この記事の結論
- 今では当たり前の「茶系飲料市場」は伊藤園が開拓した!
- 健康需要が高まっている海外市場が成長の鍵
- 日本の上場企業で唯一優先株を発行していて、配当金は1.25倍
「投資を始める大学生が増えている」と聞きつけた いろはに投資編集部。
そこで、日本最大の学生投資連合「USIC」の協力のもと、実際に投資をしている大学生に記事を書いてもらいました。
著者プロフィール
こんにちは、北海道大学歯学部6年の斉藤隆馬と申します。
小さい頃から社会がどのように動いているか興味があり、比較的早い時期から株式投資に触れてきました。
好みの投資スタイルは長期・逆張り・中小型で、リターンよりも再現性のある投資を目標にしています。
投資を始めると、日々のニュースに関心を持つことができるワン!
今回は、私達の生活にも身近なお茶製品を取り扱っている、株式会社伊藤園(2593)を分析していきます。
コンビニや自動販売機では様々な種類のお茶が販売されていますが、皆さんはどのような基準で選んでいるしょうか。
伊藤園のIR資料やブリッジレポートを元に企業分析をしていくことで、今まで気が付かなかった魅力に気付けるかもしれませんよ。
伊藤園の企業概要
伊藤園の企業概要について、以下の3点にフォーカスして解説していきます。
- セグメント
- ブランド
- 歴史
①セグメント
伊藤園は以下の3つのセグメントで構成されています。
- リーフ・ドリンク関連事業:飲料や茶葉の製造販売を行う
- 飲食関連事業:タリーズコーヒージャパン(株)によるスペシャルティコーヒーの飲食店経営とFC展開
- その他:Mason Distributors,Inc.(米国フロリダ州)が手掛けるサプリメントの製造・販売等
リーフ・ドリンク事業の売上が90%近くを占めていますね。
タリーズコーヒーは伊藤園の子会社だったんだね!
②ブランド
「お〜いお茶」、「健康ミネラルむぎ茶」、「1日分の野菜」などが主力ブランドです。
実はタリーズコーヒージャパンは伊藤園の子会社であり、ボトル缶ブラックコーヒー市場では販売シェアナンバーワンを記録しています。
※インテージSRI+(コーヒーボトル缶ブラック市場/期間: 2020年1月~12月/販売金額)
お茶やコーヒーなど、生活に身近な商品ばかりだね!
③歴史
伊藤園の創業は1966年で、前身は「フロンティア製茶株式会社」という企業です。
最初は茶葉の流通業からのスタートでした。
1969年に歴史のある茶問屋より「伊藤園」の暖簾を譲り受けて商号を変更、メーカーへと参入しました。
伊藤園という名前を譲り受け、製造メーカーへと変わっていったんだね!
市場環境
次に、伊藤園の市場環境について見ていきましょう。
飲料業界での同社のポジションを知ることが出来ます。
飲料・お茶業界
「お〜いお茶」登場以前の国内飲料市場は、炭酸・コーヒー飲料がメインの時代でした。
1985年に伊藤園が世界初の緑茶飲料「缶入り煎茶」を発売、1990年に世界初のペットボトル入り緑茶を製品化、2000年に飲料業界初のホット専用ペットボトル入り緑茶の製品化を行いました。
これらのイノベーションに伴って業界全体が活性化し、以降は健康需要の高まりも受けて茶系・無糖飲料の時代へと変化しています。
現在は国内飲料の半数以上が無糖飲料です。
伊藤園のシェア
メガブランドである「お〜いお茶」は緑茶飲料市場において、2002年のデータ開示以来19年連続売上ナンバーワンを記録し続けています。
でも、コンビニや自動販売機には他のお茶もたくさんあるけど…、どうして伊藤園はこんなに愛されているんだろう?
競争優位性
伊藤園は「お客様第一主義」を経営理念に、「世界のティーカンパニー」を中長期ビジョンとして活動しています。
そもそも、「お〜いお茶」発売まで日本ではお茶は家で飲むもの、お店では無料で飲むものというイメージが一般的でした。
ですが伊藤園の企業努力によって様々な技術的問題を解決し、顧客のコスト意識や文化的抵抗感も払拭され、今日まで強い支持を受けています。
現在、伊藤園での企画・開発は以下の5つの製品開発コンセプトを元に行われています。
- 自然
- 健康
- 安全
- 良いデザイン
- おいしい
それぞれのコンセプトの例から、伊藤園の優位性を考察していきます。
自然
伊藤園の製品はお茶・麦・コーヒー豆・野菜など、ほとんどの原料を自然から得るものが多いです。
無糖飲料の割合が高いことからも分かるように、素材を活かした製品が多いことも特徴的ですね。
健康
お茶は古くから健康に良いと考えられてきましたが、研究によって科学的にも様々な効果が報告されています。
例えば体脂肪を減らす機能が報告されるガレート型カテキンを含む「お~いお茶 濃い茶」は、2019年9月に機能性表示食品としてリニューアル発売。
販売数量が24ヵ月連続で前年増を続け、機能性表示食品(飲料)で販売数量ナンバーワンを記録しています。
また、伊藤園の製品ラインナップの大きな特徴として、以下の2点が挙げられます。
- 無糖飲料のラインナップが豊富である(無糖飲料比率75%)
- アルコール飲料製品を販売していない
お茶製品を軸とした製造販売を行うことで、伊藤園は「健康」という価値を提供しているのですね。
確かに、伊藤園=健康ってイメージはあるなぁ
安全
伊藤園は日本農業の課題解決と原料茶葉安定調達の両立を目指して、茶産地育成事業にも取り組んでいます。
日本の緑茶(荒茶)の生産量のうち伊藤園の取扱量は約4分の1を占めていますが、国内の茶園面積は年々減少しているという課題があります。
そこで伊藤園は1976年から茶産地育成事業を開始し、農業者や行政に対して機械化やIT化などのノウハウを提供することで新規・既存農家による生産性改善を支援し、全量買い上げ契約も結んでいます。
これにより伊藤園は高品質な茶葉を安定的に調達することが可能となり、農家も安定した農業経営ができるようになります。
また、増加している耕作放棄地対策、地域活性化など持続的に価値共創する取り組みも行っていますよ。
自社だけでなく、お茶農家や持続性まで考えているんだワン!
良いデザイン
伊藤園はイノベーションによってお茶は家で飲むものという常識を覆し、「美味しいお茶を手軽に買って持ち歩く」という新しいライフスタイルと緑茶文化を創造した企業です。
1980〜1990年以前は困難とされていた保存性に優れた緑茶飲料の開発を可能にした缶入り緑茶など、業界に先駆けた商品開発を行ってきました。
現在の「お~いお茶」のペットボトルにも緑茶の鮮度を守る工夫が施されています。
「お~いお茶」 のペットボトル肩部にはギザギザが付いており、光を乱反射させることができます。
このギザギザによって、お茶を劣化原因の光から守っているのです。
おいしい
「お~いお茶」は2002年のデータ開示以来、緑茶飲料で19年連続で売上ナンバーワンを獲得しています。
そこには美味しさへの強いこだわりがあります。
今では普通にコンビニや自動販売機で購入できる緑茶ですが、実は劣化しやすく、鮮度が重要な飲料なのです。
2021年のリニューアルでは、鮮度にこだわった6つのアクションを実施することで様々な飲用シーンでの美味しさを追求しています。
①鮮度茶葉
・荒茶加工の際に余計な熱を掛けずにフレッシュな状態で香りを保持
・茶園から荒茶工場に運ぶ茶葉を冷却
②鮮度火入れ
・マイクロ波火入れにより茶葉内部の水分を乾燥
③鮮度物流
・温度、湿度が管理された場所で保管し、必要分のみ飲料製造工場に出荷
④鮮度抽出
・抽出直前に茶葉を煎り、香りを引き出す
⑤鮮度充填
・内容液や容器内から酸素を取り除く、脱酸素充填
⑥鮮度ボトル
・光から内容液を守る70本のカットがある容器
公式ブランドサイトの説明動画は丁寧な説明で分かりやすいワン!
緑茶製品は多数あるけど、「お〜いお茶」には様々なこだわりがあるんだね!
伊藤園の経営方針
伊藤園はROEを重要な経営指標と位置づけ、10%以上のROEを目標に設定しています。
さらにROEを分解し、収益性、効率性、財務レバレッジそれぞれに目標を掲げて改善を行っています。
「効率性」では伊藤園の一つの特徴が現れていて、ファブレス経営を採用しています。
ボトリング工場を内製化しないことで大きな設備投資が不要となり、成長事業へ効率的な投資を行うことができるのです。
またボトリングについては委託する一方で、緑茶の直接的な美味しさを引き出す「茶葉の加工は自社工場で行う」というこだわりも持っています。
21/4月期は新型コロナウイルスの影響でROEは4.7%ではあるものの、役員報酬には業績連動報酬を導入していることからも、今後も株主目線での経営が期待できると思います。
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優先株
伊藤園の大きな特徴として優先株式制度を導入している点も挙げられます。
アメリカでは割と多いのですが、日本の上場企業で優先株式を発行しているのは伊藤園のみです。
伊藤園の優先株式は議決権を持たない代わりに、配当金が1.25倍になるという制度です。
株価も普通株式と比較すると低位で推移しているため、個人投資家にはおすすめな種類だと思います。
成長ドライバー
伊藤園のここ2年の業績は、新型コロナウイルスの影響を強く受けています。
外出自粛やリモートワーク普及によりコンビニ等での飲料販売が不振で、さらに都心部に多数出店していたタリーズコーヒーも強い影響を受けました。
一方、ポジティブな影響も見られました。
大きな市場シェアを握るリーフ事業では、コト消費の一部として自宅で楽しむ顧客が増え、業績が上向いています。
アフターコロナでも緑茶の価値訴求が進めば、より売り上げへの貢献が増すかもしれません。
また、伊藤園の最大の成長ドライバーは海外進出だと考えられます。
1987年のアメリカ・中国、1994年のオーストラリア、2012年の東南アジアなど、伊藤園は早くから海外進出に積極的です。
海外での健康志向の高まりや日本食・抹茶人気を背景に、市場拡大と「ITO EN」ブランドの認知を進め、世界のティーカンパニーを目指しています。
海外では砂糖税が導入されたり、シリコンバレーのオフィスで日本茶が飲まれているニュースも見たことがあるね!
今後の課題【海外進出】
今後も成長するためには海外事業での成功が重要となると考えられます。
今後は紅茶・コーヒー・有糖茶が一般的な世界の方々に対して、日本茶を広めていけるかどうかが注目されます。
ただ近年、海外では健康面で日本茶が注目を浴びているので追い風ではあるでしょう。
海外の方々へ向けて健康や美味しさだけでなく、長い年月をかけて日本人が獲得した「お茶による幸福感」を訴えていけるかどうかが伊藤園の大きな課題と考えられます。
健康に良い成分、食事を邪魔しない素朴な味、相手をもてなすお茶の心、これらの魅力はきっと海外の人達にも受け入れられるはずだよ!
まとめ【伊藤園を分析】
今回は伊藤園の企業情報から競合優位性、今後の課題などを大学生の視点で分析してきました。
最後に重要な点を3つにまとめたいと思います。
- 今では当たり前の「茶系飲料市場」は伊藤園が開拓した!
- 健康需要が高まっている海外市場が成長の鍵
- 日本の上場企業で唯一優先株を発行していて、配当金は1.25倍
企業分析をすることで知られざる企業の一面を発見することが出来ます。
是非皆さんも企業分析に挑戦してみてくださいね!