ブリッジレポート
(7776) 株式会社セルシード

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ブリッジレポート:(7776)セルシード vol.3

(7776:JASDAQ) セルシード 企業HP
長谷川 幸雄 社長
長谷川 幸雄 社長

【ブリッジレポート vol.3】2010年12月期業績レポート
取材概要「マイルストーンが変更され利益計上時期が当初の計画よりも遅れる事となった。しかし、ダムール博士の治験結果(速報)に示されたように治験の・・・」続きは本文をご覧ください。
2011年3月8日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社セルシード
社長
長谷川 幸雄
所在地
東京都新宿区若松町33-8 アール・ビル新宿
決算期
12月末日
業種
精密機器(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2010年12月 66 -1,204 -1,002 -1,009
2009年12月 87 -785 -788 -790
2008年12月 61 -778 -644 -650
2007年12月 40 -809 -614 -616
2006年12月 23 -672 -464 -470
2005年12月 34 -412 -336 -343
2004年12月 53 -257 -214 -215
株式情報(2/23現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
1,635円 5,324,934株 8,706百万円 - 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
- - - - 358.34円 4.6倍
※株価は2/23終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。
 
セルシードの2010年12月期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
東京女子医科大学の岡野光夫教授が開発した日本発の「細胞シート工学」を基盤技術とし、この技術に基づいて作製した「細胞シート(細胞をシート状に組織化したもの)」を用いて従来の治療では治癒できなかった疾患や障害を治す再生医療「細胞シート再生医療」の世界普及を目指している。事業は、温度応答性細胞培養器材及びその応用製品の開発・製造・販売を行う「再生医療支援事業」と各種用途向けに様々な種類の細胞シートを開発・製造・販売する「細胞シート再生医療事業」(売上計上は11/12期以降)に分かれる。
 
再生医療支援事業
細胞シート再生医療の基盤ツールである温度応答性細胞培養器材及びその応用製品を開発・製造(多額の設備投資を必要とする一部の工程は外部委託)し、世界各国の大学・研究機関等に提供している。当事業は細胞シート再生医療事業の提携先開拓のための戦略的な意義をも有し、収益だけを目的とした事業ではない。
細胞シート再生医療事業
細胞シート再生医療医薬品(各種用途の「細胞シート」)及びその応用製品を販売する。現在、東京女子医大、大阪大学、及び東海大学と共同で5つの再生医療製品パイプライン(新薬候補)の研究開発を進めている。
 
 
 
2010年12月期決算
 
 
損失計上となったものの、細胞シート再生医療の事業化に向け概ね予想通りの着地
温度応答性細胞培養器材の販売で66百万円の売上を計上。実質的初年度となった前期の積極的な販売促進活動による需要先食いや円高の影響等で欧州での販売が伸び悩んだ他、大口顧客向け案件の一部が来期以降に持ち越しとなり国内売上も減少した。損益面では、温度応答性細胞培養器材の販売促進費用に加え、リヨン国立病院に対する製造受託準備支援費用、欧州事業化準備費用、及び国内研究機関に対する研究支援費用等、角膜再生上皮シート関連での先行投資に伴い販管費が約4億円増加した事が営業損益悪化の要因。大まかな内訳は、研究開発費の増加が1.9億円(4.1億円→6.0億円)、その他の販管費の増加が2.1億円(4.0億円→6.1億円)。一方、営業外損益の改善は、公的助成プロジェクト(NEDOプロジェクト)の完了に伴い、前受金に計上していた2.2億円を補助金収入として営業外収益に計上したため。
セグメント別では、再生医療支援事業が売上高66百万円(前期比20百万円減)、営業損失62百万円(同10百万円増。細胞シート再生医療事業が営業損失632百万円(同205百万円増)。

尚、予想との比較では、角膜再生上皮シート関連の研究開発支出が予想を上回ったため各損益が下振れしたものの、研究開発支出も中期的な事業計画に沿ったものだ。
 
 
①治験及び販売承認申請
07年よりフランス・リヨン国立病院で実施している角膜再生上皮シートの治験において、10年9月に全25症例の経過観察が終了した。現在、上記治験に関する最終報告書の作成作業が進められているが、正式報告に先立ち、10年11月に東京大学で開催された国際シンポジウム(Tokyo iPS/Stem Cell Symposium 2010)において、治験製品製造責任者であるオディール・ダムール博士(リヨン国立病院組織・細胞バンク所長)により治験結果(速報)が発表された。治験結果の正式報告ではないため現段階で結論付ける事はできないが、発表内容は重度の視覚障害を伴う角膜上皮幹細胞疲弊症に関する同社の角膜再生上皮シートの安全性・有効性を強く示唆するもので、我々の期待に沿ったものだった。尚、当該治験の正式報告書は現在監査中であり、治験の最終結果はこの正式報告書を以て確定する。確定した正式報告書はフランス厚生・保健製品安全庁(AFSSAPS)へ提出され、また、これをもって欧州医薬品庁(EMA)への販売承認申請も行われる。1年程度で販売承認を取得し、ユーロ各国での薬価交渉を経て販売開始となる(イギリスやドイツのように自由薬価の国では薬価交渉が必要ないため、販売承認取得と共に販売を開始できる)。11/12期中に販売承認申請が行われる予定で、順調に行けば12/12期中には販売承認を取得できる見込み。欧州人道的使用(Compassionate Use)制度を活用するめ、11/12期から角膜再生上皮シートの売上計上が始まるが、本格的な販売は13/12期以降となる。欧州人道的使用とは、欧州主要各国の許可に基づく薬事承認前医薬品のヒト患者への提供で、有償での提供が可能である。EMAに対しては、既に申請の概要書を提出しており、ポジティブな専門的アドバイス(Scientific Advice)を取得する等、販売申請の事前準備も順調だ。
 
②製造及び販売体制の整備
製造面では、準備完了時期を10年11月から11/12期中に変更した。欧州での角膜再生上皮シート事業では、リヨン国立病院と軟骨の再生医療及び同医療に必要な組織工学製品の製造を手掛ける仏TBF Genie Tissulaire社(以下、TBF社)に製造を委託するが、TBF社への技術移転(製造技術の受け入れ)が想定よりも時間を要した事に加え、実際に患者の口腔粘膜上皮細胞(口の中の細胞)から治験で使用する角膜再生上皮シートを培養(製造)した実績があるリヨン国立病院においても、本来が病院でありメーカーではなかったため、改めてGMP(Good Manufacturing Practice:医薬品等の品質管理基準)に適合した施設及び製造設備への改修・更新が必要となり、現在、工事を進めている(いずれも最終的にはGMP査察を受け、承認が必要)。
また、販売面では、ドイツのStadaグループのClonmel Healthcare Limited(アイルランド)及びギリシャのGenesis Pharma と既に販売提携契約を締結しており(同社が事業化権を付与したセルシード ヨーロッパを通じて製品が供給される)、上記の製造準備が完了する11/12期から人道的使用を開始する。

この他、子会社セルシード フランスがリヨン国立病院、Genesis Pharma、及びParacelsus医科大学(オーストリア)と共に進めている角膜再生上皮シートプロジェクトが、10年6月にEurostars Projectに採択された。このプロジェクトは、商業化を前提としたGMP製造・輸送体制の確認及び多施設分散型小規模実験の実施・評価を内容としているが、わかりやすく言うと、助成金を受け取って、GMPに則した製造及び輸送体制ができているか否かの確認(実際の商業化段階でのトラブル発生の芽を事前に摘み取る事ができる)や、欧州各国の有力眼科医師との関係構築(角膜再生上皮シートのファン作り)ができる訳だ。有力眼科医師とのパイプを作る事によって、人道的使用の推進効果、薬価取得に際してのポジティブな評価・意見、更には上市後のスムーズな本格使用等の効果が期待できる。
 
<オディール・ダムール博士の見解の要点(対象は移植26例のうち脱落1例を除いた25例)>
膜再生上皮シートの安全性は高い
・2例で見られたSerious Aderse Event(重篤有害事象、重大副作用)はいずれも角膜再生上皮シート移植と因果関係がない。
・その他の副作用も治療に直接影響するものではなかった。
角膜再生上皮シートは有効に機能する上皮を角膜表面に再生する効能を有する
・様々な角膜機能障害の原因となる結膜の侵入を後退させている。
・様々な角膜機能障害の原因となる血管の侵入及び活性を減少させている。
角膜再生上皮シートは角膜上皮幹細胞疲弊症の治療に有効である
・角膜の上皮以外(実質、内皮)が健康な患者では視力の改善が期待できる(例えば、今回の治験参加者には視力が回復して職を得た愚者が存在)。
・角膜の上皮以外の部分(実質など)に障害がある患者でも、有効に機能する。上皮が再建されているので(二次治療としての)ドナー角膜実質移植が可能
 
<角膜再生上皮シートの適応症である重度の視覚障害を伴う「角膜上皮幹細胞疲弊症」について>
角膜は、角膜上皮、角膜内皮、角膜実質に分かれる。
角膜上皮 :角膜の中で体外に露出している側の表面に位置する透明な組織(カメラで言えばレンズ表面)
角膜内皮 :角膜の中で角膜上皮と反対側(体の内側)の表面に位置する組織
角膜実質 :角膜上皮と角膜内皮に挟まれ、主にコラーゲンからなる透明な組織
 
「角膜上皮幹細胞疲弊症」は角膜上皮の維持や新陳代謝に不可欠な細胞(幹細胞)が消失するために発生する疾患。角膜上皮が損なわれると、角膜実質に結膜や血管が形成されてしまい様々な角膜機能障害を惹き起こす(簡単に言えば、結膜や血管が邪魔して光の進入を遮断してしまう。角膜上皮が健康であれば、角膜実質に結膜や血管が形成される事は無い)。視力低下の他、痛み、光恐怖症、ドライアイ等の症状が発症し、重度になると失明に至るが、角膜上皮幹細胞疲弊のみで角膜実質が健康であれば、角膜再生上皮シートを使用し角膜上皮を再生する事で症状の改善(視力の回復)が期待できる(治験結果速報より)。また、角膜再生上皮シートは既に結膜や血管が形成されている角膜実質を改善させる事はできないが、角膜再生上皮シートを使用し角膜上皮を再生した後、角膜実質の移植手術を行えば、視力の回復など症状の改善が期待できる事も確認されている(同)。角膜実質はドナーからの提供による移植手術が可能だが、角膜上皮の維持や新陳代謝に不可欠な細胞(幹細胞)が消失している「角膜上皮幹細胞疲弊症」の場合、移植手術後に再び角膜実質内に結膜や血管が形成されてしまい同じ症状が発症する。このため、現在有効な治療法が存在しない。
 
(3)財政状態及びキャッシュ・フロー(CF)
期末総資産は前期末比9.0億円増の20.9億円。10年3月の株式上場(IPO)に伴う資金調達により、手許資金(現預金及び短期国債)及び純資産が増加。一方、営業外収益に補助金収入として計上した事で前受金が減少した。フリーCFが大幅なマイナスとなったが、これは短期的な余資運用の一環としての有価証券(短期国債)の取得が主な要因。現金及び現金同等物の期末残高は10.1億円だが、短期国債での運用分も含めた実質的な残高は18.1億円。このため、11/12期も損失計上が見込まれるものの、資金面での不安はない。12/12期以降については、各パイプラインの進捗で現在交渉を進めているアライアンスが具体化してくるため、ロイヤルティ収入が期待できる上、開発を進める上での同社単独の資金負担も軽減される見込み。
 
 
 
今後の見通し
 
 
11/12期から13/12期にかけての見通しは上記の通り。11/12期が支出のピークとなり、12/12期以降は角膜再生上皮シート事業の本格展開とその他のパイプラインにおけるアライアンス等で損益が改善に向かう見込み。
セグメント別では、再生医療支援事業において、販促及び新商材投入等で売上高の増加を図りつつ赤字幅を縮小させ、中長期的成長基盤の確立を目指す。一方、細胞シート再生医療事業においては、承認取得と上市及び人道的使用による欧州角膜再生上皮シートの事業化、角膜再生上皮シートの米国展開、更には提携一時金(ロイヤリティ)の獲得、の3施策を通じ、積極的な研究開発投資を継続しつつ収益をあげていく。
 
 
①11/12期は、角膜再生上皮シートの米国展開に伴うロイヤリティ1億円が見込まれる他、欧州での角膜再生上皮シート事業において、人道的使用にかかる売上をわずかに織り込んだ。
②12/12期は、欧州での角膜再生上皮シート事業で人道的使用にかかる売上が拡大する他、一部の国で販売承認に基づく売上も見込まれる。また、提携一時金として心筋再生パッチ事業にかかる約5億円のロイヤリティ収入を織り込んだ(現在、大手製薬メーカーと交渉中)。
③13/12期は、薬価の決定を受けて欧州諸国での角膜再生上皮シート事業の本格的な拡大が見込まれる。
 
 
 
取材を終えて
マイルストーンが変更され利益計上時期が当初の計画よりも遅れる事となった。しかし、ダムール博士の治験結果(速報)に示されたように治験の結果は良好なようだ。「上市に向けた最大のハードルがクリアされた」と言っても過言ではないだろう。実際、再生医療は自らの細胞を使うだけに、治験に先立つ臨床研究で問題が無ければ、治験で問題が発生する可能性は少ない。ただ、前例が無いだけに、従来の医薬品よりも治験結果報告書の作成に時間を要している模様。また、再生医療で使われる組織工学製品は化学合成により工業生産される医薬品と異なるため、量産化に向けた生みの苦しみが大きい事も理解できる(国内のエレクトロニクスメーカー等と自動化に向けた研究も進めている)。もともと、正確なタイムスケジュールを示す事が難しかったのだが、株式上場に伴う市場の要請もあり、タイムスケジュールを示さざるを得なかったという点で気の毒な面もある。が、しかしだ。治験結果報告書の作成完了や量産体制整備の目処も付いてきた。販売承認申請から承認取得までの期間を正確に予想する事が難しいため今後も多少の時間的なズレが生じる可能性はあるが、角膜再生上皮シート以外のパイプラインも含め、収益化に向けて着実に歩を進めている事が確認できた。