この記事の結論
- 行動経済学は、全てを数学的に分析する従来の経済学と対立する新しい考え方
- 損失回避性や現状維持バイアスによって人は合理的な行動ができなくなることがある
- 新型コロナウイルス影響下での投資家の行動は行動経済学で読み解くことができる
新型コロナウイルス(以下、コロナウイルス)に関するニュースが後を絶ちませんね。
連日、『感染者が〇〇人を超した』や、『日経平均が××円台を割った』などの報道を目にしますよね。
今回は、金融リテラシー向上/投資スキルアップに役立つ本として、〔エッセンシャル版〕行動経済学 (ミシェル・バデリー著) という本を紹介していきます。
前回の書籍のすゝめは以下よりご覧いただけます。
行動経済学ってなんだか難しそう…
一見難しそうに見えますが、行動経済学には直感的に納得できる理論が多く存在します。
この記事では、「行動経済学とは何か?」そして、時事問題に応用した事例を分かりやすく解説していきます!
書籍の概要
この本では数式や計算の代わりに、身近にある出来事を例に、行動経済学の基本的な考え方(エッセンス)を説いています。
身近な例が用いられているため、行動経済学を勉強したことのない人でも、概念のイメージが湧きやすく、比較的短時間で読めてしまいます。
章は9章あり、どの章でも異なった分野を扱っていますが、大きく3つのパートに分かれます。
- 行動経済学とは(第1章~第3章)
- 行動経済学の理論(第4章~第7章)
- 行動経済学の応用(第8章~第9章)
第1章から第3章では、行動経済学とは何かについて説明されています。
第4章から第7章では、どのように個人が自身の行動を決定しているのかを解説しています。
そして第8章から第9章では、マクロ的にどのような政策を打ち出すのが行動経済学的には理にかなっているのか説明されています。
今回は最初の2つ、「行動経済学とは」、「行動経済学の理論」を簡単に解説していきます!
そもそも、行動経済学ってなに?
行動経済学とは、人の行動を心理学と経済学の2つの観点から分析する新しい学問分野のことです。
実はこの行動経済学、従来の経済学を否定する学問として誕生したのです。
元々の経済学に間違っているところがあったってこと?
まずは、従来の経済学の考え方を簡単に見てみましょう!
従来の経済学ってどんな感じ?
従来の経済学では、人は合理的に行動すると仮定されていました。
ここで言う「合理的」とは、人は自分のお金と時間を考えて、最も満足のいく行動を取るように動くということです。
このように聞くと、従来の経済学の考え方は非の打ち所がないように思えます。
従来の経済学では、この「合理的人間」をモデル化するために、どの選択が最も満足できるか分かるように満足度を数値化することを目指しました。
下の例を見てみましょう。
従来の経済学では我々一人一人が独自の満足度を示す関数(効用関数)を持っていると仮定しています。
上図で、右横へ低下していく2つの曲線が効用曲線です。
そして効用関数は右上にいけばいくほど満足度が高い値を取るよう定義されています。
AとBを比べてみると、Aのある効用関数より、Bのある効用関数のほうが右上に位置しているため、Bの選択肢のほうが満足度が高いと言えます。
しかし、私たちは効用関数を踏まえて、パンを食べるかごはんを食べるか決めるでしょうか?
また、Bの選択のほうが満足度が高いからと言って常にパンよりごはんを好んで食べるでしょうか?
そう考えたのが行動経済学者たちでした。
確かに、パンを食べたいときもあればごはんが食べたいこともあるし、こんな関数使って何食べるか決めたことないなぁ…
行動経済学では、どう考えるのか?
それでは、行動経済学ではどのような考え方をするのでしょうか?
行動経済学者は、 「人は必ずしも合理的ではない!」 と、合理性には限界があることを認めています。
例えば、ノーベル経済学賞を受賞したハーバード・サイモンは、「限定合理性」という考え方を提唱しました。
これは、人の意思決定には様々な制約がかかるという考え方です。
例えば、私たちの記憶力には限界がありますし、数的処理能力にも限界があります。
すると、他の選択肢を十分に検討できずに、私たちは限られた範囲で決断をすることになるのです。
行動経済学の理論
では、実際に行動経済学の理論を簡単に見ていきましょう。
上述した通り、本書では4章から7章にかけて様々な理論が述べられています。
今回は、最近のコロナウイルス関連のニュースに役立つ考え方を2つご紹介します!
投資家は、矛盾した行動をとる!?
コロナウイルスで日本株式、アメリカ株式いずれも大きく値下がりしました。
コロナウイルスの影響で株式保有のリスクが高まり、投資家による株式売却が増えたことが原因です。
ただ、元々「株式」はリスクが高い投資商品のはず。
普段なら高いリスクを負ってでも投資をしている人が、新しく株式を買わず、安全な国債などに資金を移すのはおかしな話だと思いませんか?
一定のリスクの下で、人の行動が矛盾することを示したおもしろい実験をご紹介します。
下の表を見てください。
ゲーム1では、選択肢1を選ぶと80%の確率で40万円が、20%の確率で0円が手に入ります。
そして選択肢2だと、確実に30万円が手に入ります。
また、ゲーム2では「手に入る」が、「失う」に変わり、他の条件は同じです。
この実験に対して、従来の経済学者は以下の図のような予想をうちたてました。
しかし、実際に実験をしてみると、ゲーム1では80%の人が選択肢2を選んだ反面、ゲーム2では92%の人が選択肢1を選択しました。
従来の経済学者の予想とはかなり異なった実験結果だね!
このように、リスクが確率的に同じでも損失を避ける傾向のことを、損失回避性と呼びます。
この実験から、人は損失回避性を持つため、いつも同じ選択をする合理的な生き物ではないと指摘することができるのです。
(従来の経済では人を合理的な生き物だと仮定していましたね。)
つまり、コロナウイルスが株価の大幅な下落に繋がると考えた投資家は、損失回避性が働き、合理的な行動をしなくなったのです。
口座開設数増加のカラクリ
以前の記事で、コロナウイルス禍で証券口座開設数が増えたことをお伝えしました。
ご存じの通り、コロナウイルスが流行する前、政府はNISAやiDeCoなどで『貯蓄から投資へ』を促してきましたが、今回ほどの口座開設数の伸びには繋がっていませんでした。
行動経済学の考えを使うと、NISAやiDeCoを施行しても簡単に投資が増えなかった理由が理解できます。
それは、現状維持バイアスという理論です。
現状維持バイアスとは、人間は現在の状況を変えるのを避ける傾向にあることを指します。
つまり、頭ではNISAやiDeCoが有効かも…と思っていても、
「分からないことが多い」、「手間がかかる」といった理由から使わなかった人が多かったと考えられるのです。
しかし、今回のコロナウイルスによって株価のニュースが何度も報じられることによって、投資に対するみんなの意識が高まり、現状維持バイアスのかかった人も投資を始めたと考えられます。
いかがだったでしょうか。
この本を読むと、コロナウイルスや投資家の動きを考える際にも、今までとは違った観点で分析を可能にしてくれる『行動経済学』について学ぶことができます。
今回紹介した 『〔エッセンシャル版〕行動経済学 』には、コロナウイルスやNISAの例は載っていませんが、損失回避性や現状維持バイアス、他にも様々な考え方が紹介されています。
気になったあなたはぜひ読んでみてください!