ブリッジレポート
(7242) カヤバ株式会社

プライム

ブリッジレポート:(7242)KYB vol.4

(7242:東証1部) KYB 企業HP
中島 康輔 社長
中島 康輔 会長兼社長

【ブリッジレポート vol.4】2019年3月期第2四半期業績レポート
取材概要「売上構成比は1%にも満たない免震・制振用オイルダンパーであるが、業績の足を大きく引っ張る形となってしまった。今後の調査の進捗によって・・・」続きは本文をご覧ください。
2018年12月5日掲載
企業基本情報
企業名
KYB株式会社
社長
中島 康輔
所在地
東京都港区浜松町2-4-1 世界貿易センタービル
決算期
3月末日
業種
輸送用機器(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 税引前利益 当期純利益
2018年3月 392,394 20,885 20,881 15,202
2017年3月 355,316 19,247 18,852 14,544
2016年3月 355,320 4,327 2,825 -3,161
2015年3月 370,425 13,591 15,852 7,052
2014年3月 352,710 18,170 21,032 12,761
株式情報(11/28現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
2,860円 25,748,431株 73,640百万円 8.8% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
- - -90.04円 - 6,538.88円 0.4倍
※株価は11/28終値。発行済株式数、BPSは第2四半期実績。ROEは前期実績。
 
KYBの2019年3月期第2四半期決算概要などをお伝えします。
 
今回のポイント
 
 
免震・制振用オイルダンパー検査工程における不適切行為について
(概要) 2018年10月、KYBおよび子会社カヤバシステムマシナリー株式会社が製造・販売している免震・制振用オイルダンパーの一部について、性能検査記録の書き換え行為により、大臣認定の性能評価基準に適合していない、または、顧客の基準値を外れた製品を建築物に取り付けていた事実が判明した。 KYBとしては、不適合品および書き換えの有無が不明な製品は交換を基本方針として引き続き調査を進めていく。所有者、居住者等の不安・心配を払拭することを経営の最優先事項とし、具体的な対応方針等については、国土交通省及び関係行政機関の指導の下、建設会社、設計事務所に報告の上、安全性の検証を行い、所有者をはじめとする関係者に丁寧に説明していく考えだ。 (書き換え行為の内容) 通常、性能検査工程において基準値から外れた場合は、一旦分解し基準値に入るまで調整を実施するが、基準値から外れた値を書き換え、検査記録として提出していたというものである。 (判明の経緯、対応など) 2018年9月8日、カヤバシステムマシナリー株式会社において、同社従業員による性能検査記録データの書き換えの疑いがあるとの指摘を契機に社内調査を開始し、9月12日にはKYB 社内に対策本部を設置し、調査を開始した。 調査の結果、性能検査記録データの書き換えの事実があったとの結論に至り、国土交通省に対し9月19日に報告。 以降、対象製品及び対象物件の特定ならびに基準値から大きく乖離した物件の安全性検証のための構造計算を実施している。9月26日には外部調査委員会を設置し、より詳細な調査を開始した。 10月に入り、大臣認定の仕様とは異なった材質のピストンまたはパッキンが使用されていたことが判明し、国土交通省に報告している。 (書き換え行為の期間及び不適合品の対象物件数・対象製品数) 書き換えがなされた可能性が高いと考えられる期間は2003年1月から2018年9月の15年間強。 11月9日のリリースによれば、建築用の不適合品および不明の対象物件数及び対象製品数は、免震用オイルダンパーで894物件、7,537製品、制振用オイルダンパーで80物件、3,331製品となっている。性能検査記録のデータの書き換え有無が現状において確認できない製品については継続して調査中である。 ただ、11月15日のリリースによると、オイルダンパー検査工程で係数補正以外の不適切行為が行われていた疑いがあることが判明したため、不適合品・不明・適合品の判定および物件数、製品数が変更となる可能性があるという事だ。 (安全性の検証) 国土交通省の指示に基づき、不適合品の中でも特に基準値からの乖離が大きいオイルダンパーが使用されている7物件を選定し、第三者による安全性検証(構造計算)を実施したところ、震度6強から7程度の最大級の地震に対して十分耐え得る結果を確認した。 他の対象物件についても、建設会社、及び設計事務所の協力の下、構造計算による安全性の検証を開始している。 (今後の対応) 中島社長をトップとする社内対策本部を設置するとともに外部調査委員会を設置し、事実関係の調査、原因分析を進めていく。 安全性の検証を行った上で不適合品および書き換えの有無が不明な製品は、交換を基本方針として、所有者、居住者、建設会社、設計事務所等、関係者との十分な意見交換や調整の上、対応を図っていく。 関係者への説明やお詫び、コンプライアンス体制の構築・強化・徹底と並行して、交換のために11月からはオイルダンパー増産体制(月産100本から500本へ)の構築に取り掛かる。12月からは生産・交換を開始するが、現在把握している物件数を前提とすると交換品の生産は2020年9月までかかる見込みである。 (業績への影響) 本件に関する製品保証引当金として、2018年度第2四半期に144億25百万円を費用計上した。 この金額は前述の不適合および不明分を合わせた10,928本(免震:7,550本、制振:3,378本、11月2日時点)をベースにした試算であり、今後の進捗により、交換用製品の交換工事に要する費用、交換工事の実施に伴って発生する補償等の付随費用について信頼性のある見積もりが可能となった時点でKYBの業績に重要な影響を及ぼす可能性があると同社では認識している。
 
 
会社概要
独立系油圧機器国内最大手企業。油圧技術をベースに、「四輪車」、「二輪車」、「建設機械」、「産業車両」、「航空機」、「鉄道」、「特装車両」など幅広い分野で製品や技術を提供している。 四輪車用ショックアブソーバで国内シェア46%、グローバルシェア14%など、多くの製品で高いシェアを有する。 【2-1 沿革】 1919年11月に発明家であり創業者である萱場資郎が開設した「萱場発明研究所」がルーツ。 1927年1月に個人経営の萱場製作所を創業し、航空機用油圧緩衝脚、カタパルト等を製作した。 1935年3月に株式会社萱場製作所を創立。 第二次世界大戦終結後、1956年6月に製品の販売・サービスを目的に萱場オートサービス㈱を設立。 1959年10月には東京証券取引所に株式を上場した。 1974年7月、米国にKYB Corporation of Americaを設立し、北米の市販市場へ進出。この後、積極的にアジア、ヨーロッパなど海外市場へ進出する。 1985年10月に商号をカヤバ工業株式会社に変更。 2015年10月にはブランドイメージをより強固にすることを目的に、商号をカヤバ工業株式会社からKYB株式会社に変更した。 【2-2 企業理念・経営理念】 ◎ロゴ 2015年に商号を「カヤバ工業株式会社」から「KYB株式会社」に変更した意図にあるように、同社ではKYBブランドをグローバルベースでより強固なものとしたいと考えている。 そのため、下記のように「KYB」のロゴにもその意味、想いを込めている。 (ロゴに込めた意味) 心地よい日差しと植物の伸びやかな成長そして時代の風にしなやかに対応するイメージを表現しています。Bには液圧を象徴するデザインを付加し、斜体文字によりスピード感、先進性、成長性、革新性を表わしています。 (カラー) 愛、情熱、熱意等の意味を表わす「赤」。太陽の暖かさ、熱さと生命を育む力強さが時代を切り開くイメージを与えます。「KYBレッド」とお呼びください。 (同社WEBSITEより) ◎KYBブランドステートメント 精緻な品質や確かな技術という製品の特性をステートメントで表現している。 一般生活者や取引先へ確かな品質を提供することが、ステークホルダーの「Advantage(優位性)」につながるだけでなく、確かな品質によって社員の一人ひとりが世の中を変えていくことを実感できる、モノづくりの喜びが社員の「Advantage(長所)」ともなるという意味が込められている。 ◎経営理念 人々の暮らしを安全・快適にする技術や製品を提供し、社会に貢献するKYBグループとして、下記の経営理念、経営ビジョンを掲げている。 【2-3 同社を取り巻く環境】 (1)市場環境 同社の業績に大きな影響を及ぼすのは、自動車市場と建設機械市場。 同社では2市場の現在及び今後についてそれぞれ以下のように認識している。 ①自動車市場 自動車の世界需要は、東南アジアをはじめとした新興国が牽引し微増の見込み。 国内自動車販売は一定量の需要が見込めるが、米国との貿易赤字解消交渉の影響は不透明。 市販市場は新興国中心に拡大見込み。 同社は新車用ショックアブソーバ(SA)を、Tier1として自動車メーカーに直接供給しているほか、アフターマーケット向けにも代理店などを通じて部品商、修理工場などに供給している。 同社では前者を「OEM」、後者を「市販」と呼んでいる。 アジア、中東などでは日本車の人気が高く、市販市場は同社にとって重要なマーケットである。 ②建設機械市場 中国市場は、全国的なインフラ需要の高まりと更新需要により活況。 欧米市場は、都市型建機としてのミニショベル需要が好調。 インド市場はインフラ投資旺盛で成長持続。 6t以上のショベルカーは高需要が継続、6t未満に関しては堅調な市場拡大が続くと会社側では見ている。 (2)競合状況 ①AC事業 国内では、ホンダが33.4%の株式を保有するショーワ(7274、東証1部)、日立のグループ会社である日立オートモーティブ(非上場)などが競合となる。 グローバルでは独・Sachs、米・Tennecoなど。Sachs社は歴史も古く、欧州系自動車メーカーとの関係が深い。 市販市場の同社シェアは約2割弱。国内ではトキコ(日立製作所がM&Aし非上場。現在は日立オートモーティブの一ブランド)、グローバルではMonroe(Tennecoの市販ブランド)など。 二輪車用ショックアブソーバではホンダとの関係が深いショーワ、ステアリングではジェイテクト(6473、東証1部)、日本精工(6471、東証1部)等と競っている。 ②HC事業 同社で最も売り上げ比率が高いパーツであるシリンダでは、中国メーカーなどが力を伸ばしている。 同社が高い技術力を有するコントロールバルブでは、ナブテスコ(6268、東証1部)など、走行モータではナブテスコ、不二越(6474、東証1部)などが競合である。 また日本の最大手建設機械メーカーは多くのパーツを内製化している。 【2-4 事業内容】 (1)セグメント 事業セグメントは四輪車用・二輪車用油圧緩衝器、パワーステアリング等で構成される「AC事業」、建設機械向けを中心とした産業用油圧機器からなる「HC事業」、コンクリートミキサ車など特装車両、航空機向け機器、免震・制振用オイルダンパー、電子機器などを取り扱う「その他」の3つ。 ①AC(オートモーティブコンポーネンツ)事業 四輪車用油圧緩衝器、二輪車用油圧緩衝器、四輪車用油圧機器、その他製品で構成されている。 <主要製品> ◎四輪車 (ショックアブソーバ) 車体の振動を吸収する役割を持つ製品で、スプリングを伴い、車体とタイヤの間に取り付けられている。 自動車には、乗り心地や操縦安定性を向上させる機構である「サスペンション」が搭載されている。 サスペンションの機能は主に路面の凹凸を車体に伝えない緩衝装置としての機能と、車輪、車軸の位置を決め、車輪を路面に対して押さえつける機能の2つがある。 基本的には、車軸の位置決めを行うサスペンションアーム、車重を支えて衝撃を吸収するスプリング、スプリングの振動を減衰するショックアブソーバ(ダンパ)で構成される。 自動車は路面の凸凹からくる衝撃に対しスプリングを縮めることで吸収するが、スプリングの特性上、一旦収縮したスプリングは元の位置に戻ろうと反発する。 特にスプリングの上端にはボディー、下端には重量のあるタイヤやブレーキなどを含むサスペンションがつながっており、スプリングは慣性力により元の位置に戻る以上に伸び、縮みを繰り返してしまう。 この余分な揺れをできるだけ早く抑え、車体を安定させるのがショックアブソーバの役割である。 ショックアブソーバが適切に機能している車両は、 スプリングの無駄な動きを抑え、乗り心地を確保 ブレーキ性能が向上 コーナリングがスムーズ など、快適な運転を実現することができる。 スプリングの縮みや伸びの作動を制御し、振動を抑える働きをする力のことを「減衰力」というが、この「減衰力」を作り出すのに大きな役割を果たしているのが、同社が創業以来培い、磨き上げてきた「油圧技術」である。 ショックアブソーバ本体筒にはオイルが入っていて、その筒の中をピストンが移動する。 ピストンには穴があけられており、揺れと合わせピストンが移動する時に穴を通過するオイルの抵抗が「減衰力」となる。また、車体の揺れの度合い、速さなどによりピストンが移動するスピードが変化するが、ピストン移動速度が速いほど「減衰力」は大きくなる。これを「減衰力特性」という。 優れた技術に支えられた同社のショックアブソーバは世界中の多くの自動車メーカーに評価され、後述するように高いシェアに繋がっている。 また、ショックアブソーバは走行距離や経年により劣化し、その機能が低下するため、通常は初年度登録から5年以上、または走行距離10万km以上で交換が必要と言われている。 この交換需要=市販市場も同社にとっては大きな事業機会となっている。 (ステアリング) 自動車の「走る」、「曲がる」、「止まる」という基本機能の一つの「曲がる機能」を分担するのがステアリング装置。 ドライバーが行うハンドルの回転を、油圧式のパワーアシストユニットでサポートし、タイヤを操舵する「油圧式ステアリング(PS)」と、ハンドルの回転を、モータ、コントローラ、トルクセンサ等からなる電動タイプのパワーアシストユニットでサポートし、タイヤを操舵する「電動ステアリング(EPS)」がある。 「PS」は、油圧の力により、わずかな操作でのステアリング操作が可能で、危険回避にも素早く対応できるなど安全運転に不可欠な装備。 一方、バッテリーを動力源とした「EPS」電動タイプは、自動車のエンジンを動力源とした「PS」に比べ、自動車の燃費を向上させることができる。 ◎二輪車 (サスペンション) 路面のコンディションを問わず、車体への突き上げを最小化させ、快適性を追求している。 *リアクッションユニット 車体の姿勢を保ち、路面からの振動、衝撃を吸収することで乗り心地を向上させる。 ②HC(ハイドロリックコンポーネンツ)事業 産業用油圧機器、その他製品から構成されている。 <主要製品> ショベルカーなど建設機械の駆動系機構は、下の図にあるようにコントロールバルブ、ピストンポンプ、走行モータ、旋回モータ、シリンダなどの各パーツで構成されているが、各種アクチュエータ(油圧や電動モータによって,エネルギーを並進または回転運動に変換する駆動装置)を制御し、走行、旋回、アームの屈伸などの動作をスムーズに行うのが、建設機械の「頭脳」であるコントロールバルブ。 同社のコントロールバルブは、お家芸の油圧技術に電気制御を組み合わせることにより高度な制御を可能としている。 また、同社はこれらのパーツを全て製造している数少ないメーカーである。 全てのパーツを自社で製造しているため、建機メーカーに対してシステム提案ができる点が、同社の大きな競争優位性となっている。 ③特装システム等(システム製品及びその他の合計) 特装車両、航空機用油圧機器、システム製品、電子機器などから構成される。 コンクリートミキサ車は、高い混錬、排出性能を誇り、国内シェアは約85%を占めている。 航空機においては、各種アクチュエータ、軽量化アキュムレータ、ホイールブレーキなど、信頼性の高い製品を提供している。 (2)顧客・商流 ◎顧客 主要顧客は以下の通り。 このうち、グローバルベースでトヨタ製自動車の約6割には同社のショックアブソーバが搭載されているほか、日産で約3割、ホンダで約1割など、高いシェアを誇っている。 ◎商流 前述のように、新車向けOEMと、中古車向け市販という2つの商流でショックアブソーバの供給を行っている。 売上高はOEMの方が大きいものの、自社ブランドで販売をしている市販用製品は収益性も高く、同社としては今後もグローバルに拡大を狙う市場である。 同社の市販用ショックアブソーバは現在世界を走行している日米欧自動車の約9割に搭載が可能である。 このカバー率の高さを支えているのが、トヨタをはじめとした大手自動車メーカーとの強固な関係だ。 (3)グローバルネットワーク 日本を含む24か国にグループ会社48を有し、強固なグローバルネットワークを構築している。 (4)研究開発 (体制) 日本、北米、欧州、中国、タイの5極に開発拠点を設け、グローバルな最適開発・生産体制を確立している。 日本以外の開発拠点は基本的には、モデル製品の開発、性能向上・低コスト化など商品力向上のための開発を手掛け、長期的視点に立った研究開発は日本において、基礎技術研究所(神奈川県相模原市)、生産技術研究所(岐阜県可児市)2つの技術研究所を中心に取り組んでおり、独創性に優れた先行技術等の研究開発を行っている。 また、工機センター(岐阜県可児市)に生産技術研究所や各工場で培われた生産設備設計のノウハウを集約し、先進性および信頼性の向上を図った設備、治工具の内製化を強化・推進している。 また、電子技術センター(神奈川県相模原市)では、電子機器の設計・評価技術の集約を行い、開発力を高め、製品開発から試作評価、そして量産までがスムーズかつスピーディーに実施できるような体制を整えている。 製品の高機能化・システム化については、独自開発のほかに、顧客あるいは関連機器メーカーとの共同研究開発を推進しており、産学交流による先端技術開発にも積極的に取り組んでいる。 (R&D費推移) 13年3月期以降、売上高に対するR&D費の水準についての意識を高め、現在は2%程度で推移している。 (注力分野) 性能向上、高機能化・システム化への対応や軽量化・省エネ・環境負荷物質削減などエネルギーや環境問題に配慮した製品開発を進めているが、生産技術力の強化も図っている。 また、グローバル化の加速に伴い、国際感覚を身につけた人財の育成や、標準化されたマネジメントシステムの構築を含めた戦略的なグローバル生産・販売・技術体制の完成を目指している。 近年特に力を入れているのが自動運転に関連した製品開発だ。 その一つが、EPS(電子ステアリング)とショックアブソーバの統合技術。 ドライバーの技量や判断にかかわりなく、様々な路面状況でも自動的により快適、スムーズな運転を可能にする技術は自動運転車には絶対に不可欠なものと考えている。 また、「ステアリング・バイ・ワイヤ」も今後重要性が増大する技術であるとみている。 通常はステアリング操作はステアリングシャフトを通じステアリングギアボックス、タイヤへと伝達されるのに対し、 「ステアリング・バイ・ワイヤ」は、電子信号によってステアリングの操作を伝達するもの。 タイヤから伝わる振動が少ないので疲れにくく、強い横風が吹き、車体が左右に持っていかれた場合、今までのステアリングであれば運転手が意図してステアリングの操作により復元させなければならなかったが、「ステアリング・バイ・ワイヤ」であれば自動的にアジャストされるなどのメリットがある。それに加え、「ハンドルは右前」である必要がなく、デザイン、機能を含め自動車の在り方を大きく変える可能性に注目が集まっている。 実用化にはまだ課題が残るものの、独創的なEPS技術として更なるブラッシュアップを進めている。 【2-5 特長と強み】 ◎様々な製品で高いシェア 四輪用ショックアブソーバのOEM供給で国内シェア46%、グローバルシェア14%のほか、建設機械用油圧機器シリンダのグローバルシェア30%、コンクリートミキサ車国内シェア85%、免震・制振用オイルダンパー国内シェア45%など、多くの製品で高いシェアを有している。 ◎優れたコア技術 この高シェアは、世界最大手の地位をフォルクスワーゲンやGMと競っているトヨタ自動車における社内シェアがグローバルベースで約6割であることが示すように、同社製品に対する顧客の信頼度の高さによるものであり、この信頼のベースは創業時より100年という長い時間の中で培い、磨き上げてきた「油圧」についての優れた技術力に他ならない。 ショックアブソーバや免震・制振用オイルダンパーに代表される「振動制御技術」と、ショベルカーのコントロールバルブや電動パワーステアリングに代表される「パワー制御技術」の2つのコア技術が多くの顧客に高く評価され、様々な場面で広く用いられている。 【2-6 株主還元】 連結配当性向30%以上を目指しつつ、DOE 年率2%以上の配当を基本とすることとしている。 これにより、業績の下落局面はDOE2%による安定配当を、業績拡大局面では利益に応じた株主還元を行う。
 
 
2019年3月期第2四半期決算概要
建機好調で増収も、オイルダンパー不適切行為に関する製品保証引当金により損失計上 売上高は前年同期比7.0%増の2,028億円。AC事業、HC事業ともに増収で、特にHC事業は建機市場の活況を受け数量が増加。 セグメント利益は同11.5%減の95億円。両セグメントとも増収ではあったが、AC事業は北米市場の落ち込みなどで減益、HC事業も増産に伴うコスト増で微増益にとどまった。 営業利益は113億円の損失。免震・制振用オイルダンパー不適切行為に関する製品保証引当金144億円のほか、米国独占禁止法関連損失44億円、減損損失20億円を計上した。 業績が当初予想を大きく下回ったことに加え、免震・制振用オイルダンパーの不適切行為に関する交換工事の費用及び補償費用など今後の業績悪化要因の影響を見通すことは困難であるため、中間配当の実施を見送ることとした。 期末配当についても未定とした。 欧州・中国等で数量が増えたものの、北米市場の落ち込みや連結子会社となったブラジル拠点の赤字により増収減益。 建機市場の好調を受けて前期比増収となったものの、増産対応に伴うコスト増等によりセグメント利益は前期比微増 にとどまった。 建機市場好調の中国や、四輪車向けが好調な欧州で増収となった一方で、米国が低調だった。 海外売上高比率は55.1%から56.1%に上昇した。 棚卸資産が増加したが現金等の減少で流動資産は前期末比50億円減少。有形固定資産の増加などで非流動資産は同40億円増加し、資産合計は同9億円減少の4,115億円となった。 営業債務等の増加で流動負債は同23億円増加。引当金の増加で非流動負債は同100億円増加し、負債合計も同123億円増加の2,382億円となった。 利益剰余金の減少などで資本合計は同133億円減少し、1,734億円。 この結果、親会社所有者帰属持分比率は前期末の43.7%から3.1ポイント低下し、40.6%となった。 税引前四半期損失計上などで営業CFのプラス幅は縮小。有形固定資産取得による支出増加で投資CFのマイナス幅は拡大し、フリーCFはマイナスに転じた。財務CFはほぼ変わらず。キャッシュポジションは悪化した。
 
 
2019年3月期業績予想
利益を下方修正し、増収減益予想 免震・制振用オイルダンパーの不適切行為を要因に利益を下方修正した。 売上高は前期比5.7%増の4,160億円の予想。HC事業は2桁増収を見込む。AC事業も増収予想。 セグメント利益は同7.2%減の213億円の予想。AC事業、HC事業とも増収ながら減益を見込む。 営業利益は同96.6%減の7億円の予想。上期に計上した免震・制振用オイルダンパー不適切行為に関する製品保証引当金144億円、米国独占禁止法関連損失44億円、減損損失20億円のほか、四輪車用油圧機器における構造改革費用35億円を計画している。 為替の前提は前年度1USD=110.85円に対し、今年度は107.63円、ユーロは前年度129.70円に対し、128.92円。下期前提レートは1USD=105円、1ユーロ=128円。 前述のとおり期末配当は現時点では未定。 AC事業は上期同様、米国市場の低迷、ブラジル拠点分のコスト増で微増収も減益予想。 HC事業も建機需要好調で増収見込みだが、需要増に伴う人件費増や増産対応による固定費増で減益の見込み。
 
 
各事業の中期的な取り組み
免震・制振用オイルダンパーの不適切行為問題により今期は損失に転じ、交換工事および補償費用など不透明な要素が残る同社であるが、そうした状況であるからこそ、主力のAC事業、HC事業の構造改革を一層強力かつスピーディーに推進する考えだ。両事業における取り組みは以下のとおりである。 ①AC事業 「顧客の需要地のシフトに合わせた拠点統廃合と高付加価値品の開発・拡販により成長軌道を描く」ことを中期方針とし、以下の課題に取り組んでいる。 *抜本的構造改革の完遂 EPS事業の構造改革が最大のテーマ。拡大する中国市場への参入を進めるためにアライアンスを締結した中国・湖北恒隆社とのシナジーを早期に実現させる。 コスト競争力を強化した地域別最適生産体制を構築するほか、二輪事業はベトナム、インドに集約する再編を加速するとともに他社への拡販も進める。 *収益基盤の安定化 量販向けショックアブソーバのグローバル仕様統合化、革新的モノづくりによる生産性向上に取り組んでいる。 革新的モノづくりによる生産性向上については、新興国での人件費が上昇する中、人手によらない生産体制の構築が不可欠と考えている。そのために、IoTやAIを活用し、品質の向上も追求したライン構築を進め、2026年には完全無人化を実現することを目指している。 *持続的成長 2018年4月に操業を開始した欧州テクニカルセンター(ドイツ・ミュンヘン)を軸に、ジャーマンプレミアム3からの受注拡大を図る。 また将来に向けた高付加価値品の開発や拡販にも取り組んでいく。 ②HC事業 「市場変動に左右されない安定した売上高、利益の確保」を中期方針に掲げ、ショベルを基盤としながら、攻めきれていない成長市場への拡販を強化する。 *抜本的構造改革の完遂 中・大型向けコントロールバルブラインの移管については、18年5月に組立・塗装工程移設が完了し、現在は加工工程移設を実行中であり、19年10月には計画通り移管が完了する予定である。 相模工場へのモータ製品の集約については、中国工場含む再編レイアウトが決定し、工程整備に着手した。20年9月に集約再編が完了する予定である。 *収益基盤の安定化 高需要に対応した生産・納入体制整備のため、部品内製加工設備の増強、組立ライン増設、既存取引先の能力確保と支援、調達先拡大などに取り組んでいる。 *持続的成長 ローダー系油圧機器の拡販に取り組む中、これまで攻めきれていなかったコンパクトトラックローダー向けコントロールバルブの受注が確定した。
 
 
今後の注目点
売上構成比は1%にも満たない免震・制振用オイルダンパーであるが、業績の足を大きく引っ張る形となってしまった。 今後の調査の進捗によっては交換工事に要する費用、交換工事の実施に伴って発生する補償等の付随費用など、さらにコストが増大する可能性も現時点では否定できないようであり、投資家としては状況を見守るしかないというところであろう。 ただ、従前から取り組んでいるAC事業、HC事業の構造改革は着実に進展しているようである。 全てのステークホルダーからの信頼回復に努めるとともに、主力事業のさらなる成長に向けどのような施策を実施し、スピード感をもって実績を積み上げていくのかを引き続きウォッチしていきたい。
 
 
 
<参考1:2017中期経営計画>
同社は今期2017年度(2018年3月期)を初年度、2019年度(2020年3月期)を最終年度とする3年間の中期経営計画を策定、実行中である。 (1)数値目標 「A GLOBAL KYB -CHALLENGE & INNOVATION-」のスローガンの下、2017年度は「抜本的構造改革の完遂」、2018年度及び2019年度は「持続的成長」、「収益基盤の安定化」、「経営課題の解決」に取り組み、2020年度以降、できるだけ早期にグループ売上高5,000億円達成、格付けA取得を目指している。 ショックアブソーバの売上本数は前期7,200万本(OEM 70%、市販 30%)を、2020年度は8,800万本(OEM 68%、市販32%)へ引き上げる。 ポイントは以下の通り。 ポイントは以下の通り。
 
 
<参考2:コーポレートガバナンスについて>
◎コーポレートガバナンス報告書 最終更新日: 2018年7月9日 <基本的な考え方> 当社は、持続的な成長と企業価値向上の実現を通してステークホルダーの期待に応えるとともに、社会に貢献するという企業の社会的責任を果たすため、取締役会を中心に迅速かつ効率的な経営体制の構築ならびに公正性かつ透明性の高い経営監督機能の確立を追求し、以下の経営理念および基本方針に基づき、コーポレートガバナンスの強化および充実に取り組むことを基本的な考え方としております。 (経営理念) 「人々の暮らしを安全・快適にする技術や製品を提供し、社会に貢献するKYBグループ」 1. 高い目標に挑戦し、より活気あふれる企業風土を築きます。 2. 優しさと誠実さを保ち、自然を愛し環境を大切にします。 3. 常に独創性を追い求め、お客様・株主様・お取引先・社会の発展に貢献します。 (基本方針) 1. 当社は、株主の権利を尊重し、平等性を確保する。 2. 当社は、株主を含むステークホルダーの利益を考慮し、それらステークホルダーとの適切な協働に努める。 3. 当社は、法令に基づく開示はもとより、ステークホルダーにとって重要または有用な情報についても主体的に開示する。 4. 当社の取締役会は、株主受託者責任および説明責任を認識し、持続的かつ安定的な成長および企業価値の向上ならびに収益力および資本効率の改善のために、その役割および責務を適切に果たす。 5. 当社は、株主との建設的な対話を促進し、当社の経営方針などに対する理解を得るとともに、当社への意見を経営の改善に繋げるなど適切な対応に努める。 <実施しない主な原則とその理由> 全ての原則について、2018年6月改訂前のコーポレートガバナンス・コードに基づき記載しております。2018年6月改訂のコーポレートガバナンス・コードに基づく更新は、2018年12月までに行う予定です。