意先が工事を受注し、コンクリート等の切断穿孔工事を同社グループに発注する。得意先は公共事業関連工事を中心に事業展開しているため、同社グループが施工する工事も大半が公共事業関連工事である((株)アシレは民間分野の客層が大半)。一方、公共事業関連工事以外の工事としては、化学工場・石油プラント・発電所等のメンテナンスやウォータージェット工法による洗浄等が挙げられる。工事を種類別に分類すると、土木工事、建築関連工事、都市土木工事、道路・空港工事、生産設備メンテナンスに分類される。

 

 

主要取引先
大成建設、大林組、鹿島建設、ショーボンド建設、鉄建建設、東鉄工業、JFEエンジニアリング、IHIインフラシステム、野村不動産パートナーズ、大成ロテック、鹿島道路、山九、三菱地所コミュニティ、三井不動産レジデンシャルサービス、NIPPO、日本道路、清水建設、三井住友建設他(順不同)。

 

土木工事

橋梁工事、港湾工事、ダム関連工事といった、大型構造物の補修・撤去工事を行っており、水中など特殊な環境下での切断・穿孔作業の場合にも、専属のオペレーターによる施工を行っている。

 

橋梁工事

高架橋切断・撤去、コンクリート片剥離防止対策、橋脚劣化コンクリート除去や表面処理等

港湾工事

護岸・桟橋の改築に伴う切断・撤去等

ダム関連工事

砂防ダムスリット化、魚道開口構築等

建築関連工事

建物解体工事、免震工事、耐震工事、改修工事、新築工事といった、解体・リニューアル工事に伴う各種作業を行っている。また、周辺施設への環境負荷軽減にマッチした施工方法で、従来工法では困難な施にも対応している。

 

建物解体工事

ブロック解体・撤去、建物基礎の静的破壊等

免震工事・耐震工事

免震装置取付の杭切断、耐震用スリットの構築等

改修工事

切断、鉄筋はつり出し、エレベーター改造に伴う機械撤去、外壁洗浄、塗装剥離、床表面処理等

新築工事

誘発目地、タイル貼り下地処理等

都市土木工事

鉄道工事、廃棄物処理施設工事、上下水道施設工事といった、都市基盤施設における土木関連工事を行っている他、計画立案から施工までトータルで対応する環境関連工事も手掛けている。

 

鉄道工事

階段切断撤去、擁壁ブロック解体・撤去等

廃棄物処理施設工事

煙突内洗浄やダイオキシン類洗浄

上下水道施設工事

ピット内部劣化コンクリート除去、エポキシ系樹脂塗膜除去等

道路・空港工事

道路の補修等に伴う各種切断や表面処理、劣化コンクリート除去、空港での滑走路グルーピングや灯火設置のためのコアドリリング等作業を行っている。グルービングマシンやコア特装車といった特定条件での切断・穿孔作業が可能な事が同社の強みである。

生産設備メンテナンス

生産設備メンテナンスでは、工場メンテナンスに伴う各種設備洗浄、改造工事に伴う無火気切断、床の塗り替え、及び下地処理等を行っている。同社では産業洗浄技能士を常駐させる事で、作業の品質と安全を確保している。

 

 

ビルメンテナス事業
同社単独の事業である。集合住宅やオフィスビル等において、排水管清掃、貯水槽清掃、給水設備点検、床清掃、ファイバースコープ調査、機械式ピット清掃等を行っている。

 

雑排水管洗浄

キッチン・洗面台等の排水管を高圧洗浄。高圧ホース先端のノズルから高圧水を噴射し、管内に付着したスケールを除去する。

 

汚水槽・雑排水槽洗浄

汚水槽・雑排水槽内の清掃を高圧洗浄・協力吸引車輌を用いて定期的に行い槽内の衛生を保つ。

 

高圧温水洗浄

高温の温水の使用で、高圧洗浄より配管の負担が少ない上、頑固な付着物(特に油脂分)の溶解・除去に最適。

 

(同社資料を基に作成)

 

 

リユース・リサイクル事業
(株)ムーバブルトレードネットワークス、持分法非適用非連結子会社1社、持分法非適用関連会社2社の事業である。リユース事業では、主に一般企業からタブレット、パソコン、サーバー、液晶ディスプレイ等の中古IT関連機器・OA機器を仕人れ、データ消去及び補修・改修を行った後、主に法人に対してこれらの機器を販売している。また、主に法人向けにIT関連機器のデータ消去を行うサービスや、OA機器のオフィス設置サービスも行っている。リユースが難しい中古品については解体した後、中間処理を行い再資源化を行うマテリアルメーカー・素材業者に販売している。一般的な素材から「金・銀・コバルト等の希少金属」まで再資源化を行う業者への販売を行う。

 

1-1 テクノロジー(独自の工法) - ダイヤモンド工法、ウォータージェット工法について -

ダイヤモンド工法
工業用ダイヤモンドを使って道路や構造物の切断・削孔を行う。フラットソーイング、コアドリリング、ウォールソーイング、ワイヤーソーイング、グルービングの5つの基本工法をもとに、独自のアイデアで多種多様なダイヤモンド工法を行っている。

 

ダイヤモンド工法に用いられる工具には、「ダイヤモンドブレード」、「ダイヤモンドビット」、「ダイヤモンドワイヤー」があり、それぞれダイヤモンド砥粒を使用している。「ダイヤモンドブレード」は、ダイヤモンド砥粒をメタルボンドで焼き固めた(焼結した)チップを基盤の周りに付けたもの。「ダイヤモンドブレード」を高速で回転させる事で対象物を切断する(建材の種類や切断の深さ等に応じてサイズを使い分ける)。「ダイヤモンドビット」は筒状のチューブの先端にダイヤモンドチップの付いた刃先を付けたもの。高速で回転させ対象物を穿孔する(穴の大きさや穿孔の深さによって様々なビットを使い分ける)。「ダイヤモンドワイヤー」はダイヤモンド砥粒をメタルボンドで焼結したビーズをワイヤーに一定間隔で装着したもの。対象物に制約がなく、複雑な形状物であっても切断できる。

 

フラットソーイング
一般に床・床板・舗装のような水平面の切断に最適な工法。ダイヤモンドブレードを機械に取り付け、機械の進行に合わせてオペレーターが後方から歩きながら一人で操作する。目地切り、傷んだ舗装の打ち替え・撤去目的のコンクリート部分の切断、電気・電話・ガス・水道・下水道など舗装下に管を敷設する際の舗装部分の切断等に用いられている。動力はガソリン・ディーゼル・電気・油圧等で、切断によって加熱した切れ刃を冷却するために、刃先に水を送りながら切断する(圧縮されたエアーを冷却に使う乾式フラットソーイングもある)。

 

(同社Webサイトより)

 

コアドリリング
ダイヤモンドビットによって被穿孔物に工具を貫入させて孔をあける工法。正確な円形切断を求められる現場で使用される。給排水管・電気配線・空調設備のダクト、耐震補強等、どのような径の孔でも容易に穿孔できる。強度検査用サンプル採取や、アンカーボルト用の穿孔、厚い壁の一部を除去する場合のラインカット等、仕上がりの精度が特に求められる現場で活躍する。

 

(同社Webサイトより)

 

ウォールソーイング
壁や斜面・床面等に走行用ガイドレールをアンカーボルトで固定し、ダイヤモンドブレードの高速な回転と駆動機のレール上の移動によって対象物を切断する工法。ドアの開口部や換気口・窓の設置に多用され、直角・斜め共に切断可能。レールに沿って切断するため、正確に開口部を設ける事ができる。また遠隔操作も行えるため、どのような状況下においても安全な作業が可能。本体が小型・軽量なため持ち運び自在で、ビルや高速道路・地下鉄等、作業スペースの狭い現場においても優れた機動力を発揮する。

 

(同社Webサイトより)

 

ワイヤーソーイング
ワイヤーソーに一定の張力を加えながら、油圧式またはエンジン式の駆動機により高速回転させて対象物を切断する工法。対象物の形状に左右される事なく、厚大・複雑な構造物も容易に切断可能。また遠隔操作や自動運転もできるため、水中・高所・地下等あらゆる環境下において安全かつ自由に施工できる。

(同社Webサイトより)

 

グルービング
硬化した路面に車輌の走行方向と平行あるいは直角方向に切削を行い、複数の浅い溝(安全溝)を同時に施工する工法。専用のグルービングマシンを用いて、ドラムと呼ばれる筒状の装置に複数のダイヤモンドブレードを所定のピッチに重ね、セットしたものを回転させ路面を切削する(滑り抵抗や排水性を向上させる事で路面を改善する)。ドライ工法とウェット工法があり、滑走路や舗装道路、急斜面に施工する事で路面使用時のスリップを未然に防止する。1956年にイギリスの空港で初めて施工され、世界に広がった。

 

(同社Webサイトより)

 

ウォータージェット工法
水を高圧水発生装置によって加圧・圧縮し、ノズルから噴射される高速水噴流で、はつり(コンクリート製品を、削る、切る、壊す、穴を開ける等の作業)・洗浄等を行う。対象物に与えるひずみが少なく、マイクロクラックがほとんど発生しない、低振動等の特徴を有し、環境に配慮した優れた工法として注目されている。
同社は、土木・建築や産業メンテナンス、また環境関連など幅広い分野で活用している。土木・建築では、コンクリート除去処理、成型(コンクリート壁の開口、コンクリート構造物の部分除去)、表面処理、塗膜除去処理、洗浄処理等で使われ、産業用メンテナンスでは、タンクリアクター等のプラント機器の清掃作業(スケール除去等)で使われる。また、金属切断(アブレイシブ切断)もできるため、火気厳禁の場所での改修工事にも対応する。

 

振動が少ない

ブレーカー、削岩機等の打撃破砕とは異なり、ノズルから噴射された超高圧水のエネルギーによってコンクリートのセメントモルタル結合を破砕するメカニズムが特徴。

構造物への影響が最小限

対象物に与える変形、ひずみ、残留応力が少なく、マイクロクラックもほとんど発生しないため、構造物への影響を最小限に抑えた作業が可能。

ピンポイントで除去

適切な圧力と流量の設定により、鉄筋を傷めずコンクリートの劣化部分だけをピンポイントで除去できる。

塗膜や付着物だけを除去

圧力の調整によって、対象物の塗膜や付着物だけを除去できる。

遠隔操作

対象物とノズルが接触しないため機械の遠隔操作が容易。曲線・曲面における自由な作業が可能となり、均一な品質が得られる。

 

(同社Webサイトより)

 

1-2 コアコンピタンス

同社のコアコンピタンスは「ヒト」。技術者、営業体制、協力会社ネットワークである。高い技術力と強力な営業力や施工力の源泉となっている。

 

技術者集団(ヒト)

ダイヤモンド業界のパイオニアであり、高い技術と圧倒的な規模を有する

営業体制(ヒト)

業界では稀な組織的営業体制を有する

協力会社ネットワーク(ヒト)

全国に展開する支店・営業所と良質な協力会社ネットワークを有する

全国展開

支店・営業所を全国に展開しており、地域にとらわれない営業が可能

 

全国展開

(同社資料より)

 

2.2019年6月期決算概要

2-1 連結業績

 

18/6期

構成比

19/6期

構成比

前年同期比

期初予想

予想比

売上高

16,283

100.0%

14,871

100.0%

-8.7%

14,318

+3.9%

売上総利益

4,946

30.4%

4,782

32.2%

-3.3%

- 

-

販管費

2,758

16.9%

3,021

20.3%

+9.5%

- 

-

営業利益

2,187

13.4%

1,760

11.8%

-19.5%

1,624

+8.4%

経常利益

2,263

13.9%

1,843

12.4%

-18.5%

1,667

+10.6%

親会社株主帰属利益

1,487

9.1%

1,251

8.4%

-15.9%

1,014

+23.4%

* 単位:百万円

 

前期比8.7%の減収、同19.5%の営業減益
売上高は前期比8.7%減の148億71百万円。特殊要因により前期の売上が押し上げられた反動で切断・穿孔工事事業の完成工事高が同9.1%減少した他、Intel社製CPUの供給不足の影響(CPU不足に伴うPC新製品の供給減による更新の停滞)でリユース・リサイクル事業の商品売上高も同8.7%減少した。
営業利益は同19.5%減の17億60百万円。自社工比率の上昇で原価率が改善したものの、減収の影響をカバーできず売上総利益が減少。一方、内部体制強化に伴い販管費が増加した。

 

2-2 セグメント別動向

 

18/6期

構成比・利益率

19/6期

構成比・利益率

前期比

切断・穿孔工事

13,927

85.5%

12,654

85.1%

-9.1%

ビルメンテナンス

296

1.8%

337

2.3%

+13.8%

リユース・リサイクル

2,058

12.6%

1,879

12.6%

-8.7%

連結売上高

16,283

100.0%

14,871

100.0%

-8.7%

切断・穿孔工事

2,720

19.5%

2,317

18.3%

-14.8%

ビルメンテナンス

14

4.8%

36

10.9%

+159.7%

リユース・リサイクル

84

4.1%

1

0.1%

-97.8%

調整額

-631

-

-596

-

-

連結営業利益

2,187

13.4%

1,760

11.8%

-19.5%

* 単位:百万円

 

切断・穿孔工事事業
完成工事高126億54百万円(前期比9.1%減)、セグメント利益23億17百万円(同14.8%減)。高速道路等の輸送インフラが増加したものの、特殊要因で前期の売上が押し上げられた公共インフラが減少した他、大型工事が前期で終了した産業インフラも減少した。利益面では、案件毎の収益性が改善したものの、完成工事高が減少する中、営業・管理体制の強化に伴う販管費の増加が負担になった。

 

ビルメンテナンス事業
完成工事高3億37百万円(前期比13.8%増)、セグメント利益36百万円(同159.7%増)。採算を重視しつつ受注体制を強化した結果、大型・高層タワーマンション等、新築物件の受託が増加した。利益面では、採算重視の受注と消化体制の効率化による収益性向上に取り組んだ成果で利益率が改善した。

 

リユース・リサイクル事業
商品売上高18億79百万円(前期比8.7%減)、セグメント利益1百万円(同97.8%減)。Apple製品、家電サブスクリプション商品等の取り扱い等が増加したものの、Intel社製CPUの供給不足の影響でノートパソコン関連が減少した。利益面では、売上が減少する中、近年の急拡大に併せた内部体制の強化で販管費が増加し利益を圧迫した。

2-3 財政状態及びキャッシュ・フロー

財政状態

 

18年6月

19年6月

 

18年6月

19年6月

現預金

5,322

5,698

仕入債務

796

718

売上債権

2,852

2,480

未払法人税等

515

240

たな卸資産

365

574

退職関連引当金・負債

604

520

流動資産

8,639

8,913

有利子負債

29

1

有形固定資産

3,112

3,326

リース債務

13

26

無形固定資産

128

104

負債

2,884

2,348

投資その他

826

960

純資産

9,822

10,956

固定資産

4,068

4,391

負債・純資産合計

12,707

13,304

* 単位:百万円

 

期末総資産は前期末との比較で5億97百万円増の133億04百万円。借方では現金及び固定資産が増加し、貸方では純資産が増加した。実質無借金経営であり、流動性と財務安定性に優れた財務体質を有する。流動比率493.3%(前期末382.3%)、自己資本比率79.3%(同74.3%)。

 

キャッシュ・フロー(CF)

 

18/6期

19/6期

前期比

営業キャッシュ・フロー(A)

2,224

1,231

-993

-44.7%

投資キャッシュ・フロー(B)

-622

-649

-26

-

フリー・キャッシュ・フロー(A+B)

1,602

581

-1,020

-63.7%

財務キャッシュ・フロー

-140

-179

-38

-

現金及び現金同等物期末残高

5,295

5,698

+402

+7.6%

* 単位:百万円

 

税引前利益18億47百万円(前期22億69百万円)、減価償却費4億07百万円(同3億87百万円)、税金費用△8億50百万円(同△3億72百万円)等で12億31百万円の営業CFを確保し、有形固定資産や投資有価証券の取得等による投資CFの支出を賄った。財務CFは配当金の支払いや有利子負債の返済による。

 

 

15/6期

16/6期

17/6期

18/6期

19/6期

ROE

14.5%

16.9%

13.1%

17.0%

12.5%

売上高当期純利益率

6.94%

8.68%

7.71%

9.14%

8.41%

総資産回転率

1.50回

1.40回

1.26回

1.40回

1.14回

レバレッジ

1.38倍

1.38倍

1.34倍

1.33倍

1.30倍

*ROE = 売上高当期純利益率 × 総資産回転率 × レバレッジ。総資産及び自己資本は期中平残。

 

3.2020年6月期業績予想

3-1 連結業績

 

19/6期 実績

構成比

20/6期 予想

構成比

前期比

売上高

14,871

100.0%

15,700

100.0%

+5.6%

営業利益

1,760

11.8%

1,730

11.0%

-1.7%

経常利益

1,843

12.4%

1,856

11.8%

+0.7%

親会社株主帰属利益

1,251

8.4%

1,080

6.9%

-13.7%

*単位:百万円

 

前期比5.6%の増収、同1.7%の営業減益
売上高は前期比5.6%増の157億円。(株)アシレの子会社化により増収は確保できる見込みだが、オリンピック需要が前期で収束した事に加え、オリンピック開催期間中及びその前後は首都圏での切断・穿孔工事の減少が予想される。

 

切断・穿孔工事事業では高速道路・橋梁補修工事、電力関連工事等への営業を強化し、ビルメンテナンス事業では引き続き高層集合住宅を中心に営業を強化する。リユース・リサイクル事業においては新規の大口顧客の獲得に力を入れる。

 

営業利益は同1.7%減の17億30百万円。市況の変化による単価低下圧力の増加が予想される中、施工体制強化に向けた取り組みや人材育成のための投資に伴う人件費や管理費の増加が見込まれる。

 

3-2 株主還元

配当は1株当たり2円増配の年22円を予定(予想配当性向11.6%)。当面は「人材」、「生産性」、「研究開発」、及び「事業領域拡大」に積極的に資本投下を行い、中期的に配当性向の水準を切り上げていく方針。

 

4.中期経営計画(19/6期~21/6期)

高度経済成長期に整備された社会インフラの老朽化が進み、修繕・補修・更新も含めた維持管理が大きな課題となっている。同社グループは、「切る」「洗う」「はつる」「剥がす」「削る」といった技術を活かし、社会インフラの長寿命化やリニューアルを支援していく。また、地震や津波、台風や集中豪雨といった自然災害から人々の生活や経済活動を守り、災害発生時には被災地域の復興・復旧を支援する事を同社グループが担う社会的責任であると自覚し、安心安全な社会の実現に貢献していく考え。ただ、同社が属する建設業界は、少子高齢化社会の影響や業界に対するイメージ等で就労人口が減少傾向にあり、人材不足、技術者不足に直面しており、同社も例外ではない。

 

このため、中期経営計画では、「人材」をキーワードに、将来の担い手の確保・育成、働き方改革や生産性向上を重点施策として掲げ、女性や障がい者も気持ちよく働ける環境づくりや、将来的な海外展開も視野に入れた外国人労働者の雇用等、業界に先駆けた新しい取り組みを数多く取り入れた。また、産学連携による新技術の研究・発掘・開発や最先端の技術を持つベンチャー企業との提携等、業界のリーディングカンパニーとして技術開発を積極的に推進する事で顧客や時代のニーズに応えていく。

 

こうした取り組みにより、同社グループが継続して成長・発展していくための強固な経営基盤を構築すると共に、人々の生活を守り、社会に貢献できる企業としての体制を整えていく。

 

建設後50年以上経過する社会資本の割合

 

2018年

5年後

15年後

道路橋(約726,000橋)

25%

39%

63%

港湾施設(約44,000施設)

18%

28%

52%

下水道(総延長:約470,000m)

4%

8%

21%

河川管理施設(44,641施設)

13%

22%

48%

道路トンネル(11,153本)

20%

27%

42%

 

4-1 基本戦略

基本戦略.1 人材採用・育成の強化・拡充
基本戦略.2 営業展開の強化
基本戦略.3 協力会社ネットワークの強化
基本戦略.4 研究開発

 

基本戦略.1 人材採用・育成の強化・拡充
経営者による事業説明及び交流会の実施、社員からの人材紹介制度や外部のリクルーティング企業の活用による専門施工を支える個性豊かな人材の発掘等、人材採用・発掘のため様々な活動を実施する。
また、大学とのコラボレーションによるブランディング戦略やネーミングライツの取得、更には現場の魅力の内外に発信(広報活動)等、人材定着のための施策を実施する他、研修や資格制度によるスキルアップの支援やモチベーションの向上にも取り組む。

 

人材育成のための施策
・ 3年・6年・15年目、シニア研修など研修制度の充実
・ キャリアやスキルアップを補助する資格取得制度
・ 工事内容を細分化し、工種に応じたマイスター制度、段位認定制度など独自認定制度の運用
・ グループ間での交流研修制度

 

上記の他、ワーク・ライフ・バランスの充実に取り組む他、外国人労働者の採用を進める。ワーク・ライフ・バランスの充実では、タブレットを利用した勤怠管理の導入、時間外労働時間上限の社内基準による指針以下の設定、完全週休二日制を見据えた増員計画等でワークの充実を図り、全国型・地域限定型勤務の選択、働き方に応じた勤務時間帯の設定、女性作業員の受け入れに向けた現場環境の整備等による多様な働き方への取り組みと、従業員やその家族、取引先を招待したフェス開催や家族向けの各種助成制度の充実による従業員の家族に対する取り組みでライフの充実を図る。また、同社の業務フローに特化した基幹システムの導入、受注配車システムの高度・効率化、研究開発による生産性向上、更には研究開発部会・産学連携により機械開発を進める事で生産の向上も図る。

 

外国人労働者の採用については、少子化に伴う労働力の補完ではなく、現地とのネットワーク、将来の海外展開を想定した従業員の育成、及び現地法人の設立を見据えた有望人材の発掘を念頭に取り組んでいく。

 

4-2 経営指標目標

 

19/6期 計画

同 実績

20/6期 計画

21/6期 計画

売上高

14,318

14,871

15,700

17,400

営業利益

1,624

1,760

1,730

1,910

営業利益率

11.3%

11.8%

11.0%

11.0%

親会社株主帰属利益

1,014

1,251

1,080

1,190

EPS

178.24

219.80

189.75

209.08

 

 

 

 

 

従業員数(連結)

500

501

525

550

* 単位:百万円

 

4-3 成長投資と19/6期・20/6期の取り組み

継続して成長できる事業基盤を構築し、今後の海外事業や新規事業領域への展開の基軸となる「強固な人材基盤の構築」を図る考え。人材投資、生産性向上、事業領域拡大、研究開発に、3年間で25.2億円の投資を実施する。

 

 

内容

19/6期 実績

20/6期 目標

21/6期 目標

3年累計

人材投資

人材採用・研修

1.7億円

1.0億円

1.0億円

3.7億円

生産性向上

現場環境改善、働き方改革

4.0億円

3.0億円

3.0億円

10.0億円

事業領域拡大

新規営業所展開、M&A

1.2億円

7.0億円

2.0億円

10.2億円

研究開発

R&D、新技術への投資

0.3億円

0.5億円

0.5億円

1.3億円

合計

7.2億円

11.5億円

6.5億円

25.2億円

 

中期経営計画の初年度となる19/6期はコアコンピタンスである人(職人)への投資を積極的に行い、7.2億円を投じた。20/6期から連結される(株)アシレのM&Aが加わったため、3年累計投資予想を当初の20億円から25.2億円に上積みした。

 

人材投資
19/6期は50名が入社したが、定着率が低下した。20/6期は更なる採用環境の悪化で効率の低下が予想される。

 

生産性向上
19/6期は月間出来高指数、時間当たり生産性共に目標を上回った。具体的には、職人一人当たり月間完成工事高が229万円と目標としていた170万円を上回り、職人一人当たり・作業時間一時間当たり完成工事高も18,524円と目標としていた17,000円を上回った。20/6期は今後の労働時間抑制に対応した最適化配置の実現に取り組んでいく。

 

研究開発
19/6期は自動化要素技術の開発に向け、産学連携による3年計画に着手した。また、橋梁床版架け替えにおける工期短縮につながる新工法であるHydro-JetRD工法が、土木学会関西支部「技術賞」、一般財団法人国土技術研究センター「国土技術開発賞」、阪神高速道路(株)「社長賞」を受賞した。この工法は、今後の高速道路更新工事への採用が期待されている。
20/6期、自動化、アシスト技術、更には技術伝承を見据えた無形技術の可視化に取り組んでいく。

 

事業領域拡大
19/6期は新規事業として、レーザー事業の準備を開始した。20/6期は海外展開の準備を本格化する。また、事業領域を見極め、M&Aにも積極的に対応していく。

 

4-4 CSRの取り組み

CSRの一環として、災害復旧ボランティア制度を新設した。義援金等の金銭的貢献よりも、災害復旧には人の支援が重要であるという認識から、各地の災害発生時に人(ボランティア)と車両を派遣できる規定を新たに設けた。ボランティアとして派遣された社員には金銭的負担及び特別休暇の付与を行う。

 

19/6期は茅ヶ崎市との「災害時における応急復旧対策の協力に関する協定」を締結した。同社グループにしかできない社会貢献の形として、同社グループの保有する特殊車両や機械、そして正社員として雇用する日本でも屈指の職人(同社の唯一無二の資産)を災害時に機動的復旧対策に提供する事を茅ヶ崎市に提案し、協定が締結された。

 

4-5 今後の戦略

人材投資
引き続き人材発掘・採用と定着のための施策を実施していく。人材発掘・採用の施策として、説明会・採用面談・交流会への社長参加や社長メシの活用(社長との食事機会の設定)等、経営者と接する機会を増やす他、Web説明会、大学部活への直接関与等、採用手段を多様化する。また、SNSによる現場の“Smartさ”の配信や複数メディアの活用(クロスメディア)により発信力も強化する。
一方、定着に向け、陰に隠れる存在から、見られる存在へブランディング戦略を展開すると共に、技術の可視化と働き方改革に取り組んでいく。技術の可視化では、達成段階表・マイスター制度によるレベルの可視化と仕上がり精度の数値化による技術の可視化でスキルとモチベーションの向上を図る。働き方改革では、週休二日制を推進すると共に労働時間管理の精度向上に取り組む。

 

生産性向上
システムの導入により、配車効率と職人・営業の生産性向上を図り、労働時間の短縮につなげる。配車効率の向上では、年間延べ8万件の工事案件に対し、自社工300名と協力会社、地域・工種・技術レベルを最適化して配車を行う配車システムの構築を進める。
職人・営業の生産性向上では、情報の利活用がポイントになる。タブレット活用(グループウェア・社内SNS)により職人の生産性向上を図る他、作業伝票、報告、配車連絡、技術情報、施工写真等を電子化して業務効率を改善する。また、特殊冶具、特殊工法、新工法、改良工法をタブレットで確認・学習できるようにする。営業についてはSFA(Sales Force Automation)を活用する。具体的には、行動管理、顧客管理、案件管理、報告を電子化し、全国80名近い営業のエリア制、エリアをまたぐ顧客・案件の連続性を強化する。

 

研究開発
人材投資・生産性向上を念頭に技術の可視化と新工法・新技術開発に取り組む。技術の可視化では、既に説明した施工能力の可視化(達成段階表・マイスター制度のブラッシュアップ)に加え、施工手順の可視化(作業標準のマニュアル化・ビジュアル化)、仕上がり基準の可視化(センサリング技術の導入、仕上がりを数値化)に取り組み、新工法・新技術については、課題毎にプロジェクト方式で進めていく。

 

事業領域拡大
海外展開の準備を勧める他、M&Aに機動的に対応していく。海外展開については、東南アジアの1国に絞り込みを行い、該当国での既存の同業モデルとは差別化したビジネスモデルの構築に取り組む。また、人材面では、経営管理候補の現地人を日本で2年程度をかけて育成する。M&Aについては、その対象を、「切る」「はつる」「洗う」「剥がす」「削る」の5つをキーワードとする専門施工会社、同社の事業である工事施工に関わる会社(調査、設計、工事、保守のサプライチェーンの前後の会社)、及び特化した技術・仕組み・客層を有する関連事業会社としている。

 

5.社長インタビュー - 高橋社長に聞く -

高速道路をはじめとしたコンクリート構造物の老朽化対策、耐震化は急務であり、電力・上下水道等も増強を必要としている。こうした中。同社はダイヤモンド工法やウォータージェット工法による特化した技術で社会インフラの維持補修の一翼を担っている。ただ、特定領域に特化した専門工事会社である同社は表に出る事がないため、同社の成長性や事業の社会性はもちろん、同社自身について知る人は多くないと思われる。神奈川県茅ケ崎市の本社にお邪魔して、高橋社長にお話を伺った。

 

 

高橋 正光 社長

1995年4月入社。現場で実務を学んだ後、千葉営業所長として最前線で指揮を執り、その後、ウォータージェット(現・プラント)事業部長、営業本部長を歴任。同社だけでなく、(株)新伸興業取締役、(株)光明工事取締役、(株)ウォールカッティング工業取締役、(株)ムーバブルトレードネットワークス取締役、と主要子会社の取締役も務めてきた。常務取締役、専務取締役を経て、2017年10月に同社代表取締役社長に就任した。

 

5-1 会社概要
切断穿孔工事のパイオニア。我々に切れないものは、「愛」と「縁」だけ。
1966年に個人で創業して翌年に法人組織に改組されました。先ず創業のいきさつからお聞きしたいと思います。

 

高橋社長 : 東京にある金剛建設株式会社(東京都中央区)が日本で最初に道路の切断機を導入しました。アメリカからの輸入ですね。当社の創業者がそこでアルバイトをしてたんです。「この仕事はおもしろいらしいぞ」という事で、高校の同級生と始めたのが創業のきっかけです。創業者の自宅があったのが、現在本社がある茅ヶ崎市の柳島で創業の地となりました。その後、当時の建設省、現在の国土交通省が水道管や下水道管を地面の中に敷設する際にカッターを入れて工事をしなさい、という通達を出したんです。あれが追い風になりました。

 

 

金剛建設さんは日本で最初にカッターを使った工事を始めましたが、この仕事が多かったという訳ではなく、工事の中の一部としてカッター工事を行っていた。日本で最初に専業としてスタートさせたのは御社、という事になるのですね。アルバイトをきっかけに起業して、建設省の通達を追い風に業容を拡大させた訳ですから運も強かったんですね。

 

高橋社長 : その通達を出した事によってカッターを使った工事が増えました。当時は工業用ダイヤモンドの刃もいいものではなかったですし、機械のエンジンも非力なものでしたから、舗装の厚みが厚くなればなるほど専門業者に頼まなければならなかったんです。国交省の通達とカッターの黎明期にカッター専業でやっていくっていうことを決めたところが大きかったんでしょうね。それに専門工事会社で成り立つのは、工事量の多い首都圏でないと難しかったと思います。その意味で、茅ケ崎での創業は地の利がありました。持ってたんですね、創業者は。

 

その後、エリア展開を進めました。インフラ整備の全国への広がりを見越して、早い段階での展開です。特に関東は各県に拠点をつくっていったんです。神奈川、千葉、埼玉、東京、茨城、高崎、栃木と…。北海道は採用を目的に早々につくりましたけど、札幌に。

 

各エリアで車両や機械の運用を管理し生産性を向上
他県への展開も早かったですよね。御社は、1966年に創業して、翌67年に法人組織に改組。69年に札幌営業所を開設し、1970年に千葉営業所開設、73年に栃木営業所開設等、とありましたから、茅ケ崎に本社を置いたのはいいが、本社の近くで仕事がなかったのだろうか?と思っていましたが、人材確保や先を見越しての事だったんですね。大変失礼しました。

 

高橋社長 : 我々の業態は、東京で仕事ができているから、東北に行ってもできるか、と言うと、そんな事はありません。それぞれの拠点、その中で人と機械の稼働をうまくとる事が必要です。タクシー会社のように“どこで誰が乗るか”わからないし、“どこまで乗るか”もわからない中で、1、2台だけあっても仕事になりません。それが10台、20台と集まった時に本当の効率が生まれてきますから、どう稼働率をあげるかです。工事が1日に何件も回ったりしますから、30分で終わらせて次があるのか、次が空くのかというところで、エリア毎に固めていく必要があります。

 

創業当時は、千葉県や埼玉県で工事があれば、茅ケ崎から機械を運んだそうです。工事をできる業者がいないので、電話帳を見てとか、何かの広告を見てとかで他県から連絡を受けて出向く事も多かったようです。

 

 

余談になりますが、茅ヶ崎も首都圏ですが、千葉県や埼玉県の仕事もこなすのであれば、一都三県の中心の都内に本社を置いた方が良かったのかも知れませんね。

 

高橋社長 : 東京に本社を置いた方が人も集まりやすいのでしょうが、我々は場所が必要なんですよ。車や機械を置いて、人が通う。創業の地であるし、場所も必要だし、というところです。やはりここで育ちましたから、税金も納めた方が地域にとっていいだろうという事もあります。

 

本社をどこに置くかはともかく、こういう事業特性があって、早い段階から拠点展開に取り組んだという事ですね。できる限り拠点の中で完結するように努力していますが、ウォータージェットや建築の床の下地(ブラスト下地)改修に使われるような機械とチームは茅ヶ崎に置いて必要に応じて全国の現場に出向くようにしています。機械の値段が高価で、メンテナンスも手間がかかりますから。それに工事の歴史がまだ浅いんですね。15年しか経ってないので、価格管理も必要です。一つの場所から発信した方が、当社としてのウォータージェットとか、ブラスト下地の仕事に対する価格統制が効く面があります。コンクリートを切るとか、アスファルト切るとかというのはもう各営業所で経験値が蓄積されているので心配ないのですが。

 

 

インフラ整備の一巡で補修関連へ工種を拡大
各拠点のメリットを享受するためには各エリアでの運用の効率化が重要な訳ですね。エリアだけでなく、工種も広がり、新しい工種については、全社的な見積精度向上のためにデータを本社に蓄積する必要があるのでしょうね。

 

高橋社長 : そうですね。下水道の普及率っていうのが全国的に高まってくると道路を切る仕事もひと段落するんです。下水道を置くっていう事は邪魔になる水道管を移設する必要があります。電気、電話、ガスもそうです。今は地中に入れてますから。都市部の下水の普及率が80パーセントぐらいになると、そういうものの移設がなくなりますから道路を切る仕事もひと段落してきました。そこで、取り扱える工種を増やしていったんです。道路を切るだけではなく、コンクリートに穴を開ける。コンクリートの大きい構造物を切る。工種で言ったらワイヤーソー、ウォールソー、空港のグービングです。グービングとは滑り止めの防止の溝です。滑走路等に溝を入れる工事です。ウォータージェットという商品を入れたのもその頃です。2004年頃です。ウォータージェットでコンクリートの補修に関わるところの仕事を増やしていきました。
エリア展開についても、県毎から、ある程度のエリア毎にも変えました。仙台に店を置いて東北6県を見ようとか。北陸に営業所を置いて上信越を見ようとか。

 

 

ウォータージェットは補修工事の時に使われるのですか。水を当ててコンクリートが壊せるというのも不思議な感じです。

 

高橋社長 : 壊せるんです。コンクリートの傷んだところを取り除いて、健全なところをそのまま残す事ができるのがウォータージェットのいいところ。鉄筋を傷めないでコンクリートを壊す事ができます。NEXCOさん、当時は日本道路公団。日本道路公団から、コンクリートの構造物の補修に関わる取り壊しはウォータージェットを採用するよう指導がありました。ウォータージェットは日本に入ってきて30年以上経ちますが、普及してきたのはこの15年ぐらいです。コンクリートの床版、高速道路の車が通るアスファルトの下にあるコンクリートの床面のところの補修工事等は、今ある鉄筋を生かしながら傷んだコンクリートを削る、はつりとって取り壊して、新しいコンクリートを鉄筋を生かしたまま打つ事によって、健全な橋に蘇らせる事ができます。

 

(同社資料より)

 

 

工期は30分から4、5年。小さな工事の積み重ねで年商150億円
ウォータージェットは振動を抑えてピンポイントで工事できるから、健全なところを痛めない、という事ですね。
ところで、1案件の工事期間は、どれぐらいになりますか。施工会社ですから受注や受注残があると思いますが、開示されていません。

 

高橋社長 : 1案件の工事期間ですか?これがすごく難しいんです…。最短10分。最短30分だとして、30分から4、5年。ですから、請負の金額も1万円から億の単位まで。1年間それをかき集めて売上をつくる訳です。30分というのは、道路を2、3メートル切るだけ。例えば、マンホール周りにカッターを入れる工事です。マンホールの高さを調整するために周りを四角に切る。マンホールの周りを1周回って、大体4メートルぐらいです。30分ぐらいで終わってしまいます。
地方の工務店さんとか地元の建設会社さんからの小さい仕事が、件数としてはかなりあります。仕事をかき集めなくてはなりませんから、30分で終わって1万円といった仕事からですね。中央にいて営業するよりも地域に拠点を置いて営業をしていった方が集まります。そういう仕事を私たちは主食だと思っていて、おかずは、ゼネコンさん等から、たまに入ってくる大きい仕事、というようにしてきたんです。

 

ですから受注残はないんです。リードタイムが非常に短い。数十分で終わる仕事の場合、当日に入ってきて当日に行きます。長期の大型工事もありますが、それでも1年前に受注残がいくらあるか、というと数億円です。10億円もあれば、というぐらいになってしまいます。タクシーに似ているところがあり、いつお客さんが乗るか分からないし、走る距離もわからない。ただ、このエリアでこの時間帯に待っていれば、ある程度のお客さんが見込める、というのがタクシーにあるように、工事にもあります。

 

5-2 高橋社長のプロフィール
会社概要と合わせて、高橋社長のプロフィールもうかがいたいのですが…。経歴を拝見すると、会社の中の全部を回ってこられた、といった感じですね。千葉営業所長から始まって、ウォータージェット、営業本部長、それから主要子会社の取締役も…。

 

高橋社長 : そうですね。千葉営業所からのスタートで、営業所では道路も切ってました。私たちは、会社に入ったら全社員が現場に出ます。女性でも。私は現場を2年やって、営業に出ました。夜間等は人がいないので、営業になっても現場に出たりしました。営業をしながら現場をしながら10年…です。道路の仕事は夜間が結構多いんですよ。昼間にできない場所が多いですから。営業しながら工事の手伝いをしていましたから、昼・夜・昼と働いてました(笑)。

 

 

夜の工事の手伝いをしながら、営業を10年ですか。「仕事をかき集めないといけない」、とおっしゃっていましたから、営業先の数も多かったのでしょうね。

 

高橋社長 : 千葉営業所で営業してた時は、地元の工務店さんや建設会社さん、道路ゼネコン、舗装屋さん。ゼネコンさんもたまに。当時は、ほとんど道路のカッターの仕事で、その後、ウォータージェットをやり始めて、売上が3億円いくか、いかないか。1億円いけば1人前と言われて、1億5000万円~2億円ぐらいが多かったかな。かき集めて、ですね。今は1件当たりの工事量が増えていますから、1番やる営業で5億円ぐらいはいきますが、それでもかき集めないといけません。

 

 

現場作業、事業部長、営業本部長と経験され、「会社の事は全てわかっている」という感じですが、主要子会社の取締役も経験されていますね。

 

高橋社長 : 子会社でもやる仕事は同じですが、個々に特徴があります。1番最初は名古屋のウォールカッティング工業です。2007年だったかな。東海地区を中心に営業している道路カッターをあまりやらないワイヤーソーとかコアボーリングとかだけの会社です。主な客層はゼネコン、それから解体屋さんです。建築・土木の両方をやってます。

 

その次が光明工事、2009年。光明工事は海洋土木に強くて、潜水士の同業版みたいな仕事です。水の中でコンクリートを切るとか壊すとかの仕事もそこそこあって、従来は私たちが工事内容を説明して潜水士さんが潜ってそのとおりに機械をセットして切りあげていました。ですから効率が悪いんですよ、お互いに専門じゃないので。光明工事の場合は、潜水士さんが陸上の仕事をでき、陸上の人が海に潜れる訳ですから意思疎通の早さが桁違いに変わってきます。光明工事がその世界を作ったんです。それが光明工事の特徴であり、強さです。水の中での仕事の強さです。

 

次が2010年に沖縄につくった合弁会社の新伸興業です。沖縄は米軍基地が多いじゃないですか。それに見合った形で思いやり予算を付けていますから、意外と仕事があるんです。10億、20億とまではいきませんが、私たちが行って、小規模ながらやってくには十分な仕事があります。米軍基地等の大きい仕事もありますから、大きい仕事を取った時はこちらから行きます。そういうことも考えて沖縄に会社をつくりました。沖縄は営業所じゃだめなんです。沖縄県の会社っていう形をつくらないと。

 

その後、ムーバブルトレードネットワークスが2014年かな。パソコンのリユース・リサイクルの仕事で少し毛色が違いますが、出会いがあった事もあり、多角化もやってみよう、という事で子会社にしました。

 

 

子会社それぞれに特徴があり、それを実際に経験してきた訳ですね。話がそれて恐縮ですが、5月に(株)アシレという同業者を子会社にしましたね。

 

高橋社長 : 建築関連のウォータージェットに強い会社です。私たちはどちらかというと土木の方に強い会社ですが、アシレは建築の方に強い会社です。マンションの大規模改修では、外壁の塗装を塗り替えたり塗り直したりすしますが、その前に今ある塗装の汚れを洗浄する必要があります。外壁がタイル貼りのマンションがありますが、タイルの接着面を良くするためにコンクリートの表面を荒らすんです。それを水で荒らすのが国交省の仕様になっていて、水で荒らし、その後に接着剤を付けてタイルを張っていくっていうのも、アシレの仕事の一つです。
アスベストが問題になっていますが、アスベストが塗装の中に含まれているんです。昔はアスベストを混ぜて塗ると、塗りの効率が良かったみたいです。それが老朽化したので解体しようと思ったら、中にアスベストが入っている。解体時に飛散してはいけないので、解体前にその塗装を剥ぎなさい、と言う事です。それを今は水で剥ぎます。ここ最近のアシレのいい商品になってます。アスベストは、あと10年ぐらいピークが続くとか、2040年ぐらいまでいくんじゃないか、と言われてます。
解体の時にアスベストが入ってるかどうかを調査する必要がありますから(大気汚染防止法に基づく規制措置)、アシレは、北海道、熊本、京都等、色々なところ飛んで仕事をやってます。

 

 

5-3 市場・事業環境と強み
なるほど、興味深い話ですね。それでは、市場や事業環境についてお聞きします。市場規模はどれくらいになりますか。

 

高橋社長 : 市場規模としては、ダイヤモンドで1,500億円ぐらい。ウォータージェットで300億円ぐらい。この市場は専門工事会社の事業領域です。小さいところが、たくさん案件を処理しているという状況です。ダイヤモンド工法だと1800社と言われてます。ミニマムだと1台でやってる。2、3台というのも多いですね。9割は5台以下じゃないですかね。ほとんど家族経営です。

 

 

ダイヤモンド工法とウォータージェット工法を合わせて1,800億円になりますから、御社のシェアは10%に届いていないのですね。シェアアップの余地は大きいと思いますが、この業界は大手に再編されていくような流れなのでしょうか。

 

高橋社長 : そうですね。まとまってくか、廃業されるかどっちかじゃないかなと思います。今朝の経営会議でも、廃業の話を1件聞きました。一緒にできるところとは、一緒にやって行きたいなと思ってます。小規模な会社は懇意にしている特定のお客さんがあり、そこから仕事をもらっています。我々が地方で地元の工務店とか建設会社に営業した時、競合するのはそういうところなんです。1人、2人でやっているところと我々はバッティングするんです。

 

ただ、最近では、小さい会社でも特定のお客さんに強い会社とは仲間になろうと努力しています。彼らが強いお客さんが、彼らができない大きい仕事を取ったら、我々と一緒にやりましょうと。変な戦いをしないで仕事が取れますから。メリットがある事を理解していただけるよう努力しています。我々も、小さい会社との協業を考える事によって受注を増やし、しかも適正な金額で受注する事ができます。

 

 

老朽化する社会インフラの増加に加え、シェアアップの余地も大きい訳ですね。業界再編や企業の集約が進めば、インフラの維持・補修コストの削減にもつながるでしょうから、業界唯一の上場企業として、御社に業界再編の主導的な役割を期待したいですね。こうした業界にある中、御社の強みは「人」とお聞きしています。この点について、ご説明いただけますでしょうか。

 

高橋社長 : 人の強みというのは、従業員に対する職人の比率が高い事、営業の人員の厚み、グループ展開による動員力・受注力ですね。

 

正社員の6割が職人です。機械化が難しい業種なんです。大規模な土木等ですと、GPSを使って無人で重機を走らせるような事が実現していますが、工期が30分から4、5年とお話しましたように、我々の仕事は現場が様々で、状況も違いますから、なかなか無人化というところにまで行き着かない。どうしても人手が必要です。おっしゃるように老朽化によって直さなければいけない、守らなければいけない構造物がたくさんありますから、それの補修に向けていい人材を送り込んでいくために、きちんと人材を育てて増やしていく必要があります。その繰り返しが、より強力な「人の強み」となり、あと10年ぐらいした時に出てくると考えています。

 

 

機械化が難しく、人に頼る業種ですが、維持補修工事と相性が良く、老朽化する社会インフラ対策で強みを発揮する訳ですね。立て続けに台風が上陸し大きな被害が発生している事を考えると、災害防災対策も急務でしょうから。

 

高橋社長 : アベノミクスで国土強靭化をうたいました。「人々の暮らしの安全と安心を守る」というのが大方針です。この観点から言えば、当社が得意とする物流網や交通網。平時はもちろん、災害発生時には、高速道路・電車・空港が物資の運搬や人々の避難に使われますから、しっかりお金を掛けてそこの部分は守らなければいけない。

 

台風やゲリラ豪雨に伴う災害を防ぐためには、ダムにある程度の貯水をする必要がありますし、川が氾濫しても流木が下に流れないようにせき止める砂防ダムも整備する必要があります。川幅を広くする必要や堤防を高くする必要もあります。例えば、川幅を広げる際に、何が私たちに関係するのかというと、広げた川幅に合うように橋を長くする必要がありますから、継ぎ足したり、古い橋を壊して隣に橋を掛けたり、という事になり、切断・穿孔工事が必要になります。逆に新しく建物をつくる場合、我々がやるべき仕事はほとんどありません。何かを直したりする際に我々の仕事が出てきます。道路の下に埋まってる水道管だって、耐震化しないと地震の時に飲み水を供給できない。下水道も地震に強い下水道管じゃないと排水ができなくなります。防災の考えが工事に組み込まれるようになってきた事も昨今の特徴です。

 

 

5-4 中期経営計画(19/6~21/6期)
拡大する維持補修市場は御社の技術と相性がいいという事ですね。それでは、中期経営計画についてお聞きします。初年度の19/6期は前の期の特殊要因の反動で減収となり、2年目の今期は東京オリンピックの影響を織り込み前期比5.6%の増収にとどまる計画ですが、来期、21/6期は20/6期計画比10.8パーセントの増収を計画されています。計画に沿った人材確保ができる事を前提に、特殊要因等がなければ、社会インフラの維持補修需要を取り込む事で二桁の売上成長が可能であり、これが実力値、と考えていいのでしょうか。

 

高橋社長 : そうだと思います。NEXCOやJRもそうですが、今、10年から15年のリニューアルプランを進めています。スタートは、2016年だったり2015年だったりですが、NEXCOさんが15年計画で、今年3年目です。

 

 

二桁成長を続けるに足る大規模で長期にわたるリニューアル計画がある訳ですね。中期経営計画では4つの基本戦略を掲げています。第1が「人材採用、育成の強化」。良好な事業環境を活かすためには、何よりも人材の確保。会社説明会等、様々な場面で社長が前面に出て採用活動を行っていくとの事ですが。

 

高橋社長 : 成長基盤を構築するためには、人の確保・育成が何よりも大事です。それからハイテク、IT化です。建設業は、高齢化、定年退職で、10年後には今の就労人口の3分の1が減ると言われています。協力業者さんも高齢化してます。若い子を入れなければなりません。加えて、建設業の時間外労働時間の上限適用除外が撤廃され、上限が適用されてしまうんです。これまで、建設業は時間外労働時間の上限適用の除外業種でした。人を確保しておかないと、時間の制約の中で現場をこなす事ができなくなってしまいます。

 

(注)2019年4月1日から順次施行される「働き方改革関連法」(2018年6月29日成立)は、建設業に対して、これまで適用対象外だった時間外労働の罰則付き上限規制を適用する等、様々な影響を及ぼす。

 

ただ、現在進めている人材採用には、今、必要だから人を採用するという面だけでなく、将来的な人手不足を見越した人の確保という面もあります。将来的に建設業全体でもっと人が不足した時に、人がいるところが勝つ。そういう世界も想定しながら採用活動を行っています。

 

人材戦略では、もう一つ、定着というところもあります。採用するだけでなく、きちんと「働くやりがい」、「働く意義」というのを感じてもらい、いい会社で働いてるというところを示していく事が定着につながります。定着させ、研修をして、いい人材を現場に送り出す。人を育てるというところを、人材採用と並行して行うようにしています。

 

建設業はイメージが良いと言えないところがあり、専門工事業というと知らない方も多い。特に当社の場合、成果物がありませんから。この橋を作ったんだとか、このビルを建てたんだ、というのが。成果物がないという事は、やりがいを見つけづらいという事です。私にしてみれば、当社の社員が現場で働いてるところを見ると、すごくかっこいいと思うんです。その“かっこいい”と言う事を、本人たちに気づかせて外に発信させようと考え、インスタグラムを使って会社の事を細かく伝える工夫を始めました。

 

 

採用するだけでなく、定着、育成、イメージ戦略も必要と言う事ですね。基本戦略の2番目となります「営業展開の強化」では、どのような取り組みをされるのでしょうか。

 

高橋社長 : 我々は、5つのキーワードで営業しています。「切る」、「はつる」、「洗う」、「剥がす」、「削る」。 そのカテゴリーの中で自覚を持って展開していこうというのが大方針です。例えば、「切る」ですが、ダイヤモンド工具や水を使って切ってきましたが、他にも切る方法や切るものがあるのではないか、と考えています。創業時からアスファルトやコンクリートを切ってきましたが、最近では鉄も切っているんです。鉄以外にも切るものがあるのでないかと考えています。言い換えると、働くフィールドを広げていく営業展開です。

 

もう一つは、領域の深堀と言うのでしょうか、例えば、今ある事業領域の中でも発電所をターゲットにしていこうとか、そういった営業展開です。発電所では、今後増えてくる原子力発電所の廃炉関連も狙っていこうと考えています。この他、高速道路のリニューアルが15年続くのであれば、プロジェクト化して営業展開をしてこうとかも考えています。メリハリを付けて展開をしていこうと言う事です。

 

 

なるほど…。横展開と深堀。それも、単に横展開や深掘りするのではなく、ターゲットを絞って、メリハリをつけてと言う事ですね。基本戦略3の「協力会社ネットワークの強化」では具体的にどのような取り組みをされるのでしょうか。

 

高橋社長 : 100パーセントを自社で現場対応する考えはなく、半分は自社で対応し、半分は協力会社さんにお願いするようなバランスが必要だと考えています。協力業者さんを大切なパートナーとして考えていこう、と…。高速道路等、エリアが広範囲に及ぶ現場は、エリアの中に協力業者さんがいると、トータルコストも安くなります。例えば、工事部隊をここから青森に連れてくよりも、青森の近くに協力業者さんがいてくれれば移動時間もコストも節約できます。

 

当社は上場していますし、この業界では規模も大きいので、彼らからすると敷居が高いんです。一緒に一つ仕事で汗をかいて、当社の社員と接する事で、意外と雰囲気が悪くない会社だなというふうになってくれると、彼らの方から話を持ってきてくれる事もあるでしょうし、将来的に、じゃあうちの会社を買ってくれるとか、面倒を見てくれっていうのにつながるかもしれません。もちろん、それが目的ではありませんが、色々な意味合いを持ちながら、協力会社さんを少しずつ増やしていこうとしています。

 

 

先ほどの、工務店さんなんかに強い、地場の業者さん等と仲良くするっていうのもこの一環なんですね。

 

高橋社長 : この一環でもありますし、営業展開でもあります。営業を強くしようという事ですね。

 

 

なるほど…。基本戦略4の研究開発についてはいかがでしょうか。

 

高橋社長 : 自動化が難しいと言いつつも、何もしてない訳ではありません。遅れてしまいますからね。自分たちの中でできる事を考えながら、新しくものをつくっていこうとしています。一つは、女性とか高齢者でも、若いバリバリの30代の子と勝負しても負けないぐらいの装備ができないか、といった事です。

それから、ほんとにちょっとした事ですが、タブレットの活用等です。日常業務の負担が少しでも軽くなったり早くなったりすれば、生産性も高くなりますから。人手不足対策という面での効果もあると考えています。大学等との産学連携を一部に取り入れたり、日常的な取引があるメーカーさん以外の会社さんとの接点を増やしたりだとか、そういったところも意識しながら取り組んでいます。産学連携は工事、道路を切る作業の自動化です。今は人が押していますが、それを自動で行います。

 

 

5-5 株主・投資家の皆さんへのメッセージ
そろそろ頂いたお時間が来たようです。株主・投資家の皆さんへのメッセージを頂きたい思いますが、その前に株主還元についてお聞きします。現在、配当性向は10パーセント程度。当面は10パーセント程度を目処に実施されていくのでしょうか。

 

高橋社長 : そうですね。少しずつ上げていかなければいけないと考えています。当面は「人材」、「生産性」、「研究開発」、及び「事業領域拡大」に積極的に資本投下を行い、中期的に配当性向の水準を切り上げていく方針です。

 

 

御社は財務内容も素晴らしいですね。流動比率493.3%、自己資本比率79.3%と、流動性が高く、安定性も優れています。この優れた財務体質を、どの様にして事業の拡大につなげていくか、期待したいと思います。それでは、株主・投資家の皆さんへのメッセージをお願いします。

 

高橋社長 : おこがましい言い方になりますが、弊社は日本にとって必要な会社だと思っています。災害が多く、守らなければいけないものが数多くある中で、社会インフラを治していく一員として、優秀な人材を育て現場に送り出す責任も感じています。
弊社を取り巻く環境としましては、社会資本の老朽化問題が年々深刻化しています。弊社にとっては追い風ですし、やりきれないくらいの仕事量が今後見込まれます。
地味な会社ではありますが、投資家の皆さんには、こんな会社がある事を知って頂き、株主の皆様も含めて、弊社の特徴や社会貢献できている事をご理解いただければと思います。ご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

 

 

御社の事をご存じない投資家の方が少なくないと思います。しかし、専門工事会社として技術力と営業力、全国的なネットワークを有し、事業は社会性が高い。そして、長期的な成長を可能にする事業環境も良好。それを投資家の皆さんにご理解いただき、認識を変えていただきたいですね。御社の今後の展開に期待したいと思います。
本日は長時間にわたり、興味深いお話をお聞かせいだだき有難うございました。高橋社長と第一カッター興業株式会社の益々のご活躍とご発展をお祈り申し上げます。

 

6.今後の注目点

同社は役員の世襲を禁止しており、役員の子息は入社すらしていないと言う。入社すると、工事課からスタートし、活躍次第で役員や管理職に。誰にでもチャンスを与える事が、同社始まって以来の伝統だ。また、同社のコンクリートを部分的に切り取れる技術は、大きな可能性を秘めている、というのが同社の考え。分かりにくい技術を扱っているが、だからこそ独自の地位を確立していると言う。

 

一風変わったと言ったら失礼かもしれないが、そんな同社の技術と相性がいいのが、インフラの維持補修。高速道路をはじめとしたコンクリート構造物の老朽化対策、耐震化は急務であり、電力・上下水道等のインフラも増強を必要としている。ただ、その一方で、周辺住民や環境、そして長寿命化をはかる構造物に配慮をした振動・騒音・粉じんの少ない環境に優しい工法が求められている。同社は業界のリーディングカンパニーとして、ダイヤモンド工法やウォータージェット工法といった特化した技術で時代の要請に応えている。国内の建設投資において、同社が強みを発揮する維持修繕工事が占める比率は年々高まっており、中長期的にも同社の業績見通しは明るい。課題は、人材の確保と育成であり、事業拡大のための前提条件となる。現在進行中の中期経営計画はこの課題解決に向けたもの。今後の展開に期待したい。

 

 

参考:コーポレート・ガバナンスについて

◎組織形態及び取締役、監査役の構成

組織形態

監査役会設置会社

取締役

5名、うち社外2名

監査役

3名、うち社外2名

 

◎コーポレート・ガバナンス報告書 (更新日:2019年10月07日)
基本的な考え方
当社は、お客様、株主、地域住民及び従業員等ステークホルダーと共存共栄できるコーポレート・ガバナンス体制を構築し、中長期的な企業価値の向上を図ることを重要な経営課題の一つとして認識しております。また、経営の透明性・健全性を確保するため社外監査役及び社外取締役を選任し、経営監視機能の強化を図っております。

 

<実施しない主な原則とその理由>
【原則1-4.政策保有株式】
当社は、原則として株式の政策保有を行なわない方針でございます。しかし、取引の内容・規模等を総合的に勘案し、安定的な取引関係の維持・強化を図ることが当社の企業価値の向上に資すると判断された場合には、取引先の株式を保有する場合もございます。保有する株式については、取締役会において毎年当社の企業価値向上に資するか否かを検証してまいります。検証の結果、保有の意義が認められない、あるいは薄れたと判断された場合は、適宜売却に向け手続きを進めることと致します。保有する株式の議決権行使については、当該会社の企業価値を毀損させるようなこと等がないかを検討のうえで議決権を行使します。

 

【原則5-1.株主との建設的な対話に関する方針】
当社は経営企画室をIR担当部署としております。株主や投資家に対しては、半期に一度決算説明会を開催するとともに、逐次個別面談等を実施しております。また当社は、株主や投資家との建設的な対話を促進するためには、当該株主・投資家との信頼関係の構築・維持が重要であり、そのために適切な情報開示を行うことが必要不可欠と認識しております。その認識を実践するため、法令に基づく開示以外にも、株主をはじめとするステークホルダーにとって重要と判断される情報(非財務情報も含む)を積極的に開示する等、経営戦略や経営状況について、当社ホームページを通じ、積極的に情報開示を行っております。
なお、株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針の策定及び開示については、今後の検討事項と致します。

 

<開示している主な原則>
原則3-1.情報開示の充実】
(ⅰ)当社の企業理念等を当社ホームページ、決算説明資料にて開示しております。
(ⅱ)コーポレート・ガバナンスの基本方針を当社ホームページ及びコーポレート・ガバナンスに関する報告書にて開示しております。
(ⅲ)取締役及び監査役の報酬等については、株主総会において決議された報酬総額の範囲内で、各役員の貢献度や業績を考慮した上で、今後の経営戦略を勘案し取締役会にて決定しております。
なお、上記内容については有価証券報告書にて開示しております。
(ⅳ)取締役及び監査役候補の指名を行うに当たっての方針・手続きについては、社内規程等で定めておりませんが、それぞれ豊富な経験と高い見識を有し、取締役・監査役の職務と責任を全うできる人材で、かつ人格に優れた者を候補者として選定し、取締役会にて決定しております。
(ⅴ)取締役・監査役候補者の選任理由を株主総会招集通知にて開示しております。

 

 

 

本レポートは情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を意図するものではありません。また、本レポートに記載されている情報及び見解は当社が公表されたデータに基づいて作成したものです。本レポートに掲載された情報は、当社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その正確性・完全性を全面的に保証するものではありません。当該情報や見解の正確性、完全性もしくは妥当性についても保証するものではなく、また責任を負うものではありません。本レポートに関する一切の権利は(株)インベストメントブリッジにあり、本レポートの内容等につきましては今後予告無く変更される場合があります。投資にあたっての決定は、ご自身の判断でなされますようお願い申しあげます。

Copyright(C) 2019 Investment Bridge Co.,Ltd. All Rights Reserved.

 

 

ブリッジレポート(第一カッター興業:1716)のバックナンバー及びブリッジサロン(IRセミナー)の内容は、www.bridge-salon.jp/ でご覧になれます。