ブリッジレポート
(7776) 株式会社セルシード

グロース

ブリッジレポート:(7776)セルシード vol.13

(7776:JASDAQ) セルシード 企業HP
長谷川 幸雄 社長
長谷川 幸雄 社長

【ブリッジレポート vol.13】2013年12月期第3四半期業績レポート
取材概要「経済産業省によると、12年に1,000億円だった再生医療の世界の市場規模は50年には38兆円に拡大する見込みで、細胞を培養する装置等の関連市場・・・」続きは本文をご覧ください。
2013年12月10日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社セルシード
社長
長谷川 幸雄
所在地
東京都新宿区原町3-61 桂ビル4F
決算期
12月末日
業種
精密機器(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2012年12月 75 -846 -842 -913
2011年12月 86 -1,418 -1,358 -1,442
2010年12月 66 -1,204 -1,002 -1,009
2009年12月 87 -785 -788 -790
2008年12月 61 -778 -644 -650
2007年12月 40 -809 -614 -616
2006年12月 23 -672 -464 -470
2005年12月 34 -412 -336 -343
2004年12月 53 -257 -214 -215
株式情報(12/6現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
1,988円 7,795,292株 15,497百万円 - 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
- - - - 15.22円 130.6倍
※株価は12/6終値。発行済株式数は11月末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期末実績。
 
セルシードの2013年12月期第3四半期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
東京女子医科大学の岡野光夫教授が開発した日本発の「細胞シート工学」を基盤技術とし、この技術に基づいて作製した「細胞シート(細胞をシート状に組織化したもの)」を用いて従来の治療では治癒できなかった疾患や障害を治す再生医療「細胞シート再生医療」の世界普及を目指している。
 
【事業内容】
事業は、各種用途向けに様々な種類の細胞シートを開発・製造・販売する「細胞シート再生医療事業」と、細胞シートの培養器材である温度応答性細胞培養器材及びその応用製品の開発・製造・販売を行う「再生医療支援事業」とに分かれる。「細胞シート再生医療事業」では、現在、共同研究先と5つの再生医療医薬品パイプライン(新薬候補)の研究開発を進めており、「再生医療支援事業」では、細胞シート再生医療の基盤ツールである温度応答性細胞培養器材(世界で唯一当社が製造)及びその応用製品を開発・製造(多額の設備投資を必要とする一部の工程は外部委託)し、世界各国の大学・研究機関等に提供している。「再生医療支援事業」は細胞シート再生医療事業の提携先開拓のための戦略的な意義も有している。
 
 
現在、上記5つのパイプラインの研究開発を進めており、5つのパイプライン全てが臨床研究又はそれ以降の段階に入っている。米国での角膜再生上皮シートでは動物実験が終了し、バイオロジックス(生物学的製剤)としての認定も受けた。心筋再生パッチではヒト骨格筋芽細胞シートの実用化でテルモ社と基本合意しており(12年3月発表)、食道再生上皮シートでは共同研究先での臨床研究が終了し良好な結果が得られた(12年8月発表)他、海外の共同研究先が臨床研究の準備を進めている。
 
【細胞シートの特徴】
細胞シートは、生体組織・臓器の基本単位であり、「細胞外マトリックス」を保持しているため、縫合等の処置をする事無く患部に移植する事ができる。また、積層化が可能なため、3次元組織・臓器を構築できる可能性もある。
 
 
温度応答性細胞培養器材「UpCell」
細胞シートは、世界で同社だけが製造している細胞シート回収用温度応答性細胞培養器材(製品名:「UpCell」)を用いて作製する。「UpCell」は東京女子医科大学の岡野光夫教授が考案し、同社がそのコンセプトを製品化したもので、「温度応答性ポリマー」の一種であるポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)が使われている。「温度応答性ポリマー」とは、温度によって分子構造を変える性質(温度応答性)を持つポリマーの総称である。PIPAAmを器材(シャーレ)表面にナノテクノロジーを駆使して共有結合で固定すると、培養器材表面は32℃以上で細胞が付着できる適度な疎水性(水分を弾く性質)になり、32℃以下では細胞が付着できない親水性(水分を含む性質)になる。
 
細胞が有機的に結合した組織を回収する事が可能
一般に細胞は接着蛋白質(「細胞外マトリックス(後述)」)を分泌し自らを固定する事で増殖する。言い換えると、接着蛋白質を分泌して自らをどこかに固定しないと増殖できないのだが、従来の培養方法では、培養した細胞をトリプシン等の蛋白質分解酵素を用いて接着蛋白質を分解して回収していた(それ以外に培養細胞の回収方法が無かった)。このため、酵素処理によりバラバラになった細胞しか回収できず、細胞が有機的に結合した組織を回収する事ができなかった。一方、「UpCell」を用いた温度処理回収の場合、細胞をシート状かつ細胞外マトリックス等を保持した状態で回収できるため、患部定着率が高く増殖が容易だ(バラバラの細胞も接着蛋白質を分泌するため時間の経過と共に定着し細胞同士が結合するが、患部へ定着するとは限らない)。
尚、細胞外マトリクスとは、細胞の外に存在する超分子構造体。細胞外の空間を充填すると共に、骨格的役割や細胞間結合の足場的役割を担う他、細胞の増殖・分化も制御する。このため、細胞を細胞として機能させるために不可欠な物質と言う事ができる。
 
 
細胞シートは生体組織・臓器の基本単位だが、一般的な再生医療で使用される細胞はバラバラの状態で生体組織として機能する状態になっていない。注射器等で生体内に注入するが、「細胞外マトリックス」を失ってしまっているため、定着し難いと言う問題もある。
 
 
【中期経営計画(13/12期~15/12期)】
「日本の再生医療は、現在、産業化に向けたステージにあり、今後、本格的な成長加速期を迎える」と言うのが同社の考え。このため、現在進行中の「中期経営計画(13/12期~15/12期)」では、従来からの戦略が大きく組み換えられた。具体的には、「外部環境の変化を活用した新たな持続的成長モデルの構築」と言うビジョンの下、「細胞シート再生医療の産業化」、言い換えると、「細胞シートの作製・加工ビジネスの育成」に向けた取り組みが、「事業提携」、「戦略投資」、及び「財務基盤」の面から示されている。
 
 
(1)事業提携:事業提携による細胞シート再生医療第1号製品の早期事業化
細胞シート再生医療の産業化に向け克服すべき課題は、“産業化「出口」の確立”、“生産ブレークスルー(技術開発+インフラ整備)”、及び“Innovativeな研究成果の製品化・事業化”の3つ。いずれの課題についても、Innovationを創出している「大学」、製品化ノウハウを蓄積している「先進ベンチャー」、産業化資源を蓄積している「大手企業」等とAllianceを組成して取り組んでいく考え。
 
また、“産業化「出口」の確立”については、各パイプラインのライセンスアウトによる導出や、臨床研究が終了したものは先進医療での活用により(先進医療では、「評価療養」として扱われ、保険外併用療養費の支給対象となる)、早期の収益化を図る。一方、“生産ブレークスルー(技術開発+インフラ整備)”については、Automation(生産システムの自動化)、言い換えると、細胞単離、培養、品質評価、積層化といった高度な技術と熟練を要する生産プロセスの自動化に取り組んでいく。この他、原料制約の解消に向け、他家細胞の原料化(第2世代の細胞シート)やiPS細胞の原料化(第3世代の細胞シート)に向けた取り組みも進めていく。
 
角膜再生上皮シートにかかる事業展開
国内での展開
経済産業省が公募した平成25年度「再生医療等産業化促進事業」に、同社が申請した①「世界標準化に向けた角膜再生上皮シート再生医療製品の有効性評価手法」の検証、及び②細胞シート再生医療製品の製造コストの削減及び品質担保のための品質評価方法の検証が採択された(①及び②の研究について経済産業省から受託したと換言できる)。①については、その成果が、原料細胞が共通する自家食道再生上皮シートに応用する事が可能で、②については、様々なパイプラインの生産自動化(生産コスト低減、品質担保など)に応用する事が可能である。
 
13/12期から研究開発費等を計上する予定で、来14/12期より本件実施に伴う補助金収入等を営業外収益に計上する。また、受託事業の成果に基づいて、14年に角膜再生上皮シートにかかる薬事戦略相談(薬事承認に向けた事前相談)を行う方針。
 
 
海外での展開
提携先のEmmaus Medical(以下、エマウス)社と共同で開発・事業化に取り組んでいる米国での角膜再生上皮シートでは、14年にIND承認(治験開始承認)の取得を目指しており、欧州については、提携による事業化を検討している。尚、欧州での事業は、欧州医薬品庁(EMA)との協議結果及び日本における再生医療産業化環境の急速な整備等を踏まえて、開発・事業化計画の組み直しを進めている。同社は多施設共同治験準備を推進(4ヶ国で治験開始承認を取得)してきたが、資金的な問題からEMAの要請である多施設共同治験データ等の追加提出に応じる事が難しくなった。一方、日本では、昨年後半以降、再生医療産業化環境の整備が急速に進んだ。このため、グローバルな経営資源配分の最適化を図るべく、欧州においては将来の販売承認取得可能性を確保しつつも販売承認申請を一旦取り下げ(3月)、欧州開発・事業化計画を再編成する事とした。
 
(2)戦略投資:中長期的な企業価値成長を目指した「戦略分野への先行投資」(「戦略分野」の検討・選定・投資)
上期の特許取得は、新型温度応答性細胞培養器材技術「共培養用器材表面」(欧州、5月発表)、密閉型細胞培養容器による上皮系細胞の新規培養方法(日本、5月発表)、角膜内皮再生シート(韓国、6月発表)、移植用角膜内皮再生シート(韓国、1月発表)、癌組織モデル作製用癌細胞シート(日本、6月発表)の5件。
また、09年度以降、細胞シートの生産自動化に取組むFIRSTサイエンスフォーラムの岡野教授プロジェクトに参画している。同社が担当しているのは、細胞シートの自動積層化装置でスタンプを利用した積層化技術が応用されている。
 
現在、患者から採取した細胞の培養や加工を認められているのは、その細胞を採集した医療機関のみだが、培養や加工を第三者にも開放する(細胞加工受託事業)事を盛り込んだ再生医療安全性確保法案が国会へ提出された。同社はその戦略的活用可能性について検討を進めている。
 
(3)財務基盤:収支バランスを改善し持続的成長を支え得る「財務基盤」の確立
成長資金を取り込むべく、9月にUBS AG ロンドン支店を第三者割当先とする第10回新株予約権274個及び第11回新株予約権(行使価額修正条項付)1,400個を発行した。
新株予約権と資金調達の概要は次の通り。
 
 
 
2013年12月期第3四半期決算
 
 
売上高91百万円、経常損失327百万円
売上高は前年同期比64.5%増の91百万円。内訳は、再生医療支援事業が74百万円(前年同期比18百万円増)、細胞シート再生医療事業が16百万円(前年同期は売上計上無し)。細胞シート再生医療事業では、欧州における角膜再生上皮シート開発計画見直しに伴いGENESIS Pharma SAとの販売提携契約を解消した事で、契約締結時に受領した一時金16百万円を売上計上した。
 
営業損失は321百万円(前年同期は696百万円の損失)。経営合理化策に基づく経費削減に加え、研究開発費の抑制(402百万円→132百万円)で細胞シート再生医療事業の損失が172百万円と前年同期に比べて274百万円減少した事が大きかった。
 
 
第3四半期末の総資産は前期末に比べて1,358百万円増の1,733百万円。四半期純損失328百万円を計上したものの、新株予約権の行使による新株の発行で資本金及び資本剰余金がそれぞれ588百万円増加。つれて現預金も増加した。
 
「継続企業の前提に関する注記」の記載解消
前期末の手元資金(現預金)残高が239百万円に減少し、想定される年間必要資金に比して著しく少ない金額となったため、継続企業の前提に関する重要な疑義を生じさせる状況となった。
 
しかし、13/12期に入り、マイルストーン・キャピタル・マネジメント社宛に発行した第9回新株予約権が13年2月1日までに全権行使された事で640百万円を調達した他、同年9月2日にUBS AG ロンドン支店宛に第10回新株予約権及び第11回新株予約権を発行し、同年11月12日までに2,076百万円を調達し、財務基盤の強化が進んだ。
 
未だ細胞シート再生医療事業の重要課題である細胞シート再生医療第1号製品の早期事業化の道程を示すまでには至っていないものの、上記の資金調達により財務基盤の改善がなされた事で重要な不確実性が認められなくなったため「継続企業の前提に関する注記」の記載が解消された。
 
 
2013年12月期業績予想
 
 
通期業績予想に変更はなく、売上高530百万円、経常損失215百万円
前受金として計上していた受領済みのエマウス社からの契約一時金150万米ドルを売上高へ振り替える他、新たな提携に係る一時金収入も見込まれ、細胞シート再生医療事業において460百万円の売上を計上できる見込み。一方、再生医療支援事業は、前期実績(75百万円)をわずかに下回る70百万円を想定していたが、第3四半期累計で74百万円を計上している。
 
損益面では、売上の増加と費用対効果向上を通じた継続的な支出抑制で、営業損失が前期の846百万円から245百万円に縮小する見込み。
 
 
今後の注目点
経済産業省によると、12年に1,000億円だった再生医療の世界の市場規模は50年には38兆円に拡大する見込みで、細胞を培養する装置等の関連市場も2,400億円(12年)から15兆円(50年)に拡大するという。日本の再生医療は、承認のためのハードルが高く、世界に比べて実用化が遅れていたが、薬事法の改正と再生医療の再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療新法)が11月20に参議院で可決、成立した。これにより、これまで10年以上かかっていた再生医療製品の承認までの期間の短縮が見込めると言う。政権交代も追い風となり、この1年で再生医療を取り巻く環境が大きく変わった。事業環境の改善が来期以降の同社の業績にどのように反映されてくるか注目したい。