ブリッジレポート:(7776)セルシード vol.27
(7776:JASDAQ) セルシード |
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企業名 |
株式会社セルシード |
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社長 |
橋本 せつ子 |
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所在地 |
東京都江東区青海二丁目5番10号 テレコムセンタービル |
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決算期 |
12月末日 |
業種 |
精密機器(製造業) |
項目決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期純利益 |
2016年12月 | 100 | -1,413 | -1,415 | -1,414 |
2015年12月 | 193 | -568 | -531 | -535 |
2014年12月 | 86 | -601 | -577 | -582 |
2013年12月 | 105 | -534 | -581 | -584 |
2012年12月 | 75 | -846 | -842 | -913 |
2011年12月 | 86 | -1,418 | -1,358 | -1,442 |
2010年12月 | 66 | -1,204 | -1,002 | -1,009 |
2009年12月 | 87 | -785 | -788 | -790 |
2008年12月 | 61 | -778 | -644 | -650 |
2007年12月 | 40 | -809 | -614 | -616 |
2006年12月 | 23 | -672 | -464 | -470 |
2005年12月 | 34 | -412 | -336 | -343 |
2004年12月 | 53 | -257 | -214 | -215 |
株式情報(6/7現在データ) |
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今回のポイント |
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会社概要 |
【再生医療とセルシードの戦略】
再生医療とは、失われた臓器や損傷、或いは機能が低下した臓器を再生して治療する新たな医療。様々な細胞に分化できる能力を持った幹細胞が鍵となる。現在、受精卵から作られる「ES細胞」、人口多能性細胞「iPS細胞」、及び生体の様々な組織にある「体性幹細胞」、の3つの種類の幹細胞があるが、「ES細胞」は受精卵から作られるため全ての細胞に分化する能力を持っているが、受精卵から作られる故に倫理的な問題がつきまとい、実用化に至っていない。
「iPS細胞」は、皮膚等の分化した細胞に4つの遺伝子を導入して培養した人口多能性細胞であり、京都大学の山中教授のノーベル賞受賞以降、研究が促進されてきた。しかし、分化のプロセス等、未だ解明されていない部分が多く、実用化には時間を要すると言われている。
一方、「体性幹細胞」は同社が実用化に最も近いと考えている幹細胞であり、同社は食道や膝の軟骨に近い部分の細胞をシート状に培養し、患者に移植するという治療の開発を進めている。 (同社資料より) 【再生医療の基盤技術 「細胞シート工学」】
「細胞シート工学」は、日本発・世界初の再生医療のプラットフォーム技術である。再生医療では培養された細胞が使われるが、従来の技術では、細胞の培養はできても、培養された細胞を無傷で回収する事ができなかった。これに対して、「細胞シート工学」は培養した細胞を無傷の状態で回収できる画期的な技術である。ポイントは、温度で性質が変わる温度応答性ポリマーで表面を加工した細胞培養皿で細胞を培養する事。温度応答性ポリマーは培養時の37℃(体温と同じ)では疎水性を示すが、20℃に温度を下げると親水性に変わり、親水性に変わると表面に付着した細胞が自然に剥がれる(温度を下げるだけで、無傷の状態で回収できる)。
・温度応答性ポリマーで表面を加工した細胞培養皿で細胞を培養
・温度を変えるだけで、細胞外マトリックスを保持したまま有機的に結合した「細胞シート」を培養皿から回収できる。 (同社資料より) 一方、「細胞シート工学」は、細胞外マトリックスを保持したまま有機的に結合した「細胞シート」を培養皿から回収する事ができる。 尚、2015年9月には、(株)セルシードの温度応答性細胞培養器材「アップセル」が組み込まれているテルモ製「ハートシート」(心臓の再生医療に用いる)が期限付き承認を取得した。(株)セルシードは2016年3月末にテルモ(株)との間で「細胞培養器材に関する取引基本契約」を締結しており、「ハートシート」専用(特注品)の温度応答性細胞培養器材「アップセル」の供給責任を負っている。期限付き承認とは、医薬品医療機器等法による「早期承認制度」に基づくもので、有効性や安全性の短期間での評価を可能にする一方、市販後も有効性や安全性の更なる検証を行い、5年以内に再度承認申請を行う事が義務付けられている。 |
中期経営計画(17/12期~19/12期)と計画達成に向けた取り組み |
【中期経営計画の概要と数値目標】
中期経営計画の概要
・ 日本で2019年の食道再生上皮シートの承認取得、販売開始を目指す・ 同種(他家)軟骨再生シートの開発を加速する ・ 食道再生上皮シート及び軟骨再生シートに続く、次期品目の開発に着手する ・ 細胞シート再生医療及び支援製品のサプライチェーン体制を構築する ・ 再生医療支援製品の新製品開発を推進し、更なる収益機会獲得を目指す ・ 日本発の細胞シート工学の世界展開のために海外企業との事業提携を積極的に 推進し収益の拡大、黒字化を目指す 【中期経営計画の達成に向けた取り組み】
(1)「食道再生上皮シート」と「軟骨再生シート」の販売承認取得 「食道再生上皮シート」
同社の説明によると、日本では、年間約22,000人が食道がんと診断され(日本では食道がんの90%が扁平上皮がん)、年間約11,500人が食道がんで死亡している。また、男性の発症率・死亡率は女性の5倍で、5年後の生存率は男性36%、女性44%、と男女共に低い。治療法として、2008年に保険収載された内視鏡切除手術(ESD)が増加しているが、ESDは手術後の食道狭窄の副作用がある。早期発見、内視鏡手術、食道再生上皮シートの導入により、食道がんを治せるがんにする事が同社のミッションである。「食道再生上皮シート」による治療は、食道がん再生治療法(食道創傷治癒・狭窄予防)として東京女子医大先端研が開発した治療法である。患者の口腔粘膜から採取した細胞を温度応答性培養器材で約2週間かけて培養し、細胞シートを作成する。細胞シートの培養に合わせて、食道がん切除内視鏡手術を行い、食道潰瘍面に移植する。 2008年から2014年にかけて大学で臨床研究が行われ、東京女子医科大学10症例、東京女子医科大学・長崎大10症例(長距離輸送検証:長崎大で採取した細胞を東京女子医大で培養し、長崎大で移植手術)、カロリンスカ大学病院(スウェーデン)10症例、の計30症例が既にあり、同社は、東京女子医科大学と開発基本合意契約を締結して同大学の研究成果を引き継いだ。 2016年8月に治験を開始
2016年4月の治験届を経て、2016年8月に国立がん研究センター(中央病院、東病院の2施設)及び東京女子医大において治験を開始した(フェーズ3相当の治験を9症例で実施する計画)。また、海外では、スウェーデンでの企業治験を計画しており、その推進役となる子会社CellSeed Sweden AB(スウェーデン)を2015年5月に設立し、2015年11月30日にはスウェーデン医薬品庁(MPA)に事前相談を行った。欧州全体での承認を目指して、欧州医薬品庁(EMA)との事前相談に向けた準備も進めている。
細胞シート移植用デバイスも同時に開発
「食道再生上皮シート」は移植作業に高度な技術を要するため、作業負担の軽減につながる細胞シート移植用デバイスも開発した。日本では「食道再生上皮シート」とのコンビネーション製品として販売承認を取得するが(細胞シートと組み合わせて治験を実施)、欧州では医療機器としての販売承認が必要なため、CEマーク(欧州での医療機器としての承認)の取得に向けた作業を進めている。
17/12期第1四半期のトピックス 2017年2月、再生医療等製品の「先駆け審査指定制度」の対象品目指定
2月に厚生労働省より再生医療等製品の「先駆け審査指定制度」の対象品目指定を受けた。「先駆け審査指定制度」とは、世界最先端の治療薬を国内の患者に最も早く提供する事を目指した制度。具体的には、指定要件を満たす画期的な新薬等について、開発の比較的早期の段階から先駆け審査指定制度の対象品目に指定し、薬事承認に係る相談・審査における優先的な取扱いの対象とする。指定を受ける事で、申請者は承認審査のスケジュールに沿った製造体制の整備がしやすくなる他、承認後には医療現場に円滑に提供できる。指定要件として、①新作用機序の画期性、②対象疾患の重篤性、③極めて高い有効性、④世界に先駆けて日本で早期開発・申請する意思、の4項目が挙げられている。 「軟骨再生シート」
「軟骨再生シート」は、東海大学整形外科佐藤正人教授との共同研究であり、スポーツによる損傷や加齢を原因とする軟骨欠損や変形性関節症を適応症とする(潜在患者は1,200万人とも言われている)。いずれも、現在、根治する方法がないが、東海大学佐藤教授との共同研究は、軟骨表面の根本的な再生を目的としており、既に8症例の臨床研究の実績を有する(膝の軟骨は、硝子(しょうし)軟骨と言い、耳や鼻等の軟骨とは異なり、クッション性と対摩耗性に優れた硬い軟骨で再生が難しいが、同社の「軟骨再生シート」は、硝子軟骨として膝の軟骨を再生できる事が臨床研究で確認されている)。販売承認の許認可機関である独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)との薬事戦略相談も始まっており、アドバイスを受けているが、更に相談を重ね、安全性データの蓄積と臨床プロトコルの確立に取り組んでいく考え。 尚、同社は、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(以下、「AMED」)の「自己軟骨細胞シートのための統合的評価手法」プロジェクトにも、(株)DNAチップ研究所、東海大学と共に参画している。 東海大学との共同研究
同社は2004年に温度応答性細胞培養皿の提供を開始し、2006年に共同研究を開始した。2010年以降は、同大学で始まった臨床研究を支援し、2014年には同社から研究員を派遣し、共同研究体制を強化した。臨床研究については、自己細胞シート移植の臨床研究が、2011年8月に第65回厚生科学審議会科学技術部会で承認された。同年10月に厚生労働大臣の意見書(厚生労働省発医政1003第3号)が発出され、同年11月に第1例目臨床研究が始まった。そして、2015年11月に8例の2年後評価が終了した(現在、移植施術後3年以上が経過したが、いずれも術後経過は良好だ。同種細胞シート移植についても、2017年2月15日に第1例目の臨床研究が始まった(移植手術を実施)。この臨床研究は、多指症患者から軟骨組織を採取し、2~3週間かけて培養した細胞シートを移植するもので(先天的に手の指が6本ある乳児から切除された指の軟骨細胞を同意を得て利用)、今後3年間で10名の患者への移植を計画している。 尚、東海大学と共同で特許の出願も行っており、既に国内特許が成立し、海外特許が審査中である。今後、更に特許網を広げていく。 (2)台湾企業との細胞シート再生医療事業に関する台湾での独占的事業提携契約の締結
2017年4月に、三顧股有限公司(MetaTech(AP) Inc.)(本社:台湾 新北市、代表者 胡立三、以下「MetaTech社」)との間で、台湾での細胞シート再生医療事業(食道再生上皮シート・軟骨再生シート)の独占的事業提携契約を締結した(2016年12月から協議を進めており、協議開始に当り、MetaTech社から導出検討着手金50百万円を受領している)。
契約の概要及び対価
今後、台湾での細胞シート再生医療事業の開発・事業化は、MetaTech社が開発主体となり、セルシード支援の下で進めていく。この契約の対価として、(株)セルシードは食道再生上皮シート・軟骨再生シートそれぞれのMetaTech社の開発進捗に応じた目標達成報奨金(マイルストーン収入)及び、開発進捗に対応して提供する開発・製造関連データや開発サポートにかかる対価(「開発サポート料」)を、最大12億5千万円程度受け取る予定。また、上市(販売)に至った際には、売上高に応じた数%程度のロイヤルティを受領する。また、一部の新聞記事ではMetaTech社が「2019年までに製品化を目指している」といった記述が見られたが、本件についてインベストメントブリッジがセルシード橋本社長に取材したところでは、「特に契約上で2019年までに製品化をコミットしたものはない。あくまで、開発主体となるメタテック社の意気込みを報道陣に語っていたものだと理解している。」ということだった。 なお、セルシードは2月発表の中期経営計画にて、食道再生上皮シート(日本)の2018年の販売承認申請及び2019年の販売承認取得を目指している。 17/12期より「開発サポート料」を売上計上
この契約締結の対価の一部である「開発サポート料」は、17/12期より稼働時間に応じて売上計上される予定。「開発サポート料」が(株)セルシードの業績に重大な影響を与える事が判明した場合は速やかに情報を開示する、としている。MetaTech社が今年度から開発に着手する事を確認しているが(このため、「開発サポート料」は17/12期から売上計上)、MetaTech社の開発進捗に応じた対価の受領は来期以降になる見込み。
MetaTech社概要
MetaTech社は、電子材料、医療美容製品や医療機器の卸・小売業、バイオテクノロジーやその他のビジネスサービスを提供する台湾の店頭公開企業。1998年9月17日の設立で、15/12期は、売上高21億53百万台湾ドル(1台湾ドル=3.65円換算で78億58百万円)、経常利益6百万台湾ドル(同22百万円)、総資産10億33百万台湾ドル(同37億70百万円)、純資産5億24百万台湾ドル(同19億13百万円)、資本金4百万台湾ドル(同1億60百万円)。
(3)細胞培養施設が特定細胞加工物製造許可の取得
細胞シート培養センターが、2017年3月13日付けで再生医療等の安全性の確保等に関する法律第35条第1項の規定に基づく「特定細胞加工物製造許可」を取得した(許認可権者:厚生労働省)。許可取得を受けて、同社は治験製品の製造準備体制の整備を加速する。また、許可を取得した事で特定細胞加工物の受託製造も可能になるため、再生医療提供機関から特定細胞加工物として細胞シートの製造を受託する「細胞シート受託加工」の事業化も検討していく。 尚、細胞シート培養センターは、細胞シート製造を安定的かつ迅速に推進する事を目的として、2016年8月に本社のあるテレコムセンタービル(東京都江東区青海)の6階に設置された。延床面積約763㎡で、自動モニタリングシステムによって、洗浄度、室圧、温湿度、機器(培養器や保冷庫等)が自動管理され、監視カメラシステムが設置されている。また、羽田空港まで20分と至近で、空輸にも対応しやすい。 (4)再生医療支援事業の強化
新製品・新応用の開発促進による収益機会の拡大と営業戦略の拡充に取り組む。新製品・新応用の開発促進による収益機会の拡大では、従来からの研究用器材の新製品開発に加え、臨床応用用途の製品開発にも力を入れる。テルモ(株)への「ハートシート」専用の温度応答性細胞培養器材供給は、臨床応用用途の一例である。営業戦略の拡充では、具体的に、国内外の販売網強化、顧客サポートの充実、及び展示会・セミナーの開催、の3項目を挙げている。国内販売については、現在、代理店2社に依存しているが、取り扱いを希望する企業が増えている。海外については、国毎に代理手を整備していく。顧客サポートの充実では、新しい研究への応用を支援すると共に、より使いやすい製品等、ユーザーニーズに応えた新製品の開発につなげていく。また、認知度の向上を図るべく、展示会やセミナーを開催して説明機会も増やす。
(5)資金調達の状況
2017年3月6日に、株価下落で今後の権利行使が難しくなっている未行使の新株予約権(第13回)の取得・消却を行うと共に、新たに新株予約権(第16回)の第三者割当を実施した。新株予約権の概要は下記の通り。
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2017年12月期第1四半期決算 |
第1四半期は想定通りの進捗
細胞シート再生医療事業での売上計上はなく、温度応答性細胞培養器材の販売に伴う売上12百万円を計上した。販管費の増加は研究開発費の増加(1億10百万円→1億30百万円、前年同期比18.4%増)によるもので、その他の費用は1億16百万円と前年同期比5.4%減少した。また、日本医療研究開発機構(AMED)「自己軟骨細胞シートのための統合的評価手法の開発」プロジェクトにかかる受託事業の完了に伴い、補助金収入10百万円を営業外収益に計上した。再生医療支援事業では、温度応答性細胞培養器材の販売活動や研究開発活動はもちろん、再生医療産業化展及び第16回再生医療学会総会への付設展示会に同社ブースを出展する等、器材製品の積極的な販売促進活動にも取り組んだ。 一方、細胞シート再生医療事業では、既に説明した通り、2月に治験実施中の食道再生上皮シートが厚生労働省より再生医療等製品の「先駆け審査指定制度」の対象品目指定を受け、3月には、細胞培養センターが再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づき、「特定細胞加工物製造許可」を取得した。また、第2四半期入りした4月には、MetaTech社との間で細胞シート再生医療事業に関する台湾での独占的事業提携契約を締結した。 |
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<参考:コーポレートガバナンスについて> |
◎コーポレートガバナンス報告書 更新日:2017年04月05日
基本的な考え方
当社は、技術革新と創造性を発揮し、質の高い優れた製品とサービスの提供を通じ人々の健康と福祉に貢献していくことを使命とし、全ての企業活動において品質を高めるべく企業統治の整備を進めています。今後につきましては、ディスクロージャーの透明性を高めるため一層説明責任を充実するとともに、さらなる経営のチェック機能強化を図ってまいります。 【コーポレートガバナンス・コードの各原則を実施しない理由】
当社は、JASDAQ上場企業としてコーポレートガバナンス・コードの基本原則をすべて実施しております。
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