ブリッジレポート
(4205) 日本ゼオン株式会社

プライム

ブリッジレポート:(4205)日本ゼオン vol.1

(4205:東証1部) 日本ゼオン 企業HP
古河 直純 社長
古河 直純 社長

【ブリッジレポート vol.1】会社概要、業績動向、中期経営計画についてのレポート
取材概要「短期的な注目点としては、原材料価格の上昇はあるものの、円安の進行による事業環境の改善、光学フィルムの底入れ・拡販により、通期業績を現・・・」続きは本文をご覧ください。
2013年4月9日掲載
企業基本情報
企業名
日本ゼオン株式会社
社長
古河 直純
所在地
東京都千代田区丸の内1-6-2 新丸の内センタービル
決算期
3月 末日
業種
化学(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2012年3月 262,842 32,123 31,487 19,127
2011年3月 270,383 35,295 33,623 18,303
2010年3月 225,878 9,319 9,448 5,020
株式情報(4/3現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
925円 231,162,698株 213,825百万円 15.5% 1000株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
12.00円 1.3% 51.91円 17.8倍 572.96円 1.6倍
※株価は4/3終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期末実績。
 
日本ゼオンの会社概要、特徴・強み、中期経営計画、業績動向などについてブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
自動車部品やタイヤに使用される合成ゴムや、医療用手袋等に使用される合成ラテックスを始めとして、世界的な高シェア製品を多数保有する石油化学メーカー。独創的な技術開発力とそれを生み出す研究開発体制、高い収益性などが強み。
自動車部品、タイヤ、ゴム手袋、紙おむつ、携帯電話、液晶テレビ、香水など身の回りにある多種多様な製品に同社が製造する製品(素材)が使用されている。
グループは、同社および子会社43社、関連会社8社で構成されている。生産拠点は、国内に5、海外に8。世界16か国に生産、販売拠点を有している。
 
 
【社名と経営ビジョン】
「ゼオ」(Geo)はギリシャ語で大地、「エオン」(Eon)は永遠を意味し、その合成語「ゼオン」には「大地から原料を得て永遠に栄える」という意味が込められており、世界に誇り得る独創的技術によって、地球環境と人類の繁栄に貢献することを経営理念として掲げている。
(設立時は資本及び技術提携先であった米国B.F.グッドリッチ社の塩化ビニル樹脂製品の商標「Geon」を取って社名としていたが、1970年の資本関係解消を機に表記を「Zeon」と改めた。)
 
【沿革】
同社は、日本軽金属、古河電工、横浜ゴムの古河系3社の共同出資により、米国B.F.グッドリッチ社との提携による塩化ビニル樹脂製造技術の導入を前提として、1950年4月に設立された。
1951年にB.F.グッドリッチ社が35%の株式を取得し、技術及び資本の全面提携が成立し、翌1952年に日本で初めて塩化ビニル樹脂の量産を開始した。
1959年にはB.F.グッドリッチ社から合成ゴム製造技術を導入し、日本で初めて量産を開始。タイヤを中心とした自動車向け需要の増大に対応してし、生産設備を拡大していく。
1965年にはC4留分からブタジエン(合成ゴムの主原料)を効率よく製造する同社の独自技術であるGPB(ゼオンプロセスオブブタジエン)法による生産を開始した。
 
B.F.グッドリッチ社が事業の中核を塩化ビニル樹脂事業にシフトするのに伴い、特殊合成ゴム事業を譲り受け、1970年資本提携も解消へ。これに伴い1971年に英文社名をGeonからZeonに変更した。
同じく1971年にはC5留分から高純度のイソプレンや石油樹脂、合成香料の原料などを抽出する独自技術GPI(ゼオンプロセスオブイソプレン)法を開発し生産を開始。
 
1980年代に入り、合成ゴムに加えて、フォトレジストなどの情報材料、合成香料、メディカル分野など新規事業への展開を積極化させていく。
1984年、現在では世界シェアトップとなった水素化ニトリルゴム「Zetpol®」を高岡工場で生産開始。
1990年、GPI法によって抽出、合成された高機能材料事業の主要製品COP(シクロオレフィンポリマー樹脂)のZEONEX® (ゼオネックス)を水島工場で生産開始。
1993年、電子材料事業で中国に進出した。
1999年にはゼオン・ケミカルズ(米国、現 連結子会社)が、グッドイヤーから特殊ゴム事業を買収し、特殊ゴム分野で世界トップメーカーとなる布石を打つ。
 
2000年、水島工場での塩化ビニル樹脂生産を打ち切り、創業事業の塩化ビニル樹脂事業から撤退した。
2002年にLCD用光学フィルム「ゼオノアフィルム」を上市。
2010年ゼオン・ケミカルズ・シンガポール、2011年ゼオンコリアを設立し、グローバル生産・販売体制を一段と強化している。
2013年1月、(株)トウペのTOBを開始。2013年3月、(株)トウペのTOBを終了。完全子会社化へ(予定)。
 
【事業内容】
同社の主要製品は、原油を蒸留分離して得られるナフサを熱して抽出される炭素数の異なる様々な抽出物を原材料としている。
ナフサを熱すると、順次、一酸化炭素ガス(C1)、エチレン(C2)、プロピレン(C3)が抽出される。
同社は、プロピレン(C3)を抽出した後のC4留分から独自開発のGPB法によって抽出したブタジエンや、その後のC5留分からGPI法によって抽出したイソプレン・モノマー(IPM)ハイボイル・モノマー(HB)ジシクロペンタジエン(DCPD)ブチン-2等を原材料に加工を行い、合成ゴム、合成ラテックスを始めとした各種素材を生産している。
 
 
生産した素材そのものを顧客に販売する素材型ビジネスが中心の「エラストマー素材事業」、素材を同社において一次加工し顧客に販売する部材型ビジネスが中心の「高機能材料事業」、「その他の事業」がある。
 
 
<エラストマー素材事業>
「エラストマー」とは、「ゴムのように弾性に富む高分子化合物の総称」(三省堂 大辞林より)で、合成ゴムがその代表例である。
沿革にあるように同社は1959年に日本で初めて合成ゴムの量産を開始しており、同事業は会社の基盤を支える事業である。
内訳としては大きく、合成ゴム事業、合成ラテックス事業、化成品事業(石油樹脂、熱可朔性樹脂)に分類される。
 
①合成ゴム事業
<製品例:タイヤ>
 
世界トップクラスの品質を誇るタイヤ用合成ゴムを、世界の主要タイヤメーカーに納入している。製造している合成ゴムの種類には、耐摩耗性・耐老化性・機械的強度特性に優れるSBR(スチレンブタジエンゴム)、弾性・摩耗性・低温特性のバランスに優るBR(ブタジエンゴム)、天然ゴムとほぼ同様の特性をもち品質安定性に優れるIR(イソプレンゴム)等がある。
今後はSBRの特性を更に改良した低燃費タイヤ用のS-SBRの需要が急速に拡大すると見込んでおり、これに対応した供給能力増のために建設中のシンガポール工場が2013年7月に稼働開始予定だ。これによって供給能力は、現状の年間5.5万トンから第一期2013年7月にプラス3~4万トン、第二期2016年前半にさらにプラス3~4万トンと二段階で増強されることになる。
 
 
自動車エンジンにおいては、ラジエターホース、フューエルホース、ファンベルト、オイルシールなどの各部品において耐油性、耐熱老化性に優れた特殊合成ゴムが用いられている。
世界No.1の特殊合成ゴムメーカーである同社はその品質の高さを評価されており、自動車用特殊合成ゴムの中で高いシェアを有している。中でも、タイミングベルト用の水素化ニトリルゴム「商品名:Zetpol®」は耐熱性、耐油性、機械的強度特性に優れており、世界シェア約70%を占めている。
 
また従来の「Zetpol®」の性能を大きく向上させた新「Zetpol®」も製品化に成功した。
これは従来製品比で+20℃も耐熱性を改善させたもので、従来のシール・ガスケット部品の長寿命化に対応できるだけでなく、次世代バイオ燃料を用いたエンジン向けにも需要が拡大すると見込んでいる。さらに、押出加工性が良好であることからホース用途にも展開が広がってきた。顧客の評価も上々で、高価なゴムの代替材を中心として、国内、アジア、欧米で採用が進んでいる。
 
この新「Zetpol®」は、2012年11月に川崎工場で商業運転が始まり、2013年中の本格稼働を計画している。
 
②合成ラテックス事業
合成ラテックスとは、合成ゴムを水中に分散させた液状ゴムのことで、ゴム手袋をはじめ、紙加工、繊維処理、接着剤、塗料、化粧パフ等に使用される。
手袋用ラテックスの世界シェアは約15%。また化粧用パフ用ラテックスにおいても90%近いシェアとなっている。
 
 
③化成品事業
C5留分から製品化を行う同社独自のGPI法により粘着テープ・ホットメルト接着剤用素材、トラフィックペイント用バインダー、コンクリート混和剤等、幅広い製品化を行っている。
 
<高機能材料事業>
「高度情報化社会の実現」、「省エネ・蓄エネ・創エネ」、「QOL(生活の質)向上」を目指した研究開発を進めており、自社製造の高機能素材を用いた「情報用部材」、「エナジー用部材」、「メディカルデバイス」を重点3事業分野と位置付けている。
 
①情報用部材
GPI法によってC5留分から抽出、合成されたシクロオレフィンポリマー樹脂は、独自技術で開発した熱可塑性プラスチックで、製品としてZEONEX® (ゼオネックス)とZEONOR® (ゼオノア)がある。
 
ZEONEX® (ゼオネックス)は優れた光学特性を活かして、携帯電話に搭載されているカメラの小型レンズのほかプリンター、光ピックアップ、ミラーといった光学部品に使用されている。
ZEONOR® (ゼオノア)は高透明性や転写性、耐熱性等を活かし、透明汎用エンプラとして、導光板や自動車部品、容器、ディスクなどの幅広い分野で使用されている。
 
シクロオレフィンポリマー樹脂から、世界初の溶融押出製法で開発された光学フィルムがゼオノアフィルム®で、液晶テレビに搭載されているほか、今後はスマートフォンやタブレット端末、デジタルサイネージなど幅広い用途での利用が期待されている。
 
 
また、同社では世界で初めて「斜め延伸位相差フィルム」を開発し、生産している。
従来の3Dテレビは画面に対し両目が水平な状態であれば立体画像が認識できるが、水平でないと画面が暗く見えたり立体画像が不鮮明であった。これに対し、この新型フィルムは3DTVの視野角を大きく広げることにより、斜めから見た場合でも鮮明に立体画像が認識できる。
有機ELの光反射防止フィルムとしての採用も進んでおり、今後も中小型用フラットパネルディスプレイ向けの需要拡大が見込まれることから、現在の高岡工場および氷見工場(合計 年間生産 1,500万㎡)に加えて、福井県敦賀市に新工場を建設することを2012年11月に決定した。(2014年3月完成予定)
氷見工場の追加投資も含め、総額70億円を計画している。
 
他にも、携帯電話、スマートフォン、液晶テレビ用途に代表される、電子デバイス向け塗布型有機絶縁膜ZEOCOAT®(ゼオコート)がある。
ZEOCOAT®は、透明性が高く、吸水性が非常に低いほか、膜からガス成分を発生しにくいためディスプレイの画質と信頼性の向上を同時に達成することができる。
今後、液晶に比べ薄く成型できる有機ELディスプレイ向けに拡販を積極的に進めるとともに、新しい半導体を用いた薄膜トランジスタやフレキシブルディスプレイ用の絶縁材料での採用を目指している。
 
②エナジー用部材
リチウムイオン電池用材料として正極及び負極、機能層(耐熱セパレーター)用バインダー、シール剤を供給している。

現在、リチウムイオン電池は携帯電話、ノートパソコンなどのモバイル機器の電源として広く使用されている。
また、スマートフォン(高機能携帯電話)の急速な普及により、その高容量化は強く求められている。
さらに、軽量・小型でありながら、大きなエネルギーを蓄えられることから、ハイブリッドカー、プラグインハイブリッドカー、電気自動車向け、スマートグリッドなどの産業電源向けの採用も始まっているが、一方で、高温下で使用した場合、寿命が低下しやすいといった課題があった。
 
同社は、リチウムイオン電池バインダーの高機能化を進め、正極用バインダーとして寿命の低下抑制に大きく貢献する機能性バインダーの開発に成功し、また、リチウムイオン電池の蓄電容量を従来比5~15%上げられる負極用バインダーの製品化にも成功した。
正極・負極・機能層(耐熱セパレーター)用バインダー及びシール剤はリチウムイオン電池の「安全性」、「寿命」、「電池容量アップ」に寄与し、ハイブリッドカーの普及に貢献するものと考えている。
 
 
リチウムイオン電池の将来性に注目し、早くから取り組んできた同社では、エナジー用部材事業の2020年のありたい姿として、「リチウムイオン電池バインダー市場でのトップシェアを維持」するとともに、急速充電など自動車用途でのニーズに応えた新しい材料機能の普及拡大や次世代の新しい電池の実現に向けた機能性材料の提案ができることを目指している。
 
 
③メディカルデバイス
メディカルデバイス市場は、景気の影響が少なく、また日本における高齢化の進行と新興国の市場拡大で成長が見込まれる一方、医療機器の製造・販売会社に対する法的要件が厳格であるほか、薬事承認申請作業が必要で、医療従事者との関係作りが不可欠であること等から参入障壁が高く、魅力的な市場であると同社では考えている。
 
同社は、1974年に人工腎臓の開発を開始したのを皮切りにメディカルデバイス事業を積極的に推進し、1989年に子会社ゼオンメディカル株式会社を設立し、同社グループ内で開発・製造・販売・薬事のすべての分野における対応が可能な体制を構築している。
消化器系製品では、胆道結石除去用の差別化製品である「オフセットバルーンカテーテル」、国産初の胆管カバードステント「ゼオステントカバード」、また循環器系製品では、心筋梗塞時等に心臓の拍動を補助するデバイスとして、世界最細径の「ゼメックス IABPバルーンプラス」など、豊富な開発実績を有している。
 
 
現在注力しているのが、胆道結石による痛みからの解放につなげる結石除去デバイスである。
同社の開発製品であるゼメックスクラッシャーカテーテル・バスケットカテーテルNT・バルーンカテーテルなど、巨大結石から胆泥・胆砂まであらゆる胆道結石を除去できるデバイスをラインアップしており、結石除去デバイス全体で50%のシェア獲得を目指す。
 
④化学品事業
C5留分より得られる原料を活用して食品・香粧品用の合成香料や、特徴ある溶剤及び植物調整剤などの特殊化学品を扱っている。
グリーン系の合成香料では世界一のシェアを有している他、医農薬中間体の原料やフロン代替用途などの溶剤・洗浄剤・ウレタン発泡剤及び機能性エーテル溶剤など、幅広い産業分野に特徴ある製品を供給している。
 
【高機能新規素材開発例 ~カーボンナノチューブ(CNT)~】
積極的な研究開発によって様々な新素材を世の中に送り出してきた同社だが、今後大きな成長が期待されるのが「単層カーボンナノチューブ(CNT)」だ。
 
①単層CNTとは?
1993年、独立行政法人 産業技術総合研究所(産総研) ナノチューブ応用研究センター長の飯島 澄夫博士によって世界で初めて蜂の巣上の炭素原子が網目のように結び付いた、筒状分子構造の物質が発見され、「単層CNT」と命名された。
CNTは、「カーボン=炭素」、「ナノ=ナノメートル」、「チューブ=円筒」の3つの言葉の合成。
その構造により、単層CNTと多層CNTに大きく分類できる。多層CNTは比較的生産が容易であることから国内外において実用化への応用開発が推進されている。
 
 
一方、単層CNTは、
・鋼の20倍の強度
・銅の10倍の熱伝導性
・アルミの半分の密度
・シリコンの10倍の電子移動度
 
など、「軽量かつ高強度でありながら高い柔軟性を持つ」、「電気や熱伝導性が極めて高い」といった、多層CNTを上回る優れた特性を持つ。
例えば、リチウムイオン電池の導電助剤への展開、高い伸縮性や強度を持つことから、電子ペーパーや超薄型タッチパネル用の透明導電膜のほか、放熱材料への利用なども考えられている。また、広帯域の光を吸収できる特性があるため、電磁波吸収材としての実用化研究も進んでおり、エネルギー分野、エレクトロニクス分野、構造材料分野、高機能材料分野等、幅広い場面での応用が見込まれている。
 
 
しかし、現在の単層CNTは、不純物が多く、且つ生産性が低いために、製造コストが高く1g当たり数万~数十万円もしているのが大きな課題であった。
 
②同社の取組み&位置づけ
このような背景の中、低炭素社会の実現というグローバルな社会的要請に応え、日本で発見された数多くの優れた特性を持つ単層CNTを応用した新製品を世界に先駆けて事業化、工業化するための技術の確立に取り組む事を目的として、2010年5月、産総研と同社、日本電気(株)、東レ(株)、帝人(株)、住友精密工業(株)、の5社1法人によって「技術組合 単層カーボンナノチューブ融合新材料開発機構」が設立された。
 
同社と産総研が、「スーパーグロース法」という2004年に産総研 畠博士らによって開発された合成技術をベースにして、産総研のつくばセンター敷地内に2010年12月に開設した実証プラントで量産化に向けた研究開発および供給(2011年4月から、産総研より量産品のサンプル供給を開始)を担当し、複合材料の用途開発を上記の研究組合が進めている。
産総研 ナノチューブ応用研究センターが量産化のためのパートナーに同社を選定したのは、同社の荒川公平取締役常務執行役員がCNT研究開発者として豊富な実績と成果を有していた事が大きな理由だということだ。
また、同組合の理事長が同社社長の古河 直純氏であることからもわかるように、単層CNT実用化プロジェクトにおける同社の重要性は大変大きなものである。
 
③今後の展開
スーパーグロース法を基にした量産化技術はほぼ確立したという事だ。
現在、つくばの実証プラントでは一日600gの生産を行っているが、これを自社敷地における工場で行えばより大量の生産が可能である。
単層CNTの量産化技術を確立しているのは世界でも同社のみであり、上記の研究組合に限らず、国内外約100社から問い合わせが来ており、順次サンプル出荷を行っている。また、同社自らも他社に対し用途提案も行っているということで、2014年内の本格的な事業化を目指している。
一方、単層CNTは、ナノ材の一種でありそのサイズが極めて小さい事、形状が繊維状であることから化学的な特性以外に、サイズや形状によって生体への侵入などによる影響があるのではないかという懸念も指摘されている。
現在、産総研を中心に評価手法の標準化、OECDのエンドポイント測定等の取組みが進められており、国際標準化、法規制化が順次行われると考えられている。
 
<その他の事業>
ジシクロペンタジエン(DCPD)を原料とした大型成形法により、浴槽防水パン等住宅設備機器に採用されるRIM(反応射出成形)成形品やRIM配合液を取り扱っている。
 
【社長プロフィール】
 
古河直純社長は、1944年生まれの67歳。
1967年、同社に入社後、経理・財務部門、塩化ビニル事業、ラテックス事業、素材事業などに携わる。
2000年の塩化ビニル樹脂事業撤退の決断において大きな役割を果たした。
2002年に専務取締役高機能材料事業本部長に就任し、新規事業参入に際してもリーダーシップを発揮。
各事業及び管理部門など幅広い分野の責任者を歴任したのち2003年6月代表取締役社長に就任した。
 
「スピード」「対話」「社会貢献」といった言葉をスローガンに、人より早く目的を達成するチームワークを重視している。
また、独創的技術を継続的に創出して行くことが自社の生命線であるとの認識から、トップによる研究開発の活性化に積極的に取り組んでいる。
具体的には、研究員を対象に毎月社長ヒアリングを行っており、若手研究員と社長が直接対話、議論し、アドバイスを行っている。
 
 
特色・強み
 
1.世界トップクラスの独創的な技術開発力
C4留分からブタジエンを製造するGPB法は戦後の日本化学史上トップクラスの技術開発であり、アメリカ、韓国を始め世界19か国49プラントに技術供与している。
また、C5留分から高純度のイソプレンや石油樹脂、合成香料の原料などを製造するGPI法も同社オリジナルで、水島工場が世界で唯一の抽出プラントであり、他社には技術供与していないオンリーワンの技術である。
 
この2つの技術に代表される独創的な技術開発力が同社の大きな強みであり、世界的に高く評価されており、国内外で数々の賞を受賞している。
技術関係では、GPB法、GPI法はもちろんのこと、1960年から現在までに48の賞を、環境・安全関係では1982年から現在までに26の賞を受賞している。
 
2.高い利益率
同業の化学メーカーの中では下のグラフの様に、売上規模では下位に属するが利益率は上位にあり、その収益性の高さは注目される。
 
 
同社は製品開発に際し、汎用品ではなく同社ならではのニッチで差別化が可能な製品の供給を志向している。
また抽出技術と合成技術に優れているため、例えばゴムであれば顧客の要望に合わせた分子構造の合成ゴムの製造が可能だ。
特にGPI法は同社のみが保有する技術であるため、C5留分を使って製造される原材料は他社が真似のできない差別化が図られている。こうした点が高い収益性に繋がっている。
 
3.世界的な高シェア
「Zetpol®」、「ZEONEX®」、「ZEONOR®」に代表される同社の独創的技術から生み出された様々な製品は、世界的に高いシェアを獲得している。
これ以外にも、化粧品や食品フレーバーに使用される「リーフ(青葉)アルコール」、懸濁重合法で製造したプリンター用トナー「重合法トナー」、半導体製造用エッチング・ガス「ZEORORA®」なども「世界No.1」製品となっている。
 
4.独創的な技術を生み出し続ける研究開発体制
「特定の得意分野で独創的技術を開発し、世界一事業を創出して社会に貢献する。」との基本理念に基づき、研究開発に取り組んでいる。
主要研究拠点は神奈川県川崎市にある「総合開発センター」だが、製造現場に近いところで研究開発を行うことが効率的であるとの考えから、高岡工場に精密光学研究所、メディカル研究所を、米沢工場に化学品研究拠点を設立した。また海外では、米国および英国に研究グループを有している。
 
研究員は現状に満足することなく、適度な危機感を保ちつつ、研究にあたっているということだ。また会社も加点主義に基づく評価を行い、スピードと独創性を重視している。
R&D費について従来は対売上高比を基準としていたが、安定的な研究開発を継続していくため、今後は年間120億円程度を目途に投資を行っていく考えだ。
 
 
2013年3月期第3四半期決算概要
 
 
コストダウンを図るも、数量、価格とものマイナスを補いきれず「減収・減益」
景気減速による市況の低迷、円高の影響などで、売上高は前年同期比 -6.4%の1,865億円。内訳は、数量差で -104憶円、価格差で -18億円、円高の影響で -6億円。
営業利益は同 -39.8%の減益。こちらも、数量(-33億円)、価格(-18億円)、為替(-6億円、特にユーロ)、原料・原価(-52億円)など各要因でマイナスとなり、コストダウンを15億円行ったが、補いきれなかった。
11月以降の円安と株価の上昇で、営業外費用において9億円の減少(為替評価損)、特別損失において7億円の減少(投資有価証券評価損)があったが、数量減少及び価格低迷により、「減収・減益」となった。
 
 
数量減、価格低迷、原料高により、エラストマー素材事業全体も減収・減益となった。
汎用ゴム、特殊ゴムとも数量はマイナス。ラテックスも主力の手袋用が円高の影響などで数量が減少した。
化成品は、国内向けが堅調で数量は微増だった。
 
 
高機能材料事業全体では一部好調な品目もあったが、市況低迷などにより減収・減益となった。
高機能ケミカルでは、合成香料、トナーなどの化学品が欧州景気の低迷、円高などで不振だった。一方リチウムイオン電池関連材料は増収だった。
高機能樹脂では、偏光板接着問題により販売数量低下が続いていた光学フィルムが、接着方式を変更したことによる問題解決とガラス薄膜化対応によって第2四半期を底に第3四半期から持ち直し増収となった。
 
 
 
総資産は98億円増加の3,217億円。売上の低迷で売上債権が27億円減少した一方、シンガポール新プラントなど海外を中心に有形固定資産が50億円増加した。
負債面では、短期借入を中心に有利子負債を33億円増加させたものの、利益剰余金の増加など自己資本が82億円増加したため、自己資本比率は前期末の42.5%から43.7%へ上昇した。
 
(4)株式会社トウペへのTOB
2013年2月6日の取締役会で株式会社トウペ(東証1部・大証1部上場、証券コード4614)に対するTOB(株式公開買付け)実施を決議した。
 
◎TOB実施の概要
株式会社トウペの発行済普通株式の全株式に対し公開買付けを行い、必要手続きを経て完全子会社とする。
1株125円で、発行済株数全株(トウペ社が保有する自己株式を除く)を取得すると、買付け金額は約38億円となる。買付は全額手元資金で賄う予定。
なお、トウペ社の親会社である古河機械金属(株)とは、2013年2月6日に公開買付応募契約を締結し、買付に応募するとの合意を得ている。
 
◎その背景、目的
設立が1919年と90年近くの長い歴史を持つトウペ社は、塗料メーカーとして長年蓄積してきた技術力をフルに活かし、塗料ニーズの高機能化、商品価値向上の要求、環境配慮型塗料開発等のニーズに積極的に対応しているほか、グローバルな視点から新しいテクノロジーの開発に努力している。
中でも、次世代の産業構造に対応すべく、塗料部門のみならず、油や熱に対する耐性に特徴のあるアクリルゴムを主力商品とする化成品部門の充実により、自動車産業等へのさらなる展開も図り、塗料と化成品を事業の両輪として付加価値を高めたビジネス展開をはかっている。
 
日本ゼオンのエラストマー素材事業とトウペ社の化成品事業においては、現在アクリルゴム等同一製品の製造販売を行っているが、両社で原材料の調達、製造、製品供給等において、それぞれが保有する経営資源を相互に有効活用すれば、今後増大が見込まれるアクリルゴム需要を効率的、効果的に取り込むことができると判断した。また、こうした製品供給の効率化を行う一方、両社がそれぞれ国内に1か所ずつ有している生産拠点を併存させることにより、今後自動車用途を中心に旺盛な需要が見込まれる特殊ゴムにおいて安定供給体制を構築し、ユーザーのニーズに対応することが可能だと考えている。
 
日本ゼオンの主力事業であり、自動車等の高性能化に伴いますます重要性の高まっている特殊ゴムを中心としたエラストマー素材事業の更なる強化は、中期経営計画「SZ-20」にも掲げているように、同社にとって重要な戦略である。そのため、今回のトウペ社完全子会社化は、経営資源の有効活用と経営効率化策の推進を通じて、日本ゼオングループの企業価値を大きく向上させるものになると同社は考えている。
 
◎TOBの結果
公開買付けが2013年3月21日をもって終了し、その結果発行済株式全株(トウペ社が保有する自己株式を除く)の88.34%を取得したため、トウペ社は同社の連結子会社となる予定である。
 
 
2013年3月期業績予想
 
 
業績予想に変更ないが、円安、光学フィルムの回復などによる上積みを図る。
昨年11月に発表した業績見通しから変更はないが、3Qからの環境変化もあり、少しでも予想を上回るよう企業努力を継続していく考えだ。
数量については、3Qと比べて、ゴム +9%、化成品 +8%の増加を見込んでいるが、ラテックスは-9%の減少と予想しており、エラストマー素材事業で全体では+5%の増加と予想している。
高機能材料事業では、光学フィルムが3Qから増勢に転じており、数量で+35%する計画だ。
4Qは、円安の進行に伴い14億円のプラス効果を見込んでいる。
原材料・原価動向についてはナフサの上昇、アジアブタジエンも高いと思われるが、製品価格への転嫁は難しいと会社側は考えている。
2013年3月期の配当は、中間6円/株、期末6円/株の合計12円/株で前期に比べ1円/株増加し、3期連続の増配を予定している。
 
 
中期経営計画「SZ-20」について
 
同社は2020年のありたい姿を「化学の力で未来を今日にするZEON ~わたしたちゼオンは、お客様の夢と快適な社会の実現に貢献し続けます。~」と定義し、その姿実現に至る具体的な実行計画として、2011年~2013年度を対象とした中期経営計画「SZ-20」を2011年5月に発表した。
2020年のありたい姿実現に向け、ベースになる考え方として「スピード(Speed)」、「対話(Sincerity)」、「社会貢献(Social contribution)」の3Sを掲げている。
 
業績目標としては、「2020年度連結売上高5,000億円」を目指している。
 
 
連結売上高5,000億円達成のためには、海外の成長市場においてスピーディーに且つ確実に、研究開発・生産・販売する体制を整えることが必要であり、「グローバル展開体制の構築」を掲げ、2020年には海外生産高比率を現在の20%から50%以上にアップさせることを目指している。
高機能製品の販売を拡大させるためにはエンドユーザーの情報が不可欠であることから、販売拠点の設置や営業マンの大幅増員も必要であると考えている。
設備投資額は、シンガポールのS-SBR工場など高付加価値製品を生産するための工場起工などを含め、10年間で累計3,200億円を計画している。
 
また各事業においては以下の戦略を推進する。
 
<エラストマー事業>
「成長市場へのグローバルな対応による強い事業の更なる強化」を目指す。
 
シンガポールにおいては前述のように、S-SBR生産拠点の2013年7月稼働を予定している。
中国における自動車内装向け素材のPSC(パウダースラッシュ材料)の生産拠点は2012年4月に設備が完成し、8月から本格稼働している。PSC材料の品質、成形のしやすさが高く評価され、一部メーカーで既に採用されている。
また、中国国内のみでなく、日本向け、北米向けにも採用が拡大しており、グローバル供給拠点として機能させるべく、更なる量産体制を検討中である。
その他、具体的な商材としては、「S-SBR」、新「Zetpol®」に期待している。
 
<高機能材料事業>
「重点3事業分野での研究開発の加速による事業拡大」を目指す。
 
「情報用部材」、「エナジー用部材」、「メディカルデバイス」を重点3事業分野と位置付け、前述の製品拡販を進めていく。
 
またコスト競争力強化のために、ダイセル株式会社のダイセル式生産革新手法を導入するとともに、全社的な現場における改善活動である「ZΣ活動」によるコスト低減活動を継続し、毎年45億円以上のコスト削減を目指している。
 
 
CSR活動
 
同社はCSR重視の経営を進めており、2010年4月に以下のようなCSR基本方針・行動指針を制定している。
 
 
この基本方針は全ての会議で唱和し、全社員における意識徹底を図っている。
 
また、CSR活動を強力に推進し、グループ全体への展開を図るために2011年1月に社長を議長とするCSR会議に組織を統合した。
ホームページのCSRサイトも2011年8月にリニューアルを行った。
 
CSRの中でも環境問題に関しては、「環境に配慮した製品開発」、「CO2の削減」、「有害化学物質の大気排出削減」、「大気・水質の保全」に取り組んでいる。
 
地域との共生に関しては、高岡工場のある富山県高岡地区、氷見地区で清掃のボランティア活動を継続して行っている。
 
 
株主に対する考え方
 
2013年3月期は1円増配の年間12円の配当を予定。3期連続の増配となる。配当性向は23.1%)。
成長のための投資を実施しつつ、継続的に安定した配当を行うことを基本方針としている。
また、個人株主拡大と流動性の向上のために有効な手段であるとして、「投資単位の引き下げ」を検討していく。
 
 
今後の注目点
短期的な注目点としては、原材料価格の上昇はあるものの、円安の進行による事業環境の改善、光学フィルムの底入れ・拡販により、通期業績を現在の予想からどこまで伸ばすことができるかとなる。

一方中長期的には、中期経営計画「SZ-20」に掲げる「2020年度連結売上高 5,000億円」達成に向けた体制作りの進捗に注目したい。
円安による環境好転はある程度期待できるものの、C4留分などの原材料を使用する製品群、中でもエラストマー素材の製造・販売は海外における最適地生産、付加価値の高い製品の開発は国内でという棲み分けをこれからも進めざるを得ない中で、シンガポールや中国での生産拠点の着実な立ち上げが欠かせない。
また、顧客動向(特に海外)を把握するための情報収集力の強化も大きなポイントだろう。
今期予想の売上高営業利益率は10%に届かないが、「2ケタ」実現を目指しての、生産性の向上、高付加価値製品拡販の取組みにも注目したい。
 
 
<付属:Fact Sheet>