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(7776) 株式会社セルシード

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ブリッジレポート:(7776)セルシード vol.10

(7776:JASDAQ) セルシード 企業HP
長谷川 幸雄 社長
長谷川 幸雄 社長

【ブリッジレポート vol.10】2012年12月期業績レポート
取材概要「今回、新しい方針が打ち出された。これまで、シーズの発掘から、上市、量産、販売に至るまで、同社の管理の下で一貫して事業を進めていく考えだ・・・」続きは本文をご覧ください。
2013年3月26日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社セルシード
社長
長谷川 幸雄
所在地
東京都新宿区原町3-61 桂ビル4F
決算期
12月末日
業種
精密機器(製造業)
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2011年12月 86 -1,418 -1,358 -1,442
2010年12月 66 -1,204 -1,002 -1,009
2009年12月 87 -785 -788 -790
2008年12月 61 -778 -644 -650
2007年12月 40 -809 -614 -616
2006年12月 23 -672 -464 -470
2005年12月 34 -412 -336 -343
2004年12月 53 -257 -214 -215
株式情報(3/19現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
1,615円 6,008,600株 9,704百万円 - 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
- - - - 15.22円 106.1倍
※株価は3/19終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。
 
セルシードの2012年12月期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
東京女子医科大学の岡野光夫教授が開発した日本発の「細胞シート工学」を基盤技術とし、この技術に基づいて作製した「細胞シート(細胞をシート状に組織化したもの)」を用いて従来の治療では治癒できなかった疾患や障害を治す再生医療「細胞シート再生医療」の世界普及を目指している。
事業は、各種用途向けに様々な種類の細胞シートを開発・製造・販売する「細胞シート再生医療事業」(売上計上は13/12期以降)と温度応答性細胞培養器材及びその応用製品の開発・製造・販売を行う「再生医療支援事業」とに分かれる。 「細胞シート再生医療事業」では、現在、共同研究先と5つの再生医療医薬品パイプライン(新薬候補)の研究開発を進めており、 「再生医療支援事業」では、細胞シート再生医療の基盤ツールである温度応答性細胞培養器材(世界で唯一当社が製造)及びその応用製品を開発・製造(多額の設備投資を必要とする一部の工程は外部委託)し、世界各国の大学・研究機関等に提供している。「再生医療支援事業」は細胞シート再生医療事業の提携先開拓のための戦略的な意義をも有し、収益だけを目的とした事業ではない。
 
現在、5つのパイプラインの研究開発を進めており、5つのパイプライン全てが臨床研究又はそれ以降の段階に入っている。12/12期第4四半期末時点の進捗状況は下表の通り。米国での角膜再生上皮シートでは動物実験が終了し、バイオロジックス(生物学的製剤)としての認定も受けた。心筋再生パッチではヒト骨格筋筋芽細胞シートの実用化でテルモ社と基本合意しており(12/3月発表)、食道再生上皮シートでは共同研究先での臨床研究が終了し良好な結果が得られた (12/8月発表)他、海外の共同研究先が臨床研究の準備を進めている。尚、欧州医薬品庁(EMA)に販売承認申請を提出した欧州角膜再生上皮シートについては資金調達や日本における法規制改革など国内外の環境変化の動向を踏まえて申請を一旦取り下げ、開発・事業化計画を再編する(後述)。
 
 
 
2012年12月期決算
 
 
前期比12.7%の減収、842百万円の経常損失(前期は1,358百万円の損失)
売上は再生医療支援事業によるもので、細胞シート再生医療事業は5つのパイプラインが順調に進捗しているものの、売上計上はなかった。損益面では、経営合理化策(後述)に基づく支出抑制により、販管費において、研究開発費が前期の867百万円から461百万円に、その他の経費も579百万円から418百万円に、それぞれ減少。前期は1,418百万円だった営業損失が846百万円に縮小した。
 
 
期初予想との差異要因
売上高の面では、米国Emmaus Medical Inc.(以下、エマウス社)との間で11年4月に締結した「米国における角膜再生上皮シート共同開発・事業化契約」に係る契約一時金150万米ドルを12年3月に受領したものの、売上計上しなかった事が116百万円の下振れ要因となった他、多施設分散型治験の延期に伴い、連動して進める予定だった角膜再生上皮シートの人道的使用を実施出来なかった事が13百万円の下振れ要因となった。
損益面では、エマウス社からの一時金売上計上がなかった事で売上総利益が116百万円下振れしたものの、期初予想に織り込んでいなかった経営合理化策等による支出削減効果840百万円で損失が期初予想を下回った。
尚、米国での角膜再生上皮シート事業においては、既に動物実験が終了しており、医療機器ではなく、バイオロジックス(生物学的製剤)としての認定を受けている。FDA(the Food and Drug Administration:食品医薬品局)との早期交渉開始を目指している。
 
7件の特許が成立
・角膜再生上皮シート(2件) :移植用「角膜再生上皮シート」(韓国、4月発表)、移植用「角膜再生上皮シート」(韓国、11月発表)
・心筋再生パッチ :間葉系幹細胞又は胚性幹細胞からなる移植用「心筋再生パッチ」(日本、2月発表)
・心筋再生パッチ(2件) :移植用「心筋再生パッチ」(欧州、3月発表)、移植用「心筋再生パッチ」(日本、9月発表)
・移植用「軟骨細胞シート」(日本、2月発表)
・新型細胞培養器材「新規アクリルアミド誘導体」(日本、2月発表)
 
(2)継続企業の前提に関する注記(12/3月)への対応
継続企業の前提に関する注記(12/3月)への対応策として、経営合理化策を発動して支出の削減に取組むと共に、12/4月~13/2月にかけて、新株予約権及び新株式の発行、エマウス社からの提携一時金の入金、及び事業提携により計1,180百万円の資金調達を行い、流動性を確保した。
 
経営合理化策について
尚、経営合理化策12年5月に役員報酬の減額、従業員夏期賞与の支給見送り、及び希望退職の募集(正社員30名)を柱とする経営合理化策を決議した。役員報酬については従前から自主的減額を行っていたが、改めて経営合理化策として明文化したもので、希望退職の募集については30名が応募し、上期決算において退職一時金50百万円を特別損失に計上した。
 
 
 
 
中期経営計画(13/12期~15/12期)
 
(1)環境認識
国内の再生医療関連事業の市場規模について、経済産業省では2020年に約8,700億円と予想しており、調査会社シードプランニングによると同年の市場規模は約1兆3,000億円。また、米国市場については、米国保健福祉省が、細胞療法、遺伝子治療、再生促進剤、美容応用、 その他関連機器類等も含めて、2020年にUS$300 billion(1ドル=90円換算で27兆円)と予想している(いずれも同社資料より。出所:12.11.16日本経済新聞朝刊、12.3.2経済産業大臣「新産業・新市場の創出に向けて」、米国Proteus Venture Partners ウェブサイト)。
 
同社は、日本の再生医療について、現在、産業化に向けたステージにあると考えており、下のグラフにおける第3段階(法規制への取り込み)の入り口。つまり、これから本格的な成長加速期を迎える。
 
 
実際、日本国内の再生医療関連市場は大手企業の本格参入により様々な分野で事業化が加速されつつあり、現在、法案作成が進められている再生医療関連法も世界に先駆けた内容となる可能性が出てきた。
 
現在検討されている再生医療関連法案(いずれも「2013年通常国会への提出が検討されている」模様)
・再生医療推進基本法
・薬事法の改正(「早期承認制度」の創設)
・医療法の改正(「細胞加工受託業」の創設)
・再生医療規制法(安全性確保が目的)
 
尚、厚生労働省資料によると、「早期承認制度」では、「治験の初期に少数例で安全性が担保でき、かつ将来の有効性が期待できる場合は、早期に臨床を完了し、その後、市販後調査での報告義務を課す」等の再生医療製品の早期実用化に向けた検討がなされている。また、「細胞加工受託業」は、これまで大学病院内の一定のGMPレベルの研究室で臨床研究の一環として細胞加工がなされてきたが、今後、細胞加工受託業を認める事で細胞加工と臨床研究の分業化を促し、医師が臨床研究に専念できる環境づくりに寄与するべく検討が進められている。
 
(2)同社技術基盤の優位性
現在、「細胞シート工学」だけが唯一「ヒト細胞のみからの組織の人工作製」という課題を原理的に解決しており、また、角膜再生上皮シート(仏国治験終了)、食道再生シート(臨床研究~治験準備)、心筋再生パッチ(臨床研究~治験)、歯周組織再生シート・軟骨再生シート(臨床研究)といった様に「細胞シート再生医療」の科学的なProof of Concept が多様な組織・疾患のヒト臨床で示されている。加えて、上市済み再生医療製品の殆どは皮膚と軟骨であり、上記の通り細胞シート再生医療の応用面での多様性は類を見ない。
 
 
(3)「再生医療産業化」実現のキーワード(Automation、Allogeneic、Alliance)
再生医療の市場拡大には産業化(量産システムの構築と生産コストの低減)が不可欠であり、そのための実現のキーワードとして、「Automation(生産システムの自動化)」、「Allogeneic(他家細胞原料化の実現)」、「Alliance(産学連携・産産提携の戦略的活用)」が挙げられている。
このため、同社は東京女子医科大学の岡野光夫教授グループと細胞シート生産自動化システムの共同開発に取組んでおり(独立行政法人日本学術振興会が先端的の研究の総合的かつ計画的な振興を目的に助成している最先端研究開発支援プログラム「FIRST」の一環として進められている)、今後、産学連携・産産提携の戦略的活用も積極的に進めていく考え。
 
(4)中期経営計画(13/12期~15/12期)の概要
同社は上記の事業環境を踏まえて、「事業提携」、「戦略投資」、「財務基盤」を3本柱として、「外部環境の変化を活用した新たな持続的成長モデルの構築」をビジョンとする中期経営計画の達成に取り組んでいく考え。
 
3つの柱 「事業提携」、「戦略投資」、「財務基盤」
事業提携 :事業提携により、細胞シート再生医療第1号製品の早期事業化を図る
戦略投資 :中長期的な企業価値成長を目指した「戦略分野への先行投資」を行う
財務基盤 :収支バランスを改善し、持続的成長を支え得る「財務基盤」を確立する
 
中期経営計画推進の鍵となるのが、同社の最大の武器であり、細胞シートの培養に不可欠な「温度応答性細胞培養器材」の活用であり、温度応答性細胞培養器材を活用して「比較優位」を有する分野に経営資源を集中していく考え。
 
「温度応答性細胞培養器材」は、
細胞シート再生医療基礎研究の”must-have” ⇒ 他社に先駆けたオープンイノベーション機会の獲得
細胞シート再生医療製品開発の”must-have” ⇒ 当社独自の価値付加・技術開発機会の獲得
細胞シート再生医療製品製造の”must-have” ⇒ 幅広い事業提携機会の獲得
 
 
「事業提携」
細胞シート再生医療第1号製品の早期事業化に向け「事業提携」を進めていく考え。具体的には、13/12期~12/14期における実現を目指し、事業提携の内容と研究開発戦略の大胆かつ機動的な組み換えを検討する。角膜再生上皮シートについては、社内外の状況に対応して、欧州での開発・事業計画を再編する。
 
 
「戦略投資」
中長期的な企業価値成長を目指した「戦略分野への先行投資」を実施していく考え。具体的には、比較優位を有する「シーズ製品化(規格化、工業生産工程確立等)」機能の更なる強化を念頭に、Innovationの源泉である大学・研究機関との産学連携により、温度応答性細胞培養器材を活用したオープンイノベーションによる先端シーズ及び技術の開発に取り組む。また、今後の日本における法規制の整備によって生じる新しい事業機会(例:早期承認制度、細胞加工受託業)への戦略的参入も検討している。
 
「財務基盤」
収支バランスを改善し、持続的成長を支え得る「財務基盤」を確立する。具体的には、事業提携、公的助成・補助、エクイティ・ファイナンスを含めた金融的手法など多様な手段を活用して強固な財務基盤を確立し、第1・第2の柱の推進に必要な資金の調達及び安定的資金源の開発に取り組む。また、費用対効果向上を通じた継続的な支出抑制にも取り組む。
 
 
事業提携の獲得による収益獲得・先行投資負担の軽減を目指す
13/12期は既に受領しているエマウス社からの契約一時金150万米ドルを売上計上する計画で、13/12期から14/12期にかけては事業提携の実現による提携一時金850百万円の獲得も見込める。また、研究開発資金として公的助成金・補助金の獲得にも取り組んでいく考え。一方、現在交渉中の事業提携先との協働による「細胞シート再生医療第1号製品の早期事業化」を目指した研究開発投資や中長期的企業価値成長を目指した戦略分野への先行投資が発生する見込みで、上記の数値目標に織り込んだ。
 
 
※ 販売承認申請の取り下げを含めた欧州角膜再生上皮シート開発・事業化計画の再編成について
(1)経緯
①11年5月に欧州医薬品庁(EMA)宛に販売承認申請を提出
同社は100%子会社であるCellSeed Europe Ltd. (セルシード・ヨーロッパ社、本社英国ロンドン)を通じて11年5月に欧州医薬品庁(EMA)宛に販売承認申請を提出し、同年6月から同社申請に関するEMAの薬事審査が開始された。
 
②評価報告書による多施設共同治験データの要求
審査は薬事審査のスケジュールガイドラインに沿って進められ、同社は12年12月にDay 120評価報告書(EMAが審査スケジュール120日目に申請者に対して送付する評価報告書)に対する回答書を提出した。13年2月にはEMA先進治療委員会(CAT)からDay 150評価報告書(EMAが審査スケジュール150日目に申請者に対して送付する評価報告書)を受領したが、このDay 150評価報告書には、販売承認を取得するためには追加データ類の提出が必要である旨の見解が示されており、追加データには相応の費用と時間が必要となる多施設共同治験のデータが含まれていた。
 
販売承認申請の提出は、EMAとの申請前事前相談で単一施設治験のデータに基づく販売承認申請で受理される旨を確認した上でのものだったが、同社は、より幅広い科学的見解・認知を得るべく、販売承認申請とは別に多施設共同治験の準備も進めていた。既に4ヶ国で治験開始承認を得ていたが、継続企業の前提に関する注記への対応上、費用と時間を要する多施設分散型治験は延期せざるを得ない状況だった。
 
③日本における公的施策の具体化を踏まえての欧州角膜再生上皮シート開発・事業化の再検討
同社は角膜再生上皮シートの科学的な安全性・有効性に問題はないと考えており、EMAも上述の各評価報告書において角膜再生上皮シートの科学的な安全性・有効性を否定している訳ではない。また、同社は費用と時間を投下して必要データ類を整えればEMAの要求を満たし得る回答書を準備する事が可能であると考えている。しかしその一方で、再生医療を取り巻く環境はここにきて急速に変化しており、特に日本においては、早期承認制度など再生医療の産業化を促進・振興するための様々な公的施策が具体的に検討されている状況である。同社は、こうした環境変化を踏まえて、資金的・時間的投資対効果の観点から従来の計画に基づく欧州角膜再生上皮シート開発・事業化の位置付けを改めて検討し直した。
 
(2)販売承認申請の取り下げと欧州における角膜再生上皮シートの開発・事業計画の再編
上記経緯の下で検討した結果、販売承認申請を一旦取り下げると共に欧州における角膜再生上皮シートの開発・事業計画を再編成する事が中長期的利益に適うと判断し、その旨、13年3月14日の取締役会で決議した。
 
 
今後の注目点
今回、新しい方針が打ち出された。これまで、シーズの発掘から、上市、量産、販売に至るまで、同社の管理の下で一貫して事業を進めていく考えだったが、今後は、同社の最大の武器であり、細胞シートの培養に不可欠な「温度応答性細胞培養器材」を活用した規格化や工業生産工程確立等の「シーズ製品化」に経営資源を集中していく考え(産学連携を活用)。販売に至るまでを一貫して管理していくのは資金負担が重く、現状ではリスクが高いため妥当な判断であると考える。欧州角膜再生シート事業における販売承認申請の取り下げと開発・事業計画の再編も同様であり、臥薪嘗胆のうえ、捲土重来を期し、再生医療の産業化に寄与してもらいたい。
新しい方針の下で早期に収益基盤を確立し経営を安定させる事ができれば、新たなビジネスチャンスも増えてこよう。先ずは13/12期、14/12期と目標数値に沿った収益が計上される事を期待したい。15/12期については、新たな提携を織り込んでいないため営業損失を見込んでいるが、現在、途上にあるパイプラインの開発が順調に進めば、利益計上の可能性が現実味を増してくる。更なるシーズの発掘と共に注目して行きたい。