放送・通信業界、住まい・暮らし業界、医療・健康業界を顧客とし、企業の課題解決のための戦略立案から、プロモーション設計、制作・開発、実行運用までをワンストップで提供。「総合力」、「小回り」、「きめの細かさ」を武器として競争優位性の高いポジショニングに成功している。
Web広告やVR(仮想現実)技術を用いた接客支援等のデジタル領域拡大に注力。「売上高100億円、経常利益10億円、デジタル領域構成比30%」の早期達成を目指している。
【1-1 沿革】
日本画家を志していた大津裕司社長の祖父大津健二郎氏は神戸の高級美術印刷会社でデザイナーとして活躍。その後、太平洋戦争に出征、復員した1947年4月、神戸市で前身となる広告会社 宣伝五洋社を創業した。
一般的な広告の取り扱いに加え、神戸という土地柄から造船会社が行う進水式のコーディネートや、百貨店の催事企画・ポスターの制作などを手掛ける中、戦後復興景気の中心産業であった繊維業界にも顧客層を広げていく。
昭和30年代に帝人株式会社の大ヒット商品となった「ホンコンシャツ(半袖のワイシャツ)」の発売にあたり、高級感ある包装パッケージを手掛けたのも同社であり、優れたデザイン・クリエイティブ力や商品プロモーション力、印刷までワンストップで手掛ける利便性が顧客に高く評価される。優良な業界・顧客へ直接取引により優れた企画やクリエイティブを提供するという同社の特徴は創業時から綿々と受け継がれている。
1955年、更なる事業拡大を志向し東京営業所を開設。
東京で顧客開拓を進める中、1972年には現在の主要顧客の1社である旭化成ホームズの取り扱いを開始した。その後、放送・通信業界、医療・健康業界にも顧客層を広げ売上、利益は着実に伸張。
2017年2月、東京証券取引所JASDAQ市場へ上場した。
【1-3 同社を取り巻く環境】
◎広告市場の変化
従来の広告市場、特にテレビや新聞といったマスメディアを利用した広告ビジネスにおいては、サプライサイドであるメディアや広告代理店にとっては在庫の独占性や排他性が事業展開するうえで最も重要な要素であった。
大手広告代理店は限りのあるTVや新聞のスポット枠をほぼ完全に押さえることで広告主に対する価格リーダーシップを握り、大きな利益を生み出してきた。
ところがマス広告は、右肩上がりの経済成長の終焉と、従来のメディアと比較した際のコストの安さやその本質である双方向性を大きな特徴とするインターネット広告の登場により需要は縮小傾向にある。
株式会社電通による「2017年 日本の広告費」によれば、下のグラフが示す通り、日本の総広告費用が過去12年間でほぼ横ばいの中、新聞・雑誌・ラジオ・TVのいわゆるマスコミ四媒体はCAGR(年平均成長率)で2.4%の減少だったのに対し、2005年には3,777億円であったインターネット広告費はCAGR12%で拡大を続け、2014年には1兆円台に乗り、2017年には1.5兆円となった。
また、折込・フリーペーパー・DMなどプロモーションメディア広告も過去12年では2.0%のマイナスとなっている。
ただ、プロモーションメディア広告の2012年以降の推移をみると、折込やDMはマイナスとなっている一方で、展示・映像、屋外広告の広告費は堅調に増加、POP制作費も2012年比では約7%増加するなど、広告主の費用対効果意識が高まるに連れ、ターゲットを絞ったマーケティングを目的として各媒体の特性を活かしたプロモーションメディア広告の利用が進んでいることが見て取れる。
消費者の嗜好や行動の多様化が進む中、広告主の「売上増」に繋がるマーケティングやプロモーションに対するニーズは今後より一層強まることが予想される。
日宣は売上、時価総額規模は小さいながらもクリエイティブチームの内製化などにより高い営業利益率を実現している。
ただPER、PBRともに低水準にとどまっている。認知度の向上とともに、デジタル領域の拡大、売上高100億円への道筋をより具体的に投資家へ示す必要があるだろう。
【1-4 事業内容】
1.事業セグメント
セグメントは「広告宣伝事業」と「その他」。(報告セグメントは広告宣伝事業の1セグメント)
① 広告宣伝事業
注力する業界を定め、顧客企業と直接取引をし、課題に対しての戦略立案・マーケティングから、プロモーション設計、制作・開発、実行運用までを自社サービス、自社メディア、自社コンテンツを用いながら広告ソリューションをワンストップで提供している。
現時点でのサービス提供先は主に下記の3業界。
≪放送・通信≫
全国CATV局・大手通信キャリア・番組供給会社に、新規加入者獲得・視聴促進等のセールスプロモーションを提供している。
中心は全国約100局のCATV各局に対する加入者向けテレビ番組情報誌「チャンネルガイド」(月刊誌)の企画・制作で、発行部数は約150万部/月。
CATV局はCS・BS・地上波・地上波BSまで約130チャンネルを取り扱っており、各番組の紹介記事等を作成するのはもちろん、毎月100局それぞれの番組表を作り分け、見易くかつ正確に編集しなければならない。
そのためにはシステム構築に一定の投資が必要であるとともに、運用についても十分なノウハウの蓄積が必要となるが、これらは高い参入障壁となっており、以前は5社程度あった競合も現在は1社のみとなっている。
日本全国にCATV局は約300局あるが、番組表を作成しているのはうち約240局で同社のシェアは4割。
CATV局にとっては必要不可欠な存在である。
また、大手通信キャリアが運営する動画配信サービスのレコメンドサイトの運営や、CATV局に対して実施する各種セールスプロモーションの提供も行っている。
≪住まい・暮らし≫
(住宅)
40年以上にわたり大手住宅メーカー「旭化成ホームズ株式会社」のセールスプロモーションを行っている。
提供サービスは、全国キャンペーンの全体設計から個々の広告プロモーションの企画、カタログ、DM、チラシや住宅展示場の接客ツールの制作、イベントの企画運営、WEB・映像制作、空間デザイン等と幅広く、カタログや販促ツールについては在庫管理まで行っている。
近年では、位置情報を活用しターゲットにピンポイントで情報を届け集客する「ジオターゲティング」や、360°映像とVR(仮想現実)を使用した最新の体験型シアタールームなどデジタル関連の新規サービスを提供している。
旭化成ホームズの最新の体験型シアタールーム「HEBEL HAUS TOKYO PRIME SQUARE」
2017年1月、旭化成ホームズが東京営業本部(東京都新宿区西新宿2-4-1新宿NSビル)内に、インテリアや設備のショールーム「デザインスタジオ東京」と体験型シアタールーム「THE VISION HEBEL HAUS」を備えた打ち合わせスタジオ「HEBEL HAUS TOKYO PRIME SQUARE」をオープンした。
「THE VISION HEBEL HAUS」の概要
●4方向(前・右・左・上)の壁・天井に配した連続型大画面スクリーンに映し出す臨場感あふれる360°映像により、ヘーベルハウスの新商品や最新展示場など約20事例の住空間をバーチャル見学でき、実際に足を運ばなくても何ヶ所もの展示場を気軽に楽しく体感することができる。
●使い方は、ソファに座ったまま手のひらを画面に向けて動かすジェスチャーによるインタラクティブ操作となっている。また専用ゴーグル装着によるVR映像と違い見学者全員が同一体験を共有するため、家族全員で楽しさを共感しコミュニケーションを図ることができる点が特徴である。
(ホームセンター他)
全国のホームセンターで配布される来店客向け無料情報誌「Pacoma」(月刊誌)を企画・発行している。発行部数は約30万部。
メーカーからの広告集稿、ホームセンター企業への同誌の販売が主な売上。
ライフスタイル業界を中心とした顧客企業へ各種販促ツールを提供する他、培ったコンテンツ力を活かし、Webマガジン「Pacoma」を活用したWebプロモーション・PR施策の提供も行っている。
≪医療・健康≫
(製薬企業)
製薬会社のMR(医療情報担当者)の活動支援を目的として、医師が出演する疾患予防啓発番組(全国のケーブルテレビやラジオで放映)を企画制作している。現在までの制作本数は約800本。
また、製薬企業が主催するセミナーや学会の企画や運営等も受託している、
(ドラッグストア)
ドラッグストア来店客向け無料情報誌「KiiTa」(季刊誌)を企画・発行し全国約10,000店舗に配布。
また2016年12月からはドラッグストア企業売り場担当者向け無料情報誌「Re:KiiTa」(季刊誌)を発刊している。
両誌は日本チェーンドラッグストア協会の公認情報誌であり、製薬企業などからの広告集稿が売上高となる。
また、直近では大手ドラッグストアチェーンが発行するコミュニケーション冊子(月刊)を受託・制作することになった。
≪その他≫
上記以外の業界の顧客開拓も積極的に推進している。
特に、ホームセンター、ドラッグストアなど店舗展開を行っている企業を顧客としてきた同社の強みである店舗集客と店頭プロモーションの企画力を生かして店舗網を持つ企業へのアプローチを強化している。
直近では、大手サンドウィッチチェーン店の媒体の扱いから広告制作・店頭ツールまで全マーケティング施策を一貫して担当することとなった。キャンペーンのコンセプトの企画から、Web広告を活用した店舗集客、チラシ・ポスター・メニューなど店頭ツールの開発までプランニング・集客・購買促進をトータルに提供している。
その他にも、大手ピザチェーン店、自動車メーカー、大手飲料メーカー、決済サービス提供会社などへも顧客開拓が進展してきている。
② その他
子会社・株式会社日宣印刷が各種商業印刷を受注しているほか、カタログ、パンフレット、チラシ、ダイレクトメール、ポスター等を受注・製造している。
またオリジナルのうちわの柄の貼り機を保有し、製法特許を取得した「エコ紙うちわ」をセールスプロモーションツールとして全国の多業種から受注・製造している。
【1-5 特徴と強み】
◎ターゲットとする優良な業界を定めてユニークサービスモデルを構築し、規模を拡大
沿革で触れたように、同社は、昭和30年代は繊維業界、40年代は住宅、その後、放送・通信、医療・健康とその時代の成長業界・優良業界を主要顧客として成長してきたが、各業界ごとに広告やSPに対するニーズや課題は異なっている。
同社では、業界ごとの特有(ユニーク)な課題やニーズを把握したうえで、集客や売上拡大のための様々な手法を組み合わせた独自性(ユニーク)の高いソリューションをワンストップで提供することができ、これを「ユニークサービスモデル」と呼んでいる。
サービスを提供する中でノウハウを蓄積し、コア部分は内製化を進めて収益性を高めるとともにボリュームを拡大し利益を創出、新たにターゲットとする業界を定めてそこへ進出するというサイクルを繰り返すことで企業規模を拡大している。
◎ユニークサービスモデルを支える社内体制
同社の大きな特徴である「ユニークサービスモデル」を支えている社内体制も大きな特徴である。
同社では顧客との間に代理店を介すことはなく、全て直接取引を行っているため、顧客の属する業界や企業の課題をダイレクトに吸い上げることができる。
吸い上げた課題に対してはクリエイティブディレクター、プランナー、コピーライター、Webデザイナー、映像ディレクターなどからなる社内の専門チームが最適なソリューションを創造する。
従来は外注が主であったが競争力の強化を目指す大津社長の方針により、10年ほど前からクリエイティブチームの内製化を進めてきた。現在では大手広告代理店などで豊富な経験を積んだスタッフ約30名を擁している。
最適なソリューションを創り上げるうえでのコア部分は内製化によってノウハウを蓄積しつつ、それ以外の部分は、優秀な外部協力会社(Web制作、SP制作、用紙、印刷、物流など)と緊密・強固なリレーションシップを構築して活用。顧客にとって最適なソリューションをワンストップで提供している。
◎「総合力」をベースとした広告・SP業界における競争優位性の高いポジショニング
広告業界には規模、得意分野によって様々なプレーヤーが存在するが、同社はその独自性である「総合力」により競争優位性の高いポジショニングに成功している。
市場環境の項でも触れたように、TVや新聞などマスメディアのマイナス成長が続いている中、広告枠を寡占的に支配するビジネスモデルである大手広告代理店は、ネット広告にも注力を始めてはいるものの、その企業規模を維持するためにはマスメディアで効率的に収益を上げる必要があり、クライアントにPOP、SPのニーズがあったとしてもこれら小回りを利かせなければいけない分野に関しては外注を使う事となるため、十分な顧客満足度を提供することは難しい。
一方、ネット広告の拡大に伴い大きく成長し上場企業も多数存在するネット専業の広告代理店は、POP、SPなど「売りの現場」におけるアナログなソリューションを社内に有しておらず、今後もその企業文化や風土からそれらのソリューションを内製するという選択を行う可能性は低いと考えられる。
こうした中、広告・SPの企画から制作・実行までを、アナログ・デジタル含め幅広くワンストップでソリューションを提供できる同社の総合力はクライアントにとっては極めて魅力的なものである。
大手広告代理店とネット専業広告代理店のどちらも十分に対応することが難しいフィールドにおいて、「総合力」、「小回り」、「きめの細かさ」を武器としたソリューションを提供できるポジショニングこそが自社の強力な競争優位性であると同社では認識しており、今後もこの地位を更に強固なものとする考えだ。