ブリッジレポート
(4955) アグロ カネショウ株式会社

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ブリッジレポート:(4955)アグロ カネショウ vol.9

(4955)アグロ カネショウ/櫛引博敬社長
2003年8月11日(月)


アグロ カネショウの中間決算説明会に出席しました。 古内常務、井上取締役、栗山取締役がお話になりました。

 



櫛引 博敬社長


日本の農薬市場の概要&日本の農業の概要

日本の農薬市場では以下の2点が特徴的な傾向となっています。

・外資系企業の攻勢
「シンジェンタがトモノアグリカを100%子会社化」、「アベンティスが塩野義製薬の農薬事業を買収」など外資系企業がM&Aを積極的に行い、日本市場に参入しています。 世界の大手企業で日本において直販を行っていないのはデュポンのみという状況になっています。

・日本企業の撤退
その一方で、「平成13年 中外製薬、塩野義製薬が撤退」、「平成14年 武田は住化武田農薬を設立し、5年後に住化に株式譲渡の予定。三菱化学は農薬事業を日本農薬に売却。宇部興産は昭和電工子会社に売却」、「平成15年 三共は野洲川工場を閉鎖し、アグリ事業の分社化を予定」といったように、日本企業の撤退が続いています。

農薬出荷金額は2001年3820億円が、2002年3353億円と頭打ちとなり、特に水稲用の減少が顕著です。こうした中、外資系企業のM&Aを中心に業界の再編が進んでおり、農薬工業会の正会員社数は減少しています。

一方、日本の農業の現状を、作付け面積の10年前との変化を見てみると、穀物・イモ類 -18%、主要果樹 -16%、主要野菜 -15%、その他の作物 -36%と軒並み縮小しています。(それぞれの個別作物の内訳、バランスはそう変わっていません)

このように、事業環境は決して良好とはいえませんが、今後の展開として「果樹、野菜、花に重点を置き、独自品の開発を進め、地域・顧客との密着をより進める」ことで、現状を打破していきたいと考えています。

 

平成15年6月中間期決算実績

(単位:100万円)
実績
構成比
対前年同期比
売上高
4,432
100.0%
-6.3%
売上総利益
1,766
40.3%
-11.6%
営業利益
206
4.6%
-53.6%
経常利益
218
4.9%
-52.4%
当期純利益
90
2.0%
-74.3%

品目別売上を見ると、害虫防除剤のカネマイトフロアブル -209百万円、マリックス剤 -121百万円、除草剤カソロン剤 -61百万円など、40品目が前年比マイナスになりました。害虫防除剤アルバリン +184百万円、病害防除剤バスアミド +11百万円など34品目がプラスとなりましたが、全般に渡り低調でした。
輸出は、韓国向けが+46百万円など、合計1.5億円(前年同期1億円)と好調でした。

売上総利益率は、好採算品の売上減少、競争による売価低下、原材料価格のアップなどで前年同期の42.7%から2.4%低下しました。
販売管理費は、ほぼ横這いとすることができました。

また、特別損益では、前年同期にあった特別利益(受取補償金)56百万円がなくなった一方で、特別損失として前年同様に退職給付引当金繰入 33百万円に加え、投資有価証券評価損 38百万円も計上しています。

 

平成15年12月期決算見通し

(単位:100万円)
実績
構成比
対前年同期比
売上高
7,100
100.0%
-8.9%
売上総利益
2,869
40.4%
-11.3%
営業利益
-374
-5.3%
-487百万円
経常利益
-350
-4.9%
-500百万円
当期純利益
-500
-7.0%
-541百万円

害虫防除剤アルバリンが+359百万円、除草剤モゲトンが+22百万円とプラスの予想ですが、カネマイトフロアブル -352百万円、上期はプラスだったバスアミドが通期では-142百万円となるなど、厳しい状況を予想しています。
経費削減努力による損失の圧縮を図りつつ、経営全般の合理化、効率化を進め、全社を挙げて収益の改善に努力する考えです。

 

今後の取り組み

以下の5つの重点施策を推進していきます。

1.トライアングル作戦
同社、販売店・JA、農家の3者の関係を従来の同社と会員店・JA、同社と農家のつながりから、3者相互のコミュニケーションをつなげることにより、今まで以上に顧客ニーズの機動的・迅速な収集、活用が可能となることを目指します。
このための体制として、本社のほか8支店、8営業所を全国に配置し、76名のTCA担当者(営業技術普及担当者)が各担当地域をカバーし、農家、会員店、JA等と日々コミュニケーションを密に営業活動を行っています。

2.海外展開
主力のダニ剤であるカネマイトは、現在韓国、台湾向けに輸出が始まっています。
またアメリカでは、今年末から来年初めにかけて登録が認可される見込です。
ヨーロッパでは、オランダのバラ向けを中心に販売していく考えです。
また今年度登録認可予定の南米ではコロンビアがバラの栽培で世界第2位であることから、ここもバラ向けの出荷に期待しています。
ダニ剤の世界マーケットは約500億円。日本130億円、ヨーロッパ150億円、アメリカ100億円などとなっています。同社では、ヨーロッパ向け10億円、アメリカ向け10億円を目標とし、現在2%の海外売上比率をカネマイトフロアブルの拡大によって近いうちに10%まで高め、新たなダニ剤の投入などで更にこの比率を引き上げたいと考えています。

3.適用作物の拡大
農薬は、その対象となる病害虫、対象作物に関して無制限に使用できるものではなく、農薬登録制度によってその対象病害虫、対象作物等が細かく規制されています。
ただ、その対象病害虫、対象作物は「適用拡大」の申請を行うことにより広げることが出来ます。この適用拡大により、販売対象が広がり売上増を期待することができます。

4.M&A
まだ大規模なM&Aの実績はありませんが、時代の流れとして機会があれば取り組む方向で、常に外への情報収集のアンテナは高く掲げています。
最近のM&Aの実績としては、「菱陽商事からの営業の一部譲受け」(平成15年4月)があります。
菱陽商事は、同社の取り扱っていたサンキャッチ、ハイタック、フルハート等の植物調整剤の製造元でしたが、菱陽商事の「経営資源のコア事業への集中化」という目的と、同社の「植物調整剤の更なる充実と経営改善」という目的が合致し、実現したものです。

5.事業特化の推進
資本の効率的な活用と農業の概要、農薬市場を考慮して、以下の3つの方向に特化して行く方針です。

(1) 土壌病害虫防除剤への特化
土壌病害虫防除剤の分野は需要が拡大する分野でもあることから、開発の重点分野としています。バスアミド、アルバリンに続く剤として「AKD-3088」の開発を進めています。

(2) ダニ剤への特化
創業以来得意としてきた分野であり、現在のカネマイトフロアブルに次ぐ、「AKD-1102」および、それに次ぐ新剤の開発を進めています。

(3) 生物農薬への特化
今後期待される分野です。2002年7月に三井物産と合弁でセルティス ジャパンを設立し、BT剤、フェロモン剤の販売を開始し、生物農薬部門の強化を図りました。

「有力新製品上市の見通し 」
現在、大型の新剤の開発を2剤並行で進めています。
コードネーム「AKD-3088」
カネマイトフロアブルに次ぐ、自社開発大型剤。
10億円の開発費をかけ平成16年申請、平成17年の登録取得を予定しています。
年商20億円程度を見込んでいます。

コードネーム「AKD-1102」
2つ目の事業特化方針にあった果樹・園芸用の新ダニ剤です。
最大の特徴は抵抗性(続けて何度も使うと効果がなくなる現象)がつきにくく、商品寿命が長いことです。
平成18年申請、平成19年頃の登録取得を見込んでいます。
これも年商20億円程度を見込んでいます。

「新薬販売までのスケジュールとコスト」
新規の薬剤が開発されてから実際に農薬として監督官庁の認可を得て、販売にいたるまで最短でも約8年以上の年月がかかります。
主要な開発費用でも、安全性・環境影響試験を主体に15億円以上の費用がかかります。これは日本国内だけを対象とした場合で、国が異なると別途費用がかかります。

「生物農薬への対応」
2002年7月に三井物産とともに、生物農薬を主体として取り扱う会社、セルティス ジャパン株式会社を設立しました。
資本金5000万円で、三井物産、同社がそれぞれ50%出資しています。

現在、世界的に「化学農薬、生物農薬双方をうまく組み合わせて使う」総合病害虫防除という考え方が浸透してきたことと、有機農作物指向の高まりで生物農薬の果たす役割が増加してきています。
また、従来に比べ生物農薬が使いやすくなってきたこと、価格が低下してきたことに加え、効果を化学農薬と比較すると以前は100:50だったのが、100:70~80へと向上してきたことも生物農薬に注目が集まっている大きな要因です。

当面の取扱商品は微生物を利用した害虫防除剤であるBT剤で、米国のセルティス USAから輸入、販売することとします。農薬市場への販売は同社が行います。BT剤については、第1船が今年1月に到着し営業が本格化してきています。
将来的には三井物産の世界に張り巡らした情報網も利用し、新規に微生物を利用した病害虫防除剤、植物由来の病害虫防除剤等を開発してゆくことを目指しています。

生物農薬の市場規模
国内市場: 果樹・野菜の園芸分野で30億円(園芸農薬の約2%)
世界市場: 果樹・野菜の園芸分野で500億円(園芸分野の約5%)
近い将来この市場規模は、国内150億円(同比率は10%)、世界1,500億円(同比率15%)になると予想されています。

 

無登録農薬問題
最後に栗山取締役が、昨年起きた無登録農薬問題に対する同社の考え方をお話になりました。事件の経緯は前回のレポートにゆずりますが、この事件を契機に、今までは取り締まりの対象外だった、無登録農薬を使用した農家に対しても新たな罰則を設けるなど、規制が強化されたことが大きなポイントです。
この事件後同社は顧客である農家に考え方、意見を聞いてみると、大多数の農家は、これからは自分で考え自分で責任を持って農薬を使っていかなければならず、そのためにはしっかりと、ひざ詰めでアドバイスしてもらえる農薬メーカーと付き合っていく必要性を強く感じているということです。(もちろん一部には、これまでと変わらずメーカーの言うままに農薬を使うが、それで何か起きても責任は自分にはないと考える農家もいるようです。)

同社としては、こうした真面目な農家に今まで以上に良い製品を供給していく責任を強く感じています。

また、一方で消費者には果物、野菜の正しく美味しい食べ方を知ってもらいたいと考えています。美味しい食べ方を知ることで、野菜、果物に対する関心が高まり、そうした美味しい野菜、果物を安定的に供給する上で農薬がいかに必要かという理解を深めることにつながると考えているからです。

同社を取り巻く環境は厳しいものがありますが、農家、消費者の正しい理解を得た上で、事業成績を向上させていきたいと考えています。

 

取材を終えて

説明の最後に、配当に関する考え方を古内常務が説明されました。
配当は年間20円を継続したいと考えています。今期は通期で赤字にはなりますが、その要因は把握できており、黒字に転換する道筋は見えているため、安定した配当政策の継続を第一義に考えていきたいということでした。

栗山取締役のお話にもあったように、真面目な農家、真剣な農家としっかりと付き合っていきたいという同社の「顧客密着主義」は他社にはない同社ならではの経営ビジョンです。カネマイトフロアブルの海外展開、生物農薬の拡大なども合わせて引き続き注目していきたいと思います。