祖業である繊維事業の技術を活用して日本で初めてグラスファイバーの工業化に成功。糸の製造からガラスクロス加工、複合材料の開発まで一貫して行うことで、電子材料、産業資材など幅広い分野に製品を提供している。
なかでも、独自技術で製造するミクロン単位のガラス糸で織る超極薄ガラスクロスは、小型・軽量・高機能化が進むパソコンやスマートフォンなどの電子機器の精密基材として使用され、高い競争力を有している。
また、ライフサイエンス事業における「体外診断用医薬品」は、日本国内では10を超える品目でトップシェアを獲得している。
【1-1 沿革】
1898年、福島県郡山に設立された「郡山絹糸紡績株式会社」が前身であり、120年の歴史を持つ。
1923年、1918年設立の福島紡織株式会社(旧 福島精練製糸株式会社)が片倉製糸岩代紡績所(旧 郡山絹糸紡績株式会社)を買収する形で日東紡績株式会社が創立される。
1938年には日本で初めてグラスファイバーの工業化(量産化)に成功。世界では米国のオーエンスコーニングファイバーグラス社が同時期に工業化を行っている。
1949年には日本で初めてグラスウールの製造を開始した。
1969年に繊維事業で培った技術を活かし、プリント配線基板用ガラスクロスの製造を開始したほか、1982年に血液凝固因子検査薬を製造開始、1983年に世界で初めて機能性ポリマー「PAA®」の工業化に成功するなど、新規分野へのチャレンジを続け、事業分野を拡大させてきた。
2023年4月の創立100周年に向け「長期ビジョン101」と中期経営計画「Go for Next 100」を策定、推進中である。
【1-2 経営理念】
『日東紡グループは「健康・快適な生活文化を創造する」企業集団として社会的存在価値を高め、豊かな社会の実現に貢献し続けます。』という経営理念を掲げている。
また、以下のような日東紡宣言において、全てのステークホルダーとの協働の下、社会の「ベストパートナー」となることを目指している。
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【1-3 事業内容】
(1)事業内容
衣料品を中心とした繊維製品の製造販売を行う「繊維事業」、ガラス繊維を用いた各種製品を製造販売する「グラスファイバー事業」、免疫系体外診断薬やスペシャリティケミカル製品の製造販売を行う「ライフサイエンス事業」の3つに大別される。
報告セグメントは、「グラスファイバー事業」を用途別に「原繊材事業」、「機能材事業」、「設備材事業」の3つに分類。「繊維事業」、「ライフサイエンス事業」と合わせた5セグメントで構成される。この他に、報告セグメントに含まれない不動産事業、サービス事業などからなる「その他」がある。
①繊維事業
ストレッチ素材の先駆けとなる二層構造糸「C・S・Y」(コア・スパン・ヤーン)や、高いシェアを誇るレディース向け接着芯地「ダンレーヌ」、2015年グッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞した「日東紡の新しいふきん」など、衣料に不可欠な糸から副資材、製品に至るまで、多様化する顧客のニーズに対して独自の技術を駆使した製品を提供している。
今後は、日東紡(中国)有限公司などの海外拠点と国内事業との一体運営を進め、開発力を強化して高付加価値化と顧客への訴求力向上を図る。
②グラスファイバー事業
日本で初めてグラスファイバーの工業化に成功し、現在では糸の製造から、ガラスクロス加工、複合材料の開発まで一貫して行い、幅広い分野に製品を提供している。
なかでもミクロン単位の超極薄ガラスクロスは小型・軽量・高機能化が進むスマートフォンなど電子機器の精密基材として使用されその品質は高い評価を受けている。
他にも住宅用断熱材などに使用するグラスウールの製造を日本で初めて開始し、断熱材のパイオニアとして高い独自技術を誇っている。特に、高性能グラスウールは高気密・高断熱住宅の断熱材として省エネ社会に貢献している。
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<グラスファイバーとは?>
ガラスを1,300℃以上の高温で溶かして引き延ばし、繊維状にしたもの。
日本では、同社が1938年に初めて工業化に成功し、その後急速な発展を遂げた。
強度、耐熱性、不燃性、電気絶縁性や耐薬品性などの特徴を持ち、建築資材、FRP(繊維強化プラスチック)、プリント配線基板用電気絶縁クロスなど様々な場面で用いられ、その優れた特性により幅広い産業で利用されている。
(組成・特性)
前述のように、強度、耐熱性、不燃性、電気絶縁性など特徴とするが、特に電子材料などの用途では、高強度、高弾性、低誘電などの性能がこれまで以上のレベルを求められている。
(製造方法)
ガラス原料を1,300~1,600℃の高温で溶融したのち、白金ノズルと呼ばれる専用の機械に通し、巻き取ることで糸状に成形する。高温度下における温度制御など、非常に精密なコントロール技術が必要とされる。
ガラスの素地を機械から高速で引き出したグラスファイバーの細さは、直径4~24マイクロメートル。(※人間の毛髪の細さは50~100マイクロメートル程度。)
紡糸されたグラスファイバーはそれぞれ用途に応じた製品形態に加工される。
(主な製品形態)
◎ヤーン
ヤーン(紡糸)には、同時に紡糸された数百本のフィラメントで構成されたストランドに一方向性の撚りをかけたものである単糸と、単糸を数本撚り合わせた合撚糸などがある。
主に4.0μmから7.4μmのフィラメントからなるストランドに撚りをかけた単糸である「Eガラスヤーン」は、電気絶縁性、耐熱性、引張強度、寸法安定性に優れプリント配線基板用として一般的に使われているほか、産業資材用としても、独自の表面処理技術により樹脂との相溶性が高く、作業性が良好な複合材料基材として評価が高い。
◎ガラスクロス
グラスファイバーのヤーンを織物にした(クロス状にした)ガラスクロスは、プリント配線基板のほか、制振材、テント膜、道路補強材など幅広い用途で用いられている。
中でもプリント配線基板や電子部品に用いられるガラスクロスは同社が世界に誇る主力製品である。
【プリント配線基板用ガラスクロス】
プリント配線基板とは、樹脂などの基盤本体表面に銅などの金属で細かい配線が形作られており、この配線上に抵抗やコンデンサ、ICチップなどの部品をハンダで固定して取り付けたもので、PC、スマートフォン、サーバ、医療機器、産業ロボット、自動車、航空機に至るまで、全ての電子機器の性能を左右する重要な部品。
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基板本体の絶縁体には、ガラスのほかポリエステルを始めとした樹脂など様々な材料が用いられているが、高絶縁性、高強度性、耐熱性、寸法安定性などの特徴を持つグラスファイバー(ガラスクロス)は、プリント配線基板材料に最も適した材料であるとされている。
デジタル技術の目覚しい発展に伴い、パソコン、スマートフォンに代表される電子機器の軽薄短小化、高機能化が進み、ガラスクロスに対する性能向上ニーズは益々高まっている。
そうしたニーズに対応し、同社は、ガラス組成開発とその繊維化技術および織物加工など独自技術を基に、一貫メーカーの強みを活かして「低誘電特性ガラスクロス(NEガラス)」、「低CTE特性ガラスクロス(Tガラス)」、「極薄ガラスクロス」などの高機能ガラスクロス製品を開発し、高いシェアを有している。
「低誘電特性ガラスクロス(NEガラス)」
コンピュータ、モバイル、通信インフラ等の高速・高周波化が進み、プリント配線基板には、伝送損失を改善する低誘電材料が求められている。
同社では、これを実現するために、従来の「Eガラス」に比べて、アルカリ土類成分(CaO、MgO)の成分比率を低く抑える一方で、ホウ酸(B2O3)の成分比率を高めることで、「Eガラス」と同等の特性をもちながら優れた低誘電率ならびに低誘電正接を実現した「NEガラス」を独自開発した。
主としてデータセンターや基地局サーバー用電子基板に用いられている。
「低CTE特性ガラスクロス(Tガラス)」
「Tガラス」は、標準品の「Eガラス」に比べて、シリカ(SiO2)とアルミナ(Al2O3)の成分比率を高めることで、ガラス繊維の持つ機械的・熱的性能を格段に高度化している。
その特長である低熱膨張特性及び高引張り弾性を利用して、優れた寸法安定性と剛性アップを実現し、高性能電子材料として主にスマートフォンなどに搭載される半導体パッケージ向け電子基板に用いられている。
また、炭素繊維やアラミド繊維などと同様に先端複合材料の補強材としても優れているため、航空、宇宙、スポーツ分野に単独または炭素繊維とのハイブリッド資材としても使用されている。
「極薄ガラスクロス」
プリント配線基板の高密度実装、軽薄短小化に対応するための材料として、より薄いガラスクロスの需要が高まっている。同社の極薄ガラスクロスは薄さに加え、レーザー、ドリル穴加工ともに微小径穴加工性に優れており、更に積層板としての寸法安定性、表面平滑性などにも優れている。
グラスファイバー事業内のセグメント別製品形態や用途は以下の通り。
③ライフサイエンス事業
メディカル事業部門と環境・ヘルス事業部門から構成されている。
メディカル事業部門は、血液検査や尿検査で使用される体外診断薬および機能性ポリマーを軸とするスペシャリティケミカルス製品の製造・販売を行っている。
健康診断や人間ドックで使用されている血液や尿などから健康状態を調べる「体外診断用医薬品」は、原料である抗血清から最終製品である診断薬までをグループ内で一貫製造することで、高品質と安定供給を両立している。
その品質の高さが評価され、世界中の医療現場で用いられており、日本国内では10を超える品目でトップシェアを獲得している。
スペシャリティケミカルス事業では、独自性の高い機能性ポリマー(ポリアリルアミン・ポリアミンシリーズ)の開発・販売を手掛けている。化成品・医薬品メーカーや研究機関等と一体となった研究開発、顧客ニーズを捉えた製品提案が特長であり、ニッチ市場に強く、日本国内に留まらずグローバル市場へも積極展開を進めている。
環境・ヘルス事業は、長年培ってきた技術を生かし、飲料事業を展開している。
飲料事業は、プライベートブランドを中心に、ペットボトルの成形から飲料の製造とボトリングまで行っている。
(2)研究開発
同社グループでは、創業以来、研究開発・技術開発を積極的に進め、数々の同社グループならではの製品を世の中に送り出してきた。
今後も研究開発が同社の競争力及び企業価値向上の源泉となる。
近年、顧客のニーズが益々高度化・多様化する一方、グローバルな競争は一段と激しくなっている中で、特色と強みを生かして、付加価値が高く独自性の強い商品・サービスをタイムリーに提供し、将来を見据えた研究開発・技術開発を進めるために2017年、総合研究所を設立した。
従来通り各事業部門において専門性の観点から研究開発・技術開発を深掘りしつつ、スピードを重視し、事業間シナジーの追求も見据え、総合研究所による全社横断的マネジメントにも取り組んでいく。
また、各分野において、研究スピードの向上と視野拡大のため、オープンイノベーションの観点から産官学共同研究なども積極的に進めている。
【1-4 特長と強み】
◎時代のニーズを的確にとらえて製品を供給
日本で初めてグラスファイバーの工業化に成功したほか、グラスウールの製造を日本で初めて開始したように、ガラス繊維の世界で常に日本及び世界をリードしてきた同社は、九十余年に亘る歴史の中で、常に世の中の変化やニーズを的確にとらえてグラスファイバーを中心に様々な製品を開発・供給してきた。
最終製品を製造しているわけではないので目に触れることはないが、世の中に欠くことのできない素材を供給し、我々の暮らしを陰で支えている。
◎独自技術による高い競争力
世界に多くのガラス繊維メーカーがある中で、電子材料用ガラスクロスにおいて優れた低誘電率ならびに低誘電正接(NEガラス)、高い寸法安定性と剛性アップ(Tガラス)を実現し、十分なボリュームを安定的に供給可能な体制を構築しているのはほぼ同社のみである。
また、メディカル事業部門の体外診断用医薬品において10を超える品目で国内トップシェアを獲得している事も、同社の独自技術による高い競争力を示している。
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20年度8%以上、23年度10%以上という目標を掲げている。
18/3期のROEは大きく上昇したが、これは当期純利益に固定資産売却益42億円の計上を行ったため。
高付加価値製品の販売拡大、原価低減の推進がカギとなろう。