ブリッジレポート
(3189) 株式会社ANAP

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ブリッジレポート:(3189)ANAP vol.15

(3189:JASDAQ) ANAP 企業HP
家髙 利康 社長
家髙 利康 社長

【ブリッジレポート vol.15】2018年8月期業績レポート
取材概要「再生プロジェクトを完了させ、大幅増益を実現した同社は、今期から「攻め」のフェーズに入っており、短期的には四半期ごとのトップラインの・・・」続きは本文をご覧ください。
2019年1月9日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社ANAP
社長
家髙 利康
所在地
東京都渋谷区神宮前2-31-16
決算期
8月末日
業種
小売業(商業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2017年8月 6,845 202 201 187
2016年8月 7,078 -60 -68 -20
2015年8月 8,115 -485 -459 -884
2014年8月 8,844 -480 -459 -386
2013年8月 8,590 402 621 261
株式情報(11/27現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
701円 4,540,661株 3,183百万円 15.5% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
6.00 0.9% 58.39円 12.0倍 404.55円 1.7倍
※株価は11/27終値。発行済株式数は直近期決算短信より(発行済株式数から自己株式を控除)。ROE、BPSは前期実績。
 
株式会社ANAPの2018年8月期決算概要、「再生プロジェクト」を完了させた家髙社長へのインタビューなどをご紹介します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
女性を主要顧客層とし、「ANAP」ブランドを中心としたカジュアルファッションを提供。常にお客様目線を大切にし、おしゃれを楽しみたい女性のニーズに応えるため、欲しいものが手頃な価格でいつでも手に入る、ファッションを「オンタイム」で楽しめる「現在(いま)」を提案することを企業理念として掲げている。「ブランド認知度の高さ」、「オンラインショッピングサイトの販売力」も大きな強み。「SS(春夏)ブランドからの脱却」、「フルシーズン型ブランドへの進化」を目指している。AIを利用した作業効率向上と外販による事業展開にも取り組んでいる。
 
1992年、現 取締役会長の中島 篤三氏が「株式会社エイ・エヌアートプランニング」を設立し、小売業をベースとしたマーケット・イン型企業として店舗を展開。個性的でリーズナブルな普段使いの衣料品を展開する「ANAP」は、ファッションに敏感な10代~20代の女性から高い支持を得る。
一方、当初より同社専務取締役であった現 代表取締役社長の家髙 利康氏が運営する「株式会社ヤタカ・インコーポレーテッド」は、製造・卸によるプロダクト・アウト型企業として自社ブランドを展開していたが、フランチャイズとして「ANAP」ブランドの販売にも参画し、フランチャイズ11店舗を出店。両社は緊密な協力関係を構築していった。
両氏ともにファッション業界を取り巻く時代の変化を感じる中、お互いの強みを融合させることにより強力なシナジー効果を追求することができ、それが今まで以上に顧客目線を重視した経営に繋がると判断し、2006年8月、両社は合併。翌2007年、社名を現在の「株式会社ANAP」に変更した。

「ANAP」をメインブランドとしながら、コンセプトの異なる多種多彩なサブブランドを展開して、幅広い顧客ニーズをとらえると共に、原宿、渋谷など首都圏を起点としつつ、イオンモールなど大型ショッピングモールへの出店も進めて全国へ店舗を展開。
2002年1月には独自の自社ブランド販売サイト「ANAPオンラインショップ」を開設するなど、業界の中でもインターネット販売にいち早く着手し、2013年9月には、(株)スタートトゥデイ(東証1部、3092)が運営するアパレル専門ネット通販「ZOZOTOWN」への出店も開始。2013年11月、東京証券取引所JASDAQ市場に上場した。
 
【企業理念など】
企業理念として以下のコンセプトを掲げている。
 
常にお客様目線を大切にし、おしゃれを楽しみたい女性のニーズに応えるため、欲しいものが手頃な価格でいつでも手に入る、ファッションを「オンタイム」で楽しめる「現在(いま)」を提案します。
(同社HPより)
 
【市場環境】
同社の主要顧客層は、以前は10代~20代の女性であったが、最近はエイジレスの女性となっている。同社の調べによれば、アパレル業界においては市場全体の約6割強を占める婦人服市場に属している。
また、婦人服の販売チャネルでは、百貨店が下降傾向にあるのに対し、専門店、ネット販売等が上昇傾向にあり、今後もインターネットを通じた販売の比率(EC化率)も上昇が予想されている。
こうしたことから、同社では後述するように、インターネット販売の売上構成比の拡大を目指して様々な取り組みを進めている。
 
【事業内容】
メインブランド「ANAP」を中心に、リーズナブルにおしゃれを楽しみたいという、多様なニーズをとらえるため、幅広い年齢層から支持されている全国ブランド、定番もの、流行もの、個性的アイテムまでコンセプトの異なるサブブランドを数多く展開している。豊富なアイテム数とリーズナブルな価格設定が特長となっている。
近年は新しい年齢層のKIDSやGIRLに注力しながら、アクセサリーやバック、小物類についてもブランドとして扱っている。2018年8月末現在、ANAPを始めとした16の主要ブランドを展開。これを店舗、インターネット、卸の3形態で販売している。
 
 
(1)インターネット販売事業
「2018年8月期 売上高 3,686百万円(売上構成比 55.6%)、セグメント利益 452百万円」
業界に先駆けて2002年1月より「ANAPオンラインショップ」としてANAPブランドのショッピングサイトの運営を開始した。2018年8月末の会員数は約100万人。
常時豊富な自社商品を品揃えしつつ、ANAPカラーを全面に押し出したPOPなデザインのサイトで、ターゲットとする年代層が興味を持つ音楽や映画等の海外エンターテイメント情報を提供している。
ファッション雑誌を見ているかのような感覚や、ウィンドウショッピングを楽しんでいるかのような感覚になれることを意識して、掲載商品をコーディネートし、顧客が自ら着用した姿をイメージしやすくするといったサイト作りに力を入れている。
 
 
同サイトはいわゆるセレクト型のインターネットショッピングサイトとは異なり、システムに詳しい家髙社長自らが深く関わり自社開発したシステムによって構築されたサイトである点が大きな特徴となっている。
受注管理、売上管理、在庫管理、購入分析などを自社で一元的に管理している他、自社開発であるため、新たな機能の追加や従来機能の改善が容易であるというメリットがある。例えば、オンラインショップ担当スタッフが発案した顧客に楽しんでもらうためのアイディアや、顧客からのリクエスト等を即座にサイト上に反映して表現することができる。同社の商品戦略を機動的に実現する重要な仕組みとなっている。

同サイトにアクセスしてみると、例えば、「期間限定の均一セール」、「会員限定の送料無料キャンペーン」といったイベントが行われていることが分かるが、その内容は随時、極論すればアクセスの度に異なっており、その動的コンテンツのためにユーザーにとって魅力的なWebsiteとなっている。
こうした仕組みも自社開発したシステムによる自動プログラミングで実行されているため、極めて効率的にキャンペーンを展開することが出来るようになっている。

また、消費者のユーザビリティーを常に考慮し、使用デバイスとしてもPC、携帯を経ていち早くスマートフォン、タブレットへの対応も進めてきた。スマートフォンではデータ量の大きい画像への対応が必須だが、クラウドの利用などでこの課題をクリア。この結果、スマホ・タブレット受注割合は2018年8月期で90%超と極めて高い。

同社では中期的な経営目標として「インターネット販売事業の売上構成比60%超」を掲げている。18年8月期実績は55.6%。

そのためには自社サイトのみでなく様々なサイトに多くのアイテムを出品する必要があるとの考えから、(株)スタートトゥデイが運営するアパレル専門ネット通販「ZOZOTOWN」、ネット通販大手「Amazon」、クルーズ株式会社が運営するファストファッションサイト「SHOPLIST.com by CROOZ」など他社サイトでの商品販売にも力を入れている。
また15年にわたり蓄積してきた豊富なデータを活かし、AI(人工知能)を利用した革新的なウェブサイトの開発・運営による更なる事業成長を目指している。
 
(2)店舗販売事業
「2018年8月期 売上高 2,675百万円(売上構成比 40.4%)、セグメント利益215百万円」
「ANAP」とそのサブブランド等からなるANAPブランドの主要な販売チャネルとして原宿等に位置する路面の旗艦店舗、各地のファッションビルおよび郊外に位置する大型ショッピングモールへの出店など、全国に32店舗を展開している。(2018年8月末現在)

店舗販売の不振から再生プロジェクトにおいて不採算店の整理を推進してきたが、「顧客にANAPブランドの魅力を実感してもらうためのチャネル」、「市場動向、流行、顧客ニーズを掴むためのアンテナ」、「インターネット販売への導線」としての重要性、位置づけに変わりはないため、条件を精査した上での新規出店も再度進めて行く。
 
 
 
(3)卸売販売事業
「2018年8月期 売上高 216百万円(売上構成比 3.3%)、セグメント損失 13百万円」
全国のセレクトショップ向けに卸売販売を行っている。「ANAP」の各ブランドは他社バイヤーに対しセレクト商品を納品し、「Factor =」、「AULI」のブランドについては展示会受注によって商品を納品している。
 
 
2018年8月期決算概要
 
 
減収も利益確保を優先し大幅な増益。再生プロジェクトは概ね完了。
売上高は前年同期比3.2%減の66億27百万円。店舗販売事業では前期以前の退店による減少以上に既存店舗が好調に推移したが、インターネット販売事業は、自社ブランドイメージの毀損を回避するため他社アパレルのEC強化の値引き合戦に積極的に参入しない方針の下、粗利益確保を優先したため全社でも減収となった。
ただ、徹底した原価率低減や正規販売推進を中心とした16年8月期より取り組んできた再生プロジェクト効果により粗利率は4.7ポイントと大きく改善したことから大幅な増益となり、利益は計画も上回った。これに伴い18年8月期の配当予想を5円/株から6円/株に引き上げた。

「SS(春夏)ブランドからの脱却」、「AW(秋冬)にも対応したフルシーズン型ブランドへの脱却」を掲げた再生プロジェクトにおいて、若手デザイナーへの移行、コストパフォーマンスに優れファッション性に優れた商品ラインアップの拡充などを進めてきた結果、上場後初めて上期(秋冬)での営業黒字を達成。季節リスク低減体制を確立し、再生プロジェクトは18年8月期をもってほぼ完了したと同社では考えている。
 
 
 
 
◎インターネット販売事業
自社ブランドイメージの毀損を回避するため、他社アパレルのEC強化の値引き合戦に積極的に参入しない方針の下、粗利益確保を優先したことで減収となった。粗利率は改善したが売上減を補うには至らず減益となった。
年間の売上高構成比は低下したが同業他社と比較して引き続き高いEC比率を実現している。
自社サイトの再強化(アクセス数およびCVR向上など)を目指し、2018年4月よりアプリのUI(ユーザーインターフェース)、UX(ユーザーエクスペリエンス)の改善のための施策を本格的に開始した。
 
 
また、販売機会の増大を図りANAPオンラインショップに同社ブランドと親和性の高い他社ブランドの誘致も開始。
前期は6ブランドの取扱いを開始した。
 
 
◎店舗販売事業
前期末より10店舗退店した結果、店舗数は32店舗となった。前期以前の退店による減収以上に販売オペレーション再構築により既存店舗売上高が前期比23%増と好調だったため増収となり、退店店舗の経費圧縮効果もあり利益も大きく改善した。
 
 
不採算店舗の整理は前期をもって終了し、今後は優良なエリアへの出店を進める。
 
◎卸売販売事業
カジュアルファッション市場の低迷による既存取引先への販売が減少し減収・減益となった。
 
(3)財務状態とキャッシュ・フロー
 
現預金、売上債権、無形固定資産の増加などで資産合計は前期末比2億94百万円増加し29億3百万円となった。
長短借入金の減少で、負債合計は同84百万円減少し、10億55百万円となった。
利益剰余金の増加、新株予約権の行使による株式の発行などで純資産は同3億78百万円増加の18億48百万円。
この結果、自己資本比率は前期末より7.0%上昇し63.3%となった。
 
 
税引前当期純利益が改善したが、たな卸資産の適正化で営業CFのプラス幅は縮小。定期預金の担保解除による収入により投資CFはプラスに転じ、フリーCFのプラス幅は拡大した。
財務CFのマイナス幅は縮小。
増加したキャッシュを活用し、今期は投資段階へ移行する予定である。
 
(4)トピックス
◎中国本土への越境ECを開始
2018年5月より、海外への本格的な展開の第一弾として、中国本土の「ANAP」の認知度を高めるために、中国本土への越境ECを開始した。

(概要)
中国最大級のECショップ「vip.com」(運営:VIPSHOP HOLDINGS LTD)で、中国個人消費者向けに商品を販売する。
同サイトは中国最大級の自社ECサイトで、フラッシュセールスのビジネスモデルで急速に成長し、各業界の人気ブランドメーカーと提携し、ファッション、化粧品、ベビー関連用品、インテリア等を常に手頃な価格で商品展開している。運営会社であるVIPSHOP HOLDINGS LTDはNY証券取引所上場企業。
 
 
◎自己株式の取得
自己株式を駆使したM&Aなど、経営環境の変化に対応した機動的な資本政策及び株主価値向上に向けた施策を行う可能性があるため、18年10月10日開催の取締役会において自己株式の取得を決議し、以下のとおり実施した。

買付期間:2018年10月11日~2018年10月29日まで(約定ベース)
買付株式の種類:普通株式
買付株式数:25万株(自己株式を除いた発行済株式総数の5.51%)
買付総額:約206百万円(決議した上限3億円)
 
◎株主優待制度を拡充
より多くの株主が利用しやすい優待内容とし、同社株式の投資魅力を高めることを目的に、株主優待制度を拡充することとした。

現在は毎年8月末の株主を対象に下記のように所有株式数に応じて、優待割引券を贈呈。株主はこれを利用して通販サイト「ANAPオンラインショップ」で販売されている商品を5,000円以上購入の場合、30%割引で購入することができる。(割引対象商品の上限金額は10万円)
 
 
これに加え18年8月末から新たに、所有株式100株以上の株主に、iTunesカード3,000円分を贈呈することとした。
 
 
2019年8月期業績予想
 
 
増収も先行投資期間と位置付け利益はほぼ横ばい。
再生プロジェクトがほぼ完了したが、不採算事業の縮小や経営効率化により売上高は減少傾向にあり、成長のためには更なる投資が必要と考えている。
売上高は前期比7.2%増の71億7百万円を見込むが、今期は先行投資の初年度と位置付けているため営業利益は微増、経常利益は減益の予想である。
配当は前期と同じく6円/株を予定。予想配当性向は10.3%。
 
 
今後の取り組み
 
再生プロジェクトを完了させ「フルシーズン型ブランドへの進化」への目途をつけた同社の今後の成長を支える大きな柱が17年9月に設立した連結子会社(株)ATLABである。
 
((株)ATLAB概要)
EC総合コンサルティング、EC総合運用サービス、システム開発を手掛ける同社の山本社長は、東京工業大学卒業、金融機関で法人営業やM&A業務に従事した後2007年にネットベンチャーを創業。その後ネット企業数社の事業立ち上げなどを経て、2018年に(株)ATLABの代表取締役に就任した。

(株)ATLABは、主としてEC事業者に対する「EC立ち上げ支援」、「EC業務効率化支援」のほか、顧客企業向けに「さ・さ・げ(ECサイトにおける重要な作業である商品の撮影・採寸・原稿作成)」を行っている。

こうした事業の中で、今後最も注力していく事業分野が、(株)GAUSSとの協業によるAIを活用した業務効率化システムの開発・販売である。
 
(ファッションEC販売向けのタグ付け業務効率化システム「ATS(Auto Tagging System)」)
株式会社ATLABと、AIパッケージ開発、AI受託開発、人工知能研究に取り組んでいるAIスタートアップで、その最先端AI技術は大手電機メーカーからも高く評価されており、実践的なビジネスへの応用力も高い株式会社GAUSSは、画像および自然言語を人工知能(AI)活用して解析し、類似の商品画像から自動的に最適なタグを抽出および付与するシステムである「ATS(Auto Tagging System)」を開発し、2017年10月末より「ANAPオンラインショップ」で試験運用を進めている。

*共同開発した技術の特徴
ファッション領域に特化して両社が共同開発したAIは3つの特徴がある。
① 画像特徴量を解析して類似ファッションアイテムを検索(深層学習)
② 流行のファッション用語を解析して画像に最適なタグを提案(強化学習)
③ ファッションアイテムの商品説明文とタグを自動生成(自然言語処理)
この特徴を活かしてアパレルにおける業務効率を飛躍的に改善させるのが「ATS」であり、アルゴリズムについては特許出願を準備中である。
 
 
*導入効果
通常オンラインストア運営では、新商品をモデルやマネキンに着せて写真を撮影したのち、商品ごとに検索ワード付きの説明文を人間が作成する。
これに対してATSでは、商品を撮影すればその画像特徴量で類似の画像から最適な説明文とタグを自動生成する。
タグ付にかかる時間を1型当たり作業時間10分とすると、同社における2016年度の取り扱い型数は15,500型であったので、年間作業時間は2,583時間であり、大幅な作業時間短縮を見込むことができると同社では考えている。
また、AIですでに販売されている類似製品の説明文やオンラインサービスで実際に検索されたワードからタグを自動抽出して最適なタグを提案することも可能で、検索エンジンからの消費者の流入数や検索ワードのヒット率の向上を通じた、EC売上増加を見込むことができる。

*今後の展開
当初は18年春より外販を開始する計画であったが、より総合的なシステムとして完成させたほうが大きな需要を取り込むことができると判断し、現在はANAPにおける試験運用の最終フェーズが進行中。
今期中の外販開始を計画している。
 
 
家髙社長へのインタビュー
 
再生プロジェクトを完了させた家髙社長に自己評価、今後の取り組みなどを伺った。
 
Q:「『再生プロジェクト』についての自己評価をお聞かせいただけますか?」
A:「店舗及びインターネットにおける販売オペレーションの再構築を進めるとともに、従来通り春夏の強さは残しつつ、秋冬にも対応した「フルシーズン型ブランドへの進化」を目指した「再生プロジェクト」は当社にとっては大きなチャレンジだったが、大きな成果を残して概ね完了させることが出来た。手前味噌ではあるが合格点を付けていいのではないかと思う。」
店舗及びインターネットにおける販売オペレーションの再構築を進めるとともに、従来通り春夏の強さは残しつつ、秋冬にも対応した「フルシーズン型ブランドへの進化」を目指した「再生プロジェクト」は当社にとっては大きなチャレンジだったが、大きな成果を残して概ね完了させることが出来た。

まず店舗販売事業においては不採算店の整理とともに、売れる店舗づくりなどを進めたことにより、退店店舗の経費圧縮、 既存店舗の売上高増加で収益性は大幅に改善した。

次にインターネット販売事業では、オンラインショップ開発や運営の大幅な見直しを行い、UI(User Interface)、UX (User Experience)の改善によるユーザビリティーの向上、ポイント共通化、アプリ等の改善によるCRM(Customer Relationship Management)の強化、決済手段の充実等による自社サイトの再強化を図った。
また、ブランドイメージの毀損を回避するため、他社アパレルが展開する値引き合戦には積極的に参入しない方針のもと、粗利益確保を優先した。

重要なポイントであった商品構成の見直しも、若手デザイナーへの代変わりがスムーズに進み、コストパフォーマンスおよびファッション性に優れた商品ラインアップを拡充させることができた。

これらの相乗効果により、前々期は損失から黒字転換、前期は減収ながらも大幅な増益となり、季節変動、天候不順のリスクを最小化する体制を確立したことで、上場後初めて秋冬での黒字化を達成することもできた。

このように約2年をかけて推進した「再生プロジェクト」について、手前味噌ではあるが合格点を付けていいのではないかと思っている。
 
Q:「では今後の取り組みについてお聞かせください。」
A:「再生プロジェクトを概ね完了させた今期からは、各事業とも再び成長を追求した「攻め」のフェーズに入っていく。」
「再生プロジェクト」を概ね完了させた今期からは、再び成長を追求した「攻め」のフェーズに入っていく。

インターネット販売事業においては、前期から自社プラットフォーム「ANAPオンラインショップ」に当社ブランドと親和性の高い他社ブランド「Dickies」をはじめとする6ブランドを誘致し、相乗効果を図っているが、いずれも堅調に推移していることから、今後も積極的に誘致を進める。
また、2018年5月からは中国大手の越境ECサイトVipshop.com(唯品会)に出店しているが、今後は他の海外サイトへも出店を計画しており、中国をはじめとした海外でのブランド認知度向上を図っていく。
上場当時25%前後だったEC比率は現在約60%に達している。

不採算店舗の整理が終了した店舗販売事業においては、「顧客にANAPブランドの魅力を実感してもらうためのチャネル」、「市場動向、流行、顧客ニーズを掴むためのアンテナ」、「インターネット販売への導線」としての店舗の重要性、位置づけに変わりはないため、条件を精査した上で、優良なエリアへの新規出店も再開する。
 
Q:「前期より注力しているAIの積極活用、アライアンス等について改めて詳しくお話を伺いたいと思います。」
A:「アパレル業界におけるシステム化が重要と考え、EC新規立ち上げ支援、EC業務効率化支援、ささげ(撮影、採寸、原稿)効率化を行う子会社ATLABを設立した。またAI開発のプロフェッショナル集団である株式会社GAUSSと共同開発という形でさまざまなプロダクトを開発し、社内だけでなく外部向けにも積極的に販売する考えだ。」
当社はアパレル業界では極めて珍しく理系人材を積極採用しているのだが、これは、人手に頼る部分が極めて多いアパレル業界は他業種と同様に人に依存しないシステム化を図っていかないと時代に取り残されることは間違いなく、優秀な理系の人材確保が急務と考えているからだ。

このために2017年9月、株式会社ATLABを設立し、2018年5月には成長を加速させるべく新代表としてシステムを熟知しネットビジネスの経験豊富な山本雄貴を招聘した。
ATLABでは、アパレル業界においてますます主流となるEC(電子商取引)化の流れをうけ、「EC新規立ち上げ支援」、「EC業務効率化支援」、「ささげ(撮影、採寸、原稿)効率化」という3つの事業展開を考えている。

「EC新規立ち上げ支援」に関しては、ECサイトを立ち上げて商売をしたいというお客様といっしょにゼロベースからサイトやシステムの開発を行い、その運用もお手伝いする。
「EC業務効率化支援」は、これまで「ANAPオンラインショップ」で行ってきた事業であるが、ECの現場業務効率化を図ることで利益率の改善、オンラインショップの売上拡大を目指していく。
「ささげ(撮影、採寸、原稿)効率化」に関しては、撮影した画像をAIで画像認識し、タイトル、説明文および検索ワードを自動生成させることで業務効率化を実現する。これまで人間が手作業で行ってきたことをAIに自動化させることで、コストダウンも含め合理化・効率化を図る。「ささげ」に関しては外部販売も視野に入れており、ほぼ全てのアパレルメーカーが人手不足に悩む中、何百億円規模の大きな市場となる可能性があると見ている。

また、「EC新規立ち上げ支援」、「EC業務効率化支援」に関しては、当社出資先でAI開発のプロフェッショナル集団である株式会社GAUSSと共同開発によってさまざまなプロダクトを開発し、社内だけでなく外部向けにも積極的に販売する考えだ。
現在は需要予測に先立ち、作った製品の配分予測を行うシステムを開発中で、具体的には、「どの商品をどこの店舗に置いたら一番売れるのか」という在庫配分をAIが判断するという、これまでの人手に頼った在庫配分における課題を抜本的に解決するシステムである。
まずは当社において実店舗、他社ECサイト、自社サイトにおける在庫配分の適正化をAIに行わせることに取り組んでいる。要は数値化できることに特化しようということだ。
ただ、これは実店舗に加え、自社サイト、他社サイトと幅広い販路を展開している当社だからこそ集めることができるビッグデータがあって初めて効果を発揮するシステムであり、その意味で当社の膨大なデータ量は極めて強力な競争優位性となる。
旧態依然のアパレル業界にあって、当社のようにITに強い子会社を持つことは、企業の競争力という観点から非常に重要な要素となっていくだろう。
まずはこのシステムの構築を進め、中長期的にはアパレル業界にとどまることなく事業フィールドを拡大させていく。
 
Q:「では最後に株主・投資家へのメッセージをお願いいたします。」
A:「これまでは構造改革を優先し先行投資を自粛しておりましたが、再び成長を追求すべく、インターネット販売事業の更なる強化、有望エリアでの新規出店再開、ATLABにおける技術者の採用、株式会社GAUSSとのシステム共同開発など積極的に先行投資を行い飛躍の足がかりとしていきたいと考えています。」
当社はジャスダック市場に上場した2014年8月期以降3年間連続して赤字計上と、株主や投資家の皆様に大変ご心配をおかけしました。その後、継続的に事業戦略の見直しを図りながら「再生プロジェクト」として構造改革を進めた結果、先程も述べました通り、前々期は損失から黒字転換、前期は減収ながらも大幅な増益となり、季節変動、天候不順のリスクを最小化する体制を確立したことで、上場後初めて秋冬での黒字化を達成することもできました。

これまでは構造改革を優先し先行投資を自粛しておりましたが、再び成長を追求すべく、インターネット販売事業の更なる強化、有望エリアでの新規出店再開、ATLABにおける技術者の採用、株式会社GAUSSとのシステム共同開発など積極的に先行投資を行い飛躍の足がかりとしていきたいと考えています。
株主、投資家の皆様には引き続き中長期の視点で是非当社を応援していただきたいと思います。
 
 
今後の注目点
再生プロジェクトを完了させ、大幅増益を実現した同社は、今期から「攻め」のフェーズに入っており、短期的には四半期ごとのトップラインの動向を、中期的にはどのタイミングで投資フェーズから回収フェーズに移行していくのかを注目したい。
 
 
 
 
 
<参考:コーポレートガバナンスについて>
 
 
◎コーポレートガバナンス報告書
最新更新日:2017年12月7日
JASDAQ上場企業として、「当社はコーポレートガバナンス・コードの基本原則に則り、実施しております。」と記している。