2024年から新しいNISAがスタートしたことに伴い、資産運用を始めてみたいと考える方も多いと思います。
とはいえ投資経験のなかった方には、どのようなやり方で投資をすべきか悩むかもしれません。
そこで今回は、青山学院大学にてファイナンスと幸福度の研究をされている亀坂 安紀子教授にインタビューを実施。
投資初心者が心理状態に左右されないで投資する方法について、考えをお聞きしました。
取材日:2024年5月15日
ファイナンスや幸福度の研究の面白さとは?
—亀坂教授がファイナンスや幸福度について興味を持たれたきっかけを教えてもらえますか?
亀坂教授:私は、小さい時から自分がわからないことに興味を持つようなところがありました。
しかし、現在ほとんどの研究分野では「ここまでは分かって、次はこれを明らかにして」といった形で研究領域が次第に狭くなってしまいがちです。
そうなると私はだんだん興味を失ってしまうんですね。
そんな中でも、金融という分野はどれだけ研究しても明日の株価はわからないですし、明日の為替レートもわかりません。
このような、これまで全然わからなかったことを学んでみたかったというのが始まりでした。
幸福度の研究については、アリストテレスの時代から幸福論は存在します。
しかし、そこから現在まで長い期間研究されてもまだ明らかになっていないことが多くあるのです。
私自身も幸福論や幸福度の研究をしたところで、自分がどうしたら幸せになるかはわかっていません。
このように、突き詰めていっても全然わからないようなものに興味を持って、現在まで研究しています。
金融は予測が当たったらリターンという形でわかりやすい結果がついてくるため、自分がわかる範囲はこれくらいかなという見通しは立っています。
その点、幸福度の方がまだ全然わからないことばかりですね。
機関投資家は何を見ながら売買している?
—運用のプロである機関投資家は何を見て売買の判断をしていますか?
亀坂教授:機関投資家に対してはアンケート調査を何年も行っていますが、 機関投資家は基本的に株価に影響を与える指標を参考にしながら判断しています。
株価に影響を与える指標とは、例えば消費者物価指数や金利、為替動向、あるいは米国の雇用統計などのいわゆるファンダメンタルズのことです。
それと同時に大口投資家の売買動向にも注目していて、「大口投資家が買い入れている」といった情報は重要視しています。
また、80年代くらいから変わらず機関投資家に見られているのは、外国人投資家による日本株の売買状況です。
私が大学院生の時に取り組んだ研究では、外国人投資家が買うと通常は株価が上がることがわかっています。
そのため、機関投資家は東京証券取引所が公表している投資部門別売買状況というデータに注目しているのです。
参考:JPX「投資部門別売買状況」
このデータによると、売買代金の約6~7割を海外の投資家が占めています。
その分海外投資家のマーケットインパクトが大きく、海外の投資家が日本の株を買ってくれるかどうかが日本の株価上昇に影響を与えているのです。
—これから日本株に投資する海外投資家は増えていくのでしょうか?
亀坂教授:これは難しい話ですが、ひょっとしたら買ってくれるのでは、とも思っています。
ただ、経済活動は国際的に連関しているので、米国の株が下がれば日本の株も下がる傾向があります。
そのため、先に米国が動いて、米国に引きずられて日本の株が動くという可能性もあると思います。
専門家が実践する心理状態に左右されない投資方法とは?
—亀坂教授ご自身は投資や資産運用などはやられているのでしょうか。また、おすすめの投資方法はありますか?
亀坂教授:心理的なバイアスに影響されないよう、一定額を定期的に買うことがいいと思います。
実際に私もそのようにしています。
経済学やファイナンスの理論では投資家は合理的であることを前提としますが、実は投資家の多くは全然合理的ではないんです。
そのため、損をすることがわかっていながら売れないといった具合に、下手な自己判断をするとかえって損失が膨らむこともあります。
毎月一定額を買えば、株価が下がった時にはたくさんの口数、上がった時には少ない口数を買うことになりますよね。
結果的に株が安くなった時、自動的に多くの株を買っていることになるのです。
その方がバイアスを排除でき、結果的に儲かりやすいと言えます。
さらに、毎月自動で一定額を買うという積立式の投資は、新NISAの仕組みとマッチしています。
そのため少額でも良いので、毎月一定額ずつ買うことから始めるのをおすすめしています。
投資初心者が最低限知っておきたい心理的な影響とは?
—投資を始める上で、初心者が最低限知っておいた方がいい心理的な影響はありますか?
亀坂教授:メンタルアカウンティングに関する研究で分かっていることで、気を付けるべき点があります。
まず、倍掛けには走らないことです。
投資家は損をなるべく受け入れたくないため、損した分倍掛けして取り返そうとする心理が働きます。
これに加えて、買った値段に引きずられやすいことを意識するというのも重要です。
普通投資家は、買った値段より上がると早く売りたくなりますが、下がると売れなくなりがちです。
下がるのが分かっているのに、すぐに損切りできる人は少ないのです。
あとは、日経平均の動きとの比較を必ずしてください。
日経平均が上昇しているときは基本的にみんな上がるので、儲かったからと言って「自分には才能あるかも」とすぐ思わないことが大事です。
—日経平均と比較することで、自信過剰にならないようにしているんですね。
亀坂教授:ただ、相場全体が上がっているときに投資できれば儲かりやすいので、「いつ買うか」のタイミングも重要になってきます。
なぜなら、本当にいい会社であっても割高な時に買ってしまうリスクがあるからです。
本当にいい会社だと思ったら、その企業の株を中長期的に持てば上がる可能性もありますね。
投資に興味を持つ若者へのメッセージ
—最近では、投資に興味を持っている若年層も増えています。若い世代に向けてのメッセージやアドバイスなどございますか?
亀坂教授:投資に興味を持ったら、ぜひ積極的に学んでもらいたいと思っています。
最近ではスマホでも日経平均株価や為替相場などを検索すると情報がすぐ出てくるので、とりあえず相場を見てみると勉強になるかもしれません。
「海外旅行の費用って、日本円で今いくら」「最近日本に外国人が多いのはなぜだろう」といった、身近なところから興味を持って為替や株の値動きを調べるようになってもらえたら嬉しいです。
—では株に興味を持ったら、とりあえず売買を始めてみるのが良さそうですか?
亀坂教授:私のゼミ生には、まず最初はバーチャルでの売買をおすすめしています。
そこから始めて、余裕資金ができた人は、少額からでも実際に投資している人が多いですね。
ただし、余裕資金というのは当面は無くてもいいくらい、売却しなくても生活に困らないくらいのお金です。
その範囲内で投資をするということは常に意識しないといけません。