この記事の結論
- 無形資産の特徴は4S
- 無形資産はスピルオーバーを起こしやすいため、便益がみんなに広がりやすい
- 4Sが組み合わさると、不確実性と紛争性が生まれる
今回ご紹介するのは、ジョナサン・ハスケル氏とスティアン・ウェストレイク氏によって著された『無形資産が経済を支配する 資本のない資本主義の正体』という本です。
無形資産とは、ブランドやソフトウェアなど形は無いものの、価値のある資産のことです。
「無形資産って言われてもよく分からない…」と思っている方でも、実は周りには多くの無形資産があり、日々接しています。
この本を通じて、経済で大きな役割を担っている「無形資産」への理解を深めていきましょう!
ちなみに、「無形資産を理解したいのならば、この本を読みべきだ」と、あのビル・ゲイツも本書を絶賛したそうです!
本書の構成
本書は2部構成となっています。
- 第1部:無形経済の台頭 (2章~4章)
- 第2部:無形経済台頭の影響 (5章~11章)
第1部の無形経済の台頭では、無形資産の身近な例、計測法、その特徴について記述されています。
経済が発展するにつれて、工場や設備といった有形資産への投資から、ソフトウェアや研究開発などの無形資産への投資へと、投資先は変化してきました。
新たな投資先である無形資産には、いったいどのような特徴があるのか、筆者の分析が細かくなされています。
第2部では、第1部の分析結果を踏まえて、無形資産が経済に与える影響について書かれています。
資産の話だからといって企業や経済のみに捉われてはおらず、政治や差別といった他分野も分析対象になっているのが印象的です。
今回の記事では、第1部を解説します!
第1部:無形経済の台頭
それでは具体的な内容を確認していきましょう。
この本で根幹を成している考え方があります。
それは「4S」です!
4Sってなに??
4Sとは、無形資産によって生じた4つの新しい経済の特徴のことを指します。
4つの特性を英語で書くと、どれもSから始まるから4Sなんだね!
スケーラビリティ
スケーラビリティとは、大規模化のしやすさを意味します。
そして、無形資産はスケーラビリティが高いと言えます。
どういうことでしょうか。
音楽を例にとって考えてみましょう。
多くの人が音楽を聴きたくなった場合、CD会社と音楽配信事業会社ではどのようなことが起こるでしょうか。
<CD会社>
より多くの人にCDを提供するには、CDの材料を買い、そのCDに音楽を吹き込み、工場の稼働率が限界に近い場合、新たな工場を建てる必要も出てきます。
すると当然ですが、追加的にCDを提供するのにコストがかかってしまいます。
一方で、Apple music やSpotifyといった音楽配信事業をしている会社の場合はどうでしょうか?
<音楽配信事業会社>
より多くの人が「音楽を聴きたい!」と言った場合、ネットやアプリ上で音楽を配信するだけでみんなに音楽を楽しんでもらえます。
もちろん、音楽配信するための初期費用はかかってしまいますが、追加コストはほぼかかりません。
このように、一度作ってしまえば何度も使うことができ、同時に複数の場所で使用可能な資産のことをスケーラビリティが高いと言います。
商品に限らず、スターバックスの新人教育マニュアルも、一度作ってしまえばいろんなところで何度も使えるため、スケーラビリティが高いと言えるんだワン!
サンク性
サンク性は、よくサンクコストという言葉で使われます。
あ、この言葉、経済の授業で聞いたことあるかも!
サンクコスト(sunk cost)とは、直訳すると沈んだ費用、つまり回収不能なコストのことを言います。
そして、無形資産はサンクコストが高いと言われています。
なぜでしょうか。
サンクコストは資産の購入額から資産の売却額を引くことで計算することができます。
例えば、あなたが100万円で買った新車を、数年後50万円で売った場合、サンクコストは50万円になります。
工場や設備などの有形資産は他にも使いたい人がいることが多く、そのような人達に売却をすれば、ある程度の売却額を回収することができます。
しかし、会社独自の営業ノウハウ、ブランドといった無形資産は会社経営者にとって価値はあっても、市場で販売する際には、それに見合った対価が手に入りづらいのです。
スピルオーバー
スピルオーバーとは、誰かの便益がみんなの便益につながることを言います。
よく分からないなぁ
スピルオーバーの典型的な例でよく、研究開発が用いられます。
例えば、ある製薬会社が研究開発にたくさんの時間とお金を投入して、がんの万能薬を開発したとします。
1社がこの万能薬を開発してしまえば、他社はその薬の作り方を真似するだけで、(特許の利用料などは発生しますが)万能薬を作れるようになりますよね。
しかも、多くの患者の命も救うことができます。
つまり、自分の便益になるよう頑張って作った万能薬は、みんなの便益にもなったのです。
無形資産はこの特性を強く兼ね備えています。
従って、研究開発などの無形資産が増えると、より多くのスピルオーバーが生まれるのです。
シナジー
最後のSはシナジーです。
よく、シナジー効果という言葉が使われますよね。
これは異なった会社と会社、またはアイディアとアイディアが組み合わさることによって、新たな技術やアイディアが生まれることを言います。
皆さん、突然ですが、電子レンジはどのように開発されたか知っていますか?
実は、戦争で使うレーダー部品を作る会社、レイセオン社が、台所用品を生産していた会社、アマナ社を買収したことで、2社の技術が合わさり、電子レンジが誕生したと言われています。
電子レンジって、シナジー効果によって誕生したんだね!
4Sから生じるものって?
著者は4Sによって無形資産が不確実性と紛争性を生むと考えています。
スケーラビリティで高い収益力が期待できる反面、サンクコストが上がるということは、無形資産への投資は、有形資産のそれと比べてハイリスクハイリターンということになります。
収益が大いに出るのか、それとも回収できないコストが膨大するのか、不確実性が高まってしまうのです。
それでは紛争性はどうでしょうか。
スピルオーバーは、一人の便益をみんなにも与えてしまうと解説しました。
せっかく技術やアイディアなどの無形資産を苦労して手に入れても、他者はそれをただ真似るだけで手に入れられます。
すると、当然、価値ある技術やアイディアの所有者はそれを特許などでスピルオーバーしないようにしてしまいます。
何年もかけて作った商品や考えを一瞬で真似されるのは確かに悔しいもんね
また、誰かが素晴らしい技術を持っていれば、シナジー効果を狙う人が協力を働き掛けてくるかもしれません。
この場合、シナジー効果を狙う者同士の争い(紛争)が起きることが考えられるのです。
この本の前半で著者が最も伝えたかった考えである、「4S」についてご理解いただけたでしょうか?
この本の第2部では、4Sの考えに基づき、無形資産が築く「無形経済」について分析されています。
第2部については次の記事でご紹介しますので、ぜひそちらもご覧ください♪