電解質検査、グルコース検査を中心とした臨床検査のための装置、試薬などの開発、製造、販売を行う「血液検査事業」と、臨床検査作業の効率化を支援する「IT化・自動化支援事業」が柱。
検査室に必要な製品を揃え、レイアウトも含めて導入から運営までの最適なソリューションをワンストップで提供できる総合提案力、海外の有力OEM供給先が評価する高い技術力などが強み。
【1-1 沿革】
総合化学メーカーである株式会社トクヤマ(4043、東証1部)がそれまでの素材中心からファインケミカルへと事業範囲の拡大を指向していた1980年代、保有する様々な技術・アイテムのたな卸を行う中で、化学製品の一つであるラテックス(ゴムの原料)を用いて抗原抗体反応を検査するラテックス試薬の開発に取り組むこととした。
その過程で、1978年に全自動血糖分析装置を発売するなど業界をリードしてきた臨床検査装置の開発・製造・販売を手掛ける株式会社アナリティカルインスツルメンツと業務提携を行い、1988年4月に両社により販売合弁会社、(旧)株式会社エイアンドティーが設立された。(アナリティカルインスツルメンツの「A」とトクヤマの「T」を結合)
1990年11月には現在の主力生産拠点である江刺工場(岩手県)を新設。
1994年に(旧)株式会社エイアンドティーを吸収合併し、併せて株式会社トクヤマの診断システム部門を統合し商号を株式会社エイアンドティーに変更した。1980年代から90年代は臨床検査の分野において多くのコア技術が産み出された成長期であり、その追い風を受けて順調に業容は拡大。
2003年7月、株式を店頭登録した。現在は東証JASDAQ市場に上場している。
【1-2 経営理念など】
企業理念として
「医療を支え、世界の人々の健康に貢献する。」を掲げ、以下3つの経営方針の下、医療の質向上と医療コストの削減を目指している。
【1-3 市場環境】
◎市場規模
(国内市場・世界市場)
株式会社富士総研によれば、日本における臨床検査市場は2016年5,013億円で世界市場の6.0%を占めるが、これまで拡大をけん引してきた免疫血清検査の伸びが鈍化しており、市場は微増となっている。2022年の市場は5,195億円と年平均成長率は0.6%にとどまる。
日本臨床検査薬協会のホームページの情報を基にエイアンドティー社が推定した国内の装置・試薬市場は約5,900億円。うち生化学検査が1,958億円、血液検査は306億円となっている。
一方で、同じく富士総研の調査によれば世界市場は2015年に約623億米ドル(1ドル=100円で6兆2,300億円)となった。今後も世界市場は年平均2.4%で成長し、2020年には約704億米ドル(1ドル=100円で7兆400億円)と予測されており、検査環境が整備途上にある東欧、ロシア、アジア、南米、アフリカが成長の牽引役となると見ている。
日本メーカーは国内市場の飽和感が強まる中、国内の安定した事業基盤をベースに、その高い技術や品質を武器に世界市場での展開を指向する方向にあると述べている。
(検査領域別動向)
免疫血清検査が最大市場を形成(37.1%、約231億米ドル、約2兆3,100億円)、感染症を中心に市場拡大が続いている。
同社が手掛ける血液検査市場は7.5%、約47億米ドル(約4,700億円)で、北米や欧州(特に西欧)、日本では既に普及が進み、横ばいから微増となっている。アジアやその他地域は市場が拡大しており、今後も確実な成長が期待されると同調査は述べている。
(医用検体検査機器動向)
厚生労働省の「薬事工業生産動態統計」によれば、2015年の日本の医療機器市場国内生産額は約1.9兆円。大半は治療系機器が占めており、同社が手掛けるカテゴリーに該当する医用検体検査機器は約1,800億円となっている。ただ、医療用機器全体が大幅な入超なのに対し、医用検体検査機器は出超となっており、日本企業の世界的な競争力の高さを示している。日立がロシュ(スイス)に、東芝がアボット(米国)にOEMで検査機器を供給しているように、同社もシーメンスにOEM供給を行っており、日本製検査機器は世界の臨床検査分野において無くてはならないものとなっている。
主な上場の臨床検査装置メーカーを比較してみた。
同社は表中の企業中では事業規模は最も小さく、株価評価もPBRは唯一の1倍割れと低水準にとどまっている。
認知度向上と今後の業容拡大に向けた戦略の明示、理解促進が望まれる。
【1-4 事業内容】
病院の臨床検査室を構成する検査装置、試薬などの製品群の開発、製造、販売に加え、カスタマーサポートまでを一貫して手掛けている。また、検査室のレイアウト提案も含め、導入から運営までをカバーする総合的コンサルティングも行っている。
(臨床検査とは)
臨床検査には、レントゲン、CT、MRI、心電図、超音波など、医療機器を使用して体を直接調べる
「生体検査」と、患者から採取した血液、尿・便、細胞などの生体試料(検体)を調べる
「検体検査」がある。
同社が取り扱うのは検体検査で使用される製品群で、検体検査の中でも血液検査が中心である。
また、病院や人間ドッグなどで行われている血液検査には、肝臓系検査、腎臓系検査、尿酸検査、脂質系検査、糖代謝系検査、血球系検査、感染症系検査など多くの種類があるが、同社は「電解質検査」と「グルコース検査」を中心に展開している。
「電解質検査」
人体の約60%は水分で構成されており、細胞内液や血漿などの体液として存在している。体液はさらに、水に溶けて電気を通すミネラルイオンである電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウム、クロールなど)と、水には溶けるが電気は通さない非電解質(ブドウ糖や尿素など)とに区分される。
それぞれの電解質はバランスをとりながら、「ナトリウム」はからだの水分調節、「カリウム」は筋肉や神経の制御、「カルシウム」は骨や歯の形成、神経刺激の伝達、血液の凝固、「クロール」は体内への酸素供給など、人間が生命を維持する上で重要な役割を果たしている。血中の電解質濃度に変化が生じた場合、腎機能やホルモンの働きに異常が発生している可能性がある。
電解質検査は、体液中の電解質イオンの濃度を測定し、バランスの崩れを調べて体内の障害を診断するもので、採取した血液や尿を検査装置で検査する。
「グルコース検査」
血漿中の糖(血糖)はほとんどがグルコース(ブドウ糖)で、人間の大脳を始めとする中枢神経系ではグルコースが唯一のエネルギー源である。空腹時(食後5時間以降)では肝臓から1時間あたり8グラム程度のグルコースが放出され、そのうちの約2分の1を脳が、筋肉と赤血球がそれぞれ4分の1を消費している。
血糖値は通常、腸からの吸収と肝臓での産生による上昇と筋肉などでの消費による低下とのバランスの上に厳密に調節されている。この調節が上手くいかなくなると高血糖や低血糖状態となる。
グルコース検査は血液や尿中のブドウ糖の濃度を調べる検査である。
1.事業分野
同社の事業は、血液検査のための検体検査装置や臨床検査試薬、消耗品の開発・製造・販売を行う
「血液検査事業」と、病院の検査室の人的作業の効率化をIT化・自動化によって支援する
「IT化・自動化支援事業」の2事業で構成されており、病院の検査室を総合的にサポートしている。
(単一事業であるため、決算短信、有価証券報告書などにはセグメント情報を記載していない。また、同社では決算説明資料等で製品系列別売上高を開示しているが、両事業名としての売上高の開示とはなっていない点には留意する必要がある。)
①血液検査事業
(概要)
「電解質検査」、「グルコース検査」を中心とした臨床検査のための検体検査装置、臨床検査試薬(電解質、血糖値等を測定するために検体検査装置で使用する試薬)、消耗品(検査装置内で使用されるセンサーなど)の開発、製造、販売、カスタマーサポートを行っている。
(商流)
*国内
顧客となる中小規模病院に全国8ヵ所の支社を中心に検体検査装置、試薬、消耗品の直接販売を行っている。現在約4,000台以上が稼働している。
*海外
検体検査装置のOEM販売を行っている。同社が得意とする電解質ユニットを日本電子株式会社(6951、東証1部)など国内他社メーカーに供給。OEM供給先は自社の大型自動分析装置に同ユニットなどを組み込んで販売している。日本電子は大型自動分析装置の世界的企業の1社であるシーメンスにOEM供給している。
(ビジネスモデル)
新規に検体検査装置が導入されると、検査を行うための臨床検査試薬や消耗品が継続的に納入され、加えて検体検査装置の保守サービスも提供することとなる。
一旦採用されると検査データや使い勝手の継続性から顧客である病院が採用メーカーを変更することは少なく、新規参入は難しい。7から10年後には機能を高めた後継機種に更新されるというのが同事業の特長である。
(主な参入企業)
シスメックス(6869、東証1部)、日立ハイテクノロジーズ(8036、東証1部)、日本電子(6951、東証1部)、富士フイルム和光純薬(非上場)、アークレイ(非上場)
②IT化・自動化支援事業
(概要)
臨床検査は血液検査であれば、採血室で採取した患者の血液(検体)を臨床検査室に運び、手作業で検体を検査装置にセットする必要がある。
多くの検体について数種類の検査を同時に行わなければならないが、極めて労働集約的な作業で非効率であるとともに、検体の取り間違いといった人的なミスも避けがたいという課題を抱えている。
こうした状況に対し同社では以下2種類のシステムにより検査業務の効率化を支援している。
LASの導入により、従来は7~8名が必要であった作業人員は2名程度で賄うことができるほか、検査時間も90分の検査が30~40分に短縮できるという。
また、LISの導入で、従来は検査項目ごとに紙で出力されていた検査結果をITを使ってデータ集約し、医師に迅速かつ正確にフィードバックできるようになった。また、データマイニングの機能を利用し、異常値の再検数(再検査数)の削減や検査時間の短縮にも役立っている。
(商流)
*国内
LISは日立、IBM、富士通といった病院情報システムメーカーと連携し、LASは日立、東芝、日本電子など大型生化学免疫装置メーカーと連携し、総合提案(※)として大中規模病院検査室を対象に同社の営業が直接販売を行っている。
※総合提案については、【1-5特長・強み】の項を参照。
*海外
LASを韓国、中国などで直接販売を行ってきたが、中国ではOEM供給を開始した。また米国では提携先にLASを構成する主機能である血液を分注するユニット装置のOEM販売を行っている。
(ビジネスモデル)
LIS、LASともにシステム導入後の保守サービスに加え、LISでは追加のシステム接続やカスタマイズなど、LASでは保守サービス、消耗品の供給等、どちらも安定的に売上が計上される。
また検体検査装置同様に使い勝手やデータの連続性などから、顧客における他社製品への乗換え動機は極めて小さい。個別案件の価格帯は、LISで1,000万から5,000万円、LASで1,000万から1億円となっている。
(主な参入企業)
LIS:シスメックスCNA(シスメックス子会社)、地元ベンダー企業等
LAS:アイディエス(非上場)、日立アロカ(非上場)、シーメンスなど
2.開発体制
長年にわたって培ってきた要素技術を幅広い製品開発へつなげるため電気、機械、化学、情報システムについてグループ別組織を採用している。
また、製品区分にとらわれないC・A・C・Lの総合ソリューションを提供する製品開発を進めている。
本社および湘南サイトに約70名のスタッフが在籍している。
2017年12月期の研究開発費は1,093百万円で売上高研究開発費率は10.5%。17年12月期は集中的な投資を実施した期ではあるが、今後も10%程度を目途に引き続き積極的な研究開発を進めていく。
3.生産体制
臨床検査試薬(一部)、消耗品製造を行う湘南工場(神奈川県)、機器、検体検査自動化システム(LAS)および臨床検査試薬(一部)製造を行う江刺工場(岩手県)の2拠点が生産を担う。
高度な設備と厳重な管理体制の下で高品質かつ安全な製品を製造している。開発部門と連携して品質向上や効率化のための改良にも取組んでいる。
今後の更なるトップライン拡大の基盤作りのために、2017年8月に17億円の投資により江刺工場に延床面積7,300㎡の新棟を建設した。この増設により、大幅な能力増強を行う。
4.販売ルート&販売方法
前述のように国内では全国8つの支社が顧客である病院に対し、総合提案力を武器に直接販売を行っている。
また、海外には日本電子など国内OEM先を通じて、シーメンスなど海外顧客やディーラーへ供給している。
このOEM供給によるスケール拡大を基本戦略としており、OEM供給先の多様化に注力している。
海外顧客やディーラーに同社が直接販売する直接海外売上高およびその比率は2017年12月期で約10億円、9.3%だが、国内OEM先を通じて海外に販売している売上高(同社推定値)を加えた実質海外売上高比率は2015年12月期23.4%、2016年12月期24.7%、2017年12月期27.5%と上昇傾向にある。
中期的には5割超を目指している。
【1-5 特長と強み】
◎総合提案力
同社が取り扱う検査対象は電解質検査とグルコース検査が中心で、大型分析装置を製造販売している訳ではない。
ただ、顧客である病院は臨床検査室に様々な検査装置を設置する必要がある。
こうしたニーズに対し同社の検体検査自動化システム(LAS)は、自動搬送ベルトラインに同社装置のみならず、他社装置も組み入れてセッティングすることができる。
自社製品、他社製品を組み合わせて自由に接続・搬送できるシステムおよび技術力を持っているのは同社を含め数少なく、国内シェアは約3割となっている。
また、同社では装置を納入するのみでなく、検査室の広さや形状を踏まえた上で、最も効率的に検査作業が進められるようなレイアウトについても3DCAD等を用いて営業員が提案を行っている。
このように、検査室に必要な製品を揃え、レイアウトも含めて導入から運営までの最適なソリューションをワンストップで提供できる総合提案力は顧客である病院から高く評価されている。
◎特定分野での高い技術力
同社が手掛ける主要検査対象は「電解質検査」と「グルコース検査」の2つだが、特に電解質分析装置における高い技術力は、医用を含めた各種計測機器大手の日本電子や世界的大企業シーメンスがOEM供給を受けていることからも明らかである。市場環境の項で触れたように、日本の医用検体検査機器は世界的に高い競争力を有しており、同社もその一翼を担っている。
2017年12月期も2桁のROEを維持。2018年12月期の売上高当期純利益率は5.6%と予想している。