ブリッジレポート:(2183)リニカル vol.6
(2183:東証マザーズ) リニカル |
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企業名 |
株式会社リニカル |
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社長 |
秦野 和浩 |
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所在地 |
大阪市淀川区宮原1-6-1 新大阪ブリックビル |
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決算期 |
3月 |
業種 |
サービス業 |
項目決算期 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期純利益 |
2011年3月 | 2,512 | 288 | 278 | 147 |
2010年3月 | 2,404 | 480 | 473 | 273 |
2009年3月 | 2,036 | 549 | 515 | 300 |
2008年3月 | 1,273 | 505 | 494 | 296 |
2007年3月 | 613 | 186 | 195 | 114 |
2006年3月 | 118 | 16 | 19 | 11 |
株式情報(6/20現在データ) |
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今回のポイント |
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会社概要 |
大手製薬企業からスピンオフ
当社は2005年6月に設立された若い企業である。藤沢薬品の新薬開発部門にいた課長(現秦野社長)がリーダーとなって、9名で立ち上げた。創業から6年を経て、現在の社員数は200名である。秦野和浩社長は大阪で育ち、薬学部を卒業後、新薬の治験に関わる仕事をしてきた。藤沢薬品では、免疫抑制剤であるプログラフ(FK506)の治験を担当した。藤沢薬品では、新薬開発のⅡ相、Ⅲ相治験(臨床試験)を120人程度のCRA(臨床開発モニター)で行っていたが、秦野社長はそこの課長であった。このCRAは、病院で行われる新薬の治験について、治験が法規制に沿って実施されているかどうかをモニタリング(監視)し、そのデータを収集するうえで重要な役割を果たす。 藤沢薬品と山之内製薬の合併が決まり、アステラス製薬が誕生する直前に藤沢薬品を退社し、CRO(医薬品開発受注機関)のリニカルを2005年6月7日に創業した。そして、3年4ヵ月後の2008年10月27日には、東証マザースに上場した。創業6年のベンチャー企業とはいえ、上記の合併があったことで創業時からまとまった組織を作れるだけのメンバーが揃い、製薬会社時代に自分達が感じていたCROに対するニーズをもとに、自分達が得意な事業領域に特化したことが、スピード上場に結びついたのである。 CROの新興勢力として、特定の分野に特化
当社はCRO業界で後発であり、2番手グループに属するが、特定の業務に特化している。モニタリングとそれに付随する品質管理、コンサルティングの3つに特化しており、データマネジメントや副作用調査(ファーマコヴィジランス)などのそれ以外の業務は手掛けていない。また、治験では、第Ⅱ相(フェーズⅡ)試験、第Ⅲ相(フェーズⅢ)試験に特化している。前者は新薬候補がその用法用量でよいかどうかを調べ、後者は他の既存薬より優れているかどうかを調べる。顧客も、多くの開発品目を有する武田薬品、第一三共、エーザイ、大塚製薬などの国内製薬メーカーが主要な売上を占めている。当社では、差別化戦略の一環として、がんと中枢神経系(CNS)の開発案件を受注することに力を入れ、実績を上げている。近年、新薬の開発トレンドは生活習慣病からアンメットメディカルニーズのある(治療満足度が低い)がんやCNS領域等にシフトしている。一方、がん領域の開発では、安全性情報の取り扱いが難しく、中枢神経系については、有効性評価の標準化が難しいため、これまでは社内リソースを活用した実施が多かった。しかし、開発トレンドが変化し、こうした難しい領域でもアウトソーシングニーズが高まってきている。こうした難易度の高い開発領域では、特に治験の進行速度やデータの質にCRAが重要な役割を果たすので、CRAやプロジェクトマネジメントの質がアウトソーシング先の選定において重要な要素となっている。 当社のモニター(CRA)には、がん領域の治験や中枢神経系(CNS)領域の経験者が多い。特にCNS領域については、当社での受託実績が多く経験者も多い。そこに、フジサワや外資系メーカーからマネジメントクラスのスペシャリストを補強し、プロジェクトマネジメントや営業における体制を強化している。 難しい分野に特化し、高い利益率を狙う
当社は競合他社との受託競争の激しい領域の受託については慎重である。生活習慣病などの治験では、質やスピードの面での差別化が難しく、価格競争に巻き込まれる可能性が大きいためである。そこで、前述したようながんやCNSなどの難しい領域に注力することで、こうしたリスクを回避している。一方で、莫大な新薬研究開発費用を効率的に活用し、最も売れる時期までの期間(Time to peak sales)を短縮化するため、国際共同治験が増加し、新薬開発の国際化が進んでいる。こうした動きのなかで、製薬会社が開発の'継続か中止か'を判断するタイミングが迅速化しており、前期、前々期には大型治験の中止が起きた。業務特化型ビジネスによる筋肉質な組織と、難しい領域への注力などによる差別化で高収益体制を維持するとともに、CRAを増員し受託案件の数を増やして、中止・開始遅延による業績変動リスクの希釈化を図っていくことが求められる。 当社は、最も時間・コスト・要員を要し、委託側の要求水準も高いⅡ相、Ⅲ相試験のモニタリング業務に特化し、委託側のニーズ(回収データの品質、受託業務の短納期化、それに見合う適正価格)を充足することをミッションとしている。難易度の高い業務、領域の新薬開発業務のアウトソーシングニーズは高まっており、CROの受託能力が今後の市場の成長を決めるといっても過言ではない。当社の売上高経常利益率が10%台と高いのは、Ⅱ相、Ⅲ相のモニタリング業務に特化し、筋肉質な組織で原価部門の稼働率を高く保っていること、がん、中枢神経系という難しい領域に注力し、価格競争力のある差別化戦略をとっていることによる。この戦略は今後も続ける方針で、大手と同じフルラインで後を追うようなことは考えていない。 |
中期経営方針 |
CRA200人体制を早急に作る計画
CRO業界の市場は回復に入っている。2008年後半から2010年前半にかけて、円高、大型新薬の特許切れ、新薬開発における技術的障壁や国際競争の激化等の影響で、経営戦略自体の見直し、M&Aや導入による開発品目の補充や見直しの気運が強かったが、ここにきてアウトソーシングは増えつつある。一方で、業界の淘汰も進んでいる。5年前には、80社程度あったCRO企業が今は60社程度に減っている。足元の案件は増える傾向にあるので、受託能力のある大手に集中することになる。大手医薬品メーカーは、治療満足度が低く、市場拡大の可能性が高い領域での新薬開発を目指している。その中で当社が注力している領域は、がんと中枢神経系(CNS)での新薬の開発受託である。がんの市場は5年で3倍になっており、統合失調症、うつ病、アルツハイマー等のCNS市場も2~3倍になってきている。こうした領域のほかに、抗血栓薬など難易度の高いプロジェクトも新しく受注している。こうした重篤な状態の患者を対象とした治験では、治験の進捗や安全性情報の取扱いで慎重かつ適切な対応が求められるため、CRAやCROの実力差が出やすいものと思われる。 現在は社員が200人程度になっている。そのうち、原価部門のCRAが約150人、CSO(医薬品のセールスマーケティング)のMRが約10人、QC(品質管理)担当者が約20人となった。CRAの数は3年前の53人から、102人、125人、そして2011年3月末には133人と増えている。4月に新卒20人、経験者4人が入っており、採用を強化し早急に200人を超える体制を目指す。薬学系、生物系の新卒を採用して、1人前になるまでには3年ほどかかる。当社は大型のキャンセルが出た時でも、人の採用は抑えていない。次のビジネス拡大に向けて人材を育成していく必要があるからである。 リニカルは成長を目指しており、留まるよりは攻めることを信条としている。前期は1案件でCRA20人以上、月商約40百万円のプロジェクトが中止になったが、通常は1案件の投入CRAは10~15人ほどである。つまり、1案件の中止があっても単年度の売上に及ぼす影響は10%以内に抑えることができる規模になった。即戦力の経験者採用を含め、CRAは今後3年間で大幅に増やしていく。CRA増員計画は今年度末で155人、翌年度で195人、3年後には235人となっているが、状況に応じ更なる増員を目指す。 グローバル治験に布石、将来は3極体制を構想
中期的な戦略において、日本を含むアジア、米国、欧州で現在と同様のCROビジネスを展開し、国際共同治験(グローバルスタディ)を3極同時受託できる体制を作りたいと考えている。欧米発のグローバルCROは幾つかあるが、日本発のグローバルCROとして成功している前例は無い。日本発グローバルCROとして、現在の顧客である大手製薬会社からグローバルスタディを3極で受託できるような仕組みを構築し、新薬開発・販売市場の環境が変化するなかでも中長期的な成長を確保したいという思いを秦野社長は持っている。グローバルCRO展開に向けて、少しずつ布石をしている。まず米国にLIIINICAL USA Inc.を設立した。国内製薬会社の米国での治験実施のためのコンサルティングやモニタリング受託を行うが、もうひとつの展開として、日本に拠点を持たない米国の中堅CROが日本でも治験をやりたいという話がきており、これを足掛かりとして実績を出したいと考えている。 増加するグローバルスタディに対応し、将来のグローバル展開に備え、英語教育にも注力している。現時点でも社内のCRAの3割程度は英語での対応が十分可能である。治験データや報告書などで英語化が進んでおり、こうした文章を全CRAが英語で作成できるというのはハードルが高いが、挑戦していく方向にある。将来の姿としては、CRAを日本、米国、欧州、アジアでそれぞれ500人体制とし、連携プレーできるようなグローバルスタディ実施体制を思い描いている。 同社は2011年6月で創業6年を迎えるが、売上の構成比率を見ると、国内大手製薬会社が絶えず10%を超える特定取引先として登場している。これは他のCROには見られない特色であり、同社が特化してきたⅡ相、Ⅲ相のモニタリング受託では、質・納期・価格という面で顧客のニーズを満たし、リピート受注を獲得していることを証明している。その結果、CROとしてのリニカルブランドは顧客である製薬メーカーや治験を実施する医師にも浸透するようになった。加えて、最近注力しているがんや中枢神経系(CNS)という難しい領域でも確実な実績を残し顧客の信頼を得ている。 近年、グローバルCROによるグローバルスタディのグローバル受託が進行している。そうした状況下でも、同社はグローバルスタディの日本試験を受託しており、現在、進行中のプロジェクトのうちグローバル治験は4本ほどある。これは、同社がクライアントからこれまでの実績をベースに信頼を得ているからだと思われるが、今後はますます上記の動きが加速していくので、同社の中長期的なグローバル戦略は5~10年のスパンでは必然と考えられる。 CSOでも差別化戦略を志向
新規事業としては、CSO(医薬品の営業・マーケティングを支援する事業)を進めている。CSO業界はコントラクトMR(医薬情報担当者)が中心で、MRはドクターに医薬品情報を的確に伝える営業の役割を担う。このMRの派遣業務を行うのがCSOで、CSOの市場は現在400億円ほどあるが、これが数年で600億円には伸びていく。 同社はこのCSO市場でコントクラクトMR(MRの派遣業務)をやるつもりはない。常に他社との差別化を考えているので、CRO事業で培った医療機関とのコネクションや専門性などの自社の強みを活かし、営業組織上もう少し上流に位置するプロダクトマーケティング分野で地位を築こうとしている。それは、医薬品のマーケティング戦略を企画・運営していく分野で、最近では広告代理店の子会社などがアウトソーシングニーズを捉え進出している。 医薬品メーカーの経営環境が厳しさを増す中、これまで得意分野としてきた領域以外の製品を開発する動きが出てきており、しかもがんやCNSなど専門性の高い領域が増加してきている。こうした開発品が新薬として発売された時、自社にはその領域の医師とのコネクションが無かったり、これまで生活習慣病を中心に取り扱ってきた自社MRに、専門性の高い疾患の新薬のプロモーションを任せられるか、という課題が出てくる。そこで当社のようなCSOが活躍する機会が出てくるのである。 CSO事業は2年前にスタートした。上述したようなプロダクトマーケティングを担当する人材が4人いる。また、育薬にも力を入れていく。新薬ができても、ドクターは既存薬で治療が出来ている限り、なかなか新しいものは使わない。そこで、新薬の有用性を体感してもらう機会として、或いは競合品との差別化のための臨床データを集め論文化してもらう機会として、製造販売後の臨床研究は有効な手段である。データの客観性を保つため、医薬品メーカーが自ら実施するのではなく、医師主導で実施してもらうのが医師主導臨床研究であり、期限や品質を守るためのサポート業務を受託している。認知度は低いがこうしたニーズも増加しており、ここでも実績を作りつつある。 |
当面の業績 |
前年度は大口の治験中止で大幅減益となる
前2011年3月期は、売上高2512百万円(前年度比+4.5%)、営業利益288百万円(同-39.9%)、経常利益278百万円(同-41.2%)当期純利益147百万円(同-46.0%)と、2年連続の減益となった。これまでは規模が十分でなく、実施中の治験プロジェクトのうち大型のものが中止になると、単年度の業績には大きく影響していた。前期も月商約40百万円のプロジェクトが中止になってしまい、当初計画を大きく下回ってしまった。期初の業績予想は売上高2,885百万円、経常利益629百万円であったが、結局、大型プロジェクトの中止分を埋めることができなかった。しかし、前期には新規獲得プロジェクトにより受注残高は過去最高水準まで積み上がっており、これが今期の業績には寄与してこよう。 上記のような大型プロジェクトが中止になると、20名程度が非稼動の状況となり、売上は消失するが固定費である人件費は発生するため、利益率を押し下げることになる。この分を新規受託案件で埋め合わすのに時間を要したことから、前年度は増収減益となったのである。 今年度は一気に挽回、受注増で見通しは明るい
今2012年3月期は、売上高2889百万円(前年同期比+15.0%)、営業利益454百万円(同+57.2%)、経常利益449百万円(同+61.2%)、当期純利益(同+76.1%)を見込んでいる。売上見込みのうち、26億円程度は契約締結済みである。当社の発展過程の第1段階として、疾患領域は特化せず、Ⅱ相、Ⅲ相のモニタリングに特化し、その過程でCNS領域の受託案件を含め国内大手製薬メーカーのリピートにより実績を蓄積した。第2段階として、増加傾向にあるがんやCNS領域の開発案件を積極的に受託できる体制を整えることに注力した。そして、現在はがんやCNS領域の案件は2~3割程度にまで増加し、それ以外の領域でも、症例の組み入れやデータ収集において難易度の高い案件が増加してきている。こうした案件では価格競争は起こりにくいため、同社の差別化戦略が奏功している。 現在実施中のなかで最も大型のプロジェクトは月商30百万円程度であるが、これらの治験はⅢ相のものなので、途中で中止となるリスクは比較的低いと考えられる。期中に万一、1案件のキャンセルが発生して年間1億円程度の売上減があったとしても、経常利益で4億円は確保できよう。 |
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