ブリッジレポート
(6461) 日本ピストンリング株式会社

プライム

ブリッジレポート:(6461)日本ピストンリング vol.1

(6461:東証1部) 日本ピストンリング 企業HP
山本 彰 社長
山本 彰 社長

【ブリッジレポート vol.1】2014年度業績概要レポート
取材概要「同業2社及びTOPIXとの相対株価チャートを見ると、過去10年、過去1年共に同社株はTPRおよびTOPIXをアンダーパフォームする形となっている。・・・」続きは本文をご覧ください。
2015年9月1日掲載
企業基本情報
企業名
日本ピストンリング株式会社
社長
山本 彰
所在地
さいたま市中央区本町東5−12−10
決算期
3月末日
業種
機械(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2015年3月 51,657 1,946 2,172 2,173
2014年3月 50,430 1,759 1,733 1,352
2013年3月 47,018 2,225 2,184 2,013
株式情報(8/28現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
203円 83,741,579株 17,000百万円 7.9% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
60.00円 3.0% 182.51円 11.1倍 374.19円 0.5倍
※株価は8/28終値。発行済株式数は直近期決算短信より。ROE、BPSは前期末実績。
EPS、DPSは、2015年10月1日付で実施予定の株式併合を考慮。
 
日本ピストンリングの会社概要、中期経営計画、山本社長へのインタビューなどを紹介いたします。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
自動車エンジンの重要な構成部品であるピストンリングやバルブシートを製造販売。ピストンリングでシェア日系向け3割弱。日系自動車メーカー全社および非日系の有力メーカー多数に製品を納入している。
金属材料・表面改質・精密加工等における高い技術力が強み。金属粉末射出成形品事業、歯科インプラント事業など非自動車エンジン部品分野の事業拡大や新製品の開発を進めている。
 
【沿革】
1935年8月に「自動車工業確立ニ関スル件」が閣議決定され、豊田自動織機製作所(現トヨタ)、日産などによる国産自動車の量産化がスタートする直前の1931年に鈴木友訓氏が、埼玉県川口町(現川口市)に日本ピストンリング製作所を創業。1934年には日本ピストンリング株式会社として川口工場を開設した。
第2次大戦時下、航空機用クロムめっきリングの量産も開始。1945年の終戦により工場を一時閉鎖したが、1949年の東京証券取引所における株式取引再開と共に、株式を公開した。
経済復興、高度経済成長、日本製自動車の輸出急増に伴い業績は急拡大する。
1970年代からは海外に進出しドイツ、アメリカの自動車メーカーへの納入を進めると共に、2000年以降は、タイ、インドネシア、中国等に海外生産拠点を設立し、グローバルな生産販売体制を整備した。
2014年には非自動車エンジン部品事業の拡大を目指し、金属粉末射出成形品事業および歯科インプラント事業を譲り受けた。
 
 
山本社長は、これらを全社に浸透させるためにはただ唱和、読み上げでは意味がなく、それぞれの現場に即した形で、Face to Faceで繰り返し説くことが重要と考えており、国内外の工場に出向くたびに社員との対話を心がけているという。
 
【市場環境】
◎世界の自動車生産台数
調査会社IHS Automotiveの調べによると、6トン未満のLight Vehicleの世界生産台数は、足元2014年の8,700万台から増加を続け、2018年に1億台を突破し、2022年には1億700万台に達するという。
内訳を見ると、欧米、日本など先進国が微増なのに対し、中国を中心に、ASEAN、南米、インドなどの新興国は増加が続き、シェアは2014年の49.9%から2022年には56%まで上昇する。年平均成長率は全体が2%台なのに対し、新興国はこれを上回る4%台の成長が見込まれている。
 
 
一方、パワートレイン(駆動方式)別の生産台数予想では、環境意識の高まりから、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンのシェアは若干低下し、ガソリンエンジンと電気両方で駆動するHV(ハイブリッド)またはPHV(プラグインハイブリッド)のシェアが上昇すると見られている。ただ、2022年1億700万台に占めるガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、エタノール・CNG(圧縮天然ガス)、PHV&HV、EVのシェアはそれぞれ、63%、20%、8%、9%、1.2%となっており、世界市場全体で見ればガソリンエンジン、ディーゼルエンジンが主流であることには変わりはなく、ピストンリングや、バルブシートの需要は今後も堅調に推移すると見られる。
 
 
ピストンリングを製造している上場企業は同社を含めて3社。ピストンリングのシェアトップは5割近い(6462)リケンだが、企業規模、収益性では(6463)TPRが頭一つ抜けている。
(6461)日本ピストンリングは、リケンと共に、PBRは1倍を下回っている。認知度の向上とともに、収益性の向上が喫緊の課題となる。
 
【事業内容】
◎主力製品
社名ともなっているピストンリングを中心に、バルブシートをはじめ、様々な自動車部品を製造・販売している。2014年度の自動車関連製品の売上構成比は86.6%である。
一方で、2014年に金属粉末射出成形品(メタモールド)事業と歯科インプラント事業を譲り受けた。非自動車エンジン部品分野の事業拡大、新製品の開発も進めている。
(新事業、新製品については、「第六次中期経営計画」に記述)
 
 
 
ピストン外周の溝(みぞ)に装着され、ばねのような張りを持ち、閉じると真円になるピストンリングは、エンジン燃焼室の苛酷な条件の中で爆発ガスをシールし、潤滑油をコントロールする。また、熱を逃がし、摩耗や焼き付けを抑える役割を持ち、気筒あたり1stリング、2ndリング、オイルリングの3本を基本に構成される。
ピストンに装着されたピストンリングの張力が高すぎると、スムーズなピストン運動を阻害することによる燃費への悪影響、逆に低すぎると爆発ガスが抜けることによるエネルギーロスやオイルあがりによるオイル消費の増加につながる。
このためピストンリングの張力は高すぎず、低すぎない最適設計が必要となる。

また、シリンダ内の高温下で高速運動をすることによる摩耗や焼き付きを防ぐために、シリンダ内壁にはエンジンオイルの油膜が形成されるが、この油膜も厚ければ良いという事はなく、オイルリングによって適切な厚さを保つ必要がある。
このようにピストンリングには耐摩耗性、強靭性、耐熱性、熱伝導性、オイルの保持性など多くの機能が要求されるが、これによってエンジンの性能と耐久性は飛躍的に向上してきた。
近年では、環境問題に対する意識が急速に高まる中、NOx、HC等の低減を求めた低排出ガス車の認定制度、CO2削減の為の燃費規制などへの対応が急務で、低燃費ニーズに対応した高性能化がピストンリングには求められている。

ピストンリングに求められるこれらの課題について、同社では、低フリクション対応のピストンリング構成、更なる薄幅化、新表面処理や高耐久性安価材料の開発、チューニング技術による最適設計などのテクノロジーを開発・提案している。

このように極めて高い技術力を要求されるピストンリングを安定的に製造・供給し、なおかつ常に技術革新を進めることが出来る企業は同社を含めて限られた数社のみとなっている。
 
 
<バルブシート>
シリンダヘッドのバルブ着座部分に圧入される。高温下でバルブに叩かれても摩耗・劣化しない耐久性と、燃焼ガスを確実にシールさせる高い気密性が求められる重要なパーツで、焼結合金でつくられている。同社では、材料開発力を活かした豊富な材料バリエーションにより、自動車メーカーからの要求を高いレベルで実現可能な優れたバルブシートを提供している。日系向けでは4割弱とトップシェアを誇り、非日系向けにも拡販を図っている。
 
 
<カムシャフト>
各気筒のバルブを開閉する役割を担い、軽量、高耐面圧、設計の自由度が高いなど多くの特長を持つ組立式焼結カムシャフトは、同社が特許を持つ「オンリーワン商品」。富士重工業の全内製エンジンに搭載され、高い耐久性が要求されるトラックメーカーにも納入されている。
 
 
◎顧客
日系自動車メーカー全社にピストンリング、バルブシートを納入している。
これら製品は、エンジン性能向上のために極めて高い技術水準が要求される自動車部品であり、近年では環境問題の高まりから低燃費や代替燃料対応として、アウディ、VW、フォード、GM等の非日系自動車メーカーへ拡販がすすんでいる。
 
 
【生産拠点&販売拠点】
<国内>
4か所の製造拠点と7か所の販売拠点(札幌、仙台、本社、名古屋、大阪、広島、福岡)を有している。
 
 
<海外>
ピストンリング、バルブシートを中心に、米国、中国、アセアン、インドなどで生産、販売を展開している。
 
 
 
【特徴と強み】
常に高い信頼性を要求される自動車の機能部品メーカーとして80年間にわたり存在感を示し、国内外の多数の有力自動車メーカーに採用されてきた理由は、何にもまして同社の高い技術力である。近年では自動車用内燃機関の「熱効率50%超」達成および排ガスクリーン化に貢献すべく主要製品の開発を進めている。

同社の中心技術は大きく以下の3点に分類される。
 
 
製品開発に当たり、これらの技術と同社が得意とするエンジンにおけるシミュレーション技術をかけ合わせる能力も同社の大きな強みである。

加えて、同社の高い技術力が不可欠な自動車メーカーは同社の企業価値を構成する重要な「顧客資産」と言えるだろう。
 
 
過去5年間ROEは低下傾向にあるが、これは有利子負債の削減進展に伴うレバレッジの低下によるものであり、大きな問題ではない。
ただ、同業他社と比較した利益率は課題であり、第六次中期経営計画の目標に掲げている「営業利益率 7%以上」の達成を期待したい。
 
 
2014年度決算概要
 
 
主力製品が堅調に推移し増収増益
売上高は前年度比2.4%増の516億円。主力のピストンリング、バルブシートが日系向け、非日系向け共に堅調に推移した。海外売上比率は52%と初めて国内外の売上比率が逆転した。
前期にあった税金還付請求訴訟に関する費用3.3億円が無くなったことや、原価低減(8億円)および増産効果(3.1億円)等により、減価償却費増3.7億円、人件費増3.5億円、原燃料費増2.5億円等を吸収し経常利益は同25.4%増の21億円となった。
 
 
ピストンリングはインドネシアにおける合弁事業解消の影響を受けたものの、ダイムラー向け等が伸長した。
バルブシートはホンダや非日系向けが、組立式焼結カムシャフトは富士重工業向けが好調だった。
 
 
現預金は前期末に比べ減少したが、売上債権、たな卸資産が増加し、流動資産は同9億69百万円増加した。建物及び構築物、機械装置及び運搬具、投資有価証券の増加により固定資産は同42億21百万円増加し、資産合計は同51億91百万円増の672億64百万円となった。
有利子負債が同12億87百万円減少し、負債合計は同10億23百万円減少の359億38百万円となった。
利益増による利益剰余金増加、円安に伴う為替換算調整勘定の増加により純資産は同62億14百万円増加の313億25百万円となった。
この結果、自己資本比率は前期末の39.6%から45.7%へ6.1ポイント上昇し、過去最高となった。
有利子負債およびネット有利子負債は下記のグラフの様に着実に削減が進んでいる。
 
 
利益は増加したが、たな卸資産の増加などで営業CFのプラス幅は縮小した。前年度にあった子会社株式の取得による支出が無くなり投資CFのマイナス幅は縮小し、フリーCFのプラス幅は拡大した。
長期借入による収入が増加したこと等から財務CFのプラス幅は拡大。
キャッシュポジションは低下した。
 
(4)トピックス
◎株式併合、単元株式数の変更、配当予想の修正を発表
全国証券取引所では、「売買単位の集約に向けた行動計画」に基づき、すべての国内上場会社の売買単位を100 株に統一することを目標としている。
また同時に証券取引所は、より多くの投資家の参加を促すこと等を目的として「5万円以上50万円未満」を望ましい投資単位の水準としている。

同社はこの趣旨を尊重し、単元株式数を1,000株から100株に変更するとともに、発行済株式総数の適正化を図ることを目的として、「10株を1株」とする株式の併合を行うこととした。(2015年6月25日開催の株主総会で決議。)
 
①株式併合の概要
2015年10月1日を効力発生日とし、2015年9月30日の最終株主名簿に記載された株主の所有株式を基準に10株につき1株の割合で併合する。
 
②単元株式数変更の概要
同じく、2015年10月1日を効力発生日とし、単元株式数を1,000株から100株に変更する。
2015年9月25日:現在の単元株式数 1,000株での売買最終日
2015年9月28日:売買単位が100株に変更
2015年10月1日:単元株式数変更の効力発生日
 
③配当予想の修正
株式併合に伴い、2015年度の1株当たり配当金の予想を6円/株から、60円/株に修正した。
 
④株主への影響
株式併合により所有株式数は減少するが、会社の資産や資本に変動はない。株式数は10分の1となるが1株当たりの純資産は10倍となる。
株価は10倍に、配当は前述の様に従来予想の10倍となるため、株式併合を理由に受取配当金総額が変わることは無い。
議決権個数は効力発生前の1,000株につき1個から、100株につき1個となる。
株式併合の結果、1株に満たない端数株式が生じた場合は、全ての端数株式を同社が一括処分し、その代金を各株主が保有する端数の割合に応じて支払う。2015年12月頃送金予定。
現在10株未満の株式を保有している株主は併合後保有機会を失う事となるため、効力発生前に単元未満株式の買い取りを利用する事等を同社では呼びかけている。
 
 
2015年度業績予想
 
 
海外売上が拡大し増収・営業増益
売上高はほぼ横ばいの520億円を予想。日系自動車メーカー向けが北米等で堅調に推移する。非日系向けも、フォード、ダイムラー、GMが伸びる。
海外売上高比率は55%と前年度よりも3ポイント上昇する。フォード向けピストンリング、アウディ、GM向けバルブシートなどが好調と見込む。
人件費増5.1億円、減価償却増3.5億円、単価変動2.5億円などを原価低減7.2億円、増産効果1.9億円などで吸収し営業利益は同13.0%増の22億円を予想。為替差益が前期の1.4億円から縮小する見込みのため、経常利益は同3.4%減少の21億円。前期あった補助金収入7.2億円等が無くなるため親会社株主に帰属する当期純利益は同31.0%減少の15億円を見込む。
配当は創立80周年の記念配当1円を加えた前期と同じ6円/株の予定。予想配当性向は32.9%。
(株式併合に伴い60円/株の配当予想)
 
 
第六次中期経営計画
 
①第五次中期経営計画の振り返り
同社は2014年度をもって2012年度からの3年間の第五次中期経営計画を終了した。
基本方針として、「事業構造改革の推進」をかかげ、重点施策として
「BS/Cash Flow経営の実践」、「すべてのコスト構造改革の推進」、「固有技術の活用による新製品の事業化」などを進めた。

財務体質の改善、新製品のリリース、モノづくり基盤の構築といった点では実績を残すことが出来たものの、数値目標「総資産経常利益率 6%以上、売上高 520億円以上」については、総資産経常利益率は3.4%、売上高516億円、と未達となった。

売上高に関しては、新分野・新事業の展開に向けた金属粉末射出成形品事業が寄与したものの、市場変動及び一部機種での企画台数変更などがマイナス要因であった。
総資産経常利益率に関しては、在庫を中心とした総資産のコントロールおよび原価低減が不十分であった。
 
②第六次中期経営計画概要
2014年12月に創立80周年を迎えた同社は、「100年企業への土台作り」を進め、既存製品の拡販と新市場の開拓を目指し、前中計の振り返りを踏まえたうえで、2017年度を最終年度とする第六次中期経営計画をスタートさせた。
 
 
第六次中期経営計画最終年度(2017年度)の営業利益率7%以上を実現するために投資を実行し、原価低減や技術開発に更に磨きをかける。
海外売上比率は非日系向けの売上が伸張し、最終年度には59%を計画している。
 
 
2014年度実績から2017年度目標までのCAGR(年平均成長率)は、全体の売上2.2%に対し、ピストンリングが1.8%、バルブシートが11.7%。まだ規模は小さいものの、金属粉末射出成形品事業を含む新製品が6.7%となっている。
ピストンリングとバルブシートの非日系向け売上比率は前期の8.1%から最終年度には11.9%まで上昇する。
 
 
3年間高水準の投資を継続する。
国内は利益率アップのための合理化投資のほか、新製品開発のための投資を進める。
3年間の新規増産投資88億円の内訳は、国内分28億円、海外分60億円と海外工場の生産能力を大きく引き上げる。
最終年度の生産能力はピストンリングにおいては国内外が均衡、バルブシートに関しては海外生産能力が全体の7割を占める。
 
 
 
◎既存事業への取り組み
<非日系自動車メーカーへの拡販>
前述の様に、日系自動車メーカーには全社に納入している同社だが、非日系メーカーへの参入余地はまだまだ大きい。
非日系自動車向けピストンリングはTier-1(ピストン供給者)を通じてモジュールとしてエンジンメーカーに供給される仕組みとなっているケースが多く、各Tier-1とはプロジェクト毎に開発支援や個別提案を行ってゆく。特に、エンジンの評価技術を有していないピストンメーカーに対する開発支援型提案は有効な戦略と考えている。
 
<ガソリン用ピストンリング>
自動車メーカーのエンジンに対する「熱効率向上」、「軽量化」ニーズは更に高まっている。
熱効率向上に関しては摩擦低減や燃焼改善、軽量化に関しては気筒間距離の縮小や材質変更に伴った課題があるが、同社では様々な固有技術で対応しており、日系のみならず非日系メーカーによる採用実績が着実に積み上がっている。
 
<バルブシート>
排出ガス規制が強化される中、低排出ガス、低燃費、高出力のエンジン開発がすすみ、これに対し同社では、バルブシート外径の大径化、薄肉化などで対応し、これらが高く評価され採用実績が拡大している。
 
◎新製品事業への取り組み
既存の保有技術にM&Aや新規開発技術を加えた要素技術をベースに、様々な仮説を立て検証を加え、自社保有技術を活かした非自動車エンジン分野で新製品事業を展開してゆく。
現時点での取り組みの方向性としては、医療用部材、モーター動力部品などを挙げている。
 
<金属粉末射出成形品事業>
非自動車エンジン部品の事業拡大を目指す同社は2014年5月、住友金属鉱山株式会社から金属粉末射出成形品(メタモールド)事業を譲り受け、販売を開始した。
同社も同事業を鉄系材料で自動車エンジン向けに量産をしていたが、今回の譲り受けは、製品のラインナップ充実のみならず、材料技術と生産技術の強化および新たな拡路の獲得につながるものである。
 
<歯科インプラント事業>
2014年10月、石福金属興業株式会社より歯科インプラント事業を譲り受けた。
このIAT歯科インプラントシステムは、放電加工による表面性状に優れた骨生体親和性が特長で、2014年10月に薬事法認可を取得し、同年11月より出荷がスタートした。
今後は主力事業である自動車エンジン部品事業で蓄積した金属材料技術や精密加工技術等のノウハウを活用して、歯科インプラントにとどまらない医療用部材への事業展開を進める。
現在開発を進めている医療用部材「Ti-Ta合金」は生体適合性が高いことに加え、非磁性であるためMRI(核磁気共鳴画像法)検査においてもMRI画像が乱れる事が無い。長期間体内に留置されるペースメーカーリード線、電極、塞栓コイル、ステント等への展開を検討している。
また、世界最大の米国市場を開拓すべく展示会への出展などを進めている。
 
 
山本社長へのインタビュー
 
山本彰社長に経営のミッション、今後の取り組みと課題、投資家へのメッセージなどを伺った。
山本社長は1958年2月9日生まれの57歳。1981年に同社入社後、主として生産管理分野で生産計画、工場収支、海外展開などを担当。その後、経営企画部において会社全体の経営を担った後、2013年6月に代表取締役社長に就任した。
全ての業務について最適化を進めることが出来るポジションを経験したことが、大きな財産になっているという。
 
<社長としてのミッション>
社長としての最大のミッションは何と言っても「ヒトづくり」であると考えている。
顧客の変化や法規制を含めた社会の変化に柔軟に対応し企業価値を向上させるためには「ヒトづくり」しかない。これは永遠の課題ではあるが、やり続ける。
リーマンショック後は足元を固めることが急務だったため、財務体質の改善を優先してきたが、一段落した現在、人材育成に一層注力している。
経営企画部在任時から、当社の弱点として、階層別の横の繋がりが弱い点を感じていた。当社は岩手、福島、栃木にある4工場が重要な国内生産拠点だが、これらの工場間および本社の繋がりが希薄だった。そこでこれを強化するために30歳代の管理職を対象とした「若手管理職政策提言委員会」を設立したほか、40歳代の部門長クラスによる「自主研究会」も立ち上げた。これは、もし自らが社長になったら当社をどのように変えていくかを議論してもらうもので、毎年全取締役が出席する経営戦略会議で最終報告を行っている。自らの意識向上と共に取締役メンバーに対する刺激や啓蒙といった意味も含めており、人材育成のための大変良い機会となっている。
また、国内社員の約2割が女性だが、今年4月に初めて女性管理職が誕生したことをきっかけに、女性のワーキングチームも発足させた。部門横断的なチームによるモチベーションの向上や会社に対する様々な提言を期待している。
この他、35歳以下の監督者クラスにおいても社内の連携を強める取り組みを行っている。こうした取り組みによって、現場からは他事業所とのコミュニケーションが密になったことを歓迎する声が多く、意識や行動にも変化が見られ、工場間で連携した具体的な生産改善策なども出てきた。今後は海外拠点をどう巻き込んでいくかを検討している。
 
<課題と対応>
◎収益力の向上
最大の課題は収益力の向上と考えている。効率的な経営資源の投入により、第六次中期経営計画では営業利益率7%以上を目指しているが、最大のポイントは主力製品において、原材料等の購入から売掛金回収のサイクルをどれだけ短く出来るかが重要と考えている。
これには工場の現場改革が重要だ。長年の生産現場での経験から、作業員の動きなどからまだまだ改善の余地があると見ている。
例えば、作業員の帽子の鍔がずっと下を向いていれば、安心して手元作業に集中していることが分かるが、逆に違ったところを見ている場合は、何か気になることがあるということ。作業のロスや不良品の発生などはこうしたことで推測できるため、工数削減等を含め細かい点から現場改革を進めて行く。
また、グローバル調達や、日本での革新的モノづくり力を構築するとともに、それを海外拠点へ移植して全社的な品質向上とともに原価低減にも取り組んでゆく。
 
◎新製品への取り組み
歯科インプラント事業は当社の将来において非常に重要な意味を持つ事業だ。非自動車エンジン部品事業拡大の先鞭として同事業を拡大させるという意味もあるが、新事業におけるマーケティング能力強化という点がある。
当社は長い間、顧客のほとんどが自動車メーカーという状態で事業を行ってきた。そうした中で新事業、新製品を拡大してゆくには、顧客視点でのイノベーションを継続させていくことはもちろん不可欠だが、その前提としてマーケティング能力を高めていかなければならない。
そのためには、ここ数年の財務体質の改善などにより基礎体力が出来てきた現在が絶好のタイミングだと考えている。
現時点では事業譲受元から転籍した社員を中心に運営しているが、同事業の活動内容を社内でも積極的にPRすることで、今後当社は何に挑戦していかなければならないのかなど、全社員の意識向上にもつなげてゆく。
 
◎その他
人材の採用も大きな課題だ。過去の当社事情によりややバランスを欠いた年齢構成となっているため、今後はどのような状況下にあっても新卒社員の採用を継続してゆく。
また5年後、10年後に海外で活躍する人材を獲得していかなければならない。これによって当社の技術力を国内外で同じレベルまで引き上げてゆく。現在の需給環境下での採用は決して容易ではないが、様々な手法で採用を進めてゆく。
他の課題としては、アッセンブリ技術の向上があげられる。これまで当社はピストンリングやバルブシートという単品をベースに製造販売してきたが、インプラントをはじめとした医療用部材においても周辺技術が必要不可欠となるため早急に対応していく。
 
<投資家へのメッセージ>
リーマンショック後、厳しい市場環境であったが、財務体質改善を含めここ数年で当社は大きく変わってきた。今後もグローバルな自動車市場の拡大を背景に、より良い会社となる道筋が見えている。
急成長は望みにくいかもしれないが、高い技術力を背景に多数の有力な自動車メーカーとの強固な信頼関係を基礎とし、堅調な業績を継続させていく考えであり、中長期的な視点で当社を応援していただきたい。
財務体質の更なる強化、競争力向上のための投資も積極的に進めてゆくが、当面は30%程度の配当性向を維持し、株主の皆様にも適切な利益還元を行っていきたいと考えている。
 
 
今後の注目点
同業2社及びTOPIXとの相対株価チャートを見ると、過去10年、過去1年共に同社株はTPRおよびTOPIXをアンダーパフォームする形となっている。
PBR1倍台回復も含め株式市場からの評価を高めるには利益率の向上が大きな課題となるが、この点は、インタビューの中にあるように、山本社長も強く認識している。
始まったばかりの第六次中期経営計画だが、2017年度「売上高 550億円以上、営業利益率 7%以上」への取り組みと進捗を注目してゆきたい。