2024年から新しいNISAがスタートしたことに伴い、資産運用を始めてみたいと考える方も多いと思います。
とはいえ投資経験のなかった方には、どのような企業や銘柄に投資をすべきか悩むかもしれません。
そこで今回は、阪南大学にて会計情報と株価の関連の研究をされている中條 良美教授にインタビューを実施。
個人投資家が注目すべき会計指標について考えをお聞きしました。
取材日:2024年3月1日
会計の面白さとは?
—中條先生が会計に興味を持たれたきっかけを教えてもらえますか?
中條教授:博士課程時代に出会った社会人の方が、会計に対する計量的なアプローチを行なっていました。
要するに、たくさんの企業サンプルを集めてきて、実際の会計データを株価と付き合わせます。会計情報を分析することで、どのような会社の株が割安か割高かを浮き彫りにします。
私はこの方法にとても興味を惹かれました。自分の技能的にも合っていたみたいで、今も専門にしています。
なので、現実の株価を説明する上での会計情報の役立ちに面白さを感じたというのが大きいですね。
逆に、伝統的な会計の学びである、論証能力が必要な法的アプローチについては苦手意識がありました。
例えばとある会計基準があった時、それが論理的に一貫した適切な基準なのか法的なアプローチで検討することは私が学生時代によく取られていた手法ですが、あまり馴染めなかったですね。
—財務会計を学ぶ上で、数学的なセンスは必要になってくるのでしょうか?
中條教授:財務会計に必要な力は、第一に情報の照合能力だと思います。
つまり一つの情報と関連する別の情報というものを、うまく照合させる力という感じですね。
それはフラッシュ暗算のような計算能力とは異なるので、必ずしも「数字に強い=数字の照合能力が高い」ではないと思います。
不思議な話で、高校時代の数学の成績と会計で数字を扱う能力は、必ずしも一致しないんですよ。
もちろん数学的な能力があるに越したことはないですが、必要条件にはなっていないと考えます。
投資家が見るべき会計指標とは?
—個人投資家目線から企業の決算の見るべきポイントはどこですか?
中條教授:経営者が出している1年先の予想ですね。経営者の予想情報を参考にして、企業の実力を判断することができると考えます。
成長する企業と成長しない企業の違いは、経営者の能力に依存する部分が非常に大きいと思います。では、経営者の能力とは何なのかと考えたときに、私は予測能力だと思うんですよね。
先進国の中で、上場企業の経営者が予測情報を毎年出している国は日本だけでして、アメリカにおいては任意開示となっています。
日本の場合は、東証のルールによって決められるため、おおよそ100%経営者が予想を出しています。そこの部分に注目してみてはいかがでしょうか。
投資家必見!財務会計の専門家が語るポートフォリオの組み方とは?
—投資初心者にとってはポートフォリオの組み方や、投資の始め方の部分で悩んでしまうことが多いと思います。何かコツはあるのでしょうか?
中條教授:ポートフォリオについては、年齢や資産状況によって異なると思います。
とはいえ、突き詰めると結局は個別株投資ではなく、インデックス投資になると考えています。面白くないですが(笑)
経験則上、毎月決まった日に決まった金額をインデックスに投資していると、株価の一時的な上昇や下落、運悪く暴落の局面に出会ったとしても資産を形成していくことができます。
やはり、30年を目安として長期的な視点を持つことが重要だと思います。
—そういったお話を踏まえ、長期的な観点やリスク分散の観点から若者はどういったポートフォリオを組めば良いですか?
中條教授:大きなリスクを避けたい投資の初心者の場合、債券という選択肢も有効だと思います。
日本の金利はここ何十年もほぼゼロ金利の状態が続いていますが、海外の債券は利回りが高く、それなりのリターンを期待できるので若者にとっても魅力的だと言えます。
資金的な余裕が出てきてから、株式等のリスク資産を少しずつ増やしていくのがベターだと思います。
現在の日経平均株価の上昇について要因と注意点は?
—日経平均株価が最高値を更新しています。現在の株価の上昇は適正なのでしょうか?
中條教授:PERやPBRといったファンダメンタル指標を参照すると、そこまで過熱感はないと思います。
最高値3万8,915円をつけたバブル時と比較すると、結局1倍に戻っただけという考え方もできます。当時と比較して数倍も成長している米国等と比べると、まだまだ過熱感はない印象を受けます。
ただ、値上がりのスピードに関しては注意が必要だと感じています。
1999年のITバブル期、「アベノミクス相場」初期の2013年を上回る過去最速のペースで株価が上昇を続ける株価に対して、一時的な調整局面はあると思いますが、長期的に見ると株価の上昇は今後も続いていくのではないでしょうか。
—様々な要素があると思いますが、日経平均株価が上昇している最大の要素は何でしょうか?
中條教授:貸借対照表の固定資産の部分、特に投資その他の資産(有価証券)に注目しています。
一部企業の内部留保が増えていることが問題視されていますが、内部留保の裏付けに海外投資があるのではと考えています。
日本国内は人口減少によりマーケットが縮小傾向にあるため、製造業を中心にリスクは高いものの海外展開を進めてきました。
その結果が、投資その他の資産(有価証券)の拡大に結び付いていると思います。
投資に興味を持つ若者へのメッセージ
—最近では、投資に興味を持っている若い方も増えています。若い世代に向けてのメッセージやアドバイスなどございますか?
中條教授:投資に対して恐怖感であったり、面倒くささを感じる方は少なくないと思います。
ただ、お金は原理で動くところもあるので、法則さえ知っていれば、着実に増やせることを知っておいてほしいです。
また、投資には時間とともに曲線的に資産が増えていく複利効果の側面があります。
若いうちから投資を始めてトライアンドエラーしていただきたいと思っています。