ブリッジレポート
(2468) 株式会社フュートレック

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ブリッジレポート:(2468)フュートレック vol.12

(2468:東証マザーズ) フュートレック 企業HP
藤木 英幸 社長
藤木 英幸 社長

【ブリッジレポート vol.12】2010年3月期上期業績レポート
取材概要「米グーグルの日本法人が、同社の基本ソフト(OS)「アンドロイド」を搭載した携帯と米アップル製の「iPhone(アイフォーン)」向けに、音声入力・・・」続きは本文をご覧ください。
2009年12月29日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社フュートレック
社長
藤木 英幸
所在地
大阪市淀川区西中島 6-1-1
決算期
3月 末日
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2009年3月 1,777 404 415 221
2008年3月 1,598 264 277 159
2007年3月 1,253 249 256 162
2006年3月 1,443 173 165 99
2005年3月 1,059 69 79 33
2004年3月 907 9 6 -1
2003年3月 736 12 12 3
2002年3月 435 17 34 29
株式情報(12/7現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
119,900円 46,564株 5,583百万円 10.8% 1株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
1,850.00円 1.5% 6,442.75円 18.6倍 48,090.46円 2.5倍
※株価は12/7終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。
※予想は会社予想。09年10月、1株を2株に分割。
 
フュートレックの2010年3月期上期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
携帯電話用音源IPライセンス事業を中心に、分散音声認識技術を用いた音声認識事業、車載用ソフトウエアの受託開発、各種センサー等の受託開発、及びカード事業を手掛けている。音源とは、あらゆる楽器の音色を再現できる電子音再生装置で、携帯電話用音源IPライセンス事業では、音源LSI(電子音再生LSI)の開発・販売を行なっているが、LSIを製造して売るのではなく、LSIの設計データとそのLSIを駆動させるためのソフトウエア(組込ソフトウエア)を知的財産権化(IP化)して販売している。

LSIの設計やセンサーの受託開発からスタートした同社だが、ソフト音源や分散音声認識技術などソフトウエア分野へ活動範囲を広げており、既に、ソフトウエア技術をベースにした音声認識システムに関する売上が連結売上高の1/3を占めている。中期的にはハード・ソフトの技術をベースにサービス分野を強化する事で、「技術開発型会社」から「技術開発型サービス会社」へと業態を進化させていく考え。
 
<事業セグメント>
単一セグメントであるが事業部制を敷いており、音源事業及び車載用ソフトウエア受託開発の第1事業部、センサー等の開発を行なっている受託開発事業とメモリーカードへの書き込みを行なうカード事業の第2事業部、音声認識事業の第3事業部に分かれる。09/3期の売上構成比は、それぞれ51.3%、14.5%、34.1%。更に、10/3期から第4事業部として、UI(ユーザーインターフェイス)ソリューション事業を開始した。
 
第1事業部 携帯電話音源IPライセンス事業、車載用ソフトウエアの受託開発
第2事業部 付加価値のある受託開発、新規IP開発、英語リスニング模擬試験用メモリーカード書込
第3事業部 音声認識ソフトウエアの開発
第4事業部 「使いかたナビ®」及びその検索技術の提供、UI関連開発
 
<企業グループ>
同社のほか連結子会社として、音声認識ソフトウエア開発や音声認識サービスを提供する(株)ATR-Trek(事業区分は 第3事業部)がある。車載用ソフトウエア受託開発の(株)シンフォニック(同 第1事業部)は12月25日をもって、(株)フュートレックが吸収合併。
 
<事業紹介>
事業セグメントの中で、足元、順調に事業が拡大している「音声認識事業」および「UIソリューション事業」について概要を紹介する。
 
【音声認識事業】
音声認識とは、機器に向かって音声で入力すると、様々な発音・声質から言葉を聞き分け、語彙を特定し、文字等に変換するものである。携帯電話では既に音声翻訳サービスおよび音声入力メールサービスが提供されている。今後は、携帯電話に話しかけるだけで携帯電話の操作ができるなど、様々なサービスの実現が期待されている。
 
(1)分散型音声認識方式
同社の音声認識では、分散型音声認識方式を採用しており、携帯電話内で特徴量を抽出し、外部のサーバを使用して認識を行なう。このため、データベースが豊富で正確な認識が可能。
 
 
(2)音声認識収益の3本の柱
フロントエンドエンジンの販売に加え、バックエンドシステムの販売や自社でのコンテンツプロバイダ事業の展開によって収益を追求していく。
 
 
(3)音声認識事業の特徴
パラレルデコーディング技術
ATR((株)国際電気通信基礎技術研究所)の開発実績に基づく音声認識エンジンは、話し声を複数の認識機に同時に入力し、その中から最善の結果のものを選ぶ事ができる。複数の認識機は、複数の話す早さ、複数の話者年齢、性別、ノイズの大小など様々な組合せが可能で、使う人の違いや、ノイズ環境の違いがあっても、常に正確な認識を行う事が可能。
ノイズリダクション
周辺の音をどれだけカットできるかで、雑踏でどれだけ使えるか(実用度)が決まる。同社の音声認識は、ATRの高性能ノイズリダクション技術を採用しており、極めて実用性が高い。
 
(4)音声認識技術を使ったサービス
 
 
ポイント
LSR搭載により固有名詞の認識が可能。イントネーションを気にせず、自然なスピードで会話できる。
 
料金
月額利用料 200円

・事前申し込みが必要
・30日間は無料
 
【UIソリューション事業】
予想以上に順調な立ち上がりとなった「使いかたナビ®」とは、多機能な電化製品を使いこなすために開発された電子ヘルプ機能。例えば、使いたい機能の名前がわからない場合でも、思いついた言葉で検索ができ、操作を説明する画面まで導いてくれる。
 
 
従来、同社の業務領域でなかった「家電業界進出への足がかり」と捉えており、音声入力による検索等、同社の持つ音声認識技術との融合により、新しいタイプの電子ヘルプ機能の創造を目指している。
 
※ 「使いかたナビ®」の検索の仕組み
 
2010年3月期上期決算
 
 
音声認識ビジネスとUIソリューションの好調で業績上振れ
売上高は前年同期比9.3%増の972百万円。音源事業が携帯電話販売の伸び悩みの影響を受けたほか、自動車関連も苦戦したが、音声認識事業と新たにスタートしたUIソリューション事業の好調で期初予想を上回った。
営業利益は同45.0%増の254百万円。新規事業の順調な立ち上がりもあり、ほぼ前年同期並みの売上総利益率を維持している。
 
 
第1事業部(音源事業)
音源IP販売の対価は、初期特許料としてのイニシャルフィー、実装設計や改修に伴うカスタマイズ、及び端末生産1台あたりの利用料としてのランニングロイヤルティの3種類に分かれ、携帯キャリア、携帯端末メーカー、及び半導体ベンダーから受け取る。この上期は、割賦販売方式導入による買い替えサイクルの長期化や国内消費低迷による携帯電話販売の伸び悩みが前年に引き続いて影響し、ランニングロイヤルティ収入が減少した。
 
第2事業部(受託開発・カード事業)
同社において受託開発事業は、受託開発を行ないながら新規IPや事業の種を見つけるための研究開発事業と位置付けている。また、カード事業では、英語リスニング模擬試験用メモリーカード等の書き込みを行っている。
この上期は、受託開発が39百万円(同64百万円減)、カード事業が前年同期並みの61百万円。カード部門はほぼ計画通りの推移となったものの、受託開発は主要取引先である自動車業界の低迷をうけて売上が減少した。
 
第3事業部(音声認識事業)
実装設計や改修に伴うカスタマイズ収入や端末生産1台あたりの利用料としてのランニングロイヤルティ収入が順調に推移。ランニングロイヤルティ収入は第1四半期から携帯電話向けに新しいハイブリッド型音声認識エンジン(従来のサーバでの認識に加えて、携帯電話内での認識も可能で、アドレス帳や登録辞書から固有名詞も認識できる)がNTTドコモに採用され、端末に搭載された事による。
 
第4事業部(UIソリューション事業)
(株)カナックからライセンス供与を受け、今期より電子ヘルプ機能「使いかたナビ®」およびその検索技術の提供を行っている。2009年NTTドコモ冬春モデルから搭載を開始し、イニシャルフィーが計上された。今後はランニングロイヤルティ収入が計上される。
 
(3)財政状態及びキャッシュ・フロー(CF)
上期末総資産は前期末比103百万円増の2,524百万円。事業が順調に拡大した事で売上債権、仕入債務、純資産が増加した。また、無借金の健全経営が続いている。フリーCFは76百万円の黒字。無形固定資産の取得で投資CFのマイナス幅が拡大したものの、利益の増加による営業CFの増加で吸収した。
 
 
 
2010年3月期業績予想
 
 
通期の業績予想に変更は無く、前期比6.9%の増収、同20.4%の経常増益
研究開発や増員による費用の増加に加え、関連子会社の業績推移及び携帯電話を取巻く環境の変化など不安定要素があるとして、通期の業績予想を据え置いた。
音源事業ではロイヤルティが伸び悩み、受託開発事業でも苦戦が続くものの、UIソリューション事業が順調に拡大する他、音声認識事業もランニングロイヤルティ収入を中心に堅調に推移する。利益面では、収益性が一段と改善し、営業利益率が3.6ポイント上昇する見込み。上期の進捗率は売上高が51.1%、営業利益が50.8%、経常利益が52.0%。
配当は1株当たり1,850円の期末配当を予定。(9月末を権利確定日として1株を2株に分割した結果、前年度に比べ実質的に1株当たり1,000円増加する。)
 
 
音源事業では音源搭載台数を前期比横ばいと想定。受託開発事業は引き続き厳しい事業環境が予想されるものの、カード事業は堅調に推移する見込み。音声認識事業は「使いかたナビ®」との融合を含め、新技術の研究開発を進めていく。UIソリューションは、ロイヤルティ収入の増加で下期も順調な推移が見込まれる。
 
 
フュートレックの目指す方向性と成長戦略
 
高付加価値化を実現するビジネス展開を図ると共に、その時代に求められる新たな商品やサービスを追求し、継続的に発展していく会社を目指す。
 
 
(1)高付加価値化の実現
依存度は年々低下しているものの、同社の主力事業は依然として音源事業である。音源事業の売上は携帯電話の出荷台数にほぼ比例するが、国内の携帯電話市場は飽和状態にある上、販売方式の変更に加え、景況感悪化の影響もあり厳しい販売環境が続いている。景気回復による携帯電話販売の回復が待たれるのはもちろんだが、新たな技術の開発やサービスの提供により付加価値の向上を図り、端末1台当たりの単価アップに取り組んでいく。
 
 
(2)新業界への進出
常にチャレンジを続ける姿勢をもって、新しい業界への進出をめざす。
 
 
<フュートレックの見えない資産(同社資料より)
①絶えず新しいものを探求し、技術革新を行うスピリット。
優れたもの、楽しいものを生み出そうと、常にチャレンジを続ける姿勢。
および、それを実行できる人材。
②着実な成長を続ける。
確実にできることで収益を上げ、その一部を投資に回すという堅実な経営。
現在、有利子負債ゼロの無借金経営をしています。
この姿勢は、各ステークホルダーとの信頼関係につながっています。
③事業の成長性を見極め、次の種に投資する。
事業の成長性はいつまで持続するのか、それがなくなったらどうするのか・・を常に考えて、あらかじめ次の種を準備しておく。
④国内大手企業との取引。
フュートレックのお取引先はNTTドコモをはじめ、NECエレクトロニクス、デンソーなど国内のトップメーカー。
 
 
取材を終えて
米グーグルの日本法人が、同社の基本ソフト(OS)「アンドロイド」を搭載した携帯と米アップル製の「iPhone(アイフォーン)」向けに、音声入力で言葉の意味や住所等を検索できる携帯電話向けのサービスを始めた。音声入力でのWeb検索に加え、地図や電車の乗り換え案内等も調べる事ができると言う。
こうしたリリースに限らず、音声認識に対する世間の認知度や関心度合いは今後も益々高まることが予想される。音声認識技術の開発・実用化にこれまでも着実に取組み、その技術力について高い評価を得ている同社にとっては、大きなフォローとなるだろう。
上期の業績が上振れしたにもかかわらず、通期の業績予想は据え置かれたが、特に不安材料があるわけではなく、「ランニングロイヤルティが読みにくい」というのがその理由のようだ。このため、通期業績の上振れ余地は大きいと考える。
確実にできる事で収益を上げ、その一部を投資に回すという堅実な経営と有利子負債に依存しない健全な経営により、上場以来、増収・増益を続けている(07/3期はカード事業の売上計上方法の変更となり減収となったが、実質的には増収)同社への信任は厚い。更なる発展に期待したい。
※「使いかたナビ®」は株式会社カナックの登録商標です。