ブリッジレポート
(6498) 株式会社キッツ

プライム

ブリッジレポート:(6498)キッツ vol.10

(6498:東証1部) キッツ 企業HP
堀田 康之 社長
堀田 康之 社長

【ブリッジレポート vol.10】2013年3月期第1四半期業績レポート
取材概要「第1四半期の好決算は材料相場に助けられた面もあるが、成長軌道への回帰に向けた芽が育ちつつある事に注目したい。具体的には、中国でのシ・・・」続きは本文をご覧ください。
2012年8月28日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社キッツ
社長
堀田 康之
所在地
千葉市美浜区中瀬1-10-1
決算期
3月末日
業種
機械(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2012年3月 108,446 4,638 4,388 2,480
2011年3月 106,059 6,341 5,929 3,063
2010年3月 96,592 6,976 6,248 3,079
2009年3月 127,095 7,188 6,475 3,396
2008年3月 149,274 11,615 10,525 6,290
2007年3月 149,512 11,342 10,652 9,973
2006年3月 107,631 9,673 9,132 8,070
2005年3月 95,705 9,627 8,513 5,804
2004年3月 73,802 4,181 2,962 1,598
株式情報(8/7現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
309円 109,222,708株 33,750百万円 4.7% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
9.00円 2.9% 35.70円 8.7倍 490.65円 0.6倍
※株価は8/7終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期末実績。
 
キッツの2013年3月期第1四半期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
バルブを中心とした流体制御機器・装置の総合メーカー。バルブは、「水道メータ周り」、「ガスメータ周り」、「給湯器」等でよく目にするが、家庭だけでなく、あらゆる産業設備に使われており、同社は素材からの一貫生産を基本に、青銅、鋳鉄、ダクタイル鋳鉄(強度や延性を改良した鋳鉄)、ステンレス鋼等を素材に数万種をラインナップしている。また、バルブの材料として使用される伸銅品の外販を行っている他、フィットネス事業やホテル事業等も手掛けている。バルブでは国内トップ。伸銅品では国内2位のポジションにある。
 
【事業セグメントの概要】
事業は、バルブ事業、伸銅品事業、及びその他に分かれ、12/3期の売上構成比は、それぞれ72.8%、18.5、8.7%。
 
バルブ事業
キッツグループのコア事業であり、上下水道・給湯・ガス・空調等のライフラインや石油・化学・紙パ・半導体等の産業分野において、流体制御機器として重要な役割を担うバルブや継手を中心に、製造・販売している。
 
伸銅品事業
伸銅品とは、銅に亜鉛を加えた「黄銅」、すず及びりんを加えた「りん青銅」、ニッケル及び亜鉛を加えた「洋白」等の銅合金を、溶解、鋳造、圧延、引抜き、鍛造等の熱間または冷間の塑性加工によって、板、条、管、棒、線等の形状に加工した製品の総称。キッツグループの伸銅品事業は、黄銅製の材料を用いた「黄銅棒」を生産販売している。この黄銅棒は、バルブの部材を初め、水栓金具、ガス機器、家電等の部材として使用されている。
 
その他
総合スポーツクラブの経営(フィットネス事業)、ホテル・レストラン経営(ホテル事業)を行っている。
 
 
 
2013年3月期第1四半期決算
 
 
アセアン、中国、北米等を中心に主力のバルブ事業が堅調に推移
売上高は前年同期比3.1%減の272.0億円。材料相場(銅市況)の下落で伸銅品事業の売上が同21.2%減少したものの、アセアン、中国、北米など海外を中心に主力のバルブ事業の売上が同1.3%増加。前年同期に東日本大震災(以下、震災)の影響を受けたフィットネス事業やホテル事業の売上も増加した。
営業利益は同15.3%増の17.3億円。プラント向け物件の評価減の減少や材料相場の下落に加え、コストダウン効果や物流費・支払手数料等の減少もありバルブ事業の収益性が改善し、バルブ事業のセグメント利益が同13.1%増加。売上が減少した伸銅品事業も、材料相場の下落で前年同期並み(同1.7%の減少)の利益を確保した。
支払利息の減少(113百万円→71百万円)等で営業外損が改善。三吉バルブの工場跡地売却に伴う減損損失(105百万円)など特別損失1.3億円を計上したものの、税負担の減少で四半期純利益は8.6億円と同32.1%増加した。

計画との比較では、北米で収益性の高いオイル&ガス向けのボールバルブが伸びた事や前期に実施した値上げが浸透する中で材料相場が下落した事、更にはコストダウン効果及び諸経費の削減が計画を上回った事もあり、バルブ事業の利益率が想定以上に改善。また、伸銅品事業も、材料相場の下落で想定したほど採算が悪化しなかった。
 
 
 
バルブ事業
売上高は前年同期比1.3%増の204.3億円。国内が132.8億円と同5.3%減少したものの、海外が71.4億円と同16.4%増加した。国内では、上下水道向けや石油精製・石油化学向けが増加したものの、建築設備向け(前年同期は震災後の仮需があった)や半導体製造装置向けの落ち込みをカバーできなかった。一方、海外では、アジア、北米、欧州の3極で売上が増加。アジアはシンガポールに拠点を新設して販売を強化した成果が現れた他、中国や中東でも売上が増加。北米では石油精製・石油化学向けが引き続き好調を持続。債務問題に揺れる欧州でもキッツブランドの販売が増加した。
セグメント利益は同13.1%増の23.2億円。売上の減少で国内での利益が減少したものの、増収効果やプラント向け物件の低価法の評価減減少で海外での利益が増加した。
 
伸銅品事業
売上高は前年同期比21.2%減の45.6億円、セグメント利益は同1.7%減の1.2億円。黄銅棒市場の取引が15,300トン/月と前年同期比6.5%縮小した事に加え、製品価格も材料相場の下落で15%低下。取引数量の減少と価格低下の影響を受けてセグメント売上高が減少したものの、材料相場変動に伴う原価差益の計上で採算が改善。ほぼ前年同期並みの利益を確保した。
 
その他
売上高は前年同期比3.4%増の2,207百万円、セグメント利益は同23.3%減の32百万円。東日本大震災の影響がなくなりフィットネス事業及びホテル事業共に売上が増加したものの、電気料金の値上げ等による費用増が利益を圧迫した。
 
 
 
半導体製造装置向けを手掛けるキッツSCTの売上・利益が大きく落ち込んだものの、キッツ個別の売上・利益が伸びた他、海外子会社も円高の影響を吸収して総じて好調だった。
 
キッツ個別
前年同期比20.1%の増収、同5.8%の経常増益。石油精製・石油化学向けの好調に加え、東洋バルヴの製造部門を吸収した効果もあり売上が増加。増収効果と材料相場の下落に加え、プラント向け物件の低価法の評価減減少もあり、利益率が改善し、営業利益は同72.1%増加した。営業外損益の悪化は、一部子会社の苦戦等による配当金の減少等による。
 
子会社
建築・上下水道関連で、製販を分離した東洋バルヴの売上・利益が減少した他、円高の影響(1バーツ=2.71円→2.60円)でキッツタイの売上・利益も減少したが、復興需要等で、上下水道向けを手掛ける清水合金製作所の売上が増加し、損益が改善。プラント・エネルギー関連では、キッツアメリカの売上・利益が円高の影響を吸収して伸びた他、独Perrin社や台湾北澤の売上・利益も増加。中国子会社は、付加価値の高いステンレスバルブを手掛けるキッツ昆山の売上・利益が増加する一方、汎用の鋳鋼バルブを手掛けるキッツ閥門が苦戦した。
この他、半導体投資の減少で、半導体製造装置向けを手掛けるキッツSCTの売上・利益が大きく落ち込んだ。
 
 
第1四半期末の総資産は前期末比7.8億円増の957.6億円。借方では、海外での売上増加に伴い売上債権が増加。貸方では、未払法人税等が増加した他、有利子負債もわずかに増加した。自己資本比率は前期末比0.8ポイント改善の57.2%。
 
 
CFの面では、前年同期に比べ海外プラント向け商品のたな卸資産等が減少した事もあり営業CFが大幅に改善。設備投資が増加したものの、前年同期は25.7億円だったフリーCFのマイナスが5.0億円に縮小。配当の支払等で財務CFがマイナスとなり、現金及び現金同等物の第1四半期末残高は49.6億円と前期末比6.7億円減少した(前年同期末は社債の償還を控えていたため、現金及び現金同等物の残高が一時的に膨らんだ)。
 
 
2013年3月期業績予想
 
第1四半期業績が上振れしたものの、上期及び通期の業績予想に変更は無かった。
 
(1)上期業績
上期予想は売上高550億円(前年同期比2.4%増)、営業利益29億円(同23.7%増)、経常利益28億円(同32.2%増)、当期純利益17億円(同58.3%増)だが、この予想には第1四半期決算の上振れ分(売上高1.4億円、営業利益4.6億円、経常利益4.3億円、四半期純利益1.9億円)、及び足元の堅調さが反映されていない。このため、結果として第2四半期(7-9月)の予想(上期予想-第1四半期実績)は、期初計画を大幅に下回るものとなっている。
 
 
確かに同社の収益は材料相場や為替の影響を強く受けるものの、足元は、材料相場、為替相場共に落ち着いており、9月末までの約1ヵ月半での急激な収益性の悪化は考え難い(子会社の決算期は12月のため、6月に第2四半期が終了している)。
また、第1四半期の実績を考えると、第2四半期の期初計画自体、保守的であると感じる。仮に第2四半期が期初計画通りに進んだ場合、上期業績は売上高551億円(前年同期比2.1%減)、営業利益33.6億円(同43.5%増)、経常利益32.3億円(同52.8%増)、四半期純利益18.9億円(同76.9%)となる。
 
 
(2)通期業績
通期予想は、売上高1,120億円(前期比3.3%増)、営業利益66億円(同42.3%増)、経常利益62億円(同41.3%増)、当期純利益39億円(同57.2%増)。配当は1株当たり上期末4.5円、期末4.5円の年9円を予定している。
 
 
 
トピックス
 
水関連の新たな国際的プロモーション活動を展開するべく「KITZ Water Solutions」を立ち上げた他、燃料電池車に燃料を供給する水素ステーション用高圧ボールバルブの製品化に成功した。
 
(1)水関連の新たな国際的プロモーション活動「KITZ Water Solutions(KWS)」の展開
「KITZ Water Solutions(KWS)」は、キッツグループ各社の水関連技術や製品、サービスに基づく、国際的なプロモーション活動の総称。参加企業は、同社の他、水処理装置等の技術を有する東洋バルヴ、造水技術を有する清水合金製作所、樹脂製品に強みを持つキッツSCT、浄水器等の技術を有するキッツマイクロフィルター、各種の黄銅棒など伸銅品を扱うキッツメタルワークスの6社。企業個々ではなく、グループが一丸となって進める事がKWSのポイントだ。
2020年には世界で110兆円に達すると言われている世界の水ビジネス市場をターゲットに、顧客視点に立ったソリューションを展開していく考えで、グループ横断的に活動を進めていく。具体的には、国際的な展示会への出展、専用ウェブサイトの運営、更にはFace To Faceによるヒアリング等を通して、グローバルな潜在顧客からの水に関する“困りごと・欲していること”を探り出し、キッツグループが持つ製品や技術を提案する。
この一環として、7月にSingapore International Water Week 2012(SIWW:シンガポール国際水週間)に出展した。SIWWは水関連技術や水ビジネスの国際的な情報交換の場として世界最大規模を誇る学会であり、展示会である。7月2日から4日にかけて開催され、104カ国、750社、18,544人が参加した。
 
(2)新製品 水素ステーション用高圧ボールバルブ
燃料電池車の市場拡大を受けて、燃料電池車に燃料を供給する水素ステーションの市場も世界レベルで拡大している。キッツ、キッツSCT、独Perrin社を中心に、グループをあげて水素ステーション用高圧ボールバルブ(現在日本で量産体制を確立しているのは、同社グループのみ)を育成していく考え。
水素ステーション用高圧ボールバルブは、キッツがNEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構)から開発委託を受けて開発に着手したもので、先ごろ製品化に成功した。製造は、半導体製造装置用バルブメーカーでクリーンテクノロジーに強みを持つキッツSCT、及び工業用ボールバルブメーカーで高温・高圧・低温の特殊用途メタルシート技術を有する独Perrin社。12年9月より国内外のグループ各社が世界市場で販売を開始する予定で、既にキッツが販売を開始しているCNG(天然ガスを燃料とする)ステーション用ボールバルブと共に、エコカーステーション用バルブシリーズとして販売活動を行っていく。
売上目標は、16/3期にCNGステーション1億円(シェア10%)、水素ステーション6億円(同30%)の計7億円。21/3期に、それぞれ2億円(同20%)、13億円(同45%)の計15億円。
 
 
 
今後の注目点
第1四半期の好決算は材料相場に助けられた面もあるが、成長軌道への回帰に向けた芽が育ちつつある事に注目したい。具体的には、中国でのシェアアップ(ハイエンド製品(汎用品・自動弁)の他に、アッパーミドルクラスの製品を投入)、北米での収益性の高いオイル&ガス向け製品の好調、シンガポールに拠点を開設した効果によるアセアンでの販売増、更には専門部署の設置によるプラント向け物件の採算管理の進捗やコストダウン等である。この芽を育て、来期以降の業績につなげていく事ができるか否か、がポイント。