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(7776) 株式会社セルシード

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ブリッジレポート:(7776)セルシード vol.17

(7776:JASDAQ) セルシード 企業HP
橋本 せつ子 社長
橋本 せつ子 社長

【ブリッジレポート vol.17】2014年12月期第3四半期業績レポート
取材概要「同社のミッションは、再生医療を一日も早く実現する事。そして日本初のユニークな再生医療技術である「細胞シート工学」を世界に発信し・・・」続きは本文をご覧ください。
2014年12月9日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社セルシード
社長
橋本 せつ子
所在地
東京都新宿区原町3-61 桂ビル4F
決算期
12月末日
業種
精密機器(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2013年12月 105 -534 -581 -584
2012年12月 75 -846 -842 -913
2011年12月 86 -1,418 -1,358 -1,442
2010年12月 66 -1,204 -1,002 -1,009
2009年12月 87 -785 -788 -790
2008年12月 61 -778 -644 -650
2007年12月 40 -809 -614 -616
2006年12月 23 -672 -464 -470
2005年12月 34 -412 -336 -343
2004年12月 53 -257 -214 -215
株式情報(12/27現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
1,143円 8,674,292株 9,915百万円 - 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
- - - - 355.10円 3.2倍
※株価は11/27終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROEは前期末実績。BPSは第二四半期末実績。
 
セルシードの2014年12月期第3四半期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
東京女子医科大学の岡野光夫教授が開発した日本発の「細胞シート工学」を基盤技術とし、この技術に基づいて作製した「細胞シート(細胞をシート状に組織化したもの)」を用いて従来の治療では治癒できなかった疾患や障害を治す再生医療「細胞シート再生医療」の世界普及を目指している。
事業は、細胞シート再生医療製品の研究開発と細胞シート製造及び加工技術の開発を行う細胞シート再生医療事業、細胞シートの培養器材である温度応答性細胞培養器材及びその周辺製品の研究開発・製造・販売を行う「再生医療支援事業」に分かれる。「再生医療支援事業」は細胞シート再生医療事業の提携先開拓のための戦略的な意義も有している。
 
【細胞シート工学と細胞シート再生医療】
「細胞シート工学」は再生医療の汎用的なプラットフォーム技術となるもの。患者から細胞を採取し、これをシート状に培養し治療に用いるが、同社は、温度応答性細胞培養器材を開発する事で、従来不可能だった無傷のままで細胞を回収できるようにした。
 
細胞は通常、培養皿で培養するが、この場合、細胞は培養皿の表面に密着して増殖する。そして細胞を回収する際に皿から剥がすが、そのさい、トリプシン等のタンパク質加水分解酵素を用いて剥がすため、細胞表面のタンパク質(細胞外マトリクス)が壊れてしまい、本来の生きた細胞とは異なったものになってしまう。このため、これを再生医療に用いても、きちんと正着できず機能を十分に発揮できない。
 
同社が開発した温度応答性細胞培養器材は、温度を変える事で細胞が密着している培養面の表面の性質が変わり、表面から細胞が自然と剥がれる。これによりタンパク質を保持した生の状態に近い細胞をシートとして回収できる(生体組織、臓器に近いものを手に入れる事ができる)。細胞表面のタンパク質(細胞外マトリクス)は、細胞外の空間を充填すると共に、骨格的役割や細胞間結合の足場的役割を担う他、細胞の増殖・分化も制御する。細胞を細胞として機能させるために不可欠な物質であり、患部の修復(再生)に働く。
 
温度応答性細胞培養器材は温度を下げると、温度応答性ポリマーの性質が変わり、細胞シートが剥離するため、細胞表面のタンパク質(細胞外マトリクス)を破壊する事無く回収できる。
従来、細胞の回収に際してトリプシン等のタンパク質加水分解酵素を用いていたが、タンパク質加水分解酵素は細胞間の結合因子や接着因子を破壊し、細胞に大きな傷害を与える。
 
 
 
新経営体制の構築と今後の展開
 
(1)新経営体制の構築
先進的な法規制の整備、研究開発向け公的支援の拡充、更には再生医療国際標準化・規格化の推進等、日本再興戦略に掲げられた再生医療関連の施策が次々と具体化されている。同社はこうした再生医療産業化の機運を先取りして成長を加速させるべく新たな経営体制の構築に取り組む考えで、14年6月に医薬品の事業化フェイズに強みを有する橋本せつ子氏が代表取締役社長に就任。前代表取締役社長の長谷川幸雄氏は取締役会長として橋本社長をサポートしていく考えだ。
 
代表取締役社長 橋本せつ子氏のプロフィール
橋本氏の専門分野は、生化学や分子生物学といった生物学。アメリカやドイツで研究に取り組んだ後、日本のドイツ資本やスウェーデン資本のバイオ企業に勤務。バイオテクノロジー産業における30年の業務経験を通して国内外に広がる幅広いネットワークを構築した。今後は、(株) セルシードの代表取締役社長として、30年にわたる業務経験とネットワークを活かしてサイエンスとビジネスの懸け橋となり、日本初の技術を世界に紹介していく事になる。
尚、橋本社長は、長谷川会長がファルマシアバイオテク(株)で研究開発部長をしていた時の同僚であり、当時はマーケティングを担当していた。また、「細胞シート工学」の開発者である東京女子医科大学の岡野光夫教授とスウェーデン・カロリンスカ研究所との共同研究の仲介を手掛ける等、(株)セルシード とも縁が深かった。
 
学歴
1979年  九州大学 理学部生物学科 博士課程修了
1986年  ドイツハイデルベルグ大学博士課程修了 分子生物学専攻
2010年  北陸先端科学技術大学院大学 前期博士課程修了(MOT)
 
職歴
1984年  ヘキストジャパン(株) 医薬総合研究所(ドイツの製薬企業)
1991年  ファルマシアバイオテク(株)(スウェーデンのバイオ企業)
1998年  ビアコア(株)(ファルマシアバイオテク(株)の日本法人)
2008年  (株)バイオビジネスブリッジ 設立 代表取締役社長 就任(現任)
2009年  スウェーデン大使館 投資部、科学技術部にてライフサイエンス担当
2014年  (株)セルシード 代表取締役社長就任
 
(2)今後の事業展開
セルシードのミッション
・再生医療を一日も早く実現する
・日本初のユニークな細胞シート工学技術を世界に発信する
・安全で品質の高い製品、サービスを提供し、医療の変革に貢献する
 
これまでのセルシードは、大学の基礎研究シーズを臨床開発につなげる研究支援会社だったが、新生セルシードは、収益を創出しながら、再生医療を実現する事業会社として展開していく。
 
外部環境と同社の戦略的方向性
 
再生医療の産業化を取り巻く環境は追い風を受けており、特に安倍政権下で法整備が進み、再生医療事業環境の活性化が顕著である。例えば、13年4月には再生医療の実用化を目指した再生医療推進法が成立し、同年11月には改正薬事法(いわゆる医薬品医療機器等法)と再生医療等安全性確保法が成立した。医薬品医療機器等法においては、医薬品や医療機器とは別に「再生医療等製品」が新たに定義され、その特性を踏まえた制度(例:条件及び期限付承認制度、いわゆる早期承認制度)が導入された。また、再生医療等安全性確保法において、再生医療を3つのカテゴリーに分類して安全性確保を図るリスク別安全性規制が導入された他、細胞加工業(特定細胞加工物の製造を外部委託できる仕組み)が新たに創設される事となった。
 
同社は、14年を「再生医療元年」と位置付けており、今後の取り組みとして、「長期的な技術革新の動向を見据えた戦略的な再生医療パイプラインの開発」と「戦略的な再生医療パイプラインとシナジーのある短期~中期の収益源の開発」の2つをあげている。
 
新生セルシードの3つの施策
上記方向性の下で、継続的に進行する技術革新に対応しつつ、先行投資と事業採算を両立していく考え。具体的な施策として、再生医療の早期実現を見据えた再生医療パイプラインの戦略的順位付け、器機材事業の拡充、器機材事業と細胞シート工学の強みを活かした受託加工業への進出、の3点を挙げている。
 
再生医療の産業化のポイントは、技術革新、法規制の整備、企業参入。産業化のプロセスを示せば、細胞シート工学・iPS細胞等の原料細胞技術や細胞シート工学等の加工技術、更には輸送など周辺技術といった基礎技術の確立 ⇒ 公的支援や企業参入によって関連市場が顕在化し始める等、基盤技術の標準化・規格化 ⇒ 法規制への取り込み ⇒ 生産自動化の研究開発等、生産の機械化・自動化 ⇒ 市場拡大、原価低減、性能向上による競争、となる。
 
基礎技術の確立に向けた取り組みが進み、基盤技術の標準化・規格化が動き出した事は器材事業にとってビジネスチャンスの到来であり、再生医療の産業化が法規制に取り込まれた事で受託加工の事業化も加速する。また、生産自動化の研究開発など日進月歩で進む技術革新動向と法規制運用動向の双方を勘案しつつ、再生医療パイプラインの戦略的順位付けを行っていく。
 
 
 
2014年12月期第3四半期決算
 
 
細胞シートの受託加工業参入に向けた準備を開始
再生医療支援事業で53百万円の売上を計上した(前年同期は74百万円の売上を計上)。細胞シート再生医療事業では、再生医療新法の施行により新たに企業参入が可能となる細胞受託加工業に参入する事で中期的な収益機会獲得を目指しており、現在、細胞シート受託加工実施のための準備を進めている。前年同期は、欧州における角膜再生上皮シート開発計画見直しに伴いGENESIS Pharma SAとの販売提携契約を解消した事で、契約締結時に受領した一時金16百万円を売上計上したが、当期の第3四半期累計期間では売上計上がなかった。
 
損益面では、売上の減少で売上総利益が減少する中、販管費が増加したため、前年同期は321百万円だった営業損失が453百万円に拡大した。販管費の内訳は、研究開発費147百万円(前年同期132百万円)、その他326百万円(同236百万円)。補助金収入(78百万円→36百万円)が減少したものの、為替差損(前年同期47百万円)の計上がなかった事と支払手数料(35百万円→7百万円)が減少した事で営業外損益が改善したため、経常損失は429百万円にとどまった。
 
 
 
第3四半期末の総資産は3,137百万円と前期末に比べて352百万円増加した。14年1月に第11回新株予約権行使により860百万円を調達した事、及び14年3月に第1回無担保転換社債型新株予約権を発行して500百万円を調達した事で現預金と純資産が増加した。ただ、第1回無担保転換社債型新株予約権については、新経営体制下での資金調達戦略の練り直しに伴い、14年7月に繰り上げ償還した。
 
 
今後の注目点
同社のミッションは、再生医療を一日も早く実現する事。そして日本初のユニークな再生医療技術である「細胞シート工学」を世界に発信し、安全で品質の高い製品、サービスを提供し医療の変革に貢献する事である。このミッションの下、同社は、長期的な技術革新動向を見据え、どのような再生医療パイプラインを開発するか選択し集中していく。ただ、短期的、中期的に収益の上げられる収益源を開発する事も必要だ。このため、温度応答性細胞培養器材及び周辺製品の事業を強化する。また、新しい法律の下、細胞製造の受託が可能となるため、器材事業と細胞シート工学の強みを活かし受託加工業へ進出する考え。今期決算が発表される15年2月には、収益を創出しながら、再生医療の実現を目指す新生セルシードとしての事業計画が示されるだろう。