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(3967) 株式会社エルテス

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ブリッジレポート:(3967)エルテス vol.2

(3967:東証マザーズ) エルテス 企業HP
菅原 貴弘 代表取締役
菅原 貴弘 代表取締役

【ブリッジレポート vol.2】2019年2月期第2四半期業績レポート
取材概要「テクノロジーの進展に伴う新たなリスクの増加や東京オリンピック・パラリンピックの開催を控えた社会的リスクの高まりを背景に業績が拡大してい・・・」続きは本文をご覧ください。
2018年11月14日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社エルテス
代表取締役
菅原 貴弘
所在地
東京都千代田区霞が関3-2-5 霞が関ビルディング
決算期
2月末日
業種
情報・通信
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2018年2月 1,606 107 107 68
2017年2月 1,379 183 170 104
2016年2月 960 135 131 88
2015年2月 649 -151 -153 -118
株式情報(10/18現在データ)
株価 発行済株式数 時価総額 ROE(実) 売買単位
1,412円 5,130,000株 7,243百万円 2.0% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
- - 7.81円 180.8倍 322.52円 4.4倍
※株価は10/18終値。ROE、BPSは前期末実績。
 
エルテスの2019年2月期上期決算の概要と通期の見通しについて、菅原社長のインタビューと共に、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
企業理念は、「リスクを解決する社会インフラの創出」。ソーシャルメディアの普及、デジタルデバイスの進化などテクノロジーの発展により、利便性の向上と引き換えに様々なリスクが生まれている。同社は、リスク検知に特化したビッグデータ解析技術とコンサルティングによってリスクを防止することで、企業や社会が健全にテクノロジーを活用できるよう、安心・安全な社会インフラを創出することを目指している。

この企業理念の下、24時間365日体制によるリスク因子の早期検知と、危機発生後の初期対応やレピュテーション改善のためのコンサルティングサービスを提供するソーシャルリスク事業を展開しており、他方、内部脅威検知、金融犯罪対策、イベントの安全管理、デジタル信用調査といったリスクインテリジェンス分野を育成中。サービス提供先は大手企業を中心に400社を超え契約ブランド数は600超。企業グループは、同社の他、リスク情報の収集・分析サービスを提供する(株)エルテスセキュリティインテリジェンスとデジタル分析領域のベンチャー投資を手掛ける投資子会社(株)エルテスキャピタルの連結子会社2社。

尚、同社は、テクノロジーの発展に応じて、その副作用として発生するリスクを「デジタルリスク」と表現しており、デジタルリスクの中でも、SNSを始めとするソーシャルメディア上に起因するリスクを「ソーシャルリスク」と表現している。
 
 
【事業内容】
事業は、ソーシャルリスク事業と育成中の新規事業に大別される。新規事業は、情報持ち出しや社内不正等を検知する内部脅威検知、本人認証技術を用いて不正アクセス・不正送金等を検知する金融犯罪対策、一般に公開された情報の集積・分析を基に大規模イベントでの妨害行為等を予兆し警備計画に役立てるイベント安全対策サービス、信用スコアサービスのデジタル信用調査といったサービスで、テクノロジーが進展するたびに、それに対応する新たなリスク対策サービスを立ち上げている。
 
ソーシャルリスク事業
サービスは「ソーシャルリスクモニタリング」と「ソーシャルリスクコンサルティング」の2つ。
ソーシャルリスクモニタリングは、Twitter等のSNSやネット掲示板といったソーシャルメディア上の投稿をAIと専任アナリストが24時間365日体制で監視・分析を行い、リスクの予兆があれば、緊急通知および対応方法をアドバイスすることで顧客のリスクマネジメントを支援する。「初期費用+月額フィー」の年間契約で提供している。リスク予防の観点から導入されることにより契約期間は長期間にわたるため、契約の積み上げによるストック型の収益モデルとなっている(危機発生後など緊急時からの粗利の高いスポット契約も提供)。
ソーシャルリスクコンサルティングは、危機発生後の初期対応やその後のレピュテーション(風評)回復対策を支援する。
 
その他サービス(内部脅威検知サービス、金融犯罪対策、イベント安全サービス、デジタル信用調査、ベンチャー投資)
PCログデータを収集し情報持出し等の予兆を察知する内部脅威検知サービス、リアルシステムズ社(エストニア)のビッグデータ可視化技術「VizKey」を活用し不正利用・不正送金等を検知する金融犯罪対策サービス、OSINT(オシント、注)の活用による大規模イベントの妨害行為等の予兆や信用調査のイベント安全サービス及びソーシャルメディア上の情報を基にした信用調査や反社会的勢力の排除を目的としたデジタル信用調査サービスと言ったサービスを提供している他、デジタル分析領域のベンチャー投資事業を手掛けている。

内部脅威検知サービスは、AIを取り入れた独自の行動解析システムと専門アナリストにより、ファイルサーバアクセス、Webサイト閲覧履歴、メール履歴等、社内のログデータから「人」に潜むリスクを検知する。潜在的な内部不正リスクの予兆を察知する事前回避型のアプローチにより、高度なリスクマネジメント体制の構築を支援する。また、金融犯罪対策サービスでは、不正検知ツールがセブン銀行で採用されており、イベント安全サービスでは、伊勢志摩サミット(2016年5月開催)でのインターネット上でテロ予告等のリスクモニタリングの実績を有する。

(注) OSINT
“Open Source INTelligence”(オープン・ソース・インテリジェンス)の略。オープン・ソース、すなわち一般に公開され利用可能な公開情報を収集・分析することで、機密情報を収集する専門領域のこと。
 
CYBERNETICA社の本人認証システム技術「SplitKey」を活用したアプリケーションの開発
CYBERNETICA社のあるエストニアは日本のマイナンバー制度のモデルとなった国民ID制度を早くから取り入れるなど電子政府化が進んだICT立国。CYBERNETICA社は、電子政府の基盤となるシステム”X-Road”のセキュリティシステムの構築や電子投票ソフトウェアの開発等、電子政府プロジェクトにおいて優れた実績を有する。同社は2017年3月にCYBERNETICA社と業務提携し、2018年1月に「SplitKey」を活用したアプリケーション(ECサービスにおける一元的な本人認証システム)の開発を開始した。
インターネットバンキングやインターネットトレード等のサービスは高いセキュリティが不可欠だが、複数のサービスを利用するとなると、IDやパスワードの管理負担は重い。今回開発を進めるアプリケーションは、こうした負担からユーザーを開放する事はもちろん、1人のユーザーと複数のWebサービスをつなぐプラットフォームとしての役割を担う事もできる。また、アプリケーションを通じて収集されるログに対してAIを活用したビッグデータ解析を行う事で、他人へのなりすまし等の不正検知も可能。同社は独自ソリューションの展開に加え、マイナンバー利用時の本人認証での採用も念頭に置いている。
 
【主なクライアント】
資生堂、NTTドコモ、丸紅、三越伊勢丹ホールディングス、マツダ、いすゞ、全日空、日航、コニカミノルタ、セブン銀行、パーソル、アサヒ、第一三共ヘルスケア、サントリー、伊藤園、東急不動産ホールディングスなど(順不同)。
 
 
2019年2月期上期決算
 
 
前年同期比6.4%の増収、営業利益26百万円同193.2%の営業増益
売上高は前年同期比6.4%増の8億25百万円。継続率の高いソーシャルリスクモニタリングが4億37百万円と売上の過半を占めるに至り、内部脅威検知サービスを中心にその他の売上も63百万円と前期通期の実績(55百万円)を上回った。一方、ソーシャルリスクコンサルティングの売上は、顧客ニーズが危機発生後の対応からリスクの未然防止へ移行したことにより3億25百万円となった。顧客ニーズの移行による売上構成比の変化は当初の想定の範囲内。連結売上高は期初予想を上回った。

利益面では、増収効果に加え、リスクモニタリングのAIによるカバー率向上(「人」から「AI」へ)もあり、売上総利益率が63.6%と5.4ポイント改善。人材投資や新規事業投資に伴う販管費の増加を吸収して、営業利益は前年同期の8百万円から26百万円に拡大した。予想を下回ったのは、研究開発活動の進捗に伴う試験研究費の増加等が要因。また、純損失となったのは、投資有価証券評価損約20百万円を特別損失に計上した事と税金費用の増加(法人税等:9百万円→27百万円)が要因。投資有価証券評価損は企業ベンチャー投資にかかるもので、各種会計基準に照らし対応を行った。
 
 
(2)投資状況
今回、企業ベンチャー投資に係る評価損を計上したが、同社の投資目的は単純にキャピタルゲインを追求するものではなく、事業シナジー、新たなテクノロジーの取込み、ノウハウの取得等に主眼が置かれている。このため、投資対象となるのは(基本的な投資方針)、①サービス連携できるプロダクト・ソリューションを有している企業、②サービスの拡張を担える可能性のある企業、③未知の分野で知見を有し、当社グループのサービス開発に資する可能性の高い企業である。

現在、Big Data領域とBlockchain領域において、社内チャット分析関連企業、マーケティングオートメーション関連企業、フィンテック関連企業、仮想通貨関連企業、ブロックチェーン、証券・決済システム関連企業、アキュセラレータ系ファンド、Tech系ファンド、コンテンツ系ファンド等に投資している。
 
 
上期末の総資産は前期末との比較で58百万円増の18億60百万円。現預金が総資産の66.8%(前期末68.2%)を占め、自己資本比率86.5%(同89.1%)。
 
 
売上債権の回収が進んだ事による資金効率の改善や法人税納付額の減少等で前年同期は70百万円のマイナスだった営業CFが64百万円の黒字に転換。ベンチャー投資や敷金回収の減少等で投資CFが97百万円のマイナスとなったが、長期借入金の積み増しと新株予約権の行使による株式の発行収入で賄った。借入金の積み増しは、紹介案件が増えている金融機関との良好な関係維持の意味合いが強い。
 
 
2019年2月期業績予想
 
 
通期予想に変更はなく、前期比11.9%の増収、同39.5%の営業増益予想
売上高は前期比11.9%増の18億円。ソーシャルモニタリングサービスの契約累積効果とニーズ潜在層への提案営業強化による新規開拓で既存事業の売上が伸びる他、情報持ち出しやワークスタイルセキュリティの需要の増加で内部脅威検知サービス等の新規事業の売上も増加する。

営業利益は同39.5%増の1億円。上記の新規事業での先行投資に加え、ソーシャルリスク事業での営業社員の増員、クオリティ向上に向けた研修の充実及び社内セキュリティ体制の充実等で費用が増加するものの、売上の増加とAIのカバー率向上によるリスクモニタリングサービスの収益性改善で吸収する。

尚、10月15日に三井住友信託銀行(株)が同社発行済株式の3.24%の株式を市場外取引で取得し、同社第3位の大株主となった。今後、技術・サービスの提供を通じて、デジタルデータの集積・利活用、信託関連業務におけるサービスの高度化や利便性向上等のイノベーション実現に向け事業協力を行っていく。
 
 
社長インタビュー -菅原社長に聞く-
 
リスク検知に特化したビッグデータ解析技術を駆使して顧客企業のデジタルリスクの抑止に取り組む同社。しかし、リスク検知に特化したビッグデータ解析技術とは?この技術が、今後、どのように活かされていくのか?等、良くわからない事が多い。そこで、霞が関の本社にお邪魔して、菅原社長にお話を伺った。
 
東京大学経済学部在学中の2004年にエルテスを創業。インターネット掲示板、ブログ、SNSなど新しいテクノロジーが生まれるたびに、その反動で発生するトラブルに着目したデジタルリスク対策事業に取り組んできた。2016年11月に東証マザーズに上場し、上場後は、テロ・犯罪等の社会的リスクに特化した戦略子会社を設立する等でリスクインテリジェンス分野にも展開し、強みを活かせる分野で事業領域を広げている。
 
【日本社会のチーフ・デジタルリスク・オフィサー(C.D.R.O.)を目指す】
ソーシャルリスクモニタリングを中心に売上が順調に伸びていますね。
 
菅原社長 :リスクの未然防止に取り組むクライアントが増えている事が要因です。サービスを開始して暫くは、危機発生後の顕在化したリスクへの対応であるソーシャルリスクコンサルティングが中心でしたが、予防的に当社のサービスをご利用いただくクライアントが増えてきたため、ソーシャルリスクモニタリングが伸びています。例えば、虫歯になってから歯医者さんへ行くのではなく、日ごろから虫歯にならないようにケアしているようなクライアントが増えています。今期(19/2期)は、ソーシャルリスクモニタリングの売上がソーシャルリスクコンサルティングの売上を上回る見込みです。
 
 
炎上時の対策もさることながら、一歩進んで予防に力を入れようという訳ですね。御社の認知度が高まっている事も背景にあるのでしょうね。どのようにしてクライアントを開拓しているのですか。また、取引先は何社くらいあるのですか。
 
菅原社長 :基本的にはセミナー等にご参加いただき、それをきっかけにアプローチしていきますが、最近では、資本提携先の電通さん(株式会社電通:出資比率2.43%、2018年8月末現在第4位株主)、NTTコムさん(NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社:出資比率2.33%、2018年8月末現在第5位株主)、SOMPOホールディングスさん(SOMPOホールディングス株式会社)等からの紹介も増えています。8月には三井住友信託さん(三井住友信託銀行株式会社)が当社第3位の大株主となり、技術・サービスの提供を通じて、デジタルデータの集積・利活用、信託関連業務におけるサービスの高度化や利便性向上等のイノベーション実現に向け事業協力を行っていきます。
現在の取引社数は約400社ですが、契約はブランド毎の契約になりますから、契約数にすると、約600件です。当初は食品や外食のクライアントが中心でしたが、不正送金や情報漏洩対策等で金融系のクライアントが増えています。客層がB2C企業からB2B企業に広がっている、という言い方もできます。月額フィーは1社40万円です。内部脅威検知を加えると100万円程度になり、複数ブランドで1社200万円といったところです。
 
優良顧客を抱える提携先が営業の一翼を担ってくれている面もあると。見た目のマンパワー以上に営業力を持っている訳ですね。技術的には、“リスク検知に特化したデータ解析技術とコンサルティング”が強みとの事ですが。
 
菅原社長 :デジタル化の流れが急速に進んでいます。以前は、企業のリスク管理と言えば、法律に詳しい方の仕事でしたが、デジタルやテクノロジーを理解しないと適切なリスク管理ができなくなってきています。我々の場合、何が強みか?というと、デジタルリスクという領域に早めに参入して、お客様が持つデータを含めて、沢山のデータとリスク分析に関するノウハウを持っている事です。

一般的なデータは、特にソーシャルメディアですとオープン・ソースですから、いくらでも集める事ができます。しかし、お客様にとって、どのようなデータがリスクなのか、という事がわからなければ役に立ちません。お客様にとってリスクとなるデータを集めた教師データの蓄積が我々の強みです。リスク分野やリスク分析というのは、AIとの相性が良い分野であり、AIが活用されるべき分野だと思いますが、面でお客様を持っていないと、リスク事例というのでしょうか、教師データが少ないためAIが使えません。ソーシャルメディア等から集めた沢山のデータを、AIが、解答となる教師データ(リスク事例)を使って答え合わせする事でリスクの予兆を発見できるのですが、そのためにはAIがたくさんの教師データを学習する必要があります。我々は面でお客様を持っていますから、沢山のリスクデータが集まり、蓄積も進んでいるためAIの能力をフルに活かす事ができます。
 
なるほど。“沢山のデータとリスク分析に関するノウハウを持っている”というのは、そういう事だったのですね。
 
菅原社長 :監査法人の方とお話をした時の事です。上場企業が約3,000社ありますが、10年間で粉飾等のデータは100件程度しかないそうです。先ほど、「リスク分析というのは、AIとの相性が良い分野であり、AIが活用されるべき分野だ」と申しましたが、100件程度のデータで、粉飾決算のリスク検知を目的にAIを動かせるか、というと、かなり難しいところがあります。我々は2007年からサービスを提供していますから、リスク事例のデータを大量に持っています。このため、AIが普及し始めると、すぐにAI化できました。

ですから、データは持っているけど、どうしたらいいかわからない、というような相談も多いですね。インシデントと言いますか、リスクが顕在化した際のデータを持っていないので、どうしたらいいかわからないと。例えば、銀行は防犯カメラのデータを大量に持っていますが、「オレオレ詐欺」のデータを持っていませんから、防犯カメラのデータを役立てる事ができません。どんな行動がオレオレ詐欺なのか、というデータを併せ持つことで防犯カメラのデータを活かす事ができます。このように、どんな言葉がSNSに書き込まれるとリスクとなるのか、といったようなデータを沢山持っている事が当社の強みです。答え合わせができる、と言い換える事もできます。それがないと、どれが悪いのか、悪くないのか、判断できません。
 
難しい単語を使わず、わかりやすく説明していただけるので、少しずつ“リスク検知に特化したビッグデータ解析技術”と御社の優位性がわかってきました。ただ、今後、他社がキャッチアップしてくる事はないのでしょうか。
 
菅原社長 :可能性は無きにしも非ず、だとは思いますが、最初にAIを組んだところに更にデータが集まってきますから、先行している事の優位は動かないと思います。AIのようなテクノロジーを用いてリスクマネジメントサービスを提供する企業はまだあまりないと思います。しかし、リスクの予兆を見逃さないために、膨大な数の答え合わせが必要になりますから、この点でAIが最適です。AIの世界はビッグデータがすごく合います。AIをフル活用するためにはテクノロジーに強くなければなりません。当社の子会社がテロ・犯罪等の危険情報の検知を手掛けていますが、例えばテロリストはたった1人でも侵入を阻止しなければなりません。テロに限らず、サイバーアタックもそうですが、サンプル検査ではなく、全てのデータをチェックする必要があります。AIであれば、短時間で正確に全量データを処理できます。ですから、これまでの実績があるリスク管理系の企業でも、テクノロジーやデータに弱いと、これからは厳しいのではないでしょうか。

余談になりますが、我々も、ベンチャーだった訳ですが、もともとこういう世界が来るとわかっていた訳ではなく、やってきたら開けてきた、という面があります。事業環境や世の中の趨勢に応じて、事業ドメインの再定義をしながら今に至っています。都度、再定義していく事の重要性を感じています。一時期、アメリカで鉄道業が衰退しましたが、その理由を、「自らを鉄道業と考えていたから」、という話を聞いた事があります。鉄道業ではなく、物流業という考えに切り替える事ができたのであれば、継続的に発展できただろう、という事です。自分の定義を自ら矮小化してしまうと、成長していく事が難しくなりますね。
 
【今後の展開】
それでは、この強みを活かして、今後どのように事業展開していくのでしょうか。
 
菅原社長 :テクノロジーの発展に伴い新たに生まれるデジタルリスクに対応する形で事業領域を広げてきましたから、我々のトレンドはテクノロジーの反動のようなところがあります。Googleのような検索エンジンが発展した反動で生じるリスクへの対策から始まり、ソーシャルメディア対策、最近では、シェアリングエコノミーとか、仮想通貨交換業等です。また、世の中がデジタル化していく中でリスク管理もデジタル化が進み、テクノロジーを駆使しないとリスクを検知する事が難しくなってきています。我々は、当初、顧客とのお付き合いを企業の評判を管理する広報部から始めましたが、デジタル化に着目して、情報システム部等へ窓口を広げ、成果をあげています。これからも、新しいテクノロジーが生まれ、新たなデジタルリスクが生まれますから、新たな成長機会も生まれてきます。
 
 
新しいテクノロジーが生まれ、デジタルデータも増加する中で、新たな成長機会が生まれてくる。これまで成功してきたように、このチャンスを捉えていこう、と言う訳ですね。
デジタルリスクから派生する新たな社会課題の解決を目指す、といった説明もされていますね。
 
菅原社長 :社会課題の解決については、そもそも何をもって社会課題と言うか、という議論があるのですが、電子政府に応用できる本人認証技術をエストニア共和国から持ち込んでいるので、この技術を絡めて取り組んでいきたいと考えています。次の国会では、企業や個人の行政手続きを原則として電子申請に統一する「デジタルファースト法案」が審議される予定です。法案が成立し施行されると、インターネット上で本人確認が行われるようになり、スマートフォンやパソコンで住所変更や法人設立の手続き等ができるようになります。本人確認のための住民票等の添付書類が要らなくなると言う事です。“政府もデジタル化していく”というのがトレンドです。
電子政府とは違う切り口になりますが、効果や効率を高めるために、ネットの情報の利用等で積極的にデジタルへの対応を進めている官公庁もあります。例えば、労働基準監督署がブラック企業を取り締まる時、事前にネットで調べた方が効率的ですし、講演をさせていただいた事もある消費者庁ではネットの利用が当たり前のようになっています。このため、当社も官公庁案件が増えています。テロ対策の一環として、オープンデータを収集提供している省庁等です。
 
電子政府関連のビジネスはこれからですが、既に、ソーシャルリスク分野の強みを活かして、官公庁との取引が増えているのですね。
新規事業として、内部脅威検知、金融犯罪対策、イベント安全、デジタル信用調査といったサービスの育成にも取り組んでいますね。どのような状況でしょうか。
 
菅原社長 :内部脅威検知はログデータ等の社内データの分析により、情報持ち出しや社内不正に加え、隠れ超過残業やメンタルヘルス等のニーズにも応える事ができるサービスです。高度な技術情報を持つメーカーでの導入等、クライアントの獲得が順調です。分析対象データも拡大中です。社内不正等はネット炎上の原因になりやすいため、ネット炎上対策とセットで導入されるケースが多いです。ただ、このサービスを提供するためには、社内でデータが管理されている必要があります。中小企業はデータ自体をお持ちでない事が多いのですが、IT資産管理ツール等をお使いであれば、ツールがデータを管理してますから、こうしたツールのベンダーとの提携を進めており、成果もあがっています。
 
御社は、ソーシャルリスクコンサルティング、ソーシャルリスクモニタリング、及びその他にブレイクダウンして売上高を説明されていますが、内部脅威検知の順調な立ち上がりが、その他の売上が伸びに反映されていますね。金融犯罪対策はいかがでしょうか。
 
菅原社長 :本人認証技術に基づく金融犯罪対策は、一部金融機関でご利用頂いています。専門性が高く、特定業務向けのサービスですから、このサービスが大きく伸びるというよりも、取引の入り口になるサービスです。電子政府にも応用できる技術で、先ほど、お話したエストニアから持ち込んだものです。電子政府は基本的には分散型データベースと本人認証が軸になります。金融犯罪が起きた場合でも、エストニアのように本人認証データがしっかりしていれば、この技術を使う事で速やかに犯罪者を特定できますし、検知のためのパターンが色々ありますから、現在の日本のように本人認証ができていなくても特定できます。例えば、一つのIP(パソコン等の端末)から複数の名義をコントロールしているケース等を特定できます。一人の方が、複数の名義でログインしていれば、怪しいですよね。それを検知できるツールです。使い方は他にも色々あります。
 
本人認証技術も開発競争が激しいのでしょうが、御社がエストニアから導入した本人認証技術は既に政府レベルでの利用実績がある事が強みなのでしょうね。利用される中で、更に進化もしていくでしょうし。既に官公庁とのパイプもできていますから、電子政府関連のビジネスに期待したいと思います。イベント安全やデジタル信用調査はいかがでしょうか。
 
菅原社長 :顔認証技術等を使うイベント安全は他社とのアライアンスも活用しながら早期事業化への取り組みを進めています。オープンデータを基にした信用情報を分析するデジタル信用調査は反社チェックとソーシャルメディアでの人物評価の二つのサービスを提供しています。全国に基盤を持つ物流会社への導入に成功する等、実績をあげつつあります。人物評価とは、個人の信用調査です。中国ではソーシャルメディアでの信用調査が進んでいます。アリババグループが提供しているスマホベースの決済手段「アリペイ(Alipay、支付宝)」は日常的な支払い手段になっていますが、アリペイには「ゴマ信用」という信用スコアの機能が付いています。アリペイでの支払い履歴に加え、学歴、職歴、自動車や住宅等の資産状況、交遊関係等を入力してもらいスコアリングしています。本人にも公開され、与信等に使われています。350~950点の範囲でスコアリングされ、700点以上だと融資が通りやすくなるそうです。そういう時代になっていますから、当社は当社のアプローチで、ソーシャルメディア上のデータとか反社データを使って人物評価(信用スコア)を行っていきます。
 
御社は、そのスコアを企業に提供して、企業がビジネスに利用する訳ですね。
 
菅原社長 :おっしゃる通りです。みずほ銀行さん(株式会社みずほ銀行)とソフトバンクさん(ソフトバンク株式会社)の合弁会社であるジェイスコア(株式会社J.Score)さんのようなビジネスです。AIによるデータ解析で、融資の可否を決めたり、金利を決めたり、あるいは貸しはするけれども限度額をデータによって上下させたり、といった事ができるようになります。日本の企業はこうしたサービスで中国やGAFAに遅れていますが、我々のような企業を見つけてきて、データを結合させ、融資事業に活かしたい、と考えている企業は多く、ニーズは強いです。総務省が中心となり、検討を進めている情報銀行につながるサービスです。
 
興味深いお話ですね。内部脅威検知サービスが順調に成長しているとの事でしたが、来期以降、徐々に新規事業の成果が数値に現れてくるのでしょうか。
 
菅原社長 :今期は従来の延長線上にあり、モニタリングが伸びますが、来期は新しい事業も期待できると思います。デジタルファースト法や情報銀行を見据えた研究開発や営業活動にも力を入れていきますから、お話しできる事も増えてくると思います。「電子政府銘柄」として取り上げていただいていますが、現状では、本当にそうなのかな、と思っている方も少なくないと思います。
 
「電子政府銘柄」とは、どのような事をする会社なのか?と聞かれると説明するのが難しいですよね。
 
菅原社長 :例えば、デジタルファースト法で何が変わるのか、と言うと、基本的には紙がなくなります。住民票とか印鑑証明が要らなくなります。デジタルが正で、紙が副になり、役所の中から紙を一掃しようという法案です。キーになるのはマイナンバーですから、電子政府が機能していくために、マイナンバーを普及させる必要があります。現状、普及していませんからビジネスになりません。このため、我々は、エストニアの本人認証技術を使って、「企業が持つIDをキーにした本人認証」サービスを展開していきます。マイナンバーとの連動も可能ですから、いずれマイナンバーと連動させる事になります。
 
なるほど。電子政府のキーはマイナンバーであり、マイナンバーを使いこなすために安全確実な本人認証が不可欠。遠からず到来する電子政府の時代に備えて、企業ID等に対応した本人認証に取り組み、技術の磨き込みを行っておこう、と言う訳ですね。しかも、御社の本人認証技術は実際にエストニアの電子政府で使われている、言わば、実戦経験のある唯一の技術ですかから、そこが強みであると。
 
菅原社長 :そうですね。エストニアは海外のIT企業の進出も多くソフトウェア開発が盛んで、NATOのサイバーテロ防衛機関の本部所在国でもあります。既に電子投票も導入されていますが、この本人認証技術があればこそ、と言えます。デジタルファースト法の成立で、日本もデジタル化が進み電子政府の実現に向け前進するでしょうから期待して下さい。
もちろん、法案が通っても、すぐに業績に反映される訳ではないと思いますが、そこに狙いをつけてデータを蓄積しておく事、沢山のデータを持っている事やノウハウを蓄積しておく事が、後々、強みになります。シェアリングエコノミーや仮想通貨から生じるリスクマネジメントでも、徐々に実績が出てきます。
 
エストニアは、かつてソビエトやドイツ等に翻弄され、今もロシアの脅威にさらされていますから、技術が磨かれたのでしょうね。技術と共にポイントになるリスクデータについても、既に官公庁が御社に注目しているようですし。現状では、電子政府が存在しませんから、御社が電子政府関連と言われてもピンとこない面がありましたが、電子政府関連ビジネスの実現に向け、外堀を埋めつつある、という印象を持ちました。
 
菅原社長 :現状では「電子政府関連」といっても、投資家の皆さんが、具体的にイメージする事は難しいかもしれません。投資家目線では、「事業がいかに儲かるか、という事を具体的に説明して欲しい」と言う事になるのでしょうから。今後、数値面も含めて、少しずつ、より具体的なお話ができるようになってくると思いますし、説明の仕方も工夫する必要があると感じています。
 
【株主・投資家へのメッセージ】
「実績として示していく事の大切さは認識している」と言う事ですね。今後の展開に期待したいと思います。それでは最後に株主・投資家の皆様へのメッセージをお願いします。
 
菅原社長 :スマートデバイスの浸透やSNSの発達を背景に、ネット炎上や企業価値の毀損など、その反動で生じるリスクは重要な経営テーマとなっています。また、キャッシュレス化、シェアリングエコノミー、仮想通貨、情報銀行、電子政府など、テクノロジーの進展・デジタル化が急速に進む中、リスクも多く発生しています。2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えて、社会の安全管理にデータやテクノロジーを駆使していく必要もあります。当社はこうした社会的要請に応えながら、持続的な成長と株主価値の最大化に取り組んでまいります。世の中の動きを柔軟に見定めて、常に新しい事業ドメインを見極めつつ、先駆的な経営を追求してまいります。株式会社エルテスの今後にどうぞご注目ください!
 
御社は、テクノロジーの発展に伴い新たに生まれるデジタルリスクに対応する形で事業領域を広げてきましたが、それは社会的な要請でもあり、CSRに通じるところがある、と言う事ですね。自らが取り組むべき課題の解決と社会的な課題の解決との同時実現を目指す共有価値の創造(CSV:Creating Shared Value)でもありますね。長時間にわたり、丁寧なご説明を頂き有難うございました。菅原社長と株式会社エルテスの益々のご活躍とご発展をお祈り申し上げます。
 
 
今後の注目点
テクノロジーの進展に伴う新たなリスクの増加や東京オリンピック・パラリンピックの開催を控えた社会的リスクの高まりを背景に業績が拡大している。単に追い風に乗っているだけでなく、危機発生後の対応支援から、危機発生前のリスク因子の予兆検知による未然防止へ軸足を移す戦略が奏功している事がポイントだ。新規事業についても、情報持ち出し・社内不正の脅威だけでなく、超過勤務の検知など働き方改革の支援にもなる内部脅威検知サービスの立ち上がりが順調な事に加え、デジタルファースト法の施行を見据えた本人認証や情報銀行を見据えてのオープンデータを基にした信用スコア等の取り組みも着実に進んでいるようだ。既存事業が拡大する中で新規事業が軌道に乗れば、成長速度が加速する。また、三井住友信託銀行との事業協力に見られるように、今後、同社のサービスを利用するだけでなく、イノベーションの実現に向けた事業協力も増えていくものと思われる。多くの好材料が、どのように業績に反映されていくか、今後の展開に期待したい。
 
 
 
<参考:コーポレートガバナンスについて>
 
 
◎コーポレート・ガバナンス報告書   更新日:2018年5月24日
基本的な考え方
当社は、経営の効率化を図ると同時に、経営の健全性、透明性及びコンプライアンスを高めていくことが長期的に企業価値を向上させていくと考えており、それによって、株主をはじめとした多くのステークホルダーへの利益還元ができると考えております。経営の健全性、透明性及びコンプライアンスを高めるために、コーポレート・ガバナンスの充実を図りながら、経営環境の変化に迅速かつ柔軟に対応できる組織体制を構築することが重要な課題であると位置づけ、会社の所有者たる株主の視点を踏まえた効率的な経営を行っております。
 
<実施しない原則とその理由>
当社は、基本原則のすべてを実施してまいります。