ブリッジレポート
(2483) 株式会社翻訳センター

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ブリッジレポート:(2483)翻訳センター vol.8

(2483:JASDAQ) 翻訳センター 企業HP
東 郁男 社長
東 郁男 社長

【ブリッジレポート vol.8】2017年3月期第2四半期業績レポート
取材概要「コンベンション事業が好調で上期で2回の上方修正という結果につながった。(株)アイ・エス・エスをM&Aした効果が数字となって表れた形だが・・・」続きは本文をご覧ください。
2016年12月13日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社翻訳センター
社長
東 郁男
所在地
大阪市中央区久太郎町4-1-3 大阪御堂筋ビル
決算期
3月末日
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2016年3月 9,178 534 534 430
2015年3月 9,191 504 502 283
2014年3月 8,772 364 359 179
2013年3月 7,267 422 422 220
2012年3月 5,536 440 439 227
2011年3月 4,756 279 270 139
2010年3月 4,239 236 239 105
株式情報(12/2現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
3,480円 1,684,500株 5,862百万円 14.4% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
55.00円 1.6% 276.04円 12.6倍 1,855.74円 1.9倍
※株価は12/2終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数。ROE、BPSは前期実績。
 
(株)翻訳センターの2017年3月期第2四半期決算概要等について、ブリッジレポートにてご紹介致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
翻訳業界の国内最大手で初の上場企業。特許、医薬、工業・ローカライゼーション、金融・法務分野において、産業翻訳と呼ばれる技術文書やビジネス文書の翻訳を行う。語学力、専門性、文章力に優れた約4,400名の登録翻訳者・通訳者を有する。高い品質と専門性、対応言語約75言語という幅広さが特徴。M&Aによって、通訳も含めた言語サービスにおける事業領域の拡大を図る。
 
【沿革】
江戸時代から薬の町として有名な大阪・道修町(どしょうまち)で、医薬専門の翻訳サービスを提供するために設立された(株)メディカル翻訳センターが前身。その後、特許などへ翻訳業務の範囲を広げる過程で東京、大阪、名古屋に設立した数社を整理・統合して1997年8月に(株)翻訳センターとなる。2006年株式上場後、海外へも進出。2012年9月に通訳、コンベンション(国際会議企画・運営)、人材派遣で実績を持つ(株)アイ・エス・エスを子会社化。
 
 
【社長プロフィール】
東 郁男社長は1961年7月15日生まれ。
1992年8月同社入社後、1997年8月取締役就任。2001年9月に創業者からバトンを引き継ぎ、代表取締役に就任し、2006年の株式上場の指揮を執る。
 
【企業理念・経営方針】
<企業理念>
 
<経営ビジョン>
「すべての企業を世界につなぐ言葉のコンシェルジュ」
 
【市場環境】
翻訳ビジネスは大きく分けて、「産業翻訳」、「出版翻訳」、「映像翻訳」があるが、同社の中心的な事業は、企業や官公庁で発生する技術文書、ビジネス文書の翻訳のことを指す「産業翻訳」と言われる分野。
日常生活においては出版翻訳や映像翻訳を目にすることが多いが、約2,600億円といわれる日本の翻訳市場において、産業翻訳は90%と圧倒的な大半を占めている。
一般社団法人日本翻訳連盟によると、国内には約2,000社の翻訳会社・事業者があるが、売上高63億円(単体、2016年3月期)の同社の以下は、10位で売上高数億円程度と、小規模事業者が大多数の業界となっている。
 
日本企業の活動のグローバル化が進むにつれて、翻訳ニーズは益々拡大するものと予想されている。
高速鉄道、プラント設備・装置技術、水道など日本企業による現地インフラ事業の受注拡大
新興国市場における日本の自動車産業の拡大
震災、洪水などの教訓からリスク分散に伴う生産拠点の多極化
企業経営者の多国籍化
所謂「クールジャパン」戦略に基づいた、コンテンツ、製品・サービスの輸出拡大や、来日誘致策の積極化
海外に目を向けてみると、アメリカの調査会社コモンセンスアドバイザリー社発表による2016年の世界の語学サービス会社の売上高ランキングにおいて、同社は5年連続でアジア地域では1位にランクインされた。
同社レポートによると、世界の翻訳市場は約2兆3,500億円と、日本市場の10倍以上にあたる巨大市場が形成されている。当然競争も激しい事は予想されるが、同社は事業拡大のため、新規領域への取組も開始しており、早期の売上高100億円達成、世界トップ10入りを目指している。
 
 
【事業内容】
特許、医薬、工業・ローカライゼーション、金融・法務など、専門性の高い事業分野における産業翻訳を行っている。
産業翻訳の具体例としては、以下の様なものが挙げられる。
デジタル機器等における複数言語で書かれている取扱説明書
海外生産工場での機械の仕様書や現地従業員向けの作業マニュアル
現地会社で使う規程類などの人事労務資料
日本国あるいは外国へ特許出願する際の特許明細書
日本国あるいは外国で医薬品の承認申請を取得するための資料
決算短信、株主総会招集通知などのディスクロージャー関連資料
企業間で発生する契約書などの法務資料
 
現在の顧客数はグループで約4,400社。9割が法人顧客。
売上ベースで対応言語の80%が英語で、中国語5%、西・韓・独が数%と続くが、近年、東南アジア言語の翻訳依頼が増えている。
現在、約75言語に対応している。
 
◎ビジネスモデル
翻訳作業は、同社に登録している約4,400名(2016年3月期)の翻訳者が行う。質の高い翻訳者をどれだけ確保できるかが事業拡大の上で大きなポイントとなる。
そのために、登録の際トライアルというテストを実施し、語学力のみでなく、技術知識など専門性や文章力、スピードも評価して一定以上の能力を有した翻訳者のみと契約している。合格率は約35%ということだが、一次審査として書類審査も行っていることから、実際の合格率はもっと低く、狭き門となっている。
登録翻訳者の確保が重要な経営課題と認識しているが、実際のところは、翻訳者の数がボトルネックになった事はないということで、安定的に仕事を発注できる同社の事業規模の大きさもあり、登録者数は順調に拡大している。
同社の売上原価のほぼ大半が登録翻訳者への支払報酬で、原則的に「対応言語 1ワードあるいは1文字」当たりの従量制となっている。
業務フローを示したのが以下の図だが、同社が安定的に利益を生み出すためには以下の2点が最も重要であり、そのために様々なシステムを導入している。
 
 
①翻訳者の選定
品質確保のためには、顧客から依頼された原稿の内容に適した翻訳者を言語、専門性、スピード、発注単価などを加味して選定しなければならない。
この選定でミスをすると、納品までの後工程に支障をきたし、収益低下につながる。

同社では基幹業務統合システムを使用し、常に適切な翻訳者選定が出来るような体制を構築している。案件の受注から納品、回収までを一括管理する同社カスタマイズの基幹業務システムで、販売管理だけでなく、登録者に関する専門分野、過去の実績、スケジュールなど、詳細なデータが蓄積されている。
コーディネータと呼ばれる社内の担当者が、このシステムに蓄積された登録者の専門分野、過去の実績、スケジュールなどのデータを用いて適切な翻訳者を選定する。これによりコーディネータの属人的な経験などに頼らずに適切な翻訳者の選定を行う事が出来る。なお、2015年7月に基幹業務統合システムを改修している。
 
②翻訳のスピードアップ及び品質チェック
顧客に納品する前に必要な校正作業は社内の校正スタッフ、ネイティブスタッフなど、専門スタッフが行っている。また、翻訳作業をより確実かつスピーディーに行えるよう、各種翻訳支援ツールを使用している。
 
 
従来の手作業による翻訳では、大量の原稿の重複箇所の表現統一を手作業で処理しており、業務の精度を高めるためには、多くの人手を投入するなど、効率的ではなかった。
この問題を解決するために、同社は各種翻訳支援ツールを活用している。これは、重複箇所の表現統一を機械的に処理するもので、ツール導入により翻訳作業に関わる人出を減らし、より速く正確に行うことが可能となった。
 
◎事業セグメント
翻訳事業が売上、利益の大半を占める。
 
 
特許分野、医薬分野、工業・ローカライゼーション分野、金融・法務分野からなる。

①特許分野
主に、特許事務所および各種メーカーの知的財産関連部署を顧客とした、電気、電子、機械、自動車、半導体、情報通信、化学、医薬、バイオ分野における、外国出願ならびに日本出願などに伴う特許出願明細書、特許公報などの翻訳を行っている。

②医薬分野
主に、製薬会社を顧客とした、新薬等医薬品開発段階での試験実施計画書、試験報告書、医薬品の市販後の副作用症例報告、学術論文、および、医薬品・医療機器類の導入や導出に伴う厚生労働省、米国FDA(食品医薬品局)などへの申請関連資料などの翻訳、医療機器メーカーを顧客としたマニュアルの翻訳や化学品、農薬関連の翻訳も行っている。

③工業・ローカライゼーション分野
主に、自動車、電気機器、機械、半導体、情報通信関連の輸出・輸入メーカーを顧客とした、技術仕様書、規格書、取扱説明書、品質管理関連資料の翻訳、メディアコンテンツ類の翻訳も行っている。

④金融・法務分野
主に、銀行、証券会社、保険会社など金融機関、法律事務所を顧客とした、市場分析レポート、企業業績・財務分析関連資料、運用報告関連資料、人事関連資料、マーケティング関連資料、契約書、定款・約款などの翻訳、また、企業の管理系部署などを顧客とした、株主総会招集通知やアニュアルレポート、有価証券報告書などのディスクロージャー関連資料の翻訳、会社案内、法律関連文書、人事規程などの翻訳も行っている。
 
 
(株)アイ・エス・エスにおいて、顧客企業が機密保持上、社外に持ち出せない文書類などの翻訳業務を行う翻訳者派遣、ならびに、会議、商談、工場見学などの通訳業務を行う通訳者の派遣を行っている。
 
 
(株)アイ・エス・エスにおいて、大規模国際会議や企業内会議、商談、工場見学などの際の通訳を請負っている。
 
 
(株)アイ・エス・エス・インスティテュートにおいて通訳者・翻訳者養成のための語学教育を提供している。
 
 
(株)アイ・エス・エスにおいて、国際会議・国内会議(学会・研究会)やセミナー・シンポジウム、各種展示会の企画・運営を行っている。
 
 
(株)外国出願支援サービスが行っている外国出願用の特許明細書の作成業務など。
 
【特徴と強み】
翻訳業界最大手で初の上場企業である同社は、以下の様な強みや特徴を有している。
 
◎専門性
特許、医薬、工業・ローカライゼーション、金融・法務の4分野において高い専門性を有している。
本業である翻訳に加えて、外国特許出願に際しての出願書類の作成やメディカルライティング(新薬申請資料の作成)を手掛けるなど、その業界に関する高い専門性と翻訳に付随した付加価値サービスを展開している。
近年様々な機械翻訳サービスがWEBを通じて提供されるようになってはきているが、現在のところ、同社が手掛けるレベルの産業翻訳で使用に耐えられるものではなく、今後も顧客が要求する専門性と言う観点からすれば普及、浸透には相当な時間と開発コストが必要になるのではないかと思われる。
 
◎総合力
2006年4月の株式上場時は翻訳事業のみの事業形態であったが、2012年9月に通訳業界で大きな実績をもつ(株)アイ・エス・エスを買収し、事業を拡大した。「すべての企業を世界につなぐ言葉のコンシェルジュ」という経営ビジョンのもと、コア事業である翻訳だけにとどまらず、通訳、人材派遣、コンベンション(国際会議企画・運営)、通訳者・翻訳者育成事業など、言葉の総合サプライヤーとして体制を構築している。また、対応言語数が約75言語という幅広さ、前述の外国特許出願時におけるワンストップ・サービスなど、守備範囲の広さが大きな競争優位性に繋がっている。
 
 
2015年5月発表の第三次中期経営計画で目標とする経営指標に「ROE10%以上」を掲げており、資本効率に対する意識を高めている。
2016年3月期において総資産回転率は低下、レバレッジに大きな変化は無かったが、売上高当期純利益率の上昇によりROEは4ポイント上昇した。ただ、これは特別利益に投資有価証券売却益172百万円を計上したことによるものであり、目標達成にはベースとなる収益性の向上が求められる。
 
 
2017年3月期第2四半期決算概要
 
 
コンベンション事業が好調で増収増益。計画も大きく上回る。
売上高は前年同期比16.5%増の49億円。主力の翻訳事業が医薬、金融・法務分野中心に堅調であったことに加え、大型国際会議の運営を受託したコンベンション事業が大きく貢献したが、相対的に利益率の低い同事業が伸長したため、粗利率は低下した。営業利益は同154.1%増の3億41百万円。売上高同様に、コンベンション事業が寄与した。期初計画に対しては、8月、10月と2回の上方修正を行い、売上・利益共に大きく上回った。
 
 
①翻訳事業
<特許>
特許事務所からの受注は底堅く、企業の知的財産関連部署からの受注も好調に推移した。
 
<医薬>
プリファードベンダー(※)契約を締結している外資製薬会社からの安定した受注に加え、国内製薬会社や医療機器関連企業における受注拡大、CROから長期案件を獲得したこともあり、好調だった。
プリファードベンダー(※):企業が優秀な人的リソースの確保と費用低減を狙い、優先的に業務を委託する特定の調達先のこと。
 
<工業・ローカライゼーション>
電機・電子部品関連企業からの堅調な受注に加え、情報通信関連企業との取引が拡大する一方、自動車関連企業からの受注が低迷したため減収となった。
 
<金融・法務>
CGC(コーポレートガバナンス・コード)の適用開始等を背景に招集通知の英訳をはじめとしたIR関連資料の新規案件獲得など、企業の管理系部署における受注拡大に加え、銀行からのスポット案件獲得もあり2桁の増収となった。
招集通知案件の受注件数は前年同期比で37%増加、顧客数も前年同期比で約4倍と急増している。
 
② 派遣事業
金融関連企業やサービス関連企業からの求人は堅調に推移したものの登録スタッフ不足が影響し減収減益となった。
 
③ 通訳事業
保険・銀行・証券など金融関連企業や医薬品関連企業などからの受注が堅調に推移するとともに、外資証券会社から大型の通訳案件を獲得したことから大幅な増益となった。
 
④ 語学教育事業
(株)アイ・エス・エス・インスティテュートが運営する通訳者・翻訳者育成講座のうち4月~9月開講のレギュラーコースにおいて計画通り集客できたため、売上高は前年同期を上回った。
 
⑤ コンベンション事業
今年6月に福岡で開催された大型国際会議「第99回ライオンズクラブ国際大会」をはじめ「第19回日本臨床救急医学会総会・学術集会」、「第17回嗅覚・味覚国際シンポジウム(ISOT2016)」などを運営し、大幅な増収・黒字転換となった。これらに加え、今年5月のオバマ米国大統領の広島訪問時の接遇業務を受注するなど、これまで培ってきた実績が評価されている。
 
⑥ その他
外国への特許出願に伴う明細書の作成や出願手続きを行う(株)外国出願支援サービスが好調に推移した。
 
 
現預金の増加などで流動資産は前期末比1億5百万円の増加。固定資産は有形固定資産、のれんの減少などで同33百万円の減少で資産合計は同71百万円増加の47億28百万円となった。
仕入債務、退職給付に係る負債の減少などで負債合計は同47百万円減少の14億83百万円となった。
純資産は利益剰余金の増加などで同1億19百万円増加の32億45百万円となった。
この結果自己資本比率は前期末の67.1%から68.6%へ1.5%上昇した。
 
 
税金等調整前四半期純利益の増加などで営業CFはプラスに転じた。
前年同期にあった投資有価証券の取得等による支出がなくなり、投資CFのマイナス幅は縮小し、フリーCFはプラスに転じた。財務CFはほぼ変わらず。キャッシュポジションは上昇した。
 
 
2017年3月期通期業績予想
 
 
増収増益
通期予想に関しても2回の上方修正を行った。売上高は前期比8.4%増の99億円を計画。翻訳事業を始め全セグメントで増収を予想。下半期も翻訳事業は堅調で、粗利率は前期並みを見込む。
販管費の伸びが小さく、営業利益は34.6%増の7億20百万円の予想。売上高、営業利益ともに連続して過去最高を更新する。配当は2円/株増配の55.00円/株の予定。予想配当性向は19.9%。
 
 
期初予想に比べ、翻訳事業の医薬分野、金融・法務分野、通訳事業、コンベンション事業を上期の好調さを反映して上方修正している。
 
今後の注目点
コンベンション事業が好調で上期で2回の上方修正という結果につながった。
(株)アイ・エス・エスをM&Aした効果が数字となって表れた形だが、東社長によれば、これだけではなく、(株)アイ・エス・エスの通訳事業と翻訳センターの翻訳事業、特に親和性の高い金融・法務分野でシナジーも生まれているとのこと、非常に意味のあるM&Aだったと評価できるだろう。
上方修正後の進捗率は営業利益で5割を下回っているが、翻訳事業、特に医薬分野もプリファードベンダー契約が国内製薬会社にも広がり始めているなど、足下は堅調で大きな下振れ懸念はなさそうだ。
投資家としては、今期の着地より、来期に最終年を迎える第三次中計の業績目標「売上高110億円、営業利益7.5億円」の達成確度に注目することとなろう。
 
 
<参考1:第三次中期経営計画の重点施策>
 
第三次中期経営計画においては、(1)顧客満足度向上のための分野特化戦略のさらなる推進、(2)ビジネスプロセスの最適化による生産性向上、(3)ランゲージサービスにおけるグループシナジーの最大化の3点を重点施策として掲げている。

この3点に関する直近の進捗などは以下の通りである。
 
(1)顧客満足度向上のための分野特化戦略の更なる推進
①医薬分野
医薬分野ではプロジェクト型案件による売上拡大を目指している。
その一つが前回のレポートでも紹介した副作用報告書作成業務(ADR業務)のアウトソーシング化である。

医薬品の副作用は、副作用が発生した際に医療機関がその情報を製造販売元の製薬会社に報告し、報告を受けた製薬会社は副作用情報を確認・分析して、報告書を作成し規制当局に提出しなければならない。
同プロセスは副作用が発生した際の緊急性が高い一方、報告書の作成は煩雑である。
そこで同社は、報告書の翻訳・編集を行う専門プロジェクトチームを組織し、医療機関が製薬会社に報告した副作用情報を原資料として入手し、報告書を作成して納品する。
これにより製薬会社にとっては、煩雑な手間をアウトソーシングすることによるコストの削減や管理の簡便化というメリットが生じるのと同時に、同社にとっては収益の安定化、専門性の向上が期待できる。
前期は製薬会社2社でこのプロジェクト型案件を導入し、その前の期に比べ売上は1.5倍に拡大した。
今後もメガファーマをメインターゲットにプロジェクト型案件の受注拡大を図る。
 
②特許分野
企業の知的財産関連部署と特許事務所、双方へのアプローチを強化し収益向上を図る。
現状では特許事務所経由の案件の方が多いが、今後は企業知財に対する直接アプローチに注力する。企業知財は収益性向上、案件管理の点で同社にとってメリットが大きい。また、企業知財に対しては子会社(株)外国出願支援サービスとのシナジー(特許明細書作成、翻訳および外国への出願支援をセットでサービス)による取引拡大も目指していく。
一方特許事務所に対しては、価格重視の顧客向けに翻訳支援ツールを活用して収益性を向上させる。
 
③工業・ローカライズ分野
ドキュメントサービスにおける制作体制の整備
2015年10月にユースエンジニアリング(株)(愛媛県新居浜市)と業務提携契約を締結した。
これにより、翻訳センターの翻訳サービス機能とユースエンジニアリングのドキュメント制作機能、それぞれの強みを組み合わせ、ドキュメントサービスでの連携強化により事業拡大を図り、両社顧客のニーズにワンストップで対応できる体制が構築できた。このローカライズ機能を活用して販路を拡大する。
 
④金融・法務分野
従来の顧客層である金融機関、法律事務所などを維持しつつ、企業の管理系部署との取引拡大を目指している。特許分野や医薬分野などの既存顧客への拡販も見込め、開拓余地は極めて大きいと考えている。
案件としては、IR関連資料、財務・会計資料、契約書、広報資料などで、足元ではCGC(コーポレートガバナンス・コード)制定をきっかけとしてIR関連資料翻訳のニーズが増加している。
また、(株)アイ・エス・エスとも連携してIR通訳に付随して発生する翻訳需要の取り込みも進める。
 
(2)ビジネスプロセスの最適化による生産性向上
翻訳支援ツールの活用は着実に進んでおり、使用率は年々上昇している。
また、収益性向上のためのICTの積極的な導入に取り組み、2015年7月に基幹業務統合システムの改修を行った。
加えて、労働集約型ビジネスにおける生産性向上のためには働き方の多様化も重要な課題であり、在宅勤務制度を試験的に導入している。本格導入にはクリアすべき課題もあり、検討を続ける。
 
(3)ランゲージサービスにおけるグループシナジーの最大化
①コンベンション事業
毎期着実に実績が積み上がっており、ブランド力は強化されている。
今後は収益性も勘案した選択的・戦略的受注を進める。
 
(主な受注実績) 【翻訳センターコメント】2Q決算説明会資料 P17掲載の情報に合わせています。
(【翻訳センターコメント2】「第19回日本臨床救急医学会総会・学術集会」は現在の(株)アイ・エス・エスWebサイトの表記に合わせています。)
 
 
②多言語コンタクトセンター事業
キューアンドエー(株)とともに2015年4月に設立したランゲージワン(株)による多言語コンタクトセンターサービスは、交通機関に加え、電子商取引、ホテルなどの顧客を中心に想定通りの伸びを見せている。
 
 
 
<参考2:第三次中計経営計画(前回レポートより)>
 
1.第二次中期経営計画の振り返り
「事業領域の拡大」、「情報・経験の集約と活用」、「お客様の期待を上回るサービス品質」を基本方針とした第二次中期経営計画では、(株)アイ・エス・エスの子会社化や、メディカルライティング専門子会社(株)パナシアの設立など、領域拡大、専門性の向上を推進することが出来たが、売上利益共に未達に終わり、グループ会社間、拠点間における連携が想定通りに進まなかったこと、ローカライゼーション中心に制作体制を増強したため利益率が低下したなど課題も残った。
 
 
2.第三次中期経営計画
 
「言葉のコンシェルジュ」という同社が目指す姿に変わりは無い。
基本方針においては、「市場に対応する新たな価値を創造する」ことに注力する。
 
3.重点施策
以下3点を重点施策として推進する。
 
(1)顧客満足度向上のための分野特化戦略のさらなる推進
*専門特化の組織体制による高付加価値サービスの提供
従来は東京・大阪・名古屋の営業地域別の組織体制であったが、特許、医薬、工業・ローカライゼーション、金融・法務の4分野について専門特化型組織体制に変更し、顧客ニーズの多様化や高度化に対応。高付加価値サービスを提供して、他社に対する差別化を一層推進する。
 
*分野・ドキュメント別の分化型マーケティング活動の実施
上記4分野について各分野に適した分化型マーケティングを推進し、翻訳市場内でのシェア拡大を図る。
 
 
(2)ビジネスプロセスの最適化による生産性向上
*ICTの活用による業務フローの改善
現在利用している基幹業務システムのバージョンアップを進め、生産性をアップさせる。
また、引き続き翻訳支援ツールの活用も進める。自社開発の「HC TraTool」に加え、様々な翻訳支援ツールをどのように活用するかがポイントとなる。
現在IT系企業の機械翻訳への参入が進んでおり、今後どのように対応していくかも研究を進めている。
 
*人材の能力を最大限活用する多様で柔軟な働き方の推進
専門特化を追求する同社において、専門性の高い人材の確保は最も重要である。また、翻訳・通訳業界は他の業界と比較して活躍する女性が多く、女性がキャリアを積みやすい環境にある。同社でも全社員の約65%が女性で、常時一定程度の社員が時短、産休、育休制度を利用している。フルタイム社員とのバランスを考慮しながら、それぞれの社員がより働きやすく、高いモチベーションを保つことができる職場環境や仕組みを作り上げ、生産性・効率性の向上に繋げる事が重要と考えている。
 
(3)ランゲージサービスにおけるグループシナジーの最大化
*新規事業開発・サービス拡充による新たな市場の開拓
*顧客ニーズに適応する戦略的グループシナジーの創出
第二次中期計画において(株)アイ・エス・エスの子会社化など、成長・拡大のための基盤を構築することができた。
第三次中期経営計画では、サービス内容をより充実したものに作り上げていく。
全てのグループ企業をあげてシナジーを創出し、ワンストップで顧客に付加価値の高いサービスを提供する。
グループ間での顧客の紹介にとどまらず、例えば、翻訳と通訳を同時に提案するなど、戦略的な提案営業を「攻め」の姿勢で展開する。
また、訪日外国人観光客の増加、2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催などランゲージサービスの幅が広がる中、新規事業の開発や新たな市場の開拓も目指す。
 
4.業績目標
 
翻訳事業においては、特許分野が緩やかな伸びであるのに対し、医薬、工業・ローカライゼーション、金融・法務が牽引役になる。
特に医薬分野は、現在約20社のプリファードベンダー契約企業数を更に拡大させ、メディカルライティングにも注力する。
これまでは目標とする経営指標として、「売上高総利益率50%」と「営業利益率10%」を掲げていたが、これは翻訳事業のみの事業形態だった時のものであり、現在は事業領域も大きく拡大しているため、上記2つに変更した。投資家の期待に応えるためROEも指標に加える事とした。
 
 
<参考3:コーポレートガバナンスについて>
 
 
◎コーポレートガバナンス報告書
同社は最新のコーポレートガバナンス報告書を2016年6月29日に提出している。

*JASDAQ上場企業として、コーポレートガバナンス・コードの基本原則をいずれも遵守している。
*「コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示」には言及していない。