2024年から新しいNISAがスタートしたことに伴い、資産運用がトレンドとして上がっています。
とはいえ投資経験のなかった方には、どのような点を意識して取り組めばよいのか悩んでしまうはず。
また、暗号資産の相場も盛り上がりを見せていることから、ビットコインなどに興味を持つ方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、国際経済学・国際金融分野の教員として活躍されている専修大学の小川健教授にインタビューを実施し、投資初心者の資産運用と暗号資産の今後の展望について考えをお聞きしました。
投資家必見!国際経済学の専門家が語る暗号資産の成り立ちとその意義とは?
—小川先生の経歴を改めてお伺いできますでしょうか?
小川先生:元々は、貿易論の理論研究、およびその応用対象として水産物貿易などを専門としておりました。
しかし担当領域の一つである国際経済学において、学生により理解を深めてもらうための工夫の一つとして、ビットコインを始めとする暗号資産を「外貨としての暗号資産」といった観点で講義にて取り扱っています。
自身ではプルーフ・オブ・ワーク*の長寿命化に関する紀要原稿を発表したり、中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)の導入の意義などについて研究したりしています。
*Proof of Work「PoW」:暗号資産の取引や送金データを正しくブロックチェーン(block chain)につなぐための仕組みのこと
—小川先生にとって暗号資産やビットコインなどの面白さは、どのような点にあるとお考えですか?
小川先生:ビットコインが作られた目的、そしてその歴史自体は、非常に意義のあるものだと考えます。
日本円や米ドルなど国によって支払い方法と認められたお金を法定通貨と呼びますが、法定通貨は中央集権的でクローズドなその性質から、常に国や国家に価値操作を行われる可能性を含んでいます。
一方で暗号資産の元祖と言えるビットコインはトラストレス、つまり個人が政府などを信用する必要無く取引結果を信頼できる仕組みを持ち、さらに裏側の仕組みでは改ざん困難な形で記録できる側面が挙げられます。
ビットコインは国家権力に技術で抗い、信頼できない政府や中央銀行に左右されない通貨を実現することを目的として作られたのです。
また別の側面として、個人がオンラインでお金(価値)を、国境・通貨圏こえて送れるという手段を提示したという部分は、いわゆる歴史的な意義として大きいものがあると考えております。
実際に暗号資産の登場によって、国家による通貨の持ち出し制限という経済政策が有用性を失いつつある状況があります。
この政策を実現するにはネットに対しても規制をかける必要がありますが、今の時代ネット禁止は一部の強権的な事案を除いて選択されません。
軍事クーデターのあったミャンマーなどでは、インターネット自体に厳しい規制がかかっています。
さらに、中国大陸のようにネットに事細かく規制をかけている国もありますが、ほかの国家がこのような規制を実施することというのは非現実的です。
政策に対して一つの新たな方向性を出したという点にビットコイン、ひいては暗号資産の面白さがあるのかな、と考えています。
国際経済の専門家が語るポートフォリオの組み方とは?
—暗号資産に限らず、小川先生自身は投資や資産運用などはやられているのでしょうか。
小川先生:暗号資産もそうですし、それ以外の投資商品も少しですが保有しています。
しかし、私の保有している一部は自分自身の資産形成のためというより、学生に教える立場の者として説明ができるように、という意図での投資になりますね。
暗号資産もそうですし、投資商品ではありませんが外貨建て保険も教えるために保有しています。
暗号資産などについて教えるときに全く買ったことがないという状況だと、さすがに説得力を失う部分もあるかなと思いますので(笑)
—それでは、投資初心者のポートフォリオの組み方や、投資を始める際のコツとしてはどのようなところにあるとお考えですか?
小川先生:まず、自分自身が投資に割ける時間がどれくらいあるのか、によってやり方は分かれてくると考えています。
投資に多くの時間を当てられるような人なら、テクニカル分析など値動きを見ながら判断できる人もいますが、仕事や育児などで日中にはほとんど時間を割けない人が少なくないと思います。
そのような方々は、まずは投資の基本である長期・積立・分散の3つの原則を理解しておくことは非常に重要です。
長期的な投資を前提とすることで、一時の値下がり・損失に対しても残りの時間で取り返せる可能性が高くなります。
まとまった余剰資金がなくても、毎月コツコツと小さなお金を投資に充てる方が、安定した資産形成において有効です。
逆に限られた期間で大きな資金をリスクを取り過ぎる形で投入してしまうと、取り返しのつかないことになる場合も考えられます。
また「卵は一つのカゴに盛るな」という有名な格言があります。
これは一つのカゴに入れる(特定の商品だけに投資する)*と、カゴを落とした時の損失が大変大きくて危険な状態を表しています。
複数のカゴに卵を盛る(複数の投資商品に投資する)ことで、一つのカゴが割れても(一つの商品だけ値下がりしても)ほかの卵を守ることができます。
値動きの異なる投資商品に分散して、資金を入れることでリスクも分散させられるのです。
*)この話には「それらのカゴ全てを1つの棚に乗せるな」という続きがあるという説がありますが、その棚が壊れると一斉に崩れるように、同じリスクで同時に悪くなることは避ける必要があります。
参考:https://fujinkoron.jp/articles/-/11292
長期・積立・分散は多くの投資関係の本にも書かれているような内容ですが、それくらい重要で原則的な概念になります。
そのうえでドルコスト平均法などの仕組みをちゃんと知っていれば、投資に時間を割けない初心者の方でも比較的安定した資産形成がしやすくなるでしょう。
*ドルコスト平均法:価格が変動する商品に対して定期的に定額で積み立てる投資手法のこと
ー短期間で投資をすると取り返しがつかない場合もある、とおっしゃっていましたが、逆に分散投資のデメリットのようなものは何かあるのでしょうか?
もし仮に分散投資にデメリットがあるという言い方をするのであれば、大きく儲けるということは難しくなる点でしょうか。
ただし、通常資産形成で使うお金というのは将来とても重要な資産ではあるので、リスクを減らしていくことのほうが重要度が高いという事例が多いのかなと思います。
ーでは、投資初心者がポートフォリオの一部に暗号資産を組み入れるのは効果的でしょうか?
小川先生:この質問に対しては答えを2つ用意するべきだと思います。
1つは、勉強のために理念に共感できる暗号資産をできれば複数種、少量ずつ持つことはありだということです。
暗号資産の特徴をよく知らない(理念に共感できない)まま、ただ持つのは思わぬリスクに巻き込まれる可能性がありますし、勉強にもなりません。
そのため、理念に共感できるということは、とても重要なポイントです。
もう1つは、本格的にポートフォリオに取り入れることは、初心者のうちはおすすめしないということです。
なぜなら、暗号資産は概してボラティリティ(価格変動性)が高く、初心者では対処が難しいからです。
リスクは投資を経験して慣れていくうちに、少しずつ大きくしていけば良いものです。
投資初心者が暗号資産を本格的にポートフォリオに取り入れて、ハイリスクな投資をする必要は全くありません。
暗号通貨はどんな人にオススメ?
—ビットコインを中心とした暗号資産は、どんな人にオススメなんですか?
小川先生:基本的には、ある程度ハイリスク・ハイリターンな選択をしたい人にはオススメかもしれません。
しかし投資初心者の方からすると、リスクが直撃したときに対策が分からない場合が多いです。
なので、初心者にはあまりオススメしづらいですね。
—やはりリスク許容度が高い方が多い傾向にあると思うのですが、個人投資家として暗号資産に対するリスクをどの程度認識すべきでしょうか?
小川先生:まず暗号資産というものの基本的仕組みを理解したくない方は持つべきじゃないかなと思います。
例えば、交換業者に関して言えば銀行預金とは違うリスクは少なからず存在し、銀行等と比べて安全性に差があります。
交換業者内にも特色があるのでしっかりと違いを把握し、始めるとしても最初は大手の交換業者を活用するのがオススメです。
その上で、暗号資産に対するリスクは将来その理想像が実現する可能性に対して、つまり一種のベンチャーに近いものと捉えてはいかがでしょうか。
投資に興味を持つ若者へのメッセージ
—最近では、投資に興味を持っている若い方も増えています。若い世代に向けてのメッセージやアドバイスなどあれば伺いたいです。
小川先生:まず、投資は自己責任という面があって100%儲かるということはないです。
しかし、100%儲かることはないと理解したうえで見てみると、投資はさまざまな可能性を秘めています。
もちろん、その中には手を出してはいけないものもあれば、自身の特性に合うものも合わないものもあると思います。
ただ一つ言えることとしては、投資というものをコツコツとやっていく意義は多くの人にとってあると私は考えています。