ブリッジレポート
(2468) 株式会社フュートレック

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ブリッジレポート:(2468)フュートレック vol.17

(2468:東証マザーズ) フュートレック 企業HP
藤木 英幸 社長
藤木 英幸 社長

【ブリッジレポート vol.17】2011年3月期業績レポート
取材概要「NTTドコモは11/3期のスマートフォンの販売台数を当初100万台程度と想定していたいが、実際には250万台近くに達し、従来型端末は予想を大幅に下・・・」続きは本文をご覧ください。
2011年6月28日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社フュートレック
社長
藤木 英幸
所在地
大阪市淀川区西中島 6-1-1
決算期
3月 末日
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2011年3月 2,085 482 485 284
2010年3月 1,996 530 540 315
2009年3月 1,777 404 415 221
2008年3月 1,598 264 277 159
2007年3月 1,253 249 256 162
2006年3月 1,443 173 165 99
2005年3月 1,059 69 79 33
2004年3月 907 9 6 -1
2003年3月 736 12 12 3
2002年3月 435 17 34 29
株式情報(6/17現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
126,000円 46,564株 5,867百万円 11.4% 1株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
2,100.00円 1.7% 6,442.75円 19.6倍 55,787.46円 2.3倍
※株価は6/17終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。
 
フュートレックの2011年3月期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
音声認識・UIソリューション事業分野と音源事業分野を柱に事業領域を拡大してきている。音声認識ソフトウェアの開発や音声認識サービスを提供する(株)ATR-Trek、CRMソリューションを手掛けるイズ(株)、及びi-phoneアプリ開発を含めたシステム開発の(株)スーパーワン等を連結子会社としてグループを形成している。
※イズ(株)及び(株)スーパーワンは2011年4月1日付で子会社化。
 
 
 
<音声認識・UIソリューション事業分野について>
音声認識関連分野を最重要事業と位置づけると共に今後の更なる発展を図るべく、これまで独自の事業展開を進めていた音声認識事業とUIソリューション事業を“音声認識・UIソリューション事業分野”として一体化させた。
 
(1)製品ラインナップと収益
音声認識・UIソリューション事業分野の収益は、製品が搭載された事による「イニシャルフィーとランニングロイヤルティ」、製品搭載に伴う「カスタマイズ収益」、及び子会社(株)ATR-Trekが事業主体となって展開する携帯電話向けコンテンツ「しゃべって翻訳」にかかるエンドユーザーからの月額使用料からなる。
 
製品ラインナップ
・分散型音声認識(DSR)   ・音声合成(機器による発話)
・ローカル型音声認識(LSR) ・音声対話(機器との対話)
・ハイブリッド型音声認識   ・電子ヘルプソリューション(使いかたナビ®
 
分散型音声認識は、携帯電話内で特徴量を抽出し、外部のサーバー(高性能CPUを有する)を使用して認識を行なう。このため、単語やコーパス(文書のつながり)のデータが豊富で正確な認識が可能。一方、ローカル型音声認識はサーバを経由せずにその端末内のみで認識を行うもので、認識できる単語や範囲は限られるが機器内で完結するため処理時間が早く、ネット環境のない場所での使用はもちろん、機器内のデータを認識辞書として使用する事も可能(アドレス帳・楽曲DB等)。また、ハイブリッド型音声認識は分散型とローカル型を融合した方式で、両方式を併用して認識を行う。
 
(2)近未来の技術を実現した音声対話 -機器と対話しながら操作-
同社グループの「音声対話技術」には、ユーザーの声を認識する技術(音声認識)、ユーザーの質問内容を特定し、どのような返事を返すかを判断する技術(対話制御)、及び判断された返事を発話させる技術(音声合成)の3つの技術が盛り込まれている。「音声認識技術」は(株)国際電気通信基礎技術研究所(以下ATR)の高度な技術によって支えられ、ノイズ環境に強く、屋外での利用に耐えうるものだ。「対話制御技術」はユーザーの質問からキーワードを抽出・理解し、それに対応した対話シナリオから返答や動作を選択する。「音声合成技術」はHMM 音声合成を利用する事で小容量ながら自然な音声合成(発話)を実現している。この技術は、既にNTTドコモ2010-2011年冬春モデル13機種に「音声クイック起動」として搭載されており、画面上のマチキャラ®と会話する感覚で携帯電話の問いかけに声で答えていくと、希望する操作ができる画面にたどり着く(ボタン操作する事無く、基本的な機能を使う事が可能)。
尚、ATRは、電気通信分野における基礎的、独創的な研究を推進し、広く社会に貢献する事を目的に、産、学、官の支援で86年3月に設立された。音声認識の雑踏での実用性は周辺の音(ノイズ)をどれだけカットできるかがポイントとなるが、同社グループの音声認識はATRの高性能ノイズリダクション技術を採用する事で優れたノイズ特性を有しており、ATRのパラレルデコーディング技術(話し声を複数の認識器に同時に入力し、その中から最善のものを選ぶ)との併用により高い認識精度を実現している。
 
(3)有料コンテンツサービス
「音声対話技術」を利用した有料コンテンツサービスとしては、NTTドコモが提供している音声入力メール(メールの件名や本文を携帯電話に向かって話すだけで入力できる)や子会社(株)ATR-Trekが運営するiアプリ®「しゃべって翻訳」がある。
 
(4)強みである「認識精度の高さ」と「カスタマイズ可能な柔軟性」を活かして業務ソリューションを展開
同社グループの「音声認識」はノイズリダクションに優れ、屋外でのビジネスシーンにも耐え得る精度の高さが強み。加えて、スマートフォンやi-phone向けのアプリ、サーバーシステム、Webソリューション等、ユーザーの多様な用途・要望に応じてシステムのカスタマイズが可能な他、「音声対話技術」を用いた業務ソリューションやCRMソリューションもグループで提供できる。また、音声認識辞書のカスタマイズも可能なため、業界専用・社内専用の用語が多く使われる職場等での導入にも支障はない。同社は「認識精度の高さ」や「カスタマイズ可能な柔軟性」といった強みを活かして、「音声認識関連技術」を用いた法人向けサービス(業務ソリューション)を展開していく考え。
 
 
2011年3月期決算
 
 
前期比4.5%の増収、同10.1%の経常減益
売上高は前期比4.5%増の20.8億円。カスタマイズやランニングロイヤルティを中心に音声認識・UIソリューション事業の売上が増加した他、スマートフォン向けソフトウェア音源の寄与で音源事業の売上も増加した。一方、営業利益は4.8億円と同9.0%減少。収益性の高い両事業の売上が増加した事で売上総利益率も改善したが、音声認識にかかる研究開発費の増加等が負担となった。もっとも、減益は当初から想定していた事で、期初予想比での業績下振れは、第4四半期(1-3月)のランニングロイヤルティが予想を下回った事による。
尚、3月11日に発生した東日本大震災では、東京事業所の業務が一時停止したものの、人的・物的の両面で大きな影響は無かった。しかし、主要な取引先であるNTTドコモをはじめ、携帯端末メーカーや半導体メーカーが受けた被害は大きく、今後の影響については必ずしも楽観はできない。
また、同社では震災復興支援として、社会福祉法人中央共同募金会に創設された「災害ボランティア・NPO活動サポート募金」に1,000万円の寄付を行った。今後も震災復興への協力を惜しまない考え。
 
 
音声認識・UIソリューション事業分野
売上高は前期比4.4%増の10.5億円。契約時に計上される一時的な収入であるイニシャルフィーが減少したものの、音声認識のカスタマイズ業務やランニングロイヤルティによる収入が堅調に推移した他、2010年11月にNTTドコモに提供を開始した音声対話技術にかかるランニングロイヤルティ収入も貢献した。
 
音源事業分野
売上高は前期比5.4%増の8.3億円。国内市場における音源搭載台数の伸び悩みによりNTTドコモとの音源IPライセンス(LSIの設計データとそのLSIを駆動させるためのソフトウェアの知的財産権の使用許諾)契約に基づくロイヤルティ収入が減少したものの、スマートフォン向けのソフトウェア音源の売上でカバーした。スマートフォン自体は音を出す仕組みを有しているが、iモード向けに提供していたサービスを利用する際、一部の音や特殊な音が出ない等の不具合が出る場合があり、このような問題を解決するためにソフトウェア音源が必要になると言う。
 
基盤事業分野及びカード事業分野
車載用ソフトウェアの受託開発や自動車業界に向けたセンサーの開発等を手掛ける基盤事業分野では厳しい事業環境が続いているものの、カード事業分野は英語リスニング模擬試験用メモリーカードの書込みが堅調に推移した。
 
(3)財政状態及びキャッシュ・フロー(CF)
期末総資産は前期末比4.2億円増の32.0億円。CFの改善に加え、震災の影響による不測の事態に備えた現金の積み増し、及びイズ(株)の買収資金の支払い(4月1日)へ備えるべく、震災直後に銀行借り入れを行った事が資産増加の要因。CFの面では、売上債権やたな卸資産の減少等による営業CFの増加で、前期は0.5億円弱だったフリーCFが5.0億円に増加。短期の借り入れにより財務CFも黒字となり、現金及び現金同等物の期末残高は20.0億円と前期末比6.0億円増加した。
 
 
(4)資本参加と業務提携
①イズ(株)の子会社化
4月1日に「Visionaryシリーズ」を中心に約150社にCRMソリューションを展開するイズ(株)を連結子会社化(株式の80%を取得)すると共に、イズ(株)の子会社でi-phoneアプリ開発を含めたシステム開発を手掛ける(株)スーパーワンをフュートレック・グループに取り込んだ。今後、CRM ソリューションを同社グループの新たな事業ドメインと位置付け業容拡大を図る他、フュートレックのコア技術である音声認識・合成・翻訳技術とイズ(株)及び(株)スーパーワンのWeb アプリケーション開発能力を融合させ、成長分野であるスマートフォン向けアプリ開発を強化していく考え。また、イズ(株)が有するSaaS 型ビジネスモデルは音声認識・合成・翻訳等のサービス(コンテンツ提供)とのシナジーも高く、既存事業の強化にもつながる。
 
 
②(株)アクロディア及び(株)エフ・シー・エスとの業務・資本提携
・10年9月、国内携帯主要3キャリアに採用されている「VIVID UI」を中心にミドルウェア開発等を手掛ける(株)アクロディア(東証マザーズ:3823)と業務提携し、同年11月に(株)アクロディアの株式3,000 株(発行済株式数の2.72%)を取得した。両社は、携帯電話・スマートフォン・カーナビゲーション・家電等あらゆるプラットフォームに対して、操作性を高める事を目的とする次世代音声UIプラットフォームの開発を進めていく考え。また、相互の顧客基盤・事業ノウハウを活用して、次世代UIソリューションの採用に関する販売・マーケティングも共同で行っていく予定。

・11年2月、(株)エフ・シー・エスと業務・資本提携を行った。(株)エフ・シー・エスは1984年の設立以来、約1300社の企業に対して、販売・生産管理・人事給与等の業務アプリケーション提供の実績を有し、今後、(株)フュートレックから、音声認識・合成・翻訳技術をシステムに搭載するためのソフトウェア・開発ツール及び技術サポートを受けて業務支援アプリケーションの開発を進めていく。また、両社の顧客基盤を活用した業務支援ソリューションの展開も視野に入れている。尚、(株)フュートレックは第三者割当増資の一部引受けにより(株)エフ・シー・エスの発行済株式数の14.9% を取得した。経営全般についても、適宜、アドバイスを提供していく。
 
 
2012年3月期業績予想
 
 
前期比24.7%の増収、同2.9%の経常増益予想
上期は、子会社ATR-Trekとの連携による音声認識の更なる性能向上、スマートフォン向けアプリの開発、更にはソリューションビジネス展開の為の開発等、下期以降の収穫に向けた種まきの時期との位置づけ。下期以降、スマートフォン向けアプリ(2011年夏モデルの一部のスマートフォンで音声対話技術を使用したアプリの搭載が確定済み)やソリューションビジネスの収益化が見込まれる。また、新事業「E検定~電気・電子系技術者育成プログラム~」を立ち上げ、デンソーなど複数の企業へ試行提供を開始した他、11年4月よりグループに加わったイズ(株)及び(株)スーパーワンと業務・資本提携先である(株)エフ・シー・エスとのソリューションビジネスや(株)アクロディアとの次世代UIプラットフォームの開発等、新しいビジネスパートナーとのアライアンス戦略も進めていく考え。配当は1株当たり2,100円の期末配当を予定している。
 
 
(2)今後の取組み
①アライアンスによる業務支援ソリューションへの展開
新しくグループに加わったイズ(株)の持つCRM製品と音声認識製品、或いは(株)エフ・シー・エスの持つシステムインテグレートの技術・ノウハウと音声認識製品、と言ったようにグループ企業各々の強みを活かした組み合わせにより、グループ独自のホールセールプロダクトやソリューションとしての販売が可能となった。また、並行して、(株)アクロディアとの共同開発による携帯電話・家電等のあらゆるプラットフォームの操作性向上を目的とする次世代UIプラットフォームの開発についても進めていく。

音声認識技術を用いたソリューションの一例
 
 
・営業マンの業務日報作成
音声による要点入力の際にきめられた日報の書式でサーバに保存。日報作成の時間短縮と情報共有を実現。
・介護の業務日報作成
移動時間等に機器操作が苦手な方でも手早く日報作成。日報データは社内のサーバに保存され、情報共有も可能。
・音声対話を使った点検
端末が点検項目を管理し、項目毎に一つ一つ話しかけるため、点検漏れ等が防止できる。
 
②新規事業 E検定~電気・電子系技術者育成プログラム~
同社は電気・電子系技術者育成プログラム「E検定」を開発し、デンソーなど自動車関連の複数の企業へ試行提供を開始した。電気自動車やエコプロダクツの開発には、アナログ技術が不可欠だが、昨今、デジタル技術偏重でアナログ技術の技術者育成には力が注がれておらずアナログ技術者の不足が問題化している。一方、同社は電気・電子系ハードウェア開発において高いアナログ技術を有し、これまでも顧客の研究開発を支えてきた。「E検定~電気・電子系技術者育成プログラム~」は、この優れたアナログ技術を教育に応用したもので(実務経験豊富な現場の技術者が作成)、技術力を検定すると共に、実務における優先度を重視し、短期間で必要な知識を習得・応用できる様にプログラムが構成されている。
 
今後の方向性
 
 
取材を終えて
NTTドコモは11/3期のスマートフォンの販売台数を当初100万台程度と想定していたいが、実際には250万台近くに達し、従来型端末は予想を大幅に下回った。収益源を従来型端末に置いていた同社にとって大きな痛手であり、第4四半期のランニングロイヤルティ収入が下振れしたのも、東日本大震災の影響よりもスマートフォンの販売拡大の影響の方が大きかったようだ。
このため、予想以上のスピードで進む従来型端末からスマートフォンへの切り替えの動きに乗り遅れない事が同社にとって喫緊の課題である。端境期となる12/3期上期もこの影響が続く見込みだが、同社は前11/3期の下期以降、従来型端末向け技術のスマートフォン対応を加速しており、今秋以降、その成果が業績に反映されてくる見込み(2011年夏モデルの一部のスマートフォンで音声対話技術を使用したアプリ「しゃべってカンタン操作」の搭載が確定しているため、実際は今期業績予想の前提よりも若干早い時期に業績に現われてくる見込み)。
また、昨年9月の(株)アクロディアに続き、本年2月の(株)エフ・シー・エスとの業務・資本提携、更にはイズ(株)及び(株)スーパーワンの子会社化と、短期間で効果的な戦力の補強も進められ、携帯電話のコンテンツプロバイダーを対象にした技術と思われていた「音声対話技術」だが、一般企業を対象にした業務ソリューション用ツールとしての展開余地が広がった。ベースとなる技術を開発・育成すると共に機動的に組織を再編し、事業環境の変化に応じた施策で業容の拡大を続ける優れたマネジメント力、そしてベンチャー企業と言う言葉に甘える事無く、しっかりと配当も行う経営姿勢に敬意を表したい。