・コーポレートガバナンス・コードってそもそも何?
・2021年にどのような改訂が行われたの?
このようなお悩みを解決します。
この記事の結論
- コーポレートガバナンス・コードは会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上が目的
- 東証の再編などに伴い、2021年にコーポレートガバナンス・コードは改訂された
- 投資家は企業の遵守状況だけでなく、遵守していない理由もチェックしよう!
コーポレートガバナンス・コードとは?
コーポレートガバナンス・コードは、2015年に初めて日本に導入されました。
そもそもコーポレートガバナンス・コードって何だろう?
東京証券取引所はコーポレートガバナンス・コードを以下のように定義しています。
本コードにおいて、「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。
本コードは、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものであり、これらが適切に実践されることは、それぞれの会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られることを通じて、会社、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することとなるものと考えられる。
東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」より
ちょっと難しいなぁ…
簡単に言ってしまえば、コーポレートガバナンス・コードとは企業統治(コーポレートガバナンス)においてガイドラインとなる原則・指針のことです。
コーポレートガバナンス・コードでは、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上が目的とされています。
企業価値の向上が、日本経済の発展への寄与につながるというわけだね。
現在、コーポレートガバナンス・コードは、主要国のほとんどで導入されています。
コーポレートガバナンス・コード改訂の背景【2021】
コーポレートガバナンス・コードは、2021年6月に改訂されました。
なんで改訂されたのかな?
改訂された理由は主に3つあります。
- コロナ感染拡大とサスティナビリティ対応の必要
- 東京証券取引所の市場区分改革
- 3年に1度の見直しの時期
それぞれ確認していきましょう。
①コロナ感染拡大とサスティナビリティ対応の必要
新型コロナの感染拡大により、多くの企業がDXや働き方の変革と向き合うこととなりました。
企業を取り巻く環境が急激に変化している状況で新たな成長を実現するためには、それぞれの企業が課題を再認識し、変化を先取りする必要があります。
企業の存在意義を再確認することが必要となったんだね。
さらに、近年世界的にESG/SDGs・サスティナビリティなどの課題も重要視されています。
時代の変化に合わせて企業が課題を認識し、スピード感をもって取り組めるようにすることは、コーポレートガバナンス・コードが改訂された理由の一つです。
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②東京証券取引所の市場区分改革
2022年4月に実施された東京証券取引所の新市場区分では、既存の市場がプライム市場、 スタンダード市場、 グロース市場の3つの区分に再編されました。
企業がそれぞれの新市場区分の特性に応じて、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指してガバナンスの向上に取り組めるよう、コーポレートガバナンス・コードも改訂されたのです。
プライム市場の上場会社に求められる「より高いガバナンス水準」の具体的な指針も議論されました。
特に、プライム市場はグローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向けの市場であることから、プライム市場の上場会社には、一段高いガバナンスについて定めた原則を適用することとしています。
JPX(日本取引所グループ)市場区分見直しの概要より
プライム市場には、日本を代表する投資対象となる企業が集まる市場として、国際的にも魅力あふれる市場となることが期待されているんだワン!
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③3年に1度の定期的な見直し
コーポレートガバナンス・コードは、不変のものではなく、目的実現のために継続的な見直しが必要とされています。
今回は3年に1度の定期的な見直しの時期でもありました。
そうすると…2018年にも改訂があったということか!
2018年といえば、「対話ガイドライン」も策定されたんだよね。
「対話ガイドライン」って「コーポレートガバナンス・コード」と関係があるの?
ここで、「コーポレートガバナンス・コード」を取り巻く、「スチュワードシップ・コード」と「投資家と企業の対話ガイドライン」(対話ガイドライン)について確認してみましょう。
まず、コーポレートガバナンス・コードとは上場企業に向けた規範・行動原則ですが、機関投資家に向けた行動原則として、「スチュワードシップ・コード」もあります。
2つのコードを車の両輪とし、企業と投資家との建設的な対話を促進することを通じて日本経済の好循環の実現を目指します。
それらの附属文書として位置付けられるのが「投資家と企業の対話ガイドライン」(対話ガイドライン)です。
機関投資家と企業との間で、スチュアートシップ・コードや、コーポレートガバナンス・コードの事項について建設的な対話が行われることを通じ、企業が自社の経営理念に基づき、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を実現し、経済全体の成長と国民の安定的な資産形成に寄与することが期待されています。
これまで、それぞれ3年ごとに改訂が行われてきました。
コーポレートガバナンス・コードは、2021年6月が3年ごとの改訂の時期となっていました。
コーポレートガバナンス・コード改訂の主なポイント
次にコーポレートガバナンス・コード改訂の主なポイントを見ていきます。
まず、コーポレートガバナンス・コードの構成について解説します。
5つの「基本原則」と、紐づく「原則」「補充原則」の三層構造で構成されているんだワン!
基本原則1~5 | 内容 |
---|---|
基本原則1 | 株主の権利・平等性の確保 |
基本原則2 | 株主以外のステークホルダーとの適切な協働 |
基本原則3 | 適切な情報開示と透明性の確保 |
基本原則4 | 取締役会等の責務 |
基本原則5 | 株主との対話 |
今回の改訂によって、コーポレートガバナンス・コードは、計83の原則になりました。
改訂の対象となったのは全部で18箇所(微細な字句修正だけの箇所を除く)で、主に補充原則が改訂となりました。
改訂のポイントは大きく4つあるので、順番に見ていきましょう。
- 取締役会の機能発揮
- 企業の中核人材における多様性の確保
- サステナビリティを巡る課題への取組み
- その他個別の項目
①取締役会の機能発揮
改訂コードでは、次のような高いレベルの取締役会構成の独立性を求める内容が示されました。
- プライム市場上場会社において、独立社外取締役を3分の1以上選任
- 経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)と、各取締役のスキルとの対応関係の公表
- 他社での経営経験を有する経営人材の独立社外取締役への選任
- 指名委員会・報酬委員会の設置
プライム市場では独立社外取締役を3分の1以上設けることや、取締役のスキルをまとめた「スキル・マトリクス」を作成する点が注目されています。
東証によると、東証一部上場企業のうち3分の1以上の独立社外取締役を選任する企業は72.8%、JPX日経400企業に限ると87.0%となっているようです。
②企業の中核人材における多様性の確保
企業経営にとって、コロナ後の企業変革を促進するためにも多様性の確保は特に重要です。
改訂コードでは次の2つが求められました。
- 管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標の設定
- 多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表
年齢・国籍・性別・職歴を問わず、多様な人材が活躍しイノベーションが促進される企業であれば、利益を生み出し、中長期的な企業価値の向上にも期待ができます。
③サスティナビリティをめぐる課題への取り組み
改訂コードでは複数箇所にわたって、気候変動を含むサステナビリティの課題への取組みの重要性が強調されています。
- サステナビリティについて基本的な方針を策定し、自社の取組みを開示
- プライム市場上場会社において、TCFD又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実
TCFDって何だろう?
TCFDとは
- 金融安定理事会(FSB)が設立した気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)が2017年6月に提言を公表
- 企業に対し、気候関連のリスクおよび機会に関連付けて、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標という4つの要素の情報開示を推奨している
国際的に、サスティナビリティ関連の情報開示制度の検討や情報開示の統一的な枠組みの策定に向けた動きがあります。
日本企業においても、サスティナビリティ、ESGを意識した企業経営が求められます。
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④その他個別の項目
その他の改訂項目は次の通りです。
- 上場子会社においては、独立社外取締役を3分の1以上(プライム市場上場会社においては過半数)選任又は利益相反管理のための委員会の設置
- グループ全体を含めた適切な内部統制や全社的リスク管理体制の構築と運用状況の監督 など
なるほど…改訂の概要が掴めてきたよ!
プライム市場の上場会社に求めるものとしては、具体的にどのような改訂があったんだろう?
今回の改訂では、プライム市場上場会社に求める6つの諸原則の追加・加筆が含まれています。
内容を確認してみましょう。
プライム市場では、より高いガバナンス水準が求められているね!
今後の注目点
今回の改訂をふまえて、投資家はどこに注目したら良いんだろう?
今回のコーポレートガバナンス・コード改訂では、取締役会の機能発揮、企業の中核人材の多様性の確保、サステナビリティを巡る課題への取り組みについて、より具体的な内容が追加・新設されました。
プライム市場に限らず、その他の市場においてもサステナビリティを巡る課題への取り組みは随所に追加されています。
海外だけでなく国内でもESG投資がより活発になる見通しの中で、サステナビリティへの取り組みは重要な視点となりそうです。
サスティナビリティ課題への積極的な取り組み
サスティナビリティとは、ESGやSDGsのように、世界を持続可能にしようとする動きの総称です。
これらの課題へ積極的に取り組んでいる企業を見てみましょう。
TOA株式会社のサスティナビリティ
TOA株式会社は、避難誘導や案内放送を行う非常用放送設備、快適な空間を創造する音響システム、防犯カメラを含めた監視システムなど、音響機器、映像機器の製造販売を行う専門メーカーです。
2022年4月4日よりプライム市場を選択している同社では、サステナビリティ方針における5つの取組み掲げています。
- 社会課題解決に向けたソリューション
- 安全・安心なモノ・コトづくり
- 従業員の安心づくり
- 地域社会との共生
- コーポレート・ガバナンス
それぞれの取り組みに具体的な目標を掲げて取り組んでおり、同社の代表取締役社長、竹内氏はインタビューで次のように語っています。
-
御社の責任や存在意義とESGの関係性についてお聞かせください。
-
当社には創業期に定められた「経営基本方針:三つの安心」があります。
一、顧客が安心して使用できる商品をつくる。
一、取引先が安心して取引きできるようにする。
一、従業員が安心して働けるようにする。これは、お客さまはもちろんのこと、取引先や従業員、ひいては私たちを取り巻く自然環境など当社を取り巻くあらゆるステークホルダーの安心をつくっていくために努力し続けていくことの重要性を記したものです。こうした考えは、当社の企業価値や、今年度より掲げている経営ビジョン2030「Dr. Sound -社会の音を良くするプロフェッショナル集団- になる」においても基礎となっています。音の専門メーカーとして、社会課題解決に向けたソリューションを提供し続けるためにも、社会の変化、環境の変化に適応させた地域社会との共生、企業としてのガバナンスの取組みの進化を継続していきます。
(ESGレポート「トップインタビュー」より抜粋)
会社全体としてESGに取り組んでいるんだね!
\プロのアナリストが執筆/
CG報告書の更新
上場会社に対しては、各社のコーポレート・ガバナンスの状況を投資家により明確に伝える手段として、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の開示が求められています。
今回のコードの改訂に伴い東京証券取引所の「コーポレート・ガバナンスに関する報告書記載要領」も変更されました。
3項目が新設され、開示すべき原則が全部で14項目となりました。
プライム市場上場会社向けの各原則については、遅くとも2022年4月4日以降に開催される定時株主総会の終了後に提出することが求められています。
コーポレートガバナンス・コードでは、コンプライ・オア・エクスプレインを採用しており、エクスプレインすることが認められています。
コンプライ・オア・エクスプレインってなんだろう?
コンプライ・オア・エクスプレイン
「コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or Explain)」とは、「遵守(コンプライ)せよ、さもなくば、説明(エクスプレイン)せよ」というもの。
当事者に対し、コーポレートガバナンス・コードを遵守するか、遵守しないのであれば、その理由を説明することを求めるもの。
コンプライしていることが必ずしも合格点であるというわけではありません。
企業側は、自社の状況や今後の在り方を充分に検討し、エクスプレインを選択することもできるのです。
先程紹介したTOA株式会社のコーポレートガバナンス報告書には、「コンプライ」部分と「エクスプレン」部分も明記されています。
【まとめ】コーポレートガバナンス・コード
今回はコーポレートガバナンス・コードの改訂について見てきました。
最後に、本記事の重要なポイントをまとめます。
- コーポレートガバナンス・コードは会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上が目的
- 東証の再編などに伴い、2021年にコーポレートガバナンス・コードは改訂された
- 投資家は企業の遵守状況だけでなく、遵守していない理由もチェックしよう!
サステナビリティを巡る課題への取り組みについて、より具体的な内容が追加・新設されていることから、個人投資家もESGの視点から企業選定が必要になってくると言えるでしょう。
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