ブリッジレポート
(2468) 株式会社フュートレック

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ブリッジレポート:(2468)フュートレック vol.23

(2468:東証マザーズ) フュートレック 企業HP
藤木 英幸 社長
藤木 英幸 社長

【ブリッジレポート vol.23】2013年3月期上期業績レポート
取材概要「経営理念を「社会の変化に柔軟に対応して、その時代に求められる商品を追求し、継続的に発展する会社を目指す」とする同社。半導体の受託開発から・・・」続きは本文をご覧ください。
2012年12月18日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社フュートレック
社長
藤木 英幸
所在地
大阪市淀川区西中島 6-1-1
決算期
3月 末日
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2012年3月 2,562 501 502 261
2011年3月 2,085 482 485 284
2010年3月 1,996 530 540 315
2009年3月 1,777 404 415 221
2008年3月 1,598 264 277 159
2007年3月 1,253 249 256 162
2006年3月 1,443 173 165 99
2005年3月 1,059 69 79 33
2004年3月 907 9 6 -1
2003年3月 736 12 12 3
2002年3月 435 17 34 29
株式情報(12/10現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
1.030円 9,312,800株 9,592百万円 9.8% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
12.50円 1.2% 41.88円 24.6倍 331.23円 3.1倍
※株価は12/10終値。発行済株式数(自己株式を控除)は12年10月の株式分割を反映。
BPS=上期末自己資本/分割後の発行済株式数
 
フュートレックの2013年3月期上期決算について、ブリッジレポートにてご紹介致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
スマートフォンに話しかけるだけで操作を行う事ができるスマートフォンアプリ「しゃべってカンタン操作」(NTTドコモ)や声で入力できる銀行向け業務日報ソリューション等、「あらゆるビジネスシーンにも耐え得る高い認識精度」、「幅広い品揃え」、及び「カスタマイズ可能な柔軟性」を強みとする音声認識技術を用いてソリューションを展開。NTTドコモの音声エージェントサービス「しゃべってコンシェル」は、同社の音声認識エンジンを使用してサービスが提供されている。
 
グループは、同社の他、音声認識コア技術の開発をする(株)ATR-Trek、CRMソリューションやシステムソリューションを手掛けるイズ(株)、及びiPhoneを中心にしたスマートフォン向けアプリ開発の(株)スーパーワンの連結子会社3社。NTTドコモ・グループが発行済株式の約10%を保有し、12/3期はNTTドコモ向けの売上高が全体の59.8%を占めた。
 
【沿革】
半導体設計の受託からスタートし、音源IP事業へ展開
2000年4月に半導体設計の受託会社としてスタートしたが、当初から受託の枠にとどまる考えは無く、受託の傍らで自社製品の開発(携帯電話用音源LSIの設計データの開発)に取り組んだ。01年3月、設計データ開発が完了し、これを音源IPとして販売開始(設計データを知的財産権化してライセンス)。この音源IPがNTTドコモに採用され(フュートレックの音源がNTTドコモの標準仕様として搭載)、業容が拡大。05年12月に東証マザーズに株式を上場した。
 
音声認識で成長の第2ステージへ
06年5月には、NTTドコモと資本・業務提携契約を締結。この頃から新事業の育成に着手し、06年12月、音声認識分野に展開するべく(株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR)と業務提携。07年5月 にはATRの関連企業である(株)ATR - Langに資本参加した(出資比率66%、残り34%はATRグループの(株)ATR-Promotions。資本参加後に(株)ATR-Trekに商号を変更)。音声認識システムの販売等が順調に拡大し、11/3期からはユーザーインターフェース関連の開発を手掛けるUIソリューション事業(09年4月に開始した事業)と統合し、音声認識・UIソリューション事業分野として音声認識技術を利用したシステム開発やサービスの企画・提案に力を入れている。
 
CRM・システムソリューション及びスマートフォン向けアプリ開発とのシナジーで音声認識事業を強化
10年9月にはスマートフォン・カーナビゲーション・家電等の操作性向上を目的とする次世代音声UIの開発を目的に(株)アクロディア(3823)と業務提携し、同年11月に資本参加(発行済株式の2.72%を取得)。11年4月には、「Visionaryシリーズ」を中心に約150社にCRMソリューションやシステムソリューションを展開するイズ(株)及びその子会社でスマートフォン向けアプリ開発等を手掛ける(株)スーパーワンを子会社化した。今後、音声認識技術を取り込んだCRM ソリューションや業務ソリューション、或いは(株)スーパーワンのアプリ開発力を活かした音声認識関連のスマートフォン向けアプリ開発等を強化していく考え。
 
 
新規事業の継続的な開発・育成により、業績は幾度かの踊り場を作りながらも、見事な右肩上がりの曲線を描いている。11/3期、12/3期はスマートフォン対応等の先行投資が負担となったが、13/3期以降は、利益が増加する見込み。
 
【事業内容】
事業は、ライセンス事業とライセンス以外の事業に分かれ、12/3期の売上構成比は前者が91.3%、後者が8.7%。また、前者は、音声認識・UIソリューション事業分野(同58.4%)、音源事業分野(同16.9%)、CRMソリューション事業分野(同15.9%)に分かれ、後者は基盤事業分野(同4.2%)及びカード事業分野(同4.5%)に分かれる。
 
 
尚、音声認識・UIソリューション事業分野の収益は、技術や製品を提供する際、最初に受け取る許諾料「イニシャルフィー(初期許諾料)」、技術や製品を搭載するに当たり、周辺のシステム改変等を行う場合(実施毎)に受け取る実費用「カスタマイズ費用」、技術や製品を搭載した最終製品の生産や販売等に応じて、「1台当たり」、「1ダウンロード当たり」等の基準で受け取る継続許諾料「ランニングロイヤルティ」等からなる(ビジネス環境の変化等でこのビジネスモデルに収まらないものも増えている)。
 
 
 
音声認識技術と同社の強み
 
音声認識技術とは、人間の話した言葉を機器に認識させて、音声による機器操作や情報入力を可能にする技術。同社は「vGate(ブイゲート)」ブランドの下で、機器に人間の声を認識させる「vGate ASR」、音声合成により機器に言葉を発語させる「vGate TTS」、及び音声認識と音声合成を組み合わせて機器との会話を実現する「vGate Talk2Me」の3製品をラインナップしており、これらの製品を様々なアプリケーションやシステムに組込む事によって、汎用的に利用する事ができる。
 
 
尚、現在、日本で「音声認識」、「音声合成」、及び「音声対話」の3つの技術を有するのは、同社のみである*1。
*1 同社調べ
※ 音声認識の仕組み
端末内又はアプリ内に内蔵されたミドルウェアで事前処理を行う場合もあるが、通常は端末に入力された音声をサーバへ送り、サーバ内の音声認識エンジンで音声認識を行う。音声認識エンジンの「音響モデル」、「言語モデル」、「辞書」は、継続的なブラッシュアップとデータベースの拡充を必要とする。
 
 
(1)フュートレックの音声認識製品(技術)の強み
フュートレックグループの音声認識製品(技術)の強みとして、「高い認識率」、「幅広い音声認識関連製品ラインナップ」、及び「カスタマイズ可能な柔軟性」を挙げる事ができる。
 
①「高い認識率」
・NICTやATRの音声認識基礎技術を利用
フュートレックの音声認識技術はNICT(独立行政法人情報通信研究機構)及びATR((株)国際電気通信基礎技術研究所)の基礎技術をベースにしている。ATRは1980年代から音声認識の研究開発をリードしてきた研究所で、蓄積された技術や多くのデータは音声認識において重要な役割を果たしている。また、NICTはその研究成果を引き継いで音声認識の研究を継続している。
 
・屋外でも精度の高い音声認識
高い認識率を支えている技術の一つが、優れたノイズリダクションである。屋外はもとより、雑音のある場所での使用が想定される製品や業務ソリューションには大きな強みとなっている。
 
・音声認識エンジンを継続的に調整
提供しているサービス上での誤認識データを日々調査し、より正確な音声認識ができるよう、継続的に音声認識エンジンのメンテナンスを続けている。
 
②「幅広い音声認識関連製品ラインナップ」
フュートレックの音声認識製品は、音声認識・音声合成・音声対話と幅広い製品を取り揃えている。また、それぞれの製品においても複数のシステム形態があり、使用用途に応じて提供できる。
 
 
③「カスタマイズ可能な柔軟性」
システム・音声認識辞書共にカスタマイズが可能である。
 
・顧客ニーズに応じてシステムのカスタマイズが可能
スマートフォン向けアプリケーション、iPhone向けアプリケーション、サーバ側システム、更にはWebソリューション等、グループの開発力で対応できる。
 
・音声認識辞書のカスタマイズも可能 ~社内用語も認識~
業界専用・社内専用の用語が多く使われる職場等での業務ソリューションの提供に当たっては、その専門用語の認識が不可欠となるが、フュートレックでは、こうしたニーズにも対応し、各社独自の辞書対応を行う事ができる。
 
(2)音声認識製品(技術)を用いた事業展開
フィーチャーフォンは事前に搭載されていない機能は基本的に使用できないため、様々な技術が事前に搭載されていた(使用しなくても機能や技術は搭載済み)。一方、スマートフォンは使用する上での必要最小限の機能や技術のみを搭載するし、ユーザーが便利に使用するための機能やサービス等は必要に応じてアプリをダウンロードする。これは、搭載する技術やサービスの選択権が従来のキャリアや端末メーカーから、ユーザー各個人に移った事を意味している。この結果、スマートフォン向けビジネスは従来のビジネスモデルにこだわらない様々なアプローチが可能となった。
 
同社は携帯電話・スマートフォン業界のみにとどまる事なく、あらゆる業界をターゲットに事業を展開していく考え。この一環として、11年11月には(株)ホンダアクセスと提携し、車内サービス「スピーチナビゲーション」に関する共同開発を開始した。また、音声認識製品(技術)を用いて開発した業務日報ソリューションが、12年8月に池田泉州銀行全店に導入された。
 
音声認識を用いた新たな試み
音声認識の利用を広げるために、同社では「電話日報ソリューション」や「音声認識対応ブラウザ」といった新たな取り組みも始めており、共に「スマートフォン&タブレット2012秋」(12年10月10日~12日)において参考出展された。
 
電話日報ソリューション(協力:(株)ネクストジェン)
営業担当者が電話を掛けて報告を話すと、音声がテキスト化されクラウド上に保存される。事務所に戻り、クラウドからデータをダウンロードして文章を調整すれば、業務日報が出来上がる。
 
音声認識対応ブラウザ(協力:フェンリル(株))
WebアプリケーションのUIに簡単なコードを組み込むだけで、音声認識の実装が可能。「スマートフォン&タブレット2012秋」では、フェンリル(株)のSleipnir Mobile(スレイプニルモバイル)に音声認識を実装した音声認識対応ブラウザが展示された。
 
 
 
2013年3月期上期決算
 
 
NTTドコモ向け音声認識製品をけん引役に営業利益が3.1倍に拡大
売上高は前年同期比57.4%増の19億56百万円。製品を搭載する際の実装設計や改修にかかるカスタマイズ業務やランニングロイヤルティの売上が伸びた。NTTドコモの「しゃべってコンシェル」向けに提供している音声認識製品等の売上も寄与している。利益面では、増収効果で売上総利益率が71.6%と9.1ポイント改善。営業利益が同3.1倍の7億79百万円に拡大した。
 
 
ライセンス(音声認識・UIソリューション事業分野、音源事業分野、CRMソリューション事業分野)の売上高は前年同期比62.8%増の18億46百万円。このうち、音声認識・UIソリューション事業分野は、NTTドコモの「しゃべってコンシェル」向け音声認識製品等の寄与もあり売上は15億47百万円と前年同期比123.4%の増加。カスタマイズに係る売上は増加したが、イニシャルフィーは減少した。搭載台数等に応じた収益であるランニングロイヤルティは、足元では回復傾向にある。一方、フィーチャーフォン(従来型携帯電話)向けの事業である音源事業分野はフィーチャーフォンからスマートフォンへのシフトによる音源搭載台数の減少で売上が1億1百万円と同57.0%減少した(尚、音声認識・UIソリューション事業分野はフィーチャーフォンからスマートフォンへのシフトが追い風となる)。この他、CRMソリューション事業分野の売上は同4.1%減の1億97百万円。CRM製品の売上がわずかに増加したものの、受託開発の減少をカバーできなかった。
 
ライセンス以外(基盤事業分野、カード事業分野)の売上高は前年同期比0.9%増の1億10百万円。カスタマイズ業務の増加で基盤事業分野の売上が増加したものの、予備校向けのセンター対策英語リスニング模擬試験のデータ書込みを手掛けるカード事業分野の売上がわずかに減少した。
 
 
上期末の総資産は前期末比2億54百万円増の37億44百万円。利益の増加による営業キャッシュ・フローの改善が資産増加の主な要因(現金及び現金同等物の増加)。借方では、余資運用の一環として保有する有価証券が増加。一方、貸方では、純資産が増加。有利子負債を一掃して再び無借金経営に戻った。この結果、自己資本比率は82.4%と前期末比3.8ポイント改善。流動性に富んだ優れた財務内容を更なる事業の拡大に活かすべく、資産の有効活用を模索していく考え。
 
 
2013年3月期業績予想
 
 
通期業績予想に変更はなく、前期比28.8%の増収、同39.4%の経常増益
上期の営業・経常利益が期初予想を上回ったものの、回復傾向にあるランニングロイヤルティ(音声認識・UIソリューション事業分野)の収益が予想し難い事等から通期の業績予想を据え置いた。下期は音声認識の更なる性能向上や多言語対応に加え、ソリューションビジネス展開に向けた開発投資が発生するため一時的に利益率が悪化する見込み。配当は1株当たり実質2円増配(株式分割を考慮)の期末12.5円を予定。尚、同社は10月1日付けで1株を200株に分割すると共に、100株を1単元とする単元株制度へ移行した。
 
 
第1四半期(4-6月)は業績予想に織り込んでいた音声認識・UIソリューション事業分野の大型案件の寄与で売上高12億91百万円を計上したものの、第2四半期(7-9月)の売上高は通常のペースに戻り6億64百万円。第3四半期(10-12月)はほぼ前年同期並みの売上高(前年同期比1.7%減の5億93百万円)を確保できる見込みだが、音声認識の更なる性能向上と多言語対応及びソリューションビジネス展開のための開発投資が負担となり、営業損益が2億9百万円の損失となる見込み。例年売上のボリュームが増える第4四半期(1-3月)は売上高7億50百万円が見込まれ、1億30百万円の営業利益を確保できる見込み。
 
 
今後の注目点
経営理念を「社会の変化に柔軟に対応して、その時代に求められる商品を追求し、継続的に発展する会社を目指す」とする同社。半導体の受託開発からスタートし、音源事業、音声認識事業へと事業の軸足を移しながら企業価値を向上させてきた。今後は業務ソリューション等、音声認識事業の多角化を進めると共に電子書籍ビジネス等の新規事業を育成していく事で更なる企業価値の向上につなげていく考え。この第3四半期は研究開発費が負担となり営業損失となる見込みだが、その成果の早期顕在化に期待したい。
尚、同社は12年3月に(株)エムアップ(3661)と電子書籍分野で業務提携を行っている。(株)エムアップが展開する電子書籍レーベル「デジタルブックファクトリー」のコンテンツプロデュース力とフュートレックグループの持つ電子書籍関連技術を融合して、電子書籍ビジネスを展開していく考え。