ブリッジレポート
(6498) 株式会社キッツ

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ブリッジレポート:(6498)キッツ vol.1

(6498:東証1部) キッツ 企業HP
堀田 康之 社長
堀田 康之 社長

【ブリッジレポート vol.1】2010年3月期業績レポート
取材概要「11/3期の業績は多分に保守的な面があり、特に利益面で物足りなさを感じた投資家が少なくないのではないか。しかし、長期経営計画及び中期経営計・・・」続きは本文をご覧ください。
2010年6月8日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社キッツ
社長
堀田 康之
所在地
千葉市美浜区中瀬1-10-1
決算期
3月末日
業種
機械(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2010年3月 96,592 6,976 6,248 3,079
2009年3月 127,095 7,188 6,475 3,396
2008年3月 149,274 11,615 10,525 6,290
2007年3月 149,512 11,342 10,652 9,973
2006年3月 107,631 9,673 9,132 8,070
2005年3月 95,705 9,627 8,513 5,804
2004年3月 73,802 4,181 2,962 1,598
株式情報(5/28現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
407円 113,069,630株 46,019百万円 6.0% 1,000株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
7.00円 1.7% 27.41円 14.8倍 468.31円 0.9倍
※株価は5/28終値。2010年7月1日より売買単位(単元株数)を100株に変更。
 
キッツの2010年3月期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
バルブを中心とした流体制御機器・装置の総合メーカー。バルブは、「水道メータ周り」、「ガスメータ周り」、「給湯器」等でよく目にするが、家庭だけでなく、あらゆる産業設備に使われており、同社は素材からの一貫生産を基本に、青銅、鋳鉄、ダクタイル、ステンレス鋼等を素材に数万種をラインナップしている。また、バルブの部材として使用される伸銅品の外販を行っている他、フィットネス事業やホテル事業等も手掛けている。バルブでは国内トップ。伸銅品では国内2位のポジションにある。
 
<沿革>
1951年1月、各種バルブの製造・販売を目的とした(株)北澤製作所として設立され、同年4月に長坂工場(山梨県長坂町)が完成し、青銅バルブの製造・販売を開始した。1959 年3月には(株)東洋金属を設立し、バルブの素材となる黄銅棒の生産を開始。1962年9月には社名を(株)北澤バルブに変更し、同年10月に黄銅熱間鍛造プレスを日本で初めて導入すると共に黄銅鍛造バルブの製造・販売を開始。その後、素材をステンレスへも広げ、70年11月には長坂工場にステンレス鋼バルブの鋳造工場及び工作工場が完成し操業を開始した。
「常により良い品を、より安く、早く」をキーワードに高度成長期にかけて事業基盤を確立。77年4月の東証2部上場を経て、84年9月に東証1部に指定替えとなった。また、バルブ事業では、95年8月に(株)清水合金製作所を子会社化し水道分野に本格参入。96年3月には工業用フィルターで半導体分野へ参入した。

2001年以降は、選択と集中を進めると共に、キャッシュ・フロー重視経営を推進。01年11月に旧ベンカングループの半導体製造装置関連事業を譲受する一方、04年3月には東洋バルヴ(株)のバルブ事業を譲受すると共に、伸銅品事業を分社化し(株)キッツメタルワークスを設立。更に05年から06年にかけて、京都ブラス(株)の伸銅品事業や(株)紀長伸銅所の資産の譲受により伸銅品事業を強化した。
07年5月には中国・連雲港市にバルブの製造会社 連雲港北澤精密閥門有限公司を設立。現在、世界有数のバルブメーカーとして国内外の連結子会社31社と共にグループを形成。「キッツブランド」の商品は、国内外で高品質の商品として高い評価を得ている。
 
<事業セグメントの概要>
事業は、バルブ事業、伸銅品事業、及びサービスその他の事業に分かれ、10/3期の売上構成比は、それぞれ73.1%、16.8%、10.1%。
 
バルブ事業
キッツグループのコア事業であり、上下水道・給湯・ガス・空調等のライフラインや石油・化学・紙パ・半導体等の産業分野において、流体制御機器として重要な役割を担うバルブや継手を中心に、製造・販売している。
 
 
バルブは、配管内の流体(水・空気・ガスなど)を「通す」、「止める」、「流れを絞る」等の機能を持つ機器で、ビル・住宅設備用、給水設備用、上下水道用、消防設備用、機械・産業機器製造施設、化学・医薬・化成品製造施設、半導体製造施設、石油精製・コンビナート施設など様々な分野で使用されている。同社は国内外で「KITZ」ブランドを確立している世界有数のバルブメーカーであり、青黄銅製及びステンレス製バルブでは特に高いシェアを有する。また、鋳物からの一貫生産体制による製品づくりを進め、日本で最初に「国際品質保証規格ISO9001」の認証を取得。材質や弁種のラインナップを充実させ、建築設備や各種プラントだけでなく環境・エネルギー・半導体分野にも展開すると共に、グローバルコストの実現に向けて海外での生産拠点の強化にも取り組んでいる。尚、日本バルブ工業会によると、国内のバルブ生産額は08年度で3,545億円(同社の09年度:10/3期売上高は512億円)。
 
 
伸銅品事業
伸銅品とは、銅に亜鉛を加えた「黄銅」、すず及びりんを加えた「りん青銅」、ニッケル及び亜鉛を加えた「洋白」等の銅合金を、溶解、鋳造、圧延、引抜き、鍛造等の熱間または冷間の塑性加工によって、板、条、管、棒、線等の形状に加工した製品の総称。キッツグループの伸銅品事業は、黄銅製の材料を用いた「黄銅棒」を生産販売している。この黄銅棒は、バルブの部材を初め、水栓金具、ガス機器、家電などの部材として使用されている。
 
 
サービスその他の事業
総合スポーツクラブの経営(フィットネス事業)、ホテル・レストラン経営(ホテル事業)、及びガラス工芸品の販売を行っている。
 
 
(株)キッツウェルネス  総合スポーツクラブの経営
(株)ホテル紅や     ホテル及びレストラン経営
(株)諏訪ガラス工房   ガラス工芸品の販売
 
 
 
2010年3月期決算
 
 
減収・減益ながら予想を上回る着地
売上高は前期比24.0%減の965億92百万円。バルブの売上が国内外で減少した他、伸銅品の売上も大きく落ち込んだ。ただ、バルブ事業において原価低減や固定費の削減が進んだ事や工場の統廃合等による伸銅品事業の損益改善もあり営業利益は同3.0%の減少にとどまった。為替差損(1億12百万円)の計上等があったものの、金融収益の改善等により営業外損益はほぼ前期並みを維持したが、バルブの製造設備、フィットネス事業における経営不振店舗の設備、及び諏訪ガラスの里の店舗設備等の減損損失(11億74百万円)を中心に特別損失17億62百万円を計上したため当期純利益は同9.3%減少した。海外売上比率は0.4ポイント低下の20.9%。
 
 
 
バルブ事業
売上は第1四半期で概ね底打ちしたものの回復のペースは鈍く、国内外のほとんどの市場で売上が減少。営業利益は同14.8%減少した。ただ、原価低減や固定費の削減が進み、営業利益予想を期中に4度上方修正しており、最終的には4度目の修正値をも上回る着地となった。会社側では、原材料安、原価低減、費用削減(派遣請負作業料、給与賞与、支払手数料等)が損益改善要因となる一方、数量減、売価政策が損益悪化要因となったと説明している。また、09年12月にドイツのバルブメーカー ペリン社を買収。今後、ペリン社を通して石油精製や石油化学向けや欧州市場での拡販を図る考え。
 
伸銅品事業
需要の減少(黄銅棒市場が前期比12%減)に加え、銅相場が軟調に推移したため製品価格も下落した。ただ、工場の統廃合効果や材料価格差益(緩やかな価格上昇時に発生する)等で営業損益が黒字転換した。
 
サービスその他の事業
高速道路通行料金の週末の引き下げ等が追い風となりホテル事業の売上が増加した他、スポーツクラブの新店舗開設によりフィットネス事業の売上も増加。新店舗開設費用を増収効果で吸収して営業利益は同14.4%増加した。
 
 
需要の回復と商品価格の上昇で伸銅品事業の回復が続いている他、米国の落ち込みで第4四半期の売上が減少したバルブ事業も全体的には回復基調が続いている。サービスその他の事業も季節要因による変動があるものの総じて堅調に推移した。
 
(3)財政状態及びキャッシュ・フロー(CF)
独ペリン社の買収で無形固定資産が増加したものの、売上の減少に伴う運転資金の減少や有利子負債の削減を進めたため、期末総資産は975億33百万円と前期末比35億67百万円減少した。CFの面では、独ペリン社の買収で投資CFのマイナスが増加したものの、運転資金の減少等による営業CFの増加で吸収。前期は71億55百万円だったフリーCFが87億59百万円に増加した。
 
 
(4)トピックス
①ペリン社買収
買収の目的は、石油精製・石油化学プラントのプロセスラインで使用される商品ラインナップの拡充とメタルシート加工等を活用した技術や生産ノウハウの取り込み。今後、スペイン及び英国の子会社と共に、ペリン社が持つ販売ネットワークを活かして欧州域内のマーケティングを強化する考え。
 
②グループの伸銅品事業を担うキッツメタルワークスと京都ブラスの合併
需要の変動に柔軟に対応できる生産体制を構築すると共に生産性の向上を図るべく、両社を合併し生産工場を1ヶ所に集約した。この結果、10/3期の伸銅品事業は営業損益が大幅に改善し黒字転換した。
 
 
2011年3月期業績予想
 
 
前期比8.7%の増収ながら、経常利益はほぼ横ばい
売上高は前期比8.7%増の1,050億円。需要増加及び市況の回復によりバルブ事業及び伸銅品事業の売上が増加する他、サービスその他の事業も堅調に推移する見込み。利益面では、市況上昇による原料高や生産の回復による労務費の増加に加え、バルブ事業で売価政策費を織り込む一方、伸銅品事業で材料価格差益を見込んでいない事等から売上総利益率が低下し、営業利益は同1.1%減少する見込み。為替レートの前提は1ドル=90円、1ユーロ=130円、電気銅建値65万円/トン。配当は1株当たり7円を予定。
 
 
バルブ事業
海外を中心に売上高が前期比6.9%増加する見込み。国内は、半導体関連市場向けが市場の回復に伴い、大きく伸びる他、建築設備市場向けの増加も見込まれるが、石油精製・石油化学市場向けの苦戦や大型プロジェクト物件の落ち込みが響き微増にとどまる見込み。一方、海外は中東を含めたアジアで高い伸びが見込まれる他、ペリン社の買収効果で欧州向けも増加する。利益面では、原価低減効果、数量増効果が見込まれるものの、市況上昇による原料高や労務費の増加及びIT関連投資等による費用増が見込まれる他、売価政策(価格下落)を織り込んだ事もあり、営業利益は同2.0%の増加にとどまる見込み。
 
伸銅品事業
需要の増加と市況の上昇により売上高が前期比20.2%増加するものの、材料価格差益が無くなる事等で営業利益が同32.8%減少する見込み。
 
サービスその他の事業
高速料金引き下げ効果等が一巡するホテル事業の売上が減少する他、ガラス工芸品の販売もわずかに減少する見込みだが、前期に新規出店した店舗の寄与によるフィットネス事業の売上増で吸収。フィットネス事業の寄与で同16.6%の営業増益が見込まれる。
 
 
キッツグループ長期経営計画「KITZ Global Vision 2020」及び中期経営計画
 
同社グループは、21/3期(20年度)を最終とする長期経営計画「KITZ Global Vision 2020」及び13/3期(12年度)までの中期経営計画を策定した。
 
これまで、08/3期(07年度)に策定した「新Target2010」を進めてきたが、08年秋以降の全世界規模での急激な景気悪化を踏まえて再度企業戦略の吟味を行い、創立70周年に当たる2020年に向けた成長戦略を立案すると共に、この長期戦略に沿った具体的施策を織り込んだ中期計画を策定した。「真のグローバル企業への進化」を目標に掲げ、「真のグローバル化を実現し、企業価値を最大化すること」及び「強くて良い会社を実現すること」に邁進し、計画達成に向け全社一丸となって努力していく考え。
 
 
最終の12/3期に売上高1,357億円、営業利益100億円を目指す考え。戦略・施策として次の6項目を挙げている。
 
①海外
3極+2拠点(アジア・パシフィック、米州及び欧州の3極+中国及びインドの2拠点)を重点エリアとし、各地域に適した戦略を策定する。また平行して、販売、マーケティング、技術・開発、生産それぞれの機能を強化する。重点市場として、水・空調衛生(HVAC)・一般産業及び石油精製・石油化学・化学を挙げている。
②EPC(プラントエンジアリング会社)向け
日本、韓国、欧州、北米の重点顧客(EPC)をターゲットとし、石油精製・石油化学(Down Stream)・ガス分野でのシェア・アップを図る。このため、プロジェクトの引合から受注、出荷、メンテナンスまでの一貫体制を構築すると共に、プロジェクトマネジャー制の導入・構築やSE(サービスエンジニア)の育成にも取り組む。
③国内
石油精製・石油化学、機械装置、及びガス・電力や水処理等の環境関連市場をターゲットとし、戦略市場毎の製販技による攻略部隊を設置して圧倒的に効率化した受注体制を確立する。また、計装分野への対応力も強化する(オンオフ弁からラフコントロール弁へ)。
④成長市場への参入及びM&A
中国・インドなど成長が期待できる地域やガス・電力、エネルギー、水市場等の環境関連分野への取り組みを強化する。またM&Aでは、技術・開発、販売、生産の各機能や製品の品揃えを補完できるメーカー、或いは未参入またはシェアの低い市場を得意とするメーカーを対象とする。
⑤製品開発・新事業の創出
「バルブ」にとらわれない “発想の転換”により、環境重視型社会(低炭素社会)の到来に対応した製品開発及び新事業の創出に注力する。
⑥インフラを構築
組織人材、情報・経理システム等のインフラを構築し、グローバル化への対応と加速を図る。
 
(2)長期経営計画「KITZ Global Vision 2020」
21/3期(20年度)に売上高2,500億円、営業利益200億円を目指しており、海外売上高比率を50%に引き上げたい考え。また、有利子負債の削減(10/3期275億円→240億円)に努め自己資本比率を70%(10/3期54.3%)改善させると共に資本効率を改善させ10/3期には6%だった自己資本利益率を7%に引き上げる。
 
①コンセプト
「真のグローバル企業への進化」をスローガンとして掲げ、真のグローバル化の実現による企業価値の最大化と強くて良い会社の実現を目指す。
 
 
 
③セグメント別のコンセプトと基本方針
バルブ事業
「Global&Domestic」:ターゲットとした市場・エリアでシェアNo.1を目指す。基本方針として、①グローバルスタンダードに基づいた世界戦略製品・高付加価値製品の投入によるシェア拡大、②国内及び海外重点エリア3極+2拠点の各市場に適した戦略での市場深耕、を挙げている。
 
伸銅品事業
グローバル展開を視野に、徹底した効率化と新材料・新事業の開発により付加価値の拡大を図る。基本方針として、①海外展開(グローバル供給体制の確立)、②シェアの拡大とコスト低減(素材コストの引下げと業務効率の向上)、③新材料開発と新事業の立上げ、を挙げている。
 
サービスその他の事業
顧客目線に立ったきめ細やかで徹底したサービスを提供していく(“感動”の創出)。基本方針として、①健康社会・シルバー社会に対応した経営、②お客様に“感動”をお届けするサービスと快適な施設の提供、③顧客のグローバル化への対応の3点を挙げている。

この他、「真のグローバル化を実現するための人材の採用と育成」、「グローバル経営のためのインフラ整備(グループ各社の情報システム構築)」、「地球環境保全の向けたグループを挙げて環境経営の推進」、及び「CSRへの取り組み」により経営基盤の強化を図る。
 
 
取材を終えて
11/3期の業績は多分に保守的な面があり、特に利益面で物足りなさを感じた投資家が少なくないのではないか。しかし、長期経営計画及び中期経営計画のスタートの期であり、海外展開の強化に向けたコスト競争力の強化やグループ内インフラの整備に加え、国内における石油精製・石油化学、機械装置、更には環境関連市場等の開拓に向けた先行投資の期である。また、足下の受注は堅調で、本見積りが増えているが、売上計上までに時間を要する案件も多いと言う。このためモメンタムは悪くないが、各種施策の効果や事業環境の改善が売上・利益に反映されるには今しばらく時間が必要なようだ。今期は売上・利益の増減よりも、来期以降の国内外での事業拡大に向けた施策の進捗状況に注目すべきであろう。