ブリッジレポート
(4955) アグロ カネショウ株式会社

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ブリッジレポート:(4955)アグロ カネショウ vol.2

(4955)アグロ カネショウ/櫛引 博敬社長
2001年8月15日

8月15日(水) アグロ カネショウを訪問しました。
赤坂から歩いて約5分。明るいオフィスで、櫛引社長にお話を伺いました。


事業内容

 同社は1951年に現在の櫛引社長の父:故櫛引大吉氏が創業。果樹・野菜向けの農薬の製造・販売を行っています。
  同社は企業ビジョンとして「3つの力」を掲げています。一つは「研究開発力」です。 創業以来の研究・開発と農家とのコミュニケーションをベースに、ダニ剤をはじめ、害虫防除剤、病害防除剤、土壌消毒剤、除草剤など多彩な商品群を提供しています。

 

櫛引 博敬社長

 

 農薬は製造・販売にあたっては、効果や薬害に関する試験、安全性に関する短期および長期の各種試験、環境への影響試験などを実施し、その安全性が確認された上ではじめて登録されるという、大変長い道のりを要求されます。
 また、同じ農薬でも対象となる作物によってそれぞれ別個の登録が必要であり大変手間のかかる作業が必要です。
 後に詳しく述べますが、同社では市場性の高い新製品の開発を迅速かつ効率的に進めるための独自の仕組み作りを行っています。

 売上高に占める自社製品の比率は約52%(2001年12月期予想)。取り扱っている農薬の全てが自社製品というわけではなく、海外からの導入品や、既存の農薬を組み合わせた混合剤などもあります。
  ただ、最近では自社開発の大型ダニ剤「カネマイトフロアブル」が注目されます。
 平成11年韓国、平成12年台湾で登録認可されたのに続き、平成15年アメリカ、平成16年ヨーロッパでも登録認可予定であり、ピーク時年商30億円の予想となっています。

 また、これに続き、やはり自社開発の線虫剤「AKD―3088粒剤」も期待されています。
 平成10年より登録の為の試験を開始。約10億円の開発費をかけ、平成17年登録、平成18年販売開始を予定。 年間20億円の売上を見込んでいます。

  また同社では今後、「生物農薬」に注力していく方針です。これは、植物から抽出した極めて安全な農薬で、近年注目を集め始めたものですが、同社では40年程前からデータ収集などを行っており、今後はその蓄積、ノウハウは大きなアドバンテージとなることが期待されます。

 

顧客=農家との密接なコミュニケーション

 「3つの力」のうち2つ目の力が「営業/サポート力」です。
  櫛引社長のお話を伺っていて、非常に印象的だったのは、「顧客ニーズ最重視の姿勢」です。多くの企業も標榜していますが、同社の場合は、他社が真似することのできない独自の方法です。

 同社にとっての顧客は農家であり、創業以来「常に農家のために、農家とともに」を経営理念に営業展開してきました。 1960年には、地域別の販売会社の展開に注力し、農家を担当するTCA(テクニカル・コマーシャル・アドバイザー)を全国に配置。

 このTCAは単なる営業マンではありません。櫛引社長によれば「アグロ カネショウは物を売るのではなく、農薬の使い方など技術を売る。」ということです。言われてみればその通りなのですが、農家は農薬(特に新製品など)をただ見せられてもわかりません。使い方、効果を理解しなければ買いません。そこでTCAは、農家を訪ね、説明会や講習会を開いています。農家の現場で「展示圃」を設置し、散布の方法や注意点を実演によって説明し、実際の効果を見せています。また、「農家研究会」を開催し、地域ごとの特性を活かした経営知識や農業知識の勉強の場を作るなど、農家の立場に立って情報を提供し、農家とのより深いコミュニケーションを取っています。
 TCAの大きな評価基準に「どれだけ農家に通ったか?」という項目があるのも象徴的です。 今後は各都道府県に平均2名のTCA(技術1、営業1)を配置する方針だそうです。

  また、TCAには原則人事異動がありません。すべて現地採用です。これは、農薬の散布は年1回という状況の中、3‐5年で異動していては、その地で一生を終えるのが当たり前の農家とうまくコミュニケーションがとれないからという理由です。また方言を理解し、その地域の風習に親しんでいるということもコミュニケーション上極めて重要です。これは簡単に競合他社が真似のできることではありません。  1996年には業界初のAKTIS(アグロ カネショウ・トータル・インフォメーション・システム)を導入。社内間の情報共有化と、農家へのより幅広くわかりやすい情報提供を進めています。 将来は、全ての営業担当者がモバイルPCを駆使し、農家に最新の農業、農薬に関する情報、農産物の価格の推移、相場などあらゆるデータを提供することを目指しています。

 このような顧客である農家との緊密なコミュニケーションの中から、情報の提供だけではなく、ニーズを吸い上げ、新製品を開発するケースも見られます。
 リンゴ作りにおいては、いい果実を作るためには収穫前の或る時期にリンゴの葉を落とさねばなりませんが、一本一本木に登り葉を落とさねばならず、大変な重労働です。その一方で、リンゴの葉を枯らしてしまう副作用を持つ農薬があったのですが、これを使ってリンゴの葉落としに使えないかという農家からのアイディアが生まれ、研究を進め新たな農薬として登録されたケースなどがその一例です。
 このように、最終顧客である農家との密接なコミュニケーションが、単なる営業力だけではなく、ニーズに対応した商品開発力にも結びついており、外資を始めとした他社には、なかなか対応できない部分であり、同社の大きな強みです。

 

積極的な海外展開

 3つ目の力が「国際競争力」です。
 例えば、ハウス栽培が主体の日本と露地栽培が主体のヨーロッパなど、その国の気候、風土、農業の方法、農薬に関する規制など、あらゆる特性を配慮してカスタマイズした薬剤の輸出、輸入販売を行っています。このように海外の情報を敏感に察知し、地域特性を活かした薬剤の開発によって地球規模のビジネスを展開しています。

 また、海外の有力メーカーのトップマネジメントを招いて日本の農薬の専門家を交えたパネル・ディスカッションを開催するなど、海外企業との技術交流も精力的に行っています。

 

訪問を終えて

 日本は減反などで使用量が落ちてきたとはいえ、年間3600億円を使用する世界第2位の農薬使用国です。このマーケットの中で、農薬に対する正しい理解を啓蒙しつつ、農家と密着したコミュニケーションをより一層深め、シェア(現在約2%)をアップさせていくことが同社の戦略です。

  日本においては食料自給率の問題、また、世界的に見てもこれからアジア諸国が高所得化する過程で、「食料不足問題」は大きな課題となっており、農業生産効率アップの為には農薬の役割は重要であることは間違いありません。その一方で農薬が正しく理解されているかというとそうではないのが現状です。
 取材の中で櫛引社長が何度も強調されていたことが「農薬の必要性、実状をもっと一般の方々に考えてもらいたい。」とうことでした。

  たしかに「農薬」というと危険とか汚染とかいうイメージが先行してしまいます。社長が例に挙げたあるゴルフ場のケースも、詳細を調べることもなく「農薬が悪い。」という先入観で記事が書かれてしまっていました。(農薬散布後大雨が降り、下流の池で魚が大量に死んだが、実際は土砂の流入による酸欠で、農薬は無関係だったが、新聞には農薬が原因と伝えられた。後に訂正されたが読者には農薬=危険というイメージが強く残ってしまった。)
  農薬は「使う人」「売る人」それぞれが責任を持って正確に、適切な方法で適量使わなければならないのに、不適切に使用して問題が起きた際には、全てメーカーと「農薬」そのものの責任となってしまう状況に大きな問題があるともおっしゃっていました。また、最近ではセーフガード問題で中国産の安い野菜が話題になっていますが、日本ではかなり以前に禁止された農薬が中国では登録されているのが現状なのに、そうした問題はほとんど表に出てきません。こうした日本における農薬に対する考え方のアンバランスさは確かに大きな問題と言えるでしょう。
  こうした状況に対し「農薬の安全性、必要性をより多くの人に認識してもらいたい。」という想いから、昨年9月東証2部に上場しました。農薬メーカーの上場は40年ぶりということだそうです。そんな久しぶりの上場には櫛引社長の強い想いが込められているのです。 そんな社長の熱い思いとともに、配当利回り4%、無借金の同社株に注目していきたいと思います。