ブリッジレポート
(4319) TAC株式会社

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ブリッジレポート:(4319)TAC vol.4

(4319:東証1部) TAC 企業HP
斎藤 博明 社長
斎藤 博明 社長

【ブリッジレポート vol.4】2012年3月期第3四半期業績レポート
取材概要「政策的な合格者数の引き上げに伴う合格者の未就職問題のあおりを受けて、同社の主力講座である公認会計士講座の苦戦が続いているが、去る1月・・・」続きは本文をご覧ください。
2012年2月28日掲載
企業基本情報
企業名
TAC株式会社
社長
斎藤 博明
所在地
東京都千代田区三崎町3-2-18
決算期
3月 末日
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2011年3月 24,575 465 283 -244
2010年3月 23,991 623 442 40
2009年3月 21,092 1,330 1,352 669
2008年3月 20,741 1,069 1,230 443
2007年3月 20,553 1,173 1,333 742
2006年3月 19,828 421 631 249
2005年3月 19,669 459 558 81
2004年3月 19,542 988 943 470
株式情報(2/15現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
194円 18,234,832株 3,538百万円 - 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
1.00円 0.5% -円 -倍 176.29円 1.1倍
※株価は2/15終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。ROE、BPSは前期末実績。
 
TACの2012年3月期第3四半期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
「資格の学校TAC」として、資格取得スクールを全国展開。社会人や大学生を対象に、公認会計士、税理士、不動産鑑定士、社会保険労務士、司法試験、司法書士等の資格試験や公務員試験の受験指導を中心に、企業向けの研修事業や出版事業等も手掛ける。グループは、同社の他、人材紹介・派遣事業の(株)TACプロフェッションバンク(TPB)、2008年2月に設立され保険関係の企業研修に特化した(株)LUAC、資格取得に関連した出版事業を手掛ける(株)早稲田経営出版(W出版)、TAC出版(単体)とW出版の営業支援を手がける(株)TACグループ出版販売、及び中国大連でBPO(Business Process Outsourcing)を手掛ける太科信息技術(大連)有限公司の連結子会社 5社。なお、W出版は09年9月に(株)KSS(旧・早稲田経営出版)から「Wセミナー」ブランドの資格取得支援事業及び出版事業を譲受した際、「Wセミナー」ブランドの出版事業を行うために吸収分割によって新たに設立された。このため、社名は同じだが、旧・早稲田経営出版とは別会社である。
 
<市場動向と同社の強み>
矢野経済研究所「教育産業白書(2010年版)」によると、09年の資格取得スクール業界の市場規模は2,370億円で、10年は前年比5.5%増の2,500億円と予想している。いわゆる「柔らか系」の資格が苦戦するものの、就職難を反映した大学生のダブルスクール傾向の高まり等が市場拡大の原動力になるという。
同社は、会社設立間もない頃から講師陣が毎年テキストを改訂し、試験制度の変化や法令改正にきめ細かく対応することで他社との差別化を図り受講生の支持を得てきた。ノウハウの蓄積や生産性の改善に加え、事業規模が250億円に達する今となっては毎年発生するテキスト改訂コストを吸収することが可能だが、新規参入を考える企業はもちろん、同社よりも事業規模の劣る同業者にとっても、テキストを毎年改訂することは大きな負担である。また、受講生中心主義の下、教育メディアや講師を受講生が自由に選択できるシステムを他社に先駆けて導入してきたが、近年のモバイルを含めたインターネットの普及で、テキストの品質と共に、こうした取組みや経営姿勢が口コミで広がりやすくなっている点も追い風だ。加えて、Wセミナーの資格取得支援事業を譲受けしたことで、従来手薄だった法律系講座や公務員試験のラインナップを大幅に拡充できた。ラインナップが一気に拡大し、当面の負担増にはなるものの、いずれも高い評価を受けていた事業だけに中長期で考えれば大きな財産となろう。
 
 
2012年3月期第3四半期決算
 
売上高について
各講座の受講者は受講申込時に受講料全額を払い込む必要があり(同社では、前受金調整前売上高、あるいは現金ベース売上高と呼ぶ)、同社はこれをいったん「前受金」として貸借対照表・負債の部に計上する。その後、教育サービス提供期間に対応して、前受金が月毎に売上に振り替えられる(同社では、前受金調整後売上高、あるいは発生ベースの売上高と呼ぶ)。前受金調整前売上高(現金ベースの売上高)とは、受注産業における受注高に似ており(現金収入を伴うため、キャッシュ・フローの面では大きく異なるが)、その後の売上高の先行指標となる。損益計算書に計上される売上高は、前受金調整後売上高(発生ベース売上高)だが、同社では経営指標として前受金調整前売上高(現金ベースの売上高)を重視している。
 
 
前年同期比7.9%の減収、259百万円の経常損失
現金ベースの売上高は前年同期比8.2%減の17,089百万円。上期時点では同10.4%の減少だったため、第3四半期(10-12月)に持ち直したものの、期初予想の18,686百万円には届かなかった(予想比8.5%減)。
現金ベースの売上高が減少した要因として、①政策的な合格者数の引き上げに伴う合格者の未就職問題を抱える公認会計士講座及び司法試験講座の低迷、②東日本大震災による大学学事日程のズレで期初に大学生向け営業が十分にできなかったこと、③震災後の消費マインドの落込み等による受講申込み減、④大学生の就職活動の激化により落ち着いて資格取得に取り組む姿勢が後退していること、さらには⑤長期コースの一括払い申込みから短期コースの分割申込みへのシフト等を挙げる事ができ、近年力を入れている公務員講座(国家一般職・地方上級コース)に加え、宅建主任者講座や米国公認会計士講座の現金ベース売上高が増加したもののカバーできなかった。
一方、発生ベースの売上高は同7.9%減の17,317百万円。800百万円の繰り入れを見込んでいた前受金調整額が227百万円(同18.8%増)の戻入となったため、期初予想(17,886百万円)比では3.2%の減少にとどまった。

利益面では、講師料等の人件費(同1.5%減)、教材制作のための外注費(同8.5%減)、賃借料(同4.9%減)を中心に売上原価が同5.4%減少した他、諸経費の節減に努め販管費も減少したものの、減収の影響を吸収できず256百万円の営業損失となった。教室用賃借ビルの値下げに伴う未払賃借料取崩益(36百万円)を計上する一方、投資有価証券運用損(201百万円→9百万円)が減少したことで営業外損益が改善。税効果会計の影響もあり、四半期純損失は253百万円にとどまった(前年同期は資産除去債務会計基準の適用に伴う影響額518百万円など特別損失612百万円を計上したが、今期は高田馬場校の閉鎖に伴う賃貸借契約解約損及び固定資産除売却損など8百万円にとどまった)。
 
 
同社の業績には季節性があるため、四半期の業績についてはその特性に留意する必要がある。具体的には、同社が扱う主な資格講座の本試験は、第2四半期(7月~9月)及び第3四半期(10月~12月)に集中している。特に主力の公認会計士及び税理士講座等においては、第2・第3四半期は試験が終了した直後で、翌年受験のための新規申し込みの時期にあたり、第4四半期(1月~3月)及び第1四半期(4月~6月)は全コースが出揃う時期にあたる。このため、第2・第3四半期は、現金売上及び売掛金売上は多いものの、これらは受講期間に応じて前受金に振り替えられる。一方、経費は毎月一定額計上されるため売上総利益が減少する傾向がある。これに対して第4・第1四半期はこれらの前受金が各月に売上高に振り替えられる期になるため売上総利益が増加する傾向がある。
 
 
財務・会計分野(簿記検定、ビジネス会計検定、建設業経理士、公認会計士)
合格者の未就職問題で新規学習者が減少傾向にある公認会計士講座の現金ベース売上高が23.0%減少(発生ベース売上高は同22.3%減少)。本試験受験者数が減少傾向(11年11月期の1~3級本試験受験者数は同8.9%減)にある簿記検定講座も同5.6%減した(同9.1%減少)。受講者数は、公認会計士講座が同44.2%減、簿記検定試験が同10.2%減。
 
経営・税務分野(税理士、中小企業診断士、IPO実務検定、財務報告実務検定)
税理士講座は、分納制度を利用する本科生申込者の増加や夏の本試験後及び12月の合格発表後の申込状況が芳しくなく、現金ベースの売上高が同8.4%減少。一方、中小企業診断士講座は認知度の高まりなどで前年同期並みの現金ベース売上高を確保した。受講者数は、税理士講座が同3.8%減、中小企業診断士講座が同2.8%減。
 
金融・不動産分野(不動産鑑定士、宅建主任者、マンション管理士、FP、ビジネススクール、保険検定等)
不動産関係資格では、緩やかな景気の持ち直しや震災後の復興の流れに乗った宅建主任者講座の現金ベース売上高が同1.4%増加したものの、受験者減少に伴う市場の縮小に直面している不動産鑑定士講座の現金ベース売上高が同19.3%減少。一方、金融関係資格は総じて苦戦し、現金ベース売上高は、FP講座が同6.2%減、証券アナリスト講座が同10.3%減、ビジネススクール講座が同14.8%減。受講者数は、宅建主任者講座が同10.8%増、FP講座が同8.5%増、マンション管理士講座が同5.1%増。一方、不動産鑑定士講座が同18.8%減少した。
 
法律分野(司法試験、司法書士、弁理士、行政書士、ビジネス実務法務検定等)
司法試験講座の現金ベース売上高が同18.9%減少(発生ベース売上高16.9%)した他、司法書士講座も、競合他社による価格競争に対抗するためのキャンペーンの影響で同9.9%減少(同5.6%減)。一方、通関士講座の現金ベース売上高が同4.3%増加した他、カリキュラムの改訂等で受講者開拓が進んだ弁理士講座及び行政書士講座がほぼ前年並みの現金ベース売上高を確保した。受講者数は、司法試験講座が同37.9%減、司法書士講座が同3.7%減、行政書士講座が同5.3%減。一方、弁理士講座が同15.6%増加した。
 
公務員・労務分野(社会保険労務士、年金アドバイザー、国家総合職・外務専門職、国家一般職・地方上級)
公務員講座は、震災後の大学学事日程のずれ込みで、学事日程と開講時期とうまくマッチしない状況が続いていたが、大学性の就職活動の厳しさを反映して公務員人気が継続し、国家一般職・地方上級講座の現金ベース売上高が同2.5%増加。現金ベース売上高が同4.1%減少した国家総合職・外務専門職講座も改善傾向にある。この他、年金アドバイザーコースの開講が後押しとなった社会保険労務士講座もほぼ前年同期並み(同1.6%減)の現金ベース売上高を確保した。受講者数は、社会保険労務士講座が同7.0%増加し、公務員(国家総合・外専、国家一般・地上)講座は前年並みを維持した。
 
情報・国際分野(情報処理技術者、米国公認会計士、CCSA:内部統制評価指導士等)
情報処理講座は、震災による春の本試験日程の混乱に加え、秋の本試験の受験者数の大幅な減少に伴う企業研修の中止・後ろ倒しの影響もあり、現金ベース売上高が同18.9%減少。一方、米国公認会計士講座は、日本受験が可能になったことやIFRS(国際財務報告基準)と米国会計基準の調整の動きが注目された事もあり、現金ベース売上高が同5.6%増加した。受講者数は、情報処理講座が同21.0%減、米国公認会計士講座が同2.2%減。一方、BATIC (国際会計検定)講座が同102.7%増加した。
 
その他(発生ベース売上高と現金ベース売上高が等しい)
税務申告ソフト「魔法陣」の販売が前年同期比5.0%減少した他、人材子会社TACプロフェッションバンクが行う人材ビジネスについての売上高も同11.7%減少した。加えて、Wセミナーの営業譲受に伴って計上された前受金の戻入れが終了に近づいており、この減少が350百万円の減収要因となった。
 
 
個人教育事業は東日本大震災後の消費マインドの低迷と会計系講座の苦戦が響き売上が減少。スクール面積の減床により賃借料を低減したものの299百万円の損失となった。法人研修事業も企業研修・大学内セミナーに震災の影響が残り減収・減益となったものの、コンテンツ提供・委託訓練が堅調に推移した。出版事業は、同社が展開するTAC出版の売上が増加したものの、子会社の(株)早稲田経営出版が展開するW出版の売上が減少(刊行が前年同期比2割程度減少した事による)。売上の減少に加え、両ブランドの営業推進・販売事務等の効率化を目的に設立した子会社(株)TACグループ出版販売の立ち上げもあり、セグメント利益が同40.9%減少した。この他、人材事業は第1四半期に損失を計上したものの、コスト削減の進展で第2・第3四半期は黒字基調を維持している。

受講者数は前年同期比6.9%(12,597人)減の170,854人。委託訓練が堅調に推移したことで法人受講者数が50,722人と同5.2%(2,505人)増加したものの、個人受講者が同11.2%(15,102人)減の120,132人と落ち込んだ。講座別では、公認会計士講座が同44.2%減、簿記検定講座が同10.2%減、不動産鑑定士講座が同18.8%減、司法試験講座が同37.9%減、情報処理講座が同21.0%減。一方、宅建主任者講座が同10.8%増、FP講座が同8.5%増、公務員講座が同3.0%増、社会保険労務士講座が同7.0%増となった。
 
 
2012年3月期業績予想
 
 
会計系講座の苦戦等で101百万円の経常損失見込み
第3四半期決算を踏まえて通期の業績予想を下方修正した。公認会計士・税理士・簿記検定といった会計系講座の苦戦等で、現金ベース売上高は22,124百万円と期初予想を9.3%下回る見込み(前期比6.0%減)。ただ、前受金戻入額1,014百万円を計上するため(期初予想では前受金繰入額150百万円を見込んでいた)、発生ベース売上高は23,138百万円と期初予想比4.5%の減少にとどまる見込み(前期比5.8%減)。
利益面では、売上の減少に伴う教材費の減少等で売上原価が期初予想比3.1%減少する見込みで、経費節減により販管費も同3.3%減少する見込みだが、減収の影響を吸収できず営業損益が92百万円の損失となる見込み。 配当は1株当たり1円の期末配当を予定している。
 
 
今後の注目点
政策的な合格者数の引き上げに伴う合格者の未就職問題のあおりを受けて、同社の主力講座である公認会計士講座の苦戦が続いているが、去る1月5日、金融庁は2012年以降の公認会計士資格試験の合格者数について、2011年の約1500人から削減する考えであることを表明した。この表明は、同日開催された公認会計士・監査審査会において、12年以降の公認会計士試験合格者数のあり方について、金融庁としての考え方を示したもので、「合格者の活動領域の拡大が依然として進んでいないこと」及び「監査法人による採用が低迷していること」から、2012年以降について「なお一層抑制的に運用されることが望ましい」としている。
この表明に沿って何らかの施策が講じられ、合格者が減少し未就職問題が解決するのであれば、同社の業績も転機を迎える。「合格者数の減少が公認会計士講座の受講意欲をそぐのでは?」とネガティブに考える向きもあるようだが、その可能性は低いだろう。なぜなら、ここ数年の公認会計士講座の受講者数の減少は、試験の難易度に起因するものではなく、難関を突破しても就職できない不条理に起因するものであったのだから。試験が難しくても、合格後の展望が開けているのであれば、受講意欲はいやが上にも高まろう。