同社にとっての顧客は農家であり、創業以来「常に農家のために、農家とともに」を経営理念に営業展開してきました。 1960年には、地域別の販売会社の展開に注力し、農家を担当するTCA(テクニカル・コマーシャル・アドバイザー)を全国に配置。
このTCAは単なる営業マンではありません。櫛引社長によれば「アグロ カネショウは物を売るのではなく、農薬の使い方など技術を売る。」ということです。言われてみればその通りなのですが、農家は農薬(特に新製品など)をただ見せられてもわかりません。使い方、効果を理解しなければ買いません。そこでTCAは、農家を訪ね、説明会や講習会を開いています。農家の現場で「展示圃」を設置し、散布の方法や注意点を実演によって説明し、実際の効果を見せています。また、「農家研究会」を開催し、地域ごとの特性を活かした経営知識や農業知識の勉強の場を作るなど、農家の立場に立って情報を提供し、農家とのより深いコミュニケーションを取っています。
TCAの大きな評価基準に「どれだけ農家に通ったか?」という項目があるのも象徴的です。 今後は各都道府県に平均2名のTCA(技術1、営業1)を配置する方針だそうです。
また、TCAには原則人事異動がありません。すべて現地採用です。これは、農薬の散布は年1回という状況の中、3‐5年で異動していては、その地で一生を終えるのが当たり前の農家とうまくコミュニケーションがとれないからという理由です。また方言を理解し、その地域の風習に親しんでいるということもコミュニケーション上極めて重要です。これは簡単に競合他社が真似のできることではありません。
1996年には業界初のAKTIS(アグロ カネショウ・トータル・インフォメーション・システム)を導入。社内間の情報共有化と、農家へのより幅広くわかりやすい情報提供を進めています。
将来は、全ての営業担当者がモバイルPCを駆使し、農家に最新の農業、農薬に関する情報、農産物の価格の推移、相場などあらゆるデータを提供することを目指しています。
このような顧客である農家との緊密なコミュニケーションの中から、情報の提供だけではなく、ニーズを吸い上げ、新製品を開発するケースも見られます。
リンゴ作りにおいては、いい果実を作るためには収穫前の或る時期にリンゴの葉を落とさねばなりませんが、一本一本木に登り葉を落とさねばならず、大変な重労働です。その一方で、リンゴの葉を枯らしてしまう副作用を持つ農薬があったのですが、これを使ってリンゴの葉落としに使えないかという農家からのアイディアが生まれ、研究を進め新たな農薬として登録されたケースなどがその一例です。
このように、最終顧客である農家との密接なコミュニケーションが、単なる営業力だけではなく、ニーズに対応した商品開発力にも結びついており、外資を始めとした他社には、なかなか対応できない部分であり、同社の大きな強みです。