この記事の結論
- 世界最大級の投資家たちが共同で声明を発表した
- 長期目線での投資や持続可能性の重要性を強調している
- 本質的な情報開示や持続可能性を考慮した投資が今、求められている
2020年3月5日にGPIFが「英語版のみ」でリリース!
表題の通り、3月3日にGPIFが英語版のWebサイトにて、「GPIF, CalSTRS and USS jointly publish the statement “Our Partnership for Sustainable Capital Markets”」というニュースリリースを出しました。
GPIFとは、「独立行政法人年金積立管理運用」という年金積立金の管理と運用を行う機関だワン!
世界最大の機関投資家とも言われているワン!
まだ和訳は発表されていないうえ、日本ではニュースとして報道もされていません。
ですが、イギリスで発行されている経済紙「Financial Times」でもこの件について報じられており、世界的な注目を集めています。
そこで今回は、いろはに投資を運営する(株)インベストメントブリッジが和訳をした文書と一緒に、この声明の意義について簡単に解説致します!
日本最速の解説です!(当社調べ)
全文和訳を公開!
まず、題名は「持続可能な資本市場のためのパートナーシップ」となります。
主な内容としては、「短期的な企業業績や投資リターンを追い求めるのではなく、全てのステークホルダーや環境に配慮をした長期的なリターンに着目するようにしよう」といった内容です。
全文和訳は、以下よりご覧頂けます!(PDFです)
そもそもGPIF、CalSTRS、USSって何?
GPIFとは、先程ご紹介したように日本での年金積立金の管理と運用を行う機関で、世界最大の機関投資家とも言われています。
GPIFは私たちの年金の運用を厚生労働大臣より委託されていて、基本ポートフォリオを含めた中期計画等の策定をしています。
実際の運用は、外部の機関投資家へ委託しています。
CalSTRSとは「カリフォルニア州教職員退職年金基金」のことで、文字通りカリフォルニアの教職員が加入する年金の運用をしている機関です。
GPIFのカリフォルニア教職員バージョンってことね!
2020年1月末時点で、約2,524億ドル(約27兆円)の資産を運用しています。
USSとは、Universities Superannuation Schemeの略で、イギリスの教職員等の年金を運用する機関です。
44万人以上が加盟しており、約674億ポンド(9兆3,000億円)の資産を運用しています。
今回、この世界的に大きな3つの年金基金が共同声明を出したのです。
この声明が発表された背景は?
(あくまでもいろはに投資による考察ですが、)
今回の声明が出された背景には、近年重要視されているSDGsやESG投資について、「より多くの企業や運用機関が長期的な目線で主体的に取り組まなくてはいけない」と改めて発信する意図があったのではないかと考えられます。
最近はブラックロックのCEOが企業向け書簡で『ESGの重要性』や『石炭関連会社への投資を減らす』などの方針を伝える等、民間の運用会社によるESGへの取り組みが進んでいます。
とは言っても、実際にSDGsやESGを意識して情報開示をする企業の数はまだ少なく、投資家も短期的な業績や株価を意識している傾向は根強いままです。
ここ数か月では、新型コロナウイルスの影響による企業業績への懸念や、FRBによる利下げなど、『長期的』『持続的』とは言えない事象に株価が左右されてしまっています。
このような混乱した市場の中で、改めて『長期目線での投資』の重要性や3機関のスタンスについて伝えたかったのではないでしょうか。
なるほど!こういった状況だからこそ、自分たちの考えを伝えたかったのね。
気になる内容は?
全文和訳は前述したURLからご覧いただけますが、ここでは気になる部分を抜粋してご紹介します。
短期リターンを狙うことによるリスク
まず、第2段落で触れられている「もし私たちが単なる短期リターンに集中してしまったら、私たちのポートフォリオへの壊滅的な潜在システマティックリスクを無視することになってしまうでしょう。」という部分です。
システマティックリスクとは、「市場関連リスク」や「分散不能リスク」とも呼ばれており、分散投資を行っても回避できないリスクのことです。
この後に、気候変動が世界経済に及ぼす影響についてのデータが示されていることからも、持続可能性を考慮しない短期リターンを狙った投資をしてしまうと、気候変動リスクと言った分散不能なリスクを背負うことになってしまうと伝えたかったのでしょう。
年金基金にとって魅力的な企業やパートナーとは?
第3段落での企業の姿勢や、アセットマネージャーについての言及からは、各年金基金が『どのような企業に対して投資したいと思うのか』『どのような運用機関に委託したいと思うのか』を知ることができます。
持続可能性の重要性への認識
2ページ目、最後から3段落の部分では、「持続可能性の役割やESG投資についての懐疑主義者は、自分たちがマイノリティになっていることに気付け!」という強い意志が感じられます。
TCFDとは?
TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)とは、日本語で「気候変動関連財務情報開示タスクフォース」と言います。
この組織は、2016年に金融安定理事会(FSB)によって設立されたもので、2017年に世界に向けて最終提言を出しました。
その内容は、
①気候関連のリスクと機会について、情報開示を行う企業を支援する。
②低炭素社会へのスムーズな移行によって、金融市場の安定化を図る。
というものでした。
参考:環境省HP
SASBとは?
SASB(Sustainability Accounting Standards Board)とは、日本語で「米国サステナビリティ会計基準審議会」と言います。
この組織は、米国で、企業の非財務情報(ESG情報)開示の基準作りを進めている非営利組織です。
SASBは、産業界を11セクター77業種に分け、業種ごとに、投資家が重要だと思う情報(マテリアリティ)を明示することによって、ESG情報開示の効率化・最適化を進めています。
参考:SASBホームページ
企業と投資家はどうすれば良いの?
今回の声明を受けて、企業や投資家はどういったアクションを起こせばいいのでしょうか?
企業の場合は、自社のESGやSDGsに対する取り組みを『表面的』ではなく、SASBのマテリアリティなども考慮した上で『本質的な開示』をしていくことが大切になってきます。
それこそ、長期目線での自社の成長性やビジョンを明確に示すことができない企業は、年金基金を始めとした大きな投資家からの資金を集めにくくなる時代が訪れてきているのではないでしょうか?
個人投資家としても、こういった情報開示をしている企業に投資することで長期的に資産形成をしていきたいね。
機関投資家の場合は、今回の声明にあるような『持続可能性』や『環境やステークホルダーとの関わり方』も考慮して投資先を選定していかないと、GPIF等の大きな年金基金から運用委託先として選ばれなくなってしまうことを念頭に置くようにしましょう。
この声明は、世界的な投資の潮流や持続可能性への捉え方に対して大きな意味を持つものだといろはに投資は考えます。
まだ日本語訳も報道も出ていない段階ですので、是非私たちの公開した全文和訳とこの記事があなたの判断にお役立てできたら幸いです。