ブリッジレポート
(2183) 株式会社リニカル

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ブリッジレポート:(2183)リニカル vol.2

(2183:東証マザーズ) リニカル 企業HP
秦野 和浩 社長
秦野 和浩 社長

【ブリッジレポート vol.2】2010年3月期業績レポート
取材概要「10/3期は進行中のプロジェクトの中止が響き減益となったが、新規の顧客開拓は順調だ。高い成長が見込めるがん領域でも成果が出始めており、今後の収・・・」続きは本文をご覧ください。
2010年6月1日掲載
企業基本情報
企業名
株式会社リニカル
社長
秦野 和浩
所在地
大阪市淀川区宮原1-6-1 新大阪ブリックビル
決算期
3月
業種
サービス業
財務情報
項目決算期 売上高 営業利益 経常利益 当期純利益
2010年3月 2,404 480 473 273
2009年3月 2,036 549 515 300
2008年3月 1,273 505 494 296
2007年3月 613 186 195 114
2006年3月 118 16 19 11
株式情報(5/21現在データ)
株価 発行済株式数(自己株式を控除) 時価総額 ROE(実) 売買単位
504円 12,345,000株 6,222百万円 27.8% 100株
DPS(予) 配当利回り(予) EPS(予) PER(予) BPS(実) PBR(実)
11.00円 2.2% 27.84円 18.1倍 85.36円 5.9倍
*株価は5/21終値。発行済株式数は直近四半期末の発行済株式数から自己株式を控除。
 
リニカルの2010年3月期決算について、ブリッジレポートにてご報告致します。
 
今回のポイント
 
 
会社概要
 
臨床試験(治験)や医薬品の市販後臨床試験等に関わる業務の一部を代行する事で製薬会社の医薬品開発を支援するCRO(Contract Research Organization:医薬品開発業務受託機関)事業を事業領域としている。治験の最も大切な段階である第II相試験(フェーズII)及び第III相試験(フェーズⅢ)における「モニタリング業務」とこれに付随する「品質管理業務」、及び「コンサルティング業務」に特化している事が特徴で、製薬会社の開発部門と同等の能力を有し、同等の立場で医薬品開発を実行・サポートできるCRO、すなわち、「CDO(Contract Development Organization:真の医薬品開発業務受託機関)」を目指している。
 
<沿革>
2005年7月、藤沢薬品工業株式会社(現 アステラス製薬株式会社)で免疫抑制剤等の開発に携わってきたメンバー9名によって設立された。06年1月には、SMO(治験施設支援機関)事業に進出するため同事業を手掛けるアウローラ(株)を子会社化したが、CRO事業への経営資源の集中を図るべく07年5月に全保有株式を売却。08年7月に、国内の製薬会社の米国進出支援を目的に米国カリフォルニア州に全額出資子会社LINICAL USA, INC.を設立。同年10月に東証マザーズに株式を上場した。
 
<事業内容>
事業は、第II相・第III相試験における「モニタリング業務」とこれに付随する「品質管理業務」、及び「コンサルティング業務」の3事業に分かれる。
 
モニタリング業務
新薬開発において最も重要な役割を果たす業務の一つで、治験が手順通り正確に行われているかをモニタリング(監視)する。具体的には、CRA(Clinical Research Associate:治験モニター)が治験を実施する医療機関に対して治験薬や実施計画書・手順書について説明、その後、治験が手順通り正確に行われているかをモニタリングする。
 
品質管理業務
CRAが医療機関から収集したデータが手順書や計画書通りに実施されているかについて、定められたチェックリスト等を用いて確認する業務。品質管理業務は治験の質を左右する重要な役割を果たしている。
 
コンサルティング業務
製薬会社に対して、新薬開発のスケジュール作成から治験企画、承認申請に至るまでのコンサルティングを行う業務。新薬開発をスムーズに進めるための技術的なサポートも行なっている。
 
 
2010年3月期決算
 
 
前期比18.1%の増収、同8.1%の経常減益
第3四半期決算発表時に業績予想を修正(売上高2,404百万円、経常利益451百万円)しており、この修正値を上回る着地となった。前期との比較では、受注残の消化で二桁の増収となったものの、実施中の大型案件2件が中止となった事や新規の案件獲得が遅れた事で想定したほどには売上が伸びなかった。このため、受託計画に伴い採用した人員の人件費や人材採用関連費用、人員増加に伴う東京オフィスの移転費用等が負担となり営業利益が同12.5%減少した。経常利益が同8.1%の減少にとどまったのは、株式上場関連費用がなくなり営業外損益が改善したため。
 
 
大型案件が終了した武田薬品向けの売上が減少したものの、大塚製薬やエーザイ向けの売上が増加した他、新たに第一三共との取引が始まった。また、外資系クライアントの開拓にも成功し、その他の売上が増加した。外資系クライアント向けでは、注力分野である抗がん剤領域で2プロジェクトが進行中である。
 
(3)財政状態及びキャッシュ・フロー(CF)
期末総資産は前期末費151百万円増の1,406百万円。借方ではCFの改善により現預金が増加。貸方では利益の計上で純資産が増加した。CFの面では、大型案件2件が中止となった事等による運転資金の減少で営業CFの黒字が増加。東京オフィスの移転に伴う差入保証金等で投資CFのマイナス幅が拡大したものの、営業CFの増加で吸収。前期は100百万円だったフリーCFが227百万円に増加した。株式発行による収入がなくなった事や配当の支払等で財務CFのマイナス幅が拡大したものの、現金及び現金同等物期末残高は前期末の552百万円から630百万円に増加した。
 
 
 
2011年3月期業績予想
 
 
前期比20.0%の増収、同23.0%の経常増益予想
大型案件の中止等で一時減少した受注残が既存顧客のリピートや新規顧客の拡大により回復傾向にあり、また、医薬品情報担当者(医薬品の情報提供者以下、MR)を増員するCSO事業(後述)の寄与も見込まれる。利益面では、売上の増加によりCRAの稼働率が改善、営業利益は同22.5%増加する見込み。配当は1株当たり11円の期末配当を予定している。
 
 
中期的成長に向けての経営戦略 既存事業の成長と新規事業展開
 
治験領域の拡大と日米欧の3極体制の整備により既存事業(CRO)を強化すると共に、新規事業(CSO)展開により業容の拡大を図る考え。CSOとはContract Sales Organizationの略で、医薬品の販売において重要な位置を占めるMRの派遣やマーケティングの支援等により製薬会社の医療機関向け医薬品販売を支援する。
 
 
CRO事業に加え、CSO事業を手掛ける事で、新薬の開発段階から上市後に至る一気通貫のサービスが可能になる。このため、サービスの付加価値向上はもとより、製薬会社の利便性も高まる。
 
(1)既存事業の成長
がん領域を中心に治験領域を拡大させていく考え。世界の主要抗がん剤の売上は右肩上がりで推移しており、国内の大手医薬品会社はM&Aによりがん領域の拡大を進めている。
 
 
同社は2009年10月にがん領域開発受託事業部を設立し、人材の確保やがん領域のオピニオンリーダーとの関係確立に取り組むと共に、既存顧客からのがん領域の開発品目の受託や新規顧客の獲得に努めてきた。この結果、10/3期末には2プロジェクト4.9億円の受注残高を有し、11/3期は2.8億円程度(予想連結売上高の10%)の売上計上を目指している。
また、がん領域同様に今後の市場拡大が見込める統合失調症多極障害治療薬やアルツハイマー治療薬の分野も強化し、領域拡大、専門化、Global対応をキーワードに事業展開を進めていく考えで、このために早期の200名超・20プロジェクト体制の確立を目指している。
 
 
 
(2)3極拠点整備
医薬品開発のグローバル化に対応し、日・米・欧での事業展開を目指している。この一環として、2008年7月に設立した米国法人LINICAL USA, INC.(米国カリフォルニア州)が、現地でモニタリング・コンサル業務を開始した。今後、国内で育成した人材を子会社へ出向させ、人員の拡充を図る。
 
(3)新規事業(CSO)展開
CSO事業に参入し、LMP(Linical Marketing Planner)として新製品上市に伴う支店戦略(学術支援)担当、Area Opinion Leader/Speakers Doctor の育成、及びエリア講演会/研究会の設立・維持といった役割を担っていく考え。LMPとは従来型のCSOの領域(派遣型MR:Contract MR)ではなく、より上層にあるプロダクト・マーケティングの領域において製薬会社の営業戦略を支援するCSOである。
 
 
国内にプロダクト・マーケティング要員は3,000人いるが、MR並みの3%が外部委託された場合、必要な人材は90人で市場規模は18億円になる。現在の同社の受注残高が1.4億円である事を考えると、受注拡大の余地は大きい。また、中期的にはContract MRの領域へも展開していく考えだ。ちなみに国内のMRは50,000人で、このうちContract MRは3%(1,500人)。市場規模は約400億円である。
 
10/3期は外資系製薬会社の新規プロダクト・マーケティング業務の受託に成功しており、今後の目標として11/3期が「自主研究の企画・実施サポート」、12/3期が「市販後調査業務」としている。
 
取材を終えて
10/3期は進行中のプロジェクトの中止が響き減益となったが、新規の顧客開拓は順調だ。高い成長が見込めるがん領域でも成果が出始めており、今後の収益拡大に向けた施策は進んでいる。また、新規事業展開についても、市場規模は大きいが、既に他社が手掛けているContract MRの領域でなく、付加価値の高いプロダクト・マーケティングの領域からの参入である事が同社らしいし、同社の強みを活かせるものと考える。一方、ICH(日米欧医薬品規制調和国際会議)の進展により、日米欧での新薬承認データの相互活用(ブリッジングスタディー)や三極での同時試験(グローバルスタディー)が重要性を増す中で、3極体制の整備は避けて通れない課題だ。海外展開を進めるためにも、新規顧客の開拓と新規事業展開により収益基盤の強化を図る必要がある。共にスタートは上々であり、更なる進展に期待したい。