ブリッジレポート
(4319) TAC株式会社

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ブリッジレポート:(4319)TAC vol.7

(4319:東証1部) TAC 企業HP
斎藤 博明 社長
斎藤 博明 社長

【ブリッジレポート vol.7】2013年3月期上期業績レポート
取材概要「国内外で難問を抱えて停滞する日本の政治・経済そのものが大学生・社会人層の自己投資マインドに影を落としているように思われるなか、公認会計士・・・」続きは本文をご覧ください。
2012年11月27日掲載
企業基本情報
企業名
TAC株式会社
社長
斎藤 博明
所在地
東京都千代田区三崎町3-2-18
決算期
3月 末日
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2012年3月 22,578 -606 -530 -799
2011年3月 24,575 465 283 -244
2010年3月 23,991 623 442 40
2009年3月 21,092 1,330 1,352 669
2008年3月 20,741 1,069 1,230 443
2007年3月 20,553 1,173 1,333 742
2006年3月 19,828 421 631 249
2005年3月 19,669 459 558 81
2004年3月 19,542 988 943 470
株式情報(11/9現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
128円 18,234,832株 2,334百万円 - 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
0.00円 0.0% 36.12円 3.5倍 120.17円 1.1倍
※株価は11/9終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期末実績。
 
TACの2013年3月期上期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
「資格の学校TAC」として、資格取得スクールを全国展開。社会人や大学生を対象に、公認会計士、税理士、不動産鑑定士、社会保険労務士、司法試験、司法書士等の資格試験や公務員試験の受験指導を中心に、企業向けの研修事業や出版事業等も手掛ける。
グループは、同社の他、人材紹介・派遣事業の(株)TACプロフェッションバンク(TPB)、2008年2月に設立され保険関係の企業研修に特化した(株)LUAC、資格取得に関連した出版事業を手掛ける(株)早稲田経営出版(W出版)、TAC出版(単体)とW出版の営業支援を手がける(株)TACグループ出版販売、及び中国大連でBPO(Business Process Outsourcing)を手掛ける太科信息技術(大連)有限公司の連結子会社 5社。なお、W出版は09年9月に(株)KSS(旧・早稲田経営出版)から「Wセミナー」ブランドの資格取得支援事業及び出版事業を譲受した際、「Wセミナー」ブランドの出版事業を行うために吸収分割によって新たに設立された。このため、社名は同じだが、旧・早稲田経営出版とは別会社である。
 
【沿革】
1980年12月、資格試験の受験指導を目的として設立され、公認会計士講座、日商簿記検定講座、税理士試験講座を開講。2001年10月に株式を店頭登録。03年1月の東証2部上場を経て、04年3月に同1部に指定替えとなった。09年9月には司法試験、司法書士、弁理士、国家公務員Ⅰ種・外務専門職等の資格受験講座を展開していた(株)KSS(旧・早稲田経営出版)から資格取得支援事業及び出版事業を譲受。これにより、会計分野に強みを有する同社の資格講座に法律系講座が加わると共に、公務員試験のフルラインナップ化も進んだ。
会社設立当時の資格取得スクール業界は、各スクールが会計分野や法律分野など専門分野に特化しており、また、社会人を対象としスパルタ的なスクール運営がなされていた。これに対して、後発だった同社は大学生市場に着目し、大学1年生を対象にした簿記の基礎コースからスタートして最終的に公認会計士や税理士の試験合格を目指すカリキュラムを作成。多忙な受験生に配慮した無料のテープレクチャーや試験問題作成者の傾向分析といった試験対策への取組み等、受講生中心主義の下で提供される斬新なサービスも支持を集めた。その後、情報処理技術者、社会保険労務士、不動産鑑定士等へ講座を拡大。全ての分野をNo.1もしくはNo.2に成長させ、「資格の学校TAC」のブランドを確立した。
 
 
 
2013年3月期上期決算
 
売上高について
各講座の受講者は受講申込時に受講料全額を払い込む必要があり(同社では、前受金調整前売上高、あるいは現金ベース売上高と呼ぶ)、同社はこれをいったん「前受金」として貸借対照表・負債の部に計上する。その後、教育サービス提供期間に対応して、前受金が月毎に売上に振り替えられる(同社では、前受金調整後売上高、あるいは発生ベース売上高と呼ぶ)。損益計算書に計上される売上高は、「発生ベース売上高(前受金調整後売上高)」だが、その決算期間のサービスや商品の販売状況は現金ベース売上高(前受金調整前売上高)に反映され(現金収入を伴うためキャッシュ・フローの面では大きく異なるが、受注産業における受注高に似ている)、その後の売上高の先行指標となる。このため、同社では経営指標として現金ベース売上高(前受金調整前売上高)を重視している。
 
 
減収・減益ながら、コスト削減が進み利益は期初予想を上回る着地
財務・会計分野を中心に前年同期を下回る申込み状況が続いており、経営指標として同社が重視している現金ベース売上高が109億99百万円と前年同期比5.9%減少。前受金戻入れの減少に伴い前受金調整額が5億39百万円と同23.8%減少したため、損益計算書に示される発生ベース売上高も115億38百万円と同6.9%減少した。
 
利益面では、経費全般の削減が進み、売上原価及び販管費共に減少したものの、売上高の減少が響き営業利益は5億01百万円と同19.1%減少した。欧州金融不安の再燃による投資有価証券運用損の増加(△2百万円→△14百万円)や持分法投資損失(△6百万円)の計上等で営業外損益が悪化したほか、希望退職制度の実施に伴い発生した特別退職金や拠点再編に伴う減損損失等、事業構造改善費用3億20百万円を特別損失に計上したものの、新宿校の移転補償金17億50百万円を特別利益に計上したため、四半期純利益は11億40百万円と同3.3倍に拡大した。
 
 
上記の通り厳しい決算となったが、コスト削減では着実に成果を挙げている。具体的には、売上原価の減少額が同4億51百万円(同6.0%減)、販管費の減少額が同2億98百万円(同6.9%減)と、営業費用全体で7億49百万円減少しており、現金ベース売上高の減少額6億89百万円を上回った。
なお、売上原価では、各講座における講師料の減額が進み人件費(講師料等)が減少したほか、外注費も、出版物用(約30百万円)の増加を内部教材用の減少(73百万円減少)で吸収。教室の集約等で賃借料も減少した。一方、販管費では、希望退職の募集もあり人件費が減少したほか、業務委託費の削減等で外注費も減少。その他、広告宣伝費も削減した
 
 
講座の申込み状況や商品の販売状況を示す現金ベース売上高をセグメント別にみてみると、東日本大震災後に落ち込んだ大学生・社会人層の自己投資マインドの回復が鈍いことがわかる。個人教育事業の売上減少は個人レベルでの講座申込みの減少を表しており、法人研修事業も、大学内セミナーが好調に推移したほか、金融・不動産分野の好調で企業研修も前年同期並みの売上を確保したものの、専門学校に対するコンテンツ提供、提携校事業、及び自治体からの委託訓練の落ち込みをカバーできなかった。一方、講座関連以外の事業では、会計業界の人材ニーズに底打ち感が出てきたことで人材事業の売上が増加したほか、商品開発強化による刊行点数の増加や販促の強化で出版事業の売上もわずかに増加した。
 
 
受講者数が前年同期比15.6%減と落ち込んだ財務・会計分野が上期売上(発生ベース売上高=損益計算書に示される売上高)の減少を先導。経営・税務分野、金融・不動産分野、情報・国際分野は売上が減少したものの、堅調な講座もあり、受講者数は増加。一方、公務員・労務分野は、コースや価格設定の工夫が成果をあげた社会保険労務士講座を中心に売上及び受講者数がともに増加した。
 
財務・会計分野
公認会計士講座、簿記検定講座の売上がともに減少した結果、発生ベース売上高は21億07百万円と同23.0%減少した。
講座別では、公認会計士講座は新規学習者向けの入門コースが前年並みを維持したものの、合格レベルの難化で再受験者向けの上級コースが低調に推移した結果、売上が前年同期比29.4%減少。一方、簿記検定講座は、本試験の難易度が平常に戻ったものの受講申込者の減少に歯止めがかからず、同12.5%の減収。
両講座ともに申込み状況は芳しくなく、現金ベース売上高は公認会計士講座が同23.6%減、簿記検定講座が同12.0%減。
 
経営・税務分野
発生ベース売上高は前年同期比5.5%減の26億88百万円。早期に学習開始するコースが人気を集め受講生の取込みが進んだ中小企業診断士講座の売上がわずかに増加したものの、税理士講座の売上減少(7.4%減)が響いた。ただ、講座の申込み状況は発生ベース売上高ほどには悪くなく、現金ベース売上高は税理士講座がほぼ横ばい、中小企業診断士講座が同3.4%増。
 
金融・不動産分野
発生ベース売上高は前年同期比0.4%減の13億53百万円。不動産鑑定士講座の落ち込みを(同30.6%減)、宅地建物取引主任者講座(同7.6%増)、証券アナリスト講座(同10.8%増)、ビジネススクール講座(同11.8%増)、ファイナンシャルプランナー講座(同1.8%増)の増加でカバーした。
各講座の申込み状況も同じような状況で、現金ベース売上高は、不動産鑑定士講座が同23.8%減少したものの、宅建主任者講座が同7.2%増、ファイナンシャルプランナー講座及び証券アナリスト講座がほぼ前年同期並みを維持。また、前年同期は東日本大震災の影響を大きく受けた企業研修中心のビジネススクール講座が同10.9%増と伸びた。
加えて、不動産分野において大型国家資格である建築士(1級・2級)講座を11月に開講する事となり、その募集を開始した。
 
法律分野
発生ベース売上高は前年同期比0.2%増の12億50百万円。司法試験講座の売上が同19.7%減少したものの、弁理士(同32.0%増)や通関士(同6.3%増)が増加したほか、司法書士・行政講座もほぼ前年同期並みの売上を確保した。現金ベース売上高は、司法試験講座が同36.4%減、司法書士講座も申込みが一服し同7.2%減、行政書士講座も同15.1%減となったが、弁理士講座が同20.5%増と伸びた。
 
公務員・労務分野
発生ベース売上高は前年同期比1.3%増の27億56百万円。社会保険労務士が同1.0%減少したものの、国家一般職・地方上級講座が同3.3%増加したほか、国家総合職・外務専門職も前年同期並みの売上を確保した。
現金ベース売上高は、コースや価格設定を工夫し、多くの社会人の年金・社会保険に対する知識欲を顕在化させることができた社会保険労務士講座が同4.5%増。一方、公務員講座は、国家公務員の削減報道を警戒する大学生が多くなり、国家総合職・外務専門職コースが同10.0%減少したほか、国家一般職・地方上級コースも同4.1%減少した。ただ、公務員受験のニーズは底堅く、トップレベルの大学の学生でも地方上級公務員を目指す傾向が強まっていることに加え、競争激化から大学2年生から受験対策を始める大学生が増加しており、今後も堅調な推移が見込まれる。
 
情報・国際分野
発生ベース売上高は前年同期比7.1%減の7億89百万円。情報処理(同5.4%減)、USCPA講座(同3.7%減)、CompTIA講座(同9.5%減)と主要講座で苦戦を強いられた。講座申込み状況も厳しく、現金ベース売上高は、企業研修の減少が響き情報処理講座が同4.8%減、CompTIA講座が同7.7%減、米国公認会計士講座が同3.8%減。
 
その他(当セグメントは、現金ベース売上高と発生ベース売上高が等しい)
発生ベース売上高は前年同期比6.6%減の5億93百万円。特定の講座に属さないTAC BOOKの売上が同49.2%減少したものの、税務申告ソフト「魔法陣」の売上が同19.5%、人材関連が同12.2%増と伸びた。
 
 
上期の受講者数は前年同期比1.1%減の12万9,131人。法人研修事業の大学内セミナーをけん引役に法人受講者が3万8,611人と同5.3%増加したものの、個人教育事業の低迷により個人受講者が9万520人と同3.7%減少した。
講座別では、宅建主任者講座(同14.4%増)、通関士講座(同28.3%増)、低価格の通信型講座にシフトしている情報処理講座(同18.4%増)が増加する一方、公認会計士講座(同14.8%減)、簿記検定講座(同16.6%減)、司法試験講座(同36.5%減)、司法書士講座(同8.7%減)、行政書士講座(同16.5%減)が減少した。
 
 
フリーCFの改善(後述)を受けて有利子負債の削減を進めたため、上期末の総資産は187億35百万円と前期末比3億26百万円減少。財務の健全化が進み、自己資本比率は17.8%と同6.3ポイント改善した。
 
 
CFの面では、補償金の受領で営業CFが黒字転換するなか、差入保証金の回収や有価証券投資の減少等で投資CFも黒字化し、前年同期は6億39百万円の赤字だったフリーCFが12億27百万円の黒字に転換。一方、余剰資金を有利子負債の削減に充当したため財務CFがマイナスとなった。
 
 
2013年3月期業績予想
 
 
通期業績予想に変更はなく、前期比0.9%の増収、2億40百万円の経常損失(前年同期は5億30百万円の損失)
「公認会計士試験の合格者数(11月12日発表予定)及びその後の就職状況、並びに講座への申込み状況や、12月の税理士試験の合格発表後の講座申込み状況を見極める必要がある」として、通期の業績予想を据え置いた。
 
同社の業績には季節性があるため、四半期の業績についてはその特性に注意する必要がある。具体的には、同社が扱う主な資格講座の本試験は、第2四半期(7月~9月)及び第3四半期(10月~12月)に集中している。特に主力の公認会計士及び税理士講座等においては、第2・第3四半期は試験が終了した直後で、翌年受験のための新規申し込みの時期にあたり、第4四半期(1月~3月)及び第1四半期(4月~6月)は全コースが出揃う時期にあたる。このため、第2・第3四半期は、現金売上や売掛金売上は多いものの、これらは前受金に振り替えられる(つまり損益計算書においては売上計上されない)。一方、経費は毎月一定額計上されるため売上総利益が減少する傾向がある。これに対して第4・第1四半期はこれらの前受金が各月に売上高に振り替えられる期になるため売上総利益が増加する傾向がある。
 
 
 
今後の注目点
国内外で難問を抱えて停滞する日本の政治・経済そのものが大学生・社会人層の自己投資マインドに影を落としているように思われるなか、公認会計士試験合格者の未就職者問題等が同社の主力講座の回復を妨げている。コスト削減で成果をあげている同社にとって、残された課題はトップラインの引き上げだが、実際のところ、自助努力が及ばない部分も多い。
しかし、主力講座の公認会計士講座が影響を受けている「公認会計士試験合格者の未就職者問題」については、合格者の実務経験の範囲の見直し(資本金5億円未満の開示会社や開示会社の海外子会社を含む連結子会社における実務経験や正職員以外の雇用形態での実務経験を認める)案が公表される等、金融庁が対応に乗り出しており、また、日本公認会計士協会も組織内会計士の活用を推進する方向で動き出している。
実際、2012年の公認会計士試験の最終合格者は1,347人と前年比11%減少した(11月12日、金融庁公認会計士・監査審査会発表)。願書提出者数が大幅に減少したため、合格率は7.5%と1ポイント上昇したが、合格者数は06年に新試験制度に移行して以降で最少。一方、会計士の採用については、新聞報道によると、4大監査法人(合格発表を受けて採用活動を開始する)は採用数を計950人と前年比5割増やす計画であると言う。また、「会計士の大口就職先である大手監査法人で一定の採用増加が見込めることや、一般企業の採用が増えていることなどから試験合格者を取り巻く環境は改善している」という審査会の談話も伝えられている。
中小の監査法人も含めると、採用総数は1,100人程度になると見られており、需給の均衡に多くの年月は要しないと思われる。また、余談ではあるが、来る総選挙で新政権が発足し政治・経済両面での閉塞感が払拭されれば、景気浮揚を通じて監査法人の採用意欲が一段と高まり需給の改善ピッチも加速しよう。