ブリッジレポート
(4319) TAC株式会社

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ブリッジレポート:(4319)TAC vol.20

(4319:東証1部) TAC 企業HP
斎藤 博明 社長
斎藤 博明 社長

【ブリッジレポート vol.20】2016年3月期第3四半期業績レポート
取材概要「第3四半期実績の通期予想に対する進捗率は100%を超過しているが、下のグラフに見られるように、今期も含めた過去3期の営業利益の四半期推移・・・」続きは本文をご覧ください。
2016年3月1日掲載
企業基本情報
企業名
TAC株式会社
社長
斎藤 博明
所在地
東京都千代田区三崎町3-2-18
決算期
3月 末日
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2015年3月 19,537 140 404 208
2014年3月 20,526 1,034 1,299 816
2013年3月 20,999 136 377 977
2012年3月 22,578 -606 -530 -799
2011年3月 24,575 465 283 -244
2010年3月 23,991 623 442 40
2009年3月 21,092 1,330 1,352 669
2008年3月 20,741 1,069 1,230 443
2007年3月 20,553 1,173 1,333 742
2006年3月 19,828 421 631 249
2005年3月 19,669 459 558 81
2004年3月 19,542 988 943 470
株式情報(2/16現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
179円 18,503,932株 3,312百万円 4.9% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
2.00円 1.1% 20.27円 8.83倍 236.95円 0.8倍
※株価は2/16終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期実績。
 
TACの2016年3月期第3四半期決算概要等についてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
「資格の学校TAC」として、資格取得スクールを全国展開。社会人や大学生を対象に、公認会計士、税理士、不動産鑑定士、社会保険労務士、司法試験、司法書士等の資格試験や公務員試験の受験指導を中心に、企業向けの研修事業や出版事業等も手掛ける。
 
 
【沿革】
1980年12月、資格試験の受験指導を目的として設立され、公認会計士講座、日商簿記検定講座、税理士試験講座を開講。2001年10月に株式を店頭登録。03年1月の東証2部上場を経て、04年3月に同1部に指定替えとなった。09年9月には司法試験、司法書士、弁理士、国家公務員Ⅰ種・外務専門職等の資格受験講座を展開していた(株)KSS(旧・早稲田経営出版)から資格取得支援事業及び出版事業を譲受。これにより、会計分野に強みを有する同社の資格講座に法律系講座が加わると共に、公務員試験のフルラインナップ化も進んだ。2013年12月、小中高生向け通信教育事業を柱とする(株)増進会出版社と資本・業務提携契約を締結。2014年6月には医療事務分野への進出を狙いM&Aを実施。
 
【強み】
(1)試験制度の変化や法令改正へのきめ細かい対応
同社は、会社設立間もない頃から講師陣が毎年テキストを改訂し、試験制度の変化や法令改正にきめ細かく対応することで他社との差別化を図り受講生の支持を得てきた。事業が200億円規模になると、毎年発生するテキスト改訂コストを吸収することが可能だが、新規参入を考える企業はもちろん、同社よりも事業規模の劣る同業者にとっても、テキストを毎年改訂することは大きな負担である(ノウハウの蓄積が進み高い生産性を実現していることも強みとなっている)。
 
(2)積極的な講座開発と充実したラインナップ
同社は大学生市場の開拓も含めて積極的に新しい分野(新講座の開設)にチャレンジすることで業界トップに上り詰め、業界初の株式上場を果たした。また、09年には、Wセミナーの資格取得支援事業を譲受し、従来手薄だった法律系講座や公務員試験のラインナップを拡充した。法律系講座及び公務員講座は、会計系3講座(公認会計士、税理士、簿記検定)と共に3本柱を形成し、マーケットの大きい3本柱を中心に多様な講座をラインナップしている。
 
(3)受講生中心主義の下でのサービスの先進性
サービスの先進性も同社の強みである。教育メディアや講師を受講生が自由に選択できるシステムを、資格取得学校市場で最初に導入したのは同社である。その背景にある受講生中心主義の経営姿勢は、テキストの品質と共に、「資格の学校TAC」のブランド醸成に一役買っている。
 
 
 
ROEは、マージンの低下に加え総資産回転率も低下したため前々期に比べ大きく下落した。
先ずは今期以降、本格的な収益力回復を遂げることが出来るのか?がカギとなる。
2002年以降の平均ROEは10.5%と比較的高水準で推移している。
 
 
2016年3月期第3四半期決算概要
 
売上高について
各講座の受講者は受講申込時に受講料全額を払い込む必要があり(同社では、前受金調整前売上高、あるいは現金ベース売上高と呼ぶ)、同社はこれをいったん「前受金」として貸借対照表・負債の部に計上する。その後、教育サービス提供期間に対応して、前受金が月毎に売上に振り替えられる(同社では、前受金調整後売上高、あるいは発生ベース売上高と呼ぶ)。損益計算書に計上される売上高は、「発生ベース売上高(前受金調整後売上高)」だが、その決算期間のサービスや商品の販売状況は現金ベース売上高(前受金調整前売上高)に反映され(現金収入を伴うためキャッシュ・フローの面では大きく異なるが、受注産業における受注高に似ている)、その後の売上高の先行指標となる。このため、同社では経営指標として現金ベース売上高(前受金調整前売上高)を重視している。
 
季節的特徴について
同社が扱う主な資格講座の本試験は、第2四半期(7月~9月)及び第3四半期(10月~12月)に集中しており、特に公認会計士・税理士講座等の主力講座においては、第2・第3四半期は試験が終了した直後で、翌年受験のための新規申し込みの時期となり、一方、第4四半期(1月~3月)及び第1四半期(4月~6月)は全コースが出揃う時期にあたる。
第2・第3四半期は、現金売上及び売掛金売上は多いものの受講期間に応じて前受金に振り替えられる一方、経費は毎月一定額計上されるため売上総利益率は減少する傾向がある。これに対して第4・第1四半期はこれらの前受金が各月に売上高に振り替えられる期になるため売上総利益率は増加する傾向がある。
 
 
増収・大幅増益
現金ベース売上高は前期比7.3%増の154億84百万円。発生ベース売上高は同2.9%増の151億73百万円。財務・会計分野、金融・不動産分野が好調だったのに加え、医療・福祉分野でM&Aによって子会社化した関西2社の業績取り込みも寄与した。
売上原価、販管費における賃借料、人件費が、前年並み若しくは微減であったため、営業利益は同104.1%増の7億34百万円となった。営業外収益において投資有価証券運用益20百万円、営業外費用において支払利息56百万円等があった結果、経常利益は同25.1%増の7億51百万円、四半期当期純利益は同18.2%増の4億30百万円となった。
 
 
【個人教育事業】
増収・黒字転換となった。
公認会計士講座、不動産鑑定士講座、宅地建物取引士講座、社会保険労務士講座、公務員講座等を中心に多くの講座で前年を上回った。一方、合格発表が昨年よりも約1週間遅かった税理士講座、受験者数減少が続く司法書士は前年を下回った。
講師料、教材制作のための外注費、賃借料等のコスト削減を継続している。
 
【法人研修事業】
増収・増益だった。
企業研修、内定者研修、新人研修や職階別研修等の受注が引き続き好調だった。
講座別では、宅建、ビジネススクール、証券アナリスト、情報処理、CompTIAが前年を上回った。
提携校事業は、会計士、公務員が好調な一方、税理士はマイナスで、全体では前年を上回った。
大学内セミナーは、簿記、会計士、公務員が前年を上回る一方、司法試験および行政書士は前年並みで、就職対策がマイナスだったが全体では前年を上回り引き続き好調に推移した。
自治体からの委託訓練は、景気回復による需要の減少でマイナスとなったほか、昨年消費税のバージョンアップ特需があった税務申告ソフト「魔法陣」も減収だった。
なお、TACと株式会社ハンドとの間で締結していた「魔法陣」の総代理店取引契約を2016年3月31日をもって合意解約することとなっている。
 
【出版事業】
2桁の増収・増益だった。
TAC出版では、従来の分かりやすさに見やすさ・理解しやすさを付加したフルカラー書籍(簿記・宅建士・FP・社労士等)が好評だった。また、マイナンバーに関するもの等の実生活に密着した実用書をムック形式で新たに出版した。
加えて、同社の日商簿記書籍利用者のために、2016年度以降に予定されている日商簿記検定の出題試験区分改定への対応をサポートする特設サイトや資格取得を独学で目指す受験者を応援するサイトを設ける等、出版物以外の側面からも受験生を支援する施策を展開している。
講座別では、簿記、宅建士、社労士、FPが特に好調だった。
W出版では、会社法や商業登記法の改正関連書籍の貢献もあり、司法試験、司法書士、行政書士が増収だった。
販売促進の面では、「TAC定期便」等を通じた書店の売上サポートや緻密な情報提供、書店での棚作りまで含めた細やかな提案、「TACグループ資格祭り」の開催等による書店との連携強化、独学道場(独学者向けのオリジナル講座)の商品ラインナップ拡大に努めた他、更なる拡販を目指し12月には直販サイト(サイバーブックストア)をリニューアルした。
 
【人材事業】
増収・増益だった。
子会社の(株)TACプロフェッションバンクが手掛ける人材事業は、監査法人や税理士法人などの会計業界の人材ニーズが旺盛で会計士・税理士向けの就職説明会が好評を博したこと、新たに始めた税理士法人等のプロモーションビデオ制作の受注が好調で、求人広告売上が増加した。
人材紹介売上は第2四半期まで前年を下回っていたが、昨夏の税理士試験後に試験受験者を対象に実施した就職相談会において多くの登録者を確保、秋以降の紹介成約に繋がったことで第3四半期では前年をやや上回る売上となった。
一方で景気回復に伴う正社員志向の高まり等により派遣スタッフの稼働が引き続き低水準で推移し、人材派遣売上は減収となった。医療系人材サービスは、登録者の確保が難しいことに加え、病院・クリニック等が求める求人条件と求職者の希望の間に隔たりがあることが課題となり低調となった。
 
 
【マーケット概要】
同社が取り扱う各種資格試験の2014年の本試験申込者は2,510千人(前年比-8.3%)と、2010年の3,086千人をピークに4年連続して減少しているが、そろそろ下げ止まりになると会社側は見ている。
主な資格マーケットは以下の様な概況となっている。
 
簿記検定申込者数は545,431人で5年ぶりに前年比プラス(+11,223人)となった。
ロースクールは3,928人で制度が始まった2003年の31,301人から約9割減少。
社労士、教員採用試験と申込者、受験者は対前年比で減少した。
 
財務・会計分野
公認会計士試験については、大手監査法人は一昨年からの積極採用姿勢が続いており、本試験合格者はほぼ全員が採用される良好な状況となっており、同社においても、新規学習者向け入門コースの受講申込みは前年を大きく上回って推移している。
一方、受験経験者向けコースの申込みは一昨年までの急激な受験者の減少の影響で低調に推移。単科での受講を選択する受講生が増加傾向にある。
簿記検定は、講座売上はほぼ前年並みだったが、「スッキリわかる」「みんなが欲しかった!」「よくわかる」等の簿記関連書籍の売れ行きが好調だった。
 
経営・税務分野
平成27年度の税理士試験の受験申込者数は47,145名(前年比5.5%減、平成27年12月18日国税庁発表)と依然として減少傾向が続いている。また、平成27年度の合格発表が昨年度よりも約1週間遅かったことで、合格発表後の税理士講座への申し込みが昨年に比べ遅れている。中小企業診断士は、今年度の1次試験の合格率が高かったことで受験経験者向けコースの申込みが低調だった一方、2次試験の合格率は低かったため次年度の2次試験を目標とするコースの申込みが好調に推移したことに加え、受験対策書籍の販売も好調だった。
 
金融・不動産分野
景気回復や不動産市場の活発化の恩恵を受け宅建、不動産鑑定士、マンション管理士、建築士など不動産系は好調に推移した。
加えて、証券アナリスト、FP講座、ビジネススクールなど金融系も順調だった。
 
法律分野
司法試験講座は、無駄を省き学習量を軽減した「4A基礎講座」が初心者から受験経験者まで幅広く支持を集めている。また、過去問を分析したオプション講義も好評で順調に受講者数を伸ばし、売上も増加した。
また、行政書士は11月の本試験後の申込みが低調で講座は減収となったが、W出版の「合格革命」シリーズの売れ行きが好調だった。一方、司法書士、弁理士および通関士は低調だった。
 
公務員・労務分野
マイナンバー制度の創設などの社会情勢を受け社会保険労務士への注目度が上がっており、社会保険労務士講座への申込みは初学者向けコースを中心に堅調に推移した。また、平成27年度試験の合格率の急激な低下(前年度9.3%に対し今年度2.6%)を受けて、再受験者を応援する特別キャンペーンを実施するなどして再受験者の獲得に努めた。加えて、フルカラーに全面改訂した「必修テキスト」(TAC出版)の好調もあり、社労士講座全体の現金ベース売上は増収だったが、発生ベースでは減収となった。
公務員講座では、国家一般職・地方上級講座は、民間就職状況が好転しているため公務員志望者が減少傾向にあるが、新たに数的処理の講義を手厚くした商品の投入や早期に学習を開始することを希望する大学生の需要に対応したコースの販促強化等により現金ベース売上高は増収となったが、国家総合職・外務専門職講座では減収だった。
 
情報・国際分野
情報処理講座は、個人向けではITパスポート・基本情報コースが低調だったが、試験要綱が改定され従来より受験しやすくなる応用情報コースや平成28年度春試験より新たに開始される「情報セキュリティマネジメント試験」コースの集客が好調だった。
法人向けの企業研修はほぼ前年並みで、講座全体では増収だった。
また、CompTIA講座はメインの企業研修が好調。米国公認会計士、米国税理士(EA)、米国公認管理会計士(USCMA)TOEIC(R)TEST等の国際資格の現金ベース売上高は増収だった。
 
医療・福祉分野
医療系人材サービスでは、㈱医療事務スタッフ関西において中規模のクリニックを新たに獲得した。(株)TAC医療事務スタッフは差別化による収益の拡大を図るため、2015年7月に診療報酬に係るコンサルテーションサービスやレセプトチェックサービスを提供する(株)TMMCと資本業務提携したほか、求職者(登録者)を確保するべくキャンペーンや個別相談会、インターネット媒体への掲載等を実施した。
 
その他
税務申告ソフト「魔法陣」は消費税増税に伴う需要増の反動減で減収となった。一方、人材子会社(株)TACプロフェッションバンクが行う人材ビジネスでは、会計業界の人材ニーズが旺盛で会計士・税理士向けの就職説明会が好評だったこと、新たに始めた税理士法人等のプロモーションビデオ制作の受注が好調で、求人広告売上が増加した。第2四半期まで前年を下回っていた人材紹介売上は、第3四半期では前年をやや上回ったが、人材派遣売上は引き続き低調だった。
 
 
2016年3月期第3四半期における受講者数は170,027名(前年同期比6.2%増)となり消費税増税前の駆け込み申込みによる反動減の影響が残った前年同期を上回った。個人受講者、法人受講者とも増加した。個人・法人を合わせた講座別では、宅地建物取引士講座、証券アナリスト講座、公務員(国家一般職・地方上級)講座、CompTIA講座が大きく増加したほか、ビジネススクール、マンション管理士講座、不動産鑑定士講座、情報処理講座等も好調だった。
一方、公認会計士講座、社会保険労務士講座、司法書士講座、行政書士講座等は受講者数が減少した。
法人受講者は、通信型研修、学内セミナー、提携校が増加となった一方、委託訓練は景気回復に伴い大幅な減少となった。
 
 
現預金、売上債権の増加等で流動資産は前期末比16億52百万円増加した。長期預金、差入保証金の減少等で固定資産は同2億80百万円減少し、資産合計は同13億71百万円増加の226億76百万円となった。
前受金が同4億9百万円、有利子負債残高が同3億82百万円それぞれ増加し、負債合計は同9億93百万円増加の179億11百万円となった。純資産は利益剰余金の増加等で同3億78百万円増加の47億65百万円。
この結果、自己資本比率は前期末より0.4%上昇し21.0%となった。
 
 
2016年3月期業績予想
 
 
業績予想に変更無し。微増収ながらも大幅増益
通期の業績予想に変更は無い。現金ベース売上高は前期比8.0%増の203億61百万円を予想。事業の性格上、一定規模の拠点ネットワーク維持のためには売上高の維持・拡大が不可欠であり、金融・不動産分野、教職員対策講座など堅調な講座を拡大させると共に、新規講座の開発やアライアンス強化で売上拡大を目指す。また、成長のための投資(新規事業の開拓)を行うとともに、コスト削減にも継続的に取組む。
営業利益は同348.2%増の630百万円。本社ビル取得に要した一時的な諸費用がなくなること及び賃借料の削減などで、販管費が前期より減少し大幅増益を見込む。
利益は既に計画を超過しているが、売上動向にも不透明感があること等から、会社側は引き続き慎重な姿勢を取っている。
配当は前期より1円増配の2.00円/株を予定。予想配当性向は9.9%。
 
(2)中長期の取り組み
売上高の維持拡大に向けては、(株)オンラインスクールにおける課金サービス、前回のレポートで紹介した医療系人材事業の推進(株式会社TMMCとのアライアンス)、建築士講座の拡大、語学事業への注力などを挙げている。
この中で2012年11月に新規開校した建築士講座は、優秀な講師陣、ポイントを絞ったオリジナル教材、合格第一主義によるカリキュラム、競合他社との価格優位性などを要因に、申込状況は好調に推移している。
不動産市場の活発化を追い風に更なる売り上げの拡大を図る考えだ。
また、成長投資としてはシナジーの見込めるM&A案件に積極的に取組んでいく。
 
 
今後の注目点
第3四半期実績の通期予想に対する進捗率は100%を超過しているが、下のグラフに見られるように、今期も含めた過去3期の営業利益の四半期推移を見ると事業の性質上、第3四半期、第4四半期は損失となる傾向がある点には留意が必要だ。
株式市場全体が調整に入っている中、PER、PBRとも市場平均を大きく下回っている。利益体質定着への構造転換は進んだようだが、トップラインをいかに伸ばすかを示すことが投資家の関心を集めるためには不可欠となろう。