ブリッジレポート:(3667)enish vol.1
(3667:東証マザーズ) enish |
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企業名 |
株式会社enish |
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社長 |
杉山 全功 |
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所在地 |
東京都渋谷区広尾1-13-1 |
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決算期 |
12月末日 |
業種 |
情報・通信 |
項目決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期純利益 |
2011年12月 | 2,590 | 526 | 523 | 298 |
2010年12月 | 415 | 64 | 71 | 55 |
2010年1月 | 22 | -40 | -41 | -41 |
株式情報(2/26現在データ) |
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今回のポイント |
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会社概要 |
【沿革】
(株)シンクロア(現Kii(株))のアプリケーション開発事業部門としてスタートし、2009年2月にヤフー(株)のリードエンジニアであった安徳孝平氏と公文善之氏を中心とする(株)Synphonieとして分離独立。同年8月に「mixi」がプラットフォームをオープン化した(規格の公開。これにより第三者が「mixi」上でアプリケーションを提供できるようになった)事を受けてソーシャルゲームに参入。同年10月に全国の飲食店と位置情報に連動したレストラン経営シミュレーションゲーム「ぼくのレストラン」の提供を開始(10年6月に「ぼくのレストランⅡ」にバージョンアップ)。10年7月には「GREE」を運営するグリー(株)からの出資を受け、同年11月にアパレルショップの経営シミュレーションゲーム「ガルショ☆」の提供を開始した。その後、RPG(ロールプレイングゲーム)にもジャンルを広げ、杉山氏が社長に就任した11年6月には探索型RPG「ボクらのポケットダンジョン」を公開。翌7月には、改めてグリー(株)と業務提携契約を締結すると共に、(株)フジテレビジョンとの共同企画の下、料理バトルゲーム「料理の鉄人」を公開。更に、No.1モデル育成シミュレーションゲーム「プラチナ☆ガール」(11年12月)、探索型RPG「ボクらのポケットダンジョン2」(12年1月)、カードバトルゲーム「ドラゴンタクティクス」(12年7月)とラインアップを拡充して業容を拡大。12年9月に(株)enishに商号を変更し、同年12月に株式を東証マザーズに上場した。 【事業内容】
事業はソーシャルアプリ事業の単一セグメント。自社で開発したゲームを、「GREE」、「Mobage」、「mixi」、「hangame」、「Ameba」、「entag!」といったプラットフォーム(SNSやソーシャルゲームサイト)を通して提供しており、ユーザーはフィーチャーフォン(従来型携帯電話)やスマートフォンでゲームを楽しむ事ができる。ゲームは無料だが、ゲームを展開する上で有効なアイテム等(「ぼくのレストランⅡ」の場合、店を繁盛させるために必要なレシピや店舗を飾るアイテム等)を購入した場合、課金が発生する。ユーザーへの課金及び料金回収はSNSを運営するプラットフォーム事業者に委託し、同社はその対価としてシステム利用料等を支払っている。 現在提供中のタイトルは下記の通りで、12/12期は、「ぼくのレストランⅡ」の売上が非連結売上高の49.0%を占め、以下、「ガルショ☆」23.9%、「ドラゴンタクティクス」10.6%、「ポケットタンジョン2」9.7%、その他6.8%。 【特徴】
ユーザーはF1層と呼ばれ、購買力が高いとされる20~30代の女性が中心で、「ぼくのレストランⅡ」はユーザーの70~80%、「ガルショ☆」は90%が女性であると言う。SNS等を通して提供されるソーシャルゲームは、最近ではトレーディングカードゲームを原型とするカードバトルゲームが主流だが、草創期は動物の育成、農作物の栽培、店舗経営等のシミュレーションゲームが多かった。商品寿命の短さもあり、こうしたシミュレーションゲームの大半が淘汰される中でライバルは男性ユーザーが圧倒的に多いカードバトルゲームにシフトしたが、同社においては、「ぼくのレストランⅡ」や「ガルショ☆」がロングセラーとして今もなお収益に貢献している。 このため、女性中心のユーザー構成となったが、11/12期以降、男性ユーザーの取り込みを図るべくジャンルの拡大に取り組んでおり、11年6月に探索型のRPG(ロールプレイングゲーム)「ボクらのポケットダンジョン」(12年1月に「ボクらのポケットダンジョン2」)を投入し、更に12年7月には「ドラゴンタクティクス」を投入し(ソーシャル)カードバトルゲームに参入した。 【強み】
ソーシャルゲームビジネスは、基本は無料で利用でき、ゲーム内で使用するアイテムの販売等で収益をあげていくビジネスである。このため、何気なく始めた無料ゲームで、いかにして「お金を払ってもいいから、もっと楽しみたい」と言う気にさせるかがポイントとなり、ゲームとしての完成度の高さに加え、リリース後もユーザーの嗜好の移り変わりに合わせた改良やイベント等の導入が必要となる。同社はデータマイニングの強みを活かし、ゲームのリリース後にもユーザーの行動履歴の分析を行う事で、ゲームの利用率、継続率、課金率等の指標が改善するよう継続的にゲームに改良を加えている。こうした改良は同社に限った事ではないが、数週間で配信が終了するゲームもある中、同社においてはロングセラーとして長く収益に貢献しているゲームが多い事が同社のデータ分析の精度の高さと分析に基づく施策の妥当性・適時性を物語っている。また、この成功体験を新規タイトルの企画・開発に活かして、戦略的・継続的に作品を投入している。 ゲーム作品を複数のプラットフォームに迅速に提供可能なフレームワークの整備が進んでいる事も同社の強みである。このため、ゲームの特性と各プラットフォームのユーザーの特徴や傾向を考慮して配信するプラットフォームやその組み合わせを決める事や、短期間での新規アプリの企画・開発と相まって成長速度の速いソーシャルゲーム市場に機動的に対応していく事が可能である(フレームワークとはアプリケーションソフトを開発する際に必要となるアプリケーションの土台として機能するソフトウエアの事)。
【自主規制対応】
ソーシャルゲーム等で行われていたアイテム販売手法の一つであるコンプガチャ(コンプリートガチャ)はソーシャルゲーム各社の大きな収益源だったが、マスコミ報道等でその違法性が指摘され、12年7月には消費者庁が景品表示法の"懸賞による景品類の提供に関する事項の制限"の運営基準を改正してコンプガチャを禁止した。ソーシャルゲーム各社は禁止される前に自主的にコンプガチャを中止しており、同社もコンプガチャの中止を含めた下記の取り組みを実施すると共に、業界の健全発展と利用者保護を目的に発足した一般社団法人ソーシャルゲーム協会(JASGA)へ加盟した。 |
成長戦略 |
(1)市場動向
調査会社によると、11年度の国内ソーシャルゲーム市場は2,842億円(ユーザー課金ベース、広告収入除く)。12年度は3,870億円と37%の市場拡大が見込まれており、続く13年度も同10%増の4,256億円と拡大基調が続く見込み。フィーチャーフォンからの移行が進むスマートフォンへの対応や海外展開とその際のマネタイズ化の成否が今後の市場発展の焦点になる、としている。
(2)成長戦略
「環境の変化に対応しつつ、持続的成長(利益成長率20%超)を実現していく」事を基本戦略としている。具体的には、当面の国内ソーシャルゲーム市場の拡大を念頭に置きつつも、ソーシャルゲームの主戦場がフィーチャーフォンからスマートフォンへ、そして国内から世界へと移行していく事を想定しており、その上でネイティブアプリゲームマーケットが急成長するとみている(一方、ブラウザアプリゲームマーケットは緩やかな成長)。このため、既存タイトル及び新規タイトルで収益の最大化を図ると共に、ネイティブアプリへの対応と海外展開を進めていく考え。また、O2O(Online To Offline)に代表されるソーシャルゲーム周辺ビジネスへも展開し、非課金収入の拡大にも取り組んでいく。尚、ネイティブアプリとは、プログラムをGoogle Play StoreやAppStore等のアプリマーケットを通じて端末にダウンロードして利用するアプリケーションの事(これに対するものがブラウザアプリで、「GREE」等のプラットフォーム上でブラウザーを介して利用する)。 既存タイトル及び新規タイトルで収益の最大化
既存タイトルは、強みであるデータマイニングを活かした高速PDCA(Plan、Do、Check、Action)による品質の最大化と効率運用及び広告費コントロールにより収益の最大化を図る。一方、新規タイトルの投入は年4タイトル程度を計画しており、13/12期はネイティブアプリ2タイトル(Android版、iOS版)、ブラウザアプリ2タイトルの計4タイトルを予定している。
ネイティブ対応と海外展開
取り組みを強化するネイティブアプリについては、当初、得意ジャンルの経営シミュレーションゲームとカードバトルゲームを予定しており、国内でのリリース後に順次海外(アジア及び北米)へ展開していく。
周辺ビジネスへの展開
ソーシャルゲームの周辺ビジネスに展開する事でビジネスモデルの多様化にも取り組んでいく考え。その一つが、同社のゲーム特性、ユーザー数、ユーザー属性を活用してゲーム課金以外で収益機会を追求するO2O。11/12期から取り組みを本格化し、四半期に1回程度のペースで様々な企業とのO2Oタイアップによるリアルとバーチャルのコラボレーション企画の実証実験を進めている。例えば、NTTドコモの健康応援サービス「i Bodymo」の利用者限定キャンペーンでは、「i Bodymo」の加入者(既加入も可能)にシリアルナンバーを提供し、「ぼくのレストランⅡ」の限定アイテムを取得できるようにした(ゲーム内の特設ページでシリアルナンバーを入力する必要がある)。また、明星食品とのタイアップによる「明星食品チャルメラ5食パック」のキャンペーンでは、シリアルナンバーを付与したキャンペーン対象シールを「チャルメラ 5 食パック」に貼り付け、シリアルナンバーをゲーム内のキャンペーンページで入力すると、購入点数に応じて「ぼくのレストランⅡ」の限定アイテムを取得できるようにした。いずれのケースも、同社はプロモーション受託料を企業から受け取り(実験段階であるため現在は1回数百万円程度)、企業は販促費として処理している。 |
2012年12月期決算 |
12/12期は上場時の予想を売上・利益共に上回り、1月21日の上方修正値に沿った着地
売上高は前期比71.0%増の44億30百万円。「ぼくのレストランⅡ」及び「ガルショ☆」の主力2タイトルを中心に既存タイトルが堅調に推移する中、新規タイトル4本を投入。新規タイトルでは、第1四半期(1-3月)に投入した探索型RPG「ポケットタンジョン2」が順調に立ち上がった他、第3四半期(7-9月)に投入した(ソーシャル)カードバトルゲーム「ドラゴンタクティクス」の売上が第4四半期(10-12月)には「ガルショ☆」の売上を上回った。一方、12年5月末にコンプガチャのサービスを停止したが、影響は限定的なものにとどまった。利益面では、当期及び次期に投入する新規タイトルの開発に伴う労務費(開発ラインの増加に伴うもの)及び外注費・手数料の増加で売上総利益率が36.4%と5ポイント低下。派遣社員を含む社員の増員や広告宣伝費及び採用費の増加で販管費の伸びも大きくなったが、増収効果で吸収して営業利益が6億66百万円と同26.7%増加。営業外に上場関連費用11百万円計上したものの、経常利益も同25.0%増加した。 売上高の特徴
タイトル別売上構成比は、「ぼくのレストランⅡ」が49.0%、「ガルショ☆」が23.9%、「ポケットダンジョン2」(12年1月サービス開始)が9.7%、「ドラゴンタクティクス」(12年7月サービス開始)が10.6%、その他6.8%。運営力で既存タイトルが成長を持続し、新たに新規タイトルが積みあがる事業構造が構築されつつあり、2本柱体制から4本柱体制へと事業基盤の強化が進展。カードバトルゲームに参入した事で、目論見通り男性比率も上昇した(全タイトルにおける男比率11/12月度:20%→12/12月度:33%)。プラットフォーム別では、「GREE」向けの比率が11/12月度の73%から60%へ低下する一方、「mixi」、「Mobage」向けの比率が上昇しポートフォリオバランスが良化(「GREE」向けは売上高が増加する中で、比率が低下した)。また、デバイス別では、スマートフォン利用者のユーザビリティー向上に取り組んだ結果、フィーチャーフォン向けの売上が増加する中、スマートフォン向けの売上構成比が日本のスマートフォン普及率(インターネットメディア総合研究所によると39.8%)と同様の水準に上昇した。 同社タイトル全体のデバイス別実績の推移
尚、新規タイトルの開発費については、資産計上せず期間費用として処理している。また、社員については、正社員がプロダクト部門25名、管理部門2名の計27名増加し、期末98名(プロダクト90名、管理8名。この他、派遣・委託23名を加えると121名)。ちなみに、プロダクト部門とは、アプリチーム(1ライン8~10名程度)、システム、データマイニング、プロモーション、開発支援、制作(UI、Design、flash)チーム等。一方、管理部門とは、人事総務、経理、財務、経営企画、内部監査チーム。 |
2013年12月期業績予想 |
前期比51.2%の増収、同22.3%の経常増益予想
売上高は前期比51.2%増の67億円。既存タイトルで約57.7億円、新規4タイトルで約9.3億円を見込んでおり、新規タイトルはネイティブアプリ2タイトル(Android版、iOS版)、ブラウザアプリ2タイトル(上期1タイトル、下期3タイトル)を予定。このうち1タイトルは同社初の有名版権を使用したタイトル。O2O事業は四半期に1本のペースで実証実験を実施していく考えだが、今期の売上寄与は限定的なものにとどまる見込み。営業利益は同23.1%増の8億20百万円。売上原価(主に労務費、外注費)、販管費(主に広告宣伝費)が共に増加するものの、増収効果で吸収する。人員はプロダクト部門を中心に36名の増員を予定しており、期末従業員数は134名となる見込み(派遣・業務委託を含めると、36名増の157名)。人員増に伴い業務フロアを増床・移転する予定で、上期後半に増床し、下期には移転・集約する(数千万円の費用を見込むが、一部は資産計上)。また、新規4タイトルのうちネイティブアプリ2タイトルを海外市場に投入する計画だが、売上を見込まない一方で、開発費、運営費、広告宣伝費等のコスト約1.7億円を織り込んだ。国内向けのネイティブアプリは若干の売上を見込む一方、コスト約1.3億円はフルに織り込んだ。広告宣伝費については、これまで売上見合いで順次投下していたが、今期からはタイトル投入時に重点投下すため、3タイトルをリリースする下期は広告宣伝費の負担が重くなる(広告宣伝費全体で売上の10%程度を想定)。 (3)株主還元方針
同社は株主に対する利益還元を経営の最重要課題の一つとして位置づけている。剰余金の配当については配当性向を重視しつつ、より高い水準に引き上げる事を目指しており、当面、配当性向 20%を目途に配当を実施していく考え(12/12期は1株当たり28円の配当を予定しており、配当性向は16%となる)。13/12期の配当については、決算発表時点では正式に開示されていないものの、業績が予想通りであれば、1株当たり6円増配の年34円となる見込み。
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