この記事の結論
- 「競争戦略」は全ての経営者・投資家が読んでおくべき一冊
- ファイブフォース分析とバリューチェーン分析がある
- 投資家こそ、経営者と同じ目線で物事を考える力が必要とされる
はじめに
あなたの金融リテラシ―向上/投資スキルアップに役立つ「本」をご紹介するシリーズ「書籍のすゝめ」第一弾!
記念すべき一発目のチョイスはかなり迷いましたが、企業分析をする際に役立つ1冊、ジョアン・マグレッタ氏の『エッセンシャル版 マイケル・ポーターの競争戦略』をご紹介します。
皆さんが投資をするときにも、きっと役に立ちますよ!
『競争の戦略』とは?
ポーターの『競争の戦略』はあまりにも有名なビジネス書ですね。
経営戦略論の古典として長く、多くの経営者や学者に支持されてきました。
しかし、その分量はあまりにも膨大なので、自分のものにするのはかなり大変というのが正直なところだと思います。
マーク・トウェインの言葉、「古典の厄介なところは誰もが読んでおけばよかったと思うが、誰も読みたいとは思わない。」というのは実に言い得て妙ではないでしょうか。
確かに、古典って難しいイメージ…
そのため、聞いたことはあっても、内容を知っているという人はそう多くはないと考えられます。
そうはいっても、現代の世界は常に変動し、企業は激しい競争にさらされ続けています。
「今日ほどポーターの研究が意義をもって歓迎されることはないだろう」というのが本書における筆者マグレッタ氏の主張です。
競争戦略について書かれた本は多くありますが、その中でも強くお勧めしたいのが『エッセンシャル版 マイケル・ポーターの競争戦略』です。
本書は『競争の戦略』のエッセンスが簡潔にまとまった、シンプルに学べる一冊となっています。
学術論文のように数字や複雑なモデルはあえて載せておらず、過去の多様な事例等を交えながら、非常に分かりやすく解説してくれています。
そして、なにより原著作者のポーター自身も直接関わっていることからも、本人のお墨付きというわけです。
何度も要点を確認しながらの解説となっているので、ビジネス書初心者でも理解しやすい構成となっています。
本書の構成
本書は2部構成となっています。
まず第1部は、「競争とは何か?」というテーマのもとで、経済学と経営学のバックグラウンドをもつポーターにしか作れない二つのフレームワークについて解説しています。
第2部は、「戦略とは何か?」というテーマのもとで、戦略を堅牢にする5つの基本的条件について解説しています。
ポーターのフレームワーク①「5つの競争要因」
これを使えば、どんな業界にも作用している利益をめぐる競争を、分かりやすく表すことが可能です。
業界の業績と自社の業績について理解を深めるうえで出発点とすべきフレームワークです。
・新規参入業者
自社のビジネスが、他社でも簡単に参入できる場合、新規参入が増えて競争が激しくなる可能性があります。
これを阻止するには、ブランド力や資金力、自社しか提供できない価値といった参入障壁を設ける必要があります。
・売り手
自社のビジネスで製品等をつくる場合、その材料やサービスを仕入れる必要があります。
その際に、仕入れ元である売り手が業界大手であったり、数少ない仕入れ元である場合に売り手の力が強いと、高い価格で仕入れることになってしまうかもしれません(原価高騰/収益性の悪化)。
・買い手
自社の製品やサービスを提供する時に、その買い手が大手であったり自社以外からも購入できる場合には、買い手の交渉力が強くなるため、なるべく安い価格で売るように求められるかもしれません。
その場合、収益性が悪化してしまうので、自社にしか提供できない製品・サービスやクオリティの高さを追求する必要があります。
・代替品
自社と似たような製品やサービスを提供する競合企業がある場合には、似たようなクオリティ・サービス内容であれば消費者はそちらに乗り換えてしまうかもしれません。
また、代替品は必ずしも同じ製品・サービスである必要はなく、例えばパソコン⇔スマートフォン、テレビ⇔パソコンといった一見違う製品である可能性もあります。
確かに、競合とか売り手とか、「周りの環境」って結構大切だよね。
ポーターのフレームワーク②「バリューチェーン」
「バリューチェーン」とは企業が製品を設計、生産、販売、サポートするために遂行する活動の集合を指します。
事業活動を機能ごとに分類し、どの部分で付加価値が生み出されているか、競合と比較してどの部分に強み・弱み、価格やコストにおける違いがあるか、を分析する際に用いられます。
「バリューチェーン」は昨今では当たり前のように使われている言葉ですね。
これもポーターによって編み出されたフレームワークなのです。
投資に役立つの?
でも、経営戦略論って投資の役に立つの?
たしかに本書の冒頭でも、想定読者は経営者や管理職の人間と明言されていました。
しかし、投資家は企業の成長性に期待して投資する以上、企業が取る数多の戦略を知り、自分で考えることは株主として要求される、極めて重要なスタンスではないでしょうか?
中には企業が取る戦略の内容を深く考えずに、損益計算書等に載っている数字や株価の推移ばかり見て、投資を実行する人もいると思います。
しかし、企業は数字というドライなものだけで構成されるものではなく、人の選択によって作用する、血の通ったリアルな組織です。
加えて、ポーターが言うように優れた戦略を持つ企業は、戦略がきれいに損益計算書に結び付いてきます。
定量的な情報を整理する上でも、ポーターのファイブフォース分析やバリューチェーン分析はかなり有用となります。
考える癖が身につく
なぜ、同じ業種の中に収益性の高い企業があるのか?
企業が取る戦略にどのような意味があるのか?
川上から川下の流れの中で企業はどこで価値を生んでいるのか?
このような視点で企業を見ていくと、意外な発見に出会えるかもしれません。
私自身、本書を読んでから、日常生活の中で「どうしてこの会社は高い品質をこの価格で実現できるのだろう?」とか「他社と比べて、ここはプロモーションに消極的なのはなぜだろう?」などと自分で考える癖がついた気がします。
他人の意見を受け売りにするのではなく、自分で考える癖をつけるきっかけとなった1冊でした。
ビジネス書は移り変わりが激しく、しばらくすると陳腐化してしまうことが多いです。
競争が激しいビジネス書の中でも、『競争の戦略』は競争優位を築くことに成功した数少ない良書と言えます。
原著を読まなければ、本当にポーターの考えを理解したことにはならない・・・という批判はごもっともだと思いながら、とはいえ分厚い原著を読破する時間もなさそうという人、ポーターのエッセンスを簡潔に学びたい人には最適な一冊として推薦したいです。
原著を読む前の予習としても良いかもしれませんね。