ブリッジレポート
(4955) アグロ カネショウ株式会社

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ブリッジレポート:(4955)アグロ カネショウ vol.5

(4955)アグロ カネショウ/櫛引 博敬社長
2002年6月22日(土)

当日開催されたブリッジサロンにおけるアグロ カネショウ 櫛引社長の個人投資家へのメッセージをお伝えします。


櫛引博敬社長

企業概況

上場の目的&企業概要
同社は農薬専業メーカーで、2000年9月7日に東証2部に農薬会社としては40年ぶりの上場を行いました。
同社事業の成長速度は穏やかであり、多額の外部調達を必要とする資金需要は当面生じないため、上場を単に資金調達機会の拡大の手段と考えるならば、その必要はなかったかもしれませんが、同社では上場の目的を、「会社の認知度を高めより正しく理解してもらい、さらには誤ったイメージで捉えられている農薬をきちんと理解してもらうこと」にあると考えています。

同社は、農薬業界の中では、他社とは異なる戦略をとっており、安定かつ高い収益力を有しています。
今期は研究開発費の負担増により低水準の利益を予想していますが、あくまでも一時的なものであり、基本的には安定した収益力を有しています。 こうした高い収益力を背景とした、安定したキャッシュを生み出すビジネスモデルにより、無借金かつ豊富な手元流動性を有する強固な財務体質を築き上げてきました。
この手元流動性については、同社は製薬会社と同様、リスクの高い新薬研究開発を手掛けていることから、機動的に投入できる資金をある程度確保しておく必要があると考えています。ただ必要額以上は、株主へ積極的に還元していきたいと考えています。

業績概況

2002年12月期業績予想
売上高
80億円
前期比
+ 3.5%
経常利益
80百万円
前期比
-71.3%
当期純利益
10百万円
前期比
-84.1%


増収ながら減益を見込んでいます。
農薬マーケット全体は伸び悩みが予想されるなか、新製品およびバスアミドの販売強化により増収を見込んでいますが、利益については新剤開発のための研究開発費が前期を上回る高い水準で推移する予定で、減益を見込んでいます。
この研究開発費の高い水準は、新剤2剤の開発を平行して進めているためのもので、ここ2年間ほどは続く計画で、その後減少する予定です。
このように厳しい予想ですが、配当は年20円を予定しています。(配当政策に関しては後述)
また当社のBPS(1株当たり株主資本)1,598円から見ると、現在の株価519円(2002年6月20日終値)は、バリュエーションからみれば割安な水準にあると考えています。配当利回りは、3.9%に達します。

売上高の推移

(単位:百万円)
1997年
 1998年
1999年
2000年
2001年
2002年(予)
7203
7089
7821
 8300
7733
8000

前期及び今期は伸び悩みの状況にありますが、ちょうど成長過程の踊り場にあると考えられます。

成長のステップ
同社の成長は、新製品上市が屈折点となっています。
平成11年度及び12年度に売上が大きく増加したのは、新製品であるダニ剤(カネマイト)が売上増加に大きく貢献したことによるものでした。
屈折点となる大型新剤の導入は3~4年後の予定ですので、今後の売上げの成長は比較的穏やかなものになると予想しています。

試験研究費と利益率
売上高の伸び悩みとともに近年利益水準も低下していますが、これは将来につながる試験研究費の増加が主要因です。
この試験研究費の増加は新剤2剤の開発を平行して進めているためのもので、ここ2年間ほどは続く計画です。今期をピークに試験研究費は減少する見込みであり、来期以降においては、収益性の改善を見込んでいます。

 

同社を取り巻く環境と同社の特徴

農薬市場の動向
農薬市場は、平成12年に6年ぶりに増加しましたが、これは斑点米カメムシ類が全国的に多発して当該製品の特需が発生したことが寄与しました。昨年は、その反動もあり前年比で減少に転じ、中長期的なマーケットの減少に歯止めがかかったとは言いきれないと考えています。

市場が縮小する中で、同社が安定成長続け、強い競争力を維持してきた大きな要因は、
① 果樹・野菜向け農薬に特化
② 独自製品・差別化製品の開発
③ 最終需要家(農家)へのダイレクトマーケティング という同社の特色にあります。

<果樹・野菜向け農薬に特化>
農薬の使用分野別の作付面積の推移を見ますと、水稲の作付面積が国の減反政策により毎年大幅に減少する一方、同社のターゲットである果樹・野菜の作付面積は、比較的穏やかな減少にとどまっています。
また、使用分野別の農薬出荷額を見ると、水稲の向けの農薬出荷額が大幅に減少する一方、果樹・野菜向けの農薬出荷額は、比較的安定的に推移しています。

<独自製品・差別化製品の開発>
同社は、独自製品に注力しており、原体メーカー(農薬の有効成分を製造するメーカー)が多数社に卸し、同じ農薬製品が複数、市場に出て価格で競合する製品はできるだけ扱わない方針を堅持しています。 これらの独自品、また他社製品との差別化を図った製品の比率は、約50%に上ります。

<最終需要家(農家)へのダイレクトマーケティング>
同社にとっての顧客は農家であり、創業以来「常に農家のために、農家とともに」を経営理念に営業展開してきました。同業他社が農協との関係をベースにしているのと一線を画しています。 1960年には、地域別の販売会社の展開に注力し、農家を担当するTCA(テクニカル・コマーシャル・アドバイザー)を全国に配置しています。
このTCAは単なる営業マンではありません。アグロ カネショウは「単に物を売るのではなく、農薬の使い方など技術を売る」企業です。農家は農薬(特に新製品など)を見せられただけでは買いません。使い方、効果を理解させることが必要です。そこでTCAは、農家を訪ね、説明会や講習会を開いています。全国5000ヶ所に「展示圃」を設置し、散布の方法や注意点を実演によって説明し、実際の効果を見せています。また、中核農家を「情報の受発信点」と位置付け、技術普及スタッフによる直接指導を実践しています。
このように「展示圃」、「中核農家」を核に周辺農家を組織化し、農家の立場に立った情報を提供し、農家とのより深いコミュニケーションを取りながらダイレクトマーケティングを展開しています。これが可能なのは同社のみといえます。

果樹野菜向け農薬市場の動向
①中国からの輸出増大による国内農家への影響
最近増加している安価な輸入野菜が国内産野菜の需要減少につながり、ひいては農薬の消費量減少につながるという悪循環が顕在化しつつあります。
この中国産野菜の安全性については問題があり、後述します。

②天候の変化(高温・少雨)
昨年の高温・小雨、夏場の低温の影響で、果樹のカメムシ類、野菜と花卉のハスモンヨウトウなどの害虫の発生も見られましたが、総じて病害の発生は少なく、全体的に農薬需要を上向かせるものではありませんでした。

③競争激化
継続的な減反政策、海外からの安価な輸入野菜・果実の増加等によるマーケットの縮小、海外・国内メーカーの直販体制化にともなって競争は激化しています。また海外の大手農薬メーカーの再編により、巨大化したメーカーは所有する剤の見直しや独禁法からの要請により、たとえ利益があがる有力な剤でも売却する動きが見られます。同社としてはこれをビジネスチャンスと捕らえて有力な剤の獲得に注力しています。

 

環境変化と同社の取り組み

今後の収益拡大につながる施策として4つのポイントを挙げています。

1.トライアングル作戦
トライアングル作戦は、「同社」、「販売店・JA」、「農家」の三者の関係を従来の「同社と会員店・JA」、「同社と農家」のつながりから、三者相互のコミュニケーションをつなげることにより、今まで以上に顧客ニーズの機動的・迅速な収集、活用が可能となることを目指した、営業技術普及活動です。
トライアングル作戦の背景としては、自然環境との調和を図り、農薬を正しく使ってもらい、食糧生産に従事してもらうことが重要と考えています。
農業振興の中核である農家が各地域でそれぞれ主体となって活動していけるよう支援してゆくことが肝要と考え、「農家との対話を密に」をモットーに活動しています。農家との対話を通じて情報を収集・整理し、また情報交換を行うことによって信頼関係を築き、ひいては農家の自発的行動を促し同社の営業収益につなげるべく日々努力しています。
このための体制として、当社は本社のほか9支店、6営業所を全国に配置し、76名のTCA担当者が各担当地域をカバーし、農家、会員店、JA等と日々コミュニケーションを密に営業活動を行っています。

2.カネマイトフロアブルの海外展開
現在韓国、台湾については輸出が始まっており、アメリカでは、昨年11月末に登録申請が受理されました。米国において薬害リスクが低い農薬であるとの認定を受けたことにより、通常より早く18ヶ月以内には登録が予定されています。
ヨーロッパでは今年4月に登録申請の予定です。
アメリカ、ヨーロッパではそれぞれ5-10億円程度の輸出が可能と考えています。

・韓国 :平成11年4月登録 販売開始。年商1億円程度
・台湾 :平成12年12月登録 13年販売開始。年商3千万円程度
・アメリカ :平成15年登録予定。年商5億円程度
・ヨーロッパ :平成16-17年登録予定。年商10億円程度

3.適用拡大
農薬は、その対象となる病害虫、対象作物に関して無制限に使用できるものではなく、農薬登録制度によってその対象病害虫、対象作物等が細かく規制されています。しかしその対象病害虫、対象作物は「適用拡大」の申請を行うことにより広げることが出来ます。
結果として、適用拡大を図ることにより、販売対象が広がり売上増がはかれます。
カネマイトフロアブルは現在の「りんご、もも、なし、なす、きゅうり、メロン、きく、カーネーション」などに加え、平成15年には「ぶどう、すもも、やまのいも」、平成16年には「あずき」を予定しています。
またバスアミドも今期は、ちんげん菜、ぶどうへと適用作物を拡大させていきます。

4.有力製品の上市見通し
<新規大型線虫剤「AKD-3088粒剤」>
防除が難しいといわれている、土壌内の線虫を防除するもので、カネマイトフロアブルに次ぐ自社開発による大型剤です。平成10年から登録のための試験を開始しており、平成16年に申請、平成18年末登録取得を予定しています。開発費10億円をかけるこの製品の年商は20億円に上る見通しです。

<新タイプダニ剤「AKD-1102」>
果樹、園芸用の新ダニ剤で、ダニに抵抗性がつきにくく商品寿命が長いのが特徴です。 平成19年ごろの登録取得を見込んでおり、これも年商20億円を見込んでいます 。

新規の薬剤が開発されてから実際に農薬として監督官庁の認可を得、販売にいたるまで最短でもおおよそ8年以上の年月がかかります。
主要な開発費用でも、安全性・環境影響試験を主体に15億円以上の費用がかかります。これは日本国内だけを対象とした場合で、国が異なると別途費用がかかります。「AKD-3088」及び「AKD-1102」の登録スケジュールは、それぞれあと2~3年で認可・販売となる予定です。

 

配当政策について

当期純利益は直近期大きな落ち込みを示しており、また今期の当期純利益の水準にも厳しいものがあります。
しかし平成12年12月期の上場記念配当、50周年記念配当を含めた30円配当を、前期13年12月期には上場記念配を普通配当15円に加えて普通配当20円として配当を行いました。
これは、利益の減少が構造的なものではなく、将来のための研究開発費が前期及び今期に集中することによってもたらされた、あくまでも一時的なものであることから、安定的な配当を継続することが望ましいと考えたことによります。
また、無借金経営を続けており、一株当り純資産も1598円と財務内容は健全な状況にあり、今後とも安定的な配当を継続する考えです。

 

中国野菜の安全性について

日本における野菜の輸入量は2001年度 286万トン(内、生鮮野菜96.8万トン、+前年比4.3%)となっており、中でも中国からの輸入量は148万トン(全体の52%、前年比+16.5%)と急増しています。
増加の理由としては、①バブル後の価格競争、スーパーでの安売り、②国内産地の生産基盤の脆弱化、③プラザ合意(1985年)後の円高、④1989年天安門事件後の中国改革開放政策などがあげられます。
また中国の野菜の作付面積は1993年以降7-14%増と増加しています。 こうした中、中国野菜の安全性に対する疑問が顕在化しています。
ファミリーレストランなどで問題になったホウレンソウや、昨年で7.5万トン輸入された枝豆などは、農薬が最も残留しやすい作物です。しかし実際に中国で使われている農薬は、現在の日本では認可されているものは少ないのが実状なのです。
また日本では「無農薬で育成した昔ながらの曲がったきゅうり」という認識もあるようですが、これは栽培方法によるもので、農薬使用の有無とは一切関係ないのです。
人々の食生活に欠かすことの出来ない野菜・果物を安定的に生産するために農薬は必要不可欠で、一方で日本においては厳しい安全基準が設けられておりそれをクリアした農薬のみが使用されています。
安全性を農家、消費者共に認識できるシステム作りを政府、業界が進めていくべきであり、ただ単に安い野菜・果物を求めるのではなく、農薬に対する「必要性」、「安全性」といった知識を消費者一人一人が身に付けていって欲しいと、櫛引社長は考えています。