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(3912) 株式会社モバイルファクトリー

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ブリッジレポート:(3912)モバイルファクトリー vol.1

(3912:東証1部) モバイルファクトリー 企業HP
宮嶌 裕二 社長
宮嶌 裕二 社長

【ブリッジレポート vol.1】2017年12月期上期業績レポート
取材概要「次々と新しいゲームが配信され、ゲームのライフサイクルが短くなっているが、同社が得意とする位置ゲームはユーザーが長く遊べる事が強み。しかも・・・」続きは本文をご覧ください。
2017年8月8日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社モバイルファクトリー
社長
宮嶌 裕二
所在地
東京都品川区東五反田1-24-2
決算期
12月末日
業種
情報・通信
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2016年12月 2,072 611 611 411
2015年12月 1,751 314 305 185
2014年12月 1,540 211 212 118
株式情報(7/27現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
1,576円 9,433,906株 14,868百万円 24.9% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
16.50円 1.0% 54.70円 28.8倍 389.09円 4.1倍
※株価は07/27終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期末実績。
 
東証1部に株式を上場するモバイルファクトリーの会社概要及び2017年12月期上期決算の概要と通期の見通しについて、宮嶌社長のインタビューと共に、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
位置ゲームを主力とするソーシャルアプリサービスと着メロや占い等のコンテンツを提供するコンテンツサービスが二本柱。10年以上の実績を有するコンテンツサービスを安定収益源に、独自の境地を開いているソーシャルアプリサービスを成長ドライバーとしている。グループは、同社の他、ソーシャルアプリの開発・運営を手掛ける100%子会社(株)ジーワンダッシュ。
経営理念は「私たちが創造するモノを通じて世界の人々をハッピーにすること」。ブランドメッセージとして、「感動を持ち歩け。」を掲げている。
 
【沿革】
2001年10月、有限会社モバイルファクトリーとして設立され、着メロの配信を開始した。着メロ事業が拡大し、2003年4月に株式会社に改組。その後、待受画像、デコレーションメール、占い等、コンテンツを拡充した。
ソーシャルアプリサービスは2009年12月に開始。2011年3月に、その後の飛躍のきっかけとなった位置ゲーム「駅奪取」をリリース(GREE Platform)。同年10月にはスマートノベル(男性向け恋愛シミュレーションゲーム)分野にも参入した。同年12月には(株)コロプラの位置情報サービスPlatform “コロプラ”にて位置ゲーム「駅奪取PLUS」をリリース、2014年6月に位置ゲーム「ステーションメモリーズ!」をリリース。2014年5月に(株)フジテレビジョン(現:(株)フジゲームス)と業務提携し、同年11月に「ステーションメモリーズ!」iOS版/Android版をリリースした。
2015年3月に東証マザーズに株式を上場し、同年10月に岩手県とパートナーシップ協定を締結。2017年6月に東証1部に市場変更となった。
 
 
【事業内容】
16/12期の売上構成比は、ソーシャルアプリサービスが61%、コンテンツサービスが39%。ソーシャルアプリサービスが基本無料アイテム課金制であるのに対して、コンテンツサービスは月額課金制(一部例外)である。また、プラットフォームを介して、同社グループがユーザーに直接サービスを提供する自社モデル形式(自社名義配信)と、同社とOEM契約等を行った業務提携先がプラットフォームを介してサービスの提供を行うOEMモデル形式(他社名義配信)があり、自社モデル形式はユーザーの利用代金が売上計上され、OEMモデル形式はユーザーの利用代金からプラットフォーム等の手数料を控除した金額(ユーザー利用代金の50%~70%)が売上計上される。
 
ソーシャルアプリサービス
ソーシャルアプリはユーザー同士が協力または競争等、交流しながらサービスを利用する。同社はSNSプラットフォーム(GREE、Mobage、mixi、コロプラ等)やアプリマーケット(App Store、Google Play等)を通して、位置ゲームやスマートノベルを配信している。一部イラストやシナリオについては外部委託先に制作依頼しているが、システム開発は社内で対応している。

位置ゲームでは、最注力サービスの「ステーションメモリーズ!」、「駅奪取シリーズ」(駅奪取及び駅奪取PLUS)、及び「レキシトコネクト」(2017年3月15日配信開始)の3タイトルを提供している。「駅奪取シリーズ」は2011年3月にサービスを開始したロングラン作品。身近な駅を他人と奪い合う競争要素、実際に訪れた場所が履歴として残るライフログ要素、奪取済みの駅や路線や称号等を集めるコレクション要素の3要素を有する。また、2014年6月にサービスを開始した「ステーションメモリーズ!」は「駅奪取シリーズ」の駅を奪い合う楽しさを残しつつ、駅を収集する楽しさを追求した。
 
 
一方、新作オリジナルの「レキシトコネクト」は日本の歴史を舞台に、位置情報を利用して個性豊かな「イジン」と共に、日本全国で戦国時代さながらの陣取り合戦を楽しむゲーム。実際に訪れた歴史遺産をコレクションや、歴史上の英雄達をモチーフにした「イジン」の育成等の遊び方もできる。この他、収益への寄与は小さいようだが、スマートノベル(「ただいまっ!うちカノジョ」、「俺の彼女が2人とも可愛すぎる!」など)を提供している。共に10代から30代の男性、特に少年雑誌の読者層をターゲットとした健全なラブコメ的シナリオのゲームである。

自社モデル形式で、「駅奪取PLUS」(コロプラ等、App Store、Google Play)、「ステーションメモリーズ!」(コロプラ)、スマートノベル(GREE/Mobage)を提供しており、OEMモデル形式で、(株)フジゲームスとの提携による「ステーションメモリーズ!」(App Store、Google Play)、スマートノベル(App Store、Google Play)を提供している。
 
コンテンツサービス
主に通信キャリアが運営するサービスを通して着メロ等のコンテンツを提供している。着メロは、J-POP、洋楽、効果音、オルゴール、アニメ曲等の着メロ取り放題の「最新曲★全曲取り放題」(自社モデル形式)や(株)レコチョクとの協業サービスの「レコチョクメロディ」(OEMモデル形式)等、スマー卜フォンやフィーチャーフォン向けに配信を行っており、月額100円(税抜)から300円(税抜)で取り放題というサービス。

強みは、自社内制作の高音質のサウンドに加え、ドラマ・映画・CM等で話題が旬のうちに迫加できる体制とノウハウ。着メロ音源の制作、サイトの開発及び運営は、原則、社内で対応している(一部例外あり)。着メロ以外では、スタンプ素材とメロディの定額取り放題サービスを提供している。2004年5月のサービス開始以来、10年以上の運営実績を有し、その時々で効果的な広告手法を取り入れる事でユーザーの獲得に取り組んでいる。課金会員数は漸減傾向にあるが、原則内製でもあり、残存者利益を享受しているため収益性は高い。

ただ、経営リソースはソーシャルアプリサービスに優先的に投下している。
 
 
2017年12月期上期決算
 
 
「ステーションメモリーズ!」(以下、「駅メモ!」)をけん引役に前年同期比20.1%の増収、同32.5%の営業増益
ユーザーのアクティブ率向上施策が成果を上げた「駅メモ!」(iOS/Android版)をけん引役に売上高が11億79百万円と前年同期比20.1%増加した。利益面では、「レキシトコネクト」の早期償却等による減価償却費、広告宣伝費、及び新卒採用に伴う人件費等の増加を吸収して、営業利益が3億96百万円と同32.5%増加。東証1部への市場変更に伴う株式公開費用13百万円を営業外費用に計上したものの、税負担率の低下(34.3%→30.9%)で最終利益は2億64百万円と同34.3%増加した。
 
 
ソーシャルアプリサービスでは、「駅メモ!」において、TVアニメや他社IPとのコラボイベント、関連アプリ「駅メモ!おでかけカメラ」によるフォトコンテスト、更には、6月に3周年を迎え、様々な施策を盛り込んだ誕生3周年キャンペーンを実施。休眠ユーザーのアクティブ化も進み、DAU(Daily Active Users:1日にサービスを利用したユーザー数)が増加した。この他、「駅奪取シリーズ」でイベントの効率化を図りつつアプリの継続使用に向けた施策を実施する一方、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)が社内基準を満たさなかった「レキシトコネクト」のプロモーションをストップした。
コンテンツサービスについては、ソフトバンク(株)のアプリ取り放題サービス「App Pass」にて運営している「スタメロ - スタンプ&メロディとり放題」(以下、「スタメロ」)が引き続き堅調に推移した。「スタメロ」は、LINE等メッセージアプリで使えるスタンプ画像と流行曲の着信音(約3万曲)が、どちらも取り放題で利用できるサービス。入手したスタンプ画像や着信音を、簡単に送信や設定できる機能も有する。
 
 
売上高が過去最高を更新したものの、営業利益が前四半期比減益
DAUが継続的に増加する中、3周年記念効果もあった「駅メモ!」の好調に加え、コンテンツサービスも堅調に推移し、前年同期との比較では18.6%の増収、14.1%の営業増益。一方、前四半期との比較では、増収ながら、「レキシトコネクト」の償却費の増加(7百万円→50百万円)や広告宣伝費の増加(71百万円→86百万円)等で営業利益は25.7%減少した。
 
 
 
 
 
上期末の総資産は前期末と比べて54百万円増の22億83百万円。好決算とCFの黒字を反映して現預金と純資産が増加。一方、「レキシトコネクト」の早期償却を進めた事で無形固定資産(コンテンツ仮勘定等)が減少した。自己資本比率86.4%(前期末82.3%)。
 
 
2億21百万円のフリーCFを確保し、このうち1億24百万円を配当により株主に還元した。
 
 
2017年12月期業績予想
 
 
通期予想に変更はなく、前期比20.0%の増収、同24.6%の営業増益
売上高は前期比20.0%増の24億86百万円。「駅メモ!」をけん引役にソーシャルアプリサービスの売上が16億81百万円と同33.6%増加する見込み。「駅メモ!」は、ユーザーのロイヤルティ向上のための機能改善に取り組むと共に、プロモーションを増加させる。コンテンツサービスもプラットフォームの増加で堅調な推移が見込まれる。

利益面では、上記の取り組みに伴い「駅メモ!」の投資及びプロモーション費用を上積みする考えだが、その他コストのコントロールで期初予想に沿った着地を目指している。

配当は1株当たり16.5円の期末配当を予定。2017年7月に1株を2株に分割しているため、実質6円増配の33円となる(前期実績27円)。
 
 
(2)下期の取り組み
ソーシャルアプリサービスでは、「駅メモ!」においてユーザーのロイヤルティ向上のための機能改善に取り組む他、プロモーションを大幅に増やしてユーザー獲得を加速させる。機能改善では、一部キャラクターがフルボイスで登場するメインストーリーの実装や戦略要素の追加による大型アップデートを計画している他、スピンオフコミック連載や3周年記念カフェといったスピンオフ企画を実施する。一方、「駅奪取シリーズ」及び「レキシトコネクト」については、収益に見合ったリソース配分に基づく運営に徹する。また、新作の開発も進行中である。

一方、コンテンツサービスでは、上期の増収に寄与した「スタメロ - スタンプ&メロディとり放題」の配信を2017年7月より「auスマートパス」(KDDI(株)提供)で開始した。コンテンツサービスの中心的サービスとして育成していく考え。
 
奈良県「記紀・万葉プロジェクト」×「駅メモ!」コラボイベント開催(2017年6月29日~11月6日)
「駅メモ!」と奈良県とのコラボ企画として奈良県内観光スポットを巡るデジタルスタンプラリーイベントである。「古事記」、「日本書紀」が編纂され、多くの万葉歌が詠われた奈良県では、記紀・万葉集に代表される歴史素材を活用しながら、奈良の魅力を再発見してもらう事をコンセプトに「記紀・万葉プロジェクト」を推進している。今回のイベントは、「記紀・万葉プロジェクト」と「駅メモ!」のコラボにより、記紀・万葉ゆかりの地を巡る企画。奈良県内の対象駅や周辺スポットへ位置登録し、ミッションをクリアするとゲーム内アイテムが獲得できる他、イベント限定の特別な物語も解放され、イベント期間中に対象施設を利用された方を対象に駅メモ!オリジナルグッズや記紀・万葉スペシャルグッズをプレゼント。
 
映画「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」×「駅メモ!」タイアップキャンペーン開催(2017年7月10日~9月30日)
「駅メモ!」と、8月18日から公開される映画「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」(原作/岩井俊二、制作/シャフト、配給/東宝)とのタイアップキャンペーンである。イベント期間中に、全国の花火大会が開催される指定の最寄り駅を対象に位置登録すると、限定壁紙やゲーム内アイテムが獲得できる他、ミッションをクリアした方の中から抽選で映画のオフィシャルグッズをプレゼント。
 
 
宮嶌社長に聞く
 
ブリッジレポート「モバイルファクトリー版」初号において、改めて宮嶌社長と同社の魅力をお伝えするべく、五反田駅にほど近い同社の本社にお邪魔して宮嶌社長にお話を伺った。
 
宮嶌社長は1971年東京生まれ。1995年に中央大学法学部を卒業し、ソフトバンク(株)(現ソフトバンクグループ(株))に入社。1999年に(株)サイバーエージェントに移り、自らの発案であるオプトインメール事業「メールイン」(事前に受け取り許諾を取り、広告メールを発信)の立ち上げを主導すると共にインターネット広告の新規開拓営業に取り組んだ。2001年有限会社モバイルファクトリーを設立し、2003年に株式会社に改組すると共に代表取締役に就任された。同社の会社説明資料では、宮嶌社長について、「事業で社会に貢献に本気!」、「コストにシビア、赤字が嫌い」と紹介している。
 
【大学卒業後、ソフトバンク、サイバーエージェントを経て企業】
先ず、起業に至る経緯からお聞きします。ソフトバンク、サイバーエージェントと言うタフな会社を経験された後、起業されました。この経験が、東証1部上場企業となった今に至るまで活かされているのではないでしょうか。
 
ソフトバンク時代に学んだ事は「頭に汗をかけ」という事です。ソフトバンク入社2年目でした。野村證券から来られた川島さん(現SBIホールディングス(株) 代表取締役 執行役員副社長)が、直属の上司となり、鍛えられました。教えられた事は「頭に汗をかけ」という事です。

営業で顧客先を回っていましたが、1年目で営業成績はトップ3に入っていました。ルートセールスでしたので、顧客に対するフリークエンシー(frequency)が大事だったんです。フリークエンシーとは顧客と会う頻度です。どれだけ汗をかいて顧客に会うかで売上が決まりました。人より多く顧客を回れば、それだけ受注が取れました。ですから成績が良かったんです。ハングリーでしたから。人が2周回るのであれば、5周回ろう、といった感じでした。

しかし、2年目に川島さんが上司となり、ガツンとやられました。「お前は頑張りどころが間違っている」、「なぜかと言うと、仮に担当が変わった時、次の担当がお前ほど頑張れなかったら売上が落ちる」、「それは本当の仕事ではない。本当の仕事とは、例え、お前が担当を離れても、次の担当がお前の10倍の売上を上げる仕組みを作る事だ」、「それこそが本当の仕事だ」と。
 
2年目の社員にですか?その頃のソフトバンクは、パソコンソフトの流通とパソコン関連書籍で業績を伸ばしていました。いずれも国内トップだったと記憶しています。
 
そう言われて、確かにな、と思うところがありました。私は大手OA機器商社と大手事務機器メーカーを担当していましたが、実際、仕組みを作ると、川島さんが言うように売上が10倍近くになりました。どんなに努力しても、仕組みがなければ、10倍近くにはならなかったでしょう。再現性があると言うか、本当の仕事とはこういうものか、と思いました。それを叩き込まれました。一人のスーパースターが優れたパフォーマンスを示しても、その人が辞めたら、いきなりパフォーマンスが下がるのではなく、属人性を排し、仕組みで勝つ。常勝です。以来、そういうビジネスを志向しています。ですから、業績の変動が大きいゲーム業界にあって、モバイルファクトリーは常に黒字を維持しています(会社設立2年目から黒字)。必ずしも売上規模は大きくありませんが、売上規模の割に利益水準が高いのは、「仕組みで勝つ」と言う考え通りに経営できているからだと思っています。
 
なるほど。御社は、ソーシャルアプリサービスとコンテンツサービスを二本柱としています。コンテンツサービスはソーシャルアプリサービスの陰に隠れている感がありますが、いい意味で枯れたサービスのため、競合が少なく、収益性は比較的高いのではないでしょうか。「仕組みで勝つ」と言う勝ちパターンが確立されている一例ですね。
 
フィーチャーフォン時代から提供しているコンテンツサービスの売上がまだ通期で8億円あります。コンテンツサービスはデータ分析を基に計算できるサービスですから、ROIC等を基に利益がでるように投資を行っています。残存者利益が享受できています。
 
その後、サイバーエージェントに移られました。サイバーエージェントではオプトインメール「MAIL-in」を立ち上げると共に、メディアのセールスや媒体枠の管理など様々な仕事を経験されたと聞いていますが...。
 
オプトインメールはアメリカの文献が参考になりました。孫さんのタイムマシン経営ではないですが、オプトインメールに限らず、当時のネットビジネスの最先端のビジネスモデルが紹介されていましたから研究していました。その中で自分の考えと一致し、成長性を感じたビジネスがオプトインメールでした。合併したため、今は社名が変わっていますが、エルゴ・ブレインズ(現:ユナイテッド(株))も同じころに始めました。サービスの開始は、サイバーエージェントよりも少し早かったと思います。

サイバーエージェントでは、ネット業界やネット広告ビジネス全般について学びました。モバイルファクトリーの初期は、サイバーエージェント時代に築いた人脈と知識で成り立っていたと言えるかもしれません。上場企業であれば、ボヤージュグループの宇佐美さん((株)VOYAGE GROUP代表取締役社長兼CEO宇佐美進典氏)等、大変お世話になりました。初期に提携して頂いたおかげで収益基盤を築く事ができました。着メロのOEM供給(相手先ブランド配信)を主力事業にしていましたから、提携相手が必要でした。例えば、MyID(ボヤージュグループの前身)、CAモバイル(サイバーエージェント子会社)、エイチーム((株)エイチーム)等、彼らのブランドで着メロを配信させてもらいました。今でも配信していますが、サイバーエージェント時代に築いた人脈を活かしたものです。

「仕事の考え方」は川島さんに叩き込まれ、ネット業界で生きていくための「人脈」と「知識」と「経験」はサイバーエージェントで得る事ができました。「仕事の考え方」とは、頭で考えるという事です。「人」は能力差がありますから、ブレてしまいますが、電子化を含めて仕組みを作る事ができれば、ブレをなくす事ができます。サイバーエージェントでは特に「人」と言う面が大きかったと思います。
 
【モバイル市場の成長性にかけてモバイルファクトリーを設立】
2001年10月に有限会社モバイルファクトリーを設立されました。ソフトバンク、サイバーエージェントで貴重な経験を積まれての起業です。
 
サイバーエージェントでモバイル向けのオプトインメールを立ち上げましたが、その頃、ヤフー株が1株1億円になったとかで騒がれていました。当時はポータルサイトの時代で、ヤフーやエキサイトのような大手ポータルサイトが既に存在していたので、PCの分野では資本がないと勝負できない時代でした。これに対して、モバイルは、「iモード」が普及し始め、着メロが注目されてきた頃でした。モバイルは黎明期でしたから、パソコンに比べるとチープな画面でしたがユーザーは満足していました。ある意味、小さいインターネットだったじゃないですか。そう考えて使っていた方は少なかったと思いますが...。モバイルだったら資本が小さくても勝負できるのではないか、とも思いました。なので、モバイルだな、と考えました。
モバイルのサービスをたくさん作りだす工場のような存在の会社をつくりたい。モバイルに未来はある。そんな思いから、モバイルファクトリーと言う社名を付けました。考えた通り、モバイルに未来はありました。今思えば、当時、「iモード」につながる端末は約4,500万台ありましたから、NTTドコモは世界最大のプロバイダーでした。
 
しかし、会社を設立された時期はITバブルが崩壊した頃と重なります。経営を軌道に乗せるのに苦労はなかったのですか。
 
日本の景気は悪かったですね。株価もひどかったですね。事業の立ち上げも順調ではなかったです。自己資金も1,200万円しかありませんでしたから。300万円で有限会社を立ち上げて、オフィスは荒川区が廃校舎を改装して貸し出した月1万円のオフィスです。システムを開発し、モバイルビジネスを始めました。システムの開発は外注しました。

しかし、全然売れませんでした。サイバーエージェントの時は広告を月1,000万円程度売っていましたから自信はありましたが、会社を設立して自社商品を売ろうとすると、10万円も売れませんでした。その時、気づかされました。「サイバーエージェントと言うブランドの社員として、Yahoo!とかgooと言う有名な広告枠を売っていたから売れたんだ」と。宮嶌裕二の商品を売りに行くと、10万円も売れない。ソフトバンク時代から常に営業はトップクラスでしたので、鼻をへし折られました。
 
良く潰れませんでしたね。
 
そんな中で救ってくれたのが、着メロの配信システムです。当時、着メロをダウンロードできるシステムも販売していました。ID番号とサイトのURLが記されたカードを販売し(着信メロディーカード「メロプレ」)、カードの購入者がサイトにアクセスして、着メロカードに記載されているID番号を打ち込むとダウンロードできると言うものでした。サイトは着メロサイトとして、たくさんの曲がラインアップされていました。ですから、商品としては、ID番号が記載された着メロカードです。当時は着メロのダウンロードをインセンティブとするケースが多く、例えば、アンケート回答の謝礼に着メロをつけたり、携帯ショップが来店の謝礼にする等、モバイル上のアクションのインセンティブとして着メロに強い需要がありました。今で言えば、Amazonギフトカードが、これにあたるのでしょうか。

伊藤忠商事が同じサービスを当社の10倍(カード1枚の値段)で売っていましたが、彼らの方が売れていました。わかりますよね。有限会社で社員が一人。もし、システムが動かなければ問題ですから、担当者にしてみれば、値段が高くても伊藤忠にいきます。安心でしょ、その方が。有限会社モバイルファクトリーのサービス等、全然使ってくれませんでした。
 
厳しい状況を経験しつつも、今があると言う事は、何か、飛躍のきっかけがあったのでしょうか。
 
突破口となったのが、プレミアム・インセンティブショー(株式会社ビジネスガイド社主催「東京インターナショナルプレミアム・インセンティブショー」)です。懸賞キャンペーン向け景品、プレミアム、企業PR用ノベルティ、その他販促用ギフト等の見本市です。その中で投票によって選ばれるコンテストがありました。そこで、たまたま当社の商材(着メロの配信システム)が準大賞に選ばれました。この商材が多くの支持を集めた事はとてもうれしい事でしたし、準大賞受賞がきっかけになり、NTTドコモの丸の内支店で採用して頂きました。当時、NTTドコモは来店者に様々な景品を配っていましたが、その中の一つとして着メロカードを採用してくれました。数百万の大型受注でした。確か、カード1枚を30~50円で7~8万枚売りましたが、NTTドコモであれば、着メロをダウンロードするためのパケット代で元がとれますから。ジーンズメイトにも採用して頂きました。
 
起死回生の準大賞受賞でしたね。
 
プレミアム・インセンティブショーで準大賞をとれていなかったら、潰れていたでしょうね。それまで全然、売れてませんでしたから。アポイントメントはとれましたが、買ってくれませんでした。今思えば、NTTドコモとジーンズメイトが、よく採用してくれたな、と思います。彼らには特にリスクをとると言う感覚がなかったのかも知れませんが…。買い切りの300万円程度は、販促費として大した事ではなかったのかも知れません。でもその販売実績のおかげで、販売が急拡大しました。「私は営業力があるから売れる」と思っていたのですが全然売れませんでした。しかし、NTTドコモやジーンズメイトが採用した事を説明すると、驚くほど売れました。特に、NTTドコモの他の支店です。丸の内支店での好評が口コミで全国のドコモショップに広がり、注文がどんどん入ってきました。一番大きな注文はNTTドコモ九州の数千万(カード数十万枚)でした。驚くような注文が入り、あっという間に黒字になりました。確か、2,000万円くらいの黒字。1年目は1,000万円くらいの赤字だったと思います。13ヶ月くらい給料を取れませんでした。それが2年目で、以後、経営が軌道に乗りました。ただ、家賃1万円のオフィスには、期限ギリギリの2年間いました。経費には厳しいですよ。親が事業(美容室経営)で失敗して借金を抱えて亡くなりましたから、赤字とか借金して失敗した時の苦しさを知っています。なるべく使わないようにしていました。

今思い出しても懐かしいですが、いやー、うれしかったですね、準大賞の受賞。皆さんがピカピカのブースで展示されている中、手作りのブースでした。当時、起業して9ヶ月くらいでしたが、資金は45万円くらいしか残っていませんでしたから、あと4か月くらいしか持たないと言う状態でした。そこに、出展で30万円くらいの出費です。お金がない中で最大の意思決定でした。
 
【モバイルコンテンツのOEMで業容を拡大】
着メロ配信システムで危機を脱し、それ以降は、会社としての体制整備が順調に進んだように思われます。コンテンツの開発と人脈を活かしたOEM先の開拓により、当初のイメージ通りにモバイル市場の拡大を享受する事ができた訳ですね。その後、ソーシャルアプリサービスを開始し、コンテンツサービスとの二本柱で業績の拡大が続いています。ソーシャルアプリサービスは位置ゲームで独自の境地を切り開き、成長ドライバーとなっています。一方、コンテンツサービスは、先ほどのお話ではないですが、地味ながら安定収益源として業績の下支え役となっています。
 
コンテンツサービスは、今はそうですね。最初から残存者利益を考えていた訳ではありませんが。着メロは撤退する方は多いですが、需要は確実にありますから。競合が少なく、マーケティングコストも、それほどかかりません。ゲーム事業はボラティリティが高いですが、コンテンツサービスの収益がベースにありますから、当社は安定して利益を出す事ができます。
 
ソーシャルアプリは位置ゲームがロングランヒットになっていますが、プロモーションやキャンペーンといった取り組みが成果をあげているからでしょうか。
 
取り組みが成果を上げている事もありますが、位置ゲームの性格によるところが大きいですね。位置ゲームは、ロールプレイングゲームやパズルゲームに比べてユーザーが長く遊べるゲームです。理由はライフログにあります。自分が移動した履歴がゲームの中でたまっていきます。位置ゲームはツール(旅行)とゲームの中間のようなゲームなんです。ですから、もともと長く遊べる継続率の高いゲームです。ただ、マネタイズし難いゲームでもあります。当社以外でも、位置ゲームを手掛けるゲーム会社さんはありましたが、利益を上げる事ができたゲーム会社は少ないのではないでしょうか。位置ゲームではポケモンGOが圧倒的に強いのですが、その他で利益を出しているのはコロプラのプラットフォームくらいではないかと思います。
 
「マネタイズし難い」との事ですが、他のゲームと比較すると、どのようなイメージでしょうか。
 
通常、ゲームの課金率は3%程度と言われていますが、その3%の方の使う金額が非常に大きい。強烈な課金です。当社のゲームは、一人当たりの金額は小さいですが、通常のゲームよりも課金率がはるかに高い事が特徴です。また、継続率の高さも特徴です。ほとんどのゲームは最初に入ってきたユーザーが3ヶ月以内にやめてしまいます。3ヶ月後には10%残るかどうか。1ヶ月以内に5~10%程度に下がるゲームがほとんどではないでしょうか。当社のゲームは、はるかに高い継続率を持っています。
 
 
なるほど。興味は尽きませんが、頂いたお時間がきたようです。丁寧なご対応有難うございました。御社の強みと共に、経営のベースになっている宮嶌社長の経験やお考えの一端をうかがい知る事ができました。最後に、株主や投資家、ユーザーの皆様へメッセージをお願いします。
 
モバイルファクトリーが生み出すサービスでユーザーの皆様に感動を届けたい、そう強く思っています。直近では、最もニーズの高いゲームというジャンルの中にストーリー要素を取り入れ、ユーザーの皆様に楽しんで頂いておりますが、今後は更に世の中に役立つコンテンツやサービスを生み出し、ユーザーの皆様に「プラスの感動」を提供していきたいと思います。現在、新作タイトルを鋭意開発中です。内容はお話できませんが、ご期待下さい。

また、2017年6月2日、当社株式の上場市場が東京証券取引所マザーズから東京証券取引所市場第一部へ変更されました。これもひとえに、多くの関係者の皆様からのご支援の賜物と心より感謝申し上げます。今後も皆様のご期待にお応えすべく、さらなる企業規模の拡大と一層の企業価値の向上に努めてまいりますので、引き続き変わらぬご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
 
有難うございました。宮嶌社長とモバイルファクトリーの益々のご活躍とご発展をお祈り申し上げます。
 
 
今後の注目点
次々と新しいゲームが配信され、ゲームのライフサイクルが短くなっているが、同社が得意とする位置ゲームはユーザーが長く遊べる事が強み。しかも、同社にはノウハウがあるが、課金が難しいためライバルが少なく、ガリバー「ポケモンGO」とはユーザー層が異なる。加えて、社会貢献(CSR活動)の一環でもある地方創生の支援に伴う事業展開も期待できる。
同社は(株)エイチ・アイ・エス(以下、HIS)を発起人とした「地方創生・観光プロモーションコンソーシアム」(2016年3月設立)に理事として参画している。このコンソーシアムはH.I.S.と異業種企業が連携し、地方創生を念頭に置いたデジタル観光プロモーションをワンストップで実現する事を目的としている。また、コンソーシアムの立ち上げに先立つ2015年10月には、岩手県の地域活性化に協力するべく、岩手県と連携協定を締結している。地方創生の支援は、事業拡大期待だけでなく、企業自らが取り組むべき課題の解決と社会的な課題の解決との同時実現を目指すCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)活動としても、注目を集めていくのではないだろうか。宮嶌社長をご紹介する際に引用させて頂いた「事業で社会に貢献に本気!」の実践である。
ちなみに、CSVとはハーバード大学経営大学院のマイケル・ポーター教授が2011年にハーバード・ビジネス・レビューで提唱した概念。社会的価値の実現を通じて事業価値や競争力を確立する新しい動きとして理解され、注目されている。

尚、通期予想に対する進捗率は、売上高47.4%(前年同期47.4%)、営業利益52.1%(同49.0%)、経常利益51.2%(同49.1%)、純利益51.3%(同47.9%)。同社の業績が下期偏重である事を考えると、利益面では「レキシトコネクト」の早期償却の影響を吸収して想定を上回る着地だったと思われる。
 
 
 
<参考:コーポレート・ガバナンスについて>
 
 
◎コーポレート・ガバナンス報告書       更新日:2017年06月05日
基本的な考え方
当社グループは、お客様、株主様、さらには社会全体の信頼と期待に応え、企業価値の極大化のために、法令遵守に基づく企業倫理の確立が最重要課題であると認識しております。そのために、リスク管理、監督機能の強化を図り、経営の健全性・透明性を高め、もって経済社会の発展に寄与していく所存であります。
 
<実施しない主な原則とその理由>
【補充原則4-1-2】
当社が属するモバイルコンテンツ業界は技術革新が目覚しく、サービス内容等についても日々進化しております。このような環境の中で、中長期計画を公表することは、環境の変化に対応する柔軟性等を損なう可能性があり、その結果当社の成長を阻害する可能性があります。そのため、当社では中長期の経営計画を公表しておりません。
 
<開示している主な原則>
【原則1-4】
当社は、政策保有株式については、事業上の連携強化等、当社の企業価値の維持向上に資すると判断した場合に保有する場合があります。なお、現時点において上場株式を保有しておりません。

【原則1-7】
当社は、関連当事者との取引については、その取引を行うことが合理的であるか等を考慮しております。また、取引条件が他の取引と比較して適正であるか等に留意して、取締役会の承認を得ることとしております。