株式市場が乱高下した8月を終えて、9月相場がスタートしました。まだまだ波乱は続いていますが、応援したいと思える”キラリと光る企業”を発掘したいところ。
今回は元お笑い芸人でもあり、7月には累計投資利益 100億円を突破し話題となった”井村俊哉”さんが、個人投資家を代表して株式会社yutori<5892> 片石社長にインタビューを行いました。
💡この記事のまとめ
- 2024年3月期は売上高43億円、営業利益3.8億円と過去最高売上・利益。”こじはる”の会社をM&Aして話題に。
>>この章を読む - yutori社3つの特徴は①若者の初期衝動に価値を置く、②編集者が再現性を持たせている、③多ブランド展開
>>この章を読む - 多ブランド展開によるカニバリよりも、各ブランドの売上成長を重視。新規顧客は順調に増加。
>>この章を読む - 多ブランドではなく、“多テイスト”が今後の成長のカギを握る。
>>この章を読む - heart relation社のM&Aはターゲット世代の拡張、商材拡大、人材獲得すべてに貢献。
>>この章を読む - 井村さんの感想:一発当てることはできても、それを継続的にできるか・再現できるのか、という点が非常に重要です。若者のポテンシャルを引き出し、それを組織的に再現し、ブランドを量産する。今回の対談で、多ブランド展開にかける決してゆとらない戦略的な意図を感じました。
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アンケ―トは期日に達したため、締め切らせて頂きました。たくさんのご協力ありがとうございました。
※本記事のインタビューは、yutori社のYouTubeチャンネル「yutori IR channel」でも公開中です。併せてご覧ください。
企業名 | 株式会社yutori |
市場・証券コード | 東証グロース・5892 2023年12月に上場 |
株価 | 2,406円 |
時価総額 | 約11,301百万円 |
PER/PBR | 41.2倍/17.3倍 |
配当/配当利回り | 0円/0% |
※本記事は企業情報をご提供するもので、個別企業の株式売買を推奨するものではありません。
大幅な増収増益・M&Aが話題になったyutori社
本日はよろしくお願いします!
SNSでも度々話題になるyutoriさんですが、まずは御社の事業内容を簡単に教えてください。
当社は主にZ世代を対象に、複数のアパレルブランドを展開しています。
ストリートファッションを中心に、合計31のブランドを展開しています。
SNSマーケティングを強みとしていて、オンラインでの販売比率は約7割です。
業績はどのような状況でしょうか?
2024年3月期は売上高43億円、営業利益3.8億円でした。
2023年3月期の売上高24億円、営業赤字0.47億円から大幅増収・黒字化を果たして、売上・利益ともに過去最高となっています。
2025年3月期も増収増益を予定していて、売上高56億円、営業利益5億円の予想としています。
御社といえば、元AKB48の小嶋陽菜さんが経営する株式会社heart relationのグループジョインも話題ですよね。
そうですね、8月に株式会社heart relation(以下、heart relation)の株式取得を発表しました。
当社は多ブランド展開による成長を目指しており、現在の31ブランドを今後70まで増やす計画を持っています。
heart relationのグループジョインは多ブランド展開の一環でもあり、今後の顧客層の拡大・別商材の展開に大きく貢献するものです。
今回のグループジョインはSNS上で大きな話題となり、効果的なPRにも繋がりました。
全ては”若者の初期衝動”から始まる。yutori社3つの特徴
ここからは、忖度なしに御社を切り込んでいきたいと思います。
その前に、まずは片石社長が考える「yutori社 3つの特徴」を教えてください。
当社の特徴としては、以下の3点が挙げられます。
- 若者の初期衝動に価値を置いている
- 編集者が再現性を持たせている
- 多ブランド展開
まず「1.若者の初期衝動に価値を置いている」ですが、現在はZ世代中心にSNSを経由した個人のモノ作り・購入が日常化しています。
身近な例ではイラストや漫画が有名ですが、アパレルも同様です。
当社には「何かを作りたい」という若者が集まっていて、若い子の“コレを作りたい”という熱量を様々な商品に転換して、お客様に届けています。
とはいえ、アパレル業界は平均給与の低さが課題かと思います。
やる気ある若者が、安い給料で働いているイメージがどうしてもあるのですが…
おっしゃる通り、給与の低さはアパレル業界の課題です。
ですが、当社は平均年齢25.2歳で平均年収は490万円のため、業界内では非常に高い水準としています。
若くて・やりたいことができて・給与も高い、という全部取りが当社のコンセプトとなっています。
若者の初期衝動に価値を置いているので、しっかりとその”価値”に給与でも還元すべきだと考えています。
なるほど。特徴の1番目に「若者の初期衝動」を挙げたことからも、御社のポリシーとして徹底しているんだなと感じますね。
次に、「2.編集者が再現性を持たせている」について教えてください。
編集者は分かりやすく、プロデューサーと言い換えてもよいですね。
「若者の熱量ある想いやイメージを、プロデューサーが形にしてビジネスとして成立させる」ところまで当社は仕組み化しています。
マーケットは常に変化するので、過去の成功はそのままでは通用しません。
若者の初期衝動を、変化するマーケットにフィットさせ、モノ作りをビジネスとして成功させる。この役割を担う編集者は非常に重要な存在です。
編集者の育成は簡単なのでしょうか?
編集者が1人いれば複数ブランドを見ることができますが、編集者の育成は簡単ではありません。
編集者の採用ペースによって、当社のオーガニックでの成長速度が変わると言っても過言ではありません。
そのため、自社での育成に力を入れつつも、外部採用やブランドのM&Aによって編集者の採用・育成は強化しています。
特にアパレル業界ではそれほど高くなくM&Aができるブランドも多々あるので、アクハイア(人材採用のためのM&A)も選択肢として常に考えています。
編集者の確保は、社長の私のミッションだと考えています。
編集者(プロデューサー)が重要というのは新たな発見です。
投資家からすると、御社のプロデューサー数をKPIとして開示いただけると、今後の成長予測がしやすくなるのでありがたいですね。
最後の「3.多ブランド展開」についてもお願いします。
事業はタイミングが重要だと思っていて、2018年に起業した時は既にファッション業界は飽和状態でした。
ただ、SNSを活用したファッションブランドは黎明期でした。
例えば大手の人に当社の話をしたら鼻で笑われ、「できるわけないじゃん」と言われるような状態だったので、逆に勝ち筋があると思いました。
このマーケット選択は成功し、現在に至ります。ただ、基本的に1ブランド10~30億円程度の売上が限界だと考えています。
よって、企業成長のためには多ブランド展開が欠かせません。
具体的には、5年後に70ブランドを目指しています。
また私自身の資質としても、モノづくりには興味はありつつも、”モノを作る人を作る”ってところに一番興味があり、才能もあると思っています。
なるほど。
お話を伺っていると、「若者の初期衝動を引き出して、再現性を持たせて、多ブランド展開させていく」と綺麗に3つの特徴が繋がっていきますね。
井村による忖度無き質問。多ブランド展開に”構造的な欠陥”はないか?
ここまでは、ある意味お遊びです(笑)
多ブランド展開が重要と仰りましたが、スケールしにくい構造的な欠陥がありませんか?
自社のブランド同士で同じ客層を食い合う「カニバリゼーション」が生じて頭打ちになってしまうな、と僕は思ってしまいました。
また、カニバリが起きることで御社内のメンバー間で”あつれき”のようなものが生まれてしまうのではないでしょうか。
確かに、ブランドが増えることで”複雑性”は増していくと思います。
ただ、アパレルマーケット自体は非常に大きく、当社が獲得できているのはごく一部です。
まだまだ獲得余地が大きいため、今はカニバリよりも各ブランドのトップラインの伸びを重視しています。
各ブランドのユーザー情報等の分析はしていますし、カニバリについても分析自体はできますが、今は各ブランドの売上目標を達成することにリソースを割くべきだと思っています。
また、各ブランド間でのマーケティング成功事例は共有する等、ブランド同士での横のつながりも作っています。
なるほど。一定のカニバリは発生しうる構造ではあるが、そもそものアパレル市場が大きいから、各ブランドがトータルで伸びれば問題ないということですね。
御社はECでの販売比率が高いため、新規顧客の購入比率が高ければ、カニバリ以上に市場を拡大できているという証拠にもなるかと思います。
新規顧客と既存顧客の比率はどの程度なのでしょうか?
さすがのご質問ですね。
新規顧客の購入比率はデータとして取っているのですが、詳細はIRでも開示していないので、申し訳ないのですが控えさせてください。
ただし新規購入者の数、そして新規購入者の割合は増えていて、顧客の食い合いは問題となっていません。
また、アパレルは良くも悪くも流行り廃りがあるので、新規顧客の開拓を行い続ける必要があります。
売上が伸びている=新規顧客が伸びている、と考えて頂いて結構です。
“多ブランド”ではなく”多テイスト”。その真意とは?
多ブランド展開のもう一つの懸念点として、スケールメリットが得られにくい面もあると思っています。
例えば、「ユニクロ」などのメガブランドのように、消費者の認知を獲得できればマーケティングコストは低減していきますが、多ブランドの場合は、ブランドを新規に育成するコストがかかるうえに、SNSアカウントなどが増えることで管理コストも増すのではないでしょうか?
そういったコスト面よりも、継続的に成長するために多ブランド展開が大事だと思っています。
より厳密にいえば、多ブランド展開というよりも「複数のテイストを持つ」ことが重要です。
例えば、当社は既に「ストリート」というテイストを持っています。
1つのテイストを持てば、世代毎の縦軸に加えて、ブランド毎の横軸でも同じ世代で横展開が可能です。
1テイストで約10ブランドの展開はできるため、70ブランドの達成には5~6テイストを持つ必要があります。
なるほど…ブランドの上位概念として、テイストがあるイメージですね。
テイストは簡単に増やせるものなのでしょうか?
テイストを簡単に増やすのは難しいですね。時間がかかります。
例えば当社で”スーツ”を作るのはイメージできないように、テイスト=生き様や、創業者に依存する部分もあるので。
そのため、今後はテイスト毎に子会社を作って、テイストに紐付くブランドを深掘りしてもらう、といった未来図も描いています。
世代毎の縦軸、ということも仰っていましたが、御社は現在Z世代が主なターゲットです。
少子化の影響で若年層は減少していますが、このままでは先細りの懸念はありませんか?
仰る通りです。
今後はテイストの多角化に加えて、世代の拡張・複数商材の取扱いを強化していきます。
まずは今後5年間でテイストの多角化を行い、Y世代とも呼ばれる30代のマーケットを取りに行く方向性を明確にしています。
heart relationのグループジョインもその一環ですし、同社はアパレル以外の商材も扱っています。
また、海外展開も考えています。
ストリートブランド『9090』が7月に台湾でPOPUPを開催したのですが、かなり反響がありました。
Her lip toは100億円になるポテンシャルがある
直近の御社の話題としてはheart relationのM&Aは外せません。
目的や背景などを教えてください。
heart relation社は元AKB48の小嶋陽菜さんが代表を務める企業であり、yutori社へのグループジョインは大きな話題になりました。
芸能界の方が立ち上げたブランドで、ここまでの規模になった前例はないと思います。
M&Aの背景としては、新たな世代・商材を開拓するためです。
先ほど説明した通り、現在当社は30代マーケットを取りに行っています。
heart relationの展開するブランド「Her lip to」は20~30代の女性を対象とするブランドであり、当社の経営戦略とも合致するものです。
どうしても小嶋陽菜さんが話題になりますよね。
小嶋陽菜さんという人物やブランドを、当社グループに取り込めたことは大きなメリットですね。
Her lip toはアパレルだけでなく、小嶋さん自身が前に立ってライフスタイルまで提案できるようなブランドです。
そのため、本ブランド単独で売上100億円のポテンシャルもあると思っています。
また、同社及びその周辺コミュニティには、自らブランドを作り出せるような優秀な方も多いという点も魅力的です。
新たなブランドの創出可能性という点でも、非常に価値あるM&Aができたと考えています。
確かに、アパレルブランドというと投資家的には「ん~、まぁね」と思ってしまうこともありますが、ライフスタイルまで提案できれば”ルルレモン”のように兆円単位のブランドに育つ可能性もありますね。
Z世代に人気のTemu、SHEINは脅威ではない
最後に一応聞いておきたいのですが、TemuやSHEINはどう捉えていますか?
Z世代に人気の両サイトですが、価格競争が激化するなど御社事業に影響はないでしょうか。
彼らは格安ECサイトで、我々はアパレルメーカーという立ち位置です。
確かにZ世代に人気の両社ですが、直接バッティングしませんし影響は生じていません。
当社はブランドを持ってアパレル事業を展開しており、彼らのようなマスを取りに行くサービスとは異なるので、価格競争にはなりません。
確かに、Z世代といってもターゲットは全然違いますね。
私の質問に対してNGも無く全てお答えいただき、とても誠実な企業様だと感じました。
本日はありがとうございました!
井村の感想~インタビューを終えて~
アパレル業界は私たちが行っている”投資”と似ている部分があると思いました。一発当てることはできても、それを継続的にできるか・再現できるのか、という点が非常に重要です。
ゲーム会社が良い例ですが、継続性が評価されないと高いバリュエーションは許容されません。投資家の視点で「この企業は一発屋ではなく成功の再現性がある」と判断される企業は、PERが20倍・30倍に評価されることがあります。
yutori社の資料を見て最初に感じたのは、「今は上手くいってるけど、多ブランド展開だと早晩行き詰まってしまうのでは?」という懸念でした。
ただ、今回の対談で、多ブランド展開にかける決してゆとらない戦略的な意図を感じました。
若者のポテンシャルを引き出し、それを組織的に再現し、ブランドを量産する。片石社長の一見無規則に思えるお言葉も、実は点と点が繋がっていて、そこからも再現性を感じられたのでありました。