ブリッジレポート
(5162) 株式会社朝日ラバー

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ブリッジレポート:(5162)朝日ラバー vol.12

(5162:JASDAQ) 朝日ラバー 企業HP
横山 林吉 社長
横山 林吉 社長

【ブリッジレポート vol.12】2010年3月期業績レポート
取材概要「医療機器の安定した収益と自動車関連を中心にした受注の回復により目先の業績不安が一掃されたため、今後、投資家の視点は中長期的な成長力へと移・・・」続きは本文をご覧ください。
2010年6月1日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社朝日ラバー
社長
横山 林吉
所在地
埼玉県さいたま市大宮区土手町2-7-2
決算期
3月 末日
業種
ゴム製品(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2010年3月 4,667 125 91 41
2009年3月 4,904 46 14 -80
2008年3月 6,284 414 325 211
2007年3月 5,314 399 375 176
2006年3月 4,578 366 353 209
2005年3月 4,057 251 251 147
2004年3月 3,449 233 211 112
2003年3月 3,154 172 159 75
2002年3月 2,907 98 85 10
2001年3月 3,582 315 336 189
2000年3月 3,140 313 300 141
株式情報(5/19現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
298円 4,550,590株 1,356百万円 1.5% 500株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
8.00円 2.7% 16.61円 17.9倍 628.64円 0.5倍
※株価は5/19終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。
 
朝日ラバーの2010年3月期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
小型電球やLEDに被せる事で様々な発色を可能にする被覆用ゴム製品を主力とする。自動車の内装用照明の他、携帯用通信機器、電子・電気機器、産業機器、文房具用・スポーツ用等、幅広い分野で利用されている。シリコーン材料の配合技術と調色技術に強みを有し、例えば、シリコーンゴムに蛍光体を配合したLED用ゴムキャップは、LEDの光を波長変換して色調や輝度を調節できるため、1万色以上の光を出す事やLEDの光のばらつきを均一化する事ができる。また、医療・衛生用ゴム製品や硬質ゴムと軟質ゴムの複合製品等も配合技術を活かした製品である。
グループは、同社の他、ゴム・プラスチック等の研究開発を行う(株)ファインラバー研究所、米国の販売会社ARI International Corp.、及び中国・東莞市に工場(来料加工工場)を持つ朝日橡膠(香港)有限公司の連結子会社3社からなる。
 
<事業内容と主要製品>
事業は、自動車の内装照明の光源向けの「ASA COLOR LED」や各種センサ向けのレンズ製品「ASA COLOR LENS」、或いは弱電製品に使われる応用製品等の工業用ゴム事業、点滴輸液バッグ用ゴム栓や真空採血管用ゴム栓等の医療・衛生用ゴム事業に分かれる。 10/3期の売上構成比は、それぞれ、83.4%、16.6%。
工業用ゴム事業は、更に自動車の内装照明の光源向けが中心の彩色用ゴム製品(売上構成比47.5%)、情報通信向けが多い弱電用高精密ゴム製品(同 11.5%)、卓球のラケット用ラバー等のスポーツ用ゴム製品(同 9.8%)、その他工業用ゴム製品(同 14.6%)に分かれる。
 
 
2010年3月期決算
 
 
減収ながら、経常利益が6.5倍に拡大
売上高は前期比4.8%減の4,667百万円。ただ、第2四半期に入り、自動車関連製品を中心に受注が回復、下期は前年同期比で増収に転じた。利益面では原価低減策が奏功し売上総利益率が3.1ポイント改善。人件費の正常化(経営合理化策の一部解除)等で販管費が増加したものの、売上の増加と売上総利益率の改善が相まって営業利益は同2.7倍に拡大。最終損益も黒字転換した。当初、無配としていた配当予想を修正し、1株当たり5円の期末配当を実施する考え。
 
 
第3四半期は経営合理化策を一部解除したため営業利益が減少したが、第4四半期は生産性の向上で吸収した。
 
 
工業用ゴム事業
売上高は前期比5.3%減の3,895百万円、営業利益は同37.6%増の199百万円。製品別の動向は次の通り。
 
彩色用ゴム製品
彩色用ゴム製品全体の売上高は前期比7.9%減の2,218百万円。このうち、「ASA COLOR LED」は1,709百万円と同5.5%減少したが、第2四半期に入り受注が回復し、足下、堅調に推移している。自動車の他、情報通信機器等でも使われる「ASA COLOR LENS」は同19.1%減の142百万円。車載機器の光源のLED化の進展及び自動車生産の減少により「ASA COLOR LAMPCAP」も282百万円と同11.9%減少した。
 
弱電用高精密ゴム製品
売上高は前期比29.2%減の534百万円。顧客の仕様変更により液晶テレビのバックライト用ホルダー製品が大きく減少した他、自動車関連製品や情報通信向けも減少した。
 
スポーツ用ゴム製品
北京オリンピック向けに開発・投入した新製品の販売好調が続いており、売上高は前期比17.1%増の459百万円。
 
その他の工業用ゴム製品
売上高は前期比22.6%増の682百万円。自動車関連製品が増加した他、RFID向けゴム製品も増収に寄与した(売上高78百万円)。RFID向けゴム製品とは、RFID向けのシリコーンゴム製半導体保護用ゴム製品。ゴムならではの弾力性と防水性の機能を持ち、同社独自の表面改質技術により実現した無溶剤接着も特徴(接着剤のように経年変化で接着力が落ちる事が無い)。
 
医療・衛生用ゴム事業
売上高は前期比2.4%減の772百万円、営業利益は同3.9%減の89百万円。得意先の在庫調整の影響等により衛生用ゴム製品の売上高が43百万円と同35.1%減少したものの、点滴輸液バッグ用ゴム栓や真空採血管用ゴム栓といったディスポーザブル用ゴム製品等の医療用ゴム製品の売上高は729百万円と同0.6%増加した。
 
 
 
自動車関連製品の回復でARI International Corp.の利益が増加したものの、(株)ファインラバー研究所は、人員の配置転換や研究費削減等の影響で研究収入が減少。朝日橡膠(香港)有限公司は液晶テレビのバックライト用ホルダー製品の減少が響き経常損失となった。
 
(3)財政状態及びキャッシュ・フロー(CF)
期末総資産は前期末比958百万円増の7,488千百万円。受注・売上の回復で運転資金が増加したため、借入金を積み増した。CFの面では、運転資金の増加で営業CFが減少したものの、設備投資を抑制した事で前期を上回るフリーCFを確保。借入金を積み増した事で財務CFも黒字となった。
 
 
 
2011年3月期業績予想
 
(1)事業環境
自動車関連は価格の下げ圧力が厳しいものの、足下の受注は堅調。エコカー減税が終わる9月以降に不透明感があるが、新規車種向けの寄与もあり期を通して増加傾向が続く見込み。情報通信も価格の下げ圧力が厳しいが、海外向けを中心に受注は回復傾向にある。また、医療介護向けは景気の影響を受け難い上、特に付加価値製品や医療現場の安全性に関わる製品は引き続き高い伸びが見込まれる。この他、一般照明LED化の進展により市場が急拡大しているが、明るさの向上と低価格化要求が厳しさを増している。このため、同社は店舗や施設の照明向けにターゲットを絞って事業展開を進めていく考え。
 
 
前期比9.9%の増収、同62.8%の経常増益予想
第二福島工場の増築効果と下期以降の新製品の寄与が見込まれる医療用ゴム製品を中心に医療・衛生用ゴム事業の売上が伸びる他、自動車向けやRFID向けを中心に工業用ゴム事業の売上も増加する。利益面では、一段と原価低減が進み売上総利益率が2.3ポイント改善、人件費や研究開発費等の増加を吸収して営業利益は同83.1%増加する見込み。
配当は、1株当たり上期末3円、期末5円の年8円を予定(年3円の増配)。
 
 
自動車向け「ASA COLOR LED」を中心に彩色用ゴム製品の売上が増加する他、各種パッキンに使われるOリングやスイッチ用ゴム等を中心に弱電用高精密ゴム製品も復調。また、RFID向けの寄与でその他工業用ゴム製品の売上が大きく伸びる他、引き続きスポーツ用ゴム製品も堅調に推移する見込み。
 
 
2011年3月以降の成長戦略
 
カーライフ、ITネットワーク、及びヒューマンライフの3分野にフォーカスして、同社のコア技術である、①色と光のコントロール技術、②表面改質技術及びマイクロ加工技術③素材変性技術を活かした差別化戦略を進めていく。
 
 
①色と光のコントロール技術
色と光のコントロール技術は色調管理と光学設計に分かれ、色調管理はシリコーンゴムに着色剤や蛍光体を配合し、様々な色と光を生み出す技術。ばらつきを調整し、顧客の望む細かい色調を実現する。また、光学設計は透明なシリコーン樹脂を材料として集光・拡散といったレンズ機能を実現する(耐熱性、対紫外線性にも優れる)。
 
 
②表面改質及びマイクロ加工技術
表面改質の一例として、無溶剤接着を挙げる事ができる。接着剤を使わずに、ゴムとゴム、ゴムと金属、或いは、ゴムと樹脂を接着させる技術で、接着させる表面を改質処理し、化学反応で結合させる。耐熱性、耐水性に優れる上、有害な溶剤の廃棄処理も不要。この技術を活かしたRFID向けのゴム製品の量産を開始した。
また、同社は、ミリ単位からミクロン単位の表面加工を行うマイクロ加工技術を確立しており、例えば、医療用ゴム製品である薬液混注ゴム栓の薬液注入ロの形成と薬液漏れの防止や、二次電池の内圧管理等で技術が用いられている。
 
③素材変性技術(ナノ・分子レベルの加硫配合)
ゴムをはじめとするソフトマテリアルは、素材に添加物を配合する事で特定の機能を持たせる事ができ、ナノ・分子レベルでの成形により、その機能をパワーアップする事もできる。
この技術を用いたラバーファントムは、電磁波・電波が人のまわりでどのように広がるかを測定する人体モデルであり、人間と同じ電気特性を有する。また、サポラスは化学発泡剤を使わずに衝撃吸収性を持たせ、軽く、通気性に優れた新しいタイプの発泡体。健康や介護・スポーツ向けに採用されている。
 
 
(1)LED事業 照明分野を強化
これまでは自動車内装照明向けをターゲットとしてきたため、顧客のニーズは「色調ばらつきの低減」であり、同社は色と光のコントロール技術を生かし、色調ばらつきを抑える事で評価を得てきた。一方、今後の注力分野である一般照明及び特殊照明向けでは、色調ばらつきの狭小化、明るさ、演色性、価格等において、電球や蛍光灯等の従来照明と同低度の水準が求められ、これまで以上にハードルが高くなる。このため、同社では、更なる色調ばらつきの狭小化や歩留り改善で低価格化を進めるべく、蓄積してきた「蛍光体を扱う技術」の応用展開を図ると共にゴムキャップ方式ではない新方式の開発を進めている(現在、検証段階にある)。技術の優位性で差別化が難しく、価格競争も激しい一般照明分野ではなく、演色性の個別ニーズを求める特殊照明分野(メーカー)での事業展開を進めていく考え。
 
(2)医療製品
表面改質技術の応用展開と増築で生産スペースが1.5倍に拡張される第二福島工場の生産力を活かし、13/3期に売上高1,200億円を目指す(10/3期729百万円→11/3期842百万円)。
 
(3)中国事業
中国の“生産基地から市場”への流れに対応し、「日本から発注して日本に納品する」ビジネスモデルから「中国で受注・生産し、中国のメーカーに納品する」ビジネスモデルへのシフトを進める。取り扱う製品群としては、自動車・情報通信関連の高機能ゴム製品(弱電用高精密ゴム製品)を想定しており、営業、見積り、設計、金型手配、生産の一気通貫体制の確立を目指す。
 
 
取材を終えて
医療機器の安定した収益と自動車関連を中心にした受注の回復により目先の業績不安が一掃されたため、今後、投資家の視点は中長期的な成長力へと移っていく。自動車、弱電製品、情報機器、医療機器といった分野で事業展開してきた同社の技術は、「自動車の環境」、「自動車の安全・利便性」、「地球環境への寄与」、更には「人間の生命への寄与」と言った今後の成長が期待できる分野で応用する余地が大きく、また、これまで活動が限定的だっただけに中国拠点の伸び白も大きい。決算説明会では、こうした強みを踏まえて「2011年3月以降の成長戦略」が示されたが、時間軸でもその成果が問われるため、向こう2~3年が勝負になると思われる。各施策の進捗に注目したい。